ダーリンコラム |
<葬列のなかに> 葬列のなかに ちいさな笑顔がみえた。 父親が遠くにいったことを知らぬ 赤ん坊の笑顔だ。 黒衣の伯母さんは すこし目を細めて赤ん坊に合図をおくる。 あなたは笑っていていいのよ。 でも大きな声をだしちゃだめ。 赤ん坊を抱いていた祖母は おおきな胸の前で 両腕を揺籠のようにして その笑みにこたえていた。 あんたはいいこ。げんきなこ。 葬列はたったひとつの笑顔を抱えて ゆるやかに墓地へとむかっていった。 赤ん坊は両手をふりあげ 空にむかってダアダアと声をあげた。 その行進は悲しかったけれど暗くなかった。 とても悲しかったのだけれど ダアダアということばにならない歌のせいで 暗くなれなかった。 葬列のなかに こんどは泣き声がした。 父親が遠くにいったことを知らぬ 赤ん坊の泣き声だ。 血の気を失った顔の母親は おっぱいをやる時間なんだと気がついた。 お腹がすいたのね。 でもいまは おっぱいはあげられないの。 葬列はおおきな泣き声とともに さっきより急ぎ足になって墓地にむかった。 棺のなかの父親のくちもとは 笑っていた。 |
2001-09-17-MON
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