ITOI
ダーリンコラム

<コンビニはどこに行くの?>


コンビニエンスストアについて、
「生まれたときからあったよ」という読者もいるだろう。
そうでもないかな?
どっちにしろ、日本でのコンビニという業態は、
遠い昔からあったものではなく、
かなり近い過去に、その最初の一歩を探すことができる。

テレビについてなら、生まれたときからあった
という人のほうが多いだろうな。

ぼくは、おじさんなので、
テレビがどういうふうに日本の社会に根付いていったかを、
ずっと見てこられた。
この経験は、かなりありがたい。

新しい現象が世の中に見えはじめたときに、
前の「テレビの歴史」と照らし合わせて
考えることができるからだ。
すべての家に必ずあるような何か、が、
どういうふうに出現して、どういうふうに広まっていって、
どういう感じでその周囲に新しい産業を
つくりだしていくのか。
ひとつテレビの例をずっと見てきただけで、
いろんなヒントがもらえている。
テレビの後に、カラーテレビだとか、
家庭用ビデオだとか、CDプレイヤーだとか、
ゲーム機だとか、パソコンだとか、
いろんなものが生まれ育ってきた。

コンビニも、モノではないけれど、
誕生から成長、成熟の過程をやっぱりずっと
見てくることができたもののひとつだ。

で、さて、現在のコンビニが、気になるんだよねー。
これからのコンビニは、IT革命に則した発展をすると、
世間では考えられているようだ。
インターネットでの買い物を受け渡す機能とか、
配達までするという話もある。

気づいてみれば、コンビニの営業品目は、
どんどこどんどこ増える一方だった。
コンサートのチケットだって、スキー宅急便だって、
電気代やなんかの振り込みだって、
ゲームソフトの予約や書き換えだって、
お弁当の暖めだって、おでんの煮込みだって、
コピー機のレンタルだって・・・ああ、もうきりがない、
なんでもかんでもできるようになっている。
たぶん、コンビニ本部は、
これからインターネットとの関連で、
何倍もの事業の可能性を考えていることだろう。

思えば、すばらしい発明だったし、
すごいというほどの発展ぶりである。
むろん、否定的にコンビニをとらえる考え方についても
出尽くしているほど出ているんだろうけれど、
日本人の生活を大変化させたのは確かだ。

で、前々から、ぼくが考えていた問題を、
これから先のコンビニがどうやって解決していくんだろう
という興味が、今日のちょっとした話題です。
それは、仕組み全体の問題というよりは、もっと各論。
「人間=店員」のキャパシティの問題だ。

ぼくは、客としてコンビニを利用するだけだから、
何人の店員が、どういうローテーションで働いているかとか
どういう教育や指導を受けているかとかについては、
ほとんど知らないままだ。

ただ、コンビニの店員たちは、
ずうっと前から、もうとっくに
「いっぱいいっぱい」で働いているように見える。
彼らの具体的な仕事の内容はよく知らないのだが、
レジの前にいて買い物を袋に詰める作業以外に、
いろんな仕事があるんだと想像する。

目に見えることとしては、陳列棚の商品の出し入れ、
さまざまな振り込みなどの手続き、
弁当を電子レンジであたためること、
おでんのネタに汁をかけたりすることもある。
(バカだなぁ、おれ、
これくらいしか思いついてないのか?!
もっといっぱいあるはずだよなぁ)

素人目には、一軒のコンビニにいる店員は、
深夜とかだったら1人か2人、
多いときでも3人くらいで切り回しているように見える。
これが、どうも、うまく回転しているように思えないのだ。
愛想とか心遣いについては、もともと
期待しているわけではないけれど、
最低限必要なサービスをこなすことが、
いまの品目数だけでも、ぎりぎりセーフという印象だ。

そこに、「本部」からの
さまざまな新しい指示や新しい要請が
もっともっとくるわけだ。
お客間向けに「もっともっとこんなに便利になりますよ」と
メッセージしている内容を、ぜんぶ、
店で! 店員たちが! こなしていくわけだ。
あなたのご近所のあの店この店で、
あの店員やその店員が、ぜーんぶやるんだよねぇ?!

本部を、ますます巨大化していく脳神経と考えて、
店頭を、運動系の筋肉と考えたら、
もう、筋肉はこれ以上発達しようがないのではないか。

人間を増やしたら、ひとつひとつのサービスに対する
人件費のコストが上がりすぎるだろう。
物流の窓口になるにも店舗に倉庫などもない。
あくまでも、このへんは素人考えなのだけれど、
ぼくには、いまのコンビニの描いている青写真が、
「頭でっかちのガリ勉」みたいに思えるのだ。

『みなさんの家の近所にたくさんあります』という
地理的な優位をシステム化し発展してきたコンビニだけど、
その優位にしても、コンビニだけのものではなくなる
可能性も出てきている。

全国のガソリンスタンドが、
ネット取引のシステムを組み上げようとしてきている。
これが日本中で生きてくると、全国で5万カ所以上の
「モノの受け渡しのできる場所」になる。
コンビニの約3万店舗より多いわけだ。
住宅地にあるかどうかは別としても、だけどね。

いやぁ、興味あるなぁ。
なんつーか、ITがすべての解決策だみたいな風潮のなかで、
コンビニがどうなるか考えるのって、
ほんとにすごい実験場だもんなぁ。
そういう仕事をしている読者の方いらっしゃいましたら、
企業秘密に触れない程度に、
「ぜーんぜん違いますよーイトイさん」というような
お話を聞かせていただけたら幸いです。

2000-07-24-MON

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