糸井
ぼくは今、「古典に帰れ」というような、
学校をやろうと思っているんです。
渡辺
へぇー。学校ですか。
糸井
塾みたいなところで、
シェイクスピアをやろうと思ってるんです。
渡辺
シェイクスピア。
糸井
会社が終わってから集まれる場所を、
ぼくらなら作れると思ったんです。
“今ビジネスの役に立つ”みたいなことは、
皆さんおやりになっているんで、
ぼくらは1番役に立たないだろう
「学生の時にやっておけば良かったな」って、
老人になってから思うようなことをやろうと。
シェイクスピアと万葉集の学校です。
渡辺
素晴らしいですねぇ。
糸井
重役も来るし、OLも来ますよね。
渡辺
コミュニティーができますね。
糸井
カルチャーセンターでやっても人は来ないけれど、
ほぼ日がやれば、絶対に来ると思うんです。
絶対おもしろいですから。
渡辺
ああ、そうですね。
独特のブランドなのか、文化なのか。
糸井
万葉集を学ぶなんてものは、
20年経っても喜ばれると思うんですよ。
渡辺
ええ。
糸井
吉本隆明さんが昔言っていたんですけど、
人間が考えることの大半は、
だいたい4世紀までに全部出尽くしている。
あとは、応用編とかバリエーションに過ぎないと。
ちょっといいでしょう?
渡辺
素晴らしいですね。
達観していらっしゃる。
糸井
ぼくもそれを聞いてから、
あまり焦らないようにしたほうが
いいんじゃないかと思って。
あそこにあったね、という物の組み合わせなんです。
仕事で20年後のことを考えて、
より昔の人も感動するようなことを、
ぼくらは得意になっているんじゃないかな。
渡辺
我々には、文明力はあるかもしれないけど、
文化力はなかなか持っていないので。
糸井
じぶんの仕事場ができたような気がしています。
渡辺
羨ましいですね。
じつは今、我々が考えているのは、
日経電子版に50万人の有料の読者がいて、
無料会員が300万人いて、
さらに、日経BPと会員を統合したので、
あわせて800万人の方が、
「日経ID」というIDをお持ちになっています。
多くの人がビジネスパーソンでしょうから、
この人たちを支援するようなものを作っていかないと、
電子版も伸びていかないでしょうし、
日経新聞のコミュニティを考え直したいんです。
糸井
もっと、立体的に遊べますね。
渡辺
日経新聞の読者で終わるんじゃなく、
せっかく電子版によって
メーカーと顧客の関係になったので、
この関係を続けていけたら、
たとえ新聞を読まない人でも、
日経新聞がやったほうがいいものが
いっぱいあるんじゃないかって思うんです。
シニアになってからも日経新聞で繋がっていると、
過去を活かせることがあるじゃないか、
そんなことばかり夢想しています。
糸井
ワクワクしますね。
健康な夢想だと思います。
渡辺
だから、糸井さんのお話が
よく分かるんです。
糸井
ぼくと重なるものがありますね。
場所を作ることができるということは、
積み立ててきた信用だと思うんですよ。
ほぼ日は1番新しいという会社ではないけれど、
安心できて、なにか嬉しさがある。
だからぼくらは、コンテンツ屋さんとして
やっていけるんだと思います。
たぶん、日経新聞にもそういうものが
あると思うんですよね。
渡辺
ええ。
私の小さな経験ですけど、
日経電子版の購読者数が50万人にくる過程の中で、
流行りのものは、できる限り全部やろうとしました。
何を読んでいるかの分析をしていると、
日経新聞の中で振る舞う
お客さんの姿は見えてくるんですが、
やがて、その先が知りたくなるんですよ。
本当はどんな人なんだろう、と。
日経新聞とは違うところにいると、
どう振る舞って、どんな価値判断をするんだろう、と。
もっと人間っぽいところに興味があります。
人と人を繋げたらどうなるんだろうとか。
糸井
その仲間が、喜べることって
なんだろうっていうことですよね。
インターネットって、
そのためにあるのかもしれませんね。
渡辺
インターネットの本質は、繋がりじゃないでしょうか。
昔からやっているせいか、
ハイパーリンクの思想も繋がる。
情報も繋がっているし、
それと共に、人も繋がっているのが
表れている時代なんじゃないかと思いますね。
糸井
日経IDの800万人は、
少ないとも言えるし多いとも言えるし、
おもしろい数字ですね。
渡辺
ビジネスパーソンで言いますと、
働き手が何千万人かいる中で、会社の管理職予備軍が、
だいたい2千万人ぐらいの母数になるでしょう?
半分近くが会員、という意味では大きいですし、
人口から見たら800万って圧倒的に小さいですし。
良いか悪いか分からないですけど、
日経新聞って、常に微妙なバランスの中にいるんですよ。

(つづきます)

2017-05-27-SAT