- 糸井
- 日経新聞とか会社のことを考えた時に、
ぼくがちょっと探ったらおもしろいなって思うのは、
「経済」ということばについて、
人がどう感じているかという感覚なんですね。
経済っていうのは、何か得をしようとする心、
あるいは人を騙そうとする心、
あるいは命を失ってでも何かやらねばならぬと
思っている人たちっていう‥‥。
「ビジネス」という以上に、「悪」ですよね。
- 渡辺
- ある意味で悪、そうかもしれないです。
- 糸井
- どうも、「悪」ヅラしているわけです。
で、もうちょっとよく見れば「大人」です。
そのあたりにある「経済」っていうことばが、
ものすごく、つまらなくしていると思うんです。
- 渡辺
- あぁー、なるほど。
- 糸井
- 同時に、経済人とかビジネスの
まっただ中で活動している人は、
経済を考えない人のことを、バカだと思っているんです。
「お前ら、分かんねえからな」って。
だから、ぼくが社長をやっているっていうと、
「バカがやってることだから、俺が何か教えてやろう」
と思うみたいなんですよ。
それが、経済の持っている、ろくでもない側面です。 - 渡辺
- はいはいはい。
- 糸井
- 本当の経済は、人が生きていく
血液の循環をつくる仕事だと思うんです。
- 渡辺
- はい、はい、はい。まさに。
- 糸井
- ほぼ日が上場してから今、
「糸井さんの会社、株を買いたいと思ってるの」って
声をかけられたりするんですよ。
このしばらくの間っていうのは、
「経済」っていうことばの持っている意味を、
血液の循環にちょっとだけ一部が置き換えられ始めた、
というふうになるいい機会だと思ってるんですよ。
- 渡辺
- 確かにそうですね。
私はまさに近いことを感じたのは、
電子版が実は伸びたのって、
良いか悪いかは別にして、
東日本大震災の時だったんです。
- 糸井
- ああ、あるかもしれない。
- 渡辺
- 我々はあの震災の頃から、
電子版を真剣に取り組んでいました。
輪番停電と、あの時の東京の電車の運行情報って、
当時は、日経電子版にしかなかったんです。
「日経にある」ってツイートされて広まったのと、
おそらく、ご家庭で奥さんから
「新聞取ってもいいよ」って許可が出たんじゃないかと。
- 糸井
- 素晴らしい。
- 渡辺
- そのあたりから、経済と生活が、ぐんと近くなった。
今のインターネットの
広がっていく雰囲気が混ざって、
ちょっと新しいところに
来ているんじゃないかって思うんです。
- 糸井
- 概念が、よりプリミティブになっていった。
- 渡辺
- ええ。
お父さんのところにあった経済というものが、
子どもを含めてのところにまで、
色んな意味でなりつつあるのかなと思いますね。
- 糸井
- 家庭の中では、
お父さんが、経済とかビジネスのことで、
特権的に関わっていた時代が、あったわけですよね。
お母さんは経済のことが分からないかというと、
そんなこと、あるはずがないんです。
お父さんがゴミ出しをするようになったみたいに、
お母さんだって「その会社の企業理念は?」
みたいなことを言うようになったりして。
- 渡辺
- しかも今、両親にとって
子どもの就職が終着点みたいになっていますよね。
だから、経済の情報が整理されないまま
生活にぐーっと寄ってきているんです。
- 糸井
- 経済が、自然現象として寄ってきていますね。
この間、ひふみ投信の藤野英人さんと
よもやま話をしていた時に、
「働き方が明らかに変わってきている」
ということを話していたんです。
そこでぼくが、あえて約束手形として、
変化の日付けをつけられないかなと思ったんですね。
- 渡辺
- ほう。
- 糸井
- 藤野さんは、2021年だと言ったんですよ。
- 渡辺
- なるほど。
私はもともと理科系出身なので、
技術のほうに目が行っちゃうんですけど、
2019年に、ほぼ全ての技術が出そろって、
2020年が普及期になるんです。
- 糸井
- ああ、そうですか。
- 渡辺
- 日本は、オリンピックの前にある、
2019年のラグビーW杯が、
あらゆる技術の実験の始まりみたいな感じです。
スマートスタジアム、IoT、ファイブ・ジー‥‥、
2020年がピークになる一方で、
2021年になると、オリンピックも終わっています。
次の日本は何をするんだという
喪失感みたいなのがあるはずです。
- 糸井
- そこで変わり目が、
わりと見えてくるのではと。
- 渡辺
- ええ。
マイナスとプラスとが交錯する瞬間なので、
そこにはきっと、
潮目の変化はあるだろうなと思っています。
- 糸井
- 電子版の渡辺さんが考えているのは、
すごくおもしろいですね。
- 渡辺
- そんなことばかり考えているんです。
(つづきます)
2017-05-28-SUN