佐藤 |
環境や状況が変わると、
ずいぶんいろいろなことが変わる、
なんていうことを思うのは、
自分が独立したからだと思うんです。
ぼくの事務所はボロい建物を
リノベーションして
板を張っただけなんですけど、
それだけですごく変わったというか。
床を通して
「すべてを一望する場所」で
デザインをしているんです。
それからうちでは
すべてのMacを巨大なサーバにつなげて
データを共有化して仕事をしていますが、
バーチャルとリアルを
おなじにしようと思いました。
四階に棚があって、
そこにおいてある箱は「フォルダ」なんです。
KIRINの箱だったり、Smapの箱だったりして、
そこに全資料があるから、
誰が見ても絶対にわかる。
作るのはたいへんでしたが、
整理をしたらすごくいいですね。
五階の床にいろいろな仕事を
ばーっと並べると、
今なにをやっているのかが
ぜんぶわかるんです。 |
糸井 |
床が「デスクトップ」ってこと? |
佐藤 |
はい。
日本間みたいな考えかたです。
リアルのデスクトップを作ったんです。
やってみるとやっぱりおもしろくて、
事務所に合わせて
仕事のスタイルも変わりました。 |
糸井 |
そうでしょうねぇ。
ところで、
まだ見えていないものを考える時間は、
可士和くんにとっては、
どの時間なんですか? |
佐藤 |
「見えないもの」というのは? |
糸井 |
手が動きだしてからは、
昼でも夜でも
いつでも考えるでしょうけど、
その源になるようなものが
バーンと飛びだしてくるのは、
どんな時間なのかなぁと思いまして……。
たとえば
「これからの事務所をどうしよう」
とかいうことは、
どの時間に考えていますか? |
佐藤 |
事務所のことはもう……
二四時間、考えています。
|
糸井 |
(笑) |
佐藤 |
そういうタイプなんです。
幼稚園をやると決めたら、
ずーっと、考えています。
十個ぐらいのプロジェクトを
同時に考えていて、
机に向かうのは全然ダメなんですが、
頭のなかに散らばせておいて、
ずーっと眠らないで
考えつづけていていると連鎖します。
事務所を作れば
幼稚園のことを考えますし、
幼稚園でアイデアが出れば
別の仕事を考えますし。 |
糸井 |
きっと、
寝てる時にも考えているよね。
あるひとつの目で世の中を見ると、
それに関係のあることばかりに
見えてくるんですよね。 |
佐藤 |
そうなんです。
こちらでは見ているつもりでも、
見えてないことがほとんどですから、
あるフィルターをとおして見ると
「なんだ、アイデアだらけじゃん!」
と──。 |
糸井 |
「今まで、これをぜんぶ、
見のがしていたんだなぁ」
と思いますよね? |
佐藤 |
はい。 |
糸井 |
「これは特にいい考えだ」
と発表できるのは
特にこの時間だというのはあります? |
佐藤 |
ぼくは、人としゃべっている時です。 |
糸井 |
ということは、
まわりにいる人が誰かというのも、
大事なんだね。 |
佐藤 |
はい。
仕事の人選を
自分ができるかどうかは
すごく大事です。
仕事が進めば、
のちのち二人三脚になるのに、
歩幅が合っていない人と
いっしょにやるのは
めんどくさいですから。
組む相手はクライアントでもいいんです。
「楽天」の仕事相手は三木谷さんで、
三木谷さんは
いわゆるクリエイターではありませんが、
見方によっては
クリエイターみたいなものですよね。
|
糸井 |
「やりたいことが見えている人」だからね。 |
佐藤 |
はい。
彼がやりたいことを
ぼくがかたちにすることは
すごくおもしろいです。
二週間に一度、
定例会議をやっていますが、
一時間しゃべると、
そうとういろいろ話せます。 |
糸井 |
クリエイターと呼ばれない人たちの
クリエイティブが
仕事に影響しているというのも
「今」ですよね。 |
佐藤 |
クリエイターと組んでやる場合は、
相手にビジョンがない時だったり、
ビジョンはあるけど
会社が大きすぎたりとか……
「楽天」は大きいようでも
個人ですから一対一でやれます。 |
糸井 |
可士和くんは
「サムライ」
という事務所のスポンサーで、
そこで自分を雇っているわけだから、
いずれはぜんぶを
一対一でやりたくなるんでしょうね。 |
佐藤 |
ただ、いまのところは
まだ来た球を打つという感じなんです。
糸井さんは、自分で
メディアを持ってやっていますけど、
ぼくはまだ、
なかなかそこまでは行けませんね……。 |
糸井 |
ほんとにものごとが
イヤにならないかぎり、
人はそんなことやらないですからね。 |
佐藤 |
あ、そうですか。 |
糸井 |
ぼくは……ほんとうに、
イヤになっちゃったんです。
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佐藤 |
(笑)ほんとうに
イヤになっちゃったんですか! |
糸井 |
そもそも、
自分のメディアだとか、
自分の場を作るなんて
イヤなことでしょう?
北海道に屯田兵に行くと
決意した人が、キラキラと輝く瞳で
「ボク、がんばります!」
と言ったとは思えないんです。
やっぱりさ、
地元に帰っても
長男があとを継いでいて
自分は次男なんだとか、
もう女にフラれちゃったからとか、
きっとそれぞれなにかがありますよね。
まぁ、
ぼくなんかも典型的にそうなんですけど、
「こんな場所にこのままいたら腐っていく」
と心から思ったんです。
だからメディアを作ったわけで。 |
佐藤 |
そうなんですか?
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