芭蕉の句を待つまでもなく、
日本人から愛されて止まない 夏の風物詩。
「蝉の声」と聞くだけで、
あの幾重にも広がる鳴き声と夏の匂いで、
頭の中があふれてしまう人は少なくないだろう。
それほどまでに力強く、記憶に焼きついてしまう魔性の声。
蝉の声をきくと、私の脳裏にも夏のほろ苦い思い出が
甦ってくるのである。
三年前の夏の日、私は代々木上原駅の交差点で
信号待ちをしていた。
ボーッとしている私に向かって、いきなり小さな黒い影が
突進してきた。
なんだ蝉かと思った時、そいつは私の背中に
しっかり止まっていた。
道路の向こうにいた女子高生やOLがのけぞっている。
信じられないことに、その阿呆蝉は
私の背中で鳴き始めたのだ。
「ミーンミンミンミン・・」
私の額から冷や汗が滴り落ちた。
まずい! みんなが見ている。
平静を装い何とか追い払おうとするのだが、
ポロシャツに爪が食い込んでいるらしく
なかなか離れない。
米つきバッタのように上半身を動かすと、やっと
飛び立ってくれた。だが、すでに遅かった。
信号が変わり女子高生がこちらに向かってくる。
私の横を通りすぎると、二人は吹き出した。
「蝉、止まってたよね」。「鳴いてたよ」。
「あの人、木なんじゃない」。
「そうかもね、ブワッハッハッ」。
すみません、私は蝉に止まられた男です。
トントン。トントン。
裏木戸を叩く音がする。
「こんにちは、小林先生」
愛弟子の北小岩くんだ。蝉に止まられた男にも、
先生と呼び慕ってくる男はいる。
彼は私に顔を近づけると、大きな声で問い掛けてきた。
「先生、臭いおならと
臭くないおならがあるのは
なぜですか?」
北小岩くんの質問は難解だ。
真剣になると私は関西弁になり、舌鋒が鋭くなる。
赤い靴はいてた女の子
ひいじいさんに連れられて
行っちゃった
かなり大きくなるまで、私は赤い靴という曲の歌詞を、
このように間違えて記憶していた。
だから、ひいじいさんというのはかわいい
女の子を連れ去ってしまう
恐ろしい人なのだと信じていた。
本当の歌詞が「異人さんに連れられて」であると知ったと時、
その恐怖は異人さんへと移っていった。
異人さんとはそんなに恐ろしい人なのだろうか。
否。ここに異人さんのやさしさを伝える
ひとつのエピソードがある。
横浜での友人の結婚式の帰り、
私は東横線のシートで軽い余韻を楽しんでいた。
その時、車内が一瞬ざわめいた。
レーガン元大統領にそっくりな巨大な
アメリカ人が乗ってきて、
私の横に座ったのだ。
レーガンは黒い鞄の中からウォークマンを取り出した。
そのウォークマンにはなぜかふたつのイヤホーンが。
異人さんは一つを自分の耳にセットすると、
車内に轟く声で「YOU! 」と言って私にイヤホーンを
手渡した。
乗客が固唾を飲んで見守る中、指名されてしまった
私はおそるおそるイヤホーンをつけてみた。
稲妻のような衝撃が耳に飛び込む。
そこにはベートーベンの
交響曲第9番「喜びの歌」の
大合唱が高らかに流れていたのだ。
やっと終わったと思ってホッとすると、
再びオートリバースで「喜びの歌」が始まった。
異人さんと私は何度も「喜びの歌」を聴きながら、
渋谷までの長い時を過ごした。
駅に着くと彼は神父のように微笑み、
うなずきながら去っていった。
トントン。トントン。
トイレの窓を叩く音がする。
「こんにちは、小林先生」
愛弟子の北小岩くんだ。
彼は時と場所を選ぶことを知らない。
「先生、人間の毛は大切なところに
生えてるって本当ですか?」
北小岩くんの質問はあまりにも鋭い。
まだ用を足している途中だが、真剣に答えねばなるまい。
先生「剃刀のような質問やで、北小岩。
人間に限らず、毛は大切なところに生えとる。
だから、大切だと思ったところには、
毛を生やせばいいんや」
弟子「先生、意味がよくわかりません」
先生「例えば表札が大切だと思ったら、
こういう風に生やせば
大切なものだとわかるやろ」
弟子「なるほど」
先生「急須が大切な人は、こんな風に
生やしとこうや」
弟子「ありがとうございました。
ンッ?先生の大切なところの毛、
やけに長いですね。
30センチはありますよ」
先生「これは獅子のたてがみや!
世のおなごはんにここが命と等しく
大切なところと知らしめるために
ズラつけとるんや。
お前もちまちませんとドバッと勝負したらんかい」
弟子「はい、勝負させていただきます」
先生「うむ」
弟子との問答を異人さんに理解させるのは不可能であろう。
今、私はフランスのトゥールーズにいる。
仕事を兼ねてワールドカップの応援に来ているのである。
「日本VSアルゼンチン」
日本で毎日報道されているように、入場券が圧倒的に
不足している。旅行会社の人から聞いたのであるが、
数日前、某旅行会社の社員が
1千万円入ったアタッシュケースを抱え、
おそらくカテゴリーワン(一番高い席)の
チケットだと思うが、
9枚を1千万で買ったという話である。
スタジアムに向かう道では、チケットを
持っていない人が、ダフ屋から買おうとして
行ったり来たりしている。
もちろんダフ屋はフランスでも違法行為なのであるが、
警官は警備はしていても
積極的に逮捕しようとはしていない。
ダフ屋らしき人に「券、持ってる?いくら?」と聞くと
6千フランと答えた。
今日現在1フランは約27円なので
16万2千円ということになる。
(私が来る前や試合開始後ハーフタイムあたりには
2千フランくらいまで落ちた時があったらしいが)
それはさておき私たちは4人で行動しているのだが、
2枚しかチケットが手に入らなかった。
もうすぐキックオフ。
4人とも意識的にそれに触れなかったのだが、
そろそろ事をはっきりさせなければならなかった。
思わず最年長のOさんが口火を切った。
「ジャンケンで決めようか」
残りの3人が真剣な面持ちでうなずく。
「ジャンケンポン」
まぬけな声がトゥールーズに響く。
3人は固まったままのグーを突き出した。
なぜかチョキをだしてしまったOさんが
ウオーと雄叫びをあげてそのまま地面にしゃがみこんだ。
「いいよみんな 、行ってきなよ。」
やさしい口調ではあるが、
Oさんはチョキの形の指で地面のアリを突き指するほど
力を入れて潰しているのを私は見逃さなかった。
次のジャンケンで一番若いSくんが負けた。
Sくんがドライフラワーのように
しおれていくのがわかる。
こういう場合、中途半端ななぐさめの言葉など
かけてはならない。
チケットを受け取った私とHさんは
残された二人に何の言葉もかけずに、
スタジアムへ走った。一度も振り返らなかった。
いや、振り返れなかったのである。
ジリリーン。ジリリリーン。
私は朦朧とした意識の中で受話器を取る。
「こんにちは、小林先生」
北小岩君から国際電話だ。時計をみるとまだ午前4時である。
北小岩君は地球に時差があることをよく知らない。
北小岩「先生、W杯にはモロッコも出てますよね」
先生「ああ」
「モロッコで性転換をする方が
いらっしゃいますが、
切り落としたおちんちんは
どうするんですか。
わけていただけませんか?」
先生「あかんな。北小岩。
モロッコでは何万本ものちんちん集めてな、
海に沈めとくんや」
弟子「浮かんできてマグロが食べたりしないんですか」
先生「浮かんでこんようにな、
金でできた玉を結びつけとくんや」
弟子「美しい風景ですね」
先生「おう。一年もするといいナマコができあがる。
酢漬けにして食べるとコリッとしてうまいで」
弟子「先生は食べたことあるんですか」
先生「まだや」
弟子「ありがとうございました」
先生「うむ」
全く関係ないことだが、
ホテルのロビーに加茂前監督がいた。
その四・・・「夢十夜」
夏目漱石の短編に夢十夜がある。
そこには十の荒涼たる夢が描かれている。
漱石の孤独はあまりに深い。
漱石と生きる時代は違うが、これは私の夢十夜である。
小学生の頃、こんな夢を見た。
目を覚ますと、全裸の女が横たわっている。
肌は吸い込まれるように白い。
くびれた腰の先から、形のよい細い足が伸びる。
なだらかな軌跡を描く弾力のある乳房。
齢は二十ほどか。
美しい女は手招きする。
私はご馳走を味わうように、女の全身を眺め回す。
目は花芯へと釘付けになる。
むっ。あるべきはずのものがない。
いや、ないのではない。
そこが遠眼鏡(望遠鏡)になっているのだ。
「ここをのぞきなさい」。
天女に導かれるように、遠眼鏡を覗きこむ。
さてはこの中に。
だがそこに女のやわらかな蕾はなく、
広がっているのは初春の山だった。
私は遠眼鏡を強く握りしめると、
山の中にあるはずの女陰を探した。
遠景の山が、少しづつズームしていく。
もう少しだ。木の輪郭が見えた。湿地帯はこの奥か。
さらに風景がズームしていく。
あっ、ウグイスだ。目が会った。
するとウグイスはアホを見下すような
目つきになった。
「アホーホケキョ」。
一声鳴くとウグイスは飛び立った。
山にはいつまでも
「アホーホケキョ」がこだましていた。
「先生、散歩に連れていってください」
弟子の北小岩くんがやってきた。
たまには風に吹かれてみるのもいい。
私たちはあてどなくバスに乗る。
行き先を決めずにバスに乗るのは、都会の上質な旅である。
北小岩くんが深刻な顔をしている。
「どうしたんや、北小岩」
「先生、私はバスに乗るのが
大好きです。
バスがけなげに
働いているのを見ると、
ホロリときます。
だけどなぜバスは
こんなにけなげに働くのですか」
先生「成長したな、北小岩。
ここだけの話やが、バスの親玉には
『ボス』というヤツがおるねん」
弟子「強そうな方ですね」
先生「こいつがえらいワルなんや。
その上、とてつもなくでかい」
弟子「どのくらい大きいんですか」
先生「普通のバスがこれくらいやと、
『ボス』はこれくらいやな」
弟子「うげっ!」
先生「でかすぎて道を走ることができん。
だからバスにごっつう働かせて、
上前をはねとんや」
弟子「知りませんでした、先生」
先生「勉強せいや」
二人を乗せたバスは交差点を右折し、夢の島へと直進した。
その伍・・・「師、曰く」
私には何人か師がいる。
だが、最も印象に残る一言を残してくれたのは、
この男だと思う。
師、曰く・・・。
小沼監督。
あのサッカーの強豪帝京高校を率い、
何度か全国優勝に導いている闘将である。
とんねるずの木梨憲武氏も師の教え子だ。
大学の体育の授業はいくつか選択肢があり、
私はサッカーを選んだ。
大学は特別講師として小沼監督を招いていた。
師はおだやかな微笑みを浮かべグラウンドに現れた。
温和な顔だちの奥底に闘志がみなぎっている。
こういう男こそ勝負に対しストイックなものだ。
授業は試合を中心に行われた。
その日は炎天下。
先に試合を終えた奴らは上半身裸になり、
ホースで頭から水をかぶっていた。
点を取られたらすぐに取り返すという一進一退の攻防。
FWをしていた私は、
右サイドから切り込みゴールを目指した。
目前にDFが迫る。
グニュッ。
足を取られて転がりそうになった。
何とか体勢を立て直すと、
ゴールに思いっきり蹴り込んだ。
ボスッ。
鈍い音を立てボールはキーパーへ。
「くそっ、正面だ」
ボールはそのままキーパーの腹にねじ込まれた。
長いホイッスルが響く。
小沼監督が恐ろしい形相で私の所に駆けてきた。
「君だよ、君!
あそこでウンコ踏んだね!!」
足をとられたのは、ウンコを踏んでしまったからだった。
小沼監督はこれ以上ない微笑みを浮かべ、たたみかける。
「ウンコ、キーパーにべっとりだよ〜ん。
ウンコウンコ」
興奮してわけがわからなくなって来た。
「ウンコだウンコ。君!ウンコ!!」
監督・・・・・・。
俺はウンコじゃありません。
キーパーは寂しげにシャツを脱ぎ、
私は靴を洗いに走った。
パラパラパラッ。
動物図鑑を熟読していた北小岩くんが顔をあげた。
「カンガルーの
赤ちゃんて、
お母さんの袋に入って
気持ちよさそうですね。
私も入りたいです。」
先生「よく見てみい、北小岩。
袋に入っているのは、こんな形をしたおもちゃなんや。
それをダミーでいれてるだけや」
弟子「では赤ちゃんはどこですか?」
先生「お母さんのケツの穴に隠れとる。
だいたい、あんな目立つところにいたら、
外敵にやられてしまうやろが」
弟子「カンガルーもよく考えているんですね」
先生「うむ」
持つべきものは師であろう。
その六・・・大相撲
オリンピックにもう一つのオリンピック
「パラリンピック」があるように、
夏の甲子園にもう一つの甲子園
「定時制高校野球大会」があるように、
大相撲にはもう一つの大相撲「日本陰毛相撲」がある。
私は日本陰毛相撲協会の初代理事長である。
陰毛相撲といっても、まだなじみが薄いかもしれない。
それは男の矜持、能力、精力、
タフネスが掛け値なしに問われる
男たちの魂の戦いなのだ。
ルールを説明しよう。
力士は土俵でおもむろに自分の陰毛を引き抜く。
陰毛を天然のあら塩で丹念にしごきあげる。
御神酒に浸して清める。
酒滴をシルクでぬぐい勝負は始まる。
子供の頃、クローバーで引っ張りっこをした人も
多いと思うが、それを想像していただくと
分かりやすい。
力士はお互いの陰毛を爪先で持ち、
引っ張りあって切れたほうが負けである。
お情け無用、負けた陰毛はその場で焼かれてしまうのだ。
これは実際に戦ったものにしかわからないことなのだが、
敗者の屈辱感は想像を絶する。
男としてのプライド、性的能力、いちもつの価値、
今までの性遍歴など、
すべてが打ち砕かれてしまうほどの
敗北感にさいなまれる。
第一回日本陰毛相撲大会は、
横浜にあるS江氏宅で行われた。
参加力士16名。
いずれも陰の毛に技をもつ強者ぞろいだ。
会場につくと、S江氏が情けない声でつぶやく。
「今日来れない人がいてさあ、陰毛だけ封筒に入れて
送ってきたんだよね。
仕方がないから冷蔵庫に入れて
保管してあるんだけど・・・・」
あるまじきことである。
織田信長ならその場で陰毛の首をはねているところだろう。
本来ならその場で焼き払うのが妥当だが、
第一回ということもあるので
特別に代理の力士を立てて参加させた。
男たちの死闘が始まった。
プチッ。
「うげげげげ〜っ」
陰毛を切られた者たちの断末魔が響く。
市場に売られていく子牛のような瞳で、
敗れた陰毛が焼かれるのを見つめる。
戦いに敗れた者は向こう一年間
「弱毛(じゃくもう)」のレッテルをはられ
蔑まれてしまうのだ。
決勝はF栄氏とS田氏の戦いになった。
F栄氏はやせ型の色男なので強靱な陰毛の生やし手とは
思われていなかったのだが、
1回戦敗退との下馬評をくつがえす快進撃。
負けたかと思うといつの間にか相手を切っている
土俵際の毛魔術師である。
S田氏の毛はいくぶん赤味があるので「赤毛」
と呼ばれ恐れられた。
決勝の軍配が上がった。両者がっぷり四つ。
爪先に力がはいる。
ツルッ。
F栄氏の指から陰毛が抜けた。
陰毛は滑りやすい。
その場合は「すっぽぬ毛」 ということで取り直しだ。
「すっぽぬ毛」は3回で まぬ毛となり負毛となる。
再び行事の軍配が上がる。
むっ、赤毛寄り切りか。両者息をこらえ、額に青筋がたつ。
プチッ。
追い詰められていたF栄氏が赤毛を断ち切った。
初代優勝者はF栄氏に決まった。
おめでとうF栄氏。あなたは猛々しく戦いぬいた。
そして敗れていった者たちよ。焼かれていった陰毛たちよ。
君たちも真の勇者だ。
この凄まじき戦いを私は一生忘れることはないだろう。
「先生、陰毛相撲はもうやらないのですか」
若乃花を応援していた北小岩くんが力を込めて言う。
「また、機が熟したらな」
だが、第二回陰毛相撲大会は開かれないまま
8年の歳月が流れている。
その七・・・男の約束
そいつは乱暴ものだっだ。
盗み癖があった。
恐喝をしていた。
誰も近づかなかった。
だけど、嫌いではなかった。
放課後、担任の女教師に呼びだされた。
「知ってると思うけど、Kくん補導されたのよ。
昨日、じっくり話したの。
友だちがいなくて寂しかったんだって。
誰に友だちになってほしいか聞いてみたのよ。
小林くんが友だちになってくれたらうれしいって。
あなたは学級委員だし、
しっかりしてるから、彼のこと頼むわね」
それからしばらくの間、彼と行動をともにすることになる。
連れションをしたり、
給食を一緒に食べたり、算数を教えたり。
彼は私にだけは心を開いていたし、
私も感じたことはすべて彼にぶつけた。
そして、いつでも彼を笑わせた。
「欲しいものがある」。
彼は突然耳打ちをする。私は思わず苦笑いをした。
「いいよ、わかったよ。特別だそ」
大きな木片を使いそれをつくって渡した。
「これは先生には見せないことにしよう。男の約束だな」
二人は指切りをした。 翌朝、担任はドアを開くなり、
殴り掛かるような剣幕でどなり立てた。
「小林、前へ出ろ!!!!!」
手には例の木片を持っている。
許可証 K様 あなたが女のお○んこをもんでもよいことを、 お○んこ大臣 小林秀雄 |
「何だ、これは!! この○を埋めて、
大声で読んでみろ!!!」
うつむくしかなかった。
担任は1メートルの物差しで頬を強く張った。
仕方ない。読もう・・・。
「言ったな! 言ったな! 小林!!
その札を首から吊して廊下に立ってろ!!!」
1時間近く、遠い目をして立っていた。
チャイムが鳴ると他のクラスの奴までが
ニヤニヤしながら近づいてきた。
Kくんも教室から出てきた。
ニヤニヤしている。
彼は許可証を印籠のように使い、
本当にもんでしまったらしい。
そして、担任に詰問され、
許可証を渡してしまったのだ。
男の約束はどこへ行ったのだ。
彼が心を開き、私も心を開き交わした
男の、あの男の約束は・・・。
翌日、新しい学級委員を選ぶ投票があった。
「先生、暑くなったり寒くなったりして、
知恵熱を出しそうですね」
弟子の北小岩くんがいう。
「トイレに入ると、たまに前の人が
うんこを流し忘れている時があります。
どうしましょ?」
先生「時間に余裕があるようでしたら、
交番に届けてください」
弟子「先生、今日はさらっとしてますね」
先生「はい。もしも時間がない場合は、
踏むようにしてください」
弟子「わかりました」
小林先生は紙を使いすぎて
学校のトイレをあふれさせたこともある。
その八・・・蝶
庭の山椒の葉に、アゲハ蝶が卵を生んだ。
夏の光を反射して輝く、小さな黄色い真珠。
家で孵化させ、大空に羽ばたくまで見守るのもいい。
しばらくすると、
卵から黒ゴマのような小さな幼虫が出てきた。
何度か脱皮を繰り返し、青虫となった。
一匹は青ちゃん、二匹目はいもちゃん、
三匹目はハゲちゃんと名付けた。
体には不釣り合いな量の葉をたいらげ、グイグイ成長した。
葉を食べなくなり、動きが緩慢になり、
そしてサナギになった。
あと何日で蝶になるのであろうか。
「大変です!小林先生!!」
弟子の北小岩くんが青ざめた顔で部屋に入ってきた。
「サナギが全部、下に落っこちてます!」
見ると梅雨の強い雨や風にも負けないであろうはずの
サナギの糸が切れ、三匹とも下に落ちもがいている。
サナギは固くて動かないように見えるが、
このような危機に直面すると必死に体を動かすのだ。
弟子「どうしましょう、先生」
先生「前に多摩動物園に行ったときに、
昆虫館があったやろ。
そこに電話してみい」
弟子「もしもし、昆虫館さんですか。
私、北小岩というものですが
落ちちゃったんです」
昆虫館「どこから落ちたんですか」
弟子「カゴからです」
先生「アホ、かわってみい。
お忙しいところ申し訳ありません。
私、小林と申しますが、
家でアゲハの幼虫を飼育しておりまして、
サナギになったのですが、
糸が切れて下に落ちてしまいました。
このような場合、どうすればよいのでしょうか」
昆虫館「厚紙を用意して小さな円錐を作ってください。
円錐を縦に切り、45度の角度に
固定して、サナギを寝かせるように
おいてください」
先生「助かるのでしょうか?」
昆虫館「サナギはすごくデリケートなんです。
落ちたショックで死んでしまったりします。
環境の変化にすごく弱いんです。
とにかくすぐに円錐を作って、
できるだけやさしくやさしく動かしてください。
運がよければ助かるかもしれません。
これからは、サナギになったら
カゴを静かな場所に置いて、
絶対衝撃を与えてはいけません」
先生「衝撃のないところに置いておいたのですが」
昆虫館「そうですか。どうして落ちたんですかね。
とにかくすぐ助けてあげてください」
先生「わかりました。ありがとうございました」
急いで円錐を作り、サナギを寝かせた。
その後、青ちゃんといもちゃんは無事に
蝶になることができたが、
ハゲちゃんは残念なことにサナギのまま
干からびてしまった。
でも、なぜ急に糸が切れてしまったのだろう。
弟子「先生! サナギが落ちたのは
『どぶ川のながれのように』の
不幸を呼ぶ女の人の顔写真をアップにしてしまった
後じゃないですか」
先生「そっ、そうや! おっ、恐ろしいこっちゃ。
でもな、男たるもの
どんな時にも堂々とせなあかんで」
弟子「でも、何で先生は股間を握りしめているのですか」
先生「やっ、やっぱな。
そうは言っても、ここだけには不幸が
来てほしくない。
勘弁してや〜」
目覚ましの時計の電池が 切れたので、
買ったばかりの電池を入れたが
時計は動かなかった。
他の時計にその電池を入れかえてみたが、
やはり時計は動かなかった。
買ったばかりなのに、
電池の容量がなくなっていたのだ。
売れている店で買ったのに。
今時そんな話って。
もしかして、あの写真の女の人が電池の容量を・・・
(怖)。
まだ、ささやかな前兆だが、
もしかして第三の大きな波がそこまで来ているのでは。
小林先生は、『どぶ川のながれのように』の
連載継続のアンケートを◯にしてしまったことを、
本気で後悔し始めている。
その九・・・風に吹かれて
突然、紙をグシャグシャに丸めたようなしわがれ声が、
ラジオから流れてきた。
♪〜The answer is blowin` in the wind
心の中に一陣の風が吹いた。
ボブ・ディランの「風に吹かれて」を聴いてから、
私はいつでも形にならない答えを、
風の中に見つけようとしてきた気がする。
答えは風の中に彷徨っていて、
いつの日かそれを手にすることができるのだと。
そして、その日は朝から風が吹いていた。
トイレに入ると、いつの間にか風に吹かれての
メロディを口ずさんでいた。
便座に座り、指先でトイレットペーパーの
フタを叩きリズムを取る。
体の中に心地よい風が吹く。
そして心地よい便が出る。
気分は最高潮に達していた。
トイレットペーパーをカラカラ伸ばす。
なぜか、こんな歌詞に変わっていた。
♪〜このままトイレットペーパーを伸ばしたら
どこまでたどり着けるのだろう。
友よ、その答えは風の中に舞っている。
すぐに尻をふき、再びトイレットペーパーを伸ばすと
トイレのドアを開けた。
途中で千切れないように細心の注意をはらいながら、
廊下を歩く。
ホッ、玄関までたどり着いた。
草履をつっかけ玄関のドアを開く。
「トイレットペーパーくん、
外の空気はどうですか」
トイレットペーパーが愛しく思えてきて、
思わず話しかけてしまう。
細長い庭をぬけ、門まで進む。
今までは、海に例えれば湾の中である。
波もおだやかだ。
だが、これからは違う。
何が待ち受けているかわからない大海だ。
未知の世界へ漕ぎ出すのだ。
心構えはいいな、トイレットペーパーよ。
心を引き締め道路に出る。
もう、トイレから30メートルは経過している。
トイレットペーパーも、千切れずにがんばってついてきた。
このまま二人で新しい世界へ旅立とう。
その時だった。
強い風が私たちを急襲した。
トイレットペーパーは引き千切られ、
昇り龍のように空へ舞い上がっていった。
「トイレットペーパーくん!」
叫んでみたが、後の祭りだ。
トイレットペーパーは電線まで一気に吹き上げられ、
大蛇のように絡んでしまった。
しまった、うちの隣家の電線だ!。
隣家のおやじは雷おやじとして町内で恐れられている。
見つからなければよいが。
と思ったときには、すでにおやじは私のそばに立っていた。
「何してるんだ!
あんなものを電線にひっかけて。
子供が正月に凧を引っかけるならわかるが、
どうして電線にトイレットペーパーを引っかけるんだ!!」
「すっ、すみません」
何とかしてとれないかと思うのだが、
7メートル上空の電線だ。
「恥を知れ、恥を。それが大人のすることか!!」
いえ、大人に限らず子供でもしません、そんなこと。
風さえ吹かなければ、
こんなことにはならなかったのに。
Blowin` in the wind.
ディランよ、本当に答えは風の中に舞っているのかい?
だが、風の中に舞っているのは、
ふんどしのようになさけなくぶら下がった
トイレットペーパーだけだった。
「先生、すみません。
大便をしてお尻を拭いているのですが、
トイレットペーパーが
無くなってしまいました。
申し訳ありませんが、
隣の家から
借りてきていただけないでしょうか」
弟子の北小岩くんがトイレで叫んでいる。
先生「絶対にいやだ!」
弟子「そんなせっしょうな!」
師の心、弟子知らずである。
その拾・・・漂泊の思ひ
漂泊の思ひやまず。
未知の大陸への憧憬つのるばかり。
その思いが心の膜を突き破った時、
私はアフリカへと旅立った。
二十代最後の年。
アフリカは遠かった。
ケニアの首都ナイロビに到着した時には、
成田を発って三十時間が経過していた。
いつの頃だろう、サバンナに憧れたのは。
自然と共生する野性。
弱肉と強食のせめぎあい。
すべてが雄大で、そして過酷だ。
ナイロビからマサイ・マラまで、
ワゴン車は土煙をあげてひた走る。
しばらく行くとスコールに見舞われた。
深いぬかるみにはまり込み、
タイヤはあえぎ声をあげ空回りした。
私たちは外に降り、車を押した。
びくともしない。二時間経過する。
マサイ族の女が、しゃがみこんでボーッと作業を見ている。
運よく通りかかったトラックにロープで牽引してもらい、
やっとのことでぬかるみから這いだすことができた。
「これがアフリカンスタイルだよ」
ケニア人の案内人オウマ氏がつぶやく。
マサイ・マラ動物保護区に到着した。
「あっ、あそこに象の群れがいるよ。見てごらん」
オウマ氏が教えてくれる。
だが、私には地平線しか見えない。
その方角に向かいしばらく走ると、
四十頭ほどの象の群れがいた。
オウマ氏の視力は、6.0くらいあるようだ。
サバンナには象やライオンが
うじゃうじゃいるような気がするが、
実際には総数が少ない上にひとつの国立公園が
大阪府や神奈川県ほどの大きさがあるので、
案内人がいないとなかなか巡り会えない。
オウマ氏は陽気だ。
話をしているとすぐに時間がたってしまう。
「私の部族はね、いろいろなものを大切に受け継ぐんだ。
もしも兄が死ぬとするでしょ。そうすると財産はもちろん、
兄のお嫁さんや子供たちも弟のものになるんだよ」
うむむな話だ。
「ケニアには『飢えたライオンは草を食べる』
という諺がある。
ライオンって肉だけしか食べないと思うでしょ。
でも獲物が捕まえられなくて
ほんとにどうしようもなくなると
草も齧るんだよ」
日本の諺の『背に腹はかえられない』
というところだろうか。
それから、
フラミンゴが何キロにも渡り湖面をピンクに染める
ナクル湖を訪れたり、
気球に乗ってサバンナをはるか上空から眺めたりした。
キリマンジャロの山麓に広がるアンボセリ国立公園で
最後のサファリを楽しみ、旅もクライマックスを迎えた。
「すみません。トイレに行きたいんですが」
サファリカーに同乗していた美人姉妹のお姉さんが
オウマ氏に言った。
「ここにはね、凄く美しいトイレがあるんだ。
もう少し走るとそこに着くから、ちょっと我慢してね」
10分程走ると、オウマ氏は運転手に止まるように指示した。
「さあ、着きました。どうぞ」
どうみても、そこにはトイレはない。
サバンナのど真ん中である。
「ここは自然のトイレだよ。私からみんなへのプレゼント。
いい思い出にしてね」
なるほど、この広大なアフリカの大地で立ち小便をする。
こんなに素晴らしい体験が、他にあるだろうか。
私は車を降り、いい立ち小便ポイントを探した。
美人姉妹も、いい座り小便ポイントを探した。
サバンナは草が多いので、いいポイントがたくさんある。
だが、あまり車から離れると、ライオンに襲われ
餌食になってしまう可能性があるので、美人姉妹と私は、
背の高い草を隔てあまり離れていない場所で小便をした。
サバンナで立ち小便。
そして、草の向こうでは美人姉妹が座り小便。
ああ、こんなに気持ちいいことがあるだろうか!
私は一気に放水した。その時だった。
「ガオーッ」
恐ろしい声がサバンナに轟いた。
小便が急停止した。慌てて声の方を振り向いた。
そこにはオウマ氏が笑いながら立っていた。
「ゴメンゴメン。ジョーダン、ジョーダン」
だが、冗談ですますには、
ライオンの鳴きまねがリアルすぎた。
前を見ると美人姉妹もびっくりして立ち上がっている。
草の上から、二つの顔がひょっこりのぞく。
目があった。
そして、姉妹は目をそらした。やめてよ、オウマさん。
こんな時に冗談かますのは。
俺、美人姉妹にチンポ見られちゃったじゃない。
度胆を抜かれ、私はポコチンをしまうのを
忘れてしまったのであった。
美人姉妹と私は、あえて何事もなかったかのように車に戻った。
車は再び土煙をあげてナイロビに向かい、
私のアフリカ旅行は終わった。
漂泊の思ひやまず。
チンポを見られた心の痛み癒えず。
その拾弌・・・枯らす男
世の中には、絶対に敵に回しては
いけないタイプの男がいる。
やさしく見えるからといって、侮ってはならない。
例えばこんな男。
S木さん、48歳。
顔はマルクス兄弟のグルーチョ・マルクスそっくりだ。
巨根男優、故ジョン・ホームズさんにも似ている。
世田谷の高級住宅街に住み、
奥さんは赤坂のビルオーナー。
一見柔和な紳士である。
だが、この人を敵に回すと、
1年後に悪夢を見ることになる。
小林 「S木さん、気にいらない奴がいると、
まだあれやってるの?」
S木 「あれは昔の話だよ。だって、一番最近やったので、
もう2、3年前だよ」
2、3年前ならついこの間のことではないか。
S木さんは気にいらない奴がいると、
そいつの家の木に毎日小便をかけ続け、
ついには枯らしてしまうという
恐るべき執念の持ち主なのである。
小林 「何が気にいらなかったわけ?」
S木 「隣人のくせに顔を合わせても挨拶ひとつしない。
ゴミの出し方も悪い。ほんとに腹がたつ。
しばらくするとたまってくるんだよ。
俺、人間が内気なもんだから、
強気にはでられないんだ」
強気にでてもらったほうが、よっぽど幸せだ。
では、いったいどんな木を枯らすのだろう。
S木「大切にしている木だね。柿の木が多かった。
太さは腕ぐらいかな。幹が10センチぐらいなら、
1年で確実に枯らすことができる」
自信たっぷりに言い放つ。
S木 「小便を1年間、ズーーーッと、
ズーーーーーーーッと 同じ所にかけ続ける。
夜だね。
まっすぐ当てるとジャーッと音がするから、
木に沿ってナナメに当てるようにするんだ」
何か、怪談話を聞いてるような、怖い気分になってきた。
S木
「コーヒーポットに入れてかけるのも効果的だよ。
1日1回じゃダメ。毎日3、4回やるのがコツ」
そんなろくでもないことにも、やはりコツはあるのだ。
S木
「まず、周りに生えた雑草がだんだん枯れてくる。
成果が手に取るようにわかる。
次の年にはもう柿の新芽がでないんだよ。
それでおしまい。腐って枯れちゃうんだ」
庭の木にやられているうちはまだいい。
これを家の柱にでもやられたら、
白アリよりもよっぽどやっかいだ。
この人なら、30年くらいかけて
小便でコンクリートも溶かしてしまうだろう。
憎まれたら最後、
クルマも家も土地も確実に腐らされてしまうのだ。
小林 「それでどんな気分なの?」
S木 「勝ったと思うね。俺の勝ち」
そんなことでも、勝ちというのだろうか。
ところで、今までに何本の木が犠牲になったのか。
S木 「そんなにやってないよ。まだ、5、6回ぐらいかな」
5、6回もやればもう十分。うーむ、きっと他にも
絶対何かやったはずだ。
S木 「あまりいいたくないんだけど、
人の家に行って頭にきたから、
洗面台の流しに小便して帰ってきたことも
あったよ」
敵に回してはいけない男・・・・。
いや、敵に回していないだけで
安心してはいけない。
そうだ!イヤなことを思い出した!
以前、銭湯に行った時、
背中を流してくれるといったので
好意に甘えたのが悪かった。
「ボディ洗い!」と叫ぶ声が
聞こえたかと思ったら、
背中にぶにょぶにょの
ゾッとするような感触が走った。
見るとS木さんは自分の玉金に
たっぷりと石鹸を塗りたくり、
それで私の背中をぐにょぐにょと洗っていたのだ。
子供がかわいいおちんちんで
無邪気にやっているのではない。
その時すでにS木さんは40歳を超えていた。
分別のある大人でなければならない年齢だ。
それからしばらくの間、
私はエイリアンが背中にくっついて、
フナ虫のようにグルグル動き回っている悪夢にうなされた。
その拾弐・・・異種格闘技
「御免!」
胸板の厚いがっちりした体躯の男が、玄関に立っている。
「私は北小岩の父です。
いつも息子が大変お世話になっております」
弟子の北小岩くんの父が、岩手から挨拶に訪れたのである。
「よくいらっしゃいました。奥へどうぞ」
「ありがとうございます」
北小岩くんは今、修行の旅に出ていて不在である。
「先生のお話、いろいろとうかがっております。
日本文学史に残る立派な先生から教えをいただき、
息子も本当に幸せです。
今、書店で先生の作品を買わせていただきました。
『無常といふ事』、『考えるヒント』、
『本居宣長』・・・。
素晴らしき著作の数々。弟子の父親として、
誠に光栄の至りです」
「あのう、それは私の著作ではなくて・・・」
「なんでも、中原中也氏とも親しかったそうで」
「えっ、いえ、まあその・・・」
北小岩くんのお父さんは、完全に人違いしている。
「私は武道一筋に生きてまいりましたもので、
世間のことはよく知りません。
ですが武道なら空手、剣道、
柔道を始め、あらゆる道に精進してまいりました。
現在、計35段を修めております」
「それは立派なことです」
「ところで先生は、 武道の方は?」
「いえ、武道は小学生の時に
町内会で剣道を少し習っただけで。
そうですね、あまり自慢できませんが、
得意技は下ネタですかね」
「シモネタ? うーむ、聞きなれない名称ですね。
それはロシアの武道ですか?
どのような技を使うのですか?」
北小岩くんのお父さんは、とんでもない勘違いをする。
「いや、それほどのものは。
しいて言えば、人を苦笑いさせるぐらいですかね」
「それは究極の武道だ!
戦いの果てに、相手を苦笑いにまで持っていくとは。
ぜひ、この場で『空手対シモネタ』のお手合わせ、
お願いいたします!」
お父さんは、完全に下ネタを武道と信じてしまっている。
「あのう、また日を改めて」
「いえ、鉄は熱いうちに打てと申します。
シモネタの奥義、拝見させていただきます」
怖くて、今さら冗談などとはいえない。
エイッ、一か八かだ。
先生「では私からいきます。『旅のマスはかきすて』!!」
弟子父「?????」
まったく動じないようだ。
先生「では『尺八売りの少女』!
『寝る子のアソコは育つ』!!」
弟子父「はあ? いきますぞ先生、渇ッー!」
危ない!凄まじい速さの手刀が襲撃してきた。
うわ〜。バキッ、ボコッ。
弟子父「しまった。あれっ? ぬけない。エイッ、こらっ!」
お父さんは力みすぎて手元を狂わせ、
渾身の力で振り下ろした手刀が、
私が座っていたスケベ椅子に
腕ごとはまってしまったのだ。
弟子父「さすがは小林先生。
シモネタの妙技、確かに拝見いたしました。
それにしても変わった形の椅子ですな。
これはまさに苦笑い。
あはははは」
知人がお中元に贈ってくれたスケベ椅子が、
私の一命をとりとめてくれた。
ありがとう、石井基博さん。
弟子父「まだまだ私など、先生の足元にも及びません。
大変失礼いたしました」
「ところで先生、世界最強の武道は
なんとお考えですか?」
先生「お父さん、それは手話や!」
弟子父「なぜに先生? 手話とは耳や口が不自由な人が
意志を伝達する動作で、武道ではないのでは?」
先生「甘いな父さん。以前、私が道を歩いとったら、
知らんおっさんが手話の動きをしたんや」
弟子父「はあ?」
先生「何か伝えたいのかと思って近づいたら、
手話のように握った拳をいきなり開き、
にぎりっ屁をかまされたんや。
ごっつう臭くて、その場で卒倒したわ」
弟子父「なるほど! さすが先生、おみそれいたしました。
武道の奥義に至る貴重な教え、
ありがとうございました。
今すぐ道場へ戻り、
弟子たちに最強の武道を伝授します」
先生「うむ」
ふう、何とか助かった。
まったく、北小岩くんも一途な父をもっているものだ。
その後、北小岩くんのお父さんは、
抜けなくなったスケベ椅子を右手にぶらさげたまま、
全力疾走で岩手に帰っていった。
その拾參・・・愛弟子
「ただいま帰りました」
修行の旅に出ていた弟子の北小岩くんが、
数週間ぶりに戻ってきた。
「おう、沖縄はどうやった」
「沖縄でした」
北小岩くんの感想は、いつでも簡潔だ。
南の島修行で産みの苦しみを
味わったということだが、
何を創作したのだろう。
先生「どや、修行の成果は?」
弟子「はい、今日は先生に成長した私を
見ていただくために、やってまいりました」
先生「ほな、聞こうやないか」
弟子「それではまず、ビリーさんの替え歌から」
先生「なんや、ビリーさんって?」
弟子「ビリー・ジョエルのことです。
『HONESTY』という曲、ご存じですか?」
先生「おう、若い頃はよく口ずさんだわい」
弟子「それではサビの替え歌、歌わせていただきます」
♪〜 Onanie is such a lonely play
Everyone is so good feeling 〜
先生「・・・・・」
弟子「あっ、意味がわかりませんか?
今、訳しますからね」
『オナニーさんは、とってもひとりぼっちな娯楽です。
誰もがそれはいい気持ちなんですよ〜』
先生「その先はもうええ。
だいたい、オナニーさんって誰や?
そないにけったいな奴が
おるんなら、連れてきてみい!」
弟子「すみません、
私の友だちに増岡功(ますおかこう)
という名前の男はおりますが、
オナニーさんなんていう、
舶来な名前の男はおりません」
先生「そうやろ。
ところで他には何をつくったんや?」
弟子「わたくし、先生もご存じのように
種田山頭火の熱心な読者なので、句を詠んでみました」
先生「おう、そうか。どりゃどりゃ」
弟子「『題名 おしりの割れ目』
おしりの割れ目から こんにちは〜
おしりの割れ目から 出前ですよ〜
おしりの割れ目から アテンション・プリーズ
おしりの割れ目から おやすみなさ〜い」
先生「ふむ。この句には何か感じるものがある。
収穫ありやな、北小岩」
弟子「ありがとうございます。
ところで先生、沖縄の空港には
戦闘機が置いてありました。」
「超音速の戦闘機って、
音よりも速いんですよね。
どうして、そんなに速いものが
必要なのですか?」
先生「ほほう、マッハな質問や。
例えば不敬なやつが、
お妃様に『おまんげ』などと、
言ってはならぬことを
口走ってしまったとするな」
弟子「はあ」
先生「『おまんげ』という言葉が口から出た瞬間に、
超音速戦闘機はスクランブル発進するんや」
弟子「なぜですか、先生?」
先生「声は音や。
超音速戦闘機は音を追い越せるやろ。
だから『おまんげ』という
声がお妃様に届く前に追い抜いて、
声にミサイルを発射するんや」
弟子「男心をくすぐりますね」
先生「声はあえなく墜落。
これでお妃様は『おまんげ』という
下々の言葉を聞かずにすむ。めでたしめでたしや。
そんな理由で超音速戦闘機は
常に待機しとかなあかん。
沖縄まで行ったかいがあったな、北小岩」
弟子「先生、南国修行に出していただき、
ほんとにありがとうございました」
先生「うむ。そのまま励み続けるこっちゃ」
超音速戦闘機に撃墜されたほうがいいのは、
間違いなくこの下々の先生と弟子だろう。
その拾四・・・秋の虫
秋になると庭や野原で、鈴虫やコオロギに混ざって
こんなにかわいい虫たちが、美しい声を聞かせてくれます。
大人も子供もじっと耳をすまして、
秋の夜長をお楽しみください。
北小岩「先生、虫らくしないものが
いっぱい混ざっていませんか?」
小林先生「まあ、大目に見とこうか。実りの秋やし」
まったく、何の実りもない秋の昆虫図鑑であった。
その拾伍・・・自衛隊
「すまん、北小岩」
「どうしたんですか、先生?」
「前に『オナニーさんなんていうヤツがおったら、
連れてきてみい!』と怒鳴ったやろ。それがな、
PKOで自衛隊が派遣されたカンボジア・タケオ基地隣の
屋台のお嬢さんが、
オナニーさんという名前やったんや。
(たまたま宮嶋茂樹著「ああ、堂々の自衛隊」
双葉文庫を読んでいたら出ていた)
おわびに明日、自衛隊の演習に連れてったるわ。
明朝は早起きやで」
毎年、陸上自衛隊の実弾射撃演習「富士総合火力演習」が、
御殿場の東富士演習場で行われ一般公開されている。
9月初旬の土曜と日曜、2日で約5万人が訪れる。
砲弾やミサイル等の弾薬は訓練を入れて約22トン使い、
約2億2千万円を費やす。抽選による無料招待なのだが、
チケットを床屋さんからもらったのだ。
演習は10時半開始。だが、付近は渋滞が予想され、
オープニングの戦闘機射撃が見られないと一大事なので、
朝5時半に起きて出発した。
先生「高速を突っ走るときにかける
ノリのいいカセット持ってきたか?」
北小岩「はい、これです」
先生「なんやこれは! 藤正樹の『忍ぶ雨』やないか。
藤正樹といえば、あの紫色の学生服で歌っていた
イガクリやろ。調子でえへんな」
しかたなく藤正樹を聴きながら東名を走り、
8時前にはインターを下りた。
北小岩くんにナビゲートを頼む。
先生「まだか? ここ左やないか」
北小岩「まだです。ここを曲がってしまうと、
ホースショーに行ってしまいます」
先生「そうか。陸上自衛隊は英語で
『JAPAN GROUND SELF DEFENSE FORCE』やから、
ホースショーじゃなくてフォースショーやな」
右折待ちの逆車線が長蛇の列だ。
自衛隊の大型トラックも並んでいる。
先生「このまま真っ直ぐいったら、
山中湖に行ってしまうで」
北小岩「先生、間違えました!
さっきのホースショー、左折でした」
急いで引き返したが逆車線は大渋滞。
到着は11時になってしまった。
F-4EJによる航空攻撃をみそこなった。
演習場にはサーキットのような客席がつくられ、
そこから人があふれまったく見えない。
客はマニアが多いのかと思ったが、
普通のおじさんやおばさんが多い。女の子二人組もいる。
プログラムは実際に敵が侵攻してきた場合を想定し、
航空攻撃→対戦車ヘリによる爆撃→空挺自由降下
→装甲車による射撃という順序で進む。
「ドガーーーーーーーン!」
地面が揺れ巨大で暴力的な音が轟く。
みんなびっくりして
「ウゴー」 「ギョワー」などという
わけの分らない声を出している。
ミサイル音は初めて聴くが、迫力がケタ外れだ。
F1を何度か観戦したことがあるが、
あの巨大なエンジン音が
赤ちゃんに思えてしまうほどの音だ。
なんとか列の前に進むと、
ミサイルが飛んで行く姿が見えた。
巨大な座薬が飛んでいく感じである。
爆発すると、何キロか離れている
はずなのに一瞬顔が熱くなる。
90式戦車登場だ。
90式というのは'90年に採用が決定されたものであり、
120ミリ砲といえば砲身の内径が120ミリであることを意味する。
今回の演習には戦車・装甲車60両、火砲70門、航空機30機、
車両180両、約1700名を動員している。
ヘリがビューンと相手を偵察にいき戻ってくる。
兵器を搭載しているのだが、
その動きは子供が鬼ごっこをしているようで面白い。
ヘリからの情報を受け、戦車がブッ放す。
「ズドーーーーーーーン」
先生「ところでこの戦車、いくらぐらいするんかいな?」
北小岩「防衛白書によれば、
18両で約171億円だったようですから、
1両9億5千万円といったところでしょうか」
先生「高いんだか安いんだか、ようわからん値段やな。
まあ、ビル・ゲイツはんなら
自己資金で相当の軍備を持てるわな」
演習は佳境に至る。
何両もの戦車と戦闘ヘリが突進してくる。
地獄の黙示録の世界だ。
先生「北小岩、おまえ自分の砲身を上に向けとらんか?」
北小岩「すみません。
私びっくりすると縮み上がらずに、
大きくなるんです」
先生「戦場では気をつけた方がええな」
とにかく、有事の際に一番役に立たないのは、
この二人であろう。
その拾六・・・杞憂
毎年、クリスマスが近づくとこんなことを考える。
アダルトなサンタさんがやって来て、
ちんちんとお尻の穴の間に
女性器をくっつけていったら、僕はどうするだろうかと。
メリー・クリトリス!
サンタさんが優しい微笑みを浮かべる。
女性器をプレゼントされたのは、確かにうれしい。
男の1000倍とも2000倍ともいわれる女の快感は、
男には一生味わえないだろう。
それを体感できるのだ。
すぐに試してみるだろう。
だが、誰とするのだろうか。
友だちの顔を思い浮かべてみた。
友だちに股を開くというのも変だ。
ではゆきずりの男? それもなあ。
考えれば考えるほど、
わからなくなってしまう。
そうだ、こういう時は
心の師、Yさん(男性・44歳)に
たずねてみよう。
Yさん 「俺ならまずオナってみるね。
じっくりと指を入れてね。
俺は男に抱かれてみようかな、
というのがあるんだ。
ホモと同じ気持ちになるかもしれないけど、
ウンチくさくないじゃん。
ちゃんとした性器だと思うと気がラクだね。
女みたいに我を忘れてのたうち回ってみたいね」
小林 「どういう男と初体験すると思います?」
Yさん 「がっちり系のさっぱりしたヤツがいいね。
童貞を狙うという手もある。
自分に女としての美しさがないから
引け目あるよな。
女性器の方が性感が強いじゃない。
だからポコチンは
相手のアヌスを突っつくぐらいしか
使わなくなると思うね。
女の人って、あーーーっ! とか叫びながら、
のたうち回るんだよ。
なれるもんならなりたいよ! 失神するんだよ!!
女性器をくれるなら
キレイになって愛されるように努力するよ!!!
女性器は俺にとっては
天下の贈り物なんだ!!!!」
Yさんは女性の快感への憧れが強いため、
とても興奮してきたようだ。
さて、友だちだったらどうするだろう。
竹馬の友、Kくん(男性35歳)に聞いてみる。
Kくん 「まず自分のを入れてみる。
エッ? 無理だって。
折り曲げてでも絶対に入れる!
入り口までは届くだろ。
痛いかもしれないけど、
入れたままイスに前かがみに座って、
イスを使って押して動かす。
どんなことがあっても自分のを入れるからな」
Kくんは、あくまで自分のモノを
入れることにこだわっている。
Kくん 「もし、チンとマンを持った人が世界に7人いたら
必死に捜すね。
別に、7人っていうのは何の根拠もないんだけど。
そうすれば両方同時で気持ちいいぜ。
ほんとはサンタさんに
ポコチンもらったかわいい
女とできるといいんだけどね。
でもマンをもらったら、末永いつきあいになるな。
だってチンはダメになる日がくるけど、
マンはダメにならないじゃない。
俺は一生使う。あと、
おしっこをしてみて
チンとマンどっちから出るか見てみたいね」
確かにチンは短命だが、マンは長寿だろう。
それでは、もし女の体にプラスして
ちんちんがついたらどうするだろう。
Oさん(女性・28歳)、
突然電話してこんなこと聞いてすまん
すまん。
Oさん 「もらったらうれしいよ。
女も男の快感知りたいから使うよ。
まず、オナニーするな。
コンニャクでもためすと思う。
見かけは私なわけだから、
やられる女も混乱するじゃない。
だから、気の合う女としてみるな。
後腐れないからソープに行くかも。
見かけはどうでも、お金が解決してくれるからね。
おちんちんで腹話術をしてみるのもいい。
でも、性交はそんなにしないと思う。
試してみてやっぱり女の方がいいと思ったら、
おちんちんをバンソコで
おへその方にくっつけとく」
小林 「どのくらいしますかねえ?」
Oさん
「女の子とは5回、男の子のおかまと1回、
女の子の口で30回。
男の人って口ですると、気持ちよさそうじゃない。
そんな気持ちいいなら、やってほしいな」
最後にMさん(女性・34歳)。
お休みのところ、電話で起こした上に
こんな質問をしてごめんなさい。
Mさん 「まず立ちションしてみたいな。
完全に男になれるなら女とするけど、
女なのに付属物として持っているんだったら、
レズの人の張形と変わらないじゃない。
アソコだけがそれじゃあイヤだと思う、
相手の人が。
まともな女にそんなことしたら、かわいそう。
だからするとしたら、好きじゃない女とやる」
小林 「そういうもんですか」
Mさん
「うん。
あとね、女の方が快感が大きいっていうのは、
出産のとき気絶するほど痛いから、
気持ちよさを神様が前払いでくれたんだよ」
なるほど、そうだったのか。
それなら、女の人の快感が1000倍あっても不公平じゃない。
みんな、ぶしつけな僕の質問に
真剣にこたえてくれてありがとう!
僕の考えもようやくまとまりました。
もし、アダルトなサンタさんが
女性器をプレゼントしてくれたら、
信頼できる大好きな男と初体験し、
新しい世界へ旅立ちます。
だけど、女の人ともきっと続けます。
チンと同じぐらいの愛情をマンにも注ぎます。
一生、チンとマンを慈しみます。
みなさまはいかがですか?
その拾七・・・先輩
新宿午前2時。
ゴールデン街「くらくら」のカウンター。
ホワイトのロック6杯目を飲み干すと、
先輩は眉間に皺をよせてつぶやいた。
「なあ小林、おまえ3Pしたことあるか?」
ブフッ。とうとつな問いにむせかえった。
「俺はあるんだよ。3Pしたことがね」
先輩の目はキラキラと輝き、誇らしげな表情になった。
20歳の学生であった私。
30歳、社会人の先輩。
さすがに大人の世界は違う。
すでに3Pまで体験済みとは。
先輩にはどこかアウトローな雰囲気があったが、
ポーズではなく本物だったのだ。
私は尊敬の眼差しをむけた。
「前に会社の野口さんて人と飲みに行ったんだよ。
めちゃめちゃ飲んでわけわかんなくなって、
その店に1人で来ていた女をナンパしたんだ。
女もラリッた感じになってて、
そのままホテルに連れ込んだ」
先輩はつまみのコンビーフ玉子焼きを箸で突っつくと、
眉間に皺をよせた。
「ホテルでまた酒をがんがんに飲んで、
そのうち野口さんが女を脱がせてヤリ始めた。
だけど、野口さん飲みすぎたせいで
入れたまま腰ぬけちゃって、
動けなくなっちゃったんだよ」
「どうしました?」
「おまえこっち来て俺の腰を動かせ!
って怒鳴るんだ。
野口さん怒ると怖えからすぐ駆けつけて、
後ろから野口さんのケツを両手で持って、
前に後ろに前に後ろにって動かした」
「それ、めちゃめちゃ
ハードじゃないですか?」
「ああ。だから早く終わって欲しくて
『野口さん、もう少しです。がんばってイッてください!』
なんてワケのわからねえかけ声かけちまってさ」
「どうなったんですか?」
「3人ともドロドロに酔っぱらってるじゃん、
途中で疲れて寝ちゃったよ。
起きたらホテルの時間が来てそのまま帰った」
「そうですか・・・」
先輩、はっきり言わせていただきます。
先輩は3Pをしていない!
その話を終えると、先輩は自分の夢を語りだした。
そして「小林も夢を持たなくてはダメになるぞ」と言った後で、
なぜかスキーの話を始めた。
「俺、この間夜行バスでスキーに行ったんだよ。
まわりがいい女ばっかりでさあ。興奮したね。
それで寝たんだけど、すぐに夢精した」
「それって、めちゃめちゃ気持ちいいじゃないですか。
どんな夢を見たんですか?」
「それがさあ、自分がオナニーしている
夢を見てイッちまったんだ」
先輩、はっきり言わせていただきます。
先輩の夢には、夢がない!
先輩の家へ行くと、
ドアにサルトルのポスターが貼ってあった。
「俺が本当に愛しているのはこういう世界なんだ」そう言って、
発展途上国の子供たちが濁った河で素っ裸になり、
遊んでいるビデオをつけた。
「いいねえ、いいねえ」。
先輩は目に涙を浮かべている。
そして、引き出しからコンドームを取り出すと、
眉間に皺をよせて言った。
「Mサイズを買ってみたんだけど、
俺には小さすぎて痛いんだよ。これ、小林にやるよ」
先輩、ポコチンの大きさを自慢するのに、
眉間に皺をよせるのはやめてください!
もう、わけわかんないっスよ、俺。
<
その拾八・・・奉行
日本人から最も愛されてきた男の一人、遠山の金さん。
あの鮮やかな桜吹雪は、人の心に爽やかに舞い落ちる。
だが、ある意味でアナーキーな文化を持つ江戸の町には、
きっと、もっと凄まじい男がいたに違いない。
遠山の金さんよりも、数倍スケールの大きな男が・・・。
その男の名は「遠山の金玉さん」。
裏町奉行所のお奉行様である。
水戸黄門のように、
助さんによく似た助平さんという手下を
従えているのだが、
助平さんは女装して女風呂に入り込んでは
追い出されたり、
すれ違う女に指浣腸をしたりしているだけで
なんの役にも立たないので、ここでは割愛する。
遠山の金玉さんは、普段は町で博打をしたり
酒を飲んだりという遊び人の生活を送っている。
娘衆にも人気が高く、
店の娘たちはお尻をなでられると
「あらいやねえ、金玉さんたら」と言って、
頬を赤らめるのだ。
金玉さんは「おっ、いけねえ。この指がいけねえな」
などとのたまい、親指を人指し指と中指の間から突き出すと、
そのままの形で頭をかくのだった。
遠山の金玉さんは、竿は10センチほどと長くないが、
直径20センチはある堂々とした金玉をぶら下げている。
これが遠山の金玉さんと呼ばれるゆえんである。
悪人との接触は巧みだ。
(ケース1)
土蔵の屋根から下りてきた金玉さん。
手に大きな丸いものを抱えている。
「あぶねえあぶねえ、
スズメバチが巣をつくっていやがった」
と言い、前を通りかかった悪人にその玉を見せる。
スズメバチの巣とは少し違うので、
悪人が不思議そうな顔をしていると、
「だまされた〜?俺の金玉だよ〜ん」
などとおどけてみせる。
だが、そのあまりに大きな金玉は、
悪人の記憶にしっかりと刻みこまれる。
(ケース2)
悪人が風呂に入っていると
「旦那、背中流しますぜ」といって勝手に背中を流し、
いきなり悪人の前方に回り込むと二つの巨金玉をよせて
自分の竿をはさみ込み、「パイズリ〜」と雄叫びをあげる。
悪人はびっくりしてイスから転げ落ちてしまう。
だが、そのあまりに大きな金玉は、
悪人の記憶にしっかりと刻みこまれる。
(ケース3)
易者に化けている金玉さん。
台の上に巨大な玉を置いている。
「ちょっとそこのおにいさん、
いい儲け話があると水晶に出てますよ」
と悪人を呼び止め、悪人が近づくと
「おっと、間違えたぜ。
これは水晶じゃなくて、俺の金玉だ」
と言う。
だが、そのあまりに大きな金玉は、
悪人の記憶にしっかりと刻みこまれる。
とまあ例をあげたらきりがないが、
このようにして悪人の脳裏に己の金玉の
威容を刷り込むのだ。
それから、お奉行様として悪人を捕らえる。
裏町奉行所でお裁きが始まる。
遠山さまのおな〜り〜。
はは〜。
「その方、この娘の病弱の父を
事故と見せかけ殺害し、
多額の金を強奪したこと、相違ないな」
「めっそうもございません、
私にはまったく身に覚えのないこと。
そこの娘が父を殺し、若い男と乳くりあって
暮らすために金をとったんでしょう」
「おうおうおう、
しらばっくれるのもいいかげんにしやがれ。
並の金玉はごまかせても、
俺の金玉までごまかせると思うなよ」
すかさず袴とふんどしを空に放り投げる遠山の金玉さん。
この金玉を忘れたとはいわせねえぜ!
巨大な金玉を見た悪人の顔が青ざめていく。
地面に額をこすりつけひれふす。
「その方に、市中引回しの上はりつけ。獄門を言い渡す!」
遠山の金さんのはるか上をいく男、遠山の金玉さん。
きっと、いたに違いない。
その拾九・・・銀杏
秋の味覚の王様は、松茸といわれている。
その理由には、形状も大きく作用していると思う。
「香り松茸、味しめじ」
心地よい響きがある。
だが、惑わされてはいけない。私は異議を唱えたい。
松茸の香りは、どう考えても2番目以下なのだ。
秋の香りの王様といえば、文句なく「ぎんなん」であろう。
あのウンチックな香りこそ、不動のナンバー1。
凌駕することなど、不可能だ。
「なあ北小岩、今年も行ってみるか」
「そっ、そうですね」
「ほな、出発や」
私と弟子の北小岩くんは、シャベルとビニール袋を用意し
新宿御苑に急いだ。
新宿御苑の奥には銀杏の木が立ち並び、
ぎんなんが山ほど落ちているのである。
「ふう〜、気持ちええなあ」
「そうですね」
「今のうち、この新鮮な空気を
たらふく吸いこんどくんやぞ」
「はい」
戦場に向かう兵士のように、顔と心を引き締める。
「おう、今年もぎょうさん落ちとるやないか。
香っとるなあ。それじゃ、拾いまひょ〜」
シャベルでぎんなんをすくうと、
次々とビニール袋に入れていく。
あっという間に、袋がぎんなんで一杯になった。
「よっしゃ、秋の香り、とことん味わおうやないか」
「はい」
私たちはビニール袋に鼻を突っ込むと、
外から空気が入らないように口を閉じた。
シンナー遊びをする要領である。
「強烈な秋の香りや! 染みるのう。
頭がジンジンして来たわ。
どや北小岩、気分は?」
「ウンコを鼻から食べているような気分です」
これはまさしく合法的麻薬である。
そして、秋の味覚に対する飽くなき挑戦だ。
鼻、ノド、口、目、前頭葉などに、
ウンコがこびりついてしまった
気持ちになるのだ。
長時間続けると、確実にトリップしてしまう。
「まだまだや、ここでめげたら俺たちの負けや。
秋の味覚を味わいつくすことは、
過酷なことなんやぞ。
北小岩、鼻をそらすな。
心臓に陰毛が生えたような図太い男になれ!」
「先生、それは心臓に毛の生えた男の
間違いではないですか」
「まあ、ええやないか」
「先生、腹が痛くなってきました」
「おっ、おい。どうするんや、
こんなところでズボンを下げて」
「もっ、もうだめです」
「やめろ、人が見ている!」
「間に合いません、ああ・・・・・・!」
ブリッ。
「やってもうたか。しゃあないなあ。
まあ、ここなら匂いはごまかせるやろ」
ぎんなんのある場所で野糞をしても、
匂いはばれない。
それはウンコの擬態である。
ウンコは匂いで存在が明らかになってしまうが、
ぎんなんと一緒にいれば気づかれない。
もしもウンコが食虫生物だったら、
そこで待ち構えていれば虫に気づかれず、
ウンコは簡単に虫を捕食できるのだ。
私が輪廻して来世にウンコとして生まれてきたら、
ぎんなんのある場所に住みこの擬態を使うだろう。
ウンコとして、生き抜いていくために。
その弐拾・・・青春暴走族
中学時代を横浜で過ごした。
陸上部に所属し、長距離を走った。
顧問は大学を出て間もない関先生。
陸上部出身の熱い男で、いつでも先頭に立って走っていた。
その頃、3年生の先輩が3000mで神奈川県記録を出した。
関先生と一緒なら、どこまでも走っていける。
誰もがそう信じていた。
長距離陣は体操をした後、40分ほど町を流す。
そこからは日によって違うのだが、
400mを10本走ったり、2000mを3本走ったり、
10000mのタイムトライアルを行ったり
というメインディッシュをこなす。
その日もいつものように、
ウォームアップのために学校を出た。
先頭はもちろん関先生。
坂を下り坂を上り坂を下りまた上った。
三ツ沢へ行くようだ。
ここには神奈川国体で使われた大きな競技場があり、
横浜市の駅伝大会やロードレースの会場にもなっていた。
サッカー競技場は横浜マリノスや横浜フリューゲルスが
本拠地にしていたこともあるので、
ご存知の方も多いと思う。
今日は駅伝コースを走り込むのだな、と思った。
だが、先生は競技場には目もくれず、
そのまま道路を真っ直ぐに走っていった。
第三京浜入り口の標識が見える。
「まさか、このまま走っていかないよね」
「う〜ん、クルマしか走っちゃいけないはずだよ」
友だちと小さな声でささやきあった。
先生は私たちのほうを振り向くと、
気合を入れるように大きな声で言った。
「いくぞ!」
「はい!」
先生が行くと言えば私たちも行く。
ピッチを上げた先生の後を追う。
第三京浜は東京と横浜を結ぶ自動車専用道路である。
100キロを軽くオーバーしたクルマが、
私たちの走る路肩の横を疾風のように走り去っていく。
料金所は世田谷に着くまでない。
私の中で熱いものがたぎった。
今日の練習は第三京浜を東京まで突っ走ることだったのだ。
グングン速度を上げる先生においていかれないように、
必死についていく。
どれくらい走っただろうか。
かなり息があがってきたその時だ。
「こら、そこの君たち。何をしているんだ!」
突然パトカーが凄いスピードで現れ、
スピーカーでがなりたてた。
だが、先生はさらにピッチをあげた。
あきれてパトカーが幅寄せしてきた。
「聞こえないのか! 君たちは自動車じゃないんだ!
早く出ていきなさい」
やっと先生は止まった。
先生は警官に謝るでもなく、
向きをかえて再び走り出した。
「やあ、ダメだったか〜」
照れくさそうに、ニコニコしながら頭をかいた。
先生、あなたはいかした人だ!
先生の「いくぞ!」の声が聞こえたら、
今でも私は一緒に走ります。
東名高速だろうが、アウトバーンだろうが・・・。
「先生、動けません!」
ひさしぶりに町を走ろうと思って外に出ると、
弟子の北小岩くんが交差点で固まっている。
北小岩「交差点には『止まれ』と
書いてありますが無責任です。
ずっと止まっていたら、
歩き出すきっかけを逸してしまいました」
先生「北小岩!
わなにはまったらあかんで。
確かに交差点には『止まれ』とだけ
書いてあって、『歩け』に
変わることはない。
正直者の中には、その場に止まったまま
一生を終えるヤツもいるそうや」
北小岩「どうすればいいんですか」
先生「歩けばいいんや」
北小岩「なるほど。先生、ありがとうございました」
先生「うむ」
関先生には、中学を卒業してから一度も会っていない。
だが、もしもどこかでばったり会ったら
たずねてみたい気もする。
あの時、パトカーに止められなかったら、
第三京浜を東京まで走るつもりだったのかを。
その弐拾弌・・・冬の星座
いつしか夜寒の身にしみる頃となりました。
みなさま、お風邪など召されてはいませんか。
冬は星がもっとも美しく輝く季節。
ここに、私が観察した星座の一部をご紹介します。
(1)流れ星三十郎 星界の一匹狼。 口を開けばべらんめえ、 見かけは ボロボロなのですが、 困っている星を見ると 命がけで助けにいってしまう 男気あふれた星です。 |
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(2)バターケンタウルス うら若き女の星の あそこを、 長い舌で ペロペロしてしまう 舌グセの悪い星。 下半身が馬なので、 馬並のものを持っている 可能性がありますが、 まだ観察中です。 |
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(3)くちびる星 唇の守護星。 社会派の文豪、 松本清張氏の唇を偲んで 星たちが集まったもの。 |
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(4)玉の川 多い日はとっても 不安な「おりもの姫」と、 ちょっとの刺激で すぐに前を ふくらませてしまう 「あそこひこひこ星」が、 年に一度 たなぼたの日に 玉の川を渡って、 肉体を貪りあおうと くわだてています。 できれば、 阻止したいものです。 |
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(5)肥えびしゃく七星 ひしゃくですくった ウンコをあたり構わず まき散らすという 恐ろしい星です。 肥えびしゃく七星に ウンコを かけられそうになって、 すごい勢いで 逃げ回っているのが 流れ星。 流れ星がたくさん 落ちる日は、 目をこらすとウンコも 見えるかもしれませんね。 |
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(6)鍋焼きの星 冬は星にとっても 寒く辛い時期です。 お腹をすかせた 星たちが出前を とって食べるのが、 この鍋焼きの星です。 暖まった星たちは キラキラと輝き、 私たちの目と心を 温めてくれるのです。 |
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(7)バイブスター いつも、かすかに 振動しています。 |
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(8)ござ 華やかさがなく、 人気がありません。 ただ年に一度、 お花見の夜にだけ 飲めや歌えの 異常な輝きを みせてくれます。 |
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(9)ウルトラマンゲ M69星雲の下半身には、 こんな星たちが きらめいています。 ウルトラマンたちは、 このウルトラマンゲ 姉さんに 悪い遊びを教えてもらい、 大人になってゆくのです。 |
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(10)オリオン座ビール 外は白い雪の夜。 雪を眺めながら 暖炉にあたって 飲むビール、 これほどの至福は ありません。 「つまみは 若い女がいいな」 なんて台詞は禁物です。 |
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(11)もっこり星雲 乙女たちに人気の高い星。 朝になると形を変えて、 もっこりしてきます。 もっこり星雲の 義理のお兄さんは、 ピストン星雲といいます。 |
さあ、冬の星たちの競演、
いかがでしたでしょう。
澄みきった夜空を眺めながら、
素敵な恋人とオマンチックなひとときをお過ごしください。
その弐拾弐・・・恐怖
忙しい年の瀬だ。
ゆっくりと温泉にでもつかり、
寝グルメのフルコースなど満喫したいものである。
ふかふかの毛布にくるまりうつらうつら。
夢の舞台は、もちろん女護が島。
ポコ先の乾かぬ内に古今東西のあらゆる美女たちが
入れ代わりたち代わりやってきて、
全裸の私に向かって秘技の限りをつくしていく。
「かんべんしてください。
もうこれ以上すると、ポコが抜け落ちてしまいます〜」
随喜の雄叫びをあげ、布団の中でのたうち回る私。
だが、夢というのはなかなか思い通りにいかないものだ。
つい怖い夢やくだらない夢を見てしまったりする。
そう、寝グルメの大敵は、
怖い夢やくだらない夢なのである。
先日も寝グルメを堪能しようとして
こんな夢を見てしまった。
私がこの世で一番怖いもの。
それは幽霊写真である。
幸せそうな被写体の後ろから、
幽霊が恨めしげにこちらをにらんでいる。
あ〜、怖い。
考えるだけでゾゾゾッ だよ〜。
その夢で私は雲に乗っていた。
後ろ手にしばられ正座させられている。
雲は後方に凄いスピードで飛んでいく。
なぜか、目の高さのあたりに小さな雲があり、
私の乗っている雲と同じ速度で前に進んでいる。
んっ? ギャ〜〜〜〜〜〜〜〜!
なんとそこにはページが開かれた
幽霊写真集が乗っていたのだ。
目の前30センチ。
一番はっきりと焦点があってしまう距離である。
後ろ手に縛られているので身動きできない上に、
魔力で顔をそむけることも
目をつぶることもできなくされてしまっている。
どこまでも追いかけてくる幽霊写真。
あっ、突風だ。頼む、幽霊写真よ落ちてくれ!
だが、幽霊写真のページがめくれて、
さっきよりもっと怖い
傷痍軍人の幽霊写真のページになってしまった。
怖いよ〜〜〜! 女護が島、カモ〜〜〜ン!
このように怖い夢は寝グルメの恐るべき敵だ。
だが、同じく見逃してならないのがくだらない夢である。
その夢は暗闇の世界だった・・・。
なぜか一点にだけスポットライトが当たっている。
おや? 布団の上に誰か寝ているぞ。
画面がズームする。なんだ、寝てるのは私じゃないか。
その時だ、暗闇の彼方から荘厳な声が響いてきた。
「もみましょうか?」
神の声に違いない。
だが、言っていることが理解できない。
「もう一度言ってください」と言うと、
さらに重厚な声でこう言った。
「もみましょうか?」
私はピュアな気持ちになりこう答えた。
「はい、もんでください」
「わかりました」
その瞬間漆黒の闇から千手観音の手があらわれ、
身体中を物凄いはやさでこちょこちょくすぐられた。
私はあまりのくすぐったさのため声をあげて身悶えた。
やっ、やっ、やめて。あははは、やめて。
くすぐった〜い! あひあひあひゃ〜!
私は笑いながら目を醒ました。
そこには敷布団に座った、間抜けな私がいた。
一時期、かなしばりに悩まされたことがあった。
友だちが
「昨日かなしばりにあって、
空中をぐるぐる回されちゃったよ」
という余計な話を聞かせてくれたばかりに、
私までかなしばりにあうようになってしまったのだ。
その日は頭のてっぺんと爪先から、
徐々にかなしばりがはいあがってきた。
どういうことになるのか想像もできず、
小羊のように恐怖におののいた。
両側からはい上がってきたかなしばりは、
ポコチンのところでひとつになった。
「ああ、私の人生ももはやこれまでか」と観念した。
だが、だんだんとチンチンが気持ちよくなってきたのだ。
ああ、気持ちいい!
その時私は思った。かなしばりに勝利したと。
それ以来かなしばりにあうこともほとんどなくなった。
このように寝グルメを楽しむには、
かなしばりに勝利する強い精神力も必要なのだ。
母から聞いた話だが私は小学生の時、
深夜にいきなり飛び起きて「ガンジー!」
とひとこと言ってまた寝たらしい。
母は私がクルクルパ〜になっちゃったと思ったという。
う〜む、総合的に考えてみると、
私は寝グルメに向かない人間なのかもしれないなあ。
その弐拾参・・・大王
「♪真っ赤なおめこのトナカイさんは〜」 | |
小林 | 「誰や、クリスマスが 終わったのにそんなエロな歌うたっとるヤツは!」 |
「アソコがぱっくりあけましておめでとう」 | |
弟子 | 「誰ですか、お正月の挨拶を下品にしている人は?」 |
「わしこそは、恐怖の大王じゃ〜〜〜」 | |
小林 |
「きさまがノストラダムスが予言した、 |
大王 | 「いかにもイカくさい」 |
小林 | 「何言っとるんや」 |
大王 | 「わしがM69星雲からやって来た、 恐怖の大王じゃい」 |
弟子 | 「M69星雲と言えば、 ウルトラマンがウルトラマンゲ 姉さんによって筆下ろ しされる 星じゃないですか」 |
大王 | 「ほう、くわしいのう。 ウルトラマンがガキの頃、 よくかつあげしてやったもんだわい。 それにな、ウルトラマンゲ姉さんに 女の喜びを教えたのはこのわしだ」 |
小林 | 「なに!」 |
大王 | 「うほうほうほう。 ところで、紅白歌合戦はどうだったかな」 |
小林 | 「なんや、いきなり。 別にいつもと変わらんで」 |
大王 | 「日本は甘いよのう。 M69星雲ではな、紅白歌合戦に出る男は ちんちんの小さい順に歌うのだ」 |
小林 | 「なっ、なんと! じゃあ、トリは誰やったんや!!」 |
大王 | 「聞きたいか。 大トリはな、コック・ミネさんだ」 |
小林 | 「コック・ミネさん? 日本にもディック・ミネさんという 立派な物を持った人がいたが、 関係あるのか」 |
大王 | 「ある。 ディックさんが亡くなって、 M69星雲で コック・ミネとして復活したのだ。 テレビは2画面に分割され、 ひとつは顔が、もうひとつは 生のちんちんが写りっぱなしなのだ。 過酷だろう」 |
小林 | 「なるほど。 確かに日本もちんちんの小さい順に出演し、 トリは一番デカいやつが歌うというように、 白黒はっきりつける 時期にきてるのかもしれんな。 となると 、白黒 歌合戦か。 ところできさまは地球をどうするつもりなんや?」 |
大王 | 「うほうほうほう。 特別に教えてやろう。 ちんちんの位置を変えて、 滅亡させてやるのだ」 |
小林 | 「なに!」 |
大王 | 「例えば日本ではちんちんの位置が 左に傾いてるヤツが多いだろ。 左に傾いて いるヤツは右に傾かせてやる。 もちろん、右に傾いているヤツは左にする。 それを 地球規模で行うのだ」 |
小林 | 「さすがは恐怖の大王! 恐ろしいことを考えたな」 |
弟子 | 「そんなに恐ろしいことですか。 ちんちんの位置が変わっても、 小さな違和感があるだけじゃないですか?」 |
小林 | 「甘いな、北小岩。 小さな違和感ほど恐ろしいものはない。 友だち関係や夫婦 関係、 それから政治、経済、 国家にいたるまで、 あらゆる幻想は小さな違和感から 亀裂が生じ崩壊に至るんや。 そやから地球の男全員の ちんちんの位置を変えられたら、 地球が滅亡するのは時間の問題や!」 |
弟子 | 「そんな、恐ろしい」 |
大王 | 「さすがは先生と呼ばれる男、 よく気づいたな。 覚悟するがよい。 うほうほうほう」 |
小林 | 「ああ、行ってしもうた」 |
小林「しまった!」
弟子「どうしたんですか?」
小林「書き初めするのを忘れていた!」
弟子「そういえば、そうですね」
小林「筆下ろしをして書き初めをしないと、
どうもあそこの調子が悪いんや」
弟子「えらいことですね」
小林「それに今年は、
ついに幼稚園の時からの夢をかなえるで」
弟子「どんな夢ですか?」
小林「耳を貸してみい」
弟子「うげええええい!」
幼少の私は、姉が墨をする姿を見てこう思った。
硯(すずり)って、和式便器そっくりだ。
平らなところがするところで、
水がたまっているところが墨をためるところ。
この真っ白な便器で墨をすったら
どんなに気持ちがいいだろう。
それに硯ではすぐに墨がなくなってしまうが、
便器いっぱい墨をすっておけば
いくらでも書けるじゃないか。
だけど、できなかったのだ。勇気がなかったのだ。
今は違う。俺は俺の足で立ち、俺の道をゆける。
だが困ったことに、家の便器は和式ではない。
洋式ではすった墨がすぐに下に流れてしまい、
うまくいかないだろう。
私は無理を承知で、
古い木造アパートに住む友だちに連絡した。
小林「もしもし、小林です。
ところで、便器を貸してもらえない」
Nくん「何で便器なんか貸さなきゃいけないんだよ」
小林「便器を硯にして、墨をすりたいんだよ」
Nくん「そういうことか。いいよ」
さすがNくんだ。並の人間だったら、
自分の便器で墨をすられるなんていやがるだろう。
Nくんはふたつ返事でOK。
さっそく弟子の北小岩くんとNくんのアパートに向かう。
小林「いやあ悪い悪い。俺の昔からの夢だったんだよ」
Nくん「好きに使ってくれよ。洗っといたよ」
こういう人のことを、真の男というのだろう。
さっそく墨を取り出し、真っ白い便器に押しつけた。
グッと力を入れてみる。
便器は硯よりも滑りやすく、
油断をするとツルッと滑ってしまう。なおも力を入れる。
ポチャッ。しっ、しまった。
水がたまっているところに、墨を落としてしまった。
でもしかたない。
覚悟を決めて水に指を突っ込み墨をとった。
一度水に指をつけてしまえば、もう大丈夫。
それからは力を全開することができ、
順調に墨はたまっていった。
小林「ほな、書こうか」
『お年玉』
『大願成就』
『赤穂浪士』
次々に、作品が生み出されていく。
『福万』
弟子「あれ、先生! これ、
泣いたように文字がにじんでますよ」
小林「ほんまや!」
心を込めて書き上げた『福万』の文字が泣いているのだ。
何が悲しくて泣くのだろう。
私は筆下ろししたばかりの筆で、
『福万』の横に『愛』と書いてみた。
『福万』が微笑んだ気がした。
そういえば高校の一年先輩に
「福原万子」さんという人がいたが、
あれはなんて読むのだろう。
今頃「井伊」などという人と結婚してないだろうか。
う−む、心配だ。
その弍拾伍・・・謎
弟子「先生にも青春時代はあったのですか?」
小林「アホぬかすな。
立派に鎌首をもたげた青春があったわい」。
弟子「ぜひ、その一端をお聞かせください」。
小林「そやなあ、俺は横浜育ちやから
青春と海は切り離せへんなあ。
横浜の中学生にとっちゃ、デートといえば
山下公園に海を見に行ったり、湘南で戯れたり、
鎌倉でハイキングしたりすることやったなあ」。
弟子「ぜひ先生の青春の道程をたどらせてください」。
小林「まあ天気もいいことやし、
鎌倉の山道でも歩きにいくか」。
弟子の北小岩くんと横須賀線に乗る。
北鎌倉駅でおり、ハイキングコースをてくてく歩く。
小林「山の空気は、気持ちええなあ」。
弟子「そうですね」。
小林「腹が減ったなあ。そろそろ飯にしようか」。
いきなり、北小岩くんが風呂敷からブラジャーを出した。
よく見ると、ブラジャーの中にご飯がつめてある。
小林「なんや、それは?」
弟子「私が考案しました『ブラジャーおにぎり』です。
これをお皿に出して、箸も手も使わずに食べると
おいしいんですよ。はい」。
色っぽい形をしたおにぎりがふたつ、皿に並んだ。
てっぺんには、ほどよい大きさの小梅がのっている。
小林「ところでこのブラジャーはどうした?」
弟子「先生の書斎の机にのっていたものを
拝借いたしました。
この大きさが先生のお好みかと思いまして」。
誇らしげに北小岩くんが続ける。
弟子「肉じゃがとか芋のにっころがしとかが
おふくろの味といわれていますが、
私は違うと思います。
母のブラジャーでつくった『ブラジャーおにぎり』が
真のおふくろの味だと思います」
まだまだ甘いと思っていた我が弟子だが、
急激に成長をとげている。
確かに母のおっぱいと同じ大きさの
『ブラジャーおにぎり』は、おふくろの味だ。
私はブラジャーおにぎりを口と舌だけを使って食べた。
小林「そろそろ、行こうか」
山を下っていくと、小さなトンネルがあった。
そのトンネルの壁には、奇妙な絵が描かれている。
弟子「先生! これは何でしょうか!」
小林「むむむっ! これは謎の壁画や。
何か深いメッセージを発しているに違いない。
矢印があるで。行ってみようや!」
矢印の方角に進むと、再び木に謎の絵が描かれ矢印がある。
草を分け入りしばらく歩くとまた謎の絵と矢印が。
それを何度か繰り返すと、巨大な矢印が出現した。
弟子「あっ、エロ本が置いてあります」。
小林「ほんまや! これはかなりの上物やで」。
グッと足を踏み込み、エロ本に近づいたその時だった。
「うお〜〜〜!!!!」
ふたりの体は奈落に落ちていった。
弟子「先生、落とし穴です!穴の中には、
犬の糞がたっぷり入っています」
小林「まだ、出したてほやほややな。
もしかしたら、人糞かもしれん。
いったい誰が何の目的で?
う〜む、謎は深まるばかりや」。
大の大人がふたり、エロ本につられ
落とし穴にはまっただけの話だ。
謎などではなく、単なる恥である。
その弍拾六・・・缶詰
梅見の会で白梅、紅梅を味わい家に帰ると、
留守番電話が点滅していた。
「Sだよ〜ん。俺に電話してみるかい?」
わけのわからないメッセージだ。
Sさんというのは、喧嘩していた隣の家の木に
何年間も小便をかけ続け、ついには枯らしてしまった
という恐るべき執念の持ち主である。
近頃、とんとごぶさたしている。
取り急ぎ、電話をしてみた。
ルルルル、ルルルル、ガチャ。
「♪たんたんたぬきの金玉は〜」のメロディが
ピアノで奏でられ、留守電メッセージに変わった。
「はい、Sです。留守番電話は誰もでんわ。なんちゃって」ピー。
何という不親切なメッセージだろう。
意表をつかれて二の句がつげない。
「こっ、こっ、こばや」。
「あっ、小林くんか。おげんこ〜〜!」
受話器を取る音がして、妙に明るいSさんの声が
響いてきた。
Sさん「ところでさ、俺、じいを表明しようと思うんだ」。
小林「何ですかいきなり。何を辞めちゃうんですか」。
Sさん「その辞意じゃないよ。
俺が表明するのは自分で慰めるほう。
自慰を表明するんだよ!」
何だかわからないが、妙にパワーを感じる。
Sさん「若い頃は試行錯誤してさ、
いろいろやってみたんだよ。
一番のおすすめは、缶詰だね。
蒟蒻(こんにゃく)の缶詰!」
小林「そんなもの、売ってるんですか?」
Sさん「売ってないよ、作るんだよ。
まずパイナップルの缶詰と蒟蒻を五枚買ってくる。
白蒟蒻じゃなきゃダメ。
黒だと思わぬことになりかねない。
パイナップルを食べて缶を洗う。
蒟蒻は一枚を薄く二枚に切ると、
よりデリケートな感触が味わえるね。
そうしたら蒟蒻を一枚づつ缶で
型押ししていくんだ。
缶の直径より蒟蒻の方が小さいから、
丸型なんだけど上下が少し切れるだろ。
それがポイントだ」。
まったくデリケートな人ではないのだが、
そういう時はやたらとデリケートだ。
Sさん「それから、缶にたまった丸型の蒟蒻を取り出す。
一番上の蒟蒻のど真ん中にマジックのキャップで
穴を開ける。直径1.5センチぐらいがいいかな。
そして、上と下に縦長に切り込みを入れるんだ。
その次の蒟蒻は、真ん中からキャップ半分ぐらい
左に穴を開ける。その次は真ん中で穴を開け、
その次は右にづらして穴を開ける。
この微妙なタッチがたまらない」。
これが自慰の表明だったのか。
Sさん「蒟蒻を温めるんだけど、人肌じゃ絶対にダメ。
50°ぐらいじゃなきゃダメだ。
そうしないと感覚が違うんだ!
それでさあ、完全な丸型じゃなくて、
上下が切れてるだろ。これが空気抜きになる。
そうしないとくっついて抜けてきちゃうんだ」。
アホらしいことでも、ここまで真剣に語られると
何だか感動してしまう。
Sさん「二十歳すぎに部屋でやっていたら、
缶をあそこに刺したとたんに
母が入ってきちゃってさあ。
仕方ないからそばにあった鉛筆で缶をたたき、
ドラムの練習しているように見せたよ」。
小林「ブリキの太鼓ですね」。
Sさん「だけどね、あの頃の俺って
勢いがあったと思うんだよ。
だから、今こそ自慰を表明して立ちあがりたい
と思うんだ。お前も突っ走れよ、じゃあな」。
ガチャ。
Sさんは電話を切ってしまった。
そうか、蒟蒻の缶詰か・・・。
「先生じゃないですか! お買い物ですか?」
スーパーで、弟子の北小岩くんにばったり会ってしまった。
弟子「あれ? 随分たくさん蒟蒻を買ってますねえ。
わかった! 今晩はこんにゃく田楽ですね。
ぜひ、私にもごちそうしてください」。
小林「あっ、ああ・・・」。
家に帰るとアメリカの巨根ポルノ男優にそっくりな
Sさんの顔を思い浮かべながら、
弟子といっしょに50°ぐらいに温めた蒟蒻をほおばった。
その弐拾七・・・修行
弟子「先生、早く花見に行かなければ
桜が散ってしまいます」。
小林「そうだな。ほな行きまひょか」。
さっそく弟子の北小岩くんと花見にでかけた。
僅かなスペースを見つけ、北小岩くんがゴザをしいている。
弟子「ところで先生、私が子供の頃には
よく犬の糞を踏んだものです。
糞を踏んでしまった時のぐにゅという感触、
あれはえもいわれぬ趣がありますよね」。
小林「そうだな。踏んだのがバナナであってくれ!
と祈ってみる。
だが、足の裏には糞がべったりついている。
わざわざ鼻を近づけて嗅いてみる。これが臭い」。
弟子「でも、昔にくらべると糞が落ちていることが
少なくなっている気がするのですが」。
小林「いいところに気がついたな。
それは糞になろうと思って修行する若者が
減ったからや」。
弟子「えっ、糞は若者が修行してなるものなのですか」
小林「そうや。長く苦しい修行をせな
立派な糞にはなれんのや。
糞になるための修行は板前修行に酷似している。
『匂い7年艶10年』といって、
人が顔を背ける匂いを出すだけで7年はかかる」。
弟子「大変ですね」
小林「まずは見習いからスタートや。
見習いの仕事は先輩を運ぶことや。
糞は歩くのが苦手なので、人に踏まれやすいように
人通りの激しいところに運ばねばならん。
それを3年間続ける。
そこで糞親方の目にとまるように努力する」。
弟子「糞親方? それはいったいどんな人なのですか」。
小林「俺も一度しか会ったことがないので
詳しくはわからないが、とにかくデカい。
5メートルはあったな。
そして、普通の糞の200倍ぐらい臭かった。
あまりの臭さのために、
目を開けていられなかったぐらいだからな」。
弟子「ケタはずれに臭いと、
目を開けていられなくなるのですか」。
小林「そうだ。失明の危険もある。
糞親方に睨まれたら
糞の世界で生きていけないんや」。
弟子「恐ろしいことです。
ところで見習い期間の若者は、
糞とはいえないのですか」。
小林「もちろんや。まだ、糞としての体が
できあがっていない。
かすかに匂うこともあるが、
屁のようにすぐに消えてしまう匂いや。
臭い匂いを出すためには、
命がけの修行を続けねばならぬ」。
弟子「いったいどうするのですか」。
小林「ニンニクやニラ、イモなど
屁が出やすい食べ物を食べ、
屁がしたくなったら肛門を
アロンアルファでふさいでしまうんや。
つまり、屁を出さずに7年間過ごす。
そうすると気体だった屁が内部で液体になり、
ついには固体になる。
そうなると、とてつもなく臭い匂いを
発するようになる。
屁は外に出たかったのに
7年間も出してもらえなかったので、
とても怒っている。糞から湯気が出ているのは、
あれは屁が怒っているからなんや。
屁が怒ると、匂いも輪をかけて臭くなるで」。
弟子「そうでしたか。でも、7年間も屁を我慢したら
危険じゃないですか」。
小林「そうや。だから、修行の途中で
死んでしまったりする。それが乾燥糞や。
また、修行に耐えきれずに
ドロップアウトしてしまったのが下痢糞や」。
弟子「それほどまでの危険をおかして糞になって、
何かいいことあるのでしょうか?」
小林「うむ。糞になろうとする若者は、
もともと人を臭がらせるのが好きなんやな。
それに生き甲斐を感じなければとてもやってられん。
それから、人が糞を踏んだときに
この世の終わりという顔をして
靴の裏を覗き込むやろ。
それがとてつもない快感らしい」。
弟子「それだけのために、
これほど苦しい修行をするのですか」。
小林「そうや、だから年々糞になろうと思う若者が
減ってしまっている。
昔は一丁俺が臭がらせてやろう
という気骨のある若者が多かった。
そんなヤツが少ないから、
町の糞が減ってしまったんや。
話は変わるけど何か匂わんか?」
弟子「あっ! ゴザの下に
たくさん犬の糞が落ちています」。
小林「気いつけんかい!
ゴザで糞を踏むアホがおるか!」
日本の落糞量が0に近づいても、
このふたりは確実に糞を踏み続けるであろう。
その弐拾八・・・見栄
小林「どうした、北小岩!」
弟子の北小岩くんが、
庭のししおどしの向こうでうずくまっている。
弟子「うわ〜ん、わんわん」。
小林「何があったんや、いい男が泣くんやない」。
弟子「彼女にフラれてしまったんです」。
小林「何でや。お前にぴったりの
気立てのやさしい子やないか」。
弟子「私が見栄をはったばっかりに・・・」。
小林「お前でも、見栄をはることがあるんか?」
弟子「あります。彼女が『私の他に
誰かとつきあったことある?』と聞くから、
つい見栄をはってありもしない性体験を
1時間もしゃべり続けてしまったのです」。
小林「どんなことを言ったんや」。
弟子「しゃべっているうちに興奮してきて、
12Pをしたこともあると豪語してしまいました」。
小林「それはなんでも言い過ぎや。
まあ、男なら見栄をはらねばならん時もある。
だがな、TPOはわきまえねばならんで」。
弟子「先生、どんな時なら見栄をはっていいのですか?」
小林「それでは教訓を聞かせたる。
耳の穴をかっぽじってよく聞いとけ。
一年前のことや。友だちが会社をつくったんや。
それでその会社で設立パーティが開かれた」。
弟子「どんなパーティですか」。
小林「怪しいパーティやない。
みんなで酒やつまみを持ち寄って語り合う、
アットホームなパーティや」。
弟子「それと見栄がどう関係あるのですか?」
小林「そう先を急ぐな。酒もほどよく回って来てな。
みんな陽気になりいい感じやった。
だがな、一人ハイペースで飲んでるヤツがおって
紙コップにおしっこをしたんや」。
弟子「アットホームとはいいきれませんね」。
小林「それはええ。それからな、ズボンとパンツを脱ぐと
コピー機に近づいていった」。
弟子「もしや」。
小林「そのもしやや。
そばにあったイスに立ち
イチモツをむんずとつかみあげると、
コピーに乗せてスイッチオン!」
弟子「その場に女性はいなかったのですか?」
小林「もちろんいた。嫁入り前の美しい娘さんが。
そしてなあ、そのチンタクを持って
こっちに来たんや。
その女性もキャッといいながら見ていたが、
男たちの視線はかなり真剣にチンタクに注がれた。
息を呑むほどでかかったんや」。
弟子「そんな状況ででかいというのは、
かなり大物ですね」。
小林「ところがやな、パーティがお開きになって
そっと聞いてみた。
ずいぶんいいものお持ちですなと。
そしたらその男はこういったんや!」
チンタク男「実はね、とっさにコピーを
141%に拡大したんだよ」。
弟子「なんと!」
小林「わかったか。
見栄というのはこういうふうにはるもんや」。
弟子「おみそれいたしました!」。
自分もチンタクをとる時には、141%より
さらに拡大率をアップしようと企てる小林先生だったが、
いったいそれが何になるのであろうか。
その弐拾九・・・春の祭り
日本でお祭りといえば、夏祭りが有名です。
しかし、体をはりながらも
ひっそりと行なわれている春祭りにこそ、
出色のものがあるのです。それは可憐で優雅。
とても愛らしいお祭りたちです。
私が長い年月をかけて日本全国を行脚し、
出会った楽しい春祭りについてここに記してみます。
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1000人もの若き益荒男たちが、
上はブラジャー下はヌードというお茶目な出で立ちで、
50メートルもある長い雨どいの中に金玉を入れ、
みこしのようにかつぐお祭りです。
息が合わないと途中で玉が飛び出してしまったり、
雨どいで強打して玉をくじいてしまったり、
運が悪いとつぶしてしまったりするのでまさに命がけです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
人に喧嘩はつきものです。
だけど、ちょっとした心の行き違いで
相手を憎んでしまっていることは多いもの。
素直に「ごめんなさい」と謝ってしまい、
こじれた仲を修復して夏を迎えようという
人間の知恵から生まれたのがこの祭りです。
川の向こうとこちらで大太鼓に合わせ
「ごめんなさい!」、「いいえこちらこそ!」
と数時間にわたって大声であやまり合います。
互いに船を漕ぎだし、川の真ん中で熱く抱擁し大団円。
もともと仲直りしてもいいかなと思っている人しか
参加しないので、かなりの率で仲直りできるという
意義深いお祭りです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
土俵の上に力自慢の力士がふたり。
何の変哲もない相撲かと思いきや、これが大間違い。
その一戦は行司の「はっけよい、ぶらぶら!」
というかけ声で始まります。
相手の力士のまわしの結び目をほどき、
すっぽんぽんにした方が勝ち。
負けた力士は玉を股ではさみ、俗に言うメスライオン
という型で土俵を一周しなければなりません。
升席の若いお嬢さんからは
「たまや!」の掛け声があがります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
過ぎ行く春を惜しんで、陰毛を燃やす送り火です。
京の都でさかんです。
元服の男たちが山で
大きな陰の字に並び陰毛を燃やす様は、
春の風物詩にふさわしい趣があります。
それは特に大毛字火と呼ばれ、
伝統を重んじる格式ある行事なのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
年に一度、春の勢いを借りて自分の体験した
恥ずかしい話や、自分のしでかした違法行為などを
巨大なのぼりに書き、町を練り歩くという奇祭。
ほんとうに危険なことを書いてしまい
逮捕される人もいるので、時効寸前の人は
参加しない方が無難です。
また、美しいご婦人がとても恥ずかしくて
とてもいやらしい体験を書いたのぼりを立てて
頬を赤らめ練り歩く様は、そこはかとない色香をかもしだし
大いに興奮させてくれます。
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6.SEX
これも祭りなのか、という意見もあるかとは思いますが、
SEXは立派なお祭りです。
それも春祭りとしてのSEXは、同じ時刻に100万人もの人が
各家庭、ホテル、旅館などで行ないます。
夕方の6時9分スタートなのですが、
終了時刻はそれぞれの参加者によって
かなり異なるようです。
子供の日に対して、大人の日と呼ばれることもあります。
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さて、ここに記したものは春の祭りのほんの一部です。
お祭り好きの日本人が春にかける心意気を、
おわかりいただけたでしょうか。
実はここで発表できないようなとんでもないお祭りも
まだたくさんあるのです。
それはまたの機会におゆずりしたいと思います。
この中にはこれから行なわれるお祭りも
いくつか含まれています。
みなさまも思い切って「雨どい玉みこし」あたりに
参加されてはいかがでしょうか。
ちなみに私は、今年は陰毛送り火に参加する予定です。
その参拾・・・英語
「I have two golden balls.」
「I looked her pubic hair.」
縁側で弟子の北小岩くんが、英会話を練習している。
ボーダーレスの時代を迎え、弟子も机上の学問だけでなく、
どんどん海外にでて修行をつむ必要があるのだ。
先生 「ほう、英語の勉強か。毎日、語彙を増やしていかな
あかんで。日本人は英単語を知らなさすぎる。
まあ、俺も人のことは言えんがな。
例えば、おならという重要な単語ですらわからへん。
北小岩、ちょっと調べてくれや」。
弟子 「はい。え〜と、おならおなら・・・。
先生、windと書いてあります」。
先生 「なに!!!」
弟子 「どうしたのですか。おならも匂いつきの
風みたいなものですから、そんなに不思議では
ない気がしますが」。
先生 「あほ、そんなことをいうとるんやない。
俺に多大なる影響をあたえた
ボブ・ディランはんの名曲を
思い出してみい」。
弟子 「Blowin' in the wind・・・。はっ!」
先生 「そうや! 日本ではみんなこの歌を
『風に吹かれて』として歌っていたが、
ディランはんは
『屁に吹かれて』という意味で
歌っていたのかもしれへんで」。
弟子 「なるほど。そうに違いありません!」
先生 「うむ。前々から英語は一つの語で
いろいろな意味を表わしすぎていて、
一歩間違うと大惨事を
引き起しかねないと思っていた。
俺の人生を変えたあの歌のタイトルが、
『屁に吹かれて』だったとは・・・。
『友よ、その答えは屁の中にただよっている』。
もしその正しい訳で広まっていたら、
この歌はどの程度の力を持ったのだろうか。
う〜ん。北小岩、いちおうstoneもひいてくれ」。
弟子 「stoneには石という他に、砥石や墓石
という意味もあります」。
先生 「『Like a rolling stone・・・。
俺は『転がる砥石』のように
生きようと思ったわけか。
かっちょ悪いわ。くそ。大便はなんや!!」
弟子 「fecesとか、stoolとか」。
先生 「あまり簡潔な表現とはいえんな。
大便など『ビッグ・ベン』でええやないか。
琵琶を弾きながら歌うとええ感じやで。
ベベンベンベン ビッグ・ベン〜」。
弟子 「やけ糞ですね。そういえば、先生は以前
イギリスのビッグ・ベンのそばで、
犬の糞を踏んだと言っていたではないですか」。
先生 「そうやった。あれは俺が
今までに踏んだ糞の中でも、
一、二を争うデカさやった。
踏んだ瞬間、ビッグ・ベンここにあり!
と思ったもんや。
大英帝国の底力をまざまざと見せつけられたわ」。
弟子 「下呂温泉に向かう列車の中で、後ろの人が
ゲロを吐いていたこともありましたね」。
先生 「そうやな。どういうわけか俺にはそのまんまやんけ
という出来事がよく起こるわ。
困ったもんやエロエロ」。
弟子 「何ですか、そのエロエロというのは」。
先生 「結詞や。
そんなことより、エロ本は英語で何というんや」。
弟子 「エロ本、エロ本と・・・。ありました。
an obscene bookです」。
先生 「それじゃあエロ本の勢いが表現されてへんな」。
弟子 「『ERO BOMB』なんていう
言い方はどうでしょうか」。
先生 「ほう、エロ爆弾か。上物のエロ本にはええ表現や。
なかなかセンスがよくなったのう。
一冊で何回も昇天させるような超特上のエロ本には
『ERO BOMBER(エロ爆撃機)』の
称号があたえられる」。
弟子 「カッコいいですね」。
先生 「うむ」。
こんな調子で夜更けまで『肛門』だとか『膣』だとかを
調べ続けた二人であった。
日本がいかに国際化の時代を迎えていようとも、
この二人だけは金輪際海外に出さない方がよさそうである。
しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。
その参拾壱・・・穴
出口の見えない不況。磐石を誇った日本型システムの崩壊。
その背後には、日本征服を企むあの恐ろしい組織が
あるに違いない。
小林 | 「なあ北小岩、『虎の穴』って知ってるか?」 |
弟子 | 「タイガーマスクに出てきましたね。 ミスターXを首領とし、次々に死の使者を 送り込んでくる恐ろしい組織です」。 |
小林 | 「そうや。だがな、 実はもっと恐ろしい組織があったんや。 それが今、動き出している」。 |
弟子 | 「何ていう名前ですか?」 |
小林 | 「聞いて驚くな。その組織はな、 『ケツの穴』というんじゃい!!」 |
弟子 | 「なんと!」 |
小林 | 「首領はミスターSEXという男や。 今日、タイガーはんが家に来てくれる。 それで『ケツの穴』の企みについて 対策をこうじようと思う」。 |
ピンポーン!
タイガー | 「こんにちは。タイガーマスカクです」。 |
小林 | 「タイガーはん、おひさしぶり」。 |
弟子 | 「タイガーマスカク? カが余分じゃないですか」。 |
小林 | 「まあ、ええやないか。 この方はタイガーマスクよりかなり弱いんやが、 れっきとした正義の味方や。 だがな、興奮してくるとついマスを・・・」。 |
タイガー | 「先生、その話は! それよりも『ケツの穴』のやつら、 ついに便器用小型トランポリンを 開発したそうです」。 |
弟子 | 「何ですか? 便器用小型トランポリンって」。 |
小林 | 「便器の中に密かにセットしておくトランポリンや。 これがつけられているのに気がつかずクソすると、 トランポリンでクソがはねあがり ケツにべったりや」。 |
弟子 | 「それじゃ安心してクソができません! マスカクさん、他にはどんなものがあるのですか」。 |
タイガー | 「ウォッシュレットの先に取り付けて、スイッチを押すと 金玉にパンチを繰り出してくる パンチングウォッシュレット。 運が悪いと金玉がノックアウトされます」。 |
小林 | 「心理攻撃にも長けてるで。 例えばカップルがホテルに入る。 男がフィニッシュの頃を見計らい『お客様、時間です』 という電話をかける。それを何度もしつこく続けるんや。 そうすると、その男は電話がかかってくるだけで いけなくなってしまう。 『パブロフの竿』という恐るべき技や」。 |
「うほっほっほっ」。
その時、電信柱の陰から不気味な声が鳴り響いた。
タイガー | 「その声はミスターSEX! おのれ! 今日こそは絶対に倒してやるぞ!」 |
ミスター SEX |
「俺を倒すだと? 69年早いわ! 俺に挑む前にこのフランクフルトを食ってみろ。 お前のと同じ長さ、同じ太さにしてある。どうだ!」 |
タイガー | 「くっ、食えない! これを食ったら、共食いになってしまう」。 |
小林 | 「タッ、タイガーはん・・・」 |
ミスター SEX |
「思い知ったか! お前らの知らないもっと恐ろしいことを、 百八ほどたくらんでいるぞ。うほっほっほっ」。 |
弟子 | 「きっ、消えた!」 |
小林 | 「タイガーはん、ケツの穴のやつら 日本中にすでに潜伏していて、 総攻撃を仕掛けてくるに違いあらへんな」。 |
タイガー | 「そうですね」。 |
悪の結社『ケツの穴』は、次々と恐ろしい使者を
送り込んでくるだろう。
果たしてタイガーマスカクは、
やつらを倒すことができるのか。
長く厳しい戦いになりそうだ。
『ケツの穴』の動きについては詳細が入り次第
またご報告します。
まずはみなさまも、大便をする時に
トランポリンがセットされていないか
くれぐれもご確認の上、脱糞してください。
そして、私たちと共に戦っていきましょう。
その参拾弐・・・一言
この世には二種類の男がいる。 女から辛辣な一言を浴びせられる男と、そうではない男だ。 私? もちろん前者です。 その度にちょっぴりなさけない心になりました。 今宵は友と杯を傾けながら、そんな小物チックな出来事を 静かに語り合おうと思います。銘酒「女体山」を 差しつ差されつ・・・。 |
|
小林 | 「いやあ、久しぶりの日本酒はしみるねえ。 ところでさあ、俺の行ってた高校って 昔女子校だったんだよ。お嬢様学校。 男女比が1:3だった。一学年、男100人に対して 女300人」。 |
友 | 「それってさ、酒池肉林じゃない。肉林ジャングル」。 |
小林 | 「数字だけ見ると授業中に4Pでもしてるように 見えるだろ。保健体育は体位を実地で学んだり。 でもね、そんなことはないんだよ。 イナゴがさ、ある固体数以上になると凶暴になるじゃん。 女もね、たくさんいるとかなりヤバい。 学年に4クラスほど女子クラスというのがあってさ、 壁にゴキブリが何匹もセロテープで貼られて もがいていたよ」。 |
友 | 「何だか俺たちみたいだな、そのゴキブリ」。 |
小林 | 「ああ。それでさ、俺軽音楽部とハンドボール部に 入ったんだよ。特に軽音楽部は女の力が強くて、 部長は代々女って決まってたんだ。 初めての部会の時に面白い顔をした女の先輩がいて、 思わず『がま親分!』って言っちゃった。 それが聞こえちゃってさ」。 |
友 | 「どうなった?」 |
小林 | 「教室を出るときに部長から呼び出しがかかった。 あとで校舎の裏に来いって。 仕方ないからアホ面下げていったんだ。 そしたら脅された」。 |
友 | 「何て?」 |
小林 | 「『なめるんじゃないわよ。あんた、泣かすわよ!』って」 |
友 | 「あははは。高校生にもなって女から泣かすぞって 脅されたんだ。なさけねえ」。 |
小林 | 「どうせだったら、部長の大切なところをなめた後で 『なめるんじゃないわ!』って言われたかったな」。 |
友 | 「あははは。くだらねえ」。 |
小林 | 「なさけないといえば、前に女を本気で怒らせた事が あってさ。それで思いっきり金玉を蹴りあげられたんだ。 玉が粉々に砕ける音がしたな、頭の中で。 すげえ蹴りだったよ。重い鉛がローリングしながら こみ上げてくる感じで脂汗が流れた。 でさ、蹴られた瞬間に俺が何ていったと思う?」 |
友 | 「ごめんなさい、か?」 |
小林 | 「ふつうだったら謝るか痛がるかじゃん。 でもね、俺、金玉両手で押さえながら大きな声で 『ハイ!』って返事をしちゃったんだよ」。 |
友 | 「あははは。だらしねえなあ。 教室で手をあげてるんじゃないんだから」。 |
小林 | 「いまだにあの『ハイ!』っていうのが 何を物語るのかわからないんだ」。 |
友 | 「もしかしたら、金玉が女のことを 先生だと思ってたんじゃないの。 お前の金玉って意外と優等生なのかも知れないね」。 |
小林 | 「俺、金玉で奨学金もらってたからな。んなわけねえか。 あとさ、これもなさけない話だけど、 前にいろんなことがあっていやになっちゃって、 つい弱気になって女にもう死んでしまいたいと つぶやいたことがあったんだ」。 |
友 | 「女、あせってた?」 |
小林 | 「いや。その瞬間に目がギラリと光った。 それでまた、辛辣なことを言われた」。 |
友 | 「何?」 |
小林 | 「ああ」。 |
友 | 「何だよ」。 |
小林 | 「女の目が光ってさ、『そんなことをいう男に限って、 命乞いをするんだ!』って怒鳴られた。 まだ、命乞いなんてしたことないのにさ」。 |
友 | 「げげっ、命乞いをする男のレッテルを貼られたんだ。 それって男として最低の勲章じゃん。 『命乞いをする男 小林秀雄』! 今夜は飲もう」 |
其の参拾参・・・夏の魚貝
まだまだ暑い日が続きますが、
みなさま夏バテなどされていないでしょうか。
こんな時には水中メガネを片手に、
海に出かけてみましょう。
かわいい生き物たちが、こぞってあなたを
迎えてくれますよ。
(1)エロちんあんこう ちょうちんあんこうの仲間ですが、 浅い海に住んでいます。 頭にエロ本を吊るし、それで小魚をおびき寄せ 食べてしまいます。 いいエロ本を吊るしたあんこうに、 多くの獲物が寄ってくるようです。 |
|
(2)盆やどかり 磯を歩いていると、 岩影から小さな太鼓の音が 聞こえてくることがあります。 そんな時にはそっと覗いてみてください。 そこではやどかりたちが輪になって 盆踊りをしていることでしょう。 祭りの日には特別にひじきの手拭いを おでこに巻いています。 |
|
(3)尺八 波のまにまに巨大な タツノオトシゴのように 漂っているのがこの尺八です。 泳ぎ疲れた女性たちが、 そっと口に含みます。 |
|
(4)イカくさいイカ イカといえばイカくさいと 相場がきまっていますが、 特にこの時期イカくさくなっているのが イカくさいイカです。 なぜかですって? それはイカくさい男たちが 金玉を海水で洗うので、 ただでさえイカくさいイカに イカくさい匂いがついてしまうからです。 |
|
(5)潮吹き夫人 秋の虫でもお伝えしましたが、 かまきり夫人の親友が潮吹き夫人です。 ちょっと興奮するとすぐに潮を吹いてしまいます。 でも、潮を吹いた後は ふてぶてしくタバコをふかします。 侮れません。 |
|
(6)ガリレオ・ガレイ 物理学を専攻しているカレイです。 「それでも海は動いている」 とわけのわからないことを ぶつぶついいながら、 海底を回っています。 |
|
(7)腰ぎんちゃく 最も情けない海の生き物です。 イソギンチャクそっくりですが、 人やクジラなどの腰にくっつき、 触手をすりすりしながら 近づいてきます。 |
|
(8)スッポンポン ぶらぶらさせながら泳いでいて無害ですが、 うっとうしい時には女の人が「おそまつね」 というと股間を隠して 逃げていってしまいます。 |
|
(9)海の二宮金次郎 海の中にも二宮金次郎はいます。 本を読みながら、 はまぐりを拾っています。 本に熱中するあまり 深い所まで行ってしまい、 サメに襲われることもあるようです。 |
|
(10)あそこに飛び魚 エッチな虫の代表といえば 女の人のあそこにくっついて 「おいしいつくつく」と鳴く あそこにつくつくぼうしですが、 さらに輪をかけてエッチなのが あそこに飛び魚です。 気にいった女の人を見るとあそこ目がけて 一気に300m飛び、 すきあらば中に入ろうとします。 防御策としては、 あそこに七輪をぶら下げておくのが。 |
弟子 | 「先生、野球じいさんというのはどんな人なのですか」。 |
小林 | 「高校野球を見つづけて69年という 高校野球の生き字引のような人や。今日はじいさんに、 一番のお気に入り選手について聞こう。 ここがじいさんの家や」。 |
弟子 | 「ずいぶん狭い門ですね。 あっ、ホームベースが置いてある。 向こうにピッチャーマウンドがありますよ!」。 |
門と門の間がストライクゾーンになっており、 訪問者は持参した硬球を投げストライクをとらないと 家に入れない。弟子の北小岩くんが 三十球目にやっとストライクをとった。 すると中から野球じいさんが出てきた。 |
|
野球 じいさん |
「ストライク! どうじゃ、ほどよく肩が あったまったじゃろ」。 |
話を聞きに来たのに、肩をあたためて どうするというのだろう。 |
|
小林 | 「野球じいさん、おひさしぶりです。 今日は味のあるあだ名で呼ばれ、 強い個性を持った球児を教えてもらいにきました」。 |
野球 じいさん |
「ボール! まあ、わしも69年間高校野球を 見つづけてきた男じゃからな。 高校野球のヒダの奥まで知っとるぞい」。 |
わけのわからないことをいっている。 | |
野球 じいさん |
「そうじゃなドカベン香川も なかなか愛嬌のある男じゃったが、 それ以上に印象に残っている男がいるな。 それはダイベンと呼ばれて愛された男じゃ」。 |
弟子 | 「どんな男ですか」 |
野球 じいさん |
「豪快なアイデア男じゃった。 ダイベンの守備位置は決まっておらず、 いろいろな所をこなした。 一塁を守りランナーがリードした瞬間だった。 ダイベンがランナーのケツのあたりに金玉を押しつけて グラインドさせている。審判が不信に思い近づくと ダイベンはパンツの中の金玉の隣に球を隠しており、 隠し球でピンチを救ったのじゃ。観客は 『これぞ真の隠し玉!』と大いに沸いたのじゃが、 公式記録からは削除されてしまった」。 |
小林 | 「なかなかの切れ者やな」。 |
野球 じいさん |
野球じいさん 「うむ。ピッチャーをやった時もな、 ロージンバッグを使用済みパンティに入れると 指がいい仕事をするといって、 粉をパンティに入れ替えとったな。 特に穴付きのやつを使ったときは凄かった。 球がよがりながらバットの上でのけぞるんや」。 |
弟子 | 「ほんとうですか」。 |
野球 じいさん |
「ああ。高校野球は試合開始の時サイレンが鳴るじゃろ。 ウーと鳴るところを 『ウッウーン、イヤーン、アアーン』 と鳴るように細工し、相手投手が突然性に目覚めて 配球を乱し、69点とって勝ったこともある。 そうそう、相手のメンバー表に 密かに付け足したため、うぐいす嬢が 『4番サード山本くん、背番号5、Pサイズ8センチ』 と公表してしまい、短小を気にしていたスラッガーが 全打席三振したことも」。 |
小林 | 「敵に回すと恐ろしい男やな」。 |
野球 じいさん |
「キャッチャーをやっていた時には、 ポコチンをなでたりつかんだり回したりして サインを送っていたらつい気持ちよくなってしまい、 そのままマスをかいてしまったな」。 |
弟子 | 「それほどまでに個性の強い球児がいたとは。 ダイベンか・・・。 ところでどうしてダイベンというのですか?」 |
野球 じいさん |
「味方の攻撃の時、投手の肩が冷えないよう ブルペンで球を受けていて、便意をもよおし、 その場でクソをしてしまった。 試合に負け、みんなが泣きながら 袋に土を入れていたのに、 彼だけは袋に自分のクソを入れて持ち帰ったんじゃ。 犬の散歩中クソをそのままにしてしまう 飼い主がいるが、彼はきちんとマナーを守った。 それをみんなが殊勝な男と評価したんじゃ」。 |
ダイベン・・・。それはとてつもなく礼儀正しい男。
そしてアイデアに満ちた天才球児。
このように偉大な選手が、来年の夏
甲子園に現われることを期待したい。
その参拾伍……選手権
F1グランプリの季節が近づいてきた。
昨年は大ケガからの帰還を果たしたシューマッハの
天才を見せつけるシーズンとなったが、
今年もまた、ホンダの再参戦、念願のフェラーリ
チャンピオンシップゲットなるかなど、興味が尽きない。
弟子「先生、F1楽しみですね」
小林「ああ。だがその前に、
チェックしておかなあかんものがあるな」
弟子「えっ?」
小林「それはP1グランプリや」
弟子「P1・・?」
小林「いってみれば、おちんちんのF1や」
弟子「なんと!」
小林「ほな、いってみよか」
P1グランプリ。
それはモロッコで行なわれる裏のF1である。
モロッコでは去勢されたおちんちんが、
市場に大量に出回っている。
その中でも足の速いおちんちんをプロモーターが集め、
レースを開催するのがP1なのである。
ちなみにP1とは、
「ペ二くんたちの中で1番速いの誰かな」の略である。
ブルルルルーン! マラマラマラ!!
弟子「凄い音がしますね」
小林「ああ。
中でもひときわかん高いエンジン音が聴こえるやろ。
あれが名門フェラーチの12亀頭エンジンや」
弟子「なるほど、確かに気筒ではなく
12本の亀頭がうなっています」
予選が始まった。
ポールポジション争いは、熾烈を極めた。
コースアウトし炎上。
機能を失うおちんちんが続出した。
弟子「激しい戦いですね。ところで誰が一番速いのですか」
小林「いんのうジェッターやな」
弟子「いかにも速そうな名前ですね」
小林「うむ。シューマッハもレースをするために
生まれてきたような名前やが、
いんのうジェッターも負けておらんで」
さあ、レース決勝が始まった。
ポールポジションはもちろんいんのうジェッター。
一気に飛び出し、そのまま第1コーナーを駆け抜ける。
昨年よりも、ひと皮むけた豪快な走りである。
弟子「それにしても、大きさや色がまちまちですね。
規格は厳しくないのですか」
小林「そやな。F1の場合は大きさが違えば
すぐにレギュレーション違反に問われるが、
このレースはそこは寛容やな。
なにせ個体差があるからなあ」
弟子「カリが高かったり低かったりもしますが、
それも大丈夫なのですね。
もっともカリが高すぎても、
空気抵抗がありすぎて不利ですものね」
レースは20周をすぎ、どうやら優勝争いは
いんのうジェッター、チン健二、
ちんちんかもかもの3人に絞られてきたうようだ。
弟子「あっ、リトル・ジョンが頭の先っぽから
白い液を吹き出した」
小林「それはあかん。反則や。
ターボはもう何年も前に禁止されたんや」
しばらくすると、先頭を争っていたチン健二が
左に曲がってスピンした。
アジア系ドライバーは左に曲がる傾向があるので
注意が必要だが、自分自身を制御できなかったようだ。
P1グランプリは自分の意志を裏切って
暴れだすマシンをどうなだめるか。
そして奮い立たせるかがポイントなのである。
結局、ちんちんかもかもも途中で元気がなくなり
スローダウン。中折れリタイヤとなり、
優勝はいんのうジェッターに決まった。
弟子「いんのうジェッターさん、
表彰台で黒く輝いていますね」
小林「うむ。俺もいつか、
このグランプリで走ってみたいものやな」
だが、このレースは
海外のビッグマシンばかりが参加するため、
小林先生が出場する場合は
小さいマシンだけで競われる
ジュニアの部で参戦することになるだろう。
其の参拾六・・・歪曲
近頃、外国人と話をする機会が多い。
だが、少し変なのだ。
彼らはビジネスで来日しているため、日本語が堪能だ。
それなのに日本語や、日本の文化、
習慣などをねじ曲げられた形で
教えられているようなのだ。
これは私が実際に見聞したほんの一例である。
アメリカ人のジョンと話していた時のことだ。
数日前、原宿に用事があり彼の家のすぐ前を通った。
立ち寄ろうかと思ったが、
部屋の中からガールフレンドの声が聞こえたので
遠慮してそのまま帰った。
そのことを翌日彼に告げると、
怒ったような口調でこういったのだ。
「OH、ヒデオ! 俺とお前の仲じゃないか。
そいつはイカくさいぜ!!」
イカくさい?
文脈から判断して、
「イカくさい」ではなく「水くさい」である。
日本語で「イカくさい」がどういう意味か説明すると、
ジョンはきつねにつままれたような顔でこういった。
「おかしいな。俺はイカくさいという言葉は、
よそよそしいという意味だと習ったけどな。
ニューヨークのアスホール・アカデミーでね」
それだけではない。
イギリス人のマーチンとも、同じようなことがあった。
日本とイギリスの政治の違いについて議論していた時だ。
小林 | 「だけどね、システムの違いはともかく、 日本とイギリスの若者では 政治に対する姿勢が違うよね。 日本の若いヤツらは、ノンポリティカルだよ」 |
私がそう話した時だった。
日本の現代史に強い彼は、鋭く切り込んできた。
マーチン | 「そう捨てたものでもないだろ。 もうだいぶ前のことになるけれど、 日本には学生たちが立ち上がって 権力に対抗した 60年インポと70年インポという ムーブメントがあったって聞いているぜ」 |
小林 | 「・・・・」 |
それはどう考えても、
60年アンポと70年アンポの間違いであろう。
それを告げると、彼はこういった。
マーチン | 「おかしいな。 ロンドンのアスホール・アカデミーの ティーチャーは確かに、 日本には学生たちによる インポ闘争があったといってたぜ」 |
それだけではない。
オーストラリア人の
キャサリンといっしょに町を歩いていた時のことだ。
ちり紙交換の車が向こうからやってきた。
母国でリサイクルを推進している彼女は、
うれしそうにこういった。
キャサリン | 「ちり紙交換、日本のグッドなリサイクルシステムね。 スピーカーから流れるセリフも気が利いてるわね」 |
そういうと、大きな声でちり紙交換の真似をした。
キャサリン | 「え〜、毎度おなじみのちり紙交換でございます。 ご不能になりました夫などがございましたら、 ちり紙と交換いたします」 |
キャサリンの真剣な表情から察して、
冗談でこのセリフを言っているわけではないだろう。
彼女にほんとうのセリフを伝えると、
困惑した顔でこういった。
キャサリン | 「おかしいわね。 シドニーのアスホール・アカデミーでは、 ちり紙交換の口上は こうだといっていたわ」 |
また、アスホール・アカデミーか。
やっとわかった。アスホールといえば、
スラングで「ケツの穴」のことである。
世界の破滅を狙う悪の結社「ケツの穴」のヤツらが、
世界各地で意図的に誤った日本語を教育し、
混乱に陥れようとしているのだ。
これを見逃しておくと、
世界が大変なことになってしまう。
皆様もこのように海外のスクールで
誤った日本語を教えらた外国人を見たら、
すぐに私までご報告ください。
注・悪の結社「ケツの穴」については、
あはれといふこと其の参拾壱「穴」の章に
くわしく述べられています。
其の参拾七・・・聖火
シドニーオリンピックは、
キャシー・フリーマン選手の感動的な聖火で幕を開けた。
それは世界の希望の炎だった。
その熱い舞台を観ながら、
小林先生と弟子の北小岩くんも
テレビの前で涙を浮かべていた。
弟子 | 「先生、それにしても劇的な聖火リレーでしたね」 |
小林 | 「そうやな。 オリンピックの発祥地ギリシャで点火した聖火が、 オーストラリアまで 周辺国を経由しながらやって来たんや」 |
弟子 | 「ミクロネシア連邦での最終ランナーは、 副大統領のレチリ・キリオンさんが カヌーに乗ってつとめたのですね」 |
小林 | 「うむ。他にもダイバーがトーチを持って 海底洞窟みたいなところに潜っていたなあ」 |
弟子 | 「オーストラリアでは聖火の消化を図られたり、 トーチを強奪されそうになったり、ご難続きでしたね」 |
小林 | 「よく無事にスタジアムまでたどりついたもんや。 だがな、そういう経験をつんでこそ 聖火はひと回りもふた回りも大きくなり、 輝きをますんやで」 |
弟子 | 「なるほど」 |
小林 | 「ところでどうや?」 |
弟子 | 「と申しますと・・・」 |
小林 | 「こんなにいろいろな方法で 聖火リレーが行なわれているのに、 あの人たちが黙っているわけがないというこっちゃ」 |
弟子 | 「・・・?」 |
小林 | 「ヒントは、ぺや」 |
弟子 | 「ぺ・・・・。 はっ!もしかしたら ニューギニアの方々のペニスケースですか!」 |
小林 | 「お前もなかなか鋭くなってきたようやな」 |
弟子 | 「確かに私たちの回りだけの噂ですが、 ニューギニアの方々がペニスケースに点火し、 ペニスケースをトーチにして 聖火リレーに参加したのではないかといわれています」 |
小林 | 「そうや!男の命をかけた聖火リレーや。 ペニスケースはひょうたんの一種からつくられている。 そこに火がついたと思いねえ」 |
弟子 | 「そうですね。 チリチリと音を立てながら火がイチモツに迫ってきます」 |
小林 | 「ペニスケースに火がついた男の足は速いで。 100メートル10秒フラットぐらいはいくかもしれん。 そして聖火が男自身に点火する前に、 全速力で他の人のペニスケースに点火するというわけや」 |
弟子 | 「もし火の回りがはやくて イチモツに火がついてしまったら、 その人はペニスケースを外してしまうのですか?」 |
小林 | 「甘いな、北小岩。 ペニスケースは誇り高きものなんや。 外れただけでも、 それは先祖末代までの恥とされるんやで」 |
弟子 | 「そうでしたか。 となればまさしく魂の聖火リレーですね」 |
小林 | 「そうや。 それにペニスケースは種族によって、 かなり違うという話や」 |
弟子 | 「そうなんですか」 |
小林 | 「太くて大きいものが好きな種族もいれば、 小さく曲がったものを好む種族もいる。 長いものをしている人たちもいる。 だから、他の種族のペニスケースへの点火は テクニックがいるんや」 |
弟子 | 「うへ〜。ところで先生は、 どんなペニスケースがお好みなのですか?」 |
小林 | 「そうやな。 オレやったら、太くて長くてでかくて いい感じにそったものや。 黒光りした猛々しいものがええなあ。 とっ、何をいわせるんや!」 |
弟子 | 「すっ、すみません」 |
小林 | 「とにかく、シドニーオリンピックの聖火リレーには、 あえて触れられなかった 命のやりとりがあったのではないか、 とまあそういうことやな」 |
弟子 | 「恐れ入りました」 |
聖火の翌日、田村亮子選手の金メダル獲得で、
日本は幸せな一日を過ごした。
だがこの二人には、
感動シーンなど観せるだけムダである。
其の参拾八・・・・検査
小学生時代の思い出・・・。
それは胸をハグハグさせながら
憧れの女の子との順番を待ったフォークダンスであり、
泥だらけのグラブで
夕暮れまで白球を追った草野球であり、
枕投げでふすまを破り
1時間正座させられた修学旅行である。
だが、私の心に刻み込まれた思い出の4番打者。
それはやはり、検便であろう。
小林 | 俺が小学生の頃は、 ステンレスの容器に便を詰めて持っていったもんや。 朝、保健係のヤツが集めて回るんやが、 フタがきちんとしまっていなくて 便が大量にもれてしまったヤツがいてな。 それ以来そいつは『大便大使』という たわけたあだ名をつけられていたな。 |
北小岩 | 強いのか弱いのかよくわからないあだ名ですね。 『マグマ大使VS大便大使』の戦いなんて、 興味深いですね。 |
小林 | それにしてもな、 しばらくステンレス容器の時代が続いたが、 俺はその後は容器が でかくなっていくと踏んでいたんや。 その時代の産業構造が スケールメリットを追求していたからや。 |
北小岩 | 先生は小学生の頃から そんなに難しいことを考えていたのですか! |
小林 | うむ。 例えば細長タイプの懐中電灯から電池を出してみい。 そこの空間はちょうど 大便が丸ごと一本入る大きさや。 懐中電灯型検便容器。 まず、そこいらへんに 進化するんじゃないかと考えた。 |
北小岩 | なるほど! |
小林 | それからは大きさにプラスして、 自分をさらけ出す時代が来ると読んだ。 一升瓶を容器にしてみんなにも見てもらう。 その次に来るのは、メガスケールの時代や。 一斗樽に詰めた便を各自が 肩にかついで持ってくるようになるんじゃないかと。 |
北小岩 | 樽にあふれんばかりの大便を詰め込む。 まさに日本男児ですね。 検便をかついだ侍たちです。 |
小林 | だがな、俺の予想に反して 『ポキール』になってしまった。 あのセロハンをケツの穴に ぴたっとくっつけるヤツや。 |
北小岩 | 無念でしたね。 ところで私の父などは 便をマッチ箱に入れて持っていったらしいのですが、 もっと昔の人はどうしていたのでしょうか? |
小林 | お前もなかなか鋭くなったな。 その質問には即答できん。 これは検便さんを訪ねてうかがうしかないで。 |
検便さん | そうですね。 平安時代の頃はもっとぎょう虫検査も 風流だったんですよ。 いくつかの例外はありましたが。 便を容器で持ち歩かずに、 検査を生業とする人に診てもらっていたのです。 |
小林 | それはどういう人ですか。 |
検便さん | その人たちは『呼びかけ師』と呼ばれていました。 人のお尻の穴に口をつけて 中にいるぎょう虫に呼びかけるのです。 いろいろな流派がありますが、すべて世襲です。 泣き落とし派。和歌を詠む派。脅しをかける派。 まさに百花繚乱です。 そうだ、今日は40代目を襲名した 穴貫之さんと屁村便左ェ門さんが 遊びに来ていますので、 穴さんに実演していただきましょうか。 |
穴貫之 | 初めまして。穴貫之と申します。 さっそくですが北小岩さん。 パンツを脱いでこちらにお尻を向けてください。 はい、では詠みますよ! 『深穴の 臭気ににごる 肛門の 君が心は 我に匂わん〜』 |
小林 | 見事や、穴さん! それでは俺もやってもらおうかな。 今度は便左ェ門さん。お手前を拝見いたします。 |
検便さん | そっ、それは! |
小林 | 何や、検便さん。 |
検便さん | なっ、何でもありません! |
便左ェ門 | では先生、尻の力を抜いてください。いきますよ。 ぎょう虫、覚悟!うりゃぁ〜!!!! |
小林 | やっ、止めてくれ! それはぎょう虫検査じゃなくて、 フィスト・ファッ・・・く〜 |
便左ェ門 | ぎょう虫とりゃぁ〜!!! |
小林 | ケッ、ケツの穴が〜〜〜!!!!! |
小林 | 「それにしても、バイオテクノロジーの進歩には 目を見張るものがあるな」 |
北小岩 | 「個人の遺伝的特徴に応じた オーダーメード医療なども 可能になりそうですね。 そういえば、先日読んだ新聞に出ていた、 遺伝子組み換えの初歩的な実験が 来春から中学や高校でできるようになりそうだ との記事には驚きました」 |
小林 | 「そうやな。 21世紀はバイオテクノロジーの世紀 といわれているが、 いよいよ身近なところにまで 遺伝子の波は押し寄せているわな」 |
北小岩 | 「そうです。 遺伝子工学に関する特許も、 熾烈な競争になっています」 |
小林 | 「特許は早い者勝ちやからな。 俺たちもまあひとつ、考えてみるか」 |
北小岩 | 「そこです、先生。 日本はIT化の波に乗り遅れてしまいました。 もう、バイオテクノロジーの波に 乗り遅れるわけにはいきません。 そこで私も遺伝子工学に関連した特許を 取得しようと思い、いろいろ考案してまいりました」 |
小林 | 「ほんまか!どれ、見せてみい。 なになに・・・ 『特許申請案その1・遺伝子組み換えによる 玉金エアバッグ』・・・」 |
北小岩 | 「はい。早漏の人の遺伝子を組み換えて、 その人を玉金にエアバッグが組み込まれた タフな男にかえるのです。 早漏の人が女性とお楽しみの最中、 すぐにイッてしまいそうになったら 玉金が割れて中からエアバッグが飛び出します。 これでイク寸前に 女性とポコチンに一定の距離が保たれ、 早漏の危険が回避できます。 ポコが平静を取り戻したら、トライアゲインです」 |
小林 | 「なるほど! 女性の 『えっ?もう終わっちゃったの!信じられな〜い』 の一言は、男にとってはしんどいもんや。 これなら堂々とプライドが保てるっちゅうもんやな。 だが、玉金は二つしかないので2回しか使えん。 それが今後の課題やな。 次はなんや。 ほう『特許申請案その2・ 遺伝子組み換えによる手のひら肛門』か。 だいたい想像がつくな。 遺伝子を組み換えて手のひらに肛門がくるようにし、 手のひらで屁をかますんやろ」 |
北小岩 | 「さすが先生です。にぎりっ屁をする時、 お尻から相手の鼻先までは距離があるため、 途中で屁が逃げてしまいます。 せっかく精魂込めてにぎりっ屁をしたのに、 『何だ、それほど臭くないじゃん』 といわれてしまうことがよくあります。 でも、手のひらに肛門があれば ダイレクトなにぎりっ屁が楽しめ、 相手に痛恨の一打を浴びせることができるのです」 |
小林 | 「ええやないか!」 |
次のメモには 『特許申請案その3・遺伝子組み換えによる陰毛孔雀』 と書かれている。 まさか、孔雀とでも 遺伝子組み換えしようというのであろうか。 |
|
小林 | 「そうや。北小岩のように地味な男は、 もっとセックスアピールせなあかん。 孔雀はメスよりもオスのほうがおしゃれや。 オスが美しい羽を開き、メスを口説くんや」 |
北小岩 | 「そうなんです。 そこからヒントを得ました。 遺伝子を組み換えて 陰毛の機能を極限まで高めるのです。 この人こそは!と思う女性を見かけたら、 孔雀の羽のようにぐわっと陰毛を開いてみせます。 そうすれば、その女性はあまりの美しさに クラッとくるでしょう」 |
小林 | 「男たるもの己の遺伝子を存続させていくためには、 積極性はかかせんからな」 |
最後の一枚には 『特許申請案その4・遺伝子組み換えによる乳モード』 と書いてあった。 これはどうやら、女性の乳首を使って インターネットするものらしい。 遺伝子を組み換えて乳首をプッシュダイヤル化し、 そこを自分で何度もプッシュして文章をつくるのだ。 『21世紀は、iモードより気持ちEメールの乳モード』 などというどうしようもないキャッチフレーズまで 添えてある。 |
|
小林 | 「うむ。どれもこれも即実用可能はものばかりや! 新世紀の特許に値する。 でかしたぞ、北小岩!特許はスピードが命や。 これからすぐに、この珠玉の案を持って 特許庁に突撃や!」 |
北小岩 | 「はい、先生!」 |
北小岩 | 「決まり手が現在の七十手になったのは 1960年だそうです。つまり40年 ぶりに増えることになるのですね」 |
小林 | 「そうやな。見直しの大きな理由は、 モンゴル出身力士の増加にあるそうや。 相手を倒して勝負をつけるモンゴル相撲では、 相手の背中をとることが絶対有利なんや。 近年、素早い動きで背後から攻めるモンゴル勢が 数多く入門し、従来の決まり手だけでは 定義しきれんようになったらしい」 |
北小岩 | 「ところで実演会はいかがでしたか? 相撲ファンの私としましては、 どんな技が加わったのか一刻も早く知りたいです」 |
小林 | 「今回の改革を担当した決まり手係は 『蟻のト渡り親方』と『鶯の谷渡り親方』や。 この希代の名力士が、 体を張って数々の技を実演しておられた」 |
北小岩 | 「面白そうな技はございましたか?」 |
小林 | 「相手を肩にかつぎ上げてから反る『しゅもく反り』、 まわしの結び目あたりをつかみ上げて落とす 『つかみ投げ』など奥深い技が多かった。 だが、特に印象に残ったのは『ウタマロ自慢』やな。 外人女性はその昔、 歌麿の絵を見て日本男児の持ちモノに 畏怖と憧憬を抱いたそうやないか。 そこがポイントや。 まわしでちんちんをつぶすようし、 通常よりかなり大きめに見せる。 その痛々しいほどもっこりした部分を スケルトンにしておくんや。 相手に 『今俺がこの力士に勝ってもそれはひと時のこと。 これからの人生でこいつはその持ちモノを豪快に使い、 たくさんいい思いをするのではないか』 という絶望感に陥らせる心理技や」 |
北小岩 | 「相撲も年々高度になってきてますね」 |
小林 | 「それとな、思わず瞠目した技が『シ〜、とっと!』や。 よく幼児がお母さんに後ろから太ももを抱えられて、 外でおしっこさせられるやろ。 あの体勢をとらされ『シ〜、とっと!』といわれたまま 土俵の外に運ばれてしまうんや」 |
北小岩 | 「それは一生の屈辱です!」 |
小林 | 「そうや。さらに驚愕したのは来場所から 15歳未満の観戦を禁じる R指定の技が追加されたことや」 |
北小岩 | 「なんと!」 |
小林 | 「『一本抜き』という大技や。 相手のまわしを片手でむんずとつかみ 動かせないようにする。 そしてまわしの上からあの部分を やさしくさすり続けるんや。 最初は技から逃れようともがくが そのうち気持ちよくなり、つい身をまかせてしまう。 フィニッシュしそうになったら行司に合図せなあかん。 行司はその合図を受けて 『一本抜き、待ったなし!!』と大声で宣告し 力士はあえなく昇天。 大黒星を喫するというわけや」 |
北小岩 | 「なるほど。 そのような恥ずかしい技は、 まだ人生経験の浅い人たちは 観てはいけないというわけですね」 |
小林 | 「そうや。『一本抜き』の体勢に入ったら、 15歳未満のものは一時会場から退出せねばならん。 テレビ観戦の場合はスイッチを切らねばあかん」 |
北小岩 | 「それが決まるまでには3分ぐらいかかるので、 会場から出たりテレビを消したりする時間が あるというわけですね」 |
小林 | 「うむ。 それからここだけの話やが、弓取式も変わるそうや。 名前からいってかなり豪勢やぞ。 新弓取式は『ナン金玉簾』というんや」 |
北小岩 | 「南京玉簾の間違いではないですか?」 |
小林 | 「そんな生やさしいものではない。 『ナン金玉簾』は荘厳な金玉の流れ星や」 |
北小岩 | 「うほっ!」 |
小林 | 「ナンというインドの食べ物があるやろ。 3メートルある特大のナンをつくり 土俵に横にして立てる。 その稜線にそって力士たちが 金玉を流れ星の如く移動させていく。 それに参加できるのは金玉のでかい順に三人までや。 通常の番付とは違う。 正真正銘『金玉の三役』。 陰毛という影に、金玉というはかない光り。 まさに陰翳礼讃の世界や」 |
北小岩 | 「日本に脈々と受け継がれてきた古き良き味わいですね」 |
小林 | 「それだけやないで。 金玉が流れている間に願い事をすると、 二つまで願いがかなうという寸法や」 |
北小岩 | 「金玉は二つ。願いも二つ」 |
小林 | 「掛け声はもちろん『金、たまや〜!』や。 これで弓取式の途中に席を立つ不埒な者が いなくなるやろ」 |
小林 | 「今日お会いする中出郁さんはな、 俺の遠い親戚筋にあたるんや」 |
弟子 | 「男性ですよね。 だけど『いく』というのは ちょっと女性的な感じのする名前ですね」 |
小林 | 「一瞬そう思うが、実際これほど男らしい名前はないで」 |
弟子 | 「中出郁さん。 中でいく・・。中でイク・・。 たっ、確かに!!」 |
小林 | 「父君が威風堂々とした日本男児に育つよう、 熟考の末に命名されたんや。 中出さんは今年で69歳やが、 三島由紀夫を生涯のライバルと目している」 |
弟子 | 「ということは小説家なのですね」 |
小林 | 「違う。 沼津でふんどしを作っている。 つまりふんどし職人や」 |
弟子 | 「ふんどし職人の方が なぜ三島さんのライバルなのですか?」 |
小林 | 「つまりな、記憶力が尋常やない。 三島の先を行く男や。 それを自負しておられるから沼津に住んでいる。 東海道本線で三島の先は沼津やからな」 |
沼津駅から徒歩1分。 鯵の開きが並ぶ魚屋さんの裏に、中出氏の仕事場はある。 |
|
小林 | 「こんにちは。ごぶさたしております」 |
中出 | 「おっ、秀雄くんか。まあ上がってくれたまえ」 |
中出氏は創作中のふんどしを染めながらいう。 | |
小林 | 「今日は中出さんの最初の記憶について おうかがいしにきました」 |
中出 | 「はっきりいっておきますが、 三島の記憶など私からみれば貧弱な屁のようなものです。 彼は生後すぐに使ったタライの記憶がせいぜいですが、 私にはそれ以前の記憶があります」 |
弟子 | 「と申しますと?」 |
中出 | 「精子の時の記憶があるのです」 |
弟子 | 「なんと!」 |
中出 | 「父の睾丸で泳いでいたのが最初の記憶です。 睾丸のほどよい揺れはゆりかごのようでした。 だが、その日は突然来ました。 みんなでお医者さんごっこをして遊んでいると、 大地震が起きたのです。 前へ後ろへ前へ後ろへと、 ガンガン壁に打ちつけられました。 気を失いかけたその時です。 『死ぬ!』という絶叫が聞こえ、 マグマのようなものに吹き飛ばされました。 こっちの方が死ぬ!と思いました」 |
弟子 | 「それからどうされましたか?」 |
中出 | 「3億匹の友だちと生温かい沼地に投げ出されました。 私は前方にいたので助かりましたが、 後方にいた2億匹はその後すぐ外に 押し出されてしまいました。 『箱、とってよ〜』という気だるい声が聞こえ、 白い大きなものが入口に押しつけられましたから、 彼らは拭かれ死にしてしまったのでしょう」 |
小林 | 「それでもまだ1億匹以上残っとるわけや。 地獄やなかったですか? 日本の総人口で命がけのマラソンするようなもんやから」 |
中出 | 「受精できるのがたった1匹ということを 知らなかったので、 ギスギスした雰囲気はありませんでした。 私は最初、道を間違え 酸っぱ苦い匂いのする方向に進んでしまいました。 その穴に入りかけた時、誰かが叫びました。 『そこは尿道だ!』と。 もし彼が教えてくれなければ、 私はおしっこといっしょに流され死んでいたでしょう」 |
弟子 | 「危機一髪でしたね」 |
中出 | 「それからは励ましあい必死で泳ぎました。 ですがだいぶ進んだところで前を泳いでいたヤツが こちらを振り返り 『ここから先にはいかせねえ!俺が受精するんだ』 といって竹槍で襲いかかってきたのです。 ヤツは睾丸の中で 『家庭の医学』みたいな本を読んでいたので、 1匹だけが生き延びられることを知っていたのですね」 |
弟子 | 「竹槍まで用意しているとは恐ろしい男です。 パニックにはなりませんでしたか?」 |
中出 | 「そこからはもう思い出したくないほどの修羅場です。 お互い殴る蹴る。 といっても精子には手足がないので 頭突きで戦うか、尻尾で打ったり 巻きつけて首をしめたりするしかありません」 |
弟子 | 「中出さんはどうされたのですか?」 |
中出 | 「固くてでかかったんですよ。 いや、そこじゃなくて頭がです。 私はなみいる精子をヘッドバットで倒し進みました。 ついにゴールだと思った時でした。 竹槍で前をふさがれ、 ヤツが卵に頭を突っ込もうとしました。 先に入れられたら終わりです。 とっさに叫びました。 『あそこでイイ女が股をおっぴろげている!』と。 ヤツは思わずそちらを向いてしまい、 そのすきに卵に入り込んだのです」 |
弟子 | 「そいつはどうしました?」 |
中出 | 「『ファック・ユー』といって中指を突きたてたので、 こちらは親指を人差し指と中指の間から グイッと出し手を振りました。 膜は閉じられ3億匹の友たちに永遠の別れを告げました。 苦しい戦いでした。 人には子宮回帰願望があるといわれますが、 そこに至るまでが黙示録でしたから、 私にはむしろ睾丸回帰願望がありますね」 |
小林 | 「そうやな。 人はちんちんから飛び出した時から戦いの連続や。 睾丸でぶらぶらしていた時が 一番幸せだったのかもしれんな。 中出さん、正月早々貴重な話をありがとうございました」 |
小林先生と北小岩くんは、 東京行き最終の東海道本線に飛び乗った。 |
|
弟子 | 「先生、またいつかその先のお話も おうかがいしたいですね。 ところで、もし三島由紀夫さんが 生前に中出さんの話を聞いていたら どうしていたでしょうか?」 |
小林 | 「ガラス細工のようにデリケートな人や。 きっと自分より記憶の優れた男に遭遇したショックで 筆を折っていただろうな」 |
弟子 | 「先生、お願いがあります」 |
小林 | 「なんや、あらたまって?」 |
弟子 | 「先日、中出郁さんから精子の時のことを おうかがいしたのですが、 その後どうなったのか気になって仕方ないのです。 もう一度、お会いすることはできませんか?」 |
小林 | 「そうか。 実はな、俺もその先を知りたかったんや。 ほな、いってみよか」 |
小林先生と弟子の北小岩くんは再び中出郁氏を訪問した。 中出氏とは精子の頃からの記憶を持つ男なのだ。 (詳しくは第四拾弐「記憶」をご参照ください) |
|
小林 | 「こんにちは。度々すみません。 先日のお話の続きをお聞きしにきました」 |
中出 | 「おっ、秀雄くんに北小岩くんか。 まあ上がってくれたまえ。 確かこの間は受精するまでを話したね。 それからね、とても辛い体験をしたんだよ」 |
弟子 | 「それは他の精子と戦って 勝ち残るよりも辛かったのですか?」 |
中出 | 「あの時とはまったく種類の異なる苦しみなんだ。 君はエディプス・コンプレックスを知っているかね」 |
弟子 | 「はい。子供が持つ同性の親への敵意のことで、 ギリシャ悲劇から命名されました。 男の子の場合は、母親を取り合う ライバルである父親に対する 殺害願望という形を取ります。 フロイトの精神分析です」 |
中出 | 「そうですね。 だが、私はその分析に大いなる疑問を持っています。 なぜ男児が父殺しへの願望を抱くのか。 それは母を独占したいということではなく、 実体験による父への不信感からなのです」 |
弟子 | 「と申しますと?」 |
中出 | 「受精して3ヶ月、私は子宮の中で 至福の日々を過ごしました。 子宮にいると両親の会話が手にとるようにわかります。 父は母にも私にもとてもやさしかった。 お腹に口を近づけ 『男の子だったらキャッチボールしような。 女の子だったらお前が最後の恋人だよ』 というあたたい言葉をかけてくれました。 うれしかった。 この世に生を受けたことを神様に感謝しました。 それが4ヶ月を過ぎた頃に豹変したのです」 |
中出氏は突然怪談話の口調になった。 | |
中出 | 「その日も子宮で夢見ごこちでした。 その時です、父の悪魔のささやきが聞こえたのは。 『なあ、そろそろいいだろう。 どうせもうできちゃってるんだから、 ナマで楽しもうよ』。 私は耳を疑いました。 母は 『もう遅いんだから寝ましょう』 とやんわり拒みました。 でも、すぐに父の中指が入ってきたのです。 私はできる限りの声で叫ぼうとしました。 『やめて、お父さん!』」。 |
小林 | 「お父さんはどうしましたか!」 |
中出 | 「私の声は耳に届きませんでした。 そのうちに母の呼吸も乱れてきた。 息が荒くなると体内の酸素が不足するので、 胎児まで苦しくなってしまうのです。 父はそれでもおかまいなしでした。 指より何倍も太いモノがねじ込まれてきました。 父のモノが眼前に迫り『ぶつかる!』と思うと 遠ざかりました。 そのえんえんとした繰り返しです。 お寺の鐘に顔を固定され、 顔面を目がけて何度も何度も 撞木をはなたれている状態を思い浮かべてください。 それに父のモノと受精後4ヶ月の私では 大きさが何十倍も違います。 あの時の恐怖は今でも悪夢に見るほどです」 |
中出氏はこめかみの血管を浮き立たせながら続けた。 |
|
中出 | 「それから子宮内に乱気流が発生しました。 強引に体を180度回転させられたのです」 |
小林 | 「私の想像ですが、お母様が 180度体位をかえられたのではないですか?」 |
中出 | 「さすが秀雄くんだね。 乱気流が起こる直前に 『ふふっ、次は後ろから行くぞ!』 という声がしました。 正常位から後背位にされたのです。 私という命を生み出しておきながら、 自分の性欲を抑えきれずに結合してしまう。 のみならず、後ろからも楽しんでしまう。 私は再び叫んでいました。 『お父さん、お父さん、やっ、やめて!!』。 しばらくすると上の方から 『死ぬ!』 という叫びが聞こえました。 こっちの方が死ぬかと思いました」 |
弟子 | 「ふう〜。 でもこれでやっと恐怖から解放されたのですね」 |
中出 | 「いや、それだけではすみませんでした。 失神状態から覚めると、 子宮壁をドンドン叩く音がしました。 そうです。 戦いを勝ち抜いた精子がやって来たのです。 彼は必死に入ってこようとしました。 子宮壁に顔をつけ凄まじい形相でにらむのです。 それでも入れることはできません。 彼を迎え入れることは、 すなわち私の死を意味するからです。 どのくらいたったでしょうか。 『くっ、苦しい!頼むから中へ・・・』 といって口から泡を吹き死んでいきました」 |
小林 | 「・・・・」 |
中出 | 「なぜこんなことになってしまったのか。 それは母が妊娠中にもかかわらず、 情欲の黒い力をまき散らした父のせいなのです。 精神的にも肉体的にも不安定な私がいるのに、 前へ後ろへ前へ後ろへと突き続けました。 おまけにバックからも攻めて生命を危険にさらしました。 父殺しの願望というのは、 フロイトのいうような母を 独占したいがためのものではなく、 生命の危機に陥らせた父への不信感、寂しさ、恨みが 根本なのです」 二人はその真理の重大さに言葉を失った。 |
小林 | 「いやあ、まったくその通りだと思います。 中出さん、お忙しい中貴重な、 そして恐るべき体験談をありがとうございました。 また機会を改め、その先をうかがわせてください」 |
中出 | 「そうですか。 では、いつでも遊びに来てください」 小林先生と北小岩くんは、 東京行き最終の東海道本線に飛び乗った。 |
弟子 | 「それにしても凄まじい話でしたね」 |
小林 | 「うむ。 精子の時からの記憶を持つ 中出さんならではの魂の証言やった。 考えてみれば生物はDNAという極小の単位でさえ 遠い過去からのさまざまな情報が蓄積されている。 ましてや母のお腹にいた頃のことは、 リアルに思い出せる記憶としては持ち得なくとも、 その記憶は脳や体のどこかに 確実に存在しているはずやからな」 |
S木 | 「今日は俺の大切な記念日だからね、 ぜひ小林くんに祝って欲しいと思ったんだ」 |
小林 | 「何の記念日ですか?」 |
S木 | 「20年前の今日、 俺と同志たちが完全燃焼した日なんだよ」 |
S木さんの話は、いつもどこか大げさで匂うものがある。 | |
小林 | 「完全燃焼とかいって、 屁でも燃やしていたんでしょう」 |
S木 | 「えっ、どうしてわかったの?実はそうなんだよ。 友だちと一緒に会を結成してたんだ」 |
小林 | 「どんな会ですか?」 |
S木 | 「屁燃す会(へもすかい)っていうんだよ。 最盛期は10人ほどいたね。 みんなで俺の家に集まって、 ライターで屁に火をつける。 最初、やり方がよくわからなくて、 パンツを脱いで着火しちゃって、 ケツ毛に引火して火傷したよ。 それからいろいろな体勢を試してみたけど、 安全を考えると薄めのズボンを履いて 仰向けに寝っころがり、 足を顔のほうにもってきて燃やすのが ベストだとわかった。 小林くんの好きな言葉でいえば、 まんぐり返しってやつだな」 |
安全のことを本気で考えるのなら、 屁など燃やさないのがベストだろう。それに、私 はまんぐり返しなどという言葉は好きではない。 |
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S木 | 「でも、初めて成功して青い炎を目にした時には 胸がじ〜んとしたなあ。 だって、自分の体の中にこんなに凄いエネルギーが 眠っていたんだぜ。 俺も地球の一部なんだって実感したよ。 ほら、人間って地球から生まれたわけじゃん。 だから地球にあるすべてのエネルギーが 体の中に存在しているはずなんだよ。 屁が天然ガス、糞が石炭、小便が水力、 セキやくしゃみが風力、射精が原子力。なっ。 だけど、 どうしても原油にあたるものがわからないんだ。 まだ誰も知らなくて、 体のどこかによく燃える液体が埋蔵されているんだと 思う」 |
いわれてみればそんな気がしてくるから不思議だ。 | |
S木 | 「長期間焼きイモを食べた屁は赤、大豆は緑、 雑食は青の炎という話を読んだので、 食べ物をかえてみたけどよくわからなかった。 でも、腹を壊している時にビビビビッと出る屁は 線香花火だったな。 それからね、俺の家は ハエがたくさん飛んでいてうっとうしかったんだよ。 だから電気を消して懐中電灯でケツに光を当てて おびき寄せた。根気くらべだったね。 でもついに近寄ってきたんだ。 すかさず屁をこいて火を着け、ぶっとばしてやったよ。 あの時思ったね。俺はハエに勝ったって」 |
そこが彼の恐ろしいところなのだ。 屁を燃やしたことのある人はかなりいると思うが、 ハエをおびき寄せて屁で爆死させようとする男など、 世界に何人いるだろうか。 S木さんはその後も、屁でイモを焼くために 針金でケツにイモを固定する 「屁焼きイモホルダー」や、 フラれた女と一緒に移っている写真を屁で燃やすための 「彼女よさよオナラ写真立て」 というバカげたものまでつくったという。 S木さんをフッた彼女も、 まさか屁で写真を燃やされたとは思っていないだろう。 |
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S木 | 「でもそうこうしているうちに 二年ぐらいたっちゃってさ。 このまま続けていても発展性がないから、 会を解散しようっていう話になったんだ。 それで20年前の今日、俺の家に集まった。 最後まで残ったメンバーは三人だったよ」 |
小林 | 「ずいぶん減ってしまったんですね」 |
S木 | 「そうなんだよ。最後だからビールで乾杯しながら、 イモとかニラとかいい屁のもとをたくさん食ったんだ。 そろそろしめようということになり、 三人は電気を消して屁を燃やす体勢をとった。 そしたらね、浜部っていうヤツが 蛍の光を歌いだしたんだ。 俺ともう一人も小さな声で口ずさんだ。 蛍の光に合わせて炎が飛び交う中、会は解散した。 でもね、これで屁から卒業かと思うと 悲しくなってきちゃってさ。 屁を燃やしながら俺、泣いちゃったんだよ。 横を見たら浜部も泣いていた。 今思うとかなりまぬけなんだけどね」 |
小林 | 「快調なフライトやな。 成田をたってどれくらいたったんや?」 |
北小岩 | 「そうですね。5時間ぐらいですかね」 |
小林 | 「もうそんなにたつか。 俺ははしゃぎすぎて疲れたから寝るわ」 |
北小岩 | 「私も睡魔に襲われております。先生、おやすみなさい」 |
二人が目をつむったその時だった。 『ハアハアハア。アア〜ン。ハアハアハア。ウウ〜ン』 前のシートから息苦しそうな声が聞こえた。 あえぎ声のようでもある。 かなり興奮している。 「スチュワーデスさん、大変です! 前方の外人レディの方が、苦しそうにしております」 とっさに北小岩くんが叫んだ。 日本人スチュワーデスが飛んできて、 もだえる女性客の様子をうかがった。 そして後ろを振り返ると、美しい顔を引き締めこう言った。 「気圧の変化と緊張のため、 女性のお客様の性欲が高まり、 極度に欲情してしまわれたようです。 脈拍が異常に上がり、呼吸困難におちいっています。 このままでは大変危険です!」 さらに大きな声で、こう呼びかけた。 「お客様の中に、AV男優の方はいらっしゃいませんか?」 「Attention please! Are there any actors of pornography here?」 スチュワーデスは日本語と英語で、 AV男優が搭乗していないか確認している。 よくドラマで、機内で心臓発作の急患が出て、 医者がいないか呼びかけることがあるが、 彼女がとっさに機転をきかせたのだろう。 確かに、女性の欲情を素から静めるためには、 医者よりもAV男優の方が適任なのだ。 だが、名乗り出るものはいない。 通路横に座っているイチモツが立派そうな外人も、 自信がないのかうつむいてしまっている。 |
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小林 | 「おらんようやな。どや、北小岩?」 |
北小岩 | 「残念ながら私には、 外人レディを満足させることはできません」 |
北小岩くんが蚊の鳴くような声でつぶやいた時、 チョコレート色に日焼けした筋肉質の男が立ち上がった。 |
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AV男優 | 「私はAV男優をしております。 もし、お役に立てるようでしたら、ご協力いたします」 |
スチュワーデス | 「ありがとうございます。ではすぐこちらへ!」 |
息も絶え絶えの外人女性を抱きかかえたAV男優が 機内前方に行くと、カーテンがひかれた。 機内は水を打ったようだ。 時々、女性の声が漏れてくる。 客は固唾を飲んでカーテンを凝視。 男優の動きに合わせて、カーテンが大きく揺れる。 そして数分後、雄叫びがあがった。 「I’m coming!!!!!!!!!!!」 しばらくすると、AV男優がカーテンから顔をのぞかせた。 |
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AV男優 | 「もうだいじょうぶです。 彼女の欲情は私がおさめました」 |
一瞬間をおいて、外人客から歓声があがった。 「ヘイ、チョコレートボーイ!ブラボー!!」。 一人が拍手をするとその輪が広がり、 機内にはスタンディングオベーションが巻き起こった。 全員が心からこの若者に讃辞を惜しまなかった。 |
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小林 | 「さすがAV男優はんや。 俺は以前、彼が出演しているビデオを観たことがある。 相手がどんな女性であっても すぐに臨戦態勢をととのえ、 極上の仕事をこなしておった。 日々、そんな過酷な鍛錬をつんできたからこそ、 いざという時にベストの力を発揮することが できたんや。 彼女を救える男は他に誰もおらんかった。 日本人よりオープンマインドで、 いいモチモノをしている外人男性でさえ 引いてしまった。 それをあのAV男優が堂々となし遂げたんや」 |
北小岩 | 「ほんとに感動いたしました。 彼こそ日本男児の誇りです!」 |
外人女性は平静をとりもどし、 脈拍も呼吸も落ち着いたようだ。 飛行機も無事着陸。 小林先生と北小岩くんはタラップを降り、 空港のロビーで一息ついた。 |
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小林 | 「んっ、先ほどのスチュワーデスはんが歩いてくるで」 |
北小岩 | 「あっ、手帳を落としてしまったことに気がつきません」 |
北小岩くんは素早くかけより手帳を拾い上げた。 | |
北小岩 | 「スチュワーデスさん、これ落ちました」 |
スチュ ワーデス |
「どうもありがとうございます」 |
北小岩くんが手渡すと、 スチュワーデスは聖母のような微笑みを残して 去っていった。 |
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北小岩 | 「先生、大変です! 今、手帳の中身がちらっと見えてしまいました」 |
小林 | 「何が書いてあったんや?」 |
北小岩 | 「それがフライトとフライトの間に、 2Hとか3Hとか書かれていたのです」 |
小林 | 「なにっ! あの、アリア様のように 神々しいスチュワーデスはんが、 フライトの合間合間に 2回も3回もHを楽しんでおるということか!」 |
北小岩 | 「そうに違いありません! 何だかわたくし、ひじょうに興奮してまいりました」 |
小林 | 「気をしっかり持たなあかんで! だが、俺もめっちゃ突き上げられてきたわ。 あ〜!」 |