松本 |
でも、自分で情けないとき、ありますけどね。
もうちょっと偉そうにしたほうが……。 |
糸井 |
いや、俺、その1000倍くらい、そういうときあるよ。 |
松本 |
たまに情けなくなるときが、あるなあ。
あの……若い子といっしょに飯食ってて、
最後に1個残ってるのを、どうしようかなあていう。
「よし、トイレ行って帰ってきたらスッと食べたれ」って、
トイレ行って戻ってきたら、もうないとか(笑)。
そんなことで怒りたくはないし、
その状況つくったのは俺やし。
うーん、情けないとき、あるなあ。 |
糸井 |
でもね「パクッ」をやったやつに
10年経ってから会ったりすると、
意外と「パクッ」の話を覚えてたりするんですよ。
俺も具体的にいるんだけど、
「これ俺のね」って言ってあったのに、タン塩……。 |
松本 |
(爆笑)。 |
糸井 |
俺はそれが最後の1枚だと思ってた。
実はまだ肉はいっぱいあったんだけど、
アミの上で焼かれているタン塩は俺のなのよ。
ただそれだけなの。
で「これ俺のね」って言ってたのに、よりによって
ちょうどいい焼き加減でパクッってやられて。
あとの何人かは聞いてたんで、
「あいつバカヤロウ」って責めて、
「ばかやろう……」って俺も涙ぐんだんだけど、
10年経つとちゃんとわかってんの。
その10年けっこうパクパクやってきたんだろうけど、
意外となにかでは身になっているのかもしれない。
それを、絶えずクリエイティブに
維持していくっていうのは、難しいと思うんだよね。 |
松本 |
そんな自分が好きだったりもするんですけどね。
後輩にそんなことされてる情けない自分が(笑)。
帰りに僕の車にキムとかがいっしょに乗ってて、
自分の家もうすぐそこやねんけど……。 |
糸井 |
遠回りでも送っていくんでしょ?
俺もそう。 |
松本 |
そうなんですよ!
「ここで、ほな」って言えないときがあってね。
最近はさすがに言おうと思ってるんですけどね。
あと何キロ先があいつの家やったりするわけですよ。
回ってしまうんですよ。 |
糸井 |
回るよねぇ。 |
松本 |
キムラの家の先に本屋があるから、
「本屋行こうかなぁ?」なんて言ってしまうんですよ。
ほんまは、そんなに、本屋、
まあ、行ってもいいねんけど、
おまえを送りたいから俺は行くんじゃなくて、
本屋に行きたいから。ほなちょうど、降ろせるよな、
って相手に気を使わせへん口実まで
つくってしまっている自分がね……。 |
糸井 |
弱気な僕。 |
松本 |
ものすごく愛おしかったりもするんですけどね。 |
糸井 |
それは治らないと思う。
あとは上手にいばる演技をいつするかとか、
きっと加減がいるんだと思うんだよ。
たしかね「島耕作」って漫画のなかで、
ナカザワさんっていう人が社長になったときの話があって、
もともとすごく気楽な上司だったんだけど、
社長になったら前社長から時計をもらったんですよ。
立派な時計なの。
「いや、私は、これは(いただけません)」
って言ったらね、前の社長に
「これからいろんな人に会うから、今までどおりの
時計をしているとかえって失礼にあたることがある。
この時計は自分のためじゃないんだ」って言われて、
「わかりました」って言うシーンがあってね。
ああそうか、って思ったね。 |
松本 |
一理ありますよね。 |
糸井 |
あるよねぇ。
それから高倉健さんの話。
大勢で座るときには、上座は絶対に健さんなんですよ。
決まってるんですよ。
みんなと一緒に行くと「こちらへ」って案内されて、
上座に座らなきゃいけないんで、
あの人ダンディズムの人だから、
「こちらへ」を言われる前に
トイレに行っちゃうんだって。 |
松本 |
ほう。 |
糸井 |
みんなが座り終えるまで、
ウンコして待っているのかどうか知らないけど、
最後に席が残るまで、来ないらしいんだよ。
そうすると1個だけ席が空いてるんだよ。
健さんは、ただ空いてる席に座るってことなんだよね。
それが上座になってる。
そのようすを村松具視さんがじっと見ててね、
「健さん……」って。
そういうことをテクとして覚えていっているんですよね。
松ちゃんもそういう小ネタを
集めなきゃなんないのかもしれないね。意味なく。 |
松本 |
めっちゃくちゃありますね、そういうこと。 |
糸井 |
あと、これからは外国とのつながりが
もっと増えるじゃないですか、時代的には。
外国ってこれまたルールが全部ちがうじゃない。
握手とかしてる自分が、信じられないもん。
握手ってイヤだよねぇ。 |
松本 |
イヤですねえ。 |
糸井 |
恥ずかしいよねえ。 |
松本 |
僕らにはないものですからね。 |
糸井 |
「ナイッチューミーチュー」みたいなことを言ってさ、
握手するときに昔は「ちょっとちがうよなあ、俺」
って思ってたのに、今はやるのよ。
本当は「どーもイトイです」で済ませたいのに、
一歩前に出てグッと手を出す自分に
「これが時代の波か!?」って思う。
まあでも、これをやったからって、
自分が失われるわけじゃないでしょう。 |
松本 |
(笑)1人やったら、できるんですけどね。
握手しているのを見られるのが恥ずかしいですよね。
|
糸井 |
みんなに見られてると、何かがこわれる感じするよね。
それはしょうがない。
まあでも、松ちゃんはいいネタ振ってあるよね。
「松本はいばる」っていうネタを振ってあるから、
ちょっと期待されてる部分もあって得してるよね。 |
松本 |
なんかそういうイメージがついてしまいましたからね。
本当はそうじゃないんですけどね。 |
糸井 |
わかる人はわかるよ。
俺、テレビだけでもわかるなあ。 |
松本 |
そうでしょう!
わかる人は、すぐわかってくれるんですけどねぇ。
そうそう。 |
糸井 |
それ絶対わかるはずなのに、絶対わかられないよね。
いばるイメージがブランド化しちゃってるんだろうね。
昔の話で、俺20代のころ露骨に姿勢が悪かったんですよ。
で、女の子と歩いているときに、
「姿勢が悪いね」って言われて、
「それが俺なんだっ」って言ったのよ。
そしたら「へえ、それが“俺”なの?」って言われて。
いたくプライドを傷つけられて「ハッ!」として、
その日から姿勢がよくなった。悔しくて。
そんなことの連続のような気がするんだよね。
この部分は譲らないと言ってたものが、
実は意外とたいしたことなかったりして。
ロンゲ切るとかさ、みんないろいろあるじゃないですか。
ロンゲ切ったらお前はいなくなるのかって言ったら、
いるんだよね。
そのあたり、にさしかかっているのかもしれない。
おもしろいですよ。
40歳すぎてからがおもしろいよぉ。
ほんとにもう、問題がぜんぶ複雑になってきて、
半分はなにやってもオッケーなのにねぇ。
けれど同時に、そういうときって、
なにしてもイヤだっていう人が、ハッキリするんですよ。
そのときに「どうしよう」って思うのが、
すごく楽しいんですよね。
俺はこれ自慢することにしてるんだけど、
「糸井はもうダメ」って3、4回言われて
生きているんですよ。
最近でいうと、ファンみたいな人が
教えてくれたことなんだけど、
「いろんな人とくっついちゃあ、生き延びてるヤツ」
という存在なんですよ、悪い見方をすると。
でも、ずっとくっつけてきた理由があるはずなんですよ。
それは書かないとゆーか、書けないわけで、
もう永遠にわかられないから、そこはもういいんですよ。 |
松本 |
そうですか?
糸井さんそんなん言われました? |
糸井 |
実は半分は嫌われてるんですよぉ。 |
松本 |
そうですか……? |
糸井 |
要するに俺のことを「太鼓持ち」って言っちゃえば、
言った人はそれで全部言えた気になると思うんですよ。
でも、創っている立場どうしだと、
「ああ、これはわかるな」っていう部分があるから、
自分のこと納得してもらえるですよね。
まあ悪く言おうと思ったら簡単じゃないですか。
松本人志もいまだに「チンピラの立ち話」と言われる。
でもさ、チンピラの立ち話って、
なにもいけなくないじゃないですか。 |
松本 |
なにもいけなくない。
それを僕はいつも言うんですよ。
チンピラの立ち話でおもしろかったら、
これに越したことはないわけですよね。 |
糸井 |
俺、おもしろい立ち話してるチンピラ見つけたら、
スカウトして連れてくるよ! |
松本 |
そうなんですよ。
ぜんぜん悪口になってないんですよね。 |
糸井 |
それは俺も前から思ってるんだ。
でもそれを誰も言ったことないから。
本人もそこまで言っても、
それ以上わかられたくもないし、
そのあたりだよね。 |
松本 |
そうですね。
たとえば談志さんみたいにほめてくれる人が、
ちょこちょこいるので、まあ、なんとかねぇ。 |
糸井 |
談志さんもやっぱりおもしろいよね。 |
松本 |
談志さんはやっぱり衝撃的でしたね。
なんば花月に談志さんが来たときに、
僕もすごく興味あったんでね、
「どんな落語するのかな」って行ったんですよ。
通路まで人でうまるくらいの満員で、
「天皇は・・・」って、きっついこと言いましたからね。 |
糸井 |
はあ、はあ。
「ガーッ!」とつかんで。 |
松本 |
客がまた笑いましたからねぇ。
僕はもうその頃、
自分でもかなり言いたいこと言ってるつもりでしたけど、
度肝を抜かれましたね。 |
糸井 |
それは計算だね。
松本さんといちばん違うのはね、
談志さんは説明をしたいタイプなんですよ。
そこだけが欠点。説明しちゃうんだなあ、全部。
「笑いとは」「客とは」……ぜんぶ辞書もってるんですよ。
それだと「談志がいた」っていう年表は、
長いレンジでいうと消えると思うんですよ。
けれど松本は、年表にのらないかもしれないけれど、
長いレンジの年表だと、意外といたりすると思うんですよ。
生の談志さんで、
僕が見て驚いたのは、小さい声でしゃべりだしたこと。
客がどうも落ち着かないときに、小さい声でやった。
マイクがあっても声が聞こえないんですよ。
みんな静かになったんだよねぇ。
そしたらだんだんボリュームを上げて落語を始めたの。
で、こないだ談志さんに初めて会ってそここと聞いたの。
そしたら「そう!」だって。計算ですよね。
それはたぶん、前に先輩がいたんだと思いますね。
談志さんものすごくモノマネがうまいんですよ。
CDで志ん生のモノマネしている部分なんて、
俺そうとう志ん生が好きなんだけど、そっくり。
声が違うのに志ん生。
悔しいほど似てる。 |
松本 |
ああ、そういうモノマネね。
“間”とか、そういうモノマネですね。
うーん……。 |
糸井 |
あれには驚いたね。
あの人こそ本当に刻苦勉励タイプの
超努力家なんじゃないかなあ。
話かわっていいですか。
あのね、お笑いのことで訊きたいんだけどね、
なんで俺はもうおもしろくないんだろうね? |
松本 |
え、それは……? |
糸井 |
自分で明らかにわかるんだけど、
自分が楽しんでいる笑いと今の笑いはもう絶対違うんだよ。
で、「ひとりごっつ」って番組で、
お笑い共通一次試験があったじゃないですか。あの時に
「俺、お笑いのジャンルは、もうやめたほうがいい」
ってハッキリ思い知らされたんだよぉ(笑)。 |
松本 |
(笑)それは、すばらしいことですけどね。
すばらしいことやと思いますよ。
|
松本 |
……それ、漫画なんですか? |
糸井 |
(註:「情熱のペンギンごはん」を手渡す)。
これ、20年前に僕がつくった本です。
20年前僕はこういう人だったんですよってゆーことで。
松ちゃんが「あ、こういう人が俺を好きなんだな」
っていうのがわかると思いますよ。
当時その本を出したときって、
俺ある意味おもしろかったの。
それは俺、自信あるのよ。
今でも「またあれやればいいのに」って言われるけど、
もうできない。本当にできないんだよ。
“鬼火”みたいなのを観ていて、
俺はもう永遠にムリだってわかった。
で、勉強のしようがないのよ。
勉強のしようがなくって……。 |
松本 |
あのですねぇ……うーん、そうか……でもね、
僕はフォローするわけじゃないですけれど、
あれは、ものっすごい細道ですからね。
なにもその細道に入る必要はないし、うーん。 |
糸井 |
(笑)そうか。
でもあの細道が自分は好きだ、っていうさ。
その細道を抜けないと太平洋が広がっていない、
っていうと、
俺はその細道に「つかまらせて」って気分はあるよ。 |
松本 |
そうですかねぇ。
でも道はほかにもいっぱいあって、
あれはごく一部の人のためだけの
細道であるという気がしてますね。 |
糸井 |
アマチュアでもさ、
ある日その細道が通れたりするじゃないですか。 |
松本 |
ああ、そうでしょうね。 |
糸井 |
あのアマチュアたちがうらやましいんだけど、
じゃあ放送作家になったらどうかって言ったら、
絶対に道に迷うわけですよ。
だからあれをリードしている松本人志って人は、
どんどん前を歩いていくけど、
選ばれて「これ、三重県のナントカ君」という人は、
どこかで屍になっているのがわかるわけよ。 |
松本 |
だから勘違いしてはいけないことは、
あれに取り組んだ人たちは、
まず細道っていうのが理解できてるかどうかっていうのが
まずわかりませんし、
「あの細道は近道や!」みたいに思ってしまう……。 |
糸井 |
はあー。 |
松本 |
するとね、これはもう大きな勘違いで、
細道イコールふつうの道、で行けば、
細道をこう入っていって、抜けられたら、なんか近道で、
混んでない道でいいなあっていう、
決してその道ではないし、決してその道が、
時間が早く済むとか、混んでない、
という保証はないし、と思うんですよ。 |
糸井 |
「ワシは好きなんや」という道。 |
松本 |
そう! ワシは好きなんや道、なんですよ。 |
糸井 |
でもさあ、俺もそれ、好き……。 |
松本 |
わははは(笑)。
そして、景色がきれいかどうかは、別問題なんですよ。 |
糸井 |
きれいじゃないよー。 |
松本 |
僕はその景色が好きですけどね。
あの細道しか見られへん、
下は裸足では歩けへんような道だったりするんですよ。 |
糸井 |
そうですか! 細道。
でも、ダメになっちゃった理由、絶対あるんですよね。
お笑いをやろうとしているほとんどの人も、
関西の人たちが言う“シュール”だとかっていうのを、
原則にしちゃってるじゃないですか。
人とちがった変わったことをやろうとするのも、
それ、あんまりおもしろくないんですよ。
だったら、そいつらも間違ってる。
それから、昔からの人たちが、
極端に言うと「きれいだねえ」で収めようとする笑いも、
ぜんぶ終わるでしょう。
そしたら、俺のお笑いが終わった理由っていうのも、
まだわからないんですよ。
俺はまだ、オヤジギャグって突っ込まれる、
パターンはわかってて……(笑)。
ただし、オヤジギャグっていうのは
ちがうジャンルのものですからね。
「お天気いいね」って種類だから、
これはいつまでも突っ込まれてればいいんだけれども。
でも果たして、松本人志がやるコントの台本を、
1本だけやらせてと言ってつくれるかっていったら、
……何年もかければわからないけれど、
俺は今つくれない自信があるんだよ。
なんか違うんだと思うとね……自分が寒くなる(笑)。 |
松本 |
(笑)それはね、どうかなぁ……。
そういう話をしだすと、これは長いですよ。 |
糸井 |
いちばん訊きたかったのがそこだったんだけどね。 |
松本 |
いやあ、そうなってくると、
それこそ温泉に3日ほど泊まりこんで、
ほんとに僕もいろいろ考えながらですねぇ。
僕は答えをもっているわけではないし。
うーん……本当に時間がかかることですね。 |
糸井 |
そうか……そうですよね。
俺はいろんな人がダメになっていく、
ひとつの標本のようでもあるしさ。
それとは別に、自分の能力として、
今どんどん優れていってる部分は自分で知っているの。
人がなに言おうが「俺はすごい」って言えるものは、
ナイショでもってるわけですよ。
で、ときどきはそれを出せる。
だけど、筋力とゆーか、足腰が弱ったみたいに、
明らかにダメになっている部分がわかるんです。
そのダメになってる部分が、笑いにつながる道なんですよ。
で、どんどんマジになっているわけ。
たとえばの話、今日だって、
俺、おもしろいことひとつも言ってないですよね。
|
松本 |
そんなこと言ってたら、
僕だって言ってないですよ(笑)。 |
糸井 |
あ、そっか。 |
松本 |
そういうことじゃないんじゃないですか?
|
糸井 |
でもねえ、おもしろくないこと言っている時間が
ものすごく多い。
あ、でもなあ、舞台以外では松本人志もそうだよねえ。 |
松本 |
そうですよ。
なんにもおもしろいこと言ってないし。 |
糸井 |
そっか。
黙ってるか、まじめなこと言ってるか。
そうね、温泉3日は無理だけれど、
1回ちゃんと訊いてみたいなあ……。 |
松本 |
とことんねえ。 |
糸井 |
松ちゃんさえよければ、俺はなんとかするから、教えて。
教えてっていうか、学生になってみたいの、そのことで。
大学院の研究テーマに「お笑い」っていうのがあって、
もう教授にもわからない。
で、学生同士で集まって、この微生物について
もっと話し合いたい、みたいな感じで……。
俺、この問題についてはね、
ほかに話せる人がいないんですよ。
これ、おそらく、たけしさんじゃないんですよ。
たけしさん、もう、違うところに行ったから。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
タモリさんはもっとわかってるんですよね。
だけど、タモリさんは
「それはないことにしたほうがいい」
って言う気がするんです。
「そっち行くのはわかってるんだけど俺は違うんだよ。
趣味として2時間だけ参加させてよ」って言うと思う。
「温泉3日間」って言いたくなる気分の人は、
ほかにいないよね……。 |
松本 |
だって僕、ひとりでも
ずっとそんなこと考えますからね。 |
糸井 |
僕もねえ、その問題とポルノの問題、
この2本立ては考えなかった日がないんですよ。
つまり“スケベ”のことと“笑い”のこと。
もしかしたら“泣く”こともかなあ……。
泣くっていうのは笑いにつながってるんだけど、
感情が動くということと、スケベなことっていうのは、
考えることを休んだことがないね。
ずぅっと考えてる。
やはり、あなたも。 |
松本 |
そうですねえ。 |
糸井 |
人には言っちゃったんで、
土産話的に言うのはなんなんだけど、
インターネットを始めてから何がわかったかと言うと、
いちばん面白かったのは、
自分がふつうのスケベだってことがわかったこと。
要するにいろんな映像がいくらでも見られるんですよ。
馬とやってようが、お婆さんのヌードだろうが、
あらゆるものが全部あるのに、自分が集める画像は
結局「誰々さん」だったの。答えが。
「知らなかった、俺はそういうスケベだったんだ」って。
そういう材料があったからわかったんですよ。
足りないときにはわからなかった。
ある程度お金にゆとりができると、
自分の好きなものがわかるじゃないですか。
買えないときは、マスクメロンが好きだって言うんですよ。
でもマスクメロンが実はあんまり好きじゃなかったって、
お金もったらわかるじゃない。
あんなことが、インターネットで、
エロでわかったんですよ。
そういうことがお笑いでも
わかるのかなあと思うんだけれど、
メニューは大衆食堂のメニューしかないから、
「トゥール・ダルジャンで何10年修業して」
みたいなのは、飯を食ったときに、
これが好きだって言いきれないんですよね。
「俺にはつくれない」って言ってもしょうがないわけで。
「なにそれ?」って言いたいのよ。 |
松本 |
イトイさん、あれやりましたか?
「お話ゲームどこでもいっしょ」。 |
糸井 |
やってない。
けっこうはまっている人多いね。 |
松本 |
やっぱりはまりますか。 |
糸井 |
うん。
だけど、本当には信じてないんだ、
そのハマりようを。 |
松本 |
あれね、いわゆるオモチャなんですよ。
こっちが単語いっぱい覚えさせて、
向こうが勝手に入れていきよるんですね。
その微妙なズレで笑わそうとするんですね。
僕は一瞬面白いんかなあ、と思ったらね、
もう僕の中では、ないんですよ。
でも一般人は、ハマるかもしれないかなあ、
と思いましたね。 |
糸井 |
それは松っちゃん僕と構造がいっしょで、
仕組みがわかっちゃったわけでしょう。 |
松本 |
そう、仕組みがわかったんですよ。 |
糸井 |
僕は作り手だから、仕組みがわかりたくて
やっちゃうんですよ。
するとゲームやる気、なくなるんですよ。 |
松本 |
コイツは笑い取りに来てる、ていうのが
バレてしまったんですよね。
故意にコイツ、ワザとやっとるな!
というのが、けっこう早めにピーンと来てもうたんで、
最初は僕ね「ながぶち」とか入れたんですよね。
そしたら
「昨日の夜障子を開けてたら
向こうからながぶちが覗いてた」と言うんですよ。
「コワイよねえ」って言い出したんです。
なるほどなあ、と思ったんです。
「ながぶち」は「歌手」ということで僕は設定したし、
ちゃんとやったのに、
そこで「ながぶち」出してくるってことは、
コイツ完全に、計画的にやっとるな、というのが見えて。 |
糸井 |
ネタが見えちゃった。 |
松本 |
冷めてしまったんですよね。
でも一般人はそれを面白いと思うんでしょうね。 |
糸井 |
うーん、そうねえ……それわかっててもやってる、
暇つぶしな人の人口がけっこうあるかもね。
その人たちに、俺はもっと仕事を与えたいんですよね。
そんなことやってるヒマない、ってやったほうが、
面白くなると思うんですよ。 |
松本 |
そうなんですよ。 |
糸井 |
それ、おんなじよ、俺も。だから今ゲームしてない。
つくってて、ネタ割れないゲームつくりたいんですよね。 |
松本 |
あれね、シモの言葉を入れることありきで
考えてるんですよ。 |
糸井 |
ああ、そうかそうか。 |
松本 |
だから「おまんこ」とか「オナニー」とか、
そういう言葉を入れたら、
世間的にはそこそこおもろいような
文体になるように仕組まれているんですよ。
「何でも好きな言葉入れたらええで」って、
僕はそんなの入れたくないんですよ。
だから、面白くないんですよ。 |
糸井 |
ようするに「うんこちんちん」ものですよね。
うんこちんちんだったらうんこちんちんで、
追及してほしいよね。 |
松本 |
してほしいんですよ。
浅いんですよ。 |
糸井 |
「うんこちんちん」の魅力も、捨てられないからねえ。 |
松本 |
非常に大事なものとしてあるんですけどね。
だからこそもっと奥深く行ってもらわんとね。
「うんこちんちんを、なめんなよ」ってね(笑)。 |
糸井 |
そうなのよ。
楽しそうだなあ、その話したいなあ、俺も。
|
松本 |
こないだ赤塚不二夫さんと対談させてもらって、
赤塚さんもようわかってる人で、「シュール」とか、
ああいうのに逃げるな、っていう話をしました。
今の若い子は、ルールがないから。
それがね、ちょっと、クヤシイなあって。 |
糸井 |
俺が今興味あるのは、そのうんこちんちん型なんだけど、
人間を動物にまで持ってっちゃった発想で考えないと、
わかんないこと多すぎるなあって。
それやっと最近解ってきたんだけど、
それこそ解剖学とか、そういうレベルまで行っちゃって、
最初にやったように「最初に好きになるの、顔でしょ」
っていうのを認めない社会が長かったじゃないですか。
人類文明史みたいのって。
でもその前の100万年っていうのを、
ちゃんと整理しないと。
だって、西暦2000年ったって、たったの2000年だけど、
その前に人間は100万年生きてたわけじゃないの。
100万年もってきたんだから、
そこのほうが、すごいんだよね。
そこに俺は、うんこちんちんが本当はあるんだと思う。 |
松本 |
あるんですよ。 |
糸井 |
そこをね、ちゃんと学べない限りは、
痙攣的笑いで終わっちゃうんですよ。
「それ古い!」とかそういうのイヤだよねえ。 |
松本 |
漫才でちょっとウンコっていう言葉が出てきただけで
「下ネタやってる!」って。
待て!、と。
「ウンコ」って言葉が出ただけで、
なぜお前は下ネタだと決めつけるんや。
このウンコの使い方は今までなかったウンコの使い方やぞ。
ウンコをなめんな!ってね。
それを僕はずっと謳ってきたんですけどね。
なかなか理解してもらえないんですよね。 |
糸井 |
だから不用意に全然使わないでいるよね。 |
松本 |
必要があれば出す、そのウンコの出し具合をね、
全然わかってくれないんですよね。 |
糸井 |
わかられないね。それはね。
文明以後のウンコの使い方しかしていないのよ。
言っちゃいけない言葉だから言ってウレシイってところで。
それは笑いじゃなくて、タブーに触れただけの笑いなんで。
松本人志は気持ち良くしたいわけでしょう? |
松本 |
それをね、言葉で説明するのは時間がかかるんですよ。 |
糸井 |
難しいね。
今度さ、赤塚さんじゃないけど、
吉本隆明さんと対談してみない? |
松本 |
はいはいはい。 |
糸井 |
僕、セッティングしますよ。
2週間にいっぺん、吉本さんのところに行って、
人生相談つくってるんですよ。……面白い。
おんなじこと何度も言うような「老人」は入ってるの。
それから「この話、こういう向きに行っちゃうと困るな」
っていうようなじれったいところもあるの。
でも必ず最後に自分で原稿をまとめなけりゃ
いけないんだけど、2時間分を、
ほんの2、3ページにまとめると、シンクってんのよ。
この4月からあらためて通うようになって、
前からずっとつきあいは会ったんだけど、
友達としてしか付き合ってなかったんで、
ちゃんと話なんかしてなかったの。
で、いま、テープ持ってって、ずっと聞いてるけど、
俺、半年で、学んじゃったなぁ。
で、松本人志って話も、去年の秋、出て、
「あの人、僕が思うに」って彼が言うには、
「本の中に全部出てる」。確かにそうなの。
だけど、もったいないと思ったんで、
もうちょっと違うんですよってことを言って、
で、ビデオ送ったりしてたんだけど、
「わかりました」って言ってたから、
今度話、できると思うんですよ。
松っちゃんからしたら話遠いなあってところに
連れていかれると思うんだけど、
俺、立ち会うし、大丈夫だと思うんだ。
「この方向だよね」って言うと「ああそうかそうか」って
戻ってくれると思うんですよ。
もしスケジュール組めるんだったら、
とんちんかんになっても、会うべきだと思う。
本当に、すごい。
俺、あの人が死んだら……家出するね。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
家出するっていう言い方ヘンなんだけど、
俺、支えがいったん、なくなるね。
俺、松本さんが「さすがわかってらっしゃる」的なことを
言われたときのセリフがあるとすれば、
全部吉本さんですね。原点は。
それを自分なりに解釈して、吉本さんは言ってないけど
俺はこうだと思うっていう言い方を
しているだけだと思うんで。会おうよ! |
松本 |
そうですか……。 |
糸井 |
メディアかまわないんですよね?
あとで本にしてもいいじゃないですか。ぜひ。
あと、たとえばさ、生きものの原点って
パイプ状なんですよ。食物を取り入れて排泄して、
パイプがもういっこパイプをつくるっていうのが生殖活動。
そこまでさかのぼっちゃうと、
わかることがものすごく多いわけ。
たとえば解剖でいうと、舌と腕の発生って同じなんですよ。
笑っちゃうけど、ベロって、食べ物を取り入れて
飲む仕事をしてるのよ。これって手も同じじゃない。 |
松本 |
あ、そうか。 |
糸井 |
発生的には同じなんです。
さらに、舌もセンサーですよね。熱いか熱くないか調べる。
手もそうだし、舌も、苦い甘いしょっぱいで、
危険か安全かどうかためすセンサーなんです。
全く同じ役割をして、精子と卵子が結合してから
だんだん分割して、発生していくには、
おんなじ場所にいたものなんですよ。
そうやって考えてみると、大脳って単なる連絡係にしか
見えないんですよ。
そうすると、脳で考えられることって、
ある意味ではほんの一部なんですよ。
ほとんどは、もっと、甘いだのしょっぱいだの、
あるいは、目の前に来たからパッと払うだの、
そういう部分で動いている。
人間の原点はそこまで行っちゃうんです。
で、なのに、人間は特別な神様から進化したっていう、
たった2000年の思想を信じ込まされているおかげで、
ウソをついているわけだ。
それは社交ダンスやフォークダンスが
女と抱きあいたいからってのを、
違う理由をつけて型をつけていったように、
最初なんだっけ? って考えてくと、
ウソばっかりついてる。 |
松本 |
ウソばっかついてますよね。 |
糸井 |
そのウソの構造を立派にしてくと、それはそれで
世界観ができるから、遊びとして完成するわけですよ。
「それは本当はウソだよね」って解ってて遊べるわけだよ。
|
糸井 |
そう考えてくと、本当にわかることは、
ものすごく増えていくわけ。
たとえばお笑いの細い道に入っていく人がいるってことは、
生物の進化論だと思うんだけど。
永ちゃんにも同じこと言って喜ばれたんで
また同じこと言うんだけど、
海の中で発生した生き物が
陸に上がる理由はなかったんですよ。単純な話。
脊髄ができたって言うのも、カルシウムっていう要素が
いちばん足りなくなる可能性があるんで、
カルシウムを体内に蓄えておけばいいやっていうのが、
生物に脊髄ができた理由なんですよ。
骨格が欲しかったわけじゃなくて、
カルシウムが欲しかった。
で、脊髄ができて、骨格としていろんなことがで
きるようになった。魚も、軟体動物から魚になるに
当たってはカルシウムが増えただけなんですよ。
で、魚のままでいれば、海に全部入っているから
生きていられたのに、何で陸に上ったのよ。
理由、ないんですよ。
でも、上った側の子孫が僕らなんですよ。
人間なんですよ。海に住んでないから。
で、戻った側の子孫がクジラなんですよ。
あいつらって、友達になりそこなったやつなんですよ。
イルカとか。カバもそうか。
で、人類って言うのは、もともと、お前そっちに言ったら
バカだよ、って言われたやつの、……犬もそうだけど、
犬も猿もみんな陸にいる奴は、みんな馬鹿なんですよ。
でもそっちの可能性がないと人類はいなかったし、
今の地球を覆っている文化というのはなかったわけだ。
みんな海の中にいて、ゴキゲンって、魚で泳いでりゃ、
よかったのに。そう考えると、
「細い細い道なんですよ」って考えてる人って、
陸に上がった人なんですよ。 |
松本 |
それで矢沢さんが喜ぶのは、よくわかりますね(笑)。 |
糸井 |
俺はそれを、同じだと思うわけ。 |
松本 |
それは喜ぶし、勇気づけられる言葉ですよね。 |
糸井 |
さらに言うと、俺もそうだし、永ちゃんもそうだし、
他に「お前やめなさいっ」「よしなさいって!」
って言ってる人も、同じなんですよ、祖先は。
可能性を増やしていくために
苦労したっていう人たちの祖先。
もっとおかしいのは、
つわりの時期ってあるじゃないですか。妊婦で。
あれって、ちょうど、胎児が、陸に上る瞬間なんだって。
本ッ当に苦しかったんだと思うの、生きものとして。
その記憶が、つわりとして今も呼び覚まされる。
子宮ってさ、トポロジー的に言うと、平らなわけじゃない。
女の股に穴が空いてますけど、
あれをスーッと前に出したらば、
平らなのっぺらなものですよね。
で、そこに、羊水って言う海をすいこんで、
中にとどめたのが、子宮ですよね。
女って、平らな生きものが、中に海を抱えたわけですよ。
そこで、精子ってやつが来て、海の中に……
鮭がタマゴを産むみたいに、産み付けていって、
育った結果が俺達じゃない。
で、ここで何で陸に上がんねん!?
てのが、ほんとにもう苦しいんだよ。
このままにしといてくれーっ、って。
で、生まれたときに、呼吸だって、
オギャアっていうのだって、あれ、陸に上がったときの
最初の呼吸ですよね。
あの、呼吸しなくてよかったんだもん、彼らは。
肺に息を通すのが、最初のオギャアですよ。
そんな苦労を2度してるわけ。
産道っていう細い道を、頭の形ゆがまして通ってきて、
ていうような、ことを、わからないと、
わからないと思うの、
俺、ウンコがいい、っていうの。 |
松本 |
(笑)。 |
糸井 |
大袈裟に言うとね。 |
松本 |
そうか!
じゃあ、これ温泉3日じゃすまないっすね。 |
糸井 |
まあ、1回ダイジェストではしょって、
もう1回各論に持ってって。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
だって松本人志が坊主になったときの気持ちって、
ねらいはこうですっていうの、言えるけど、
もっとあるんですよ。
その「もっと」について、解りたいんですよね。
本人だって。 |
松本 |
そっかあ。 |
糸井 |
温泉3日、冗談じゃないって。
俺はやりたいなあ!! |
松本 |
これは……壮大な話でしょう。 |
糸井 |
俺は、これを、ずうっと、一人でやってるのよ。
寂しいのよ、カミさんが寝てから。 |
松本 |
不安もあってね。
それで本当に3日4日5日で、
本当の答えが得られたときにね、
得られてしまったらね、
どうなるんやろ、ってのがねありますね。 |
糸井 |
ぜったい、得られない。
生きものの歴史全部抱えてるのが自分だとすれば、
全部の歴史を抱えてるんだから、
そこはしょうがないじゃないですか。
ただその中に人殺しの歴史も全部入ってるし、
泥棒の歴史も入ってるし、そんなかで、「あんねん」
って思うだけで、いいよね。
だからその吉本さんのなかでも、
校門に首を置いた犯人っているじゃないですか。
酒鬼薔薇くんっていう。
「あれ、べつに、首は、戦国時代には、
敵の首もってきたりして、首のところっていうのは、
単にちょっと歴史を守っただけで、そういうふうに
時々、現れちゃうんだよね……」ていう、
ものすごくカンタンな言い方をする。
ヨーロッパの人たちはいかにも自分たちは
進んでいるみたいに言うけれど、
今でもコソボだなんだのでメチャクチャなことやってる。
何立派ぶってんだ。
そういうことでもさ、生きものの歴史として
考えない限りはさ、
「それやっぱり考えが間違ってる!みんなが平和を祈れば」
って言うけど、そんな生きものじゃない、人間は。
もっとエゲツない生きものなんだから。
それやる奴がいて俺らがいたっていう。
それ答え出っこないよね。
敵を退治しちゃったから首を取ったわけで、
もしいつでも襲いかかってくるトラが都会にいたらさ、
もっとみんな歯が丈夫になるよね。腕力もつくし。
それ退治しちゃったおかげで、俺ら、
人同士がいじめあわないと、
その気持ちがやるせないわけですよ。
その気持ちみたいなところに、きっと笑いだって、
すっごいストレスをごまかすために、発明したんですよ、
誰かがね。
「何でトカゲのおっさんで笑えるのよ!?」みたいなさ。
面白くてしょうがないよねえ。
で、通訳のように衣装を着ているわけじゃない。
あれ、普通の格好のままで芝居できるんですよね。
それを、ふつうの格好のままだと通じっこないって
思ったから、あの衣装を着てたらおもろいで、って、
足したんだよ。
きっとあの形から始まったものじゃないですよね。
そういう構造が、わかりたいんです、俺は。
エロと笑い、っていうのは、知りたいんだなあ。 |
松本 |
そうですねえ。僕も知りたいですよ。
|
糸井 |
エロはねえ、今日はもう時間がないからアレだけどね、
あるよー、ネタ。
なんでこうなのかっていう。
それはね、山ほどあるから、ちょっと、ダーって、
机の前に広げて、やってみたいねえ。 |
松本 |
僕はねえ、
SとMのこだわりをいろいろ考えるんですけど、
これもいろいろ難しくてねえ。なんなんやろな。 |
糸井 |
じっさいに、Mの女としたことある? |
松本 |
僕がね、僕があまりSではないので、
多分向こうが出してないと思うんですね。
きっとあるんでしょうね。 |
糸井 |
僕は2人くらい知ってるけど、Sが奴隷になるんですよ。
自分にSないからなんだと思うんだけど、
なんでこんなに芝居をしなきゃいけないんだって。
だからあれ実はね、掛け声かけたほうの主導権なんですよ。 |
松本 |
SとMは。 |
糸井 |
殴ってやるぜ、って声から始まった場合は、
主導権がSなんですよ。
でも、ぶって、って言われたら、
リーダーはMなんですよねえ。
最初の掛け声だけ。 |
松本 |
そうですそうです。そうなんですよ。
SとMって、ほんまないのかもしれんなって、
ほんま僕もよう考えるんですよ。
さしてる、と思うのか、
させられてる、と思うのか、
というところですよ。 |
糸井 |
インターミッションごとに、
またジャンケンポンがはじまるわけ。
おんなじことしてると、お互い阿吽の呼吸で飽きたかな、
っていうのがあるじゃないですか。
そこで「もっと!」って声を出しちゃったら、
またMの主導権になるわけ。
「この野郎!」って言ったらSになるんですよ。 |
松本 |
そうか! |
糸井 |
インターミッションのところで、場面転換がある。
将棋の先手が有利か後手が有利かって言う話と同じで、
けっこうこれも長くしゃべれるんですよ。
将棋の場合は最近は、散々研究し尽くして、
先手になったのかな。
先手が何%か有利らしいんだ。
オセロは完全に後手が有利らしい。
後手取らないと負ける確率が圧倒的に高まるらしい。
SMは、先手だと思う。
ただ逆転をいつでも狙えるから、
1回インターミッションにもちこんで、
相手の気持ちをフラットにしちゃったら、もう1回できる。 |
松本 |
はあ……。 |
糸井 |
そんなようなことを、俺、ひとりで考えてんのよー。 |
松本 |
僕もSとMは考えますね。なんなんやろって。
これ面白いことにね、だいたいコンビをさかのぼるとね、
ほとんどのコンビはSとMなんですよ。
これにもきっとなにかあるんやろう。 |
糸井 |
あるね。なにかあるね。 |
松本 |
M同士とかS同士のコンビもたしかにいますけど、
そらね、やっぱり、いまいち、花咲かない。 |
糸井 |
やっぱりそれはコンビって、
事件を生み出すものじゃないですか。
あの、段取り芝居の漫才は別にして、
段取りじゃないふりをしているのが建前だから、
必ず交通事故なり、やじ馬を呼びたいわけですよね。
事件って基本的には衝突だから。
やっぱりそこでM同士って衝突回避するし、
S同士は譲りあうでしょう。
だから事件が起こらないんじゃないですかねえ。
逆に見えたりしても、あるよね。 |
松本 |
そう、ボケが必ずMってことではないんですよ。 |
糸井 |
見た目は、だって、松本人志の方がSだもん。 |
松本 |
Sなんですよ。
ところが本来は全然違ってて、僕はやっぱりMですし。 |
糸井 |
ただその中にインターミッション加えてるね。
時々、MのS性を出すよね。 |
松本 |
そうですね。
MのS性を出しますね。 |
糸井 |
あと浜ちゃんがマウンティングをするよね。
あの、のしかかって、胸を叩く。 |
松本 |
ゴリラの(笑)。
しますねえ。 |
糸井 |
しますねえ。
そしてマウンティングの時は客席を見るね。
あれ、商いできるギリギリっていうのは、
あそこにあるのかもね。
これ、言っちゃ悪いんだけど、
武道館の写真を出したコンサートが、
一番僕の中で松本人志の点の低いものなんですよ。
あれ、終われるじゃん、って思ったの。
つまり、お客さんいなくても完結しちゃうじゃんって。
あれは、「行かないでくれっ!」って思った方向なの。
そしたら、案外、やめたんで、助かっちゃったんだけど、
すっごくあの時楽しめても、
「次、ないよー、次、ないよーっ」って。
どんどん自分を難しくしていくだろうなって思ったんで、
あれ、やめてくれますようにって祈ってたんだよ。
だからやめてくれて……助かった。 |
松本 |
あ、そうか。
いやね、僕はあれ、武道館の意味は何もないなって
思ったんですよ。
そういう解決の仕方をしましたね。
ただあの面白さって言うのはやっぱりあるし……。 |
糸井 |
面白かったのよ!
もちろん。 |
松本 |
あるので、もっと違うやり方ではやりたいんだけどね。 |
糸井 |
あれで、試験問題みたいなの組み合わせたら最高だね。
「一人ごっつ」になるんですよ。
「一人ごっつ」の面白さって、あれがあったから
あるんだなって思ったら、
ああ、やめたわけじゃなくって、って思って。
遺伝してるじゃないですか。 |
松本 |
そうですね。 |
糸井 |
あれ? 何だかファンに近くなってるな。
こういう話しちゃ駄目だな。
もうちょっと、研究生になりたいんだけれど。
あ、きりがないから、ごめんね。
ちゃんと終わりにします。
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