ダーリンコラム |
<ティッシュペーパーのひとり勝ち> デファクトスタンダードということばを、 はじめて耳にしたのはいつごろだったかなぁ。 「事実上の標準」という意味らしい。 たとえば、 いまインターネットのブラウザは、 インターネット・エクスプローラが デファクトスタンダードだよね、 というようなことだ。 (なんだ、このカタカナの行列は?!) ある商品が「事実上の標準」の立場に立ってしまうと、 それを選んでいると 多数派としてなにかと都合がいい、というようなことで、 消費者や、関係者はますますその商品を選ぶようになる。 そうなると、デファクトスタンダードになった商品は、 それまで以上に大量につくられるようになり、 ひとつあたりのコストも低くなるから、 値段も安くなったり、サービスの種類も増えたりする。 そして、ますます競合の相手に差をつけられるようになり、 「事実上の標準」は、やがて「無競争商品」になりかける。 (実際に「無競争商品」になった例というのは、 どうやらなさそうなのだけれどね) なんで、こんなちょっと古めの基礎知識みたいなことを、 いまさら持ちだしてきたのか? ちり紙のことから、なのだ。 いま、日本のちり紙のデファクトスタンダードは アメリカからやってきた「ティッシュペーパー」だ。 クリネックスだのスコッティだのというような ブランドのちがいはあるけれど、 事実上、ティッシュペーパー以外のちり紙を 手に入れるのはたいへんなことだ。 ティッシュペーパーは、木材パルプが原料だ。 木材パルプというのは、木材を機械的にすりつぶして、 「おかゆ」のようにしたもので、 そいつを薄くのばしたのがティッシュペーパーになる。 おかゆが素だということは、一本一本の繊維が短いので、 それはホコリとしてまいあがる。 だから、アレルギー性の鼻炎などで 鼻水をたえずふいているときなどは、 ティッシュペーパーからまいたったホコリが、 ますますむずむずする鼻を刺激して、 くしゃみを誘発することになる。 和紙のちり紙は、長い繊維でできているので、 ホコリがまいあがらないし、 いちど鼻をかんだ紙も、畳み直せば、 もういちどかむことができる。 ポケットのなかに入れておいて忘れていても、 和紙のちり紙は粉にならないで、そこにある。 だから、ぼくは和紙のちり紙を、使いたいのだ。 ティッシュペーパーよりも高くたってかまわない。 一枚ずつを大事に使うなら、 大事にされない安い紙よりも、価値がはっきりしている。 だいたい、日本はティッシュペーパーを やたらに使う国らしくて、 本家アメリカの3倍、隣の韓国の7倍の消費量らしい。 しかし、「大都会・東京」のどこに、 和紙のちり紙が売っているのか、ぼくは知らない。 たまたま、京都に行ったときに知った 『ぎおん やま京』さんというお店で、 売っているのを知って、それを送ってもらうくらいだ。 TBSラジオの番組『GOODS JOCKEY』で、 このちり紙をテーマにしたおかげで、 発売元の方々に簡単な取材もできた。 おどろいたのは、このちり紙をつくる工場は、 一年のうちのある短い期間だけ、 このちり紙を生産しているのだということだった。 一年中つくるほど、売れもしないということか。 それはそうだよなぁ、ぼく自身が、 売ってるところを一軒しか知らないくらいなんだし。 ぼくは、ティッシュペーパーを 便利に使っている人間のひとりではある。 しかし、事実上の標準として ティッシュペーパーだけが手に入るという状況は、 かなりうれしくない。 一年中つくれなくなっちゃうほど、 和紙のちり紙は、ティッシュペーパーに大負けしたのだ。 ティッシュペーパーじゃないほうのちり紙は、 絶滅危惧商品みたいになっちゃっているけれど、 ほんとうは、とてもいいものなんだよなぁ。 と、そう思っているところに、 また新しいちり紙問題が登場した。 散歩中に犬のフンをつかんで、 持ち帰ってトイレに捨てるのだけれど、 そのときに使う紙も、 水に溶けにくいティッシュペーパーでは困るのだ。 昔、よくあったような黒っぽくて安い、 「便所紙」とかからかわれていたちり紙がいい。 ロール状に巻いてあるトイレットペーパーでは、 紙の巾が狭すぎるし、長く巻き取って持って出るのも 不便でしかたがない。 うちの犬のもともとの飼い主だったご家族が、 「これが便利なんですよ」と分けてくださったちり紙が、 とても使いやすいのだけれど、 これまた、どこにでも売っているものではないらしい。 デファクトスタンダードにのしあがった アメリカから来たティッシュペーパーは、 1番になるだけの実力があったのかもしれないが、 2番や3番の市場まで、根こそぎにさらってしまったために、 人間をほんとうの便利から引き離してしまったようだ。 「ひとり勝ち」ってのが、あらゆる企業のねらう デファクトスタンダードなのかもしれなけれど、 これ、いいこと少ないよねぇ。 もうちょっと「ほぼ日」に実力が備わったら、 和紙のちり紙とか、犬の散歩用のちり紙とかを、 いつでも買えるような通信販売もしてみたいよ。 いちど使った人だったら、 きっとそのよさはわかってるはずだしねー。 |
2004-01-12-MON
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