ダーリンコラム |
<ほぼ日刊イトイ新聞の本の文庫化> 「ほぼ日」のスタートからの、短い歴史や、 途中途中で発見してきたいろんな考え方を書いた 『ほぼ日刊イトイ新聞の本』が、文庫本になった。 そういう機会に、また同じ本に目を通すことになる。 「ああ、ゆっくりだけど、 時間が過ぎてきたんだなぁ」 という感慨がある。 なんでもそうなんだけれど、 始めたばかりの「なんでもへたくそ」な時代のことは、 その後、じょうずになると忘れてしまうものだ。 だから、どんなことでも、 始めたばかりのことほど、記録しておいたほうがいい。 例えば、ぼくはいま禁煙して1年半になるのだけれど、 いま「禁煙する方法」を書いたとしたら、 禁煙できない人の気持ちを うまく想像できなくて困るだろうと思う。 だから、いろんな大事そうなことについて、 ぼくは「なんにもわかっちゃいない頃」の記録を、 保管するようにしている。 『ほぼ日刊イトイ新聞の本』にも、そういうところがある。 いまだったら、書きにくいようなこと、 書いたらどう思われるか考えてやめちゃうようなこと、 そういうことも、わりと平気で書いていた。 「ほぼ日」をスタートして、2年か3年くらいまでの間、 思えば、いまよりずっと、ぼくは読者に怒っていた。 おそらく、「どうしていいかわからない」から、 怒っていたというところなのだろう。 いま怒るようなことがないかと言えば、 あえて言わないけれど、あはははは、ではある。 インターネット上で、何かをやろうとしていた人が、 最初の意気込みが失われて、だんだん落ち込んでいって、 我慢することが多くなり、やがてホームページを閉鎖して 管理人役を降りてしまうのは、 やっぱり「見ず知らずの読者」に 励まされることが多いのと同時に、 強いストレスをかけられることが多い ということなのだろう。 いわゆる「人間ができている」なんてこととは、 ほど遠い歩き方をしてきたぼくのことだから、 とにかく、怒鳴られたら怒鳴り返したい、というような 落ち着かない気分でいたことも記憶にある。 そのころの気分が、この『ほぼ日刊イトイ新聞の本』には、 ちょっと漂っているのだ。 ま、それがいま読むと恥ずかしいといえば恥ずかしい。 しかし、若いがゆえにできる表現があるように、 じゃっかん向こう見ずだったからこそ言えることもある。 そのなかで、いまでも傑作だと思うのは、 <「せっかく」と「がっかり」の係り結びは禁止する> という冗談めかしたルール設定である。 「せっかく応援していたのに、○○だなんてがっかりです」 と、このパターンのメールが妙に多いなと気がついたのだ。 「応援してくれる仲間を、傷つけてしまったのだぞ」 というメッセージです。 これはキツイ。逃げ場がない。 相手は、とにかく善意の被害者で、 こちらは期待を裏切った加害者、という構造ですから。 メールのなかに「せっかく」を見つけたら、 そのまま読み進めていくと、 その先には、ほぼ必ず「がっかり」という単語があった。 この「せっかく・がっかり」の係り結びが、 受け手にどれくらい強烈なダメージを与えるか、 書いている側の人には、なかなかわかりづらいと思う。 親子の会話だと思ったら、わかりやすいかな。 「おかあさん、あんたのために、 せっかくこの教材買ってあげたのに、 こんな成績じゃ、がっかりよ‥‥」。 ね、キツイでしょう? これを何度も言われているうちに、 ほんとに、自分のほうが あらゆる面倒なことにがっかりしてしまって、 ホームページは閉鎖ということになるわけだ。 そういう事態になるのは、困る。 で、「ほぼ日」のなかで、ぼくは言った。 「せっかく・がっかりの係り結びは禁止します」と。 いまだったら、言わないかもしれない。 しかし、『ほぼ日刊イトイ新聞の本』の時代には、 それを言っていた。 読者は神様ではない。 それは、いつも思っていることだ。 そして、読者を大事にすることと、 読者を神様あつかいしてしまうことは、 まったくちがう。 『ほぼ日刊イトイ新聞の本』を出したころは、 「神様じゃない!」という感じだった。 いまは、「神様じゃない」という気持ちだ。 「!」の分が、ちがう。 でも、あのころに、「!」がなかったら、 ぼくらは「ほぼ日刊イトイ新聞」を やり続けてこられなかったとつくづく思う。 神様じゃない読者の皆さま、 できるかぎり、人と人としての関係を できるかぎりしっかり築いていこうと思っています。 もちろん糸井重里も神様であるはずもなく、 ほぼ日刊イトイ新聞という現象も神様の業でなく、 それなりに「ましになっていこう」としている者共です。 これからも、のんびりお付き合いください。 あ、いま現在も、 「せっかく・がっかり」の係り結びは禁止のままです。 「ほぼ日」だけでなく、誰に対しても、 その「係り結び」はやめたほうがいいと思います。 |
2004-11-22-MON
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