永田 | これとこれは、マイクは同じ形だけど こっちはステレオ録音なわけですよね? しらいし そうです。これはステレオです。 そのぶんちょっとお高いですけどね。 |
永田 | あ、なるほど。ちょっといま喋ったのを 聞いてみていいですか? |
しらいし | はいどうぞ。 |
そこでいま喋った会話を再生してチェックし、 機種を変えてまた録音する、と。 話していると、しらいしさん、模範的な店員のようでいて けっこうシビアに商品を斬っちゃうのがおかしい。 |
|
永田 | この「V・O・R」っていうのはなんですか? |
しらいし | これはねえ、周囲の音を感知すると 自動的に録音を始める機能なんですけどね。 まあ、不必要な機能です。 |
永田 | アハハハハ、そうなんですか? |
しらいし | そうです。使いませんね。要りません。 |
永田 | (笑)。じゃあこの、テープスピードの調整とかは? |
しらいし | これは必要ですよ。 |
永田 | なるほど。個人的なおすすめはどれですか? 一応、目的としては、こういうふうに 取材で会話を録音して、家でテープを聞いて 文字にするっていう感じなんですけど。 |
しらいし | ほかはふつうに音楽とか再生するだけですか? |
永田 | いや、もうそれだけです。それ以外使いません。 |
しらいし | ですと、まあ、一番音がいいのはソニーさん。 ステレオであればおすすめはこれですね。 あとは、モノラルならこのへんで十分です。 永田 あ、一番安いやつ。ふ〜ん。ということは、 モノラルマイクであれば、どれもいっしょ? |
しらいし | そうですね。 |
永田 | ステレオであれば、これがいいと。 |
しらいし | そうです。 |
永田 | じゃあこのステレオのやつにしようかな。 最後にこれで録音してみていいですか? |
しらいし | はい。 |
そんな感じで僕のテレコはソニーのTCS-60に決定した。 そんじゃ、ちょっと悪ノリしよう。 しらいしさんとの会話も弾んできたことだしね。 |
|
永田 | ちょっと模擬的に取材みたいにして 録ってみたいんですけど、いいですか? |
しらいし | ああ、はい(笑)。 |
永田 | 今年の抱負なんか聞いていいですか? |
しらいし | 抱負ですか! 抱負ですか・・・。 何も考えてないですね、抱負のことは(笑)。 |
永田 | (笑)。2000年問題はどうでした? |
しらいし | 何か起こったらいいなあと期待してたんですが。 |
永田 | 不謹慎だなあ(笑)。 売場とかに問題ありました? |
しらいし | それがぜんぜん! 対策用に人は来たんですが、 2000年問題と言われてるようなものは 何も起こりませんでしたね。 |
永田 | 混み具合とかはどうでした? |
しらいし | すごかったですよ。あ、逆に2000年問題で 売れたものはありましたよ。発電器というか、 手回し発電器の付いてるラジオがよく売れた。 |
永田 | 手回し発電器の付いてるラジオなんかあるんだ? |
しらいし | ラジオにハンドルが付いてて、 それをグルグル回すと発電してラジオが聞けるという。 |
永田 | 電池が要らないんだ。 |
しらいし | そうです。ですけれど、ちゃんと 聞くには1時間ぐらい回さないとダメなんです。 |
永田 | アハハハハ、ダメじゃん! |
しらいし | 1分くらい回しただけじゃ、だいたい 10秒くらいで切れちゃいますね。 |
永田 | それ、製品として売りになんないじゃないですか? |
しらいし | 売りはやっぱり発電なんで(笑)。 |
永田 | 使えるか使えないかは問題じゃなく(笑)。 |
しらいし | そうです。 |
永田 | へ〜、おもろいなあ。あと、そうだな、 今年の家電で売れそうなものってありますか? |
しらいし | 今年の家電・・・。今後ということであれば、 デジタル化されたテレビが出れば売れていくかな というのがありますね。あとはMP3とか身近に なっていけば、MDに代わっていくかなあと。 |
永田 | なるほど。最近買った家電ってなんですか? |
しらいし | 最近買った家電・・・。家電、家電。 最近は、家電は買ってないですねえ。 |
永田 | アハハハハハ。 |
しらいし | 服を買いました。 |
永田 | どうもありがとうございました。 |
しらいし | はい(笑)。 |
永田 | 正月もずっとお仕事ですか? |
しばた |
いや、あたしゃ昨日からです。 29日からずっと休んでましたよ。 |
永田 | タクシーの人ってお正月は? |
しばた |
いや、なかなか休み取らしてくんないんですよ、 正月とかお盆は。タクシー会社にしてみれば、 車が遊ぶことになりますからね。 |
永田 | ああ、なるほど。 |
しばた |
でもねえ、正月はやっぱり、 のんびりしてるのがいちばんいいですよ(笑)。 昔とはぜんぜん違いますからね。 |
永田 | お正月がですか? |
しばた |
うん、昔は正月っていう気分があったんですよ。 だから仕事してても楽しかったけど。 いまはそういう気分がぜんぜんないですもんね。 |
永田 | ふ〜ん。なんすかね、その気分って。 |
しばた |
やっぱり、女性は着物着たりね。 車だって少なかったですよね。 今は正月だってなんだって車多いでしょう。 |
永田 |
ああ。それは、タクシー運転しながら眺めてる 街の風景が変わったっていうことですか。 |
しばた |
そうですね。昔は車のいない道を走ってると、 着物着た人が乗ってきてくれるわけですよ。 少しお酒かなんか飲んでね(笑)。 |
永田 |
(笑)。そういえば、昔の車って、 ほとんどお正月の飾りつけてましたよね。 |
しばた |
つけてましたつけてました。 今は景気悪いからつけないんでしょうね。 |
永田 | 景気なんですか? |
しばた | あれは会社から支給されるもんですからね。 |
永田 | ああ、なるほどなるほど。 |
しばた |
あと、お店やなんかでも全部やってますでしょ? 昔は寿司屋しかやってなかったんですけどねぇ。 |
永田 | 街のシャッターがほとんど下りてて。 |
しばた |
そうですよねえ。そういう雰囲気がないですねえ。 地方はどうか知りませんけど、 だんだんそういう雰囲気はなくなってますね。 |
永田 | ずっと東京ですか? |
しばた | 東京です。もう20年近いかな。41から始めましたから。 |
永田 | 今おいくつですか? |
しばた | 61です。 |
僕は、窓の外を見るのだ。 20年間しばたさんが見てきた風景。 | |
しばた |
だんだん変わっていきますね。 忘年会も少ないし、新年会も少ないし。 |
永田 |
ああ。あれですね、そういう、 季節のイベントみたいなもんが だんだん少なくなっていくとタクシーとしては。 |
しばた |
ヒマなわけですよ。 だいたい、酔っぱらってるお客さんを乗せるって ことがほとんどないですからね。 |
そう言って、しばたさんは笑う。 不景気な話をしながらも車内がちっとも重たくならないのは、 しばたさんの確かな視線のせいだろうか。 だって彼はずっと同じ高さで街を見てきたのだ。 |
|
しばた |
だけど今日、 あたしゃツイてるのかどうか知りませんけどね。 新宿から乗せた二人連れのお客さんが東府中まで だったんですよ。それでね、そこで女のお客さん 下ろして、そのまま中野まで戻ってきたんですよ。 行き帰り高速使ってね。 |
永田 | そういうお客さんは珍しいんですか? |
しばた |
珍しいですよお。だいたいあたし、高速乗ることが ここんとこずーっとなかったですから。 で、戻ってきたら今度新宿の四丁目から、 日野ですよ、また高速で日野。 |
永田 | へえ。じゃあ今年はツイてるんじゃないですか。 |
しばた | うん。これで一年終わりかもしんないね(笑)。 |
永田 | あはははは、ツイてますね。 |
しばた |
うん。今年はツイてんぞぉ。 不思議なもんですねえこれはねえ。 |
永田 | あ、次の信号、左です。 |
しばた | はい。 |
永田 |
どう? 実感は? 種の保存みたいなの感じる? |
さいとう |
う〜ん(笑)、なんか、すごい遠いところでさ、 「・・・父親になったんだなあ」って感じかなあ。 |
永田 | ふ〜ん。 |
さいとう |
母親は自分のお腹を痛めて生んだわけだから 「自分の子供だ!」ってのがあるだろうけどさ。 |
永田 |
うんうん。彼女の話聞いてるとそうだったね。 ああいう、つわりとか出産の話聞いてるとさ、 ・・・男子は不利だよね。 |
さいとう | (笑) |
永田 | でもすごく不思議な感じだよね。 |
さいとう |
不思議だよね。 「これが命かあ」ってのもあるし。 |
永田 |
ミルク一心不乱に飲んでんじゃん。 すごいなあと思ってちょっと感動しながら見てた。 |
さいとう |
赤ん坊はただ生きるだけだからね。 そういうパワーは。 |
永田 | すごいよね。 |
さいとう | ただ生きるっていう。 |
永田 | めっちゃピュアだよね。 |
さいとう | 純粋な生き物だよね。 |
永田 | うんうん。 |
さいとう | そういうの見てると幸せになるっていうのはあるな。 |
永田 | うん。なんだろね、あれ。あの幸せ感って。 |
さいとう |
やっぱ、美しいものを見るような。 花を見るようなもんなんだろうね。 |
永田 | そうねぇ。そんな感じしたなあ。 |
さいとう | ああいう原型っていうのは誰もみんな・・・。 |
永田 |
持ってるんだよねえ。 スタート地点は誰しもあそこなんだよね。 |
さいとう |
あの状態に戻れって言われても不可能だけどね。 でも誰もがああだったんだよね。 一番、子供生まれて思うのは、 そういう純粋なものを、 どうやったら残しておけるのかな っていうことかな。 |
永田 | 失わずにあれをとっておくっていうこと? |
さいとう |
少しでもあれを残していければいいなあ。 それは過保護にどうこうするんじゃなくて。 純粋なものは残してあげたいなあ。 ・・・それを考えるのが親なのかなあとか。 |
永田 |
そうだねえ。 でもそれってある意味相反することだよね。 あのままにして残すっていうことと、 一人の人として立派に育てるっていうのは。 たとえば名前をつけることだって。 |
さいとう |
うん。ある意味親のエゴだし。 赤ん坊にとって望むことはなんだかわかんないしね。 |
考えてみると、生後9日という赤ん坊を 僕はあんなに間近で見たことはないのだ。 過去、もっともピュアな人間を 見たということかもしれない。 言葉もない。歯もない。でもきっと何か考えている。 | 永田 |
いろんな選択を迫られるね、これからはね。 最初に与えるなんとかは、とか。 |
さいとう |
ものを教えなきゃいけないっていうのは すごく大変だと思うけどね。 | 永田 | ああ、そうだね。 |
さいとう |
自分に自信があればいいけど、 自信がないとこまで教えなきゃいけない っていうのはすごく難しいんじゃない? |
とっても純粋なもののそばにいると、 なんだか祈るような気持ちになってしまう。 そして、さいとうは、 やはり父親としてすでに怒り初めてもいるのだった。 | |
さいとう |
間違いなくいまの世の中は ろくでもなくなってきてるからね。 どうしてやったらいいのかなあ。 |
永田 |
だからっつって、田舎に引っ込んだら OKってわけじゃないからね。 |
さいとう |
ニュースとか見てるとさ、 サイコ野郎がすっげえ増えてるからね。 将来はもっと増えるんだろうし。 それでも自分の道を行けるように、 ・・・っちゅうのをなんか考えるよね(笑)。 |
永田 |
そうだろうね。 頼りないが、頼もしい。 根拠はないのだけれど。 |
永田 |
話しかけるとき、赤ちゃん言葉とか使える? 照れたりしない? |
さいとう |
赤ん坊とかを目の前にすると、 ためらわずに行けちゃうんだよねえ。 |
永田 | ピュアなもんに弱いよね、昔から。 |
さいとう | 弱い。本物が好きだからね。 |
永田 | 赤ん坊は本物だからね。 |
さいとう | あんな本物ないね。 |
永田 | ないね! |
なんとも青臭い会話を、 僕らはゆっくり交わしていたのだ。 | |
永田 | 正直、思いのほかうれしかったよ。 |
さいとう | 永田は、いろんなこと喜んでくれっからねえ。 |
永田 | バカみてえだな(笑)。 |
さいとう | いや(笑) |
タカ | おわっ! |
アキ | あ、アイボ! |
エリ | どうしたんですか! |
永田 | 待て待て待て。 |
ええと、「どうしたんですか」と「いくらですか」など、 何度も繰り返される質問は割愛します。 あと、いろんなヤツらが現れるので人物紹介もしません。 | |
アキ | おお、肉球がある! |
エリ | かわいいかわいい。 |
アキ | バウ、バウバウバウ(犬語らしい)。 |
ピコピコ音を出すアイボ。 | |
アキ | ピコピコピコじゃわかんねえよ! |
目のあたりのライトを点滅させて喜ぶアイボ。 | |
エリ | あ、笑った! |
アキ |
お手、お手お手。お手お手お手。 お手お手お手お手! お手って! |
永田 | 無茶言うなよ。 |
などと言ってるあいだにも人は集まる。 連中、夢中である。 野次馬のるつぼである。 視線は未来である。 そんな中、じつに機械っぽい、 不可解な関節の動きでアイボが立ち上がる! | |
アキ |
おおっ、カッコいい! ロボだ! ロボだ! デデッデンデンデンデーン! |
トヨ | ガンダム大地に立つ! |
エビ | クララが立った! |
ママ | へ〜、肉球ついてるんだ。 |
ナガ | っつーか、関節変だよ。 |
永田 | だってロボットだもん。 |
ナガ |
そんなこと言っちゃダメだ。 こいつはペットなんだから。 |
永田 | ロボットでしょ。 |
ナガ | ペットだ! |
歩き出すアイボ。 | |
アキ | やっべえロボコップみたい。 |
永田 |
お、歩いた。こないだまで歩けなかったんだよ。 1カ月くらいかけて成長するらしいからさ。 |
エリ |
あたしたちのおかげだよ。 かわいいかわいい。喜ぶとうれしい。 |
タカ | 痛っ! 噛まれたよ、ロボットに。 |
永田 | 指が引っかかっただけだろ。 |
ナガ | なんでビーグル犬なんだ。耳が垂れてる! |
永田 | 犬にこだわるなあ。 |
アキ | (胸をなでながら)このへんを触ると喜ぶはず。 |
エリ | 怒ってるよ、怒ってるよ。 |
タカ | おまえが触るから怒っただろお。 |
エリ | あたしが歩くまでに育てたのに! |
タカ | 悪かったよ悪かったよ。 |
タカ | 触んなっつってんだよ! |
エビ | 解剖してみようよ。バラそうよ。 |
ナガ | 自分で買ったら絶対分解するよな。 |
エビ | するする。 |
永田 | え〜っ、しねえよ。 |
エビ | だって中、知りたいもん。 |
ナガ | 昔、時計とか分解しなかった? |
永田 |
あ、俺分解欲なし。 パソコンとかでも開けないもん。 |
ナガ | うそお。ダメだ。君、ダメ。 |
ハリ | おわっ、アイボ! あ、肉球だ! |
永田 | なんでみんな肉球ばっか言うかな(笑)。 |
アキ | すっげえ尻尾立ってるよ。 |
ハリ | 尻尾振りすぎ! |
タカ | あ、いま犬っぽかった。犬っぽかった。 |
ハリ | 永田さん、めっちゃ精密にできてるよ、これ。 |
永田 | 知ってるよ(笑)。 |
ハリ | よくできてる。精密機械。 |
永田 | 知ってるよ。 |
ハリ | 永田さん、これすごい精密機械ですよ! |
永田 | 知ってるって(笑)。 |
ナガ |
黒いバージョン出すならさあ、 耳の形変えりゃあよかったのになあ。 |
永田 | まだ耳の話してる(笑)。 |
このアイボは、 こないだ発売された黒いバージョンのアイボなのだ。 | |
ハリ | 黒いのヤダなあ。 |
永田 | 銀のほうがいいよね。 |
ハリ | ・・・塗っちゃおっか? |
永田 | なんで小声なんだよ。 |
タカ |
俺だったら色塗っちゃうね。 カスタムするっしょ。 |
エリ | 小物入れとかついてるといいのに。 |
永田 | ガハハハハ、小物入れ。 |
ふらふらとよろけるアイボ。 | |
タカ | 『おっとっと』。 |
バランスを取って座り直すアイボ。 | |
タカ | 『いやあどうもどうも』。 |
永田 | 吹き替えすんなよ。 |
タカ |
アイボが右手を上げるとお客さんを招いて、 左手を上げるとお金を招くんですよ。 |
永田 | 招き猫じゃねえかよ。 |
ハリ |
(取扱説明書を読みながら)永田さん、 「こんな時はモチベーションが下がってます」 って書いてあるよ。 |
永田 | うそつけ。 |
ハリ | 「志気を高めましょう」だって。 |
永田 | ガハハハハ。 |
エリ | これなんですか? |
永田 | あ、それ触んな。電源スイッチだぞ。 |
エリ | あ、スイッチですか。 |
アキ | これ電源切ったら記憶が消えるとかないよね? |
ハリ | 人工知能回路が消えるかもしんないよ。 |
永田 | 人工知能回路(笑)? 発想が貧困だなあ。 |
ハリ | じゃあ、Pラムがクリアーされますよ。 |
永田 | なんでいきなり専門的になんだよ。 |
ハリ | ファームウェアが書き換えられますよ。 |
永田 | (笑) |
ハリ | バイオスが書き換えられちゃうよ! |
永田 | もういいよ。 |
「フワァ」とあくびするアイボ。 | |
エリ | あ、あくびしてる。 |
アキ | 生意気な。バシッ(殴る)。 |
永田 | ひどいな、おまえ。あくびしただけじゃん。 |
アキ | はいはいゴメンゴメン。! |
なでなで。ニコニコ、いえーい。 | |
永田 |
・・・アキ、そういうのって、 プラマイゼロじゃないと思うぞ。 |
アキ | そうなのかなあ。 |
永田 |
おまえ、あくびして殴られて、 そのあと「よしよし」ってされたら・・・。 |
ハリ | 逆に腹立つよ。 |
アキ | じゃあ、もう一回なでなで。 |
一同 | だからそうじゃないだろ! |
永田 | おまえ、子供作らないほうがいいぞ。 |
精密機械アイボはバッテリーで動いている。 アイボはバッテリーが切れかかると、 自分からその動きを止めて眠ってしまうのだった。 ピコピコピコ・・・ピコピコ・・・・ピコ・・・・・・ ・・・・ピコ・・・・・ピ・・・・・・・・ピ。 アイボ、停止。 | |
タカ | おっ、死んだ。死んでしまった! |
ナガ | 死亡。 |
ハリ | ・・・終わったっぽいよ。 |
永田 | 終わったってなんだよ。出し物かよ。 |
はやし | もう録ってるんですか? |
永田 | はい。 |
はやし | もう録ってるんですか? |
永田 | はい。 |
僕のこの連載に初めてメールをくれた、 はやしゆうこさんは僕より少し年上の女性だった。 はきはきとして、大きくはないけれど 聞き取りやすい声で、テンポよく話す人だった。 僕らは、会うことができたことにお互い安堵し、 それですっかり緊張が解けてしまった。 さて、テープは回る。 | |
永田 |
一回目をアップした日に すぐメールくださったでしょ。 ちょうど見てたんですか? |
はやし |
そうですね。見て「あ、また新しい連載だ」と 思って読んだらすごくおもしろかったんで、 すぐ、思いつくままにメールしちゃったんです。 |
永田 | 毎日あのページはご覧になってるんですか? |
はやし | ええ。・・・ほぼ毎日。 |
永田 |
ほぼ毎日(笑)。 『ほぼ日』へは、よくメール出すんですか? |
はやし | それが、初めてなんですよ。 |
永田 | へえええ。そうだったんですか。 |
はやし | はい。 |
僕の初めての原稿を読んで、 はやしさんが『ほぼ日』に出した初めてのメールが、 僕に届いた初めてのメールだったのだ。 なんとも不思議な巡り合わせだ。 | |
永田 |
僕、驚いたのが自分の原稿がアップされたのを 職場で初めて見たんですけど、 すぐに最初のメールが転送されてきて。 自分も初めて読んでるようなタイミングで メールが来たから、 「あ、この人、今読んだんだ!」っていう 新鮮な驚きがあって。で、すぐにメール出して。 |
はやし | ああ、私もすぐに返事が来たから驚いて。 |
永田 | 『ほぼ日』って、いつからお読みになってます? |
はやし |
インターネット初めたのが一昨年の暮れだから 去年だと思いますけど。 |
そんなこんなで、お互いの共通点である、 『ほぼ日』の話などする。 よく見るテレビの話をするみたいに。 | |
永田 | 最近だと、井上陽水さんのおもしろいですよね。 |
はやし | あ、ごめんなさい。私あれ読んでないんですよ。 |
永田 | いえ(笑)。 |
はやし | 1回も開いてないんですよ。ごめんなさい! |
永田 | あ、あの、僕に謝られても。 |
はやし |
あ、そうですね(笑)。 『ほぼ日』を読み始めたころは、 更新されるものは全部読んでたんですよ。 |
永田 | うんうん、僕もそうでした。 |
はやし |
でもそのうち「これ読みたいな」っていうのを 選ぶようになってきちゃって。 |
永田 |
ああ、全部読むとすごい量になりますもんね。 ん? でも、井上陽水さんの対談って、 一度も開いてないんですよね? 1回読んで、っていうのならわかるけど、 読む前のものをどうやって選んでるんですか? つまり、読む前に、 「読まない」って決めちゃったわけですよね? 開くものと開かないものの差ってなんですか? |
はやし | ・・・・・・。 |
永田 |
あっ、すいません! なんだか問いつめてしまって。 どうもこう、糸口を見つけると 突っ込んで取材してしまう癖がついてて。 |
はやし |
いいえ(笑)。 あの、古川さんの対談ってありましたよね? |
永田 | マイクロソフトの。 |
はやし |
そうそう。あれを読んでたときに、長くて、 スクロールさせてたら目が回ってしまって。 |
永田 | 長さで? |
はやし |
そうそう。それで、井上さんのを見たときに、 「これは長いのでは?」と思ってしまって。 |
永田 | なるほど。じゃあ、内容は二の次で。 |
はやし |
そうですね。鳥越さんのニュースとかは、 短いから、毎日読んでます。 渡辺真理ちゃんのお菓子のやつとかも。 あと、なんとかののぞき穴っていうのも いつも必ず見てる。 |
永田 | そうか。長さってのが重要なんですね。 |
はやし | そうですねえ。 |
永田 | 一日、ネットってどのくらい見てます? |
はやし |
・・・けっこうすごいんですよ、私。 調べごとを始めると、すぐ時間が経っちゃって。 キリがないからもうやめようと思ってます。 |
永田 | (笑)。それはどんな調べごとなんですか? |
はやし |
旅行に行くときとかに調べるんですけど、 初めての土地とかだとやっぱり調べますよね。 それでいろんなサイトがあるから 「あ、今度こっち」ってやっていくともう、 どんどん時間が過ぎてしまって。 |
永田 |
ああ、なるほど。 あるなら全部見なきゃ、って感じになりますよね。 調べきった感じにならない、みたいな。 |
はやし |
そう、そうなんです。昔なら、図書館とか行って 本借りてきて調べたりしてたんですけど。 いまだとインターネットのほうが便利だし、 情報が新しいんじゃないかって思ってしまって。 |
永田 |
うんうん。たとえば本で調べるのって、 その本を借りるなり買うなりした時点で、 他の情報はあきらめてるんですよね。 膨大な情報の中から、ひとかたまりだけ持ってきて、 そこを調べてるわけですよね。 だからその本を読み切れば、 調べ尽くした感じがするんだけど、 インターネットって、ひとかたまりだけ取るって いうわけにいかないからキリがないというか。 |
はやし |
そうですね。だから旅行の調べごとには、 ある意味向かない。 |
永田 |
なるほど(笑)。 けっきょく、ネットでさんざん調べても、 知り合いの「あの宿がいいよ」の一言で 決まっちゃったりとか。 |
はやし | そうそう(笑)。 |
印象だけれど、 僕を含めて『ほぼ日』を読んでる人っていうのは、 インターネットに精通したパワーユーザーよりも インターネットの便利さと不便さのあいだを 行ったり来たりしているような人が多いような気がする。 たぶんイトイさんがその代表なのかもしれないけど。 | |
永田 |
メールとかネットをやりだして、 知り合いが増えたりしました? |
はやし |
それはあんまりないですね。 もともと知ってる子とやり取りするくらいで。 チャットとかもやらないし、 あんまり冒険しないですね、なんか怖くて。 |
永田 |
ってことは、これ(こうして会っていること)、 かなり冒険ですよね(笑)。 |
はやし | うん、これは冒険(笑)。 |
永田 |
僕もかなり冒険ですよ。 メールとかネットを通じて、 面識ない人と会うのって初めての経験だし。 |
はやし | 私も。 |
永田 |
でもなんていうか、 『ほぼ日』じゃなかったら会わないですよね。 |
はやし | あ、会わないですね。 |
永田 |
『ほぼ日』を介しているから、 なんとなく信用がおけている、 みたいなところないですか? |
はやし |
ありますねえ。でも永田さんのほうが、 私に対して信用おけるかどうか わからなくて困ったんじゃないですか? |
永田 |
いや、でも、『ほぼ日』を読んで 反応してくれているという、 共通の認識があると・・・。 |
はやし | ああ、それで信用いただいてるというか。 |
永田 | お互いに(笑)。 |
はやし |
それは大きいかもしれない。 『ほぼ日』を読んでる人なら、っていうのはある。 |
永田 |
だから、会う前の、 はやしさんに対する僕の信頼と、 僕に対するはやしさんの信頼っていうのは、 『ほぼ日』に対する信頼なんですよね、きっと。 |
はやし | そうかもしれない。そうですよ。そうだそうだ。 |
永田 | そんな気がしますよねえ。 |
はやし |
わかる。今日もね、家を出るときに 母に「誰と会うの?」って聞かれたんですけど、 私がふだん、『ほぼ日』を読んでるの知ってるから、 いきさつを説明したら、母も、 「ああ、おもしろそうね。行ってらっしゃい」 っていう感じで。 |
永田 | うんうん。 |
はやし | 永田さん、車は? |
永田 | 車は持ってないんですよ、免許はあるけど。 |
はやし | 東京じゃあまりいらないですよね。 |
永田 | 駐車場とかも高いし。車お持ちですか? |
はやし | ああ、はい。車ね、当たったんです私。 |
永田 | えっ! |
はやし | 当たったんですよ。 |
永田 | すごい。 |
はやし | ええ。ずいぶん昔ですけど。 |
永田 | クイズかなんか? |
はやし | はい。 |
永田 | ハガキで応募して? |
はやし | はい。 |
永田 | 何枚? |
はやし | ・・・1枚。 |
永田 | 1枚! すっげえ。そんな人いるんだ! |
はやし |
いるんですよお。私もそんな人知らないです。 でも車が欲しかったわけじゃないんですよ。 賞品にロサンゼルス旅行があって、 そっちが欲しかったんですけど、 賞品を選べなかったんですよ。 |
永田 | ああ、なるほど。 |
はやし |
で、出してそのままにしておいたら、 ある日電話がかかってきて、 「おめでとうございます! 車が当たりました」 って。いたずら電話だと思って(笑)。 |
永田 | ふつう、いたずら電話ですね(笑)。 |
う〜む、そういう通知ってくるもんなんだなあ。 はやしさんはまだその車に乗っているのだという。 ところで、思いもかけないものが当たってしまうことって、 そんなにいいことばかりじゃないみたいなのだ。 | |
永田 | いつですか、それ? |
はやし | もう10年以上前ですけど。 |
永田 |
僕、車の名前ぜんぜんわかんないんですけど、 なんて車ですか? |
はやし |
ホンダのシティーです。 当時すごい宣伝とかしてて。マッドネスが。 |
永田 | おお、マッドネス! |
はやし | うん。でも困った。駐車場がない。免許がない。 |
永田 | 免許なかったんだ。 |
はやし |
はい。で、向こうは「納車したい」、 こっちは「困ります」なんてやり取りがあって。 |
永田 | (笑) |
はやし |
しょうがないから車屋さんに預かってもらって、 駐車場確保して、免許取りに通いました。 |
永田 |
いいことばっかりじゃないなあ。 じゃ、教習所に通うのもあんまり楽しくないね。 |
はやし |
楽しくなかった〜。すぐ取れると思ってたけど、 卒検に何回も落ちたんですよ。 初めて味わう・・・挫折? |
永田 | あははははは。 |
はやし | 泣きましたもん、私。 |
永田 | 車が当たったばっかりに。 |
はやし |
イジワルな教官とかばっかりだし。 自分の予定としては学校に行きながら 免許を取るはずだったんですけど、 落ちちゃったもんだから夏休みに入っちゃって、 学校もないのに家から学校までわざわざ通って。 |
永田 | 車が当たったばっかりに、夏の予定まで。 |
自慢じゃないが僕は車についての知識がほとんどない。 でも、10年も前にマッドネスが宣伝してたシティーに 今も乗ってるのって、けっこう珍しいんじゃないかしら? | |
はやし |
ブツけまくりながら乗って。 もう色とか褪せてるんですけどね。 |
永田 | へえ〜。 |
はやし |
おかげさまでエンジンは元気なんですけどね、 電気系統はだんだんダメになってきてて。 |
永田 | ふ〜ん。 |
はやし |
イスとかもボロボロになってきちゃって。 いちばんひどいのがね、 ハンドルが、割れちゃったんですよ。 |
永田 | えっ、うそぉ! |
はやし | 割れるんですよ。 |
永田 | (爆笑) |
はやし | なんかね、こうね・・・。 |
永田 | ちょ、ちょっと待って、おもしろすぎる、それ。 |
はやし |
ハンドルの真ん中に白い線が入ってきたんですよ。 プラスチックを割るとき、白い線が入りますよね? |
永田 | はいはい(笑)。 |
はやし | 運転してたら入ってきたんですよ。 |
永田 | 運転してたら(笑)。 |
はやし |
「あれ〜何かな〜」って思ってたんだけど、 ある日突然「パカッ」って。 |
永田 | アハハハハハハ! |
はやし | びっくりして、もう。停車ですよ、すぐ! |
永田 | すっごい、おもしろい話だ、それ(笑)。 |
はやし | 車屋さんに行って変えてもらって。 |
永田 | 貴重な体験ですねえ。 |
はやし | なんでしょうねえ。やっぱり気温の変化で・・・。 |
永田 | 違う違う(笑)! |
はやし | え、違うのかなあ(笑)? |
永田 | 違うと思うなあ。 |
はやし | ・・・ハンドルって、中、空洞でしたよ。 |
永田 | (爆笑) |
はやし | もっと中は詰まってるのかなと思ったら。 |
永田 | ソリッドだと思ったら。 |
はやし | うん。ああ、これじゃ割れて当然だなと。 |
永田 | わはははははは! |
はやし |
私、すごいテレビ好きなんですよ。 家族もそうで、みんな自分のテレビを持ってて。 |
永田 |
僕の家はずっと1台しかなかったから、 自分の部屋にある人はうらやましかったな。 |
はやし |
テレビは本当に大好きだから。 テレビないと・・・ダメかもしれない(笑)。 朝、起きるとまずテレビつける。 |
永田 |
あ、そういう人、うちの職場にもいます。 彼は、真面目な原稿書きながらヘッドホンで テレビの音だけ聞いてたりとかするんですよ。 |
はやし | ・・・え? わかりますよ、それ。 |
永田 | わ〜、わかるんだ(笑)。やっぱりそうなのか。 |
はやし | え? うん。何するときでも、テレビ。 |
永田 |
ああ、そうなんだ。彼が言うには、 テレビの音が聞こえてると安心っていう・・・。 |
はやし | 安心です! |
永田 | やっぱり。 |
はやし | ええ〜、みんなそうじゃないんだ(笑)? |
永田 | そうじゃないと思うなあ。 |
はやし |
家中、そんな感じでしたよ。 よく「ご飯のときはテレビを消しなさい」 って言うけど、「え? ご飯のときはテレビを 見る時間じゃないの?」っていうか。 |
永田 |
うちはご飯のときはダメだったなあ。 「ご飯のときはダメ!」っていうんじゃなくて、 テレビ見てると手が止まって、 ご飯が冷えちゃうから早く食べなさいみたいな。 |
はやし | あああ、うち冷えてる冷えてる、ご飯。 |
永田 | (笑) |
はやし |
あと、友だちと旅行に行っても、 ホテルとかですぐテレビつけて。 部屋に入るとすぐ「テレビつけていい?」って。 で、何が映るかチャンネルをまずチェックして。 まず最初にやることはそれですね。 |
永田 | へえ〜、わかんないなあ。 |
はやし | そうですか? |
永田 |
その、職場のテレビ好きは、最近CSに入って、 マルチ画面っていうのかな、 画面が9分割ぐらいになってて いろんなチャンネルの映像が映ってるを見ると 「うっとりする」とか言ってたけど。 |
はやし | ああ〜、いいなあ(うっとり)。 |
永田 |
(笑)。それってなんですか? コンテンツっていうか、 番組内容じゃないわけですよね? 情報をすごく欲してるわけじゃないですよね? ためになっていようがなっていまいが、 映ってたら安心なわけですよね? |
はやし |
う〜ん、落ち着かないんですよ、 テレビがついてないと。 |
永田 | 見たいものが全然ない場合はどうしてます? |
はやし | 「つまんないなあ」と思いながら・・・。 |
永田 | ずっと見てる。 |
はやし | うん。ていうか消さないです。消さない。絶対。 |
永田 | うそぉ。 |
はやし | 受験勉強のときは一時期ラジオ生活だったけど。 |
永田 | ふ〜ん。起きて、まず? |
はやし | テレビつける。何よりもまず。 |
永田 | 何よりも! |
はやし |
だから、目覚ましをちょっと早めにかけておいて、 鳴ったら、テレビをつけて少し寝る。 |
永田 | テレビとともに起きるんだ。寝るときは? |
はやし |
消すようにしてるんですけど・・・、 ホントはついてるまんまがいい。 |
永田 | 許されるものならば(笑)。 |
はやし | うん。でもさすがに、それはいけないなって。 |
永田 | じゃあ、理想的なのはつねにつけっぱなし? |
はやし | うん! いいですねえ〜(うっとり)。 |
永田 | そうなのかぁ〜(笑)。わからない。 |
最近流行りのドキュメント番組風に言うと、 驚くべきことに、彼女が極端にテレビを好むその背景には、 幼少の頃の体験が深く影響していたのだった。 | |
はやし |
それはねえ、母に話すと、 ちょっとうつむき加減になるんですよ。 「それは私のせいかもしれない」って。 |
永田 | どういうことですか? |
はやし |
私が赤ちゃんの頃、テレビの前に寝かせとくと、 おとなしくなったらしいんです。 それで、テレビの前に寝かせて、 家事をすませていたらしいんですよ。 |
永田 | へえええ。子守歌がわりだ。 |
はやし | そうです。 |
永田 | それはなんかすごいなあ。生粋のテレビっ子だ。 |
あるからして、彼女の生活にはテレビが不可欠。 テレビ好きの友だちとは強い絆で結ばれていたりするが、 そうでない人とは軋轢を感じたりすることも ままあるらしい。 | |
はやし |
友だちでやっぱりテレビ好きな子がいて、 その子と人が見ないようなテレビの話するのは すっごく楽しい。 |
永田 | テレビ好きどうしの濃い話だ。 |
はやし |
そう。がっかりしたのが、 こないだ知り合いと3人くらいで歩いてて、 円柱型の建物があったんですよ。 それ見て、「これってワタナベアツシが 訪問しそうな建物ですねえ」って言ったら 誰も反応してくれなくて・・・。 |
永田 | ??? |
はやし |
ああ、やっぱりわかんないんだあ(笑)! 『ワタナベアツシの建物探訪』っていう番組が、 いま土曜の朝かな・・・けっこう有名ですよ? |
永田 | すんません。 |
はやし | いいえ(笑)。 |
永田 |
見るときってチャンネルを変えながらですか? それとも番組表とか見ながら? |
はやし |
新聞くらいかな。あんまり番組表は見ないです。 やっぱり見ながら、チャンネルを順番に。 |
永田 |
じゃあ、リモコンを握ってる時間っていうのは 1日の中でかなり長いですね。 |
はやし | だって、リモコンの字、もう消えてるもん(笑)! |
永田 | あはははははは。 |
はやし | そういえば数字全部消えてる。 |
永田 | すごいなあそれ(笑)。 |
はやし | 真っ黒ですよ、リモコン。 |
永田 | (爆笑) |
はやし |
でもどこが何チャンだか全部わかるの。 考えてみると怖いなあ(笑)。 |
永田 | (笑) |
はやし |
だからよく、友だちから電話かかってくると 「どうしてこの番組見てないかな?」って 頭にくるときがある。9:45とか。 9時からの番組が一番盛り上がるときに かかってくると、「見てないよ、この人」って。 |
永田 | なるほどねえ(笑) |
はやし |
でもだいたいそういうときにかけてくる人って、 あんまり友だちじゃない。 「しばらくぶり〜」みたいな電話。 |
永田 | ははははは。 |
はやし | わかってる友だちはかけてこないですよ。 |
永田 | ゴールデンタイムには。 |
はやし | そう(笑)。 |
つまり、はやしゆうこさんという人は、 東京に住んでいて、 一昨年インターネットを始めて、 10年前にクイズで車が当たって、 走ってる途中にハンドルを割った経験を持ち、 テレビが大好きな人だった。 そのほかにも、犬好きだったり、 部屋に入ってきたテントウムシを飼育してみたり、 昔、『ドラゴンクエスト』のエンディングを ビデオに録ってみたことがあったりと いろんなことを話してくれたわけだけれど、 さすがに僕はテープを2本しか用意してなかった。 おかわりしたコーヒーも空になってしまった。 | |
永田 | でもちゃんと会えて取材できてよかった。 |
はやし |
うん、よかった。私が言うのもへんだけど。 何を話そうっていうものがなくて、 会って話すことしか決まってなかったから、 どうなるかなあと正直思っていたんですよ。 何かおもしろい資料とか持って行ったほうが いいのかなあとか。 |
永田 |
いえいえ。僕、自由な取材のときは、 あんまり質問とか内容って決めないんですよ。 とっさにその人が何を返すのかっていうのが、 取材してて楽しかったりするので。 |
はやし | じゃあ、よかった。 |
永田 | テープを使い切っちゃったなあ。 |
はやし | ほんの15分で済みますって言ってたのに。 |
永田 | すいません。 |
はやし | いえいえ(笑)。 |
永田 | 楽しかったです。 |
はやし | うん。あの、こんなので、大丈夫なんですか? |
永田 | 大丈夫ですよ! |
永田 | レコーディングはもう? |
ボーズ | やっと終わりましたねぇ。 |
永田 | おつかれさまです。 |
シンコ | 『ほぼ日』の連載って、なんてタイトルですか? |
永田 | 『怪録テレコマン』っていうんですけど。 |
シンコ | あ〜、あれだ。毎日見てるんですけどね、一応。 |
永田 | あ、そうなんですね。 |
ボーズ | 『ほぼ日』って、やってる人が膨大ですよね。 雑誌とか超えてるよね。 |
シンコ | クマさんとかやってんのね。 |
ボーズ | そう、意外な人いっぱい並んでるもんね。 |
シンコ | 一応テーマはゲームってことになってるの? |
ボーズ | ぜんぜん違うの。 |
シンコ | へえ〜。で有名無名は問わず? |
永田 | 問わず。 |
ボーズ | あの、タクシーに乗ったところで テレコを回してってのがおもしろかったなあ。 たしかにインタビューになるんだよね、 タクシーって。 |
永田 | 自然とそういう会話になりますもんね。 |
アニ | しちゃうよね、自分の哲学みたいな話を。 |
シンコ | 「どうっスか野球は?」とか言ってみたり。 |
永田 | 適当な相槌うてますからねぇ(笑)。 |
ボーズ | その場その場で自分のキャラとか作れるし。 |
シンコ | たまーにだけど、 降りるの惜しい運転手とかいるもんね。 |
ボーズ | おもしろくてね。 |
永田 | 「これ持ちネタだな」っていうくらい、 よくできた話、してくれたりして。 |
シンコ | やけに洗練されてんのね(笑)。 |
ボーズ | あと、このテレコ買うときの話は やっぱおもしろかったっすよ。 「テレコ買おうと思うんですけど」って、 テレコ回しながら店員に聞くの。 |
シンコ | あー。 |
永田 | あれは緊張しましたね。 |
ボーズ | どんどんテレコ買っていく、 っていうのはどうですか? 毎回。 |
永田 | (笑) |
ボーズ | それも毎回「どれがおすすめですか」って。 |
永田 | でも、経費出ない(笑)。 |
ボーズ | あぁぁぁぁ(笑)。 |
シンコ | あと風邪とかひいたときに お医者さんの話とか録音すると いいかもしれないですよね。 |
永田 | なるほど。 なんか企画会議みたいになってきた(笑)。 |
ボーズ | いいかも。どんなのできるかなあ。 でもあのアイデアは可能性感じるんだよなあ。 いつでも回せばいいんだもんね。 |
永田 | ただときどき思うのは、 「おいここ盗聴コーナーなのか?」 みたいなところで。 |
ボーズ | あはははは、そうだよね。 そこ気をつけないと。 |
永田 | 趣旨違うぞっていう。 |
ボーズ | だから女の人とかじゃなければね。 おっさんの話とか、 録音しても意味がないようなものであれば。 |
永田 | そうか、俺に利益がなければいいのか。 |
ボーズ | そうそうそう。なんでもない話を。 |
シンコ | 床屋っていうのも。 |
永田 | あ、床屋いいかもしれない。 チャキチャキ切ってる音がして。 |
ボーズ | 近所の床屋のおっさんとか、話聞いてると、 30年くらい切ってたりすんじゃん。 どんなだったんだ、このへん? っていう。 |
永田 | あと床屋の人って、ずっと前にした話を ずっと覚えてたりしますよね。 |
ボーズ | しますねえ(笑)。 |
永田 | 「ビデオ屋のバイトどう?」とか。 もうとっくに社会人なんですけどっていう。 |
ボーズ | あるある。 |
アニ | あとだいたい、切りながら、 「今年ハ、ドッカ、イカレルンデスカ?」 っていうお決まりの。 |
ボーズ | 旅行ね(笑)。 |
永田 | 連休のあとだと、 「今年ハ、ドッカ、イカレタンデスカ?」に。 |
アニ | そうそう。 行くときって、だいたい平日の昼とかだから 空いてるんだよねえ。 |
シンコ | おっちゃんが世相を斬りまくりで 相づち打ちまくりで。 |
アニ | 「結婚式行くからセットしてください」って 言ってそろえてもらってさ、 かと思うとそのつぎ行ったときに 「ボウズにしてください」って言ったり。 |
永田 | あははははは。 |
ボーズ | デタラメだなあ。 |
永田 | そういうとき「お仕事は?」って 聞かれたらどう答えるんですか? |
アニ | 「会社員です」 |
ボーズ | 行ってないじゃん、今! |
永田 | (笑) |
アニ | でもいっぺん警察にキップ切られたときに 職業聞かれて「自由業です」つったら、 「自由業って職業はないんだよ」って 怒られたことあるなあ。 |
ボーズ | 僕は床屋だとバレたりするなあ。 切ってるオヤジが得意気だったりとか。 |
永田 | そうなんだ(笑)。 |
ボーズ | そばに子供がいたりなんかすると、 「ほらほら今まさに私が ボーズの頭を切っているよ」みたいな感じで。 |
永田 | (笑) |
永田 | ネットっていつ頃はじめました? |
アニ | 1年ぐらいじゃん? |
ボーズ | iMac。 |
永田 | あ、なんか変な買い方をしたという話を どっかで読みましたよ。 |
ボーズ | そうそう。まず僕が買おうよって言いだして。 ライムのやつ買って、 「買った、買った」って騒いでたの。 そしたら、シンコが次に買いに行って。 アニもいっしょに売場に行ってたんだけど、 シンコが買うのを横で見てて、 「あと、同じのもう1個ください」って。 |
永田 | あははははは。 |
ボーズ | 「すごい買い方すんなぁ」って(笑)。 |
永田 | 「俺も」って。 |
アニ | そう。「じゃあ同じの」って。 |
ボーズ | 「もう1個ください。色違いで」。 |
永田 | (笑)。使ってます? |
ボーズ | つーか、普通になっちゃった、もう。 |
シンコ | うん。 |
アニ | 僕は二人に比べるとそんなでもない。 電源入れて、やること終わって、 「あ、終わった、消そう」って感じで。 メールチェック。「来てねー」。おわり。 |
永田 | (笑) |
アニ | メールチェックして、 あの「ップン」って音がして、もうおわり。 わざわざパスワードまで入れたのに、って。 しょうがないから、 自分たちのホームページのBBS見て。 「なんか載ってないかなー」とか思うんだけど、 1個ぐらいしか新しいのなかったりして。 あと何するかなあ、 知り合いのホームページ行ったけど、 「これわかんないんなー」みたいな。 |
ボーズ | ライトユーザーだ! |
アニ | かなり。 |
永田 | (笑) |
シンコ | でもドリキャスからでしょ? |
ボーズ | あ、そうだドリームキャストだ、僕は。 ドリームキャストを買って、 やってみようつってやったら、 「わ、異常におもしろい」って。 「やっぱおもしろいじゃんネット」とか思って。 |
永田 | で、iMac? |
ボーズ | そう。 |
永田 | この取材のやり取りもメールでしたけど、 メールとかも頻繁に? |
ボーズ | うん。やっぱ、仕事とか打ち合わせとか、 人にメール出せるのって、便利。 |
永田 | 大きいっすよね。 |
ボーズ | なんか、億劫だったことができたりする。 |
永田 | アドレス取ってメールでやり取りって、 あっという間に広がりましたよね。 |
シンコ | テレビとかすごいっすよね、 アドレス持ってて当然みたいな。 |
ボーズ | 急に切り替わったよね。 |
永田 | 友だちの結婚式の二次会とか、 最近は、たいていメールで案内がきますからね。 で、「地図はこちらです」って、 添付ファイルがついてたりとか。 |
ボーズ | 確かに。 |
シンコ | でも、地図はやっぱり、 手に取って読めないとねえ。 |
永田 | ちょっともどかしいですよね。 |
ボーズ | やっぱ読みたいやつはプリントアウトしないと、 読んでると疲れるっていうのありますよね。 寝ながら読んだりできないからな。 |
アニ | 携帯もアイモードとかになってるよね。 |
ボーズ | そっか、ちょっと前はみんな、 ポケベルでメールやってたもんね。 |
永田 | すっかりなくなっちゃった。 |
アニ | 俺ポケベル買ったじゃん。 あれサービス停止で回収中よ。 東京テレメッセージ、なくなったのよ、もう。 |
永田 | え? そうなんだ。あんな流行ってたのに。 |
アニ | つぶれた、つぶれた。 |
永田 | 早いっすね。 |
シンコ | いま、ちょっと古いドラマとか見てると、 何が古いって、女子の眉毛がぜんぜん違うよね。 移り変わり激しいっていうか。 |
永田 | ああ。あと、男女のすれ違いのシーンとかでも、 「携帯鳴らせばいいのに」って感じだったり。 |
シンコ | 最近のドラマだと、着信で名前が出て 「あ、あいつだ」みたいなシーンあるもんね。 |
永田 | あと、サスペンスドラマの脚本書いてる人が、 えらい苦労してるって話聞きましたけど。 携帯電話があるってことで、 アリバイくずしとかが難しくなるっていう。 |
シンコ | 電話のトリックとかが全部使えないんだ。 でも、新しいトリックもありそうだけどね |
永田 | だからサスペンス系の脚本書いてる人って、 そういうハイテクものにすごい敏感らしい。 |
シンコ | 脅迫状もe−mail。 誘拐したガキの元気な声を添付して。 |
永田 | あははははは。 |
シンコ | 「リアルプレーヤーもってないのかよ」って。 「じゃあダウンロードしろ」って、 犯人が教えてあげたりとか。 ・・・くだらないなあ。 |
アニ | すげぇがっかりした気分になりそうじゃない? サスペンスでコンピューターかよ、みたいな。 |
(ちょっと席を外してたボーズさん復帰) | |
ボーズ | え、なんの話? |
シンコ | 脅迫状もe−mailの時代だってさ。 |
ボーズ | ・・・なにソレ、風刺? |
一同 | (失笑) |
永田 | ネットを使った音楽配信とかも 始まってるじゃないですか。 そのへんは本職としてどうなんですか? まだまだ胡散臭いものなんですか? |
ボーズ | どうなんだろうな、浸透すればいいんだけど。 知り合いで、コンピューターとか得意で、 そういうのすぐなんでも買うエンジニアがいて、 ソニーのメモリースティックウォークマンを さっそく買って。 あれ、1本で80分ぐらい入るじゃないですか。 それ見たときは 「わ、すごい、これになっちゃうかもな」って、 思ったんですよ。でも、1本、15000円。 15000円は何個も持てないなあって。 |
永田 | なるほど。 |
ボーズ | これは進まないかもしれないって。 |
アニ | やっぱ、年中コンピュータの前にいる人だと 便利だけどさ。 |
ボーズ | そうじゃないと、使わないよね。 |
永田 | でも、3人いっぺんに iMac買っちゃうぐらいだし、 ポケベルもあっという間になくなっちゃったし、 突然普及するかもしれませんよ。 |
ボーズ | あるのかなあ。どんどん簡単に配信されたら、 なっちゃうかもしれないね。 |
アニ | でもテープが回ってるのとか見たいじゃん。 |
永田 | それ、すっごくわかる(笑)。 |
アニ | そう、カシャって入れたりとかさ。 |
ボーズ | 確かに、それはあるね。 |
アニ | あと、たとえばカセットテープとか、 かなり雑に扱っても大丈夫だったりするしね。 そういうところがなんか。 |
永田 | ああ、まさにこのテレコなんか、そうですよ。 こいつ使ってるとき、 僕、ものすごい安心なんですよ。 外からテープ回ってるの見えるし。 適当にカバンに放り込んでるし。 |
ボーズ | 確かに、そういうの確実だもんね。 |
永田 | 明らかに。 このテレコ、ここに日本語で「録音」って 書いてありますからね。 このランプが点いてるときは、録音中。 |
ボーズ | わかりやすい(笑)。 |
アニ | だからさ、あの、つねにコンピューターとかで 仕事をやる人は便利かもしれないけどさー、 僕ら・・・まだいいっしょ。 |
永田 | 結論、「まだいいっしょ」(笑)。 |
ボーズ | 僕らまだ、「MD便利だな」っていうぐらいだから。 |
アニ | だってまだスタジオで、「じゃ僕はMP3で」、 なんていうのは無理じゃない? |
ボーズ | 無理だねぇ。 |
永田 | あ、今日の落とし (録音したものをとりあえずまとめたもの)を? |
アニ | うん、今日の落としをってときに。 |
ボーズ | まだ無理。MDでやっとだもんね。 |
永田 | コピーし放題っていうのも問題なんでしょうね。 |
ボーズ | うん。あと逆にコピーが、本当にポンって すぐできたりするといいかもしれないけど。 今、まだ時間かかるでしょ? やっぱり。 |
アニ | その時間分かかるの? |
永田 | 時間分はかからないけど。 |
シンコ | 量があるときはプールして、 家出るまえに始めて、とか。 |
アニ | ていうか、俺、イマイチその仕組みが まだわかってないから。 コンピューターでインターネットとメールしか できないくらいだから。それしか入ってないし。 |
ボーズ | 家電だ、家電だ。 |
永田 | あははははは。 音作りの方はハードディスクレコーディングとか? |
シンコ | してないっすね。流行ってますけどね。 |
ボーズ | それこそ、なんかテープ回ってないと 気持ち悪いっていうのありますよね。 |
永田 | あー、やっぱそこに。 |
ボーズ | なんかハードディスク使ってやると、 「録り貯めしますね」ってときに、 (録音する場所の頭が)一瞬で出たりして、 早すぎてぜんぜんヤだなあっていう。 |
永田 | ああ、なるほど。 |
ボーズ | 便利は便利で、これをこっちに持ってくるとかは すっごい便利なんですけど、 なんか、「回ってろよ、そこ!」っていう。 なんかアナログのテープだとそういうところが わかりやすくて。 テープに1チャンネルずつ入ってますからね。 そうあってほしいって感じがしますね。 |
永田 | デジタルだと、何度も微妙な直しが利くから、 キリがないっていうのもありますよね。 |
シンコ | そうそう。 |
ボーズ | 終わんないからね。 |
シンコ | あと選択をどんどん後伸ばしにできるっていう。 だからマスタリングっていう、 最後の最後のツメの、 最終的に音を調整するときがあるんですけど、 それが、もうハードディスク持ち込んで・・・。 |
永田 | 最後が一番大変なんだ。 |
ボーズ | そう、決めること多すぎっていう。 |
永田 | 前、うちの雑誌の編集者が アメリカ出張でゲームのショーの取材行ったときに、 現地でデジカメで撮って原稿メールして すぐ本にするっていうことをやったんですけど。 その人が言ってたのは、 「技術が進めば進むほど、 俺ら忙しくなるんじゃないか?」って。 |
ボーズ | だから、その間にいる人はメチャ大変なんですよね。 |
永田 | 現場とユーザーの間にいる人が。 |
ボーズ | そうそうそう。マニュピレーターとか。 |
永田 | 30代ってどうすか? |
ボーズ | やっぱねえ、友だちとか子どもいますからねえ。 |
永田 | ここ数年で生まれだしてる感じですよね。 |
ボーズ | そうそうそう。ホントに。 |
アニ | なんかヤバい感じするよね。 俺なんか普通に働いてる人と話合わないもん。 |
ボーズ | それある(苦笑)。 |
アニ | 俺と話合う人は、 プータローか親のスネかじってる人くらいでさ。 現実社会に揉まれてる人は 相手してくれないみたいな状況になってきてて。 |
永田 | (笑)。シンコさんっておいくつでしたっけ? |
シンコ | 僕ね29で、今年30です。 |
永田 | どうすか、30? |
シンコ | ああ、もうね、いろいろ(笑)。 いろいろあがいてたりとか。 |
アニ | マジで? |
シンコ | うん。次の十年をどう生きようかとか考えるよ。 |
アニ | そっか。 |
シンコ | なんか感慨に耽ったりとかしました? |
永田 | 僕は30になった瞬間は そんなになかったんですけど、 31のほうがキたかなあ。 |
シンコ | あっ、そうか〜。 |
アニ | かも、かも。意外にね(笑)。 |
永田 | 30のときって、こっちも構えてるし、 周りも「や〜い30、30」みたいなところが あるんですけど、31のときって、 誰も指さしてくれないみたいなところあって。 |
シンコ | そうかそうか(笑)。 |
アニ | さっき、『クライング・ドゥービーマン』の 歌詞見てたら、その中に 「MCボーズ26歳」っていうのがあって(笑)。 |
ボーズ | すぐ経っちゃうよねえ。 |
永田 | じゃあライブで昔の曲やるときは・・・。 |
ボーズ | そうそう、変えないといけない。 「MCボーズ31歳」って。 自分で「おい!」って突っ込みながら(笑)。 30になったときってなんかありました? |
永田 | 僕はですね、30になった瞬間は 編集部で原稿書いてまして。 夜中に腹が減って、 カップラーメンにお湯入れに行ったら ポットにお湯がなくて「ガフッ」ってなって。 お湯足して戻ってきたら12時過ぎてました。 |
ボーズ | (笑) |
シンコ | 僕、25になったときは みんなでディズニーランド行ったよね。 |
ボーズ | そうだ行った。あれ25か。うわぁ。 |
松本 (マネージャー) |
ボーズさんが30のときは みんなで打ち合わせて・・・。 |
ボーズ | そうだそうだ。 |
アニ | え、なんだっけ? |
ボーズ | 僕に教えないでみんな集まって、 僕が行ったら全員赤い服着てた。 |
永田 | あはははは。 |
アニ | ああ、そうだ。 |
永田 | 31のときは? |
ボーズ | みんなでメシ食ったくらいかなあ。 |
アニ | 俺なんか31のときは いよいよ何もなかったなあ。 |
ボーズ | 31はサラッと流しとけ(笑)。 |
アニ | でも祝われるの苦手だしな。 |
シンコ | 誉められるのヤなんでしょ? |
アニ | うん、誉められるのあんまり好きじゃない。 |
ボーズ | 誉められるのいいじゃん。 |
アニ | でもけなされるのも好きじゃない。 |
永田 | 難しい(笑)。 |
ボーズ | そっとしといてほしい? でもそっとしとくのがプレゼントって 微妙すぎないソレ? |
アニ | (笑) |
ボーズ | 今年はいよいよウチらも そろって30越えるのか。 |
永田 | 働き盛りだ。 |
シンコ | 今年たぶんベビーブームでしょ? |
永田 | って言われてますねえ。 あの、聞いた話なんですけど、 今年って結婚ブームじゃないかって 言われてたんですって。結婚業界では。 でもそれがなぜか去年にそうなっちゃって、 今年がベビーブームになりそうって話でしたよ。 |
アニ | みんなやっぱりちょっとなんか フライングしがちだよね。 |
ボーズ | 確かに(笑)。 |
アニ | マジでマジで。だってこないだ、 まだ3月半ばなのに日テレとか 番組改編のスペシャルとかバンバンやってて。 いまやってていいのかなって。 |
ボーズ | そういや巻きでやってるよねえ。 |
アニ | あとテレビの番組とかも 58分とか54分から始まるじゃない。 |
永田 | はいはいはい、 ちょっとフライングするっていう。 |
ボーズ | ニュースステーションまで早まるくらいだから。 |
永田 | 気持ち悪いですよねえ、54分スタートって。 |
シンコ | そのへんは 『食いしん坊バンザイ』とかの時間だよね。 |
アニ | 大胆に30分早めたりとか・・・。 |
ボーズ | そういうのはないよね。 |
アニ | ペナントレースとかも早くなってない? |
永田 | あ、今年3月31日だ。 |
シンコ | えっ、そうなの? なんの意味があるんだろう。 |
ボーズ | そうだねえ。 |
永田 | 「ちょっとだけ」ってのがキーワードですよね。 なんか、庶民のフライングっていうか。 |
ボーズ | 家庭レベルの(笑)。 そろそろ帰ってくるかしら、チン、みたいな。 |
一同 | (笑) |
アニ | バレンタインとかもズレてくるかもね。 |
ボーズ | 「そろそろいいか、2月10日くらいで」とか。 |
永田 | (笑) |
永田 | 和田さんってどういう経緯で マンガ家になったんですか? なんかマンガ家目指してバリバリ描いてたって 感じがしないんですけど。 |
和田 | 最初はふつうに働いてたよ。 |
永田 | え、サラリーマン? |
和田 | というか設計の仕事。 |
永田 | 設計! ・・・意外。 |
和田 | ちゃんとやってたよ。こうやって・・・。 |
永田 | あ、あの、斜めになった机で? |
和田 | そうだよ。 |
永田 | なんか机にT定規のでっかいヤツが くっついてる机だ。 |
和田 | そうそう。 |
永田 | そんで? |
和田 | まあ、ヤンジャンで連載始まったんで すっぱり辞めて。 |
永田 | おお、男らしい。 |
和田 | そしたら連載のほうも終わっちゃって。 |
永田 | ありゃりゃりゃ(笑)。 |
和田 | なんか、某巨匠マンガ家の 連載が始まってページが足りなくなるから 切られたんじゃなかったかな(笑)? |
永田 | それでどうなるんですか? |
和田 | どうしようかなあと思ってたら、 rockin’onのほうから仕事があって。 |
永田 | あ、そこでrockin’onなんだ。 |
和田 | そうそう。 で、当時そこの編集長だった 増井さんって人が俺の原稿とかを見て、 ファックスでやりとりしてたんだけど、 「原稿もファックスも変わらんじゃないか!」 って言われて。 |
永田 | アハハハハハハ! |
和田 | それ以来ファックスで。 |
永田 | ファックスマンガ家に(笑)。 |
和田 | うん。 |
永田 | でも、僕もときどき質問されるんだけど、 和田さんのマンガが本当に編集部に ファックスで届いて、それを入稿してるって 信じてない人多いですよ。 |
和田 | ちゃんとファックスで入れてるっての(笑)。 |
永田 | そうなんだよなあ。 ときどきファックスの印刷悪くて、 原稿に黒い縦線入ったりして 送り直してもらったりしてますもんね。 |
和田 | うん。 |
永田 | このネット時代に(笑)。 |
和田 | いやあ、ファックスでしょう。 ファックスはいいよ。 |
永田 | ファックスマンガ家の第一人者。 |
和田 | 誰も後に続かないんだけどな。 |
永田 | (笑) |
和田 | おかしいなあ。 |
永田 | あれですか、やっぱり商売道具だから、 最新のファックス情報に詳しいとか・・・。 |
和田 | うちのファックス、3台目だから。 |
永田 | あははははは。 |
永田 | こんにちは。 |
加藤 | こんにちは。 |
ともだち | こんちは。 |
永田 | なんか捕まえた? |
ともだち | うん。 |
永田 | なんか捕まえたの? |
加藤 | うん。 |
永田 | なに捕まえたの? |
加藤 | 蝶。 |
永田 | 蝶? どこ? |
加藤 | 虫かごの中。 |
永田 | こんなところでとれるの? |
ともだち | 4匹とれた。 |
永田 | なにとれた? |
加藤 | 蝶。 |
永田 | 蝶。 |
永田 | ナニ蝶とナニ蝶? |
加藤 | う〜んと、モンキチョウと、あと・・・。 |
ともだち | しじみチョウ。 |
加藤 | しじみチョウと、ヒメジャノメ。 |
永田 | ヒメジャノメ? けっこういるんだね、 こんな町なかでも。公園のほうには行かないの? |
ともだち | 行かない。ここで、ここで3匹捕った。 あ、ここで、4、あ、2匹捕った。 ここのところで。 |
永田 | ・・・ここのところで。 |
ともだち | で、公園の近くで2匹捕った。 |
永田 | そうか。 |
永田 | それ、なにしてんの? |
加藤 | できた。 |
永田 | あ、首飾り? |
加藤 | ふふふふふふふ! くーびーか〜ざ〜り〜。 さあ〜。 |
永田 | 虫、とってるの宿題? |
ともだち | ううん、宿題じゃないよ。 |
永田 | 遊び? |
ふたり | うん、遊び。 |
ともだち | 休みだから宿題とか、ない。 |
永田 | そうなんだ。 |
加藤 | あ、宿題が虫とりだったらいいね。 |
永田 | 虫とりの宿題とか、ないんだ? |
ともだち | うん、ない。 |
加藤 | 首飾りが〜で〜き〜た〜。 あ、からまっちゃった。 |
永田 | それ(首飾りの作り方)誰に教わったの? |
加藤 | (聞いてない)あれ? 誰がこんなふうにしたんだ? |
永田 | ねえ、それ誰に教わったの? |
加藤 | え、知らない。 |
永田 | ・・・。 |
加藤 | 自分で作った。 |
永田 | へえ〜。 |
加藤 | あ、切れた。 |
永田 | さっき、チャコちゃんいなかったっけ? |
加藤 | チャコ? パパといっしょにどっか行った。 |
永田 | あ、そうなんだ。 |
加藤 | 空のかなたへ行った・・・ふふふふふふ。 |
ともだち | 空のかなたへ・・・ふふふふふ! |
永田 | 空のかなたに(笑)・・・どういう意味? |
ともだち | おい、この糸みたいなの全部取るぞ。 |
加藤 | え? うん。 |
永田 | じゃあ、またね。 |
加藤 | はい。 |
永田 | その蝶、どうすんの? |
加藤 | え? 逃がす。 |
永田 | 逃がすのになんで捕まえるの? |
加藤 | おもしろいから。 |
永田 | あはははははは! |
永田 | ええと、布団を、買うのが、趣味? |
大塚 | はい(笑)。 |
永田 | 買うのが、趣味? 集めるのが趣味? |
大塚 |
それだけが趣味ってわけじゃないんですけど(笑)。 見ると・・・欲しくなっちゃう。 |
永田 | 布団を見ると、欲しくなる(笑)。 |
大塚 |
べつに布団屋さんを 回ったりするわけじゃないんですけど、 チラシとか入ってくるじゃないですか、通販とかの。 そういうの見ると・・・いいんじゃないかなあって。 |
永田 | (笑)。で、いくつあるんですか? |
大塚 | 8組はあると思う。 |
永田 | なんで8組も(笑)。 |
大塚(夫) | ・・・増えてる。 |
永田 | あははははは。8組ということは、16セットくらい? |
大塚 |
うん。最低限、買う単位は2組でしょ。 掛け敷きのセットで。 |
永田 | そういうもんスか。 |
大塚 |
布団って、綿とか羽毛とか羊毛とか いろいろあるんですよ。 羽毛にもいろいろあってですね、 なんかいっぱい持ってるように 思われるかもしれないけど、 そういう違った種類のものを見ると、 欲しくなっちゃうんですよ。 |
永田 | あの、その布団って、全部使うわけですか? |
大塚 | いつも使うやつは決まってるの。 |
永田 | 使わないんだ! |
大塚 | 使わないのは、年に1回とか2回、干すだけ(笑)。 |
永田 |
あははははは。そこがおもしろい。 買っただけで満足ってわけでもないんですよね? |
大塚 | うん。買ってきて、こうやって押すじゃないですか? |
永田 | 手でフカフカと。 |
大塚 | 「ああ〜、さすが気持ちいい〜」って。 |
永田 | あははははは! |
大塚 |
いちど使っちゃうと新品じゃなくなっちゃうでしょ。 だからすぐに全部カバー掛けて。 カバー掛けないの嫌いだから。 押入にしまうの。で、「あるある」って。 |
永田 |
「今日はいっちょコレで寝てみるか」って、 とっかえひっかえするわけじゃないんだ? |
大塚 | それ、しないんだよね。 |
永田 |
しないんだあ。 じゃあ、その、布団集めの、ピークはどこなんですか? 買って、家に初めて届いたとき? |
大塚 | 注文したとき。 |
永田 | 注文したとき(笑) |
大塚 |
注文するとすごい満足して。 でも、もうすでに押入とかパンパン状態なんですよ。 |
永田 | でしょうね。 |
大塚 |
だから玄関にドーンと来ると、 やっぱり大きいじゃないですか、布団。 |
永田 | はい(笑)。 |
大塚 | だから「どうしよう?」とは思うの。 |
永田 | あはははは、「どうしよう?」とは思うんだ? |
大塚 |
うん。包まれてるからすごい大きくて。 で、圧縮袋とかも買ったんだけど、 すごく大変なの。圧縮するのが。 それに圧縮しても、重さは変わらないの。 |
永田 | ・・・質量保存の法則。 |
大塚 |
そう。大きさは若干変わるんだけど、 重さは変わらないから、大変なの。 入れとくでしょ。そうすると、 出し入れのときに破けちゃって、 押入の中がパンパンになっちゃって。 出なくなっちゃって(笑)。 |
永田 |
中でボワッとなってるんだ(笑)。 逆に捨てることはないんですか? |
大塚 | ないの。 |
永田 | ないんだ(笑)。 |
大塚 | でも、あなたの布団は捨てたんだよね? |
永田 | え? |
大塚(夫) | 俺が独身時代から使ってた布団です。 |
大塚 | 「こんなのもういいや」って。 |
永田 | あはははは。 |
大塚 | やっぱり古いのは薄くなってきちゃうじゃないですか。 |
永田 | でも自分が買ってきたやつは・・・。 |
大塚 | 捨てない。 |
永田 | (笑) |
大塚 |
最近、いつも使ってるやつが薄くなってきたんですよ。 だから、2枚重ねて寝てるんです。 |
永田 | 捨てずに2枚にして(笑)。 |
大塚(夫) | ・・・あの、口はさんでいいですか? |
永田 | どうぞ。 |
大塚(夫) |
べつに2枚重ねなくても、 うちには1枚でフカフカな布団が山ほどあるんです。 |
永田 | あはははは! |
大塚(夫) |
あれなら2枚重ねなくてすむし、 十分フカフカなんです。 2枚重ねなくてもフカフカに・・・。 |
大塚 | いいの! あれはお客さんがきたとき! |
大塚(夫) | お客さんなんか来ないんですよ! |
永田 |
(爆笑) お客さんが来たときに、 その自慢の布団を出すときはうれしいんですか? |
大塚 | ・・・ちょっとヤなの。 |
永田 | ヤなんだ(笑)! |
大塚 |
「いくらでもあるんですからどうぞどうぞ」って 言うんですけど、ホントはちょっとヤなの。 |
永田 | (まだ笑ってる) |
大塚 | だから、コレクションなのかなあ。 |
永田 |
あの、それって、たとえば、 ほかの何を買っている感覚に近いんですか? |
大塚 | う〜ん、私、お皿も好きなんですよ。 |
永田 | あ、食器に近いんだ? |
大塚 | うん。 |
永田 |
食器って、何枚もあってもいいですもんね。 買ったからって毎日ずっと使うわけじゃないし。 使わないけれど、あれば欲しくなるし。 |
大塚 | うん。感覚としては食器かもしれない。 |
永田 |
食器だったらわかるなあ。 だから、つまり、その、デカいだけだ。 デカいから、人がやらないだけだ。 食器とか、切手とかといっしょで、 買って、自分の物として並べておきたいんだけど、 問題は、デカいから(笑)、あんまり人がやらなくて、 人が話すと、ギョッとされるわけだ。 |
大塚 | ええっ、ギョッとされるかな? |
永田 | ・・・ギョッとするって。 |
大塚 | でもお客さんが来たときの備えなわけだし。 |
永田 | でもホントは寝てほしくはない、と。 |
大塚 |
あ、でもそんなこと言うとお客さんが来なくなっちゃう。 そんなことないです。いくらでも寝てもらっていいです。 |
永田 |
(笑)。よく知らないんですけど、 きっと布団にもバカ高いのとかあるんでしょう? そういう方向には行かないわけなんですか? |
大塚 |
キリがないから。 安いのだと、掛け敷きのセットで 1万円くらいのとかあるんですよ。 |
永田 | ああ、あるある。 |
大塚 |
あるでしょ? だからそういうのを見ると、 「これならもう使い捨てでいいじゃない」って。 |
永田 |
あはははは。 使ってもないし捨ててもないのに。 |
大塚 |
そう(笑)。でも1万円とか8千円なら、 1回飲みに行くとなくなっちゃうけど、 布団ならドーンと残るじゃないですか。 |
永田 | たしかに、布団はドーンと残る。 |
大塚 |
すごく得なような気がして。 でも最近は買ってないですよ。 引っ越ししようと思っているので。 だからあの、場所さえあれば買うと思うんだけど。 |
永田 | 場所さえあれば(笑)。 |
大塚 |
うん。だから引っ越しして広くなったら、 そのときこそ、いまのペタンコの布団は捨てて、 新しいのを買う! |
永田 | 新しいのを買うんだ! |
大塚(夫) | ・・・困ったもんです。 |
永田 | ちなみに、同居人としてはどうなの? |
大塚(夫) |
あの、俺が、古本屋に行って、 文庫本を3冊買ってきただけで怒るんですよ。 「しまうとこないのに!」って。 |
永田 | ガハハハハハ! |
大塚 | だって、絶対捨てないんですよ! |
大塚(夫) | じゃあ布団はなんだ! |
永田 | (笑いっぱなし) |
大塚 |
あなたが本買ってくるほど 頻繁なわけじゃないじゃないか! |
大塚(夫) |
俺の買った本の総量を合わせても、 布団にはおっつかない。 |
大塚 | じゃあいい。そんなこと言うならまた買う! |
大塚(夫) | ・・開き直るんですよ。 |
永田 | (笑いっぱなし) |
大塚(夫) | う〜ん。 |
永田 | 一応、買うときは「使おう」と思ってるんですよね。 |
大塚 |
そう。でも、昨日まで使えてたものが、 急に使えなくなるわけじゃないじゃないですか。 だから「まあこれでいいか」って・・・。 |
永田 | 一生ループだ、ソレ(笑)! |
大塚(夫) | ・・・困ったもんです。 |
永田 |
そして布団だけが貯まっていく。 ベッドには興味ないんですか? |
大塚 | あったんだけど捨てちゃいました。 |
永田 | あ、ベッドは興味なし。 |
大塚(夫) | あの、俺はけっこうベッドに寝てみたいんですよ。 |
永田 | わははははは! |
大塚 | やだやだやだ。 |
大塚(夫) |
で、引っ越しを計画中なので、 「ベッドを買おう」と言ったんですよ。 |
永田 | (笑)。よく言うね、でも。 |
大塚(夫) |
ええ。で、そしたら彼女は、 「布団がこんなにたくさんあるのに なぜベッドが必要なんだ」 と言うわけですよ。使ってない布団を差して。 |
永田 | (笑) |
大塚(夫) | ・・・返す言葉がないんですが。 |
永田 | それ、なんつうの、シュールな話だね(笑)。 |
大塚 |
でもなんでそんなにおもしろがるのかわからない。 だって普通じゃないか、布団を買うのは。 |
永田 | (笑) |
大塚(夫) | (苦笑) |
永田 |
あの、話合う人とかいます? 布団話で盛り上がるような。 |
大塚 | ・・・いない。 |
永田・ 大塚(夫) |
(爆笑) |
永田 | おふたりはよく飲んだりされるんですか? |
江口 | うん。でも飲んだときって、ろくな話しないね。 |
和田 |
バカ話ばっかり。 まともな話なんかしたことない(笑)。 マンガの話なんかせんもんね。 |
永田 | あ、そうなんですか? |
江口 | ふつう、マンガ家どうしでしないですよね。 |
和田 | しないしない。 |
永田 | へえー、なんかマンガについて……。 |
和田 | しないですよ、それは。 |
江口 |
とくにギャグマンガ家どうしは、なんとなく マンガの話はしないようにしてるってところあるし。 何か不穏な空気が流れてくるので(笑)。 |
和田 | 「で、どうなのよ」って話になるから。 |
江口 |
「オマエはどうなんだよ」って(笑)。 いしかわじゅんとかと飲んでると けっこうそうなっちゃう(笑)。 |
永田 | そういうもんですか(笑)。 |
和田 | ギャグは微妙だよね、確かに。 |
江口 |
とくにギャグマンガ家ってのは、 またストーリーマンガ家とは違うんですよ。 違う生き物でね。けっこうみんな繊細だし。 お互いのマンガの話って、本当にしないよね。 |
永田 | ストーリーマンガ家の人は……。 |
江口 |
話す人いますよ。大友(克洋)さんとかと飲むときは、 大友さんはもう映画の話ばっかりするんですよ。 「こういう映画を撮りたいと思ってるんだ」とか。 まあ自分のマンガの話はあんまりしませんけど。 でもギャグマンガ家どうしは……。 |
和田 |
「今度こんなギャグ描くんだ」とか 言わないですよね。 |
江口 | しないしない(笑) |
和田 | 言った時点で終わってしまうから(笑) |
江口 |
仕事として話するときはもちろんアレだけど、 プライベートで飲むときはとくにね。 |
和田 | しないですね。 |
永田 |
そもそもマンガ家さんどうしって、 そんなに飲んだりするもんなんですか? |
和田 | オレなんかはこっち(東京)にいないから。 |
江口 | いないけどよく飲んでるよね(笑) |
和田 |
オレはストーリーの人とかと 飲んだことないもん。 |
永田 | “ストーリーの人”(笑)。 |
和田 |
うん。パーティーとかあっても、 交流ないもんね。 ギャグはギャグで固まって 二次会行くけど……。 |
永田 | えっ、そういうもんなんですか? |
和田 | 編集が「ギャグの人たち〜」とか言って(笑)。 |
江口 |
ギャグの人たちってイヤだな(笑)。 でもギャグの人はそういう感じはあるね。 |
和田 | ええ人が多いと思うけどね。 |
江口 |
うん、常識人が多いのね。 わりとストーリーのほうが その世界の常識っていうか、俺たちから見ると ツッコミどころの多い人が多いですね。 |
永田 |
ギャグって、やっぱり常識がなければ 描けないところがありますもんね。 |
江口 | 描けないですよ。 |
和田 | たぶんギャグじゃなくなるよね(笑)。 |
永田 | 常識で判断していかないと……。 |
江口 |
まあ2種類いますけどね。 谷岡(ヤスジ)さんみたいな超天才の人と。 あそこまで行くといいんですけどね。 |
和田 | あの人同郷ですよ。愛媛。 |
江口 |
あ、そうなの? なにげに四国多いんだよね。 |
和田 |
でも、あの人が亡くなったとき、 地元の新聞とかでぜんぜん取り上げなくてね。 |
江口 | それはよくないな。あんな天才を。 |
永田 |
江口さんと和田さんは、 どういう関係で飲み友だちに? |
和田 | 最初は集英社のパーティーで。 |
江口 |
ラヂヲがまえに 『スカの群れ』っていうのを描いてて、 そのときにオレがすごくおもしろいなあと思ってて、 「ちょっとコイツに会わせて」って編集に言って、 紹介してもらって。 もうけっこうまえだよね。 |
和田 | デビューしてすぐだったから。 |
江口 |
もうだいぶ経ったね、デビューして。 いつの間にか。もう大御所じゃん(笑)。 |
和田 | どこがじゃ(笑)。 |
江口 |
だってもう10年? すごいじゃん。 ギャグで10年って言ったらすごいよ。 ギャグ5年説っていうのがあるからね。 |
和田 | 定説ですからね。 |
江口 |
でも最近の人は昔みたいな 感じじゃないけどね。 |
和田 | 何がですか? |
江口 |
いや、俺たちのころのギャグマンガっていうと、 なんていうか……身を削ってたというか。 田村(信)さんとか鴨川(つばめ)さんとかさ。 |
和田 |
ああ、本当に昔は小説家に近い ノリがありましたよね、雰囲気が。 |
永田 |
『マカロニ』とか、いまにして思うと、 そうやって描いてたのかなって いうのはありますね。 |
江口 | まあ、鴨川さんとかは特別だよね。 |
和田 | 無頼派みたいな感じですよね。 |
永田 |
絵にだんだん精神状態が 反映されていったりして。 当時僕はその頃小学生だから、 そんな世界はわからないんだけど、なんか……。 |
和田 |
でもわかるもんね。 いまなら感じ取れるもんね。 |
永田 |
そういや江口さんも、原稿に詰まると マンガに白いワニが 出てきたりしてましたね(笑)。 |
江口 |
オレのはまだわざとやってるところがあるんで。 ここらで気が狂ったフリでもするか、 みたいなのがあったんですけど(笑)。 やっぱりバランス感覚なんじゃないですかね。 |
和田 |
あと、いまはシステムも変わってきてますしね。 編集と作家の関係も 変わってきたじゃないですか。 |
永田 | 昔はどうだったんですか? |
和田 | 昔はやっぱり詰めたりしてたんでしょ? |
江口 | してたよ。 |
和田 |
最近そういうの聞かんもんな。 最近はバイク便の世界やもんな(笑)。 バイク便の人が詰めてるような。 よけい気になる(笑)。 |
永田 | (笑) |
江口 | オレはいまだに詰められてるからな(笑)。 |
永田 |
江口さんはよく「江口が逃げた!」 みたいな話が(笑)。 |
江口 | あれね、一回だけ本当に逃げたことある。 |
永田 | あはははははは。 |
江口 |
一回しかないんですよ、本当は。 しょっちゅう逃げてるみたいな印象だけど(笑) |
永田 | 読者のイメージでは。 |
江口 |
『ひばりくん』のときに 一回だけ本当に逃げたんだけど、 あとは逃げてない。 |
永田 | 和田さんは? |
和田 | オレはマジメにやってますよ。締切守って。 |
江口 |
どうしてもできないときってどうしてる? なんらかのモノを描いちゃう? |
和田 |
うん。でもあれってやっぱりイカンですね。 中途半端なもんはあとで後悔する。 |
江口 |
ギャグはとくにね。 自家中毒になっちゃうから。 自分でわけわからなくなっちゃうからね、 おもしろいんだかおもしろくないんだか。 |
和田 |
でもそのときのほうが おもしろかったりもするんだけどね。 |
江口 |
あ、そう? オレはやっぱり 自分がおもしろいと思ったときは、 けっこういい。 |
和田 | 週刊連載のノリってあるじゃないですか。 |
江口 | ああ、あるね。 |
和田 |
あれにハマるとけっこういいですよ。 そこまで持っていくのがたいへんなんですけどね。 なんか鮫みたいに泳いでないと 死んでしまうみたいな。 |
江口 |
止まるとね。 週刊ペースでマンガを描くって 尋常じゃないもんね。 だからあれだけ身を削ってやってるんだよね。 どこかを犠牲にして。 すると何か出てくるんですよね。 体痛めつけて、疲れてくると 脳内麻薬が出てくるじゃないですか。 それで描いたときとかあるしね(笑)。 描いたあと忘れてることもありますし。 |
永田 |
そういうときのほうが いいモノができてるんですか? |
江口 |
う〜ん。まあ、自分がいいと思っても、 よくないこともあるんですけどね。 でもとりあえず自分でいいと思わないと 描けないんですよね。手が動かないんで。 |
永田 |
描いては消し描いては消し、っていうよりは 真っ白っていう感じ? |
江口 | 真っ白。 |
和田 | できるときはアッという間にできるもんね。 |
江口 | そうそう。何でも作るものはそうだもんね。 |
和田 |
ひらめきだよな、一種の。 でもなんかありますよね? こう……。 |
江口 | あ、あるある。なんか降りてくるみたいな。 |
和田 | あれ不思議ですよ。 |
江口 | あれ気持ちいいよね、来たら。 |
永田 | なんか共通してますね、そういうところ。 |
和田 |
それはみんな同じじゃないかなあ。 どんなジャンルでも。 |
永田 |
ロックとマンガって、 どう結びつけるのかなと思うんですけど? |
江口 |
要するに、マンガ家ってなんとなく 世界が閉ざされてるじゃない? ミュージシャンってインタビューが 活動の一環みたいな感じがあるでしょ。 マンガ家もああいう感じで写真撮ったりして 扱ってあげようというかんじなんですよね。 だからその本を制作してる人は、 「行く行くはマンガ家も、 ミュージシャンみたいに 事務所に所属すればいい」って言ってるんだけど。 マネージメントをしっかりして、 プロモーションをどんどんして。 |
和田 | たしかにその辺は確立されてないよね。 |
江口 |
だから作品が出たときに、 ふつう広告費をかけるじゃないですか。 でもマンガって、 いままでそれをやらなくても売れたんで、 しないんですよね。 そういうのをちゃんとやるべきだというのが 制作者の持論なんですよ。 |
永田 |
最近ですよね、表紙や広告に作者の名前が でっかく載るようになってきたのって。 「○○が新連載!」みたいな。 |
江口 |
でも顔を出している人は少ないじゃないですか。 本当に閉ざされてますよね。 |
和田 | 名前しかわからないもんね。 |
江口 |
囲うじゃないですか、出版社って。 よそのインタビューは絶対に受けさせないとか。 そういうのも 崩していこうと思ってるんですが。 |
和田 |
そういうのって、 力のある人が先頭に立ってやることだよなあ。 オレなんかが言っても ぜんぜん説得力ないもん(笑)。 |
江口 |
(笑)。800万部も売ってる人の顔とかも、 ぜんぜん出てないですからね。 |
永田 |
そうですね。たまに『ジャンプ』の 新年号で羽織袴着てるぐらいで(笑)。 |
江口 | あのぐらいだもんね(笑)。 |
和田 | あれじゃないよな(笑)。 |
江口 |
マンガとかでも、 何もしなくても売れる時代ってもう過ぎてるし。 いまの人って「これがいいよ」って言われないと 買わないじゃないですか。 自分から捜そうとしないというか。 |
永田 | なるほど。 |
江口 |
だから売れるのだけは売れるけど、 中間がないというかね。 |
永田 |
それで、インタビューとかプロモーションを きっちりやれる場を、ということですか。 |
江口 | そうですね。 |
永田 |
ミュージシャンとマンガ家っていえば、 江口さんのマンガで、マンガ家がライブするやつ (コンサート会場でマンガ家が ライブでマンガを描く) ありましたよね。 |
江口 |
あれ、憧れですよね。ミュージシャンはいいですよ。 曲が育っていくじゃん。 ライブでどんどんよくなったりとか。 かなりうらやましいですよね。 |
和田 | メチャクチャ消費社会ですわな、マンガは。 |
永田 | やっぱり同じ表現者としてうらやましい部分が? |
江口 |
うらやましい部分はあるよ。 肉体に直結してる感じが。 だって演奏とか歌って、直接気持ちいいじゃん。 でもマンガって、思いついたときはいいんだけど、 書くときは冷めてたりするし。 描いて気持ちいいっていうのはないから、 その辺のラグが(笑)。 |
永田 | そうかそうか(笑)。 |
和田 | 実際の野球は、"カキーン"なんていわんよね。 "カキーン"って誰が言い出したんやろう? |
永田 | 水島(新司)先生じゃないですか? "ワーワー"がページいっぱいに書いてあるのは、 たしか水島先生ですよね。 |
鈴木 | "カキーン"は『巨人の星』じゃない? |
永田 | そうなのかな。ああいうマンガの表現のルーツって、 考えてみるとおもしろいですよね。 |
和田 | 江口さん、 昔、ボーリングの音を書いてなかった? |
江口 | あれは田村信だよ。 "グモン、グモン、グモン、 クワッシャーン!"(笑)。 |
一同 | (笑)。 |
江口 | あれは上手かったよね。 あの人は擬音の天才だから。 "チュドーン" っていうのも田村信なんですよ。 |
永田 | へえ。高橋留美子さんかと思ってた。 |
江口 | 高橋留美子さんも使ってるけど、 ルーツは田村信なんです。 |
和田 | "グモン、グモン"っていうもんね、本当に。 ボーリングの球ってそうだよなあ。 |
永田 | そう言われてみると、 そうとしか聞こえなくなっちゃうな(笑)。 |
鈴木 | 谷岡(ヤスジ)さんの"ぺたしぺたし" みたいな(笑)。 でも"ぺたし"っていうよなあ。 裸足の足音はやっぱり "ぺたし"がいちばんいいかなあ。 |
和田 | 廊下歩いてる音は"ぺたし"だよね。 |
永田 | クルマの音なんかもいろいろありますよね。 『イニシャルD』の擬音とかよく見る とすごいし。 |
鈴木 | ああ"プシャアァァァ!"とかね。 |
江口 | 『イニシャルD』は上手いね。 あと遊人(笑)。"ヌプッヌプッ"とか(笑)。 |
鈴木 | ああ、遊人のはヤバいですよね(笑) |
江口 | "ヌププッ"とかさ。あとなんだっけなあ。 "ヌップヌップ"っていうのは 本当に思い当たるというか(笑)。 |
和田 | "チョクチョク"とか(笑)。 |
江口 | あったなあ(笑)。 アレはオレあきれたけどね。 もうやめろよって(笑)。 |
鈴木 | アレはあの人のオリジナルですよね。 |
永田 | マンガの擬音って、やっぱり先駆者がいて、 マネというか浸透していくんですかね? |
江口 | そうじゃないかなあ。 |
鈴木 | しかもマネというよりは、 すり込みに近いんじゃないかなあ。 |
江口 | それを超えようとして、また切磋琢磨してね。 そういう意味ではたしかに 遊人はオリジネイターだね。 |
鈴木 | そういうすり込みを逆手にとって、 このまえの『コミック・キュー』だったかな? おおひなた ごうさんのマンガで、 ボールがミットに入ったときの音が "デキャンタ!"とか書いてあって(笑)。 |
永田 | 相原コージさんも擬音で遊んだりしてたよね。 あと『ジョジョ』の一部で、 ライバルが主人公の恋人に 強引にキスする場面で "ドキューン!"とか書いてあったの 覚えてるなあ(笑)。 |
和田 | どんなキスや(笑)。 |
江口 | メチャクチャな擬音っていうのはいいよね。 |
和田 | 狙いすぎてるとまた笑えないもんね。 微妙なところなんやろうな。 |
永田 | そういや少女マンガって、 平気で"キュン"って書いてありますよね。 擬音として。 |
和田 | なんで書くかなって思うけど、書いてあるわな。 書いてしまうんかなあ、その人の中のテンポで。 |
鈴木 | 新谷かおるさんの飛行機の着陸したときの音は "ドピュッ"なんだよね。 |
江口 | ラヂヲはあんまり書かないんだよね、擬音って。 |
永田 | そういう印象ないですね。 |
和田 | ていうかスピード感ないからね、 オレのマンガ(笑)。 |
江口 | 間がね。 |
鈴木 | そういや『コンデ・コマ』の、 一本背負いが止められたところで "ピタ〜〜ッ"っていうのがあって それがすごくおもしろかったなあ。 |
永田 | スポーツマンガって けっこうオリジナル多いよね。 |
鈴木 | 蝉の鳴き声とかもけっこう人によって違う。 |
永田 | 島本和彦さんのマンガで、 横断歩道で待ってるシーンに、 "ぱーぱーぽーぱーぱぽぽー"って書いてあって、 「これなんだろ?」と思って考えてたら 『とおりゃんせ』のメロディーだった。 |
一同 | (爆笑)。 |
鈴木 | そうかそうか、メロディーを当てはめて読むと つじつまが合うっていう(笑)。 『ドラネコロック』でもあったよ。 当てはめると『サンダーバード』の 一部にぴったりなの(笑)。 |
永田 | 『マカロニ』もけっこうなかったっけ? |
鈴木 | あったような気がする。 ゴリラダンスは本当は どんな歌なんだろうとか。 |
永田 | そうそう、読者からすると 「作者の頭ではどんな音楽が鳴ってるんだろう」 っていう疑問はあるよね。 『パタリロ』のクックロビン音頭とかさ。 |
鈴木 | アニメになったとき賛否両論あったね。 |
永田 | 江口さんの "それだけならまだいいが"っていうのは 描いてるときは鳴ってるんですか? |
江口 | 鳴ってますよ。 |
永田 | 鳴ってるんだ(笑)。 "そっれっだっけっなっらっまっだっいっいっが" っていう感じで読んでるんですけど……。 |
江口 | それでいいです(笑)。それ以外ないもん。 やっぱりギャグマンガって 受け手側の想像力で左右されるからね。 それを受け取れない人だとぜんぜん違うからね、 マンガのテンポが。 |
水間 | ああ、ホントだ! |
永田 | けっこう半円でしょ。 |
水間 | すげえよ。あっちの雲なかったらなあ! 色もけっこうきちんと出てるよ。 |
永田 | うん。 |
水間 | すごーい。 |
永田 | 曇り空なのにけっこう出るもんなんだね。 |
水間 | だね。 |
永田 | 上には陽が照ってるってことだね。 |
水間 | だね。 |
いい大人がそんな感じの曖昧なやり取りで共有する、 久しぶりの虹だ。 |
|
水間 | うわ、すげえ、4色ぐらい見えるよ、 5色ぐらい見えるよ。すげえ綺麗。 |
永田 | お、ヘリ飛んでるよ。 ヘリから虹は見えるんだろうか。 わ、虹の下をヘリが飛んでるよ。 |
水間 | あ、ホントだ。 |
永田 | かっちょいい。 |
水間 | 虹、突っ切るよ、これから。 |
永田 | でもそれは俺らから見るからそう見えるんだよね。 |
水間 | (聞いてない)ほらほらほらほらほら! |
永田 | でも、ヘリから見たら、 虹を突っ切ってるわけじゃないんだよね。 |
水間 | ヘリから虹は見えないだろうね。 |
永田 | でもどっかには見えてんのかな。 |
水間 | うまい角度に行くと見えるんじゃない? |
小学生のようなやり取りだ。 覚えていないけれど、 おそらく両者の口は半開きだ。 |
|
水間 | なんで最近、虹出ないんだろう? 子どものときって、 雨降ったあと必ず虹見た記憶あんだけどな。 |
永田 | 空を見ないからじゃない? |
水間 | ・・・そうなの? |
灰色の空に浮かぶ不思議な半円。 眼下に転じると遠くまで屋根は連なっていて、 ところどころに高いビルが島のように浮かぶ。 喫煙室の壁はヤニでちょっと黄色がかっているが、 僕らの目の先には現実離れした半円がぽっかりとある。 |
|
永田 | 綺麗だねえ。 |
水間 | すげえよ。 |
永田 | シチュエーションばっちり。 |
水間 | いち、にい、さん・・・。 |
永田 | 上が赤でしょ? |
水間 | 赤だよね。 |
永田 | 赤から橙になって黄色になって・・・。 |
水間 | そうそうそう緑になって。 |
永田 | 青になって。 |
水間 | 紫だよ。 |
永田 | 紫? 紫っぽいので終わり。で何色? |
水間 | 5色? |
永田 | 5色? |
彼の質問にも僕の答えにも、 たいして意味はないのだ。 |
|
水間 | 虹って、ホントに太陽の反対側に出るんだな。 |
永田 | ホントだ。ん? あっちにいる人はどこに見えるの? |
水間 | あっちに見えるんじゃない? |
永田 | その向こうに見えんの? |
水間 | じゃない? |
永田 | 不思議な話だなあ。 |
水間 | よくあんなはっきり色が分かれてるなあ。 |
永田 | もともとはなんだっけ、 雨の粒がプリズムの役目をしてどうのこうのだよね。 |
水間 | そうそうそう。 |
それで僕はピンクフロイドの アルバムのジャケットを思い出したりする。 さて、繊細なショーは終わりを告げつつある。 |
|
水間 | 心なしか薄くなってきた気がする。見慣れたせいかな。 もっとくっきり見えた気がしてたんだけどな。 |
永田 | 見てると目がおかしくなる。 |
水間 | マジ薄くなってきてない? |
遠くで救急車の音がしている。 もちろんそのときそんな音にはまるで気づかなかった。 でも、こうしてテープを再生してみると、 たしかに遠くで救急車の音がしている。 ぜんぜん気づかなかった。 僕らは、ゆっくりと消える虹を見てて、 トリコじかけになっていた。 |
|
永田 | あ、消えてきてる消えてきてる消えてきてる。 右のほう、消えてきてる。 |
水間 | ホントだあ。あらららららら。なんだろ。ああああ。 |
永田 | ええと、もっとも古い悪行から行ってみようか。 |
長田 |
なんだろう、いろいろあるからなあ。 まず小学校行く前に、ダンプ1台燃やしてる。 |
永田 | うはははは、どうやって!? |
長田 |
発煙筒ブン回して遊んでて、 飽きて、クルマの荷台に捨てて、ボーン! |
一同 | (爆笑) |
永田 | 無茶苦茶するなあ(笑)。 |
長田 |
あっという間に燃え広がってさ、 ダンプ1台炎上。大火事ですよ。 |
永田 |
ていうか、そもそも発煙筒ブン回してる時点で かなりワルいんだけど。 |
長田 |
そうそう。だいたい発煙筒に火がつくって、 なんで知ってんだろうね。 あと火遊びでもうひとつすげえのがあって、 あれは兄貴が小学校入ったころかな。 平屋に住んでるころで、3軒並んでたのね。 いちばん端が俺らんちで。 真ん中の家に住んでる子と火遊びしてたのね。 たき火とかして。ちっちゃいころやるじゃん? |
永田 | うんうん。 |
長田 |
そしたら兄貴が、 これくらいのちっちゃい段ボール燃やし始めてさ、 メラメラ燃えてるその段ボールを手に持って、 いきなりその子の頭にかぶせたの。 |
一同 | (驚愕) |
永田 | 死んじゃうってそれ。 |
長田 |
そう。それで俺が慌てふためいてたらさ、 兄貴がゲラゲラ笑ってんだよ! それで慌てて段ボール取ったら、 その子の頭がチリチリ! |
永田 | おいおいおい! |
長田 |
それで兄貴はその子に なんてあだ名をつけたと思う? ・・・「マッチくん」。 |
一同 | (爆笑) |
長田 | つぎの日から、「マッチくん」! |
永田 | それ、兄貴は怒られないの? |
長田 | いやあ、怒られてるの見たことない。 |
永田 | 完全犯罪だ。 |
長田 |
うん。子どもとかさ、 そういうときわけわかんないじゃん。 |
永田 | ああ(笑)。 |
長田 |
パニック状態だからさ。 前後のこと全部忘れちゃうのよ。 |
永田 | うんうん(笑)。 |
長田 |
親とかに「なんでそうなったんだ!」って言われても 「わかんない!」ってなっちゃうからさ、 ある意味完全犯罪なわけよ。 |
永田 | なるほどなるほど(笑)。 |
長田 | そんで冷静な兄貴が「こいつがやった!」。 |
永田 | すげえ頭いいわけだよね。 |
長田 | 頭よかったんじゃないの。わかんないけど。 |
永田 | じゃあ兄貴の悪行を知ってんのはおまえだけだ? |
長田 |
俺だけ。いまにしてみると全部覚えてんだけど、 なんで当時言いつけなかったかはわかんない。 |
永田 |
怖いからだろ。 だって、目の前で、 燃えてる段ボールを人の頭にかぶせるような男だぜ。 |
長田 |
なあ(笑)。 シェパードの檻に猫投げ込んで ゲラゲラ笑ってるような男だからなあ。 |
永田 | すげえなあ。 |
長田 |
エアガンとか手に入れると、 威力の実験は必ずオレだからね。 |
永田 | がははははは。 |
長田 |
いきなりバンとか撃ってきて、 「痛い痛い痛い!」って。 |
永田 | (笑) |
長田 |
かっけの実験とかもオレでさあ。 膝、ゴーン! |
一同 | (爆笑) |
長田 | 上がんねえっつーの! 痛くて! |
永田 | ひ〜。 |
長田 | しかもカナヅチだから。木じゃないから。 |
一同 | (悶絶) |
永田 |
・・・いや、やっぱスゴイわ。 何、その、兄貴の3大事件とか挙げるとどうなんの? |
長田 |
3大事件かあ。 あ、まずね、兄貴が土佐犬を殺したっていうやつ。 |
一同 | (爆笑) |
長田 | 一撃で殺したからね。 |
一同 | (まだ笑ってる) |
長田 |
現場見てたからね。あんときばかりは、 「もうこいつには絶対逆らわないようにしよう」 と思ったね。 |
永田 | どうやったの? |
長田 |
当時兄貴が犬を飼ってたのね。こんなちっちゃいやつ。 兄貴はソレすっごい可愛がってたの。 ペスって名前なんだけど。 |
永田 | 可愛いところあるじゃないですか。 |
長田 |
うん。で、朝必ず、前の公園にペスを放してたのね。 しばらくすると戻ってくるんだけど。 でもそのときはなかなか帰ってこなくてさ。 しばらくしたら「ワンワン、キャイ〜ン」って声がしてさ。 で、3つくらい隣の家が土佐犬を飼っててさ。 いつもそこにはいかないんだけど、 たまたまそのときペスが紛れ込んじゃったらしいのよ。 で、俺らが見に行ったとき、 ちょうどペスが土佐犬にお腹を噛まれて、 ぶ〜んって振り回されてたのよ。 それで、ペスが命からがら 戻って来るか来ないかのうちに、 兄貴がバットを持って、 グォオオーーン、バシィッ、土佐犬、ガクッ。 |
一同 | ・・・。 |
長田 | 即死ですよ。 |
永田 | 凄まじい話だな。笑えないよ。 |
長田 | 笑えないね。ごめんごめん。 |
永田 | でも、わざわざ土佐犬ってところがすげえよな。 |
長田 | 伝説だよね。 |
永田 | 兄弟喧嘩とかすごかったでしょ? |
長田 | よくしたよお。いっつも、オレが泣き寝入りなのね。 |
永田 | わははははは。 |
長田 |
で、覚えてんのは 中学校2年生の修学旅行の前の日だったんだけど。 兄貴と喧嘩して、最初は抵抗してたんだけど、 やっぱ勝てないのよ。 身長オレより高いし、ガタイいいし、腕っ節強いし。 そんでボコボコにされて、フテ寝してたのよ。 昼間っから布団潜り込んで半ベソかいてさ。 そしたら兄貴が・・・殴り足りなかったらしくてさ。 |
永田 | は? 殴り足りなかった!? |
長田 |
寝てるオレのところに「てめえええっ!」ってやってきて、 オレの顔を足でボーン、踏みつけてさ。 |
永田 | ちょ、ちょっと、もう喧嘩は終わってるんでしょ? |
長田 | もう終わってるんだよ! |
一同 | (爆笑) |
長田 | かかとが口にドーン! 血ぃ、ダラー! |
永田 | おいおいおい! |
長田 | 前歯がキレイに2本折れてさ。 |
永田 | あららららら。 |
長田 | だから修学旅行の写真、全部オレ歯がないの。 |
一同 | (笑) |
永田 | そんな話に、オチつけてんなよ。 |
長田 | なあ(笑)。 |
永田 | それもう兄弟喧嘩って言わないぞ。 |
長田 | あと兄弟喧嘩といえばね・・・。 |
永田 | まだあんのか(笑)。 |
長田 |
まだまだあるよ。 兄貴はオレの隣の部屋だったんだけど、 また喧嘩のあとにオレが泣き寝入りしててさ。 そのときは、オレのほうがキレたのよ。 兄貴は部屋でガンガン音楽かけててさ、 もうくやしくて我慢できなくて、アッタマきたから 兄貴の部屋のほうの壁に向かって走って行って、 ドロップキックしたのよ。 |
永田 | 壁にか(笑)。 |
長田 |
うん(笑)。 そんで「うおおおおっ」って叫んで走って、 ドーン! 壁にドロップキック! そしたら、壁が薄くてさ。 |
永田 | がはははははは。 |
長田 | ベニヤ板みたいな感じでさ。ベリベリベリ〜って。 |
永田 | ダメっぽい(笑)。 |
長田 |
でも、壁と壁のあいだに隙間、あるじゃん? だから兄貴の部屋の壁までは届いてないわけよ。 だからオレの部屋の壁だけブチ抜いて、 ベニヤだから、足が抜けないわけよ。 片足だけ壁に入って、こんななってるわけよ。 しかもオレ、結構、高く跳んだから。 |
永田 | バカだなあ(笑)。 |
長田 | そしたら兄貴が、「てめえええっ!」 |
永田 | うわあああ! |
長田 | 「てめえっ、なに壁に穴あけてんだよっ!」 |
永田 | そういうときはモラリストだな(笑)。 |
長田 |
助けてくれるのかと思ったら、 動けないことをいいことにボッコボコ(笑)。 オレは足ぶら〜んのままで。 |
一同 | (爆笑) |
永田 | ちっちゃいときから、おまえ、やられ役? |
長田 |
やられっぱなしだよ。細かい話だけど、 野球とかやってると川にボール落ちるじゃん。 で、「おまえ取って来い」ってことになんのよ、いつも。 でも、ボールは川に浮いてるから届かないわけよ。 |
永田 | うんうん。 |
長田 |
そしたら兄貴が、 「このヒモにつかまって、乗り出して取れ」っつーのよ。 「ヒモ持っててやるから」って。 そんでオレ、ヒモにつかまって、 もうちょっとでボールに届くっていうところで イヤ〜な予感して、兄貴のほうパッて見たら、 ニッタ〜って笑ってんのよ。 |
永田 | あちゃあ(笑)。 |
長田 | 案の定、ドッボーン。 |
一同 | (笑) |
長田 | 「や・ら・れ・た・あ〜」。 |
永田 | そのくらいならもう、納得だな。 |
長田 |
うん。オレがバカだった。 そうだ。あとオレ、交通事故に遭ってさ。 |
永田 | うん。 |
長田 |
兄貴のチャリンコ、ロードマン借りて乗ってたら、 交差点のとこで、ちゃんと青信号渡ってたんだけど、 こう来たクルマにガーンって当たって、 けっこう引きずられたのよ。 で、運転手が女の人でさ、 「大丈夫ですか!」って出てきたんだけど、 オレは結構ぴんぴんしてたのよ。 でも兄貴の自転車メチャメチャでさ。 「やっべえ〜!」 |
永田 | 兄貴のロードマンが(笑)! |
長田 |
で、オレも相手も気が動転してて、 相手が「あとで連絡しますから」って言うから 家の電話番号とか教えて、 しょうがないから自転車かついで家帰ったのよ。 |
永田 | ケガは? |
長田 |
歩けたけど、足とか、すっげえ痛いのよ。 でも自転車かついで帰って、 オヤジがいたから「交通事故遭った」って言ったら、 「加害者はどうしたっ!」ってすげえ怒られてさ。 「ホントに連絡してくんのか!」って怒鳴られて。 |
永田 | おまえが(笑)。 |
長田 |
オレが! そしたら兄貴が帰ってきて、 「てめええっ、オレの自転車!」ってまた殴られて。 オレの心配は誰もしないの。 |
永田 | ケガしてんでしょ? |
長田 |
すっげえ足痛えなあと思って見たら、 足にバンパーの跡とかついてんのよ。 |
一同 | (爆笑) |
長田 | 「でもまあいいや、兄貴の殴りのほうが痛いし」って。 |
永田 | よくないよくない(笑)。 |
長田 |
で、すぐ電話きてさ、オヤジとか超怒ってんのよ。 「いますぐ来ぉーい!」とか怒鳴ってて。 オレそれ見て「うわ、オヤジ超怒ってる。すっげえ怖え。 あの人かわいそうだなあ、 オレじゃなくてよかったあ」って。 |
永田 | おまえ立派にハネられてんじゃねえか(笑)。 |
長田 | いいんだよそれくらい。 |
一同 | (爆笑) |
長田 |
そんでけっきょく警察には届けなくて 話し合いで済んでさ。 「自転車も弁償します」みたいなことになってさ。 兄貴も自転車壊されて相手にすっげえ怒ってたから、 どんな自転車買うのかなと思ってたら、 その金でラジカセ買ってた。 |
永田 | (爆笑) |
長田 |
当たり屋かよ、オレは。 しかもそのロードマンなんか乗ってねえわけよ、 オレに貸してるくらいだから。 |
一同 | (爆笑) |
永田 | 兄貴はオヤジ似なの? |
長田 | 超そっくり。 |
永田 | がははははは。 |
長田 |
オヤジもヤバいもん。 いっぺんメシ食いに行った帰りに オヤジのクルマ乗っててさ、 バイクが車線割り込んで来たのよ。 こっちが急ブレーキ踏むようなヤバい感じで。 そしたらオヤジが怒っちゃってさ、 バイクをすごい勢いで追いかけてさ、 バイクもすごい勢いで逃げてさ、 もう、カーチェイスよ。ホントに。 信号とかお互い無視してんだから。 |
永田 |
ちょっと待て(笑)、 バイクはふつう追えないんじゃないか? |
長田 |
追ってんのよそれが! 目の前すげえ逃げてんのよ! 交差点のところにさ、よくガソリンスタンドあんじゃん。 いまは夜はチェーンとかしてあるけど、 当時は自由に入れるところ多くてさ。 バイクが道から歩道に乗り上げて、 誰もいないガソリンスタンドを 突っ切って逃げて行くのよ。 |
永田 | おお! |
長田 | そしたらオヤジもガソリンスタンドに突っ込んでいくの。 |
永田 | がははははは、ダメだこりゃ! |
長田 |
一生追ってんのよ。けっこう長いバトルでさ。 そしたらバイクが転んだのよ! |
永田 | おお! |
長田 |
そしたらオヤジがすごい勢いで降りてって、 その兄ちゃんの胸ぐらつかんでボーン殴って、 「てめえっ、警察突き出すぞ!」 |
一同 | おまえを突き出すっつーの! |
てな感じで、いやもう、すごい話のオンパレード。 すごすぎて引いちゃったもいるでしょうね。 ホントすいません。 ここだけの話ですけど、 もっとヤバいエピソードがふたつばかりあったんだけど、 それはさすがに割愛しました。 最後にもう一個、 幼少時の体験は現在に影響するのだなということを 痛感させられたエピソードを、 乱暴な兄貴の後日談とともにどうぞ。 |
|
長田 | ちっちゃいころゲイラカイト流行ってたじゃん。 |
永田 | はいはいはい。 |
長田 |
砂浜でゲイラカイト上げてたらさ、 すっごい風で、飛んでっちゃったのよ。 で、兄貴が追っかけてったんだけど、 転んでぐっちゃぐちゃになっちゃったのよ。 |
永田 | 兄貴が。 |
長田 |
兄貴が。そしたらさ、 ゲイラカイトなくしたうえに 服がぐっちゃぐちゃだったらさ、怒られるじゃん。 |
永田 | ああ、そうだね。 |
長田 |
そしたら、兄貴が、 「おまえもぐちゃぐちゃになれ」つってさ。 |
永田 | わはははは、意味わかんねえ。 |
長田 |
オレ、すっごいちっちゃいのに海に放り込まれてさ。 もう、ちっちゃいから波とかにさらわれて 上がってこれないのよ。 そんで「助けて〜」って泣いてたら、 兄貴それ見てゲラゲラ笑ってんの。 |
永田 | また笑ってんのか。 |
長田 |
いっつもそういうとき笑顔だから兄貴は。 「またその笑顔かおまえは」っていう。 それでオレ海嫌いなんだよ。 |
永田 | あ! そういやお前、泳がないよな。 |
長田 | トラウマだから。キレ〜イなトラウマ。 |
永田 | トラウマにキレイも何もあるか(笑)。 |
長田 | なあ(笑)。 |
永田 |
いやでも、わかるよ。 いままでの話、全部おまえに影響してるもん(笑)。 |
長田 | わかるでしょ? |
永田 |
わかるわかる。 ていうかおまえ、よく真っ直ぐ育ったなあ。 |
長田 | 打たれ強いんだよね。 |
永田 | 打たれ強いよな! |
一同 | (納得) |
永田 | 兄貴はいまはまともなの? |
長田 |
まともまとも。 結婚もして子どももいて、いいお父さんですよ。 |
永田 | へえええ。 |
長田 |
いまは建築関係の仕事やってますよ。 モノぶっ壊してたやつが、 いまはモノ造る仕事してますよ。 |
永田 | オチまでつけてんなよ。 |
一同 | (笑) |
歯医者 | 永田さんお待たせしました。どうされました? |
永田 | キャンデー嘗めてたら取れちゃったんですよ。 |
歯医者 | キャンデー嘗めてたら? ポロッといっちゃった? |
永田 | ええ。 |
「ポロッといっちゃった?」じゃないだろう。 イヤんなっちゃうなあ。 ところでこの先生は年輩の女の人で、 勝手な印象から言うと 失礼ながらとても名医とは思えない。 しょっちゅう手にした器具をぽろぽろ落とすし、 マスク越しの声も聞き取りにくい。 なんだか歯医者というより保健室の先生みたいだ。 それでなぜ僕がここの歯医者を利用しているかというと、 混んでいないということもあるけれど、 なんだかこの先生、どこか憎めない感じなのである。 僕は先月挿した歯がすぐに抜けてしまったということに 多少不条理なものを感じていたのだけれど、 このおっとりした先生のおっとりした診察を受けていたら どうでもよくなってしまった。 |
|
歯医者 | 痛くはないですか? |
永田 | ええ。 |
治療が始まる。 どこかを削る音。 いやあな音。 同時にバキュームも始まった。 ずずずずずもおおおおおおおお。 きゅしゅうううぼおおおおおお。 おっとりした歯医者さんは ときどき看護婦さんに指示を出している。 看護婦さんはいつもひとりしかいなくて、 これまた勝手な印象から言うと 看護婦さんもまたおっとりしている。 僕は密かにこのふたりは親子ではないかとにらんでいる。 きしゅううううううううしゃしゃしゃっ。 ういいいんういいいんういいいいん。 ちゅううううん、ちゅうううううん。 しゃしゃしゃしゃっ。 |
|
歯医者 | はい、うがいします。 |
うがいする音。 意外と念入りにうがいしているな、僕は。 |
|
歯医者 | タイマーとってくれるかな。 |
看護婦 | はい。 |
どうやら抜けた歯は心棒というか、 柱の部分からそのまま抜けていたので、 大した手間もなく元通りになるらしい。 要するに抜けたものをそのまま挿せばいいわけだ。 削る音。 バキューム。 おそらく口を開けて目をつぶっている僕。 |
|
歯医者 | 噛んでください。 |
・・・かちん。 | |
歯医者 | 開けてください。 |
・・・ぱかっ。 | |
歯医者 | 噛んでください。 |
・・・かちん。 | |
歯医者 | もうちょっと削りますね。 あんまりかちんかちんなると、 噛み合わせ悪くなる原因になるんで。 短いほう取ってくれる? |
看護婦 | はい。 |
そしてついに僕の歯はしかるべき位置へ固定される。 元の鞘に収まるとはこのことである。 |
|
歯医者 | はい終わりました。 |
ウイイイインと診察台が起きる音。 うがいする僕。 やはり念入りにうがいする僕。 |
|
看護婦 | 鏡お持ちしましょうか。 |
永田 | あ、はい。 |
まるで髪を切ったあとのように 手鏡で自分の前歯をチェックする僕。 といっても「気に入らないから変えてくれ」と いうわけにはいかないのだろうけれど。 僕は上着と荷物を手にして 会計を済ませるべく出口へ向かう。 そこで、おっとり先生に一応質問してみたりする。 |
|
永田 | 原因とかはなんなんですか? |
歯医者 | まあそういうこともたまにあるんですよね。 |
永田 | はあ・・・たまに。 |
歯医者 | 柱が短い歯ですから、 そういうこともあるんですよね。 |
永田 | はあ・・・そういうこともある、と。 ええと、じゃあ気をつけてもしょうがないですよね。 |
歯医者 | まあ堅いものを噛むときに気をつけるとか。 |
永田 | でもキャンデーですよ? |
歯医者 | ・・・まあそうなんですけど。 |
永田 | ・・・ありがとうございました。 |
看護婦 | 140円です。 |
永田 | 940円? |
看護婦 | ひゃくよんじゅうえんです。 |
永田 | あ、ひゃくよんじゅうえんか。 |
なんだか歯医者って、同じようにいろいろいじり回すくせに すごく安かったりすごく高かったりしてわけがわからない。 140円ってどういう仕組みなんだろう。 そんなんじゃコーヒー1杯飲めやしないじゃんか。 などと思いながら僕は、おっとり歯医者を後にする。 たぶんまた歯がおかしくなったら僕はここにくるのだろう。 決して人には薦めない歯医者だけれど、 不思議と僕はここが嫌いじゃないのだ。 エレベーターを下りると 街は相も変わらずクリスマスだった。 メリー・クリスマス。 |
京楽 | ああ、どうも。 |
永田 | 雪かきですかあ! |
京楽 | 明日の朝たいへんですからね。 |
永田 | すぅごい雪ですよね。 |
京楽 | いやあ、あっはっはっは。 |
永田 | いつから始められたんですか。 |
京楽 |
ああ、いやいや、いましがた。 なかなか、どんどん降ってきますしね、 やってもやっても。 あっはっはっは。 |
永田 |
そうですよねえ。 明日たいへんそうですよねえ。 |
京楽 |
どうなっちゃいますかねえ、 明日、藤沢で仕事なんですよねえ。 |
永田 | あ、そうなんですか。 |
京楽 |
行かれるかどうか、とても不安で。 あっはっはっは。 |
永田 | 寄席というか、講演ですか? |
京楽 |
あのう、聾唖学校なんですけど、 神奈川聾唖学校っていうところで、 耳の不自由なかたに、 字幕落語っていうことで、 字幕でやらしていただくんですよ。 |
永田 | へええええ、そんな落語があるんですか。 |
京楽 |
去年の9月に初めてやらせていただいたんですね。 で、とってもお喜びいただいて。 |
永田 | え、ふつうに落語をやって、字幕が出るんですか? |
京楽 | うしろに。 |
永田 | あ、うしろに出るんですか。 |
京楽 | ええ、うしろに字幕が出るわけなんです。 |
永田 | じゃ、間違えられないですね。 |
京楽 |
あっはっはっはっは。 そうですね、仕草とかタイミングとか ありますからね。 |
永田 | じゃあ明日は休めないですねえ。 |
京楽 | 休めないですねえ。 |
永田 |
一昨年、大雪が降ったとき、 屋上にかまくら作ってらっしゃいましたよね。 |
京楽 |
ああ、はいはい。 じつは今日これから作ろうかなぁと思ってまして。 |
永田 | ああ、そうなんですか! |
京楽 | あっはっはっは。 |
永田 | 明日の朝、期待してますね、かまくら。 |
京楽 |
あっはっはっは、 じゃあ入れるようなら どうぞお入りいただいて。 |
永田 | あっはっははは。 |
長田 | ほい、どうぞ。 |
永田 | (ささやき声で)すいませーん。夜分遅くに。 |
ひとみ | いえいえいえ。 |
永田 | (ささやき声で)こんな非常識な時間に。 あの、ちゃちゃっと済ませて、 ちゃちゃっと帰りますんで。 |
ひとみ | いえいえいえいえ(笑)。 |
深夜にも関わらず笑顔で迎えてくれるひとみさん。 ところでもしあなたがひとみさんだったら、 4歳の愛娘がスヤスヤと眠る深夜の12時に 夫の同僚がテレコを回しながら押し掛けてきて 「強盗について聞かせてくれ」などと言ったら どう感じるだろうか? 非常識なり、テレコマン。 |
|
ひとみ | ええと、何か飲み物を。 |
永田 | いやいや、おかまいなく。ほんとに。 |
意外と律儀なり、テレコマン。 | |
長田 | コーヒーくらいは出さないと。 |
永田 | あ、そう? |
ひとみ | 暖かいの? 冷たいの? |
永田 | あ、じゃあ、暖かいので。 |
けっきょく飲むのか、テレコマン。 | |
ひとみ | でもお役に立てるのかどうか。 |
永田 | いえいえ。 |
ひとみ | でもニュース見てみたんだけどね、 ぜんぜんやってないんだよね(笑) |
永田 | そもそもなんなんです? 強盗なの? |
ひとみ | 強盗だったみたいです。 |
永田 | 強盗だった、みたい? |
ひとみ | 強盗だったって言ってましたから。 |
永田 | ええっと? 郵便局で? |
ひとみ | 郵便局。 |
永田 | に? |
ひとみ | に。 刃物を持った男が入ったらしい。 |
永田 | 行ったときは? |
ひとみ | 行ったときはもういなかったの。 |
永田 | 強盗が出ていった直後に入ったってこと? |
ひとみ | でも3分くらいは経ってたと思うんですけど。 |
永田 | 3分は直後ですよ。 |
ひとみ | ああ、そうですか(笑)。 |
永田 | ええと、入ったら、どうなってたんですか。 |
ひとみ | まず、入って、通帳記入をして。 |
永田 | 通帳記入を(笑)。 |
ひとみ | そう(笑)。通帳記入をしていたら、 いきなり、警察が入ってきて。 「ここから出ないでください!」って。 |
永田 | おお。 |
ひとみ | で、郵便局の人に、 「なんかあったんですか?」って聞いたら、 郵便局の人じゃなくオジサンが、 「いや、それがね!」って(笑)。 |
永田 | (笑)。お客さんが? |
ひとみ | お客さんが。農家の人らしいんですけど。 |
永田 | あははははは。 |
ひとみ | そのオジサンが、 「いや怖かったよ! 刃物を突きつけられてね!」って。 |
永田 | へええええ。 それはなんスか、現金奪って逃げたんですか? |
ひとみ | お金は渡したらしいですよ。 |
永田 | ふーん。 |
ひとみ | それで、オバチャンが、 オレンジの球を投げたんだけど当たらなくて。 |
永田 | あ、あのペンキが入ってるやつだ。 |
ひとみ | そうそうそう。 で、3つあったらしいんですけど、 オバチャン、 1個しか投げなかったらしくて(笑)。 |
永田 | だいたいオバチャンが投げたんじゃ 当たんないだろう。 |
ひとみ | こんなちっちゃいオバチャンで(笑)。 警備の意味あるのかなあって。 |
永田 | え! 警備員なんですか? |
ひとみ | 警備員なんですよ。 |
永田 | それはだめだろう(笑)。 |
ひとみ | だからそういう場所を 狙ったんじゃないですかね。 |
永田 | なるほどお。 居合わせた人はどれくらいいたんですか。 |
ひとみ | いや、そのオジサンしかいなかったらしくて、 客は。 |
永田 | へええ。 |
ひとみ | 警備のオバサンがいて、そのそばを通って、 オジサンをつかまえて、ナイフを突きつけながら。 |
永田 | 人質だ。 |
ひとみ | 人質。 そのまま「金出せ!」とか言ったらしくて。 |
永田 | へええ。そのオジサンはどんな感じなんですか。 もう、怖がってる感じ? |
ひとみ | いや、もう、誇らしげに! 「オレ、オレ!」って(笑)。 |
永田 | ガハハハハハハ。 |
ひとみ | 「大変だったんだよお!」とかって。 |
永田 | (笑)。で、けっきょく いくらぐらい盗ったんですか。 |
ひとみ | いくらぐらい、だったんだろう。 あ、聞いてくればよかったですね。 |
永田 | いやいやいやそんな(笑)。 |
ひとみ | なんか「もっと出せ!」 とは言ったらしいですよ。 |
永田 | オジサン情報だ(笑)。 で、客がそのオジサンだけで、 後から入ってきたのが? |
ひとみ | 私と、カホ。 |
永田 | だけ? |
ひとみ | そう。 |
永田 | 割と、小規模(笑)。 やって来た警察は何やってたんですか? |
ひとみ | 警察は、なんか、 「ビデオカメラを止めて見てみよう」 とか言って、 脇のほうでいろいろやってたみたいなんですけど、 会話を聞いていると、ビデオを操作しながら、 「いまいちコレ やりかたよくわかんないんだよなあ」 とかって言ってて。 |
永田 | わはははははは。 |
ひとみ | 「だいじょうぶかあ?」って思って(笑)。 で、ひとりの人が、 「いちおう住所と電話番号を」って言ってきて。 でもぜんぜん何も知らないからね。 「これから用事があるんで出ていいですか?」 って言ったりしたんだけど、 「もうちょっと待ってください」ってことで。 で、15分くらいしたら 「もうけっこうですよ」って。 |
永田 | 「もうけっこうですよ」なんだ(笑)。 |
ひとみ | 「何かあったらまた連絡行きますから」って。 |
永田 | 軽いなあ(笑)。 |
というわけで、まあ、 終わってしまったからということもあるのだろうけど、 聞いてみると強盗というわりに 小さな事件であったようである。 メールのチェックなどしていた長田もテーブルに加わる。 |
|
長田 | でもカホの生年月日まで聞かれたんでしょ? |
ひとみ | そう。私のと、カホのと。 |
永田 | なんで生年月日聞くんだろう(笑)? |
長田 | カホのねえ? |
永田 | 意味わかんない(笑)。 |
長田 | 4歳だっつーの。 |
永田 | あははははは。 |
長田 | カホ、なんつってた? |
ひとみ | 「こわいね、こわいね!」って。 で、警察の人が「白いセダンの車で逃げた」って 何度も言ってたから、帰り自転車に乗ってたら、 白い車指さして、 「かあかん(かあさんのこと)、あれじゃない? わるいひと、のってるんじゃない?」 って(笑)。 |
永田 | かわいい(笑)。 |
長田 | でもあんな狭いとこ、金あるのかな? |
永田 | そんなに狭いとこなの? |
ひとみ | ちっちゃい! すごいちっちゃい。 |
永田 | 局員が何人くらい? |
ひとみ | 3人。 |
長田 | 窓口3つ。 |
永田 | 3人! じゃあ局員が3人、客がオジサンひとり、 警備員がオバチャンひとり。 |
ひとみ | (笑)。 |
永田 | それはちょっと狙いたくなるかもね(笑)。 |
長田 | うん(笑)。 |
ひとみ | 警備員のオバチャンこれくらいだもん。 |
永田 | 150センチくらい? |
長田 | あ、ちょっと小太りのオバチャンじゃない? |
ひとみ | そうそう。 |
長田 | 知ってる知ってる。 |
ひとみ | いつも立ってるだけだもんね。 たまに掃除とかしてて。 |
永田 | 掃除すんなっつーの。 |
長田 | 暇なんだよな(笑)。 |
永田 | なんのニュースにもなってなかったの? |
ひとみ | ぜんぜん! |
長田 | でもよくパチンコ店に強盗とかさ、 ニュースになってんじゃん? |
永田 | やっぱそれは盗られた額によるんじゃないの? |
長田 | やっぱ金額かな。 |
ひとみ | いくらくらい盗られたのかな。 5万円とかなのかな! |
永田 | さあ(笑)。 |
ひとみ | でも5万円とかで罪になっちゃうのもねえ。 |
永田 | いや、それは罪です。 |
ひとみ | (笑)。 |
長田 | でも、オレンジの球って、 オレ、初めて存在を知ったんだけど。 |
永田 | コンビニとかにあるじゃん。 |
ひとみ | 蛍光色のやつよ。 |
長田 | どこに? 見えるようなとこにあんの? |
永田 | 見えるとこあるよ。これ見よがしに。 |
ひとみ | こんぐらいで。 |
永田 | ガチャガチャのカプセルみたいなやつに入って。 |
長田 | ホント? へえええ。 |
ひとみ | オバチャンが警察の人に、 「当たんなかったんですっ! すいませんっ!」 って言ってたよ。 |
永田・長田 | わはははははは。 |
永田 | 責任感感じてたんだ(笑)。 |
ひとみ | みたい(笑)。なんか、近所から 中華料理屋のオバチャンとかが出てきて、 「当たんなかったの!?」って聞いてたり。 |
長田 | すげー庶民的(笑)。 |
永田 | 当たんねーっつーの(笑)。 150センチのオバチャンが逃げる車に球投げても。 |
長田 | すっげえ女投げなんだろうね。 |
永田 | うん。 |
長田 | もう、こうだね(笑)。 |
永田 | 絶対、こうだね(笑)。 |
長田 | 警察はどうだったの? どんな人? 刑事? |
ひとみ | 制服着た人がふたりくらいと、 私服着た(刑事のようなマネをしながら) 「刑事!」みたいな人が3人くらい。 |
長田 | 手袋とかしてた? |
永田 | 白い手袋だ。 |
長田 | そうそう。鑑識みたいにポンポンポンポン。 |
ひとみ | ぜんぜん。やってなかったよ。 |
永田 | 指紋ベタベタじゃん(笑)。 |
ひとみ | そうそう。あんなんでいいのかなあ。 捕まんのかな? |
永田 長田 |
捕まんないだろお! |
そんな感じでゆっくりとコーヒーを飲んでしまって、 気がつくとけっきょく30分くらい経ってしまっていた。 引き際だ。 テレコマンは非常識ではあるが、 いちおう最低限の礼儀はわきまえている男である。 |
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永田 | よし! ありがとうございました。 |
ひとみ | えええ、こんなんでいいんですか。 |
永田 | ばっちりです。おいとまします! |
ひとみ | じゃあ明日行って、 いろいろ調べときましょうか? |
永田 | いいですいいです(笑)。 ごちそうさまでした。 ありがとうございましたホント。 |
ひとみ | いえいえ。 |
長田 | 駅まで送ってくよ。 |
そんなこんなで僕らはゆっくりと 廊下を進みながら挨拶する。 しかしその物音に、天使は目を覚ましてしまったようだ。 |
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ひとみ | (小声で)あ、起きた。 |
長田 | (小声で)カホ、起きた? |
永田 | (小声で)あああああ、ごめんね、カホちゃん。 |
ひとみ | (小声で)いま来るからね、ちょっと待ってて。 じゃ、気をつけて。 |
永田 | (小声で)はい。どうもすいませんでした。 |
ひとみ | (小声で)いえいえいえ。 |
玄関を出たところで深々とお辞儀をするテレコマン。 終わりよければすべてよしなり、テレコマン。 しかし、お辞儀をした拍子に肩が何か突起物に触れた。 『ピンポーン!』 |
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永田 | ああああっ! 鳴らしちゃった! |
ひとみ | あはははははは! |