ITOI
ダーリンコラム

<独身者の信用>

先日、橋本治くんと、篠原勝之クマちゃんとで、
婦人公論・井戸端会議という座談会をやりました。
テーマは「シングル」だったのですが、
ふたりとも、筋金入りのシングルで、
「シングル」とは何かとかを話し合うよりも、
存在がシングルというような方々だもんだから、
あとで座談会を原稿にまとめてくれる
打田さんや福永さんはさぞかし大変だろうなと思いました。

その場で言い忘れていたことを、
ここで書くことにしました。

独身者という存在は、社会的に信用されにくい。
これは、事実です。
生活しているだけなら、シングルだからといって、
それほど不利なことはなくなってきているのでしょうが、
もっと制度的なところでは、明らかに不利なんですよね。
ぼくの知っているデザイナーの女性も、
離婚してシングルになったら
「クレジットカード」の審査に落ちたと言っていました。
何年も前のことだから、いまだったら問題に
ならないのかもしれないけれど、
当時、「なんで?」と思いました。

会社勤めの人の話なんか聞いても、
出世するには家庭持ちじゃないと難しいとか言うし。
借金する時も独身だと不利だっていうでしょう。
なにがちがうんだろうと、思っていたんですよね。

一般的には、独身者は「信用に欠ける」と説明されるけど、
独身者で信用できる人も、
妻帯者で信用できない人もいるわけで、
独身だから信用できないって言われても
説明になってないと思っていたんですよ。

で、最近になって、急に、
「もしや、こういうことか?」と思いついた。
江戸時代の関所で、もっとも厳しくチェックされたのは、
「入り鉄砲に出おんな」だと言われる。
入り鉄砲のほうは、武器を江戸に集めるということで、
危険に決まっているし、
女が出ていくということは、
幕府にとっての人質が消えるということだ。
だから、厳重に見張っていたというわけですよ。
急に、話が飛んだみたいだけど、
「ああ」と思ったのよ、ぼくは。

独身者には、「人質」がないんだ!
身ひとつなんだよね、独身者って。
だから、冒険的にもなれるし、短気おこすこともできる。
「ああ、オレがここで暴れたら、
女房子供は、どうなるんだろう」などと悩まなくていい。
その自由さは、きっと仕事でも有効に
活かせるのだろうけれど
同時にそれは、「やーめた」と言い出しかねないという
危険をはらんだものなのだ。

家族というのは、人質であり担保でもあるわけだ。
「逃げにくい」ということが、信用の基盤なのだろう。
そう思ったら、クレジットカードのことも、
出世のことも、借金のこともよくわかったよ。

でもさー、いまどき、ヘンな話だよねぇ。
空高く飛べないように羽を切られた鳥みたい。
結婚するのもしないのも自由だし、
結婚のいいところもたくさんあるけれど、
独身者が見えない差別を受けているのは、
どう考えてもおかしいと、ぼくは思う。

冒険的な妻子持ち、責任感ある独身者、
こういう人たちが活躍していけるような時代に、
これからは、なってくると思うんですけどね。

1999-08-16-MON

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