ダーリンコラム |
<ほんとうの秘伝> 赤城山に行って、発掘候補の現場で 「ホルモン焼き」を食べた。 現地の望月会長が、 特大のステンレス鍋を持ち込んでくれて、 たき火で豪快に焼いて食うって寸法だ。 目の前の畑から、見ている前でネギと菜っぱを引き抜き、 油をひいてホルモン焼きといっしょにじゅうじゅう焼く。 これがうまいんだ。 気温は低いし、野菜もさっと水洗いしただけ。 でも、寒いだのバッチイだの言うやつなんか一人もいない。 ホルモン焼きって、ぼくはかなり好きなんだ。 歯ごたえがあって、肉の甘みと香りがあって、 味がしっかりしている。 食べながら、メンバーのひとりが小声で、 「唐辛子がちょっとあったら、もっとよかったすね」 と言った。ぼくも、そう思っていた。 もう少しだけ欲を言えば、なにかちょっとだけ、 臭み抜きの生姜か大蒜があればいいかなとも思ったが、 いや、それをするほどの臭みはないのだし、 全体的に生姜や大蒜の匂いでまとめてしまうのは、 かえってつまらなくなるなと、自分の考えをうち消した。 ぼくがはじめてホルモン焼きを食べた頃は、 ホルモン焼きというのは、もっと臭い食べ物で、 生姜、大蒜、味噌などをすべて使って、 かなり匂いのベールをかけないと食べにくいものだった。 このごろのホルモン焼きは、そんな臭みはない。 洗い方か血抜きかアク抜きか、方法が確立したのだろう。 新鮮なモツが流通できるようになったせいかもしれない。 きっと、内臓料理をおいしく食べるための文化が、 日本でも発達してきたということだ。 どこの誰が改良改善したのか知らないけれど、 うまいことホルモン焼きのおいしさを流通させたなぁと、 顎の筋肉を疲れさせながら考えた。 たぶん、関西の方のメーカーが、 ホルモン焼きを確実においしく全国に届ける秘伝を 編み出したのだろうと思いながら、 ぼくは望月会長にたずねた。 「これは、地元のホルモン焼き?」 ちがうよ、という答えを想像しながら訊いたのだ。 「そうだよ」 ああ、地元のものだったんだ。 つまり、内臓料理に関する秘密のレシピは、 わりあいに簡単に全国の臓物料理をあつかう業者に 真似されて、どこで作ったものも 同じようなおいしさを獲得できてしまったというわけだ。 群馬の、このホルモン焼きをパック詰めにして売っている 業者は、おそらく先行するメーカーの味付けや 臭み取りの「秘伝」をあっという間に 学んでコピーしてしまったのだろう。 昔々の情報流通の思うようにならない時代には、 「秘伝」がコピーされるにいたるまでには、 長い時間がかかったのだろう。 しかし、いまは、書き留めておけるような秘伝なら、 「データ解析」「再現」のふたつの手続きで、 無化されてしまう。 これを守る方法は、「特許」に代表される ソフトの権利を法律の助けを借りることしかない。 ただ、こんなことを考えていて、 ふっと、ひいきのラーメン屋「武蔵」のことを 思い出したのだ。 ここのご主人のインタビューによれば、 『レシピは公開してもまったくかまわない』と言う。 ただ、 ・サンマの煮干しを1年分冷凍保存するためのコスト。 (サンマ煮干しはいつでも仕入れられない) ・トリガラと豚骨の動物系スープと、 サンマ煮干しの魚系スープを別々に作って、 お客さんのに出す直前に丼の中でミックスする手間。 (フレーバーが消えないように) ・スープの骨は下ゆでしアクを洗い流してから使う。 さらに一定時間以上火にかけずに、 漉して冷蔵庫で貯蔵する手間。 (フレーバーを守る。スープの透明な味を守る) ・化学調味料を使わないための味の不安定リスクと、 材料費の多大なコスト。 (独自の味を創り続ける) というような時間的、金銭的、精神的なコストを、 誰もが負えるとは、ぼくには考えられないし、 ここのご主人も、 『まねすればできるだろうが、やれないだろう』と思って、 発言しているのだと思う。 (「月刊食堂」3月号のインタビュー・京極一氏の記事を 参考にさせていただきました。 また、その記事は、インターネットの 「東京のラーメン屋さん」掲載のものを読みました) さらに驚くことに、「武蔵」の原価率は 開店当初で65%、現在でも45%という数字もあった。 (これは、インターネット「ラーメン三昧」にあった インタビュー記事を読んで知ったものです) 「秘伝」というものは、たしかにあるのだとは思う。 でも、ほんとうの「秘伝」とは、 「できるまでやれ」というひとことなのかもしれない。 ああ、もうだめ。 眠くて眠くて・・・。 |
1999-12-21-TUE
戻る |