ITOI
ダーリンコラム

<仕事だから?>

いろんなことを断るときに、
「仕事だから」と言うと相手がわかってくれたりする。
ま、これに匹敵するパターンとしては、
「医者に止められているから」というのがあるんだけれど、
そっちのほうは、使う場面がかぎられているし、
ウソをついている場合も多いかもしれない。

しかし、「仕事だから」という理由の有効性は、
相当なものだと思う。
ごく単純に、家族の用事があった場合、
この「仕事だから」にぶつかったら、
家族のほうもしぶしぶであろうが、あきらめるだろう。
ま、そういうケースは、誰にでも覚えがあると思う。

そういうのとはちがう場合で、
「仕事だから」というセリフを聞くことがある。
たとえば、AV女優の女の子とかが、
「え、だいじょぶでした、お仕事ですから」
なんてテレビ番組なんかで言っているけど、
その「お仕事ですから」って言葉の響きに、
「そっか、しっかりしてるなぁ」というような
インタビュアーの相槌が入ったりして。
テレビを観ている自分も、
なるほどなぁ、と思っていたりすることに気がつく。

ぼくは、別にAV女優という職業がいいとか悪いとか、
思っているのではないのだけれど、
っていうより、そういう人がいて助かったという思いさえ
あったりもしているくらいなのだけれど、
「お仕事ですから」で納得し過ぎちゃう本人と、
それで納得させられ過ぎちゃう自分を、
ちょっと疑問に思ったりしている。

仕事熱心という意味では、感心されちゃうような
麻薬の売人がいるかもしれない。
いい仕事しまっせ、という殺し屋もいるんだろう。
そういうのって、どう考えたらいいわけ?
他人の不幸があったらさっそく駆けつけて、
不幸の当事者にマイクをつきつけてる人も、
まわりになんと非難されようと、
「これが、仕事ですから」と言い放つことで、
自分の精神の安定は図れているのだろうと思う。

そういえば先日も、矢沢永吉のファンという人が、
腹を立てながら書いてきたメールがあった。
エーちゃんが、関西のテレビ番組で、
「ないことないこと言われ放題にされた」という、
事務所が弁護士を通じて抗議したら、
それが「ないこと」であると局がすぐに認めて、
さっそく制作部長自ら出演して
お詫びコメントを読み上げるというような
前代未聞の謝罪があったんだという。
大阪では人気の「たかじん」って人の番組らしい。

きっと、おもしろおかしく
「エーちゃん」を酒の肴にして笑っていたのだろう。
それが、ウソでもホントでもかまわない。
「言いたい放題」という「個性」が「売り」の、
彼らにとっては「仕事」だったということなのだろう。
お詫びコメントを読み上げた部長も、
それを読み上げるのが「仕事」だったのだろう。

事務所の人に聞いてみたら、
ほぼその通りの事実があったのだと言う。
エーちゃんって人は、こういうことがあると、
金銭的にも労力的にも損をしてでも
「このヤロー」とばかりに戦いモードに入るから、
きっと「ないことないこと」言った側も、
こりゃややこしいことになるぞとばかりに、
さっさと謝ってしまったのだろうと思う。

なんかなぁ・・・哀しくなるんだよなぁ。
AV女優の「仕事ですから」っていう答えを
耳にしたときよりも、
「仕事」っていう言葉でやっていることについての
おおきな疑問がわだかまってしまう。
ちょうど、先日、矢沢永吉の武道館コンサートを観て、
「この男の、クソマジメな全力ぶりってなんなんだ!」と
あらためて感心した直後だっただけに、
そういう人間をおとしめることで「仕事」を成立させている
同業者ってものがいることに悲しくなる。

「仕事だから」という理由で、
悪いことと知りつつ、やり続けている人も
たくさんいるのだろうと思う。
人を罠に陥れるような仕事だって
あるだろうとは思うし、それは知っている。
しかし、その仕事で得るものというのは、
何なんだろうなぁ。
金銭だけしかない、と言いきるにしても、
その金銭で、自分の「幸福」を買うわけだろう?
としたら、その「幸福」っていうのは、
他人を陥れてでも得たいものなのだろうか。
ぼくは、キレイごとを言っているつもりはないのだが、
なんか、すっごくちがうよなぁと思わない?
これからの「仕事」っていうのは、
いままでみんなが考えてきたようなものとは、
きっと違っていくんだと思うんだよねぇ。
企業なんかでも、悪いことしていると、
株価がガーンと下がったり、商品が売れなくなったり、
致命的なリスクを負うじゃないですか。
それと同じように、個人の「仕事」でも、
ただその「仕事」を一所懸命にやったということでは、
認められなくなるときが、すぐ来ると思いたいなぁ。

「お前はどうなんだ?!」って、
こういうこと言うと、すぐにつっこまれそうだけれど、
つっこんでるお前はどうなんだ、と、
あらかじめ、つっこみ返しをしておこうかね。
少なくとも、ぼくは人を陥れて「仕事」はしてない。
とにかく、「仕事」なら何をやってもいいのか、
ということは、もっと問われるようになるだろうなぁ。

2001-12-21-MON

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