ITOI
ダーリンコラム

<規則をつくりたがる人たち>

結局、おじさんに登場してもらうことにした。
おじさん、なんかしらの問題を想像しながら
しゃべっているようだけど、
それが、なんの問題でもかまわないそうだ。

規則をつくりたがるやつらっていてさ、
とにかくつくるわけよ、規則を。
必要だからつくるということも、
わからないじゃないよ。
でもさ、つくったらそのとおりに、人が動くのか?
そこんとこが大事なんだよ。

規則なんてものにもさ、守られないものもあるだろ。
守らないやつが悪い、とも言えるさ。
守れないやつも、どうしょうもないよ、それも言える。
どうやったら、その規則を守らせられるのか。

罰するという方法があるよな。
守らないやつは懲らしめる、見せしめにする。
守らないと怖いぞ、と思わせるんだよな。
「怖いから、守る」ってやつも出てくるだろうからさ、
規則を守らせるということからしたら、
成功かもしれないよな。

だけど、みんなが守らない規則ってものがあったら、
みんな罰することになるよな。
どんどん捕まえちゃって、どんどん罰しちゃう。
これさ、極端なことをいえば、
捕まえるやつのほうが少なくなるって場合も、あるだろ。
そういう場合は、規則のほうを疑わなきゃならないよな。
守らない、守れないということのほうが、
納得できるような規則だってあるわけさ。

戦後にさ、正義感の強い検事さんだかが、
法律では認められてない「ヤミ米」を拒否して、
飢えて死んだという噂があったらしいよ。
噂じゃなくて、ほんとの話だったかもしれない。
ある種の美談として語られていたのか、
それともブラックな笑い話として噂されてたのか、
当時のことはわかんないけどさ。
止められる先輩とか友人とか、いなかったのかね。
いてほしかったよ、常識を教える人がさ。
立派な話だと言いたくないもの、おれなんか。
こういうのが立派だとしたら、
「みんなもそうするべきだ」ってことになるだろ。
「べき」じゃねぇよ、と思うもん。

規則って、もともとが、
「しょうがなくつくるもの」だと思うんだよ。
ひとつでも、少ないほうがいいんだ。
学校でも会社でも国でもさ、
ほんとは少ないほうがいいはずだよ。

まぁさ、もともと規則ができる原因というのは、
その「ありもしなかった規則」が、
あらかじめ破られるところから、始まるものだからね。
人間の歴史に、人殺しがいっさいなかったら、
「人を殺してはいけない」なんて規則はできてないさ。
そういうもんだよ。わかってるよ。

このごろってさ、
なんか問題が起こると、
あれこれあれこれ言い合うだろ。
とにかく、意見が出されてさ、
揚げ足を取りあうようなこともあったりしてさ、
結局、どうなるかというと規則ができるんだよな。
古代エジプトはピラミッドを残したよ。
秦始皇帝の時代には万里の長城ができたよ。
パリ万博はエッフェル塔を残したよ。
しょうもないもんだと思う人もいるだろうけど、
そういうもんが残ってるわな。
いまの時代って、規則とマニュアルを残してるよな。

とにかく法律だの規則だのをつくるよね。
で、守らせるためだとか、捕まえるためだとかのために、
人も金もいっぱい使ってるよ。
「規則をつくれば問題は解決する」って、
本気で信じてる人たちが、いっぱいいるんだろうね。

都会で立ち小便が減ったのは、
規則が浸透したからでもないし、
よく逮捕したからでもないよな。
街がきれいになったり、
ひょいと使える衛生的な便所ができたからだよ。

規則ってものには、
それを破ったものへの「罪」と、
罪に対する「罰」がセットになってるんだ。
罰をあたえられる背景にあるのは、
「力」だ、もっといえば「暴力」だ。
規則が増えるというのは、
並行して暴力が増えていくことなんだぜ。
ほんとだってば、よく考えてみなよ。

いい規則でも、わるい規則でも、
罪と罰がセットなんだって。
で、罪を決めて、罰をあたえるためには
「恐れさせる力(暴力)」が必要なんだよ。

言いたかないけど、
いい規則も暴力と一体だよ。
いい規則も悪い規則も、よかぁない。
そういう消極的な姿勢でいる人だけが、
規則をつくったり、規則を使ったりする場にいてもいい。
おれは、そう思うんだよ。
「ないほうがいい」と、
その規則がなくなる日を祈るような気持ちで、
つくられる規則でなきゃ、ほんとはダメだ。

おれはね、そういう考え。
「なにも規則がなくなったら困る」って?
そうさな、困るかもしれないな。
困らないことも、いっぱいありそうだな。

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2006-11-27-MON
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