ITOI
ダーリンコラム

<なにかとコンシャス>

バブル時代に、「ボディコン」というのが流行った。
なんか、日本中の女性の胸がもくもく高く盛り上がり、
ぱつんぱつんのヒップがぐんぐん歩いていた。

知りあいのすごい英語をしゃべるやつに、
「ボディコンって、どういう意味?」と、
みんなが訊きたがっていた。
なにせ、やつは、1月からのカレンダーを、
「じゃにありー、へぶらりー、らいぶらりー」と
数える達人だったからね。
「ボディコン? 知ってるよーっ」と、彼は笑った。
続けて言った。
「ボディがコンッとしてることでしょ」と断言した。
本気だからすごい。

なんて話は、もうさっそくの寄り道なんだけれど、
「ボディコンシャス」の「コンシャス」ってのが、
いまさらながら、おもしろいなぁ。

スペルを間違わないように注意深く記すと、
もともと英語の「conscious」で、
これは、意識するというような意味だ。
だから、言わずもがなだとは思うけど
「ボディコン」は、「ボディコンシャス」で、
ボディ(身体)を意識したファッションということになる。
ボディを強く意識したり、意識させるようにしたりすると、
あのようなファッションになるわけだ。

もっと日本語で言えないものか、考えたのだけれど
考えつかないなぁ。
「意識強調」じゃ、漢語みたいだ。
「気にかける」というあたりも悪くはないけど、
ぴたっとくる感じじゃない。
英語の「コンシャス(conscious)」は、
そのまま日本語に混ぜ込んで、使うほうが便利そうだ。

で、この「コンシャス」が、
けっこうものを考えるときに、
便利な道具になると思うのだ。

最近、「ほぼ日」で流行している
『大人のDS顔トレーニング』でも、
インストラクターの先生が、
顔のどこの部分を意識するかを、
大事なこととして教えてくれる。
これは、「コンシャス」しろということだ。
顔だけでなく、あらゆる筋肉のトレーニングでは、
どこの部位を鍛えるかによって、コーチは、
意識する場所をかなり厳密に指示する。
この「コンシャス」がないと、
トレーニングの効果は、半減するという。
いや、それどころか、トレーニングが
よくない効果を出してしまうことさえあるという。
「コンシャス」があるかないかは、
あまりにも重要なのだ。

例えば、「香りコンシャス」な人は、
いる場所、行く場所、会う人、好きな人、使うモノ、
いろんなケースで、香りを重要な判断をするだろう。
それを、「香りコンシャス」でない人は、
たぶんよく理解しきれないのだと思われる。
おそらく、「香りコンシャス」な人と、
「香りコンシャス」でない人とが、
いっしょに悪臭のする場所にいたとしても、
まったくちがう反応をしているにちがいない。
これをわかってないと、文化摩擦ならぬ
コンシャス摩擦が生じることになりそうだ。

コンシャスを、「意識する」と訳すだけでなく、
「強く関係する」と把握してもいいかもしれない。
この場合、ボディに強く関係するファッションが、
「ボディコン」だということになる。
これはこれで、いいんじゃないかな。

いまの日本語では、
「こだわり」ということばが、
かなり肯定的な意味で多用されているけれど、
ほんとうはこの「こだわり」ということばは、
実力以上の仕事をさせられているように思う。
「こだわり」ってのは、通気性がわるい。
広がりとか、柔らかさだとかにも弱そうだ。
「凝り」や「強張り」にも似てるしねー。
そういうわけで、ぼくは「こだわり」ということばを、
使わないようにしてきたのだけれど、
その代わりに、しばらくは「コンシャス」で行くわ。

あらゆる場面で感じるもの、いろんなコンシャスを。
「環境コンシャス」「たばこコンシャス」
「規則コンシャス」「利益コンシャス」「夢コンシャス」
「恋愛コンシャス」「都会コンシャス」「素朴コンシャス」
「ばくちコンシャス」「男コンシャス」「品格コンシャス」
「脳コンシャス」「能力コンシャス」「平等コンシャス」
「デジタルコンシャス」「病気コンシャス」
「顧客コンシャス」「理論コンシャス」
「効率コンシャス」「安全コンシャス」
「反抗コンシャス」「快感コンシャス」‥‥ねー、
いくらでもある。
いいも悪いも言わないけれど、
みんな「コンシャス」で生きている気さえするよ。

「そういうおまえは、なにコンシャスか」って?
なんだろう?
「のびのびコンシャス」とかが、好きだけどねー。
もうちょっと考えてみよう。

このページへの感想などは、メールの表題に、
「ダーリンコラムを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2007-10-29-MON
BACK
戻る