ITOI
ダーリンコラム

<いったん極端にする>

笑い話には、「極端を笑うもの」がよくある。

なんでも突き詰めて考える男が、
トイレにしゃがみこんでカレーを食べていた。
ふと、男は気づく。
結局は、これは、こうなってしまうのだから、
わざわざ食うことはないのではないか?
男は、カレーを食べるのをやめて、
そのまま便器に捨てて流してしまいましたとさ。

ってのは、有名な話だけれど。
これは、どこがおもしろいのだろう?
もともとカレーが運固に似ているということで、
下ネタとしての笑いの要素はあるのだけれど、
核心はそこにあるのではない。
「それはそうだかもしれないけれど、ちがうんだよ!」
という気持で読むからおもしろいのだと思う。

カレーを便器に流してしまった男は、
ある意味では、間違ってもいないのである。
わざわざ、「食う」などという
めんどくさいことを
間に挟まなくてもいいのではないか?
そうなるとカレーを作る手間もいらなかったし、
カレーのもとになるさまざまな食材を
作り育てる必要さえも合理化してしまえる。

で、さて、なんだけれど。
「それはちがうよー」と思ったでしょ。
誰だって、ちがうよ、と思うからこの話はジョークなのだ。
じゃ、どこいらへんがちがうのだろう?
食うってことは、めんどくさく感じようとなんだろうと、
それ自体が目的なのである。
カレーというものと、運固というものは似ているけれど、
ぼくら人間は、食事によって何か作っているわけではなく、
食事するということ自体を「している」のだ。

しかし、このジョークをまことしやかに聞かされたとき、
ちょっとだけ「あ、そう言えばそうかな?」と、
心が揺らいだりする。
揺らぐから、反論を考えようとする。
だって、実際にそうじゃないということを、
すでに、からだ全体でわかっているんだもんね。

カレーと運固の話は、「極端」を笑うものだった。
そして、話を極端にしたことで、
ものを食うということの意味が、あらためてわかった。
こういうふうに、ものごとを、
「いったん極端にする」と意外なことが見えてくる。

ま、例えばさ・・・しょうがねぇ例だけどさ。
ちんちんが小さいと悩んでいる人がいるとするじゃない。
その人に神さまが
「ちんちん長を5メートルにしてあげよう」と、
言ってくれたとするじゃない。
そうすると、それは困る、と思うだろう。
じゃ、4メートル、3メートル・・・・と、
値下げするような感じで小さくしていくと
「のぞみの長さ」が
「○センチ〜○センチの間」であることが自分にわかる。
やっぱり22.5センチなんて大きすぎて困る、とかね。
わかってくるわけですよ。

たぶん、お金をほしいってことも、
そんなふうなところがあるのかもしれないなぁ。
神さまが、またまた登場。
「では、百億万兆円をあげよう」と、極端なこと言うのよ。
そんな数字ねぇよ、なんてツッコミはしないでね。
ま、もらえるとするよ。
そこで、あなたはあらためて考えるわけだ。
ワタシ ハ ナニガ シタカッタノカ?
ワタシ ハ ナニガ ホシカッタノカ?
世界中を買えるほどのお金をもらえると知ったら、
自分の欲望がなんであったのかを考えざるを得ない。

あんまり例にしても書きたくもないけれど、
殺してやりたいほど憎い、なんて場合にも、
できるだけ残忍な殺し方がいい、とか言うだろう。
だって、ねぇ、気持ちよく安楽死させてやりたいなんて、
憎んでいる相手に対しては思いはしないだろう?
じゃ、極端にひどいッ苦しみを与える殺し方を
想像してみたらいい。
「そこまでしたら、自分がひどいやつじゃん?!」と
思いはじめるかもしれない。

はじめから「ちょうどいい」ところを考えつくなんて、
なかなか難しいことなのだ。
だったら、いちばん極端なところをいったん考えてみる。
そしたら、「そこまではいらない」とかね、
「それはひどい」「それじゃ意味ねーじゃん」とか、
自分の心の底のほうにあったほんとののぞみが、
輪郭をもちだすと思うんだよね。

「おまえがYES と言ってくれるまで、
いつまでも待つよ」とか言ったことのあるキミ!
「いつまでも」って、
極端に言うけど
七回くらい生まれ変わってもってことか?

何年も前の話だけれど、
「韓国のプロ野球の選手は、
負けた試合の後で食事しているところとかを
ファンに発見されると、ものすごく責められるんだって」
という話を聞いたことがある。
いくら、勝利のために死ぬ気でがんばれって言ったって、
そこまで干渉できねぇよなぁと、
友人の熱狂的な阪神ファンが語っていた。
これも、極端な話が彼の心をまともにしてくれた例だね。

極端ってのを、まず想像してみると
いろんなことの輪郭が見えるんだよねー。

・・・・そういえば、エコロジーを言ってるうちに
微生物の権利ってところまで論を進めちゃった人も、
いたっけなぁ。
それをさらに、『バイキンだって人間だ!』と
冗談にしてたやつも、いたっけなぁ。
極端を極端で受けるとギャグになるってことか?

ま、いいや。
じゃ、ほどほどのところで、おしまいにします。

2000-11-20-MON

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