ITOI
ダーリンコラム

<タメになっちゃうなぁ>

今日、日本に帰った翌日なんだけど、
さっそく、「ブチョウ」とミーティングをした。
「ブチョウ」といっても、よその会社の社長なんだけれど、
ぼくの考えとかといろいろ摺り合わせさせてもらうために、
東京糸井重里事務所の部長役をしてもらってる人なのさ。
ある意味、ぼくが時々発言して
人に感心されたりしていることがあるとしたら、
その8割は、このブチョウの受け売りなんですよ。

この人の「景気論」っていうのがあってさ。
<好況、普通、不況>ってあるでしょ。
それを、どう考えるべきなのかって意見があるわけよ。
部長説は、こうだ。

“普通ってのは、一流と二流の上(じょう)が食える。
景気がいいときってのは、一流と二流がみんな食える。
不況の時は、一流以外食えない。
一流は、必ず、いつも食えるんです。
それだけです。”

さらに続けると、一流ってのも、動機が一流、夢が一流、
場所が一流、核になるアイディアが一流、人が一流、
資金力が一流、交友関係が一流、センスが一流、
などといろいろな要素があって、
そのすべてが一流ならいちばんいいのだという。
そういうビジネスは、絶対にどんな時代も大丈夫だと。

たとえて言うなら、
レストランであったら、場所が一流で、
シェフの腕が一流で、従業員のサービスが一流で、
食器やインテリアが一流で、という店ならば、
どんな不況でも、ビジネスの心配はない。
もし不景気の時に、不安になったとしたら、
それはそのレストランの、どこかに一流でない要素があって
その部分が足をひっぱっているのだということらしい。

この「景気論」というのは、明快で頷ける。
この論は、そのままパクッていろんな人に話した。
だいたい景気の話なのに、
景気に左右されたくないという姿勢が軸にあるのがいい。
この基準にあてはめて、自分の仕事を考えると、
どこから腐っていくかがよくわかるし、
新しいことを始めるときに、
「やめたほうがいい」と判断する基準にもなる。
勤め人だとしても、「自分という企業体」として考えれば
この法則は、すぐに役立つと思う。

ところが去年から今年になる間に、
「ブチョウ」の景気論は、
さらにヴァージョンアップしていた。

“景気のいい時には、二流もうまくいくから、
それをすごいことのように思っちゃうんです。
一流でないのにうまくいったように見えるから、
特別なノウハウがあるように錯覚して自慢したくなるし、
人もそれを知りたがるんですね。
だから、そういう本がじゃんじゃん出るんですよ。
そういう本をいっくら読んでも、
何にもならないんです。二流だから。
ちょっと時代に影が射してきたら、つぶれちゃうんだから”

おお、新しい理屈だ。

そういえば、彗星のように登場した成功者の本って、
ものすごく多いわ。
そして、読まないでそのままにしていると、
たいていの場合、その企業は
衰退したり苦境に立ったりしている。
こういう栄枯盛衰の大波小波を、いっきに見せてくれたのが
最近のネットバブルのサクセス&ルーズストーリーだった。

本屋のビジネス書の棚を眺めていると、
女の子たちの「ダイエット」や「美容」の本のように、
「成功した人々」や「成功するため」の本が並んでいる。
たくさんの人が、世の中のスキマを
ほじくりかえすように探し回って、
「ビジネスモデル」とやらを発見しようとしている。
ブチョウの説が本当だと(ぼくは思うけど)すれば、
そういう努力は、すべて二流のままでの成功を望むような、
虫のいい小物の思考ルーチンだということになる。

何をしようとするにも、
二流以下である部分を、一流につくりかえていくことが、
回り道のように思えても、
いちばん欲深で、いちばん安全で、いちばん大胆な
戦略なのだということを、
新年早々に、ぼくは学んだのでした。

大好きなスポーツ番組『ゲットスポーツ』で、
松井秀喜が好きな言葉をあげていましたよ。

“心が変われば 行動が変わる。
行動が変われば 習慣が変わる。
習慣が変われば 人格が変わる。
人格が変われば 運命が変わる”

・・・・心が変わると、運命が変わるのだと、
二十代の一流の選手が、夜中のおじさんに向けて、
テレビの向こうから語りかけていた。
この言葉は、松井選手の学校にあった言葉らしい。
いまネットで調べてみたら、
もともとは中国の言葉という説もあったし、
ユダヤの格言だと書いてあるものもあった。
最後を、さらに、
「運命が変われば 人生が変わる」というものもあった。
松井秀喜は、ほんとにそうやってるもんなぁ。

年が、世紀が新しいうちに、
ぼくも、心のほうをしっかりします。
あ、ついでに、ぼくの法則もひとつ。

“人間、ほんとうに嫌なことはできないものなんだよ”

2001-01-08-MON

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