ITOI
ダーリンコラム

<特撮に思う。>

今回は、でたらめに近いような思いつきで書いてみたい。

テレビを観ていると、映画の予告編があるでしょう。
全部とは言わないけれど、
SFXと呼ばれる特撮が山盛りですよ。
壁は抜けるは、火や噴くは、
巨大化する、極小化する、宇宙の果てに行く、深海に潜る、
見たこともないような化け物に出あう・・・
できないことは、なんにもなくなったって感じです。

これ、はじめのうちはビックリしたんだけれど、
この頃は、驚けと言われても驚きにくくなった。
「よくできてるなぁ」と感心しないわけでもないけれど、
それじゃ困るはずですよね、作る側としては。
スゴイといえばスゴイんだけど、
「よくできてるなぁ」は、見る側のほんとの気持ちでしょ。

SFXの発達を考えると、
表現しようと思ってできないことはなくなるでしょう。
となれば、これからの映画は、
「何を表現したいか」の部分が問われるわけですよね。
いまさら「恐竜」をいくら上手に表現しても、
いままでの名作ともいうべき特撮と比較されて、
「ちょっとはマシかな」と言われるのがせいぜいですし、
宇宙活劇にしても、前に見たことがあるという印象で、
感心されるということにはなりにくいでしょうねぇ。
だから、「見たことないものを見せてやる」というより、
「なにか見せたいもの」があって、
それを見せるためには特撮が必要になる、
ってことになってくるんでしょうね。
当たり前ですがな、考えてみれば。

たぶん、フィクション(うそ)の世界を
どういうふうに表現するかってことよりも、
ノンフィクション(現実)の世界でありながら
表現しきれなかったものを、
SFXの助けを借りて見せていくことになるんだろうな。

で、ここからが、でたらめのような思いつきなんだけれど、
小説っていうものが、「ある種の特撮」なんじゃないかと、
ふと思ったんですよ。
「そんなバカな」と思われることでも、
小説のかたちをとれば、いくらでも書ける。
フィクションってのは、うそをついていいわけだから、
想像力を駆使して、いくらでもおもしろくしていい。
それだったら、無限におもしろくなりそうじゃないですか。

だけど、これが、あんまりおもしろくはないんだなぁ。
つまらないとは言わないけれど、
いま、小説を読もうっていう意欲がわかないんだよなぁ。
この傾向が自分だけかと思えば、そうでもないらしく、
ごく一部の流行作家を除いては、
フィクションの本が売れてないらしい。
売れてないからつまらない、ってことじゃない。
それはわかっているけれど、
買う、読むにいたらない原因が、なにかあるわけだ。
それが、小説のなかの「特撮」のせいなんじゃないかと、
ふと思ったのだ。

小説の歴史ってのは、
きっとものすごく長いのだろうけれど、
他にお楽しみのすくなかった時代といまとでは
まったく条件がちがうはずだ。
おそらく、スタンダールが『赤と黒』を書いた時代に、
テレビや映画があったら、
多くの人々はそっちのほうを選んだことだろう。
いまは亡きうちの父ちゃんなどは、
吉川英治や山岡荘八の新聞連載小説を
ほんとにたのしみに読んでいたようだけれど、
果たして、いまの時代に
当時と同じ健康を保ったままで生きていたとしたら、
そういった小説を読むだろうか?
たぶん、小泉首相がどうしたこうしたというような
ニュースや、NHKの『プロジェクトX』なんかに
真剣になっているにちがいないと思う。

現実の凄みのほうに、いまの人々の興味は動いている。
空も飛べなきゃ、火も噴かない、
なんでもない人間が、意外にも
一瞬スーパーマンのように輝く。
そういう物語を、どれだけ発見するかが、
いまのコンテンツの中心になっているように思える。
それだけ、現実に「希望のなさ」が充満しているから
かもしれないけれど、
「いま、現実をみくびるわけにはいかないんだよ」
というような気分が、この時代にはあるように思う。

そういう時代に、「頭のなかで考えたうそ」を、
人々のところに届かせるのは、
とても難しいことなのだろう。
フィクションが、なんでも描けてしまうがゆえに、
「なんでも描ける」ことに飽きてしまった市場に、
何を提示すればいいのか、
わからなくなっているように思える。

なんでも描けるはずの小説よりも、
ルールだらけの「小説」であるミステリのほうが、
ちょっと勢いがあるらしいのも、
なんとなくわかるし、
論文で書くようなことを小説のかたちで書いた本のほうが
人気があるような気もする。

でも、ねぇ、個人的な思いとしては、
こういう時代にこそ、
頭のなかででっちあげた最高のうそに
わきわきしてみたいんだよなぁ。
それは、いまだかってなかった特撮映画が観たい
っていうような気持ちなのかもしれないな。

見事なまでに整理されてないことを、
今回は書いてみました。
ほんとだったら、友だちとの雑談でしゃべって、
自説をくねくね曲げながら鍛えていくようなタイプの
話題なんですけれど、ね。
夜中に急に書きだしたので、
話し相手の友だちも見つけられなくてさ。

つきあって読んでくれた方々には、
なにかとすみませんでした。

2001-07-09-MON

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