ITOI
ダーリンコラム

<一本道を渡るバイクの魔法の法則>


最近、ぼくより年上でオートバイの大好きな人と会って、
その人のバイク話を聞いていた。
なんでも、ハーレー・ダビッドソンのお祭りには、
1日に800キロずつ、
1週間も走り続けて集まったりするんだそうだ。
たしか、東京と大阪の距離が500キロくらいだったっけ。
四輪のクルマで行くにも気合いが要るよ。
オソロシイ人たちだ。

ぼくも、事故を起こすまで何年間か
バイクに乗っていたので、
そのころのことをいろいろ思い出した。
夏なんかだと、直射日光に照りつけられている道から、
木陰のある道に入ると、涼しくて気持ちよかったなぁとか、
腹の減っているときは、スピードを出して危ないんだとか、
後楽園球場に野球を観に行って、
好きなチームが負けて、しかもどしゃ降りの雨のなかを
歯をガチガチいわせながら帰ったっけなぁとか、
あんがいよく憶えているものだった。

で、バイクの運転免許をとるための教習について、
あらためて思い出したことがある。
一本橋を渡るという教習だ。
これは、二輪のバイクで、
タイヤの幅よりちょっと広めの一本道を
まっすぐに走るというものだ。
他の人がやっているのを見ていると、
難しいことのように思えるのだけれど、
やってみると案外簡単だったりするわけだ。
天然に簡単なんじゃないよ。
方法があるんだ。
教官から聞いた魔法のひと言が、簡単にしてくれるわけよ。
バイクに乗っている人なら知っていることだけど、
「まっすぐ前を見ろ」というだけのことなんですわ。
それだけ。

バイクは、自分の目が見たほうに進むのだ。
だから、まっすぐに前を見ていると、
まっすぐ前に進むんだよ。

あとは、その「まっすぐ前を見ろ」を
信じられるかどうかだけが問題なのだ。
まっすぐ前を見ることが正しいと思っていても、
「何があるかわからないから、その周囲も見て」とか、
そういう気の利いたことを考えると、脱輪するのだ。
まっすぐ前を見ていても、視界というのは
そんなに狭いものじゃないから、
「何があるかわからない」ことが起こっても、
ちゃんと対処できるように、できている。
それに、一本道を渡るなんて、
十分に特殊なことなのだから、
それだけを確実にやろうと思わなければできないのだ。

これが、教習の時間に体感できたときというのは、
ほんとうに魔法を憶えたようにうれしかったものだ。
自分の目が見たほうに、バイクは進む。
その、とても自然な法則が、気持ちよかった。

いまごろになって、
それを知ったときのことを思い出したら、
こりゃ、なんにでも応用できる魔法の方法だと気付いた。

道が広いときなら、あっち向いてもこっち向いても、
ジグザグ運転してても、なんの問題もないけれど。
細い一本道を渡っているようなことって、
しょっちゅうあるものなぁ。
そういうときに、つい、
奇声のした方向とか、
犬の糞が落ちてる場所とか、
無責任な「あ、危ない!」という大声とかに
気を取られちゃうんだよなぁ。
そういう場合にも、
「自分の目が見たほうに、バイクは進む」んだから、
結局、脱輪しちゃうんだよ。

ぼくは「集中力」ってのが苦手なタイプなんだけれど、
ついついこういうときにも犬の糞に目が行っちゃうから、
一本道で脱輪しやすいんだろうなぁ、と思ったね。

【バイクも人間も、自分の目が見ている方向に進む。
 だから、まっすぐ前を見るのさ。】

いい年して、いいこと思いついちゃったなぁ。
これは、いい年してバイクに夢中になってる
0村さんの話がきっかけだから、感謝しよう。

そして、あやちゃんに頼んで、この言葉、
来年の「ほぼ日手帳2004」に入れてもらおうっと。

2003-07-14-MON

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