ITOI
ダーリンコラム

<たいしたことない人々よ>

ラジオ番組『チャノミバ』のゲストで、
元巨人の捕手、村田真一さんが来てくれた。
男気のある一所懸命な選手で、
選手時代にもコーチ時代にも、みんなに慕われていた。

この番組のなかで、村田さんは、こんなことを言った。
「よく川相(昌弘=現・中日選手)と言い合ったんですよ。
 俺たちみたいなたいしたことない選手にしちゃ、
 ようやったわなぁって」
ドラフト5位というのは、指名はされたものの、
球団から「たいして期待されていない選手」だという。
そんなことはないでしょう、というぼくのことばに、
村田さんは、いま現在の巨人のラインナップの名前と、
ドラフト順位を機械的にあげていった。
たしかに、ほとんどがドラフト指名の第1位か第2位だ。
村田選手が、「たいして期待されてない選手」として、
プロ野球選手になったんだという話は、ほんとうらしい。

それにしたって、ほとんどの男の子が、
将来は野球の選手になりたいと思いながら、
ほぼ全員があきらめていくわけだから、
プロ野球の選手になったというだけで、
「たいしたことない選手」であるはずがないとは思うけど?
「それは、だからこそわかるんですよ。
 自分がほんとうにすごい選手なのか、
 たいしたことない選手なのかが、よくわかるんです」
なのだそうだ。
イチロー選手も、そういえば、
「アマチュアとプロの差よりも、
 プロとプロの間の差のほうがずっと大きいんです」と、
しみじみ語っていたっけなぁ。

とまれ、村田真一捕手は、
「たいしたことない選手」であった、と。

「たいしたことない選手だからこそ、
 がんばれたんです」と、言うのだ。

自分はたいしたことないやつなんだから、
他の選手とおなじ程度のことをやっていたら、
試合に出してもらえなくなる。
ケガがあったり、不幸なことがあっても、
たいしたことない選手が、
そんなところで足踏みをしていたら、
生きていけなくなってしまう。
そう思うから、ガマンもできたし、
人一倍の練習もできたというのだ。

特に村田さんの守っていたキャッチャーという仕事は、
自分を殺して戦っていくことが多い。
また、野球ファンだったら記憶している人も多いと思うが、
彼の周囲で起こった悲しい事故も、一度だけではない。

「たいしたことないから、がんばれた」という、
逆説的にも聞こえる村田さんの話は、ほんとにすごい。
プロ野球以外の世界でも、
ドラフト1位で指名されるような才能は何人もいない。
あらゆる世界、あらゆる業界の、
ほとんどの人間は、「たいしたことない」わけだ。
豚もおだてりゃ木にのぼる、とも言うし、
たいしたことない人間が、いい気になることでできることも
けっこうあるし、それはそれで大事なんだけど。
「たいしたことない」という自分の存在を
胸に刻み込むことで、がんばれる。
がんばって、自分の持っている力以上の結果をだせる。

「たいしたことない」と知ることは、
自分に大きな力を加えることなのかもしれない。

オレよ。
「ほぼ日」を読んでいる、たいしたことないキミよ。
たいしたことないやつには、やることがある。

村田さん、ありがとうございました。

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2004-08-09-MON

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