ダーリンコラム |
<ハムカツの場所> ことあるごとに、ぼくは コロッケパンが好きだと言っている。 じゃがいもという炭水化物を、 パン粉という炭水化物のころもに包んで、 ラードという動物性の油脂で揚げたものを、 パンという炭水化物にはさんで食す。 ひき肉の歯触りに似たものがあったら、 それは豚でも牛でもなく「じゃがいもの皮」にちがいない。 そういうもの。 炭水化物の複合料理芸術が、コロッケパンだ。 このコロッケパンを、いくつも食べてもいいのだけれど、 他の「調理パン」も食べようと思ったら、 「焼きそばパン」か、「(ポテト)サラダパン」か、 「メンチカツパン」というあたりから選ぶことになる。 どれも、微量といえるほどのタンパク質もあるが、 基本的には「炭水化物祭」参加食品というようなやつらだ。 しかし、「ハムカツパン」はちがう。 中心にハムがある。 肉だ。豚の肉だ。 豚の肉を加工した食品にころもをつけて揚げたものを、 パンにはさんであるというものだ。 外見は、「コロッケパン」にも「メンチパン」にも よく似ているのだけれど、 「ハムカツパン」はタンパク質を軸にしてできたものだ! ものだ!‥‥と言っていいのか? もののようにも思える‥‥ような気がする‥‥かも。 いやいや、こんな大事そうなことが言いたいのではない。 もっと、しょうもないことが気になったのだ。 「ハムカツパン」がいちばん好き、と言いきる人に、 ぼくはいままで会ったことがない。 みんなでコロッケの話をすると、けっこう盛りあがる。 メンチのおいしい店なんて話題も、好まれる。 焼きそばだって、表の番長であるラーメンに対して、 裏番長的な人気ものになっている。 しかし、ハムカツというのは、いかにも半端で、 「ハムカツについておおいに語り合った思いで」がない。 あんまりいいハムじゃダメなんだよね、とか、 意外とうまいよね、とか、 話題がすぐに尽きてしまうのだ。 「どこどこの店のハムカツはうまいよ〜」なんて、 タレントのおすすめなんかも読んだことがない。 もともと、ハムカツを目玉商品にしている店なんて、 存在するのだろうか? 「うちは、コロッケよりメンチより、 ハムカツが名物だからね」 なんてせりふ、一度も耳にしたことがない。 その理由を考えたら、思い当たることもある。 中心になるハムは基本的に既製品を使うこと、 そのハムにあんまりコストはかけられないこと、 ハムの仕入れは季節や産地にあんまり関係なくできる、 などがあって、「うちのハムカツ」と言いにくいのだろう。 どうしても、作り手や売り手のこころが、 ハムカツを前面に押し出すことについて 消極的になってしまうのだと想像できる。 だがしかし! メンチパンのない店はあっても、 だいたいの調理パン屋さんのメニューには、 「ハムカツパン」はあると思わないかい? しかも、ぼくもきみも、あんがい あんまり気に留めてなかったはずの「ハムカツパン」を、 ハズレの少ないもうひとつとして、買うことが多いのだ。 目立たないけど、消えない。 とても好かれてはいないけれど、嫌われてない。 うんちくを語る者もないけれど、知らない人はいない。 とにかく、トップに立った経験はまったくない。 しかし、連続試合出場は続いている。 すごいじゃないか、「ハムカツパン」! こんなことを書いたからといって、 たぶん、ぼくは「ハムカツ愛好家倶楽部」なんて 組織するつもりはまったくない。 あんまりめんどくさい「論争」なんかが、 「ハムカツ」周辺で巻き起こったりしたら、 なんだか「ハムカツ」らしくないもんな。 でも、あらためてこうして考えてみると、 「ハムカツパン」って、 最高のしあわせものって気がしてこない? だからといって、子どもに 「ハムカツ」なんて名前をつけることもないだろうけどね。 最後に、ハムカツ自身にインタビューしてみよう。 いかがですか、以上のような感想を聞いていて‥‥? 「そうですね、ぼく自身の実力っていうよりも、 ソースやキャベツに助けられている部分が、 大きいんじゃないかと思うんですよね」 あ。なるほどねー、実に謙虚で率直なご意見でした。 |
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2006-12-25-MON
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