ITOI
ダーリンコラム

<ジャジャジャジャーーン>

日曜日の午後のことだった。
自家製の鉄火丼なんかを腹いっぱい食って、
ソファで横になってテニスの試合を観ていたはずだったが、
とろーりとろりと眠くなっていた。
ここからは、テレビのなかから聞こえてきたことなのか、
夢だったのかわからないのだけれど、
「ベートーベンの運命という曲は、
落ち込んでいる人が聴くと、
それまでの自分が壊れて消えてしまうような、
陽気な衝撃を受けるのだ。
あのジャジャジャジャーンで、
そうだったのか、オレはやるぞ、と立ち上がるのだ」
というようなナレーションが気になって目が覚めた。
わお、そんなすげぇ曲だったのか?!
「運命」ということばで、人は立ち上がれるのか。
だから、あのジャジャジャジャーンは、
こんなにポピュラーになったのか。
おそるべし、ベートーベン!

そう思ったら、そのベートーベンの『運命』が、
やたらに聴いてみたくなってしまった。
いままでは、ちょっと斜に構えてなめていた曲だったので、
もうしわけありませんでしたという気持ちもあった。
ネットで注文しても今日聴けないし、
買いに行こうかなぁ、犬の散歩のあとで。
と思って、はたと気がついた。
ジャジャジャジャーンって、
次々に不幸な事件に襲われていたベートーベンの部屋を
「運命」がノックする音じゃなかったっけ。
だとしたら、
あのジャジャジャジャーンで立ち上がるってのは、
ぜんぜんちがうよねぇ。
どういうことなんだろう。

日曜日の自宅では、こんなときには、
インターネットで調べることくらいしかできない。
あちこち調べていたら、参考になるページがあった。
「ベートーベン物語」という
音楽鑑賞の教育のサイトらしかった。
ここでわかったのは、
「運命が私の部屋をノック」して、
不幸が次々にやってきたけれど、
「でも私は運命に負けはしない。
まっすぐ立ち向かって行くのだ」と続きがあるということ。
そうかぁ。
だったら、やっぱり、この曲で、
落ち込んだ人が立ち上がるということはあるだろうな。
しかも、当のベートーベンさん、
この曲をつくったときには、
すでに耳が聞こえてなかったというのだから、
やっぱりすごいじゃないか。

ちゃんとベートーベンの『運命』を聴いたことなかった。
学校で聴かされたこともあったかもしれないけれど、
当然のように聴いちゃいなかったろうし、
自分でレコードやCDを買った覚えもない。
『第九』と、あと数枚はCDの棚にあったのだけれど、
『第五(運命)』は、やっぱりなかった。

でも、もう買わざるを得ないでしょう、『運命』。
今日でも明日でも、とにかく買ってみるよ。
落ち込んでる人を、ぐわっと立ち直らせる音楽としての
ベートーベンの『運命』なんて、おもしろいじゃない!
いまんとこ、別にあんまり落ち込んでないけれど、
とにかく生まれて初めてまじめに聴いてみるよ、
あのジャジャジャジャーンを。

それはそうと、もともとこの話、
テレビでやっていたのか、夢だったのか?
日曜日の午後にTBSの
『東レ・パン・パシフィックテニス』って番組を
観ていた人がいたら、
そのベートーベンのこと言ってましたよ、とか、
言ってませんでしたよ、とか、教えてください。
(宛先:postman@1101.com 標題:運命)

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2004-02-09-MON

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