松本 |
僕は、その、たけしさんがバイク事故を起こしたときに、
「けっこうヤバイ」って言われてて復活したときにねぇ、
僕は正直「勝てるな」って思いましたね……。
で、あれでもし終わると、僕はもう抜けないやろなぁって。
それはね、非常に難しいコメントですけどね(笑)、
でも、そう思いましたねぇ、本音としてはですね。 |
糸井 |
夭折した天才と同じになっちゃうからねぇ。
やっぱその加減なんじゃないかって思うよ、
昔だと、コレやったからあの人は抜けないという
年表に書きやすい事実があったりするじゃないですか。
たとえば、たけしさんで言うと、
映画で外国で賞もらったというのが記録に残るよねぇ。
でも、本人は「それじゃない」って思ってるような
気がするんだぁ。
「そーいうことじゃないんだよな」みたいな。
そうなると、これからって、年表に残るような活躍って、
書けないようなことばっかりになるよねぇ。 |
松本 |
そうですよね。 |
糸井 |
記憶に残るというか……。
今、そういう意味では、松本人志はまだなんだね? |
松本 |
あのー、まだですねぇ。
うーん、じゃどうしたらいちばん気持ちよく、
天下泰平で(笑)いけるのか。
僕もわからないんですけど……そうですねぇ、
どうなっていくんでしょう? |
糸井 |
僕にもわかんないんですよ。
そういうのね、1回チャラになっちゃうんじゃないかな。
辰吉は“見えないベルト”ねらってないよねぇ。 |
松本 |
ねらってないですねぇ。 |
糸井 |
でもベルトつけちゃったよねぇ。 |
松本 |
いつしかねぇ。 |
糸井 |
そのなかには、あの顔も要素としてあったり、
しゃべり方もあったり、親父の顔もあったり……、
運じゃないか、っていう気がするのよ、このごろは。
昔だと、追求してみようとか思ったんだけど、
いい歳になって考えてみるとねぇ、運かなぁ。
たとえば「松本人志、坊主!」って出るじゃないですか。
で、坊主はぜったい人が真似しないだろうな
って気分はあるわけだよ。
で、「またそういう道に行くんだからぁ」って言われる。
つまりお笑いタレントが「カッコイイ」って
言われちゃうことに対する
「それ居心地わるいな」って感じで、
「わしゃあネクタイここに入れてやる」
みたいに逆らうじゃない。
で、「えーい、坊主だ」ってときに、
「これでオマエら、カッコイイって言わないだろ」って。
そしたらまた言うじゃない。 |
松本 |
そうなんですよ。 |
糸井 |
で、その後って、俺、残酷な言い方をすると、
何やっても言われなくなくなるときってのが、
可能性としてぜったいあるわけですよねぇ。
「こんなにおもしろいのに客が少なくなってきた」と。
で、そのときに「あれ、なんなんでだろう?」っていうね。
それはみんな経験してるんですよね、
志ん生だって経験してきてるわけですよ。
で、そのときに初めて、自分のやりたいことが
本当は見えるのなかぁ。 |
松本 |
それはねぇ、たぶん当たってると思いますね。
たぶんそうなんだと思いますねぇ。 |
糸井 |
その言い方って、ある意味ですごいきついんだけど、
いちばん自分がほしいものを探すためには、
その道しかないような気がするんですよ。
たけしさんでも、刑事事件があって、
死に損ないが1回あって、
あの2回ってのはすごい財産ですよね。
「俺がいちばんやりたいのはなんだろう?」
って思うためには。
あれがなかったら、たけしさんって、
今ぜんぜんちがう場所にいたかもしれないよねぇ。
やっぱり伝説になる人ってのは“事故”がありますよね。 |
松本 |
そうなんですよね。 |
糸井 |
それって、もう自分じゃどうしようもない。 |
松本 |
うん、そうなんですよ。
いや、僕はね、べつになんや、傷害で1回くらい
捕まっても、ぜんぜんいいんですけどねぇ。
無理からやるのもこれ寒い話でねぇ(笑)。 |
糸井 |
そうだよねぇ(笑)。 |
松本 |
えー、道あるいてて、手が出るほど腹立つことも
なかなかないし。うーん、だからねぇ……。 |
糸井 |
「そんなことで……」っていう捕まり方って
イヤですよねぇ。
いっそ、急に外人部隊に入って戦争に行くとかね。 |
松本 |
そう(笑)。 |
糸井 |
そういうわけのわかんないことじゃないとね(笑)。
松本人志、外人部隊に! |
松本 |
そうなんですよ、だから、5年くらい前かなぁ、
僕はミスタードーナツでバイトするって言ったんですよ。
すばらしい意見でしょ(笑)。 |
糸井 |
それ知ってた。すばらしいと思った。 |
松本 |
そうでしょ(笑)。
でもね、これがなかなか……。 |
糸井 |
理解されない? |
松本 |
ちょっとねぇ……。 |
糸井 |
今だったらホントはできるから、
やるって方法もあるんだよね。
でも、迷惑かけるんだよね。 |
松本 |
迷惑かけるんです。そうなんです。 |
糸井 |
俺、ジャニーズ系の子はみんな1年休めばいいと思うもの。
会社員やればいいと思うもの。
で、1年「アイツV6なんだよ」って言われながら、
営業マンやって、またステージで踊ったら、強いよぉ。 |
松本 |
(笑)そうですね。 |
糸井 |
強いよぉ、だってインプットがちがうもの。 |
松本 |
なんーにもそんな経験なしに入ってきてますからねぇ。 |
糸井 |
俺、ミスタードーナツねたはね、
ものすごく好きなの(笑)。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
同じこと思ってたんですよ。
俺ね、実は1回よその会社に入れてくれないかなって
言ったことあるのよ。で、今の仕事も続けるけど、
週に何回か呼ばれてもいいから、月給5万円くらいで、
社外社員として雇ってくれって言ったんだけど、
「それはいいですね、わっはっは」って言われて
終わっちゃうんですよね。 |
松本 |
僕もそのときは半分以上マジで思ってたんですけどね。
明日休みかぁ、じゃあちょっと面接行ってみようかな、
と思ったときにね(笑)、やっぱり足すくみますよね。
たいへんやなぁ、って思いますよね。 |
糸井 |
そうか、面接って言葉までは出てきたんだ。 |
松本 |
出てきましたね。
で、さあ、なに店に行こうかと(笑)。
そこの店長になんて言おうかなぁって。 |
糸井 |
そうか、本気になると足すくむんだね。
ギャグじゃなかったからおもしろかったんだね。 |
松本 |
で、今は、あれです。
全財産をユニセフに寄付する(笑)のを、
何年か前から思ってて……これはどうですか?
これもかなり足すくむんですよ。 |
糸井 |
そうだよね。できることだからね。
どのくらい残しておくかっていうのが、
ものすごいクイズになるね。 |
松本 |
できるんですよ。
で、本当はね、アパートに住んで、車も携帯もやめて、
近所の銭湯行く生活をして、
で、スタジオ往復できたらすごいんですけどねぇ。
|
糸井 |
思い出したんだけど、俺、松ちゃんの歳に下宿借りたのよ。
4畳半の。 |
松本 |
気持ちはすっごいわかります。 |
糸井 |
原宿に事務所があって、代々木上原に借りたのかな。
共同便所、流しだけあったかなぁ、
そこに本棚だけ置いて、電気ポット置いて。
「イトイさん、事務所にいない」っていうときは、
そこにいることになってる場所をつくろうとしたのよ。
で、絶対にフツーのボロアパートじゃなきゃダメなの。
で、結局行かなかった。
あの……行けるほど、余裕がなかった。
あれはできないといけなかった気がしますねぇ。
で、大人になってから今度は、
今やってるインターネットもそうなんだけど、
これぜんぶ赤字なんですよ。
で、僕が何行書こうがタダなんですよ。
だからいちばん使いやすいタレントって俺なんですよ。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
だから、始めましたって言ったときに、
原稿がひとつもなくても俺が書けばいいと思ったんで、
始めたんだけど、ちょっとユニセフなものがあるのよ。
でも、おもしろい。
あの、これやってる間、もうちょっと真剣に営業して、
本職だけやってたほうが食えるんですよ、きっと。
今の時代はまだ。
だけど、それよりも、ゼロから育っていくものを
もう1回やってみたかったという気分なんです。
それを何で覚えたかというと“釣り”なんですよ。
釣りって、ぜんぶひとりでやらなきゃならないの。
だから、バス釣りのトーナメントに出るときも、
そのへんの大学生の兄ちゃんと受付の順番並んで、
番号札もらって……。
で、1時に戻ってこなきゃいけないルールのときに、
1秒でも遅れたら失格ですよ。
で、試合だから、いい場所に入ってる人がいれば、
俺が行ったからってどいてくれる人なんていないよねぇ。
ボートが風で流されそうなときは、
どうやっておさえてようかみたいなことを
ぜんぶ自分でやって……。 |
松本 |
(笑)あーそうですね、僕らもうそんなん
あんまりないですからね。
そんなことを気にせないかんことがね。 |
糸井 |
そうなんですよ。
で、バストーナメントに出てたとき、
ひとつだけズルしてたのが、
前の晩はホテルに泊まって参加してたの。
これだけはズルさせてもらったの。
つまり、前の日まで働いてるから、俺。
ほかの兄ちゃんたちはもうちょっと楽なのよ。
そこだけは、いいホテルで、温泉につかって、
朝5時だか6時の集合に間に合うようにして。
それでね、試合では見事に負けるのよ。
最高で8位なんだけど、涙出るほどうれしかった。 |
松本 |
(笑)いや、それはそうですよ、ぜったい。 |
糸井 |
テレビでマラソンの中継とか見てて、
8位の選手なんて相手にしてないじゃない。
けど、自分が田舎の釣り大会でとった8位って、
ものすごくうれしいんですよ(笑)。
自慢したねぇ。
だから、俺の気分でユニセフだったり、
ミスタードーナツだったりすることを、
やれることでやったのが釣りなんじゃないかな。 |
松本 |
ま、本当のこと言って僕は、催眠術みたいなものを
かけるのかどうなのか……、
本当にドーナツを好きになればねぇ、
バイトできるはずなんですよ(笑)。
それが、ドーナツ好きじゃないくせに、
どこか遊びとしてやってしまおうとしてる自分に、
ちょっと引いてしまってて、
追いつめられてないからダメなんですよね、きっと。
で、ホントにアパートに住むしかない状況になれば、
それはやらざるを得んことでやるんでしょうけど。
どこかで遊びでやろうとしてるから、
その自分に対して、ちょっと引いてるんですね。 |
糸井 |
あーそうだなぁ、
本当には追いつめられてないってのは、大きいねぇ。
いや〜きっとねぇ、
1000円札の意味がかわると思うんだよねぇ。 |
松本 |
かわるんですよぉ。 |
糸井 |
その1000円札が見たいよね。
そーれなんだよなぁ。
ところで、時間、大丈夫ですか?
だいたいケツ決めときましょうか。 |
松本 |
8時にしましょうか。 |
糸井 |
オッケー。
じゃ、いい? もっと笑いの話して?
ぜひ聞きたかったのよ。 |
松本 |
ええ。 |
糸井 |
松本さんって、
笑えないことばっかりを、どう笑いにするか、
っていうのばっかり追求してるじゃないですか。 |
松本 |
はいはい、そうですねぇ。 |
糸井 |
だから、俺はどんな人にも
「松本人志の笑いっていうのは、
ちゃんとわからないとダメですよ」
って言い張ってるんだけど。
こないだは俺、吉本隆明さんに言ったんだけど、
「ビジュアルバム」だっけ、あのビデオをあげたんです。
「糸井さんに言われてから観たら、たしかにそうだ」って
吉本さんが言うわけですよ。
で、言われないと結局、本とテレビ番組だけに
なっちゃうんで、見えないらしいんですよね。
で、まあ、名前は出したくないけど、
まったくわかってない人もいますよね。 |
松本 |
ふーむ……。 |
糸井 |
いまだに“チンピラの立ち話”っていうまとめかたで
済ませちゃってるわけ。
でもね、立川談志さんは認めてる。 |
松本 |
(笑)いや、なんか聞きましたよ。 |
糸井 |
あの人はね、はっきりわかってる。
現場踏んでる人なのかな、って気がした。
つまり、現場の苦労をしらない人には、
笑わないかもしれないものを書けるってことの
恐ろしさはわからないんじゃないかなぁ。
俺もお笑いじゃないけど、ウケなかったときに
仕事なくなるって恐ろしさ知ってるから、
いちいちおもしろいわけですよ(笑)。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
特にこのところの“山崎もの”なんて、こわいよねぇ。 |
松本 |
(笑)うん。 |
糸井 |
で、チェックしてるわけよ俺。そのこわさがあるから。
すると数字も下がるわけよ。こわいものやったときって。
で、やっぱりなぁと思う反面、
じゃあどこまで落ちたんだろうってのが見たいのよ。 |
松本 |
そーうですね。 |
糸井 |
あれさぁ、“山崎もの”は思いつくわけ? |
松本 |
それは、なんなんでしょうねぇ……。
あんまり意識して考えたことはないんですよ、実は。 |
糸井 |
じゃあものすごくウケるネタってのも
「ウケるぞ」って意識してるわけじゃないんだ? |
松本 |
うーーーーん、ときどき、あるかなぁ。
でもそんなに意識してないですねぇ。
いや、僕ね、ホントに意外と意識してないんですよぉ。
で、ビデオのコントでも、自分で観たらすごい
悲惨やったりする、と、ぜんぶ。
救われなかったり。
最終的にぜんぜんハッピーエンドじゃないし。
で、それは計算してやってるのかなっていうと、
どっかで計算してるのかもしれないんですけど、
意外と計算してなくて、結局そうなってたし。
それが好きなんでしょうねぇ。
……だから、ちょっとわからないですねぇ。 |
糸井 |
うーん、だけど、ぜんぶギリギリだよねぇ。 |
松本 |
ギリギリですねぇ。 |
糸井 |
で、2度観たらおもしろくなったものすらあるよねぇ。
だからビデオと松本人志って、ものすごく合ってますよね。 |
松本 |
うん。実はそうなんですよ。
|
糸井 |
俺は松ちゃんってビデオの人だと思ってるんですよ。
だけどビデオって本当には商売にならないですよね。
ならないんでしょ? |
松本 |
ならないです。 |
糸井 |
やっぱりそーかー。聞いてみたかったんだ(笑)。 |
松本 |
(笑)いや、ぜんぜんなってないんじゃないですかね。
だから、1980円とか、そんなくらいでやると、
もうけにはなるかもしれないですけど、
セットとかに凝れなくなりますしね。
ぜんぜん商売になってないですよね。 |
糸井 |
ホント! じゃあ「頭頭(とうず)」なんかも
ぜんぜんダメなの?
あれは見るからにいちばん危なっかしいけどね。 |
松本 |
あれはいちばん危なっかしいですねぇ。
あれも商売にはなってないでしょう。
僕、あの、「寸止め海峡」のビデオはもうちょっと
売れると思ったんですけどね。
あんまり売れてないんじゃないですかね。 |
糸井 |
どれくらい? |
松本 |
たぶん、10万本は売れてないと思いますよ。
ただあれはね、高かったのは高かったんですよ。
「寸止め海峡」って1万円ライブのライブを
ビデオにして、1万円以下で売っては、
ライヴに来てくれたお客さんに失礼やと僕は
思ったので、えー、たぶん、なんぼやろ?
「寸止め海峡」は
1万4、5千円はしたんじゃないですか。 |
糸井 |
じゃあ「ビジュアルバム」は? |
松本 |
ビジュアルバムは値段は7千なんぼか……。
どんなもんやろ、2、3万本売れたのかな? |
糸井 |
単行本より売れないんだ。 |
松本 |
そうですね、そんなもんじゃないですかね。
で、1本つくるのに1億円ちかくかかってますからね。 |
糸井 |
あと、それに使ってた時間をほかで稼いでたとしたら、
なんて計算した日には、どえらいことになるよね。
ものすごい時間かかってるよね。 |
松本 |
だから、僕が今いちばん簡単に稼げるのは、
対談とかしゃべったことを活字にして本にしてもらうのが、
いちばん楽で、なぜか、そこそこ売れる(笑)。うん。 |
糸井 |
俺はビデオが本命だと思ってたけど、
ビデオは本命だけど本家にはならないんだな。飯の。 |
松本 |
うーん、そうですねぇ。
ただ、どうやろ、けっこうな赤字、でもない。
だから、赤字じゃないから……。 |
糸井 |
そりゃダメよね、社長としてはダメよね(笑)。 |
松本 |
(笑)ダメですね。
だから、テレビで稼いで、ビデオで、みたいな
ことになるのかもしれないですね。 |
糸井 |
ビデオがちゃんと売れる時代がくると信じたいね。 |
松本 |
うーん、信じたいですねぇ。 |
糸井 |
もしかしたら、それが俺らのいちばん大きい動機かもなぁ。
「こっちのほうがおもしろいんだ」って言いたいじゃない。 |
松本 |
今はテレビであおらないと売れない時代じゃないですか。
CDでもなんでも、できる過程をテレビでずーっと見せて
「さあ発売!」。
それこそ、何位までに入らなかったらバツ、
みたいなことをやるとね、ファーっとついてきますけどね、
勝手にこっちでコントのビデオつくって出しても、
それは……(笑)。 |
糸井 |
勝手に出してるよね。 |
松本 |
出してることすら気づいてない人も
いっぱいいるでしょうし。 |
糸井 |
それはだけど意外だなぁ。
やっぱりそうかって気もちょっとはするんだけどねぇ。 |
松本 |
だから、ねらいをすましてドーンといくと、
だいたい当たらないんですよ、僕はね。
で、本とかは、そんなもん本にしておもろいかぁ?
って思うようなのでも、なんか知らないけど、
えらい売れてる、みたいなことになって。 |
糸井 |
それはねぇ、無理に解説すればできるんだけど、
「古い物のフリをして新しいモノを入れる」ってのが、
売るときには非常に大事なんですよ。
たとえば、ツタヤっていう店があるけれども、
その社長が書いてる本を読んでみると、
「あ、やっぱりそうか」って思うんだけど、
最初は貸しレコード屋からスタートしてて、
ビデオも置くようになって、
で、“ビデオショップ”“レンタルショップ”って
言っても、通じないだろうと思ったから、
“本屋”っていう店を出して、
そこにビデオを置いたんですよ。
すると、本屋なら行ったことがあるから、
敷居がないんですよ。 |
松本 |
(笑)なるほどねぇ〜。 |
糸井 |
で、「この本屋ってこんないいものもあったのか!」
って思ったら、ヤじゃないわけ。
で、松本人志のビデオって、
「オマエらが今まで思ってたビデオとはちゃうで!」
って言いながら出してるから、
「じゃあアタシ縁がないかも……」って思っちゃう。
通行人が入らない仕組みをつくってるわけよ。
だから、単に売れるってことを考えたら、
もうちょっと入り口を古くして、
で、入ってみたらヘンなところへ連れていかれちゃった
という形をとるのが……。
だって、小室さんのヒットにしても、
ダンスミュージックというフロアがあるじゃないですか。
そこから入ってきて、レイブだなんだって言って、
誰でも入れる場所を作ったあげくに、
そこでおなじみのっていうのにニュースをくわえていく。
だから、入り口が新しいものって、
作る本人はそうしたいんですよ。 |
松本 |
なるほどねぇ〜、そうかぁ。
だから、それは、僕が気づくんやなくて、
僕の周りのブレーンの人たちが、
それを気づかなあかんのや(笑)。 |
糸井 |
でもね、それ難しいよ。
永ちゃんなんか、それを本人がやってるわけよ。
「今オマエちがうんだよ」って言って、
「なんかわからないけど、あとで説明する」
みたいにしてチェンジしていく。
だから、あの人はいつも間口が広いじゃないですか、
あれは学ぶところ大きいですよねぇ。 |
松本 |
あの人、本能で動いてから、
後で理屈つけていってる人ですよね。 |
糸井 |
だと思う。
あと、「もし自分が客なら」という立場を
いつももってるよね。
つまり、自分がお客として永ちゃん自身を観たときに、
「カッコイイ!」って言ってくれてる人は
ありがたいと思ってるけど、
「最近、矢沢ちがうんじゃない」って言ってる
お客さんの気持ちになれるんじゃないかなぁ。
「たいへんだ! 曲かな」って思うときは曲つくるし、
コンサートの数かな、と思ったら、数ガツンとぶつけるし。
あと、小さい子が矢沢を知らないと思ったら、
テレビドラマの仕事もやるじゃないですか。
間口がひろい。 |
松本 |
そうですよ。
もうひとり自分がいて、冷静に見てるんですよねぇ。
僕もそうなんですけどね。
だから、こんなこと言うダウンタウンの松ちゃんを
見てるんですよ僕、テレビの前で。
「うわ、そんな言うてほしないな」と思うから、
「もういい、じゃ、やめよう」ってこと、ありますよね。
|
糸井 |
でもね、ダウンタウンとしてどうなっていくか
わからないけども、何やってもいい松本人志っていう
ブランドができるのがいちばんカッコイイじゃないですか。
で、個人なんだけど、組織もうごいてる感じがするし、
今までだと芸人さんとして……、
ま、横山やすしという単独で生きてた人はいるんだけど、
あの人は単独じゃなかったら
もっといろんなことできたのに(笑)。 |
松本 |
ニホンオオカミですからね(笑)。 |
糸井 |
(笑)そう、そう、そのとおり!
だって、あきらかにすごい才能あったし、
努力もしてたし、間口もひろかったですよ。
でも、あの人、組織がひとつもないんですよね。
あの人、たぶんシナジーがないってゆーか、
つかまる力がない(笑)。
(※シナジー→共同作業、相乗作用。経営戦略で、
販売、操業、投資管理などの機能を重層的に活用し、
利益を生みだす効果。)
で、結局どこにシナジーがあったかというと、
ボートレースの人たちとつながったりとかさ。 |
松本 |
あー、そうですよねぇ、うーん……。 |
糸井 |
きっと、俺が釣りの人とだけつき合ってるという
状態になってるのと同じだよね。
でもね、松本はできるよ。ぜったいできるよ。
ちょっとここが下手なんだよなぁって部分は
俺なんかには見えるんだけど、
でもね、ちょうど永ちゃん見てるときと同じでね、
「それもまたいいんだよなぁ」って思っちゃうから、
困っちゃうんですよね(笑)。 |
松本 |
(笑)あの、そうなんですよ。
永ちゃんがあんだけね、あの、なんでしょう……、
綿密な計算もたてつつ、あれだけのコンサートやって
最後パシーッとキメなあかんとこで、
タオル背中かけて終わらなあかん、
スポットライトがスーッと消えていくとこで、
タオルがいかんせん逆さまやったりするんですよ(笑)。 |
糸井 |
(笑)いや、そうなのよ。 |
松本 |
でも僕は、それが好きなんですよ。 |
糸井 |
俺もそうなの。困っちゃうんだよね。 |
松本 |
「あーっ、もぉー」って思いながら、
なーんか「このオッサン!」ってなりますよね。 |
糸井 |
(笑)いちばんすごかったのが、
横浜かどっかでコンサートやったときに、
タオルを腰に巻いちゃったんだよねー。
歌いながら。 |
松本 |
(爆笑)。 |
糸井 |
客としてはさ、
「そ、それはちがう……」って思うんだけど、
もうオッケーなんだよぉ。 |
松本 |
オッケーですよ。 |
糸井 |
それは、松本のお笑いで、
「それは笑えへんで!」ってとこに行っちゃったときに、
オッケーだしちゃうんだよねぇ。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
腰にタオル巻くのはだれもマネしなかったよ。
お客さんも、さすがに。 |
松本 |
ああ、僕、それ知りませんでしたからね。
たぶん、矢沢さんも「腰はないな」と思ったんでしょうね。
1回やってみて。
ま、いろいろやってみてるんでしょうね。 |
糸井 |
ついやっちゃったんだろうね(笑)。
ごきげんでやっちゃっただけなんだろうね。
だから、同じように、松本のお笑いで……
ただ松本人志がすごいのは、
ダメってわかったときの逃げ方知ってるよね(笑)。
クリンチとか(笑)。
ゴング鳴るまで待つとか。
それは“ガキの使い”のときのコントが
すっごいじゃないですか。
名クリンチ。 |
松本 |
(笑)うん。うん。そうですね。 |
糸井 |
あれ、芸だよね。 |
松本 |
あれ、芸なんですよ。
ところがそれをわからない人たちがいてねぇ。
「松本は、こたえに困って逃げてるだけや〜」
っていうことを言う、心ない人がいるんですよ。
そーじゃないんですよね。
いかに逃げるか、っていう、いろんな逃げ方を
僕はいろいろ考えてやってるんですけどねぇ。 |
糸井 |
あのクリンチワークはやっぱりさぁ、
サラゴサ選手を見るようなさぁ(笑)。 |
松本 |
そうなんですよぉ。
もちろん絶妙なこたえがあったらそれでいきますけど、
まあ、ないときもあるから、じゃあどう逃げるか
っていうとこでね、遊んでるんですけどねぇ。 |
糸井 |
場そのものがぜんぶお笑いなんだって思ったら、
あんなに計算しつくされた芝居はないと思うんだけど、
わかられないんだよねぇ。
うち、カミさんはあれがいちばん好きみたいだよ。
役者やってる人とかは、失敗する可能性をいつも
もってるじゃないですか。
だから、ごまかすときの笑いとか好きみたいねぇ。
きれいにキマったときとかじゃなくてね。 |
松本 |
そうなんですよね。
僕なんかもそうなんですけどねぇ。
ま、きれいにキマるなら、よっぽどきれいにキマるとね、
それはそれで美しいものなんですけど。 |
糸井 |
でも、あの場からはもう出ないからね。 |
松本 |
そうですねー、そうです。 |
糸井 |
空飛ぶわけじゃないから。 |
松本 |
うーん、そう思いますねぇ。 |
糸井 |
あの小さい小さい舞台できれいにキマったって、
それだけのことだから。
だから、あのクリンチはすごいよなぁ。
あと、それを振りほどく浜ちゃんも、
あれはあれですごい芸だと思うけどねぇ。 |
松本 |
そうですねぇ。 |
糸井 |
ときどき組みつかせたりさぁ、
ときどきほどいたり……、わかってんだろうなぁ。 |
松本 |
そこ、もうちょっと笑って楽しんでほしいんですけどね。 |
糸井 |
もしそれを楽しめって言うと、
時間帯を深夜に連れていかれちゃうんだろうねぇ。 |
松本 |
だから、僕らの世界でいう“すかし”っていうねぇ。
こうもっていって、パシッと落とすと見せておいて、
こっちに逃げるというか、アラッ? といことで、
僕らは笑えるんですけど、一般の人はねぇ、
損したような気になるんですよね。 |
糸井 |
はー、そっかー。
たとえばさぁ、よくスーパーにさぁ、
クワガタムシのプラモデルのついたお菓子とか
売ってるじゃない。
たてまえはお菓子って書いてあるけど、
欲しいのはクワガタムシのプラモデルじゃない? |
松本 |
はいはい、そうですねぇ(笑)。 |
糸井 |
認めろぉ!(笑)
そういうことだよね。
ただね、俺がなんで希望があるって言ってるかというと、
全員がつくる立場にまわる時代になると思うんですよ。
ただサボってる人ってのは、
いなくならざるを得なくなって。
で、時間給で働く人はこっちにいます、と。
一方では、つくる苦労を知ってる人が
どんどん増えてくると思うんですよ。
僕がインターネットやっててなにがおもしろいかというと、
たとえば、シャンプーについてアンケートとると、
ネットでつながってる人たちが、
タダなんだけど一生懸命答えてくれるんですよ。
その人たちは、シャンプーはつくってないけど、
仕事でお菓子つくってたり、コンピュータつくってたり、
車つくってたり、本つくってたりしてるんです。
つまり、自分もお客さん相手に苦労してる人たちが、
シャンプーについて語ってくれるわけ。
使う立場で文句言ってるだけじゃなくて、
「このへんはきっと難しいところだけど……」って
作り手のことをわかってる人たちが、
アンケート寄せてくれるのよ。
その意見はね、ぜんぶ将来の参考になるんですよ。
で、彼らはそういうものを見つけたくて、
物を買ってるんですよね。
|
糸井 |
たとえば、こないだ、ゆるーい練り歯磨き買ったんですよ。
ブラシにつけて早く口に入れないとこぼれるわけ。
それ、消費者だけをやってるお客さんだったら、
「なんとか固くしてくれ!」って投書するよ。
でも、俺はつくる立場にいる人なんで、
「これは“わざと”だな」って思うわけ。
ここまでゆるいのはワザとだなって。
そうすると、気づくわけですよ、
歯磨き粉が固すぎると、歯と歯磨き粉の摩擦が
なくなっちゃうんだよね。
歯を磨くのに理想的なのは、
ただ素のブラシで磨くのを
1日に何回もやることらしいんですよ。 |
松本 |
そうらしいですね。 |
糸井 |
あとは、口の中をスッキリさせるだとか、
ほかにもいろんな要素があるけど、
そのプライオリティーは2番目、3番目なんですよ。
とにかくよく磨くことが大事なんだと。
そしたら、ゆるくしたおかげで、
ちゃんとよく磨く意味が出せるわけだよ。
そしたら、やっぱりくっつけてくれないと
困るわけじゃない。さんざん会議したろうなと思うわけ。
で、そのゆるさを100万人の人が
「ゆるい歯磨き粉はイヤだ!」って言っても、
俺は「ゆるい歯磨き粉よ、ありがとう!」
って書きたいのよ。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
「よくやった! ゆるいヤツ」。
で、いろんなお客さんが、そうなってきてるんですよ。
やっぱり俺ネットやってよかったことは、
「俺ひとりじゃないんだ」ってわかることが
いっぱい出てきたの。
ただのOLで31歳みたいな人がわかるんですよ。
そしたら、松ちゃんのクリンチも、
ぜったいわかってると思うの。
ただお金使う場所多すぎて、ビデオにはいかないんですよ。
その人たちって、映画も観ないの。
ちゃんとわかってる人たちは、映画館もいかないで、
レンタルビデオ借りてるんですよ。
いちばん目の肥えた人は映画館行かないんです。
テレビにしても、いい時間にテレビ観てる人は……、
夜8時にテレビ観てる人って、俺やっぱりねぇ、
これから仕事で一緒に組もうって人じゃないんですよ。
無理ですよ。
自分でものを発信する側にいて、
今いちばん苦労してる人たちがかたまってる場所に、
確実に届いてることをしたくなるんですよ。
今は人数少なくていいから。
それは、トントンなんですよっていうビデオもそうだし、
“ほぼ日”だって1日に10万のアクセスあるんですよ。
これはある意味で自慢なんだけど、
ある意味ですごい少ないと思う。 |
松本 |
あ、そうですかぁ。 |
糸井 |
10万って数はテレビの視聴率で言ったら、
1パーセントの1/10ですからね。
そんな数は相手にしてくれないですよ。
テレビは1パーセントが100万人と言われてますから。
でも、そこで観てくれてる人たちが、
次の時代のメインなんだと思うと、
俺はその人たちと遊びたいんだよね。
きっとこのインタビューが出たら、
わかる人からどんどん投書のメールが来ると思うよ。
で、わかってるようでわかってない人たちからも
来ると思うのよ。
「僕は松本人志さんのビデオを買ってもいないんだけど、
あの気持ちはわかるんだ」と言ってくれる人のほうが、
俺は客なんだと思うんだよぉ。買わない客。 |
松本 |
そうなんですよ。
そこでの僕らの戦いがあるんですよねぇ。 |
糸井 |
「なにで飯食うねん」って問題になるよね。 |
松本 |
そうなんですよ。
で、あの、うーん、そうですねぇ、
「これからのお笑いはどんな子が出てくんねん?」
みたいな話になったときに、僕いっつも言うんですけどね、
きっとお笑いも、そんなに興味ない子が、
なんかのまちがいで、とゆーか、
なにかで笑いをやらなあかんようになった、とゆーか、
そんな状況で出てきたヤツはきっとおもしろいやろう、
って思うんですね。
もう、昔から笑いが好きで好きで、
ずっと見てたっていう子はねぇ……、
たぶんねぇ……無理ですね。 |
糸井 |
たぶん、その世界の苦労に
なまじ耐えちゃったりする人がいると、
その人はそこまでですよね。
だって、べつに松本人志は苦労してきたって気
しないでしょ、つらいことはあるだろうけど。 |
松本 |
そうなんですよぉ。 |
糸井 |
どこのジャンルにね、今が吸い込まれているのか
っていうのを、今まではいつもわかったのよ。
今がいちばんわからないの。
どこのジャンルに優秀なヤツがいるのかって、
俺には今わからないのよ。
たとえば、はっきりわかることがいくつかあって、
昔だったら法務省に行ったヤツ、つまり東大法科から、
裁判官になったり、弁護士になったり、
官僚になったりするヤツが、実は今、民間に入ってるのよ。
これはすごくよくわかるの。
昔だったら官僚になってるだろうな、っていうタイプの
頭のよさの子が、いい会社にぜんぶいるんですよ。
昔の会議って退屈だったんだけど、
今の会議って、けっこう戦場なんですよ。
よく例に出すんだけど、俺が電通で会議するでしょ、
10人の会議だと、昔はちゃんとしゃべってる人が
1人しかいないのよ。
あとの9人はホントは早く会議をやめたいんですよ。 |
松本 |
(笑)うん。 |
糸井 |
でね、この10年でね、
しゃべる人がまず2人になっていったのよ。
さらに3人になり、4人になり、
ついに10人が10人重要だって会議が最近あるのよ。
で、終盤までこいつはダメかもしれないと思ってた人が、
最後に「ウチの近所のパン屋でね……」とか、
言い出したりするのが、
「重要じゃん、それ!」ってことがあるんですよ。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
俺らが1匹狼を気どって、「俺に任せておけば大丈夫!」
って時代じゃないことを、ヒシヒシと感じるのよ。
要するに、天才的じゃなくったって、
ここまでわかられちゃったら、
そのチームは同じ物つくれるなって思うのよ。
そうなると、そのなかに天才が加わったチームしか、
本当の仕事はできないなと思うのよ。
今外資系の代理店と組んでるんだけど、それがまたすごい。
10人が15人分くらい働くのよ。
で、アメリカにいたらプールつきの豪邸に住むよ、
というトップの人が日本支社の社長になって、
ホントにガツガツ働いてるの。
それ見るとね、日本人サボってるわ、あきらかに。
極端に言うと、その人ってナイキの社長と
タメで仕事の話できるやつですよ。
で、アメリカにチームもなにもかもぜんぶあるのに、
なんで家族連れて日本に引っ越してきたのっていう、
そこが不思議なんだよ。
さっき話した、ミスタードーナツなものがあるわけですよ。
で、ホントに大事な仕事になったら、
本社からピックアップメンバーをぜんぶ呼ぶ。
その会社、営業いないのよ。マーケティングも
クリエイティブも市場調査もぜんぶ自分でやるの。
で、こういう調査はするべきだという会議をして、
どんどん仕事つくっていくんだよね。
そうするとメチャクチャに忙しくなるでしょ。
俺と同じ歳くらいのトップがガタイもよくてさ、
「キミたち、眠いかぁ?」なんてスタッフに言ってるの、
そいつはもっと眠いはずなんだよ。
それがバリバリに仕事してるんだよ。
いざクライアントに対しての
プレゼンテーションのときには、
アムステルダムから1人、ポートランドから2人
っていうようにチームが飛んでくるの。
で、プレゼンテーションが終わって、
クライアントも英語のわかる人たちで、
「このチームで日本に残る人はだれですか?」
ってきいたときに、みんなが手を挙げるんだよ。
チームのエースが日本に残ることがわかるから、
仕事とれるよね。そーいう時代よ。
芸人さんたちが、個人のカブるカブらないだのと言って、
個人の貯金を使い果たしながら生きてるのにくらべたら、
「いいもん、俺がアイデア出なかったらこいつがいるもん」
みたいなことやられちゃったら、やられるよねぇ。 |
松本 |
うーん、そうですね。
|
糸井 |
でも、俺、松本家はねぇ、意外とその代理店のシステムに
近いところにあるような気がするんですよ。
松本人志をボス的に呼んだりしてないじゃないですか。 |
松本 |
してないですねぇ。 |
糸井 |
あれはすごいと思うね。
で、松本人志のこと平気でほったらかしにしとくし、
コーヒー飲みたかったら、自分で取るじゃないですか。
あのシステムがものすごく後で効くと思うんだよ。
あれは効く。 |
松本 |
あ、そうですかねぇ。 |
糸井 |
そのかわり、こわいのは、へたすると、
2番手、3番手のやつが“殿様”になると思うんだよ。
で、そのなかで妙な上下関係ができて、
本当の松本はえばってないのに、2番目の人が、
「おーい、そんなんやったら松ちゃん怒るでぇ!」
っていう姿になったら、あぶない。 |
松本 |
いや……、糸井さんはすごいです。 |
糸井 |
そお? |
松本 |
(笑)そう思います。
というか、そうなりつつあります。
なるんですよねぇ。
これはどうなんでしょうねぇ。
だから、僕のやり方はまちがってるのかな? って
思うこともあるんですけどね。
もっと、えらそうにというか、
僕がもっと言ってもええんかなって
悩むこともあるんですよ。 |
糸井 |
わかる(笑)。 |
松本 |
怒るときはもっと怒らなアカンのやないかな
って思うときもあるんですけど。
でもこう来てしまったんでねぇ。
「最近、松本、えらい人に注意するようになったな」
となるのもねえ……。 |
糸井 |
今までも、小さい規模で言うと、
劇団とかぜんぶそうだったんですよ。
なるべくみんな平らにやろうぜ、って言っても、
その平ら同士のなかでのいさかいもあるし、
そのなかでの上下関係も、微妙にできるじゃない?
昔の小劇団はどうしたかっていうと、
たとえばの話、女の役者さんたちには、
座長が全部セックスするんですよ。ガマンして。
で、「みんなイイ子!」。
そういう苦労も聞いたことがある。
俺らの世界は、一緒に飲んだり、殴り合ったり……、
そんなことしてるヒマはないよね。
だから、その方法はダメなんですよ。
その方法で組織維持するだけでパンクするよね。
で、クリエイティブな時間がなくなる。
俺、ヒントはね、大きい意味で“宗教”だと思うんだよ。
で、「何さえ守ればいい」ということを
全員がわかってるチームがつくりたいんですよ。
あとは、金に走るやつがいてもいい。
エバりたいやつは、エバってもいい、となったときに、
「なんで?」って言ったら、
「何が幸せなの」というあたりの……宗教なんじゃないか。
そうすると「同じ宗教をもってたら、楽だよね」
ってとこに行っちゃうんで。
「みんな○○に入ろう!」って言ったら楽だよ。
でもそれはちがうんですよね。
微妙なバランスだと思うんですよ。
あとね、「辞めていい」っていうことが重要な気がする。
出入り自由。
ナンバー2がいなくなった、ごく自然に。
で、「新しいナンバー2でーす」っていうのが、たぶん、
次の会社のイメージかなあと思うんですよね。
会社というか組織の。 |
松本 |
いやあ、勉強になりますね。 |
糸井 |
俺も、いろいろ途中なのよ。
ウチのほうが松っちゃんとこよりビンボーだから、
もっとリアリズムなんだよ。
さっきだって、ほぼ日のスタッフに、
「夜起きてるとタクシー代かかるから、やめよう」
って言ってるんだもん、俺。
「これで30円もうかりました!」みたいな話がさあ、
深夜帰宅のタクシー代で消えたら、意味ないじゃん。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
まあそんなこと言うのもイヤだけど……、
でも「これでタクシー乗っちゃったらパアだよな」
ってわかる人と、一緒にいたいのよ。 |
松本 |
矢沢さんとこは、どうしてますかね。 |
糸井 |
永ちゃんとこは俺にも……、
こんど会ったらよく聞いてみようと思うんだけれど、
基本的に宗教ですよ、やっぱり。
永ちゃんが、絶対なんですよ。
で、ナンバー2にあたる人というのが、
すごく腰の低い人なんですよ(笑)。 |
松本 |
ほう……。 |
糸井 |
ぜんぜん偉くなりたくない人を、最初から呼んできたの。
おそらくね、俺、同じ立場だったら、
ほとんどの人が潰れると思うね。
Tさんっていう人なんだけれど、えらいと思うわ。
たとえば俺、今、綾戸智絵さんていうボーカリストの
ファンなんだけど、「ライヴ行きましょう!」って言ったら
Tさん、来てくれたんだけれど、
吉祥寺まで、バイクで来るのよ。
で、ライヴが終わって、俺は車で行ってたから、
「Tさん、帰る? どっちの道?」って言ったら、
「いや、僕、バイクなんで」って
ごく自然にバイクで帰るのよ。
外、雨ふってたのよ。
で、俺らは招待客なんだけど、ちゃんと予約してた客を、
ちゃんと座らせるんですよ。
綾戸さんのチームも手売りみたいなところから
スタートしてるから、お客さん大事にするところが
すごくしっかりしてるの。
で、俺らはドアのところに立って観てたんですよ。
ドアが閉じたり開いたりするたびにドアをよけて、
よーく観たいときにはドアの中に顔を入れたりして。
ウエイトレスが水割り運ぶときには、
「す、すいません」って通路つくりながら観たんだけれど、
その状態を「なんだよ!」って絶対に言わない人ですよ。
俺も言わないけれどTさんも言わないんですよ。
疲れたらただ自分でその場にしゃがむし、
Tさんのそういうところがカッコイイ。
でも、芸能って、それ許さないですよね。 |
松本 |
許さないですねえ……。
|
糸井 |
芸能は「松本さんが座る席を4つ空けとけよ!」
みたいなところから始まりますよね。
で、あと3つは誰? ってときには、
「松本さんのマネージャーさんの席です」みたいな。 |
松本 |
そうですよねえ。 |
糸井 |
そうなったときには、
“松本”という人はペコペコしますよね。 |
松本 |
します。 |
糸井 |
そんな空けといて。
で、最後に、座っていいのかな、という判断するのを
ほんとにもうあきらめて、
「ありがとうございますっ!」ってデカイ声出すとか、
「わしゃ座るでえ!」ってデンと座るか。 |
松本 |
あえてそうやってしまうか。 |
糸井 |
パターンは2つしかない。
でも、隣にいる人は、その役をやらなくてもいいから、
「ありがとうございます」ってあたり前のように座るよね。
で、「いい席ですね」って言うか、
それを当たり前だと思うか、どっちかですよね。
俺ね、それ、治らないと思うの。
これは「しくみ」だから。
みんながペコペコする会社が、俺は理想なのよ。
「お願いします!」っていうような。
それがどうしたらできるかっていうのを、
今、追求中なのよ。
でありながら「これでタクシー乗ったらパーだよな」
ってわかってる人って、カッコイイと思うんですよ。
永ちゃんとこのTさんという人を見ていると、
電車に乗っている気がするのよ。絶対乗ってる。
あともうひとり、Kさんというスタッフが
こないだウチに来てくれたんだけど、
Kさんはファン上がりなんで、
永ちゃんを知れば知るほどうれしいんだよね。
で、永ちゃんも人間だから、Kさんは永ちゃんの
しょうがねぇなって面を絶対見てるはずなんですよ。
だけど「そこのところがあって、ボスなんだ」
っていうのが、多分わかってるんだろうね。
で、永ちゃんは永ちゃんでね、
松ちゃんこの話好きだと思うけれど、
永ちゃんがスタッフに
「おまえ今家賃いくら?」とか聞くわけよ。
「それ家賃高いだろ。もう家もったほうがいいぞ。
そのほうが安上がりだから」って。
「はあ……」って言ったら、
「俺が考えとくよ!」って別れたんだって。
これ実話なのよ。
翌日は日曜日。
朝の8時半、ふつう寝てるよ。で、電話がなったわけ。
誰だよ、休みの朝によぉ。まーたセールスかよぉ。
でも万が一ってことがあるからいちおう出るかって、
「はい……」って電話に出たら、
「あのなあ、今日の11時半から、
不動産屋に会うことになってるから、
今から言う電話番号控えといて!」って。
永ちゃん本人なの。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
そりゃ、ビビるよね。
朝からいきなり永ちゃんだもの。
「あのな、なんとか不動産の山本さんつう人なんだよ。
俺がいい物件見つけといたから。
おまえの名前で電話が行くって言ってあるから。
俺の電話切ったらすぐ電話かけて」って。
で、なん平米で、バス、トイレつきで、
どこどこの駅から徒歩何分、スーパーが近いらしい、と。
「それ見つけたから。おまえすぐ電話して!」と言って、
ヨロシク! ガチャン、なんだって。
もう、めちゃめちゃ眠いんだけど、
永ちゃんから電話番号メモさせられて、
「もしもし……はい、11時半に伺いますが、
どこで待ってたらいいですか」って電話したらしい。
つまり、永ちゃんは朝から新聞の不動産情報を読んだり、
チラシで物件さがしたりして、
あの声で不動産屋に電話したってことなんだよね(笑)。 |
松本 |
(爆笑)は〜。 |
糸井 |
いい話でしょ?
俺らも、そんな気分。
そういうことを永ちゃんはホントにするわけだよ。
ちょっとおかしいのは、
そのスタッフが今お金あるかどうかを
永ちゃん考えてない(笑)。 |
松本 |
考えてないですよねえ。 |
糸井 |
そのスタッフに給料がどれだけ出てるってとこまでは
たぶん知っているんだよ。
俺らよりは自分とこのスタッフについて知ってると思う。
だから、ちゃんと計算すると住める、って。
で、後から「部屋どーした?」って永ちゃんに言われて、
そのスタッフは、
「あ、いいなあと思ったんだけど、
僕にはちょっと広すぎるんです」って断ったんだって。 |
松本 |
ああ、うまいですねえ。 |
糸井 |
永ちゃんは「あ、そうだなーっ!」って言ったんだって。
その関係もいいな、と思わない?
「ボスが言ったとおり部屋借りました」じゃマズイよね。
それ、永ちゃんとこは先にできてるなあって思ったね。
そのかわり、オーストラリアで35億円使い込まれてる。 |
松本 |
そんなこともあるんですよね。 |
糸井 |
それは昔からいた古株の人が、やっちゃったんですよね。
だから、今いる若い子はそういう問題ないよね。
で、ウチに来たりしても、すごく丁寧ですよね。
「オレ、矢沢んとこから、来たんすけど」
とは、ぜったい言わないですよ。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
なんか、あるんだよ。方法が。
おそらくTさんの功績なんだよ。
永ちゃんと、ほかの人をブリッジする誰かなんだよね。
松本家もね……。 |
松本 |
それじゃ、僕のやりかたもべつに……。 |
糸井 |
合ってると思う。 |
松本 |
大丈夫なんですかねえ。 |
糸井 |
ほかのお笑い系のチームは、危ないと思うよ。
危ないと言っても、短期的にはうまくいってるんだから、
これでいいんだ、っていうやり方はもちろんありますよ。
それは選ぶか選ばないかの問題で、
全然かまわないと思うんです。
ただ、そうじゃないチームのほうがカッコイイ。
マイクロソフトの古川会長も、
原田さんというアップルの社長も、
「ほぼ日はギャラ出ないんですよ。
だけど、ぜひ対談したいんです。
できたら場所は、ほぼ日でやりたいんです」
という条件でわざわざウチに来てくれるんですよ。
自分でサッとタクシーに乗って。
で、べつにエラいさんどうしで話し合う場じゃないから、
いろいろ話をして、ハンバーガーかじってバイバイします。
お互いにそれができる人じゃないと、
やっぱり一緒になにかをしていくのはむずかしいんですよ。
「わしゃ社長じゃ、わっはっは」って言われてもねぇ。
|