ダーリンコラム |
<ピラミッドや、もんじゃ焼を> 「あなたはなにもしなくていい」というのは、 広告でよく聞く言い方である。 なにかめんどうなことは、 すべて売り手の側がサービスします、ということだ。 「あなたは、ちょっとだけ何かしてください」 というのは、例えば、インスタントラーメンだ、 お湯を入れて、3分間ほど待つ、 それだけのことをしてください、というわけだ。 それに比べると、コンビニで売っている弁当などは、 「あなたはなにもしなくていい」ということになる。 どうやったら、お客さまに 「ごめんどうをおかけしないか」について、 企業は、ずっと考え続けているのだろう。 3分待たせる時間を1分にしたほうが、 お客さまには便利だ、とか、 あちこち買い物に行くのは「ごめんどう」でしょうから、 当方でいろんな材料をまとめてお届けしますよ、とか。 お客さまのすることを、企業は代理でやる。 それがサービスということだから、 お代金をいただきたい。 あるいは、そういうサービスをするのは 我が社のとりえだから、ひいきにしていただきたい。 そんなことで、いろんなサービスが「進化」してきた。 「進化」は、 ビジネスチャンスということばとともにあった。 「そのほうが、よりたくさん売れる」という機会を 次々に探していくと、ビジネスは「進化」していく。 遠くまで買いに行くよりも、 近くで買えるほうがいいだろう、 という理由で、さまざまな商品は、 販売の店舗数をたくさん持つことになっていった。 「どこでも買える」というのは、 つまり「あなたは遠くまで行かなくていい」ということだ。 これは「お客さまは神様です」と言っているのと同じだ。 消費者は王様です、だというわけだ。 しかし、思うのだ。 ほんとうに、 「あなたはなにもしなくていい」というものが、 「値段が高いなぁと感じることもなく」 「どこでも買える」ということが、 いいことなのだろうか? 王様が受けるにふさわしいサービスなのだろうか? それは、「あってもなくてもいいもの」を、 万人に送り届けるには、よいことなのかもしれないけれど、 それに当てはまらないものについては、 ちっともよいことではないのではないか。 人々が、ピラミッドを見たいと思ったら、 エジプトまで出向かなくてはならない。 旅費もかかるし、時間もかかる。 さまざまな不便なこともたくさんあるだろう。 しかも、見たいと思わない人は エジプトまで行くはずもない。 「もんじゃ焼」という食べものがあって、 それは熱した鉄板のついたテーブルで、 お客さんがつくりながら食べて、 つくり賃を店からもらうわけでもなければ、 自分でつくったから料金を割引してもらうわけでもない。 支店をださない料理屋も、けっこうたくさんあって、 そういう店は「どうして各県に支店を出さないんだ」などと お客さんに叱られることなどもなく、 いつまでも支店なんか出さないでがんばってくれ、とか 言われたりしている。 なにもしなくてもいい、だとか、 お近くまでうかがいますから、だとかが、 王様の受けるべきサービスなのだとしたら、 お客さんは、「王様じゃないほうのコースで頼むわ」と、 店やら企業やらに対して言ったほうがいい。 たぶん、これからも「ほぼ日」としては、 モノやイベントのかたちをしたコンテンツを お客さんに向けて売っていくと思うのだけれど、 このへんのことについて、 勇気を出して考え続けていきたいものだ。 とにかくほんとうに重要なことは、 ピラミッドやもんじゃ焼くらいのコンテンツを、 生みだすことなのだ。 |
2004-01-26-MON
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