ITOI
ダーリンコラム

<ごほうび>

テレビゲームの制作に必死になっていたころ、
ゲームのおもしろさって何だろうということについて、
しょっちゅう話しあっていた。
もちろん、学究的に討議していたわけじゃないのだけれど、
現場で、ほんとうにその問題とぶつかっている人が、
本気で考えていたことだけに、
話すたびに興味は深くなっていた。

で、ぼくなりに
これが答えかなぁと思ったことが、
ふたつあった。
案外、なんでもなさそうなことなので、
「なーーんだ」と馬鹿にされるかもしれない。

1.
ひとつは、(ほんとうは誰にでもわかるのだけれど)
「自分だけがわかって
他の人間にはわからないんじゃないか」
と思えるような謎があること。

2.
もうひとつが、
びっくりするような「ごほうび」が、
何度も何度も、もらえること。

これだけは、わかったんだよな。
言ってることは簡単だけど、実際に
作る側に立って考えはじめるとかなり難しい。
それぞれのプレイヤーが、
「あ、わかった!」と解いた瞬間に、
「これって、あいつにはわっかんねぇだろうなぁ」と、
微妙な優越感にひたれるような謎、なんて、
つくるのは難しいよ。

「とても優れた何名かだけが解けるような謎」では、
ほとんどの人が投げ出したくなっちゃうだろうし、
「誰でもが解けるような謎」じゃ、
達成感がないわけです。

そして、「ごほうび」ってのも同じように難しい。
痛めつけられて、もう投げ出したくなっちゃうときにも、
もうじき「ごほうび」がもらえると思えば、
歯を食いばってでもがんばれたりするでしょう。
でも、「ごほうび」の前の苦労が多すぎると
「ごほうびなんかいらないや」ということになっちゃう。
最高の「ごほうび」がもらえたときには、
それまでの苦しい時間までが、輝いて見えるし、
たいしたことない「ごほうび」だと知ったら、
「何のためにオレは!」とガックリきちゃう。

ものすごく当たり前のこと言ってるみたいで、
つまらないかしらん?
そういう場合は、この文章そのものに、
「ごほうび」がないってことです。
それが心配な作者としては、このあたりで、
「意外ですばらしいごほうび」を準備する必要がある。

・えーと、空きも入れると、ここで60行めです。

なんてことを書いたって、これもある種の「ごほうび」だ。
あんまりうれしいとも思われないだろうけど、
いちおうは、これだって「ごほうび」。
知りたくもないニュースだけれど、
ここに「新鮮な情報」が与えられたわけです。
・・・つまらんことをやってしまった。

さて、ゲームにかぎらず、
「自分だけの謎解き」と、「ごほうび」ってのは、
必要なものなんだろうな、と思うわけだ。
人が賞をほしがるのも、そういう法則に合ってるし、
仕事がうまくできるようになって、利益があがったり、
会社での地位があがるなんてのも、
おなじようなことなんじゃないかと思う。

さっきまで、
11月12日の「今日のダーリン」を書いていた。
YAHOO!の賞がほしい、というようなことを、
臆面もなく書いていて、これはどういうことなんだと、
あらためて考えた。
いままで、自分のもらう賞については、
「くれるっていうから、もらったよ」的な
イヤミな姿勢を見せて
カッコつけていることが多かった自分が、なんで?

ま、もともと、いままでも、賞という「ごほうび」が、
ほんとはうれしかったんだとは言える。
人格ができていないから、
気持ちを素直に表せなかったのかもしれない。
しかし、それだけとも言えないのよ。
ほんとに、賞という「ごほうび」がほしいって気持ちは、
いつのまにか、なくなっているのは本当なのだ。

なのに、「ほぼ日」がもらえる「ごほうび」なら、
貪欲になんでもほしがっている。
去年もらった「日本ホビー大賞」もうれしかったし、
今年の「グッドデザイン受賞」もうれしかった。
去年なんか悲しかったもん、本気で。
その同じ「YAHOO!」の候補になってなかったことが。

「ほぼ日」に、まだ自信がないのかもしれない。
「ほぼ日」が、自分でなく「自分たち」
というチームのように思えるからかもしれない。
ぼく自身とちがって、「ほぼ日」はまだ3歳半なので、
気持ちが青春なのかもしれない。
よくわからないんだけど、
「ほぼ日」を主人公にした物語については、
ぼくは相当な欲張りなのだ。

よく、野球の選手とかが、個人のタイトルよりも
「優勝がしたい」って言うけれど、
あれって、かなり本気なんだろうと思うよ。
チームの力を合わせてもらった「ごほうび」って、
ほんとに欲しいものだと思うもの。

これ、原始時代のイメージで言えば、
「個人の力で自分だけの獲物をとったときよりも、
みんなが食えるくらいにでかいマンモスを倒したほうが
うれしい」っていうような感じかもしれなない。



2001-11-12-MON

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