ITOI
ダーリンコラム

<若い人たち>

長いよ。でも読んで後悔はしないと思うから、
ぜひ、読んでください。

深夜にときどき、読者のメールに返事を書く。
それは、まったくぼくの気まぐれで、
どういうものに書くかなんていう法則はない。

ガンジーさんのような年上の方の場合もあるし、
同世代もいるし、仕事がおもしろくなってきた
年頃の人たちに書く場合もある。

こないだ、若い人たちとつきあった夜があった。
若い人たち、いいんだよ。
大きなメディアは、若い人たちのうちの、
「批判しやすい例」をことさらに誇張して取りあげたり、
「いかにも立派そうな例」を見つけてきて、
こんな若い人たちもいるからって、
見せたがったりするけれど、
ぼくは、なんでもなさそうな若いたましいを、
貝がら見つけるように拾うのが好きさ。

まず、こんなメール。
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 こんばんは。なんて書き出しで書いていますが。

 こんな風に、見知らぬ人宛に手紙を書くのは初めてで、
何から書いていいのやら。
相手がはっきりしないと、とまどってしまいますね。
そうだ、イトイさんにしよう。
初めまして糸井さん。
目上の方に手紙を書くことが滅多にないので、
失礼な文になったら本当にすいません。

 せっかくパソコンを買ったのに、
全然使わないで丸一年たったとき、
私の数少ないお友達からメールの誘いがありました。
パソコン分かんないし、面白くないなーと
思っていたけれど、これは病みつきになりました。
その後、美容院で、ぱらぱらめくっていた雑誌で
ほぼ日のことを知って、
ほとんど初めてインターネットを始めたのでした。
三ヶ月前のことです。
たった三ヶ月なのに、すごくたくさんの発見や、
楽しさや、驚きをいただきました。

 うわー。いろいろあるなあ。Qさんってすごいなあ。
私にとって今まで、まるっきり縁のない世界だな。
 鳥越さんって、人間的にすごく惹かれるなあ。
私は新聞もあまり読まないし、でもニュースを
あまり知らないことにちょっと後ろめたさもあるから、
こんな風においしいところをいただくと、
すごく得した気分。
 ゆーないとさん。
ここは、ちょっぴり胸の痛くなる疑似体験かな。
私は中学3年の時から、ほとんど学校へ行かなかったので、
こういうの、あこがれてしまいます。
 などなど、もうここに書ききれないほど、
他にもいっぱいあるのです。

 と、ここまで書いてきて(私にとって)
すごいことに気がつきました。
話を整理するのが苦手で、
あちらこちらに話が飛んでしまうのですが、
一番お伝えしたいこと、みたいです。
申し訳ないけれど、もう少しおつきあい下さい。

 よくある話なのですが、
自分が何をしたいか分からない、
毎日死んでいるのと変わらない日々を送っていたのでした。
でも、今年のはじめぐらいから、
色んな事が外側に開けてきて。
生まれて初めて、告白をしました。そして、初フラレ。
これはほぼ日を読み出す前の話なのですが。
その後、色んな決意をし、バイトをやめ、
学校に通うようになりました。ここら辺は、
ほぼ日を読み始めたのとちょうど重なります。
しかも、先ほどの彼とは、今では大親友
(といってもいいぐらい)の仲になりました。
ああ、上手く気持ちを表現できません。
糸井さんがいろんな方と対談されてるのを読み、
ズーニー山田先生に色んな事を教えられ、
ガンジーさんのところを読んで。 
何度も何度も、普通に生きることなどできないと
あきらめた私が、確かに何かを受け取ったのです。
自己を実現すること、生きること。

 興奮してるし、いつもまわりに指摘されるのですが、
何を言いたいのかよく分からない文だし、
言葉の使い方も間違ってるかもしれないけれど。
 何か、すごくすごく
大きな大きなものが届きましたよーーーーーー。

 そろそろ、勉強に戻ろうと思います。
司法書士になるつもりです。吐き気がするほど難しいです。
たまに、無学の劣等感に、
押しつぶされそうになるのですが、
そんなときはいつも、この受け取った「もの」
のことについて考えます。
すると、ちょっといい感じなのね。
(実は今も勉強が煮詰っていたのです)

 あまりまとまりのつかないまま、
自己満足のような終わりになってしまいました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次は、ズーニー先生のところで勉強して、
読みやすいメールを送ります。


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自分のこどもを見てるから、このくらいの人たちの
無力感や希望の持ち方が、なんとなく想像できる。
ぼくなりに返事を書いた。

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◆ぜーーーんぶ、よーーーーく伝わってきましたよ。
darlingです。

よろこんでもらえることが、ぼくらを助けてくれます。
ぼくのほうも、助けてもらってやれているのです。
このメール一通で、何日分か、またがんばれます。

ところで、ぼくの父親は司法書士でした。
酒飲みで、まことに自由業な人間でしたが、
けっこうやりがいのある仕事のようでした。

ゆーないとさんにも、伝えておきましょうね。

<darling>


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、いつもガンジーさんに出す転送メールに、
この人のものを選ばせてもらって、ガンジーさんに出した。

◆雪のなかに芽吹く蕾。

糸井重里です。

今日のぼくからのメールは、これです。
ガンジーさんが、ぼくが、他のたくさんの書き手が、
こんなメールをもらえるようなことも、
知らず知らずのうちに、しているんですね。

このひ弱そうだけれど強い
雪のなかに芽吹く蕾のような文章を、
ガンジーさんも、どうぞ。

もう、なんど読んでも、たまらんです。
ほんとに、上手じゃないけれど、
きれいな文章で、読んでいて震えます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さらに転送したということを、
司法書士になる勉強中という彼女に知らせた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(前略)

どういえばいいか。
あなたも、誰かのお役に立っているんです。
ありがとう。

<darling>


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そこに、また、まったく別の中学生の女の子から、
似たようなメールが届いた。

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はじめまして!福島に住んでいます。
14歳、不登校受験生のuと申します。
最近読み始めたばっかりなんですが、
はまってしまって毎日来てます。
おかげで、親から電話代聞かされるのが怖いです。
でも毎日更新っていいですね。
あたしは学校に行ってないから
毎日ネットやってるんですけど、
行くといつも更新されてるのでうれしいです。

「中卒でいいんじゃない?」というのを読みました。
あたしの1コ上なのに、
はっきり自分の夢を持っているということに
びっくりしました。
あたしには、将来の夢がありません。
将来の夢じゃなくても同じぐらいの年齢の人なら、
「高校に受かりたい。」っていう
夢があるのかもしれないけど、
行ってないせいか受験っていう現実味がないんですよね。
あたしが学校に行ってないのは、学校が嫌いなわけでも、
いじめをうけていたわけでもありません。
今、学校に行けと言われたら
行ってもいいかなと思ってます。
ネットのおかげで友達が出来たからかな。

高校には行きたいです。
中学みたいにつまんない青春には、
絶対したくないですしね。
学校も半年ぐらいしか行ってないし、
高校に行けるかどうかもわかんないけど、
希望だけはあります。
「ぼーっとした青春。」のゆーないとさんよりも
楽しい高校生活にしたい♪
無理ですかね。

ほぼ日のいろんな文を読んでたら、
何か書きたくなったのでメールしました。
また、変化があったら書きますね。
では、下手な文章ですが
最後まで読んでくれてありがとうございました。
                   uより


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この子に、「あなたの先輩」がいますよ、と
教えてやりたくなって、
こんなメールを返した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

◆darlingっす。

>また、変化があったら書きますね。
ぜひ!

ちょうどいま、あなたの先輩のような人から、
とてもきれいなメールをもらって
返事を書いたところでした。

あなたに似ているかどうかわかりませんが、
上手とは言えないけれど、
やさしくて、強い、きれいな文章でした。

名前だけ伏せて、ここに貼り付けますね。

(ここに引用)

詳しくはわからないけれど、
たぶん、あなたにも、
こんな時がくるんだろうなぁと思いました。

14歳くらいの時って、僕の年からすると、
かわいくてたまらないひよこみたいです。
自分の娘のそのころのことを思い出すと、
思わず微笑みたくなるくらいです。

寄り道もできない、迷子にもなれない子よりも、
きっとあなたはいい時間を過ごしたと思います。
そのぶんだけ、人にやさしい子になって、
次は、誰かの助けになれるようになってください。
たのしみにしてます。

<darling>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんていうか、自分の娘に書いているようなつもりで、
京都のホテルの夜中、書いた。

で、14歳の子の返事が着く。

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メールありがとうございます!!
ほんとに糸井さんですか〜??
めちゃくちゃうれしいです〜〜!!
ちゃんと文の下に顔がありますね♪
つい前、ガンジーさんとこで見た顔ですね!!

こんばんは♪  あいさつを忘れてましたね。
miyuです。
ひよこですか〜??、、
自分的には、ひよことニワトリの中間ぐらいに
思ってたんですけどね、、。

貼り付けてくださったメール読みましたよ。
すごくよくわかりますよ〜。
先輩の気持ち!
(なんて呼んでいいのか分からないので
とりあえず先輩で。)

う〜ん、、上手く書けないんですが。
先輩とあたしはなんか、普通の人ならはまらないような
落とし穴に落ちてしまったような気がします。

…ちょっとこの表現は、まぬけに見えるので、
自分で思いついたんですけど、嫌ですね、、、。

(後略)

uより

___________________________

なんだか、かわいいでしょ。
いわゆる「不登校」とかいう問題の枠組みそのものが、
古い考え方に見えてくるんだよなぁ。

どっちの子も、ナイスな女性になりそうじゃないすか。

そうかと思うと、こんどは21歳の男性。
やや不躾なメールにも思えたんだけれど、
こどもが産まれて舞い上がっているのが、かわいい。

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◆はじめてでーす。

こんばんは、僕は21才の男です。

今日、これまでの人生で一番嬉しくて、
そして感動したことがありました。
それは、子供が産まれたことです!
もう嬉しくて嬉しくて、いつもは読んでるだけ
でしたが、糸井さんに伝えたくてメール送りました。

そこで、まことに勝手なんですがこのメールを
みて、忙しい糸井さんの手が空いてたら入院してて
ほぼ日がみれないかみさんに一言だけでも
お返事をください。本当に勝手ですいません。

訳のわからぬ文章になってすいません。では!


___________________________

21歳といえば、自分のことばっかり考えてる時期だ。
それが、かみさん、だの、こどもだのと、
自分以外のことを思いやっているのが、
なんだか「おお、やっとるな」みたいな気持になって、
さっぱりした返事を出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

なんだかあわてふためているメールを、ありがとう。
そうか、こどもが産まれたのか。

勢いに押されてしまいました。
「おめでとう!」かみさん!

若い親は、なにかとたいへんでしょうが、
こどもはかわいいから、大丈夫。

<darling>


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

で、また、その返信。
気持いいくらい明るいよー。
___________________________

◆ありがとうございました。

えっと、子供が産まれた男です。
僕は、ドリキャスでネットしてるんですが
今日起きて、ネットにつなげたらメールが
届いてて、デリバリー版かな?と思い開けてみたら
ダーリンからでびっくりしました。

ガンジーさんが言うように、雲泥の差がある方から
なんて嬉しくてもうウォーーー!って叫びました。
いまから、かみさんに会いに行き、このことを伝えます。
本当にありがとうございました。

今日は、もうすぐサッカー 日本VSブラジルですね。
鼠穴の五輪中継見れないけど、
病院でかみさんとJrと応援します!
このメールを見る時には、いい結果がでてますように・・
では、またメールします。


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おおそうかそうか、よかっちょかった、と
思っていたら、数日後。
また、新米パパからのメールだ。
___________________________

◆ 先日メールした、21のパパです。

先日はとてもうれしいメールだったのに、
今日は違います。聞いてください。

今日、かみさんと息子が待つ病院に行きました。
そこには、僕の母と妹がお見舞いに来てました。
でも、かみさんの顔色がいつもと違い
疲れててお見舞いの相手をするのが、だるいのかなぁと
思ってました。
そして、しばらくすると
「ちょっと、下に来て」と言われ、
これはただ事ではないとおもい『どうした?』と聞くと、
「今日、先生に呼ばれて
子供の心臓に穴があいてるって言われた。」と。
くわしく聞くと、心臓の左心室と右心室の間に
ある心室中隔という壁に4mmほどの穴があるそうで
100人に1人の先天性の心臓病らしく、
自然にふさがる場合もあるといわれました。

でも、心臓に穴があるなんて顔を見たら信じられず。
おもわず、大泣きしました。
出産の時も難産で苦しみ、二日後にはこれです。
誰を責められるわけでもなくすごく小さな命に
頑張ってもらうのみという、もうつらくてつらくて
たまらないっすよ。
こうゆうとき、ドラマなんかで
「俺の命に代えても、助けてください!」
って言うのは、本当なんだなぁと思う。
二週間後に精密検査を受けるのですが、
それまでなにをしていいのか・・。

強気で考えれば、他にはもっと苦しい人もいる。
となるのですが・・。

疲れてるのにこういう話ですみません。
でも、部屋で一人で考え込むのが恐くて
メールを書いてれば、冷静になれると思って書きました。
当事者にならないとわからないかもしれないけど
糸井さんなら、どうします?と聞かれても困りますね。
できれば、なにかアドバイスをください。

今日ドリームアイという、ドリキャスのカメラを
買ったので、子供の写真を添付しますね。
名前は「修斗」にきめました。
格闘技の修斗の選手みたいに、強くなって欲しいのと
きれいな星のように輝けと願い・・・。

ということで、また勝手にメールします。

                 
___________________________

あの明るいメールの次が、これだ。
ぼくが何を言えるというのだ。
でも、こいつ、いいやつなんだ。
若いパパに、何を言ってやることができるんだろう。
なんにもならないようなことを、ぼくは書いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『聞かれても困りますね』
なんですが、
つまり医者でもないし、滅多なことは言えない。

でも、なんか、そういう話、よく聞くような気がしました。
いま、赤ちゃんが危篤でないようですから、
悩んでいるより、赤ちゃんやお母さんの
「支え」にならないと、
おとうさんとしてはいけないのではないでしょうか?

他の家族を安心させるように、どっしり構えているのが、
おとうさんの「つとめ」です。
どんなに心配しても、なにも解決はしないのですから、
おかあさんと赤ちゃんを不安にさせないように!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・

かわいそうだとは思ったけれど、
冷たい水をかけてやったようなものだ。
「しっかりするんだ!」と、雪山で頬を叩くみたいな?
でも、こんなこと、21歳に言って大丈夫かなぁと、
ほんとうは思っていた。

そして、若いパパ、返信してきた。

___________________________

◆ そうですよね!

なんか、僕はまだ父親ってかんじよりかは
すこし遠くにいたのかもなぁっておもいます。

でも、考えれば父が不安でつらがってても
なにも先には進まないってこと。

また、つらくなっちゃうかも知れないけど
糸井さんの言うようにどっしりかまえます。
そういえば、うちの親父も僕が小さいころ
大怪我した時そうだった気がします。

なんか、お悩み相談室みたいですまないっす。
でも、なんか助かります。糸井さん大好きです。
             では、頑張る!
  

___________________________

よーし!
でもなぁ、なんか、自分が「いい人役」してるのが、
ちょっとちがうような気もするんだけど、
思ってもないことを書いているわけでもないし、
いいか、と考えた。

その後、ぼくは短めに「力むな」というテーマの
メールを出して、「そうですね」というような返事が
再び返ってきて、いまに至る。

赤ちゃんのことがどうなったのかは知らないけれど、
出産したばかりの「かみさん」や、
産まれたばかりの赤ん坊よりも「おとうさん」が、
弱くなってちゃいけないんだと、
若い人に言っている自分は、
ちっともしっかりなんかしてやしない。

若い人たちとのやりとりを、
ぺたぺた貼りつけて紹介しましたが、
ガンジーさんもかっこいいけれど、
そこいらへんにいる若い人も、いいでしょう?
いーーーーっぱいいるんですよ、こういう読者。
ほんとに、いいんだから、ほとんどの人たちが。

ぼくは、よくこのコラムで、
失敬な読者にことを書いたりしているので、
そんなんじゃないたくさんの読者について、
ちゃんと伝えておきたくて、長くなるけど、
書かせてもらいました。

さ、ちょっと眠って、
明日こそ、成田からちゃんと飛び立ちます。

2000-09-25-MON

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