※これがなんの予告だかぜんぜんわからない、
 という方は、こちらをクリック。
 
 
木内宏昌さんの語る、 「ルヴォーさんってこんな人」。
 
Q)世界の演劇界で、ルヴォーさんってどんな評価なの?
A  

けっして“世界的な大演出家”ではないと思うのですよ。
「称号」みたいな肩書きは似合わない人。
アメリカ人ではないので(イギリス人です)、
ブロードウェイ的な系譜やランキングに属する人でもない。

そもそも、演出家って、裏方仕事ですからね。
海外での演出家のクレジットのされ方は、
ブロードウェイでもウエスト・エンドでも、
日本に比べるとかなり小さいように思います。

でも「デヴィッド・ルヴォーから演劇を教わった」
という俳優は、たくさんいると思います。
そしてルヴォーさんは
有名な俳優から指名される演出家。
そのひとりがフランス出身の女優、
ジュリエット・ビノシュです。
彼女はルヴォーさんの演出で、
ハロルド・ピンターの『背信』をやり、
トニー賞にノミネートされています。

そしてご存知、アントニオ・バンデラスは
『ナイン』の主演に。
ジェシカ・ラングは『ガラスの動物園』。
昨年、オーランド・ブルームは
ブロードウェイ・デビュー作である
『ロミオとジュリエット』で
ルヴォーさんの演出をうけています。

日本人なら、麻実れいさん。大竹しのぶさん。
松本幸四郎さん。佐藤オリエさん。
堤真一さん。内野聖陽さん。宮沢りえさん。
そして故中村勘三郎さんとも、
生前、なにか企画があったみたいです。
(観ることができなかったのは、とても残念です。)
そんな人たちに敬愛されてきた演出家だと思います。

演劇界での知名度、ということで言いますと、
日本の演劇界はとても小さいので、なんですが、
「知らないともぐり」と言っていいです。きっぱり。
ただし、作品名は? とたずねても答えられないかも。
むずかしい作品や渋い作品が多かったので。
演劇を観る人で彼の名を知らない人がいたら、
日本と関わりの深い、この英国人演出家の名を、
是非覚えておいてほしいと思います。

あくまで狭い範囲の話ですが、
ルヴォーさんがこれまでの演劇ワークショップを通して、
日本人俳優たちに広めた様々なメソッドは、
すでにルーツが忘れ去られているほど、
各所に広まっています。
都内の稽古場で、若手劇団が、
デヴィッドがワークショップで教えたウォーミングアップを
みんなでやっているのを目にしたことが何度もあります。
たとえばぼくが自分で演出する稽古場でも、
デヴィッド体験をした俳優が多いんです。

tpt(シアタープロジェクト・東京)での
ルヴォーさんの活動は、
上演とワークショップの二本立てでした。
その成果は本人が気づいていないかもしれませんが、
日本の演劇の作り手のなかに息づいています。

 
Q)ルヴォーさんって、なにが“ちがう”んでしょう?
A  

ほかの外国人演出家と比べて、
デヴィッド・ルヴォーの演出が
はっきり違うと思うことがあります。

それは、日本で、ちゃんと俳優に出会って、
1から、いえ、ゼロから作るという、作り方です。

かつて外国人演出家の仕事に多かったのは、
日本人俳優を起用していても、
本国で作ったものの「焼き直し」でした。
その稽古場は、形を作ったり、振り付けをしたり、
レクチャーしたりというものになりがちで、
稽古場が面白くありません。

演出家がなんでも先に知っていて、
俳優はそれを教わるという関係が、
ルヴォーさんの稽古場ではほとんどないんですね。

だから、俳優が、自信を持てるし、
生かされていると感じることが
できるのではないでしょうか。

かつて、ナインの稽古を観ていた、
俳優のマネージャーさんが、
「デヴィッドの稽古は、
 お客さんを入れてもお金がとれるわ」と、
つぶやきました。
そう言いたくなる意味はよくわかります。

 
Q)20代前半で、ウエスト・エンドの舞台の演出を まかされるって、すごいことだと思うんですが。
A  

ほかにいるかどうかは、わかりません。
もちろん希有なことだと思います。

でも、もっとすごいのは、
30代で日本のカンパニーの芸術監督になり、
20年間で22作品以上を演出したことだと思います。
すべて日本人俳優と、日本語の作品を。

有名俳優にも、若手の俳優にも、
等しく接し、力を与えてくれる演出家です。

「人間には与えられた自由を最大限に生きる権利がある」、
「日本のことわざで大好きなのは『出る杭は打たれる』、
 なぜならそれは完全に間違ってるから。
 ぼくたちは出っ張るために生まれてきたんだ!」
ワークショップでそんな言葉を聞いたことがあります。
演劇の場でそれを実践させてくれるから、
彼の稽古場では、みんな生き生きできるのだと思います。

 
Q)もし映画監督にたとえるなら?
A  

仕事の質が違うと思うので、なんとも言えませんが
(よく、映画は「監督のもの」、
 演劇は「俳優のもの」なんて言われますが、
 演出家はほんと、
 俳優の手伝いをする仕事だと思うのです)、
ルヴォーさんが好きな映画監督として挙げた名前に、
ペドロ・アルモドバルがありました。
スペインの監督で『トーク・トゥ・ハー』
『帰郷』などが有名です。

あるいは。哲学者っぽいところは、キシェロフスキ!
根強いファンがいるという意味では、ヴェンダース?
もしかしたら、タルコフスキー?
色っぽさなら、アキ・カウリスマキ?

うーん、わからない。ずばりがない。
あたりまえだけど。
いずれもハリウッドの監督じゃないから、
伝わりにくいですよね。
ああ、そうだ、ハリウッドの監督じゃないんですよ。

今回の『昔の日々』の劇場は日生劇場ですが、
デヴィッドに似合っているのはやっぱり
tptの拠点だった下町の劇場、
ベニサン・ピットだと思います。
だから、彼が映画監督だとしたら、上映館は、
東京だったらシネスイッチとか、
ル・シネマとか、シネマライズとか、
もしかしたらユーロスペースとか。
そんなイメージじゃないでしょうか。

それから、彼には、巨匠とか、
君臨するキャッチフレーズは似合わないですよね。
官能の演出家だとは思うけれど。

デヴィッド・ルヴォー David Leveaux
演出家。1957年12月13日 イギリス生まれ。現在56歳。

1982年、『日陰者に照る月』で、
ウエスト・エンド演劇賞を25歳で受賞、
イギリス演劇界にその名をとどろかせる。
84年、同作品をブロードウェイでも演出し、
アメリカ演劇界で最も権威のある
賞といわれているトニー賞の、
最優秀演出賞を含む4部門にノミネートされる。
88年に、舞台『危険な関係』で初来日。
(主演:麻実れい/93年に再演)
その後、東京で『双頭の鷲』『サド侯爵夫人』等を演出し、
注目を浴びる一方、
ロンドンでロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの
アソシエイト・ディレクターとして
『あわれ彼女は娼婦』『ロミオとジュリエット』を連続上演。
ロイヤルナショナルシアターでは
『父』『ジャンパーズ』を演出。
アルメイダ劇場では、『背信』、
『No Man’s Land』、『ムーンライト』と
ハロルド・ピンター作品の演出を手がける。

93年、36歳のとき、ブロードウェイで
『アンナ・クリスティ』を上演し、
再び、トニー賞5部門にノミネートされ、
ベスト・リバイバル作品賞を受賞。
また、同年東京で、プロデューサーの門井均と、
ベニサン・ピットを拠点に
現代演劇の実験プロジェクト、
『シアタープロジェクト・東京(tpt)』を結成。
tptで演出した『テレーズ・ラカン』は、
第1回読売演劇大賞と演劇作品賞、
紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。
(98年の再演時の主演は、若村麻由美)

2003年のブロードウェイのミュージカル作品『ナイン』は、
トニー賞最優秀ミュージカル演出賞など6部門にノミネートされ、
ベスト・ミュージカル・リバイバル賞など2部門で受賞。
翌年、日本人キャストで上演した『ナイン THE MUSICAL』は、
第39回紀伊國屋演劇賞団体賞を受賞。
05年に別所哲也を主演に迎えた
『ナイン THE MUSICAL』の再演は、
大阪の劇場、シアターBRAVA!のこけら落とし作品となり、
東京、天王洲 銀河劇場(旧アートスフィア)の上演とともに
好評を博す。(詳細は、「ほぼ日」のコンテンツ
「今年『ナイン』は大当たりする!」に)
3年後の2008年、Bunkamura シアターコクーンで、
宮沢りえ、堤真一ら一流キャストで上演された
イプセンの『人形の家』は、
ルヴォーにとっては、日本が初演。
宮沢りえのノラとともに大絶賛される。
2012年に、帝国劇場でミュージカル
『ルドルフ~ザ・ラストキス~』を演出。

初来日以降も、ロンドン、
ニューヨーク、東京と世界中を飛び回り、
次々と、精力的に作品を発表。
以下は、上記以外の近年の演出作品。

・『ザ・リアル・シング』2000年
 トニー賞 最優秀演出賞含む5部門ノミネート
・『背信』2001年(主演:ジュリエット・ビノシュ)
 トニー賞2部門ノミネート
・『屋根の上のバイオリン弾き』2004年
 トニー賞6部門ノミネート
・『ガラスの動物園』2005年(主演:ジェシカ・ラング)
・『シラノ・ド・ベルジュラック』2007年
 (主演:ケビン・クライン)
『ロミオとジュリエット』 2013年
 (主演:オーランド・ブルーム)

日本で不定期に開催される“俳優のためのマスタークラス”は、
多くの実力派、現役俳優が参加を希望する
人気のワークショップとして演劇界で有名。

前のページにもどる