糸井 | えー、お待たせしました。 あのー、なぜホストの零士さんと「もて道」について 対談をやろうと思ったたか、簡単に説明しときます。 繁華街歩いてると、若い男の子が いっぱい歩いてるのを見るじゃないですか。 あれが結局なんのために歩いてるんだろうと思ったら、 要するに、ナンパですよね。 |
零士 | もちろんそーですよね。 だいたいふたりで組んで。 |
糸井 | そうそうそう、とくに渋谷とか新宿とか。 あれ見てると、モテることを商売としてやっている ホストとか、タレントとかと、 街歩いてる男の子ってのは、 あまり区別がないと思うんですよ。 どんどん同じになってくる。 |
零士 | 逆にそいつらのほうがイケちゃってる場合もあるし。 あれ〜スカウトかなぁ? なんて見てると、 ただ普通に意味もなく歩いてて、 で、女の子がきたら声かけて、っていうね。 |
糸井 | そうそう。 で、逆に言うとタレントさんは、 街歩いてる男の子たちをマネしてというか、 取り入れてる部分がありますよね。 |
零士 | ええ、そーですね。 |
糸井 | で、ホストさんという商売も、 俺たちが昔知ってた……、 さっき冗談で言ってたんだけど、 ラメ入りのガウン着て(笑)、 という姿とはちがって、変化してきてると思うんです。 |
零士 | 本当は今日僕は“それ”で登場しようとしたんですよ。 やっぱ白のガウンにね、片手にワイングラス。 |
糸井 | 犬飼ってたりして。 |
零士 | ペルシャ猫ですね。 |
糸井 | ああ(笑)。 そういうイメージでホストという職業を 見てた部分があるんだけど、 たぶんそうじゃなくなってるんだろうなぁと。 で、僕がインターネットで新聞出す前に 「どんな企画をやろうか……」って ずーっと考えていたときに、 「男はみんなホストになりたいんだ」という、 暴言をまず吐いて、ウチの若い子を修業に出そうと 思ってたんですよ。 |
零士 | (笑)。 |
糸井 | で、コネクションさがして、 たとえばテレビ局でディレクターやってるけど、 一時期ホストやってた人とか、 けっこういるんらしいんですよ、あちこちに。 |
零士 | いや、けっこういるんですよ。 あと“自称”ね。 “自称”もいるんですよ。 スナックでバイトしてた人がね、 「いや、俺実はホストでさぁ、店の名前は言えないけど」 とかって言っちゃってるやつ。 |
糸井 | で、驚くのは、 「ホストやってました」というのが、 男が見栄をはれるネタになってるわけですよ。 昔だったら考えられないですよね。 |
零士 | 今、そういう意味ではイメージ変わりましたね。 |
糸井 | それから、柴門ふみさんの漫画の「あすなろ白書」で、 すごくいい男が、そっちの商売に入って、 という設定もあったよね。 |
零士 | ええ、ありましたよね。 |
糸井 | ああいうふに見てると、 結局は、ホストっていう名前が抵抗感があるだけで、 モテちゃうことを職業にするという商売に 若い男って、なりたいんじゃないか、と……。 |
零士 | 元ホストっていうことが、 ちゃんとした形容詞になってますよね。 |
糸井 | ですよねー。 元ホストって言ったほうが、 ひとつニュアンスが出るじゃないですか。 と考えると、「男はみんなホストになりたいんだ!」 というのが間違いじゃないんだと。学生を含めて。 |
零士 | ただ、僕がいつも思ってるのは、 ホストって……僕はべつに ホストにコンプレックスはもってないですけどね、ただ 「ホスト、イコール、ずるい、きたない、こわい、 あやしい、だまされそう……」 そういうイメージあるじゃないですか。 でも、ホストやってる本人、やろうと志してる人は、 スチュワーデスの男版みたいな感じでね、 パイロットみたいに、女性を操縦してやろうという、 そういうイメージがあるんですよね。 それが一般的には 今まで約30年くらいの歴史の中で……。 |
糸井 | ホストの歴史って30年くらいなんですか? |
零士 | やっぱ30年か40年くらいじゃないですかね。 |
糸井 | いちばん古くからやってる ホストさんというのは今何歳くらい……? |
零士 | いや、まだ現役がいますよ。 当時からの現役の方ですよね。 20歳からやってて、今55歳とか。 |
糸井 | いるんだ! |
零士 | いるんですよ。 で、そういう人は必ず黒いんですよ、日焼けして。 |
糸井 | ゴルファーみたいな感じ? |
零士 | ええ、そういう感じですね。 オールバックで、服に多少ラメ入ってて、 で、鎖のアクセサリーびっちりして、太いのを。 カフスのとこもとがっちゃって、襟も大きくて、 みたいな、そういう人が現役でいるんですよ。 で、かっこいいんですよ。 やっぱ、かっこいいんですよ。 |
糸井 | 様式美だよね、一種の。 |
零士 | ええ、そうですね、はい。 |
糸井 | で、最初の企画を「ほぼ日」で実現させたかったから、 その後も、いくつか心当たりをあたったんですよ。 ホームページ見ると、ホストのページって けっこうあるんですよね。 で、お店に取材を交渉するやり方もあるけど、 僕らはコネクションがあるわけじゃないから、 ひとりでやってる人のページとか見て、 その人を取材しようと思ったの。 そしたら、よく聞いたらウソだ、って言うんですよ。 つまり、自分はホストをやってなくて、 スナックで働いてただけなんだけど、 「ホストだ」って言ったほうがお客さんが来るから。 「実は僕は作家になりたいんです」とか言うわけ。 がっかりしちゃってさぁ。 |
零士 | そういう人は多いと思いますよ。 さっき僕が言ったように “なんちゃってホスト”が多いんですよ。 |
糸井 | “陸サーファー”みたいなもんだ? |
零士 | そうですよ。 |
糸井 | へぇ〜〜〜〜。 |
零士 | 実際のサーファーはかっこよくなかったりしても、 陸サーファーはかっこいいやつばっかりで、 「あ、サーファーってかっこいいんだ」と 世の中の人が思い込んでるのと同じで、 よく訊かれるのは、 「ホストは顔ですか?」っていうから、 いや、「顔じゃないよ、嗅覚だよ」、と。 |
糸井 | 嗅覚!! さっそく出ましたねぇー。 太字でテロップ出したいくらいですね。 「顔じゃない、嗅覚だ!」って(笑)。 |
糸井 | あの……零士さんがホストを始めた頃というのは、 まだオールバックの世界だったんですか? |
零士 | だったですね。 |
糸井 | その頃は、自分としては異色だったんですか? |
零士 | 僕が、ですか? |
糸井 | うん。 |
零士 | 僕がホストを始めたのは、ちょうど、 少年隊の東山くんが出てきたくらいのときです。 僕が入ったときは、くっきり二重の、 濃ゆ〜い顔の、羽賀ケンジばりの、 ああいった感じの顔がホストとしては 「ああー、いい男だ!」っていう感じでした。 世間一般でもそう思われていたけど、 その頃、「しょうゆ顔だ」なんていうような、 そういう言葉が出てきた時期がありましたよね。 そのくらいの時代ですから、 僕らみたいな顔がグーッと出てきたんですよ。 |
糸井 | あ、顔の流行があるんですか? |
零士 | あるんですよ。 |
糸井 | それはホスト業界だけじゃなくて市民レベルでも、 「この顔は今はもうアウトオブファッションだ」とか、 そーいうことになってるんですか? |
零士 | なってますねー。 ただ、どの時代の顔も、当時いいとされたものは、 当時の映像を見れば「かっこいいな!」って思いますね。 だから、その時代、その時代のよさを追求してるだけで、 あのときは、そういう顔が……。 「ちょっとあっさり系だね」って言われるのは、 その前の時代はほめ言葉じゃなかったのに、 「あっさり系」がほめ言葉になっちゃった時代ですよ。 今(2000年)から13年、14年前ですね。 そっから僕が出てきたんですよ、グーッと。 |
糸井 | じゃあ、零士さんは当時、しょうゆ顔として デビューしたんですか? |
零士 | そうですね。そんな感じです。 で、妙にやたら腰が低いとかね(笑)。 |
糸井 | (笑)腰が低い! それまでは、ホストは腰が高かったんですか? |
零士 | えーっとですね……、出会って次の日には “おまえ”と呼んでる、みたいな、女性に対して。 |
糸井 | 永チャン(矢沢)系ですか? そうではないの? |
零士 | そーじゃないんですよねぇ。 |
糸井 | もっと演歌系? |
零士 | はい、演歌っぽいんですよ。 ブルースっぽいんですよ(笑)。 |
糸井 | ブルージーな(笑)。 あ、そう! やっぱ、照明は暗いの? |
零士 | 照明は暗くって、ランプにぽーっと灯がついてて、 で、トイレ行くと妙に明るい蛍光灯がついてて、 で、その……張り紙があるんですよ。 「お客様とは、出会ってからすぐに おまえと呼べる仲になれ!」とか(笑)。 「怖ぇ〜」と思いながら……。 そーゆーことが従業員用のトイレに貼ってあるんです。 |
糸井 | 「出会ってすぐにおまえと呼べる仲になれ!」(笑)。 |
零士 | 「……社長より」(笑)。 それを店のホスト100人が読んでるわけですから。 100人いますからね、当時僕がいた店は。 |
糸井 | 自分はそのとき、 「やっていけないかもしれない」とか思わなかった? |
零士 | いや、「なに言ってんだろ?」と。 |
糸井 | 「ちがうよ!」と。 |
零士 | ちがうと思いましたね。 |
糸井 | でも、お客さんもホストから 「おまえ」と呼ばれたくて来てた時代なんですか? |
零士 | 来てた時代なんです。 だから、僕なんかは、 「ものたりない」って言われましたよ、当時は。 「さっぱりしすぎだ」って。 |
糸井 | じゃ、「おまえ」と呼ぶことの 裏目を行ったわけですよね? |
零士 | 僕は、裏目に行きましたね。 意識的にそっちに行きましたね。 で、店にいい先輩、かっこいい先輩がいるわけですよ。 今回も読者からいろんな質問受けてますけど、 僕も同じような疑問があって……、 田舎ではそこそこ自信もあったわけですけどね。 |
糸井 | 田舎でモテてたの? すでに。 |
零士 | 僕ねぇ……あのこれ、誰でもあると思うんですけど、 好きな女の子っていじめちゃうじゃないですか。 たぶん僕はサディストだと思うんですけどね、 いじめがひどくて……その子のこと好きすぎて。 その子がイスに座るときに 画鋲ピュッって置いちゃったり……。 |
糸井 | それ、愛じゃないねぇ、ぜんぜん(笑)。 |
零士 | そうなんですよ(笑)。 それを愛だと自分で勘違いしてたんですよ。 「オレは愛してるんだ〜!」って(笑)。 で、向こうのお母さんも めちゃくちゃ怒ってるわけですよ、 「なにアンタんちの息子は!」って怒鳴りこんできて。 でも、 「いや、オレは愛してるんだ、あの女を」 なーんて思いながら……小学生のときですね(笑)。 そんな感じだったんですよ。 あとは、やっぱりこう、すごい仲間意識が強くて。 友達と、向こう2人で、こっち2人で……えっと? |
糸井 | ダブルデート? |
零士 | そう、ダブルデートで、 友達がフラれちゃったりするんですよ。 すると、俺も一緒になって、 「俺もやめるよ……」って言ってる自分を かっこいいと思ってたんですよ。 「俺ってかっこいいなー!」って。 連れを裏切れないなぁー、っていう。 そういう仲間意識はすっごい強かったですよ。 |
糸井 | じゃ、その当時はモテてる実感はなかったんですか? |
零士 | ……あんまりなかったですね。 |
糸井 | 実際モテてたんでしょ? |
零士 | 高校生になってからですね。 僕のときはちょうど“ヤンキー”の時代ですからね。 ヤンキーなんてのが流行ってて。 で、その、金八先生なんかで、 学校のガラス割ってどうのこうのと、 そういう時代ですから(笑)。 |
零士 | ヤンキーとか、金八先生のころが高校時代で、 で、高校生になったときに、 僕、昼がお弁当だったんですよ。 |
糸井 | いいなぁー、「零士と弁当」(笑)。 |
零士 | 学校に弁当持っていってて(笑)。 でも弁当って、2時間目くらいに食べちゃうんですよ、 もう腹へってへって。 その当時から規則正しい生活は してないですから、基本的には。 で、なんか机の上に 弁当が1個ずつのって来るんですよ。 最初わかんなくて、なんだろ? と思って、 「ま、いいや、食っちまえ」なんて。 で、野球部の連中なんかは、 もうめちゃめちゃ腹へってるわけですよ。 |
糸井 | 零士さん、野球部だったんですか? |
零士 | いえ、僕はちがうんですけど、 野球部のやつらが腹へらしてるわけですよ。 野球部の連中は朝から練習してますから。 で、「この弁当、今日はいらねぇ」とかって 連中にあげると、「いただきます!」って食べちゃう。 で、パッって見ると、向こうで、女が、 こっちをチラチラ見てるんですよ。 |
糸井 | 机に弁当置いた子だ。 |
零士 | それが何人もいるんですよ。5人も、6人も……。 「これはいったいなんなんだ?」って友達に訊いたら、 「いや、なんかおまえのファンが、 弁当、毎日作ってるらしいよ」って。 で、ちゃんとそういう女の子の間で協定があって、 今日はだれだれの弁当を食べた、っていうのを 競ってるらしいんですよ。 「だから、おまえ好きな弁当食べていいらしいよ」って 友達が教えてくたんですよ。 僕はぜんぶの弁当の中身を見て、 それで「これ!」って選ぶ。 |
糸井 | しーんじられない……(笑)。 |
零士 | で、自分がおいしいと思って食べる弁当は、 だいたいどの子が作ったのか決まってるんですよ。 |
糸井 | 弁当のうまさと、 弁当をもってきた女の子への “好きさ”は比例しないの? |
零士 | 反比例してましたね。< |
糸井 | 反比例!(笑)。 弁当のうまい子はあんまり好きじゃない。 |
零士 | いーや、もーのすごい、イケてないんですよ。 そんなもんですよ。 当時「ひょうきん族」に出てた 片岡鶴太郎さんに似てる女の子でね、 今でも覚えてますよ。 |
糸井 | 片岡鶴子……。 |
零士 | その鶴子さんの弁当がめちゃくちゃうまいんですよ。 |
糸井 | 弱ったねぇ……。 |
零士 | 弱ってたんですよぉ。 で、そのとなりに、すっごくきれいな子が いっつも一緒にいるんですよ。 僕らのマドンナ的な女の子です。 僕はその女の子に声をかけて……フラれました(笑)。 |
糸井 | はぁー。 |
零士 | で、その子もやっぱり「友達にわるいから」って。 |
糸井 | じゃあ思うようにはならないんだ? それだけモテても……弁当がくるだけなんだ? |
零士 | 弁当がくるだけで、いつも鶴子さんと一緒にいる友達、 マドンナ的な子を僕はいいなぁ〜と思ってて、 交際申し込んで断られましたね。 「友達はうらぎれないから」って。 |
糸井 | 高校生だった頃、弁当がきちゃう原因って、 今から思えば、なんだったの? 高校生でそんなやつはあんまりいないでしょー? |
零士 | ……当時ですよね。 今、分析するとですねぇ……たぶん……、 “いい意味で調子よかった”んでしょうね。 |
糸井 | 調子よかった? |
零士 | ええ。 友達をつくるのがうまかったんでしょうね。 ガガガガーっとこう派閥をつくってくというか。 |
糸井 | 男の友達も多くて? |
零士 | みんな男ですよ。 友だちめちゃくちゃ多かったですよ、僕は。 |
糸井 | 番長とかじゃないの? |
零士 | なんか、そういうのに首つっこんでいくほうですね。 友達が騒いでると、時代劇の岡っ引きみたいにね、 「おーっ、どうした、どうした、どうしたぁ〜!」 みたいなね(笑)。 |
糸井 | お調子者だねぇ(笑)。 |
零士 | もう必ず首つっこんじゃうんだよね。 小さなことを、大きくしちゃったりして(笑)。 で、自分でおさめたりして(笑)。 ボヤに自分で油そそいじゃって、 「たいへんだ、たいへんだぁ〜!」つって、 こんどは水バーッってかけて火を消して、 「どーだぁ!」ってタイプですね(笑)。 |
糸井 | 事件をつくっていくタイプ(笑)。 で、その事件のなかで印象にのこるのは自分だったと? |
零士 | 「いやぁ〜、見事な火消しだったらしいよ、あの人は」 って、伝説になってるんですよね。 |
糸井 | はぁ〜。 それ、場所はどこなんですか? |
零士 | 静岡なんですよ。 |
糸井 | 気候の温暖な。 |
零士 | そうなんですよー、静岡ですよー。 で、みんなぼーっとしてるんですよー。 で、いい人ばっかりなんですよね。 そこに、そういうことばっかり考えてるやつが いたんですよね。 あと、男である以上、女にモテたいと思うのは あたりまえですからね。 じゃなかったら異常ですよね。 |
糸井 | それ、言い切るのがやっぱ重要ですよね。 |
零士 | だって、ぜったい、モテるって必要ですよ。 モテたいと思うから、いろんなこと、面白いこと、 くだらないこと、考えるわけですよやっぱり。 |
糸井 | 高校の頃にはもう戦略を練ってたんですか? |
零士 | 練ってましたね。中学から練ってましたね。 |
糸井 | 中学から(笑)。 戦略ノートとかあったりした? |
零士 | いや、ノートはないんですけど、 「なんか、こういう時って、女って、 こういうこと考えてんだろうな」とか、 「あの子意識して歩いてんだろうな、後ろ歩いてる俺が ずーっとなんかおしりのへん見てんのをぜったい 意識してんだろうな」とか(笑)。 で、連れに実験させるんですよ。 「俺が合図したらその子の前から歩いてこい」って。 どういう顔して歩いてるか前から見てくれ、と。 目に出るじゃないですか。 そういうこと考えてたんですよ、いつも。 |
糸井 | ガキのくせに!(笑)。 |
零士 | で、そういうことを友達に教えてたんですよ、延々と。 駄菓子屋でおでん食いながら。 |
糸井 | はぁ〜、へんな高校生だねぇ。 |
零士 | へんな高校生だったんですよ。 |
糸井 | ほかにはしてなかったの? ナンパ系以外は? |
零士 | で、実際……ナンパは……。 |
糸井 | ナンパではないんだ? |
零士 | 僕ナンパはあんまりしなかったんですよ。 |
糸井 | 声かけたりするんじゃなくて、 ワナはって待ってると? |
零士 | 待ってます。 |
糸井 | 今と同じじゃない。 |
零士 | あ、同じですね。 だから、自分のことをよくわかってなければ、 きっと無駄なんだなと思うんですよ。 小さな街ですけど、駅の前にね、みんなこうやって うんこ座りして、タバコふかして、っていうことは 無駄だと思ってました。時間の無駄。 |
糸井 | はぁ……。 |
零士 | だったら、夕方、女子高生が帰る時間だけ、 お約束のようにあらわれて、あとは とっとと帰ったほうがいいじゃない、と。 そういうことを考えてました。 |
糸井 | じゃあもう高校時代には、 「将来モテ職業に入るかなぁ」って気は あったんですか? 何になりたかったんですか、当時は? |
零士 | 僕はね……水商売に早くから入っちゃったんですよ。 |
糸井 | 何歳くらいで? |
零士 | えー、17。 17歳でもう入っちゃいました。静岡で。 友達のお母さんが経営してる居酒屋が、 パブを始めるって話だったんですよ。 で、そこの息子が……、 これがなかなかいい男なんですよ、 ……あの、何人かで、男の子だけでやろうよ、と。 もともとそのお母さんが具合悪くて倒れちゃって、 じゃあ居酒屋を改装してお店新しくするからって話で。 ま、ちっちゃい店ですよ。 そこに仲のいい友達5人くらい集まって、 やってたんですよ。 |
糸井 | 17歳くらいのやつが(笑)。 |
零士 | ええ、17、18くらいのやつらがやってたんですよ。 そしたら、今まで居酒屋だったその店が……、 田舎って土曜日も仕事なんですよ、 ヤマハの工場とかにみんな勤めてて、 白いミラかなんかに乗って職場に通ってて、 で、ピンクのハートを吸盤でフロントガラスに 貼ってるような女の子たちが、 もう、ものすっごい来たんですよ。 街中のお姉ちゃんが、そのちっちゃな店に来た。 |
糸井 | それは、17、18歳くらいの男の子を求めて? 会いたいんだ? |
零士 | なんかその……会いたくて来るんですよ。 |
糸井 | なーにそれ!(笑)。 |
零士 | なんかねぇ、たぶん、チャンネルとか、周波数とか 相手に合わせるのがうまかったんでしょうね。 で、女の子からしたら、 会話してても周波数合わせてくれる人が 職場とかにはいないんじゃないですか。 で、ある女の子ひとりが、 「あの店行くと、よくしてくれるよ、おもしろいよ」って。 |
糸井 | 「よくしてくれるよ、おもしろいよ」 ってまた字幕、ちょっとほしいですね。 |
零士 | で、なんにもよくなんかしてないんですけどね。 当時はね、焼酎ですね。 黒に黄色のトライアングルが流行ってて、 “25”かなんかビンに書いてあるやつですね。 それにレモンサワー入れて、 チューハイってやつですね、 あれがすごく流行ってましたね。 で、ちょっと僕らがやさしく、 「酔ってない?」とか、「大丈夫?」とか、 そんなこと声かけるだけでいいんですよ。 「あー! 今日もかわいいねぇー、あいかわらずー」 なんて。 そんなこと言うだけで、お姉ちゃん、 よろこんじゃうんですよ。 |
糸井 | そういう話聞くとさ、はじめから才能があったとしか 思えないじゃないですか。 コツもなにも。 |
零士 | だから……いつも考えてたんでしょうね、 女のことばっかり。いっつも。 「こういうこと言ったらどう思うのかな?」とか、 「どういう反応示すのかな?」とか、 「俺がしゃべってるの横で見といて」とか 友達にたのむんですよ。 |
糸井 | チェックするんだ? |
零士 | 友達にチェックさせるんですよ。 |
糸井 | じゃ、今そういうかっこう(姿勢)してるじゃない、 そういうしぐさも、身に付いたチェックポイントの ひとつなのかなぁ? |
零士 | たぶん、こう標的をねらいさだめてるんでしょうね。 自然に。 「いくぞぉー!」って(笑)。 |
糸井 | そうなんだろうねぇ(笑)。 |
零士 | で、僕あんまり目線はずさないじゃないですか。 |
糸井 | ああ、そういやそうだ。 |
零士 | で、コトバ切るときだけ、スッとはずして。 |
糸井 | (笑)そんなの、研究してたの? |
零士 | してたんですよぉ! だから、いつも鏡見ながら「あのさぁ」とか、 「俺さぁ」とかって、必ずやってたんですよ。 |
糸井 | 野球の選手が部屋に帰って、素振りするみたいだねぇ。 |
零士 | それと同じですよ。 長嶋さんみたいに、 「バットの振りでわかるんだ」みたいな、 「俺にしかわからない感覚があるんだ」と思ってたんです。 |
糸井 | 17歳で(笑)。 |
零士 | ただ、認められるには、これじゃいけない、と。 ちょっと言い方わるいですけど、 簡単、とか、ちょろいな、って思ってて、 このままだと“井の中の蛙”になるな……と。 そういう危険性が大だと思って。 |
糸井 | あー、そこに満足してられないわけだ。 ミラに乗ってくる女の子には。 |
零士 | ええ。 それで、東京の専門学校に行った友達が、 お盆休みで夏に帰ってくるわけですよ。静岡に。 そうすると例の駄菓子屋に集まるんですよ。 「すぎのや」って言うんですけど。 で、ガキの頃から集まる場所で、 おでんとかき氷を食いながら、 「東京はこうでな、ああでな」って話きくと、 「本当かそれ!?」 「すごいんだよ、オマエのやってることが カネになるところがあるんだよ」って。 いや、俺はカネはどーでもいいけど、 そこを制覇したい、って。 |
糸井 | つまり、 「オマエ今のまんまでも、 やってることがぜんぶカネになるぞ」と? |
零士 | そうです。 で、そいつが……、 幼稚園から一緒の友達なんですけど、 「オマエはこのままだと、アキラのようになる」 って言うんですよ。 |
零士 | 当時、アキラって映画があって。 「このままだとオマエ、アキラになっちゃう」 って友だちが言うんですよ。 |
糸井 | 大友克洋の「アキラ」? ボッカーンってやつだ? |
零士 | そうです、そうです。 「オマエ田舎で浮きすぎてるから、 このままだと、どんどんどんどん膨らんで、 最後は爆発してなくなっちゃうよ。 それを受け止められるのは都会しかないよ」って。 “都会”ですからね……トカイ(笑)。 |
糸井 | いや、わかる。 クリスタルキングの「大都会」って歌あったでしょ。 あの大都会って、福岡のことだっていうからね。 あの歌は福岡を歌ってるんだって。 |
零士 | そーなんですか?(笑)。 |
糸井 | それに近いですよね。 |
零士 | だから、これはもう都会に出るしかない、と。 |
糸井 | 都会はその大爆発を受け止めるだけのものがあると? |
零士 | 僕はそう聞いたんですよ。 で、「俺、大丈夫か?」って。 そしたら、 「オマエ、ぜんぜん、そのまんまでイケる」って。 |
糸井 | じゃ、自分はまだ自信がなかったんだ? |
零士 | ぜんぜんないですよ。 だって、知らないですよ、 都会に行ったことないですから(笑)。 だから、都会行くにはバイクで……こう、族車で、 “えびぞり三段シート”なんてなってるやつで、 “煙突マフラー”で、 「これで都会、アルタ前行っちゃっていいのかなー?」 なんて思いながら(笑)。 |
糸井 | 族車で(笑)。 |
零士 | 連れに「ちょっと東京行こうよ!」って言っても、 「いや、ちょっと、たまご積んでるトラックしかない」 とかね(笑)。 たまご屋なんですよ、そいつ。 家が養鶏場で。 |
糸井 | おお(笑)。 |
零士 | たまご積んでて、それをみっともないと思うより、 「そうか、たまご割れたらマズいなぁ……」って、 発想が(笑)。 |
糸井 | いいなぁー(笑)。 |
零士 | 「たまご割れたらマズいなぁ……そーか、 それじゃー、単車で行くかぁ!」 「いや、でもちょっと今、 煙突マフラーが調子わるいから……」って。 それ、アルタ前で折れちゃったら、もうねぇ(笑)。 |
糸井 | そんなもんつけるから調子わるくなるんだって(笑)。 |
零士 | 「そーか、それ外しとけよ!」なんて。 そんなようなときですから。 |
糸井 | で、それ(その単車)で東京出たわけ? |
零士 | いや、それで、友達が、 「オマエそれじゃあ、沼津あたりで警察に捕まる」 って言うんですよ。 「捕まって、東京行けなくなるから」 「わかった……じゃあ電車で行こう……」 で、電車で行ったんですよ(笑)。 |
糸井 | よかったねぇ、思い直して(笑)。 |
零士 | それも鈍行かなんかで何時間もかけて行って。 カネもったいないから。 そしたら、いきなり、その…… 今で言ったら「PIAA SPORTS」みたいな、 あんなような上下で東京に行っちゃって、 渋谷行ってもう、一発で気づいたんですよ。 「俺ら、ちがう意味で浮いてるよ……」って。 |
糸井 | ああ……。 |
零士 | 「これはマズい!」って。 |
糸井 | 夏休みの青山とかさぁ、 いっぱいそういうのいるじゃん? 裸にスーツみたいなやつが(笑)。 |
零士 | いっぱいいるんですよ! |
糸井 | あれじゃあ、本人もちょっと気づいてるんだ? |
零士 | あれで初めて気づくんですよ。 「……やばい」って。 最初はかっこいいと思うんですよ。 「だれもいねぇよ、こんなかっこしてるやつ」って。 |
糸井 | だいたい二人組でしょ? |
零士 | 俺も二人組で行ったんですよ。 |
糸井 | やっぱり(笑)。 |
零士 | で、そいつはちょっと当時のチェッカーズの フミヤっぽかったんですよ。 「なんかオマエこれ軟派に見られるぞ、 こんなかっこしてて。 俺を見てみろ、バリっときめてんだから!」って、 とんがったクツはいちゃって、 底に鉄かなんか打っちゃってて、 カツカツ音させて火花飛ばしてて(笑)。 あったでしょ? そういう時代? |
糸井 | そういうやつが青山通りの歩道のないところを よく渡ってるんだよ(笑)。 「俺にまかせろ!」みたいに。 |
零士 | ひかれそうになっちゃったりして(笑)。 しかも迷ったタヌキが街に出てきちゃった感じで。 |
糸井 |
はじめて東京に来たとき、 リーゼントですか? |
零士 |
リーゼントですね。 “クリームソーダ”ってクシ ふところに入れて(笑)。 あったでしょ? |
糸井 | “ピンクドラゴン”とか。 |
零士 |
あー、ありましたねぇ! そういう時代ですよ。 |
糸井 |
じゃあ、そこでは、静岡で通用してたものが、 「通用しないな……」って一回カベにぶち当たるの? |
零士 |
あー、当たりましたね。 素直に認めましたね。 「あーダメだ!」って。 「俺はかんちがいしてたな」って。 ただ、それが財産だ、という感じで、 べつに恥ずかしくない。 俺は気づいたんだから、これはこれでいいんだ、と。 だって、服ないですから、買うカネもないですから。 で、金縁でうすーい茶色のサングラスかけて、 割と顔が小さめなのに、サングラスは妙にでかいんですよ。 |
糸井 | カマキリみたいに。 |
零士 |
そうです、カマキリみたいで。 当時、僕、体重55キロしかなかったですから、 今65キロくらいありますけど、 当時はひょろひょろで。 |
糸井 |
あの……“武器”っていうとさ、 高校生が普通に考えることだと、 バンドやるか、スポーツやるか、 どっちかじゃないですか。 まあ勉強できるってのは、あんまりモテないよね。 で、零士さん、今の3つ、どれも関係ないじゃない。 そこが不思議だよねー。 |
零士 |
ぜんぜん関係なかったですね。 だから、いいと思ったら、 なんでも食いつくんでしょうね。 |
糸井 | 例の“ガブガブ”ですか? |
零士 |
ガブガブですねぇ。 だから、今思うと、あの時は、ちょっとこう、 顔が赤くまではならないけど、 バカだったなぁ……でも純粋だったなぁ。 本人は大まじめですから。 自信満々で東京に行って……。 今でも覚えてるのは、 渋谷のスクランブル交差点ありますよね、 あそこで、水色の上下のすっごい服着てたんですよ。 まるで、チケット売ってる……何でしたっけ? 「買うよー、あまってない?」って言う人。 |
糸井 | ダフ屋? |
零士 |
そーそー、ダフ屋みたいな、かっこうしてたんですよ。 それも上下、水色の服ですよ! 白のとんがったクツに。 今思えば、あれでイケてると思ってたのが、 渋谷のスクランブル交差点を歩いてて、 周りをバーッと見渡した瞬間ですよ、 「ちがう……俺はちがう……やっちまった……」。 横にいた友達を見て、 こいつはイケてるんだ、と。 |
糸井 | フミヤ系だ。 |
零士 |
静岡に帰って、そのままそいつに 「どこで服かった?」って聞いて、 そのまんまその服屋行って、 自分なりにいろいろ訊くんですよ、 「実は、恥をかいた……、 東京に行くのにナウいかっこうはどれだ?」って。 で、その店のお兄さんから教えてもらって、 シングルの三つボタンの茶系のジャケットに、パンツに、 スニーカーと革靴のまざった感じのクツをはいて、 かわいいっぽく、ブローチかなんかつけちゃったりして、 「ノータイで行ったほうがいいよ」なんて言われて。 で、初めてディスコに行ったんですよ。 まずは浜松で。 そして初めて、「俺は標準にもどったんだな」と思った。 で、決めたんですよ、東京行こうって。 「もう大丈夫だ!」。 |
糸井 | 早いね。 |
零士 |
早かったです。 それでサーッと行ったんですよ。 |
糸井 |
東京にアテがあったんですか? 何をやるかという。 |
零士 |
その友達が教えてくれたんですよ。 やっぱホストのメッカは新宿で、 いちばんでかい店は「愛」だと。 |
糸井 |
モテるやつが、その才能をそのまま商売にするなら、 新宿に行って……。 |
零士 |
ええ。 で、いちばんでかい店に入ったほうがいいと。 |
糸井 | え、じゃすぐ店に入っちゃったわけ!? |
零士 | すぐ面接行ったんですよ。 |
糸井 |
ほかの商売なんにもしないで、 いきなり「愛」なの? |
零士 |
そうですよ。 ただ、まあ、親父がレストランとか喫茶店やってたんで、 もともと料理好きだったんですよ。 だから外食産業やろうと思ってたんで、 自分でなんか料理したりするのは得意でしたよ。 実際やってましたから。 |
糸井 | それは手伝ってるって感じで? |
零士 |
親父の店だけど、 自分で一生懸命やってましたね。 |
糸井 | それはでも、就職したわけじゃないですよね? |
零士 |
就職してましたよ。 自分ちの店からちゃんと給料もらって、 やってました。 |
糸井 | じゃ、「愛」に入ったのは何歳くらいですか? |
零士 | 19歳ですね。 |
糸井 |
つまり、17歳の高校生で、 机に弁当がじゃんじゃん積み重なってるところから、 約2年で、イメージチェンジして……「愛」。 |
零士 | 「愛」です。 |
糸井 | 19歳で「愛」に入ることに決めて、 さて……面接です。 |
零士 | 面接行きました。 そしたら、こう、僕ら男ですからね、 もう聞いてたんですよ、「甘くない!」って。 よく、女の人と、どうこうして、 次の日にはベンツで出勤して……とか、 そういうイメージで語られるけれども、 まさかそんなに甘くないだろうなってのは、 もうわかってましたよ。友達から聞いてて。 今でもそういうことを夢見て、 ウチの店に面接来る人もいますけど、 当時、僕は現実をよく知ってましたね。 「実際はそんなに甘くはない」と。 「ぜったいそうじゃない」と。 |
糸井 | そんな甘いはずはないんだ……。 |
零士 | 100人近くいますから、お店に。 で、もう流れ作業的なんですよ、面接が。 「はいはい、あーそうですか、はいはい、 じゃあ明日から1週間、電話番ね」って。 で、友達とふたりで店に入ったんですよ。 |
糸井 | 簡単に入れてくれたんだ? |
零士 | 入れてくれるんですよ、簡単に。 まあ、そこそこでしたから、二人とも。 で、入って、電話番してるんですけど、 そのときって、よーく見えるんですよね。 |
糸井 | 電話番してるときに? |
零士 | 電話番やってて、 電話を受けることによって見えるんです。 たとえば、零士にかかってきた電話なら、 周りの先輩に訊かなきゃならない、 「零士さんって誰ですか?」って。 で、お客さんの前まで行って、 「失礼します。零士さん3番にお電話入ってます!」 って取り次ぐと、 「あ、この人が零士さんなんだな」って まず覚えるわけですよ。 |
糸井 | 電話番をしてる裏方仕事が、すごく得なんだ? |
零士 | やっぱ一応、そういう下積みをさせながら、 名前を覚えさせるんですよ。先輩たちの。 |
糸井 | よくできてますねぇ、システムが。 |
零士 | できてるんですよ。 そこで覚えのわるいやつもいれば、 覚えのいいやつもいるし。 そういう下積みしてる間に……、 100人いれば、やっぱり派閥があるんですよ。 球団みたいな感じで。 |
糸井 | 100人もいりゃあねぇ。 |
零士 | で、僕の派閥のお客さんには、 僕の派閥しかつかないんです。 当然、巨人のような派閥もあれば、 千葉ロッテみたいな派閥もあるし、 いろいろあるんです。 で、僕はたまたま巨人の派閥に 「おい、俺の派閥に入れ」って言われて。 派閥に入ったらもう、 店の仕事しなくていいんです、あんまり。 派閥の仕事をすればいいんです。 自分の派閥の先輩のクツを磨くとか。 |
糸井 | 組ができてるわけですね? |
零士 | 組があるんです。 つまり、色分けされてるんですね。 で、やっぱりキャラクター似るんですよね。 自分が入った派閥の先輩を目指しますから。 |
糸井 | あー、習っていくわけだ、だんだん。 その頃は、17歳のときに 教室の机に弁当が積まれていた頃のような自信は、 なくなってるんですか? |
零士 | 僕はね、なかったですね。 自信がないっていうより、 覚えることがいっぱいあるんで、 覚えてからたぶんこの人たちと戦うんだろうな、と。 |
糸井 | まだ試すことはできないわけだ? |
零士 | できないです。 わからないですから。 あのー、当時ね…… 「人って3人集まれば、人間関係ができる」 っていつも僕は思ってたんです。 で、こいつらのトップにのし上がるには、 人をうまく区分けするというか、 こいつはこういうヤツだ、 あいつはこういいヤツだ、 こいつはツッパってるけど実際は弱いだろうなぁ、とか、 そういうことを、考えよう、と。 ずーっと、先輩のいいところを マネして……その人が言ったギャグも、 面白いギャグだったらパクっちゃうんですよ。 で、別な先輩のいいところもパクっちゃう。 で、また別な先輩のいいところもパクっちゃう。 そしたら、俺はこの3人には絶対負けない。 3人にない最強のホストになるから。 |
糸井 | まるで野球選手の話聞いてるみたいだね! だって、そうじゃないですか、野球選手だって。 結局のところ、いいところをパクって、 自分が他の選手を抜いていくわけですよね。 |
零士 | 要するに4番に座るわけですよね。 |
糸井 | そうだよねぇ。 |
零士 | だから、その時に思ったのは、 この人たちの欠点、長所をきっちり見分けて、 長所だけをパクるんです。 |
糸井 | やっぱりいろんな長所を 兼ね備えてる人っていないんですか? |
零士 | いなかったですねー。 で、僕はナンバー1の人のグループ (派閥)に拾ってもらったんですね。 で、その派閥も30人いましたから、 店で最大派閥なんですよ。 で、その派閥は売れっ子のホストさんばっかりなんですよ。 で、そういうなかで、 僕がアイスペールを替えたりするんですよ。 アイスペールをわざと3つくらい抱えて、 やたらバンバン動いて。 そうすると目立つじゃないですか。 |
糸井 | 働き者っぽいよね。 |
零士 | で、わざと、床が水で濡れてるっぽいところに 走っていって、ダンスフロアで、 床が大理石ですから、すべるんですよ。 わざとすべって転んで、もう大ひんしゅくですよ。 そうやって目立とうとするんですよ。 |
糸井 | …………それは、研究してたんだねぇ。 |
零士 | いっつもそうなんですよ、考えてんですよ。 僕がよく自分の下のやつに言うのは、 「自分を含めて、引いた画で見なさいよ。 引いた画をイメージしなさい」と。 僕はそういうふうに自分で思ってたから。 |
糸井 | 客観的に自分を背中から見られるようにするんだ。 |
零士 | そうなんです。画的に。 つまり、自分は何をやってるんだ? と。 自分を後ろから見る着眼点を探すってことですね。 |
糸井 | うーん……こうして聞いてると、 ここまでの話って、僕が30歳くらいのときに、 矢沢永吉の取材をしたときと共通点があるねぇ。 自分の視線ってのは ぜったい自分の目からくるんだけど、 もう1つ俯瞰で見てる視線があるんですよね。 永ちゃんの話でも、似たようなところがあるんですよ。 地元の広島ではツッパってて、 俺はがんばるからな、と言って夜汽車で東京来た。 なんで夜汽車なのか? っていうと、 夜汽車のほうがネタになる、と。 「家出といったら夜汽車だろ」って思うんですよ。 ほかの理由ってないんですよ。 で、東京に着く前に横浜でおりた。 駅のベンチにいた。 これも、そのほうがさまになるから。 で、自分の目だけで自分を見てたら、 そんなふうにはならないですよ。 「自分がどう動いてるのかな?」っていうのを もうひとりの自分が見てるんだろうね。 |
零士 | そうなんですよね。 なんか並行してもう一発ついてきてるんですよ、必ず。 |
糸井 | それはもう高校の頃、 17歳の弁当時代からあったんですか? |
零士 | ありましたねぇ。 中学の頃からありました。 A君はかっこよくてモテてるし、 スポーツ万能で、頭もいいし……、 でも、きっとアイツ(A君)は仲間を裏切って 村八分にされるだろうな、と。 で、俺はぜったいそうはならない。 いくら好きなお姉ちゃんができても 友達裏切っちゃいけない。 その気持ちがすっごい強かったですよ。 それやったらぜったい淋しくなっちゃう。 ま、今ほど明確には画にしてなかったですけど、 心に感じてたんですよね。 友達裏切るのだけはやっちゃいけない、それはダメだと。 実際、僕がそういうふうに思ってた人で、 いまだにつきあいのないヤツもいっぱいいます。 田舎に帰って、みんなでワーッと集まって、 「Aのヤツどうしたの?」って訊くと、 「いやさ、Bが婚約してた相手と別れたの 知ってんだろ?」 「ああ、知ってる知ってる」 「なーんかAのヤツがつきあってたんだよ」 って、やっぱ昔と同じことやるわけですよ! |
糸井 | そういう人は零士さんから見ると、 自分を見る目がないってことですよね。 俯瞰から自分を見る目がないという。 |
零士 | そりゃそうですね。 「やっぱりそういうヤツだな、Aはよぉ」って。 「昔から……そういえば中1のときそういうこと あったじゃんよぉ」って言うと、 「あった、あった、そんなことあったわ」と。 |
糸井 | じゃ、話をまたもどして、 「愛」に入って、100人のなかで アイスペール3つかかえて走って、 わざと転んで水こぼして、目立って……。 |
零士 | そうすると、お客さんに必ず聞かれるんですよ。 先輩のところについて、水割り作って、 ……まあ緊張してますよねぇ。 そうすると向こう(女性)から話してくるわけですよ。 「そういえばアンタさぁ、アイスペールひっくり返して 先輩に怒られたでしょう?」って。 「そうなんですよぉ、やっちゃったんですよぉ、 もう忙しくてぇ」なんて。 で、その時もそうやって話題ふってもらったら、 またわざとやるわけですよ。 アイスペールかかえる。 そうするとスーツが汚れるんですよね。 僕のスーツが汚れてるからって、 そのお客さんが、ほれてる先輩に言うわけですよ。 「ちょっと、零ちゃんにスーツ買ってあげていいかなぁ?」 「おお、いいよいいよ、零士、買ってもらえよ!」なんて。 「すいません、ごっちになります!」 そういう気持ちなんですよ。 |
糸井 | まだ二十歳まえだよね? なーんでわかってんだろうね? |
零士 | そういうことが見えてくると、たとえば、 そのお姉さんは、ほれてる先輩に、実際に いいように操縦されちゃってんだろうなぁ、 って思いながら、 先輩がよろこぶいいヘルプができるんですよ。 「ちょっとさ、アタシさぁ、零ちゃんだから言うけど、 今ちがう店の○○さんのとこ通ってるのよぉ」 「ああ、そうなんですかぁ……。 僕はぜったい余計なこと言いませんけど、 ただ、そうするいじょう、きっと先輩もね、 そういうこと聞いたら傷つきますから、 そこはうまくやってくださいよ。 俺ぜったい言わないですから」って言って、先輩に 「先輩、こうらしいですよ……。ただ俺が言ったって ぜったい言わないでくださいよ」。 で、そういうふうに、うまくうまく。 |
糸井 | 昔やってたのと同じだよね。 話大きくして大騒ぎ(笑)。 |
零士 | そうなんですよ。で、 「俺が逐一いろいろ聞きますから。 ただ俺が言ったってバラしちゃうと こうなっちゃうし、本人もいろいろ立場があるから それは俺にまかせてください」 って先輩に言っておくんです。 それで一生懸命やるんですよ。 「どうですか、行ってんですか? また」 「最近行ってないの……」 「でしょー。やっぱ先輩を応援してやってくださいよ。 最近ちょっと……こう(斜めに)なってんですよ」 なーんて言いながら、俺がまた先輩に、 「先輩、こうなってるって 言っておきましたから、わざと。 結果がよければそれでいいじゃないですか」って。 |
糸井 | そういうのって、嫌われるのと、ギリギリですよね? 下手したら 「オマエががたがた動いたから、 話がややこしくなったんじゃないか!」 って言われる可能性あるじゃないですか? |
零士 | 大丈夫なんです。 やっていることは、先輩に対しては、 「結果をいい方にもっていきましょう!」と、 お姉さんに対しては、 「お願いしますよ。 ちょっとなんか寂しい顔してましたよ」と、 そう言ってるだけなんですよ。 で、いくら裏でいい努力をしていても、 表に出さなきゃ意味がないんで、先輩に言うんです。 「僕、こう言っておきましたから、 いらんこと言わないでください」と。 |
糸井 | 明け透けにしちゃうんですね、 自分がやってることを。 |
零士 | ええ。 明確にしたいからですね、きっちり。 で、僕はこのお姉さんから、 「零ちゃん、あたし一生懸命あなたのために がんばってあげるから」って言われても 僕はぜったいにそれを受けなかった。 「いやです」と。 |
糸井 | 守るべき筋みたいなポイントが、 いくつかあるんだ? |
零士 | ありますねぇ。 ちゃんとしたエリアを分けようと線を引いたら、 そこにはぜったい入らないです、僕は。 |
糸井 | 猿山みたいな構造になってるよね(笑)。 |
零士 | そうなんですよ。 頭のなかがそうなってるんですよ。 自分の山を築くという。 |
糸井 | そうだよねぇ。 ボス猿が絶対なんだけど、 自分も時々デモンストレーションをして、 強さを見せていくと。 で、最初は下っ端で、だんだん人気が出てきた、 という感じですよねぇ。 |
零士 | で、そっからがまた勝負ですよ。 こんどはちがう派閥のボスと 戦わなきゃいけないんです。 |
零士 | ちがう派閥のボスと戦うってことで言うと、 「なんであの人にあのお客さんが行くのかな?」とかね、 不思議に思ったら、じーっと見て研究するんですよ。 「きっとあのホストは寝てないんだな。 寝ずに24時間起きて、ちょこちょこいろんな人と お茶したりして、つないでんだろうなぁ……」と。 それで思ったんですよ。 やっぱりモテるやつは、タフでマメ。 |
糸井 | はい、字幕(笑)。 「タフでマメ!」 |
零士 | これに尽きる! 皆さん、うなずいてますけど……(笑)。 |
糸井 | タフでマメ……。 たしかに、モテる以外のことでも同じですよね。 |
零士 | ええ。 でね、タフでマメってことで言うと、 僕や糸井さんて、話しだしたら長いんですよ、きっと。 気合い入っちゃったら、わかるまで畳みかけるわけですよ。 でもね……僕は糸井さんがすごいのわかりますけど、 なんでその人の言うことがすごくなっちゃうかと言ったら、 僕が思うには、その長い話が、相手の苦にならないだけの 内容をつめた会話ができるからなんですよ。 僕らもそうなんですよ。 女を口説くときに、話を手短にパッパッパッとして、 共鳴させるなんてのはぜったい無理なんですよ。 ぜったい無理! |
糸井 | はぁー! それ、大事ですねぇ! 手短に共鳴させるのは無理。 |
零士 | ネタをばらすようですけど、 それはぜったい無理なんですよ。 今回も、ほぼ日の読者さんから いろいろ質問していただいて……、 えー、ありがとうございます。 で、ぜんぶ読ませてもらいましたけど、 基本的には、こっちの思ってることとか、 研究してリサーチしてたことを 相手に出すも出さないもいいんですけど、 相手を納得させるには、 ぜったい時間はかかるんですよ。 トークの時間は必要なんですよ。 時間があればあるほどいいんですよ。 ただそれが、話を聞いてて苦になるヤツもいる。 苦にさせない、時間を感じさせないトークが できるヤツが、やっぱりうまいんですよ。 |
糸井 | 今の話だと、やっぱり武器はトークでしたねぇ。 トークなんですか? |
零士 | トークです。 僕が思うに。 |
糸井 | たとえば、ヤクルトの川崎みたいなホストがいても トークがイケれば、イケる? |
零士 | (笑)イケますね、はい。 |
糸井 | ことばですよね、要するに。 それは、相づちを含めてのトークですよね? |
零士 | 僕のは表現だと思ってます。 それを客観的に見てる人が、僕のマネをして、 身振り手振りでこんなことやっても、 そんなことはどーでもいいんです。 対ここ(目の前の相手)ですから。 自分の仕草にしても、こうするよりは、 「そうだろ!」って、こうしたほうがいいとか、 いつも考えてますよ。 |
糸井 | それが身に付くようになってくるんだ? |
零士 | なってきます。 |
糸井 | 板につかない人が手をやたら動かすと、 すっごいうるさいじゃないですか。 |
零士 | 下手したら、うざいですよね。 |
糸井 | あれはやっぱり練習してないってことなんですかね? |
零士 | 大事なのは、こう…… 伝えたい!ってことです。 |
糸井 | おおー、伝えたい!。 字幕入るねぇ(笑)。 伝える前には、思ってないとダメですよね? |
零士 | いつも考えてなきゃダメですね。 だから、「よく寝てますよ」っていう人に、 「何人にもモテろ」っていうのは、ムリですよ。 |
糸井 | 結局しわよせは睡眠時間なんだ!? |
零士 | たとえば女の子に、 「今から寝るから、じゃーね、おやすみ、チュ!」 なんて電話したりして、ピッて電話切って、 普通の人はそれで寝ますよね? ……たとえば、僕は5人分、 5回電話かけるわけですから、 寝る時間が減るんですよ、普通の人よりは(笑)。 で、みんなと同じ時間にパッと起きるんですから。 だーから、「タフでマメじゃなきゃダメだ」と。 もう、これ基本なんですよ。 |
糸井 | ほほー(笑)。 |
零士 | トークも、ネタがつきるわけですよ。 だったら雑学の帝王になれ、ということですよね。 自分が困らないようにするために、 チャンネルの数を増やすんですよね。 |
糸井 | 雑学は……短い話がいいんですか? 雑学をあんまり追求していって、 「鎌倉時代はねぇ……」 なんて言うと、まずいでしょ? ほどがあるよね? |
零士 | まずいです、それは(笑)。 自分が何気なく 「あ、それね! 知ってる知ってる」って言って、 相手にたっぷりしゃべらせて、 「あ、そーなんだぁ」 と相手を立ててあげる方法もあります。 別な方法としては、 「あ、それ、知ってるよ。好きなのよぉ」 って言って、相手には、 「またそんなこと言って、調子いいんだからぁ」 って思わせながら、そのうんちくをパーッとしゃべると、 「あ、ホントに知ってるんだ、この人……」と。 相手の気持ちって必ず目にあらわれるし、 慣れてない人でもなんとなく目でわかりますよ。 自分で「イケる」ってのは、わかると思うし。 |
糸井 | 雑学を付け焼き刃みたいに、 受験勉強みたいにいっぺんに覚えようとしても ダメですよねぇ。 |
零士 | だから、いつもいつも、いろんなことを 見てたほうがいいですよね。 僕の部下も今30人くらいいますけど、 「そんなことしなくても僕は大丈夫ですよ」って 言う人もいるんですよ。 「だけど、できないより、できたほうがいいよ。 基本はそれだよ。どこまで自分で追求するかだよ」と。 僕はそう考えますね。 |
零士 | 読者からたくさんもらった質問のなかに、 58歳の人とか、62歳の男の人がいましたよねぇ。 この人たちって、すっごい純粋じゃないですか、 思ってることが。 |
糸井 | そうですよねぇ。 俺もそう思ったよぉ。 |
零士 | びっくりしたでしょ? 僕はもうこれ、びっくりしたんですよー。 |
糸井 | 思ってることをストレートに書いてくれるってのは、 やっぱりすごいですよねぇ。 「ほぼ日」も信用されてるんだろうけど、 思ってることを出してくれるだけでねぇ……。 うれしいですよね。 |
零士 | そうなんです。 僕にも気持ちが伝わるわけなんですよ。 「この人、マジで質問書いてきてんな」と。 できれば、そういう人たちに 今回の話をわかってもらえれば……。 |
糸井 | その人たちも「タフでマメ」って メモ書いたかもしれないよね(笑)。 |
零士 | はい、書いてほしいですねぇ、これは。 明日の朝から急に身体鍛えちゃったりしてね(笑)。 「丈夫になって長生きしなきゃダメなんだよ」って。 「健康第一だ!」なんて、ハチマキしちゃったりしてね。 朝、起きてきた娘にバカにされちゃったりしてねぇ。 |
糸井 | 「やだお父さん、なんなの、それ?」 なんて言われて(笑)。 |
零士 | 「え、牛乳だ!」なんて、 昨日までお茶だった人が「健康第一!」なんて、 ウーッ! って牛乳イッキ飲みして(笑)。 |
糸井 | これからは「タフでマメだ!」(笑)。 いや〜、それでさ、 みんながモテるってことを語ってるときに、 「僕はいらないや」という人もいますよねぇ? 「べつにモテなくたっていいや」って人もいるけど、 男の人は総じて素直に 「モテてみたい」って言い方をしますよね。 |
零士 | ええ。 じゃ“モテる”にテーマしぼりますか? |
糸井 | しぼりましょう。 モテ道入門ですからねぇ。 まず、『タフでマメ』というキーワードは出てると。 |
零士 | 具体的にはですね……、モテるってことには 「モテる」「モテている」「モテたい」 いろいろあると僕は思うんです。 「モテる」というのは、結果論で、 「モテている」というのは形容詞で、 「モテたい」というのは、その人の欲望、願望ですね。 で、「モテている」というのは、たとえば お金を使ってるからモテているとか、 お金をもっているからモテているとか、 かっこいいからモテているとか、 じゃあ、そうじゃなくなったら……モテなくなるわけです。 |
糸井 | そのとおりです。 |
零士 | 「モテる」っつーのは、ずっとモテるんです、結果なんで。 僕はそう考えてるんです。 |
糸井 | はー、一時的なものじゃなくて? |
零士 | 一時的にってのは「モテている」ですから。 |
糸井 | あるいは、「モテたことがあった」とか。 |
零士 | 過去形ですね、これはもう。 |
糸井 | 若いとき友達とよくしゃべったんだけど、 「みんな人生に一度は華の時期があって、 それが小学校で来ちゃったヤツは後が悲惨だ」とかね。 |
零士 | そういう話、ありますよね(笑)。 |
糸井 | だいたい普通の人は、一生をつうじて、 「あの頃はモテてたっけなぁ……」で終わりますよね。 それがずっとつながっている人が、 世の中にはいるわけですよね? |
零士 | だから、そういう人たちは、 いっつも女のこと考えてるんですよ。 |
糸井 | 考えてるんだ? やっぱり。 |
零士 | 考えてるんですよ、ぜったい。 考えてなきゃ、そりゃ無理ですよ。 |
糸井 | 字幕入るねぇ(笑)。 |
零士 | “考えてなきゃ無理” |
糸井 | つまり、俺はぜんぜん考えてないのに、 向こうから女の子がわんさかやってくる、 なんてことは、ない? |
零士 | たとえば、バス釣りのルアーでも、 子どもの頃釣りしてて、あるときいったん熱が冷めて、 また釣りにカムバックして、釣り道具屋行くと、 もうわかんないルアーだらけでしょ? 自分が昔持ってて、すっげー大事にしてて 「こーれはぜったい釣れるんだ!」というルアーも なんか今じゃ釣れない気になってくるんですよ。 不安になってくるんですよ。 |
糸井 | はいはい。 |
零士 | そうするともう、自分の熱はトーンダウンして、 その時点で半分になっちゃうんですよね。 “継続は力なり”っていいますけど。 |
糸井 | (笑)おお“継続は力なり”。 |
零士 | ちょっと古風ですけど(笑)。 女にモテるというのも、そーなんですよ。 モテてなくても、モテたいと思ってて、 いつもいつもずーっと お姉ちゃんの尻を年中追っかけてると、 一応は、その時代の流れには入ってるわけですよ、 気持ちだけも。 結果は別として。 |
糸井 | 参加することに意義があるんだ? |
零士 | そうなんですよ! 意義があるんですよ! |
糸井 | 場からおりてるくせに、モテたいってのは、 ずうずうしいんだ? |
零士 | それは無理ですね! |
糸井 | そーだよねー。 |
零士 | それは俺、無理だと思うんですよ。 たとえば、俺は60センチのバスを釣りたいんだ、と。 そりゃ釣りたいと思うのは勝手ですよ。 でも、釣るには、やっぱ上手くならないと。 上手い人が釣るんですよ。 「なんでアイツは釣れるんだろう???」 それはそいつなりに、いっつも考えてるんですよ。 夢のなかでも。 |
糸井 | 考え方は釣りに似てるね。すっごく。 でも、実際に釣りするとモテなくなるんですよ(笑)。 |
零士 | それは、そっち(釣り)に行っちゃうからですよ(笑)。 ホントに釣りにハマっちゃうとねぇ……。 |
糸井 | つまり、魚に向けて力をそそいじゃう(笑)。 |
零士 | 釣りにハマっちゃうと、 魚が恋しくなっちゃうんですよ。 もう、魚のことばっかり考えちゃって。 夢のなかでも、釣りに行く前の晩から、 「こーのルアーに60センチのバスが “ガブッ”といくのか〜!」とかねぇ(笑)。 |
糸井 | そーだよねー、俺、自分のことはっきりわかるもん。 釣りを始めてからさ、 モテるパワーぜんぜんなくなってるもん(笑)。 |
零士 | バス釣りで言えば、 「このルアーさえ使えば、釣れる!」っていう 自分の伝家の宝刀みたいなルアーって あるじゃないですか。 でも、それって意外と使わないで、 ずーっと置いといたりしますよね。 それと同じで、本当にこの言葉とか、 伝家の宝刀みたいな言葉って、 好きな女にできたら言ってやろうと思ってても、 言えないことってあるじゃないですか? |
糸井 | 「思ってても」って……、 普通そんなセリフ考えてないよ(笑)。 |
零士 | あっ、そうすか?(笑) 俺、しょっちゅう考えてるんですよ。 こう言おうかなー、とか。 |
糸井 | もうすでにちがうよねぇ(笑)。 |
零士 | だからそれはもう、 僕はずーっと参加したいと思ってるからです。 |
糸井 | つまり、会社員が見積書かなんか作りながらでも、 女の子のことを考えてなかったら セリフ云々はできないんですよね? |
零士 | できないです。 たとえば、会社のなかにマドンナが いるとするじゃないですか、 仮にだれかとつき合ってる人でもいいですよ。 ふとひと息つくときに、 「は〜、この人はちがう所で俺と知りあって こう声かけたら、うまくいってるかな……」とか、 そんなくっだらないことですよ、考えるのは。 |
糸井 | 妄想するんだ? |
零士 | 妄想してるんですよ。 で、銀座とかで、すっごいお金使って女の子にモテてる人、 つまり“今モテている”という人も、 そんなことばっかり考えてるんですよ、きっと。 |
糸井 | でも、お金使うこととはちがいますよね、 モテるってのは? |
零士 | だから、参加しちゃってるんですよ。 お金は参加するための切符なんですよ。 |
糸井 | お金が切符なんだ。 値段の高ーいオペラみたいなもんだ。 |
零士 | そうなんですよ。 行ったことない人にはチンプンカンプンなんですよ、 「なーにがおもしろいんだろ?」って。 |
糸井 | あれもあれで、モテをねらってるんですよね? |
零士 | 銀座にいる女性をテーマにした 自分のなかの自己満足みたいな、 そういうことの連続でしょうね。 いろーんな分野があるわけですから、世の中に。 |
糸井 | 今の話聞いてるとさ、 「参加する」ってことで言うと “誰でも同じようにできる”みたいに聞こえるけどさぁ、 実は“素質”ってあるでしょ? |
零士 | “素質”は正直ありますよね、多少は。 |
糸井 | ありますよね。 あと、「タフでマメ」や、字幕にしたほかの言葉を、 零士さんが言ったとおりに、 全部ちゃんと実行すればいいとしても、 「それは、なんかちがう……」って 考える人もいますよね? なにが人を分けるんですかねぇ? |
零士 | まず、自分のオリジナルな形をわかってない人、 自分の土台がわかってない人だと、 そこにいくらいいものを乗っけていっても、 最後は崩れちゃうんですよね。 |
糸井 | つまり、己を知ることですね。 たとえば、こーんなデカい頭の人がいたとしますよね、 そしたらまず「俺は頭がデカいんだ!」と思って……。 |
零士 | まず思って、 「俺は顔デカいんだから、シャープで、 わりとこうピシッとした服は似合わないから、 自分に合う洋服を“死ぬほど調べる”」とか。 不安材料をつぶしていく、ってことですよね。 まず己を知って。 |
糸井 | 自分の弱点も知り、美点も知ったうえで、 不安な部分をなにかで解消させていくわけだ? 服なら服で、趣味なら趣味で。 で、いいところをのばしていくわけですね? |
零士 | ええ。 で、そういうことをしていると、 それを見てる女って必ずいるんですよ。 |
糸井 | そこが、またぁ(笑)。 “それを見てる女が必ずいる”。 |
零士 | 要するに、出会いがあるわけですよ。 それなりに出会いがあるわけですよ、必ず。 なのに、自分がイヤだと思ってる所とか、 自分はイケてない、なんかイマイチだなと思う所には、 いくら人が「行け!」と言っても行かないですよね。 「出会いがあるから行ってみなよ」と言っても、 行ったら空気が「ちがうな」と思うから行かない。 そういう人は敏感ですから。 そういう人ってのは、今までモテなかった人、 モテ方を知らなかった人。 |
糸井 | (笑)モテ方を知らなかった人。 |
零士 | そういう人は、「あ、僕やっぱりいいや」って スッと家に帰っちゃうんですよね、きっと。 |
糸井 | ああー、なるほどー。 「傷つくのがこわくて恋ができない」って、 若い子の間ではいっぱいあるじゃないですか。 あれもやっぱり「参加してもダメかも……」って思うと おりちゃうわけだ。 |
零士 | おりちゃう。参加しない。 |
糸井 | 今の若い子たちは、傷つくことをこわがりますよねー? |
零士 | こわがりますよー。 だから、もうひとつ違った自分を作ったりするでしょ。 僕らなんかから見ると、 「なんかそれってオマエ、いいわけだろ?」って。 それとか、 「本当はビビってるくせに、もうひとつの自分を立てて、 それで押してるんだよな」ってのは見えるんですよ。 「大丈夫かなぁ……」なんて本当は思っていながら、 「カンケーねぇよ!」なんて言っちゃって。 |
糸井 | うんうん。 それはもうビジネスでも同じですよね? |
零士 | 同じです。 で、ビジネスの形としてそれをやるのは いいと思いますよ。 それはビジネスの“技”ですからね。 本当は自分はこうなのに、 ちがう自分をもうひとつ作っておいて、 街のなかでタッグ組んで、 たとえば渋谷をぐるぐる歩いてるってのは、 あれはあれで参加してるんですよ、アイツらは。 家で寝てたってしょうがない。 とりあえず渋谷に行って、参加してるんですよ。 |
糸井 | なるほど、それはまだ見込みがあるわけだ? |
零士 | すごくいいことだと思いますよ。 |
糸井 | モテ道からすると、いいことだよね。 だって、釣りに行っちゃってたら、もう、ねぇ(笑)。 魚しかいないよねぇ。 |
零士 | ええ。 ただ、釣りってのは、またちょっと特殊ですからね。 あれだけ人をハメちゃうってのは、 魚に魅力があるわけですよ! でも、釣り場でだれかと知りあうかもしれない(笑)。 |
糸井 | ないけどねー(笑)。 |
零士 | ただ、なんかちょっと、こうルアー買いにきてる お姉ちゃんのとなりにわざと行って……。 |
糸井 | あ! 店もフィールドですよね。 |
零士 | そりゃそーですよ! 俺はそー考えるんですよ。 どこでどう会うかわからないじゃないですか。 会うべき人と会うかもしれないし。 |
零士 | たとえ場所がどこであっても、 会うべき人と会うかもしれないんですよ。 で、たとえば釣り具屋で、 会うべき人とばったり会ったとすると、 その人がルアーをとろうとして、 こう手をかけたところを 「あ、すいません……」って ちょうど手がこう重なったりして。 「あ、このルアー買うんですか? 僕もこのルアーにはねぇ、思いでがあるんですよー」 なんて。 |
糸井 | そう話しかけるんだ? |
零士 | 普通の状況よりは話しかけられますよね、 その女性が釣りが好きだったら。 まあ、釣り具屋はたとえ話なんですけど、 そういうふうに、あらゆる状況を想像してて、 本当にそうなっちゃうことがいっぱいありますから。 俺はそう思ってるんです。 |
糸井 | こう、ルアーに手を伸ばしてるのを見てから、 “あとだし”になってもいいわけだ。 |
零士 | もーちろん、いいんですよ。 ピタッと合わなくてもいいんですよ。 |
糸井 | いまいち自信がないと、ピタッと合わなかったら ダメな気がしますよね。 |
零士 | ええ。 「あ、いらんことやっちゃった」って思うんですよね。 でも、いらんことじゃないですよ。 それをやったことは、いいことですよ。 客観的に見た場合に、 「アイツは何をわけわかんないこと言ってんだ」と、 思われても、そこにいた当の本人と、 言われた相手はマジになっちゃうんですよ。 |
糸井 | 外側は関係ないんだ? |
零士 | 関係ないんですよ! これだけは。 読者のみなさんからの質問も、ぜんぶそうでしたよ。 質問を読んでいて言えることは、 “第三者は関係ない”ってことなんです。 質問のなかに第三者は登場人物として出てこないんですよ。 私は、僕は、俺は、って質問に書いてあるんですよ。 人がどうでこうで、これは私の友だちの話なんですけど、 とか、そういうことは、まずないんですよ。 第三者は関係ない、 その人自身から見た“見方”があって、 それに対して、零士さんはどう思いますか? という質問が非常に多いんです。 あと、年齢によってちがいますね、やっぱり。 |
糸井 | 若い人からの質問のほうが、 悲しみがこもってましたよね。 |
零士 | そうですね、こもってます。 で、40代の女性とかだと、 私はちょっと目を細めながら物事を見られますよ っていうのを前提にして、質問書いてますよ。 20代だと……24、25の適齢期を越えて、今26、27で、 なんとなく30歳がくるのがこわい、びびってんな、 というようなコメントの人もいます。 |
糸井 | 質問を読んでいると、 ホストという人に対する、こわい、ずるい、きたない、 というイメージからくる怖れを、 「実はそうじゃないんだ!」って 零士さんにパーンと言ってほしいみたいな気分が 全体的に感じられたんですよ。 |
零士 | ええ、僕も読んでてそれは感じましたね。 |
糸井 | こわくも、ずるくも、きたなくもないよ、っていうのを 本人の口から言っちゃったら、根拠なくっても、 「やっぱりそうでしょ!」ってなるような気がしますね。 |
零士 | 僕らは自分のなかにモラルがあるんですよ。 基本的には、男と女は結局は、第三者は関係ない、と。 ただし、「男としてこれは普通じゃないな」って 自分が思うことに手を出すと火傷するんですよ。 ホストでも。 |
糸井 | それ、たとえば、どういうことですか? |
零士 | 男女の間のことで、 なにかその状況を女の人が何も言わずに のんでいるような状態でつきあってても、 普通に考えて、 「きっとこれは本当の愛じゃないな」とかね、 「本当は俺は好きじゃないのかな……」と思う場合は、 自分のことがわかんなくなっちゃうんですよ、結局。 自分のなかでちゃんとモラルがあるんですよ。 |
糸井 | つまり、商売であり、職業ではあるんだけど、 その職業をささえる動機があるわけだ? |
零士 | あるんです、ちゃんと。 |
糸井 | それは、どういうふうに説明するんですか? |
零士 | ホストはですねぇ、自分を支えてくれる女性に対して、 要するに夢を売るわけですよ。 夢を売って、その女性の 明日の張りになればいいわけですよ。 で、客観的に自分を見たら、なんかすごく 自分が悪いような感覚になる時ってあるんですよ。 「なんか俺って、お金使わせちゃって悪いのかなぁ」とか。 でも実際は、その女性が、 「今日はこうでね、ああでね」って 電話をしてくることが、結局本人がよければ、 俺たちは一生懸命よくしてあげよう、 って思うんですよ。 |
糸井 | 宗教のお布施みたいなもんですね? |
零士 | そうなんですよ。 入り込めない部分があるんですよ。 相手側の女性に。 |
糸井 | 坊さんとか、看護婦さんとか、 そういう職業に近いですよね。 |
零士 | 近い部分あるんですよ。 それを、ずるいとか、きたないとか、こわいとか……。 でも今はね、だいぶなくなりましたよ、そういうイメージ。 |
糸井 | マイナスのイメージがなくなってきたのは、 会計制度のせいもあるんじゃないですか? むやみにお金を絞りとられるんじゃないかという 漠然とした恐怖があった時代があったけれとも、 実はビジネスのシステムとして、 ここまでしか掛からないというのが見えてきた というのがあるんじゃないですかね? |
零士 | もちろんそれもありますね。 広くマスメディアを使って、 お茶の間にも広く伝わるようになりましたからね。 僕なんかがバラエティ番組に出演して、 「そんなことないんだよ」って。 |
糸井 | 化け物じゃないんだよ、ってことはわかるよね。 |
零士 | それは伝わると思うんですよ。 僕が出演した番組を観てくれて、 「あ、この人、これ、天然で言ってるな」とかね、 「天然で今照れてたね」とか、 「マジで顔ひきつってた」とかね。 |
糸井 | 裸になっちゃったほうが、 ビジネスはやりやすくなってるっていうことですか? |
零士 | そういうことです。 |
糸井 | え、そんなにいるの? |
零士 | すごい集団ですよ。 バブルの頃の倍に近いですよ。 |
糸井 | 1人当たりのお客さんが使う単価が 安くなったってことはあるんですか? |
零士 | あります。 |
糸井 | それは企業努力があったんですか? |
零士 | ……女性が、しっかりしてきたというか、 女性が強くなってきたんですね。 |
零士 | 僕らのマイナスイメージがなくなってきて、 だから、歌舞伎町は今、 バブルの絶頂期の頃に比べて、 店の件数増えてるんですよ。 歌舞伎町のなかに5000人いるんですよ。 |
糸井 | え、そんなにたくさん? |
零士 | すーごい集団ですよ。 バブルの頃の倍に近いですよ。 |
糸井 | 1人当たりのお客さんが使う単価が 安くなったってことはあるんですか? |
零士 | あります。 |
糸井 | それは企業努力だったんですか? |
零士 | ……女性がしっかりしてきたというか、 女性が強くなってきたんですね。 男が進化する度合いを、 100メートル10秒で走るとしたら、 今女性は100メートルを5秒のスピードで、 ガンガン追いついてきて、 男が抜かれそうなんですよね。 |
糸井 | は〜。 |
零士 | 鼻の下がのびないってことですよ。 女性はもともと鼻の下がのびないんですよ。 |
糸井 | そうなんですか? |
零士 | 男のほうがのびやすいですよね、デローンと。 |
糸井 | 女性たちは、ぜんぜん鼻の下のびてないんですか? |
零士 | さっき「夢を売るのが商売」と言いましたけど、 女性は鼻の下のばしたとしても、 一瞬でも針の先かなんかでちょっと突いたら、 シュッと戻っちゃいますね。 男は多少針でチクチク刺したって、 ナイフでブスブス刺したって、 鼻の下がのびっぱなしの人がいますから(笑)。 |
糸井 | にやけちゃったまま 暮らしてるってことになりますよね(笑)。 |
零士 | ええ。 でも男はそれでいいんですよ。 角がとれて。 「なんかこの人、恋してるんだなぁ」、 「恋も仕事の張りになればいいんじゃないの」っていう。 「それは男の甲斐性じゃないの」っていうことで 済まされる部分ってありますよね。 それは、今までの歴史をみてもそうですけど、 うまくバランスがとれてますよね。 女性は鼻の下がのびにくい、男はのびやすい。 だから、僕ら銀座のホステスに比べたら、 需要はやっぱ少ないですから。 それをバブルの頃の倍近くの人数に 増やしたことがすごいって ほめてもらえることが時々ありますね。 |
糸井 | すごいですよ、そりゃ。 |
零士 | テレビのゴールデンに ホストがガンガン出るようになったのは、 僕が深夜番組からスタートして、 「ガブガブ」とかっていうトークで トキオと一緒に番組やったりしたからで、 それはそれで、ひとつの貢献はしたなぁ、 と思ってますけど。 |
糸井 | そういえば、僕がホストのことを もっと知りたいと思ったのは、 たしかトキオの番組だったかな……。 あれに出てたのが零士さんだったんですか? |
零士 | 俺がやってたんですよ〜。 トキオがモテない男の人を連れてきて。 |
糸井 | で、モテない男の人にベルサーチの服着せて、 ホストが指令だして。 「客の回転がわるくなるから、早く切れ!」とか。 |
零士 | あれ、俺なんです。 |
糸井 | あれ見て感動したんですよ。 |
零士 | 俺がロケバスから指令出すんですよ。 「回転率が命だから!」なんて。 |
糸井 | あのときにすごく関心したことがあって、 お客さんと仲良くなるときに、 どんな食べ物が好きか聞いて、 「こんど僕がごちそうしたいんです」 って言ったんですよ。 |
零士 | 最初に模範を見せたんですよね、僕が。 |
糸井 | あれはショックだったねぇ……。 「そう言ったときに電話番号がわかるんだよ」って。 |
零士 | そうなんですよ。 だから、ああいうことも、いっつも考えてるんですよ。 たとえば、 糸井さんから、うまい飯屋に招待してもらって、 この部屋が、そのうまい飯屋だとすると、 「糸井さん、このクッション、なにげに女の子喜ぶよね?」 「この椅子って女にウケがいいですよね?」って、 そういう話をしたときに、 「あ、そうだ!」って気づくんですよ。 俺ら今までぜんぜん気にしないで座ってたけど、 そういうことも頭の中にメモっとくんです。 後日フッとこの店に来たときに、 「どう? この椅子」 「かわいいー」 「でしょ?」 そっから始まるんですよね。 そのときにはその店が、うまい店になっちゃうんですよ。 「ちょっとね、椅子のオシャレな店があるんですよ」って。 そんなこともネタになっちゃうんですよ。 |
糸井 | は〜。 |
零士 | 「え、なに? 椅子?」 「そうなんだよ、椅子がなんかねぇ……」って。 |
糸井 | 意表つくよねぇ。 |
零士 | そうなんですよ。 「椅子? ホント?」 「ね、行きたいでしょ?」 「いきたーい!」 「ちょっと電話番号教えてよ、電話しなきゃならないから。 ごちそうするから。味もそこそこいいから」 これ、“そこそこ”ってものミソなんですよ。 “絶対うまい”とかって言わないんです。 「味もそこそこイケちゃうのよ、これが」って。 |
糸井 | 好みがあるしねぇ。 |
零士 | そういう、押して引いてという……。 “椅子”で押して“そこそこ”で引く。 |
糸井 | たえず考えてるんですねぇ……。 |
零士 | 考えてるんですよ、やっぱり。 だから僕は 「タフでマメな雑学の帝王やるとモテますよ」って 言うんですね。 |
糸井 | それはもう雑学っていうよりは……なんだろ? |
零士 | 雑学と言ったら大ざっぱな表現ですけど、 本当は専門学ですよ。 |
糸井 | そうですよねぇ……。 |
糸井 | 零士さんが言う雑学というのは、 つまり、人間学ですよね。 人ってどういう時に、どういう感じ方をするか。 で、それはおそらく自分の感じ方について さんざん研究しているというのが前提ですよね? |
零士 | そうです。 自分の見方ですよね。 あくまで自己中心的ですね。 |
糸井 | 自分というしっかりした定点がないと、 その目って身に付かないですよね。 |
零士 | だから、まず己を知ってくださいと、 僕は言うんですね。 |
糸井 | おお! |
零士 | ちょっとまとまりましたか? |
糸井 | 己を知ってください(笑)。 そうですね。 |
零士 | 僕は悪く言ってるんじゃないですよ。 よく「己を知れ、オマエ!」なんて言われると、 言われた人はシュンとなっちゃいますよね。 俺はそういう意味で言ってるんじゃないんです。 「人にはいろいろあるから、まず自分をわかっちゃおうよ」 「自分をわかっちゃって、ちょっと骨ぬいちゃおうよ」と。 |
糸井 | 自分を知る、ということで昔から興味があるのは、 自分がいつもとちがう意外なこと考えてるなって 自分で気づくときってあるじゃないですか? あれに興味があるんですよね。 たとえば、 机の上で企画していても、 頭の中だけで考えてるから、 自分が考えていることに固定されてるんです。 ところが、事件なり事故にあったときに、 「俺ってこういう時にはこう考えるんだな」って 初めて気づくことがあるわけですよ。 |
零士 | そういう時って、 いつもとちがう考え方ができたりしますよね。 いつもの自分の考え方のパターンをどかして、 ちがう発想をしたりするのもいいですよね。 僕もそういうことをやりますよ。 「俺のパターンだとこうだけど、 誰々さんだったらどうするんだろうな?」とか。 きっと、ここは流しちゃうだろうな……、 じゃ俺も流そう、とか。 |
糸井 | それは実験の数を多くすることで磨いていくわけだ? コンピュータのプログラムの進化みたいですね。 プログラムはマシンの性能がよくなって、 テストできる回数が多くなったことが 進化させてるわけですよ。 |
零士 | プログラマの人が寝ないで、 コンビニのおにぎり食いながら……。 でも、コンビニがどんどんできて、 簡単におにぎりが買えるようになったから プログラムが進化したかもしれないし。 |
糸井 | あ、そういう言い方、あるよね。 |
零士 | 昔は、家に帰らなきゃ飯食えないわけですよ。 夜中に出前なんかとれないですよ。 でも今は、コンビニで飯買ってこようって、 飯が食えちゃうから、ずーっと機械にかじりついて プログラムのエラー探すのが できちゃうんでしょうね。 ……と、俺は思うんですよ。 |
糸井 | そうですよね。 |
零士 | おおもとはきっとそういうことかなと。 供給する前に需要を考えると。 |
糸井 | それがコンピュータ業界の 進歩をうながしたと思うと、おもしろいよねぇ。 生活の全体を見て、考えていくという感じですねー。 |
零士 | それは必要ですよね。 |
糸井 | たとえば、女の人でも、性格があったり、 生活があったり、あるいは過去があったり、 いろいろな要素がありますよね。 |
零士 | あ、その、“過去”といったらね、 男である以上、女の人の過去を聞いたりするのって……、 あの……やたら聞いちゃう人いるでしょう。 女性の過去って、たとえ正面に見えていても、 あえて視界のスミに置いておくような 見方がちょうどいいんですよ。 |
糸井 | え? それ、むずかしいな。 聞いてないような、聞いてるような、ってことですか? |
零士 | 女性の過去を気にしないでばく進するんだ、 そういう姿に、女性って共鳴するというか……。 女性なりの、女性だからこその信頼があるんですよね。 それは暗黙の了解だよ、と。 過去は暗黙知だよ、と。 |
糸井 | 暗黙知なんていう言葉も流行語ですよね、今。 |
零士 | そうかもしれませんね。 過去は自然と淘汰されることなんだよ、とかね。 恐竜が絶滅していって、 あれは自然の流れの中で絶滅していって、 最後に猿が残って、 そして今、僕らがいるんだよっていう、 そういう、とんちんかんな表現も必要なんです。 |
糸井 | 急に話をぶっとばすんだ(笑)。 |
零士 | ぶっとばすんですよ! で、また、さっきの話にもどるんですよ。 女性の過去の話を聞くにもね……って。 ちがう場所からパンチを一発入れてるんですよ、必ず。 |
糸井 | そうか! とんでもない所から出すパンチを どうよけるかで、その人の運動神経がわかる、とか。 |
零士 | ええ。 左からのパンチには、フットワークがいいけど、 右からのパンチには、ガード甘くて当ってるとか。 けっこう見えてくるんですよ。 |
糸井 | 人それぞれですね。 で、人間って人のことを知りたいから、 それぞれの人を、十二支にしてみたり、 誕生日で占ってみたり、血液型だとか、 いろいろジャンル分けがありますよね。 零士さんは、そういうジャンル分けの おおまかなものをもってるんですか? |
糸井 |
人間って人のことを知りたいから、 それぞれの人を、十二支にしてみたり、 誕生日で占ってみたり、血液型だとか、 いろいろジャンル分けがありますよね。 零士さんは、そういうジャンル分けの おおまかなものをもってるんですか? |
零士 |
僕はねぇ……今の質問は、女性に関してですか? 人間に関してですか? |
糸井 | 女性と人間で、答えがちがうんだ? |
零士 | 僕はいちおう分けてるんです。 |
糸井 | 女性にしましょう。 |
零士 |
わかりました。 女性の場合は、 非常に攻撃的なタイプと、 普通のタイプと、 そうじゃない、どちらでもないタイプとあって、 攻撃的なタイプに関しては、 ひとつの事を適当に流さないで、 ひとつの事をつかまえたら、 畳みかけるように戦うしかないんですよ。 「そーじゃない! それはおかしい!」と。 そうすると、フッと息をつくときがあるんですよ、 そういう女性って。 僕はデータ主義なんですよ。 |
糸井 | ID野球なんだ? |
零士 |
その女性が人に対して どーいうふうに自分を出しているかを見ます。 自分ってぜったい出すんですから。 |
糸井 |
攻撃的なタイプの女性が使う言葉だとか、 服だとか、そういうものってあるんですか? |
零士 |
言葉は……「私はね」です(笑)。 あと、なんでそこまで自信満々に言うのかな、みたいな。 「私はね、あんたとはちがう、誰々とはちがう」 「私は私だから……」 で、「あんなヤツなんか何よ!」とかね。 |
糸井 |
基本的に攻撃的なタイプの女性は、 ホスト業界全体に対して、 上下関係みたいなことを考えてるんですか? 「あんたたちより私のほうが上だ」みたいな。 ……とは限らない? |
零士 |
「なによ、失礼な!」みたいなね。 ちょっと“お蝶夫人”っぽく。 |
糸井 | “お蝶夫人”(笑)。 |
零士 |
強気に気取った感じで「フッ」なんて……、 そーいうヤツに限って 本当は「フッ」じゃないんですよ! |
糸井 | 「フッ」じゃない(笑)。 |
零士 | 「フッ」じゃないんですよ! |
糸井 | なんなんですか? |
零士 |
本当は、自分はそうじゃないと思ってるから、 そういう行動をとるんです。 僕は完全に、そう決めてかかってます。 じゃないと、その人の攻撃的な部分に惑わされちゃって、 その人の本音をつかみきれないんですよ。 本音を言わせるようにするのが僕らの習性なんですよ。 |
糸井 | まず自分で、必ず成せば成ると思ってるわけだ? |
零士 |
思ってるんです。 で、たまに読みがちがっても 成っちゃうときもありますよね。 あと、普通のタイプは それはそれで、わりと特徴が出てきますから……。 いちばんヤバイのが、 攻撃的でもなく、普通でもなく、 「この子はいい子だろうなぁ……」っていう女性。 このタイプだけはヤバイですよ。 |
糸井 |
え、どういうこと、それは? 「いい子だろうなぁ」って。 |
零士 |
あの……保守的なタイプ。 意外と頑固なんですよ。 だから、その人の価値観をわかったうえで、 その人のちょっとした心の針を揺らすというか……。 そんなようなことを、早い段階に言わないと。 |
糸井 |
え? な、な、なに? 今のはむずかしそうだなぁ。 |
零士 |
たぶん、「ホストへの質問をください」というのに、 まじめに答えてくれる人もそうなんですけど、 基本的に保守的なんですよ、自分の考えに対して。 |
糸井 | それは慎重ということと近いんですか? |
零士 |
本物で、なおかつ自分が本当に理解しないことに関しては、 ぜったいに受け入れないんですよ。 そういう人って人前ではすごく 「あー、そうなんですか、いいですねぇ」って感じで、 なんでも受け入れてるように見えるんですけど……。 |
糸井 | 実は頑固なんだ(笑)。 |
零士 |
頑固なんですよ。 そういう人いっぱいいますよ、 僕に質問してくれた人のなかに。 |
糸井 | だって、俺がそうだもん。 |
零士 |
そうでしょ? 「あ、いいですねー」なんて言ってても、 あ、これはぜったいちがうな、とかね。 |
糸井 | 別に俺はいらないや、とか平気で思ってますよ。 |
零士 |
そうでしょ? そういう人には、早い段階で……、 たとえば、そういう糸井さんを俺が口説く場合には、 とにかく時間かけちゃダメなんですよ。 インスピレーションなんですよ、本当にもう。 |
糸井 |
おお(笑)! 時間かけちゃダメ。 |
零士 |
本当に、時間かけちゃダメなんですよ。 でも男ってのは、 「この人は時間かければ、きっと俺のこと わかってくれるな」 とかって、思っちゃうわけですよ。 でも、本当は違うんですよ。 早い段階で、ドンピシャで、 インスピレーションがお互いに閃くようなことを……、 “心の針をゆらすようなこと”を いかに早い段階で言えるかどうかなんですよね。 その女性といい関係になるには。 |
糸井 |
うわー、それ、いちばん難しそうですね。 さっき話が出た、“攻撃的なタイプの女性”より 難しいですね。 |
零士 |
難しいでしょ? 攻撃的なタイプの女性のほうが簡単なんですよ。 ……隠しているものが見えるから。 |
糸井 |
あ……そうか! 攻撃的なタイプの女性が ある部分で突っ張ってたら、 その内側に弱点があるんだなって わかりやすいわけだ〜。 その逆で、柳に風で、 逆らわず、おだやかにあしらうという 一見けっこういい人というのは、 何を守って、何が弱点なのかわからないのか……。 だから、インパクトのある表現で 早い段階でつかまえる、と。 |
零士 | そうです。 |
糸井 |
零士さんがお店の新入りのときに、 アイスペールかかえて、わざと滑って転んで目立った、 みたいなことですよね? |
零士 |
そうなんです。 そういうのを、何気に見てるんですよ。 でも、それを見せないんですよ、保守的な人ってのは。 |
糸井 |
いちばん難しいタイプ、 いい人系の女性を口説くときに、 “お笑い”ってのは使えるんですか? ほぐすというか……。 |
零士 |
いい人系というのは、今言った、 保守的で、ある程度人あたりがよくて、 でも実際は頑固だ、という人ですね? |
糸井 |
そこでの、いちばんインパクトのある表現とか、 より接近するための手法ってのは、 感動ですか? 笑いですか? 涙ですか? |
零士 |
あの……そういう女性をですね、 自分がこう……あれするには……。 そういう女性って、こっちのことをよく見てないようで 実際は、よーく見てるんですよ。 見てないようで、見てる。 だから僕はガキの頃に、 「俺がこういう行動したら、あの女の子は どういう顔をしてるか、向こう側から見ててくれ」と 友だちに頼んだんですよ。 つまり、そういうことなんですよ。 難しいんですよ、基本的には。 真正面から行ったら、本音を見せてくれないんですよ。 |
糸井 | は〜〜〜。 |
零士 |
そういう意味の事を、 僕はさっきしゃべってたと思うんです。 ガキの頃の話では、ただ漠然と、 「僕が後ろから、その女の子のことを見てたら、 その女の子はどういうことを思ってるか、考える」 と言ったんですけど、つまり、そこまでして 考えなきゃならない相手なんですよね。 こっち側が考えさせられるほどの相手なんですよ。 非常に難しい相手なんですよ。 |
糸井 |
それこそ、商売でモテ道を追求してる人としては、 落としたくてしょうがない、という部分は……? |
零士 |
あるでしょうね。ありますね。 でも、保守的ですから、 なーかなか心の針がゆれないんですよ。 |
糸井 |
いわば、その女性の人生観を変えさせるような ところってあるわけでしょ? |
零士 |
(小声で)あるんですよ……。 だからもう、ある意味、宗教的な部分というか、 なにかがないと……。 |
糸井 | カリスマ性だ! |
零士 |
カリスマ性です。 そういう意味でのカリスマという言葉は いい言葉だと僕は思うんですよ。 本当のカリスマで、 その人の心のなかに入っていって、 実際にその女性のことを きちんと理解してるわけですよ、こっちは。 会ったしょっぱなに、ポッとつかむ。 会った日のうちにもう「はい、わかってますよ」と。 |
糸井 | それは、主にやっぱり言葉ですか? |
零士 |
言葉でしょうね。 あと……洞察力。 |
糸井 | 洞察力(笑)。 |
零士 |
「俺は洞察力がないんですよ」って人は、 「じゃあ毎日見てろ、考えろ」と。 |
糸井 |
人のバッティングをよく見てろ、みたいなもんだね。 ビデオに録って自分のフォームを研究するとか。 |
零士 | ぜったい大事なことですよ。 |
糸井 |
「早い段階で心の針をゆらさなきゃいけない」というのは、 よくわからないけど、わかる気がするねぇ。 |
零士 |
そうでしょ! 時間かかっちゃダメなんですよ! 時間かけちゃうと、 なにかあと一歩入り込めないんですよ。 |
糸井 |
つまり、兄弟の関係になったら 意味がないってことですよね。 姉妹とかね。 |
零士 |
そうなんです。 で、向こうはそうさせようとするんですよ。 向こうがですよ。 こっちはそういう気はなくても。 |
糸井 |
しますよね。 で、若い男がよく失敗するのは、 女の子の仲間になっちゃって、 女同士のつきあいになっちゃう、というケースですね。 それはモテてるを越えて、 「男としては、なんでもないヤツ」に なってるケースってありますよねぇ。 |
零士 |
あー、はいはい。 いい人で終わる、というね。 |
糸井 | あれは、時間かけちゃったという……。 |
零士 |
時間かけちゃったというのと、 やっぱり、その、 どうも歌はうまいんだけど、リズム感がない。 |
糸井 | (笑)。 |
零士 |
タイミングがわるい、 間のとりかたがわるいんですよ。 でも、タイミングとか、間も、 いっつも考えてやってれば見えてきますよ。 できないってのは、 どっかやっぱりズルしてるというか 怠けてるんですよね。 |
糸井 | 怠けてる? |
零士 |
怠け者……それはいけませんよ〜。 せっかくの才能を無駄にしちゃいますよ。 |
糸井 |
は〜〜〜。 あの、たとえばの話で、 今はもう使わないセリフで、 こう言ったらうまくいった、という言葉はありますか? |
零士 | もう使わないセリフで……? |
糸井 |
昔こういうふうに言ったら、 保守的な女の子の心の針がゆれて、 一気にグラッときたという、そういう言葉です。 あ! 零士さん、まだ現役で使ってそうだなぁ(笑)。 そういう言葉ってありますか? |
糸井 | 昔こういうふうに言ったら、 保守的な女の子の心の針がゆれて、 一気にグラッときたという、そういう言葉……。 あ! 零士さん、まだ現役で使ってそうだなぁ(笑)。 そういう言葉ってありますか? |
零士 | (小声で)僕はですねぇ、あの……、 なんとなく言った言葉でいうと……。 クサイ言葉だから普段は言わないセリフですよね? あの……意外に効果があるのは、 なんか、一緒にいて食事してても、 何もしゃべらない時間ってありますよね。 そういうとき……自分は本当に しゃべりたくないだけなんですけど(笑)。 |
糸井 | うん(笑)。 |
零士 | で、逆にそのことを、そのまま言っちゃうんですよ。 「何もしゃべらないでいられるって、 それって、そのままだから……」って。 |
糸井 | (拍手)これ、字幕!(笑) |
零士 | (笑)でも本当のことですよね。 |
糸井 | つまり事実をふたりで確認するわけだ? |
零士 | 確認するんです、常に。 で、それを外部から「おまえ、それちがうだろ!」 って言うヤツがいくらいても、 もうシャットアウトしちゃうんですよ。 防音装置はっちゃうんですよ。 そういう、なにげに言っちゃったことで、 ものすごく相手の心に響いちゃうことがあるんですよ。 |
糸井 | は〜〜〜。 |
零士 | 「去年の何月に、あなたこういうこと言ったでしょ?」 「え? どこで? あー、はいはい」 「本当に素朴だなぁ。 ああ、こういう人なんだなって思ったの」って言ってる。 でも、それ、ウソじゃないんですよ。 「いや、あの時はさ、俺疲れてたんだよね。 本当に疲れてて、なにもしゃべりたくなかったんだよね」 「いや、それ、伝わってきた……」って。 もちろん僕がご馳走に招待したわけですよ。 ちゃんとした店で、 おいしいとかなんとか言う前に、 「なんかこうやって、しゃべらないでいられるのもさ、 それ、俺のままなんだよね……」って。 なにもしゃべってないんですよ。 |
糸井 | (拍手)カメラマン笑っております。 ニッコニコしております(笑)。 は〜〜〜。 |
零士 | 「スーツ? これはただの鎧だ」とかね。 それは文字どおり、こんなスーツはただの鎧なんだよ、 っていう意味を、含めてるかもしれないし。 別な意味かもしれないし。 「目の前の料理なんか、どーでもいいんだ。 この空間が、俺にとっては、 すごく素に戻れるっていうか……違和感ないね」って。 それがどういう意味なのか、 そこまでは言ってないですから。 |
糸井 | (笑)言ってないのねぇ、 相手の解釈で決まるのねぇ。 |
零士 | でも、ウソじゃないですから。 本当に疲れててしゃべりたくないんですから。 |
糸井 | あのさ……こんなに言っちゃっていいの? |
零士 | あ、いいですよ。 |
糸井 | あ、そう……。 |
零士 | ええ。 最近それに加えてるのは。 こう……無心っていうか。 |
糸井 | 無心(笑)。 |
零士 | 「無心になれるってのは、いいよなぁ」って。 |
糸井 | 俺、今気づいたんだけど、 それって、倦怠期の夫婦を演じてるんですよね? 先の先のことですよね? |
零士 | だから、僕らはよく 「三手先を読め、三手先にもっていけ」と言って、 間の1つ、2つをとばしちゃってるんですよ。 とばして三手先に行ってるんですよ。 |
糸井 | そうだよね。 |
零士 | だから、難しい相手のときに、会って早い段階で 「もう君のこと、わかってますよ」っていう流れに もっていくってのは、そういうことですよ。 |
糸井 | たーめになるなぁ〜。 |
零士 | でも、あれですよ、 今回、これだけ対談の時間をとってもらったから、 みなさんに伝えられるんですよ。 これ、10分や20分の話じゃ伝わらないことなんですよ。 難しすぎて。 |
糸井 | みんなさ、テレビとかだと時間短いから、 キャッチーなひと言が欲しいじゃないですか。 でもそれって、言ったらおしまいで……。 |
零士 | ビールの泡をシャンパンの泡に変える言葉みたいに、 短くてパーンという言葉を メディアは求めてますよね。 |
糸井 | それはもうダメなんですよね。 |
零士 | 本当はダメなんですよ。 で、僕はテレビに出たりすると、 あえてみなさんにわかりやすいように……、 つまり、ホストに対するモヤモヤしたイメージを 吹っ飛ばしたいがために、 ちょっとコミカルで、 ちょっと古風なことを短時間の枠でやるしかないんです。 テレビとかは、時間の尺が決まってますから。 短めに。 |
糸井 | テンションの高い露出ですよね。 で、零士さんの話からいろいろ拾えるんだけど、 テレビのことを「古風なこと」って、 一発で言えちゃうのも、センスだよね。 テレビは古風ですよね。 |
零士 | 古風ですよー。 古風なことをやるしかないんですよ。 それも、決まった尺度の短い時間で パーンと行くしかないんです。 |
糸井 | それ、テレビ局の人は案外気づいてないと思う。 テレビを“今”だと思ってるよ。 |
零士 | いや、あれはちがいますよね。 “今”じゃないですよ。 |
糸井 | 古風ですよね。 |
零士 | 古風です。 “今”ってのは、今話してることですよ。 これは現実に進んでることですから。 いつも“今”なんですよ。 |
糸井 | 零士さんと話をしていて、 どこか近いものがあるような気がしますね。 つまり、人と人っていうのは、 理解するのが本当に難しいんだ、と。 最終的には、人が人を理解することは ありえないかもしれないくらい難しい、と。 で、「その実感を前提にしてコミュニケーションしたい」 というのが僕の考え方なんですよ。 だから「みんながわかってくれますよね」ということを 前提にしてコミュニケーションした場合って、 よく例えるんだけど、 「大学祭の焼きそばみたいなもんだ」って言うんですよ。 つまり友だちが出店の前を通りかかったときに 「おう、焼きそば屋やってるから、来いよ」って言ったら 「これ、まずいなぁ」って言っても食べてくれますよ。 でも、本当は人間と人間て、知らない人同士だから、 まずかったら来ないんですよね。 |
零士 | そうなんですよ。 |
糸井 | で、そのことを知ったうえで、友だちに対して、 「本当にうまい焼きそば作ったから食っていけよ」って 自信たっぷりに黙っているというのが、 コミュニケーションの最高のありかただと思うんですよ。 だから、それは昔から伝統的にあるんだけど、 寒い日に外に出たときに、 田舎でじいさんとばあさんがすれ違って、 「寒いですねぇ」って言うじゃないですか。 ぜったい寒いに決まってる日に、 「寒いですねぇ」って言ったら、 相手も「私もそう思う」「本当に寒いですね」って言う じゃないですか。 |
零士 | ええ。 |
糸井 | すれ違って、ひと言話しかけるだけで、 さっき零士さんが話してくれた 「こうして黙ってるって状態もね……」っていうのと 同じ効果があるんですよね。 |
零士 | ええ。 田舎の道端で、そういうふうに 言葉を交わした人たちはきっと、 カギも閉めないで家を出てきて、 じいさんの家のヤカンはどこにあるかを 知ってるような感覚まで、 一気に持っていっちゃってるわけですよ、スパーンと。 実際はじいさんの家に行ったこともないのに。 なんとなくそのくらいまでよく知ってる、 田舎町で、のどかで……、 そんな部分に持っていってるわけですよ。 |
糸井 | それはさ、今の話聞いてて思ったんだけど、 女もその手は使ってるね。 |
零士 | いや、女はもともと使ってるんですよ。 |
糸井 | あ、そうか! |
零士 | 女性は鼻の下が伸びないから、 正確にその手を使ってるんですよ。 たとえば、読者からいただいた質問メールのなかに 「私は今まで想った意中の人をだいたい落としてきました。 で、その3人くらいのうちのひとりが今の旦那です」 というメールがあったんですよ。 で、この人の方法として、 「私はね、会社の食堂で意中の男の人を ずーっと見てるんです。けっこう効果あるんですよね」 って書いてあります。 そういう使い方をしてるんですよ。 でもね、これは……、 質問のメールをくれた人、ごめんなさいね。 これは、あくまでも、素人さんの究極なんです。 |
糸井 | おーっとっとと(笑)。 |
零士 | これね、プロの女になってくると、 相手がこっちを見るまではずーっと見てるんですよ。 で、見たら、フッと目線外すんですよ。 外しのサブリミナル効果なんですよ。目線の。 |
糸井 | “外す”っていうのは、 どういう意味があるんですか? |
零士 | 要するに目線をフッと外すわけですけど、 このメールをくれた女性は、 「ずーっと見てた」って書いてるんですよね。 「けっこう我慢してジーッと見てる、 これってけっこう効果あるんですよ」って書いてある。 それは効果、ありすぎちゃうんです! 濃すぎちゃうんです! |
糸井 | 濃すぎる(笑)。 |
零士 | プロは……、 プロとしてパツンパツン行ってる女は、 男が目線感じて、あれっ? って思って、 なんか女の方をフッと見たら、 もう目線外されてて、なんか見てなかったような 気がしちゃうっていうか……、 そういうふうに持っていくんです。 だから、さっき言ったように、 三手先までもっていっちゃうんですよ、その方法で。 |
糸井 | …………(笑)。 |
零士 | ずーっと相手の男を見てるっていう方法だと、 1が始まって、2が来てるんですよ。 そうじゃなくて、ずーっと見ててフッと外すと、 いきなりボーンと飛んでっちゃうんですよ。 目線外された男っていうのは、 「あれ? なんかこっち見てたかなぁ……?」って いきなり3が始まっちゃうんですよ。 そこまで計算できる女がいるんですよ。 |
糸井 | はぁ〜〜〜。 ただ、それを理解できる女の人ってのが 少なくなってるんじゃないですかね? もしかしたら。 |
零士 | いや、今の話は、 女が男に使う場合です。 女は使ってるんですよ、昔からずっと。 |
糸井 | なるほど。 つまり、男ってのは鼻の下伸びやすいから、 女からの目線も感じるし、外されたことも気づくから その方法が成り立つわけですね。 男は気づくんですよ。 だけど、今流行りの アメリカの青春ドラマみたいなタイプの男女だと、 けっこう難しいテクを使ったところで、 相手がそれに気づいてない、ってこと、ないですかね? とくに、男が女にその方法を使う場合は。 |
零士 | あ、男が女に使う場合ね。 これはきっとねぇ……。 |
糸井 | どんどん鈍くなってますよね。 ファーストフード化してますよね。 |
零士 | そうそう、もーのすごい鈍いですよ。 めーちゃくちゃ鈍いです。 だから、前に話したように、 男と女では進化の度合い、スピードがちがうんで、 女性の進化のなかで生まれてきた女性のテクニックと、 男性の進化のスピードで認められてきた技とは、 やっぱり異ってるんですよね。 これは一緒じゃないですよ。 |
糸井 | だって、たぶんね…… いろんな質問のメールを読んだんだけど、 本当にいちばん困ってるのは若い男の子だと思うんですよ。 |
糸井 | 本当にいちばん困ってるのは若い男の子だと思うんですよ アッシーだ、メッシーだという時代があって、 あの頃から“口説く側は不利なんだ”ってことを 身にしみて知らされてるわけですよね、若い男は。 「好きになってフラれたらどうしよう」という以前に、 「好きになる側って必ず自分だ」って思ってますよね。 あそこで勇気がどんどんなくなっていって、 結局のところ「女なんてどーでもいいや」って……。 |
零士 | そうそう。 とか、「別にいいんだよ、あんな女は……」なんて。 いや、よかぁないって! 俺にしてみたら、そりゃ、よかないよ! と。 自分がきっちりねらいを定めた以上、 たとえば、マグロ釣りに行ってカツオ釣れたんじゃ、 そりゃ、よくないんですよ。 「いや〜、カツオは旬だからねぇ」って……。 |
糸井 | 後から言い直すしかないよねぇ(笑)。 |
零士 | 「カツオは旬だからねぇ」って言っても、 でも、おまえ、マグロ釣りに行ってんだろ? って(笑)。 カツオ釣れちゃっても、意味ないわけですよ。 それを、ちゃんと自分のなかで……要するに 「己を知ってくれ」ってことなんですよ。 本当はどうしたいんだってことですよ。 別に第三者は関係ないですよ、 今しゃべってる僕だって客観的に言ってるだけですからね。 いわば、第三者なんですよ。 でも、自分のなかで、マグロとカツオを ちゃんとわけてほしいっていうか……若い人は特にね。 それでね、いろんな質問メールを送ってくれた中に、 40代、50代の男の人がいるんですけど、 この人たちは、実は意外とよくわかってますよ。 本当はわかってるんですよ。 たぶん俺が思うに、 「本当はわかってるけど、わからないふりをして、 ここんとこ零士に訊いてみよう、ホストに訊いてみよう」 という部分ってあるんですよ。 |
糸井 | おもしろがってるよね。 |
零士 | ええ。 よくわかってますよ、本当は。 この対談で僕の本音を聞いて、 「やっぱりそうだったか!」と思って、 また明日、元気に会社行ったり、 息子さんと接したりしたいんでしょうね、きっと。 そうだと思うんですよ。 |
糸井 | 一方で、若い子は……。 |
零士 | 若い子は、本当にわかってないですよ、これ。 本当にビクビクしてますよ。 |
糸井 | 自信がものすごくないですよね。 |
零士 | ないですねー。 |
糸井 | 自信って……、 僕は格闘技の選手と親しいんだけど、ある選手が 「ほとんどの苦しい練習は、自信をつけるためだけだ」 って言うんですよ。 「この練習をやってるから俺は大丈夫だ、って 自信をつけるためだけに、 苦しい練習をぜんぶ我慢できる」って言うんですよ。 で、力が拮抗してる相手と試合で戦う場合は、 自信が相手より上回ってないと、動きが遅れるんですって。 だから、 「好きな女の子にフラれるんじゃないか……」 「俺はダメなんじゃないか……」と思いながら、 女の子を好きになっちゃった男って、 絶対的に自信がないですよね。 |
零士 | ないです。 |
糸井 | それは、どーしたらいいんですかね? |
零士 | 俺、その考え、すごくね、 わかりやすいっていうか、よくわかるんですよ。 その……、 自分の不安材料を消すことによって強くなるというのは、 本人の操縦性はなくなるんですよね、きっと。 自分自身を操縦するっていうか、 コントロールする部分で、機能的には低くなりますよね。 |
糸井 | ああ……なるほど。 |
零士 | 俺なんかは逆に、弱い部分は弱い部分で、 もうあんまり手をつけないで、 いい部分だけで勝負していって、 ガンガンガンガン行って、 それで相手をぶっ倒しちゃうという。 俺はそういう方法をすすめます。 |
糸井 | たとえば、左フックが得意で、ガードが苦手だったら、 相手に打たせておいて、左フックを一発だけ 入れさせていただくと? |
零士 | ええ。 ガッツンと入れていく、と。 もし、不安材料を消すことによって 自信をつけたとしても……でも、そいつが本当に 怖がってるヤツってのは、きっと、 今言ったパターンのヤツなんですよ。 左フック一発ねらいで、ガーンガン来るヤツってのは、 やっぱ怖いですよ。 |
糸井 | はぁ〜〜、じゃ今の男の子たちがまちがってるのは、 箇条書きのチェックリストを作りすぎてる部分ですか? |
零士 | 作りすぎてるんですよ。 むしろ逆をやらなきゃ。 だから、どれも同じに見えちゃうんですよ。 サイボーグみたいに。 |
糸井 | そうそう……。 |
零士 | だからなんか「あれ? なに君だっけ?」って マジでわからなくなっちゃうんですね、こっちも。 |
糸井 | たとえば、どこで食事するといいだとか、 どういうクルマが好きだとかっていうのを いわばマーケティングしてるわけですよね。 「これだけ準備が万全だから、俺はモテるはずだ」って 「せーの!」で口説きに行っても、 そんなものは、ほかの男もやってるから、 ひとつ抜けられないんだ? |
零士 | たいしたことないんです。 ひとつ抜けてないんです。 ボクサーで世界チャンピオンになった人で、 よく会う人と話をしていて、 「零士、おまえ……チャンピオンってさ、 負けるときって、どういう時か、知ってる?」 って聞くから、 「いや〜、やっぱそれって、あれでしょ、 ちょっと力が衰えたときとか、 練習しなかった時でしょ?」って言ったら、 「逆だ!」って言うんですよ。 |
糸井 | 練習しすぎた時! |
零士 | 練習しすぎた時なんですよ。 チャンピオンであるはずの自分が 手負いの狼になっちゃってる時なんですよ。 現実は、ぜんぜん手負いの狼じゃないんですよ、 チャンピオン、キングなんですから、 だれよりもぜったい強いんですよ。 ランク的には、自分より上がいないんですから。 でも、結局、下から上がってくる、 本当の手負いの狼みたいなヤツが 食いついてくるのが怖くて、 練習をしすぎてオーバーワークでダメになる、 って言うんですよ。 |
糸井 | 辰吉選手もオーバーワークだったらしいよね。 |
零士 | そうなんですか。 ま、僕は彼に会ったことないですけど。 で、そのチャンピオンだった人が 「優秀なトレーナーってのは、 選手をいかにリラックスさせて、 いかに練習させないか、ってのができる人だ」 って言ってましたね。 |
糸井 | 字幕出るねぇ〜、バリバリに(笑)。 |
零士 | 出てますねぇ、今日は。 で、俺が、 「あ、そうなんですかぁ……、 だいたいみなさん、そうなんですか?」って訊いたら、 「ほとんどそうだ! よほどのアホじゃないかぎりな」って。 |
糸井 | たとえばさ、だれか女の子を好きになった A君というモテない男の子がいると。 で、A君の友だちはぜったいにさ、 「オマエ、それじゃダメだよ」って言って、 「クツを替えろ」だの、「髪形を変えろ」だの、 いろいろうるさいことを言いますよね。 |
零士 | そうそう、それなんですよ。 それがダメなんですよ。 |
糸井 | あれで、A君が潰れるわけだ。 オーバーワークしちゃうんだ。 |
零士 | 潰れるんですよ。 ただ、そりゃあチャンピオンを目指すというか、 女にモテたいと思う以上は、多少はね……、 わざとクツや髪を汚くしとくヤツはいないですから(笑)。 |
糸井 | 臭い靴下とかね。 |
零士 | 消臭スプレーじゃなくて、 わざと悪臭スプレー吹くヤツはいないんですよ。 「こーれ、いい臭い出るんだよ、臭ぇんだコレ」 なんてね(笑)。 |
糸井 | 「俺だけの臭いだ」なんて(笑)。 |
零士 | そーんなヤツはいないんですよ(笑)。 だから、そこらへんを、あんまり考えすぎても……。 |
糸井 | そうだよねぇ。 まあ、清潔感だけは必要だね。 |
零士 | それはぜったい必要ですよ。 飯だって、多少は洗ったとわかる皿に乗ってないと。 皿に口紅かなんかついてたら、そりゃイヤでしょ。 うまいのはわかってても、ちがう部分で 引いちゃうってのはあるじゃないですか。 |
糸井 | じゃあ、ベースに必要なのは、 昔から古典的に言われているように 清潔感だけは、まず維持すると。 それから、相手がどういう女の子かということと、 自分がどういう男かということを、知る。 |
零士 | 相手と自分をよーく知らなきゃいけないです。 いくら素晴らしいナビゲーションシステムを用意しても、 衛星との距離がきちっとしてないと、 海の上走っちゃうことになりますからね(笑)。 ちょっと昔のカーナビとか。 「なーんで俺、海の上にいるんだよ、おい」なんて(笑)。 「なんで太平洋の上走ってんだよぉ〜」って。 |
糸井 | じゃ、さて、 もう一歩、むずかしくします。 相手のことをA君が考えて、 そのリサーチでは、 「自分は相手に好かれない」という立場になっちゃったと。 どう考えても、相手の女の子が今までつきあってた男は、 みんな自分とはちがう、と。 |
零士 | たとえば、自分よりすごい上のヤツだと。 |
糸井 | そうそう。たとえばね。 そういうケースなんかは、キツいですよね、また。 |
零士 | それを打破するってことですか? それこそ、もう得意のアレで行くしかないですよね。 |
糸井 | 左フック! |
零士 | 左フックですよ! |
糸井 | 幻の右とか(笑)。 ……それこそ(笑)。 |
零士 | もう、死角から後頭部直撃みたいなパンチで。 ボカーンと! ただ、それは、マグレじゃないんですよ。 自分でちゃんとそれをねらってるわけですから。 |
糸井 | 俺、こないだね、詩集を出したんですよ。 そのなかに、なんとなく自分で 気持ちが乗って書いた詩があって、 「豚の丸焼き背中にかついで」っていう詩なんです。 |
零士 | (笑)。 |
糸井 | 女の子の家に、野を越え山を越えて、 ブタの丸焼きを担いで、 食べてほしくてやって来て、 で、女の子がいなかったんで、帰ります、 っていう詩なんですよ。 これね、なーんで書いたんだかわからないんだけど、 ちょっとカッコいいんですよ。俺にとって。 |
零士 | いや、わかります。 左フックですよね。 だから、今糸井さんが言ってるのは、きっと、 さっきのボクサーの話で言っても、 「完璧にするということは、逆にそれは、 完璧にした時点で、本当の手負いの狼に対して、 自分が手負いの狼になっちゃうんですよ」って ことなんです。 |
糸井 | ああ……。 |
零士 | 恐怖心を振り払いながら、 あえて自ら得意技1本で挑んでくるヤツに対して、 本来なら勝てるにもかかわらず、 半端に完璧にしようとして 形をこじんまりまとめすぎちゃって、 それで、やっつけられちゃうんですよ。きっと。 |
糸井 | つまんないルールの試合に消耗してる、と? |
零士 | そうなんです。 そこにハマっていくんでしょうね。 で、相手のパンチが当っちゃうところに、 自分からわざわざ回り込んじゃうんでしょうね、きっと。 それで、ドカーンとパンチ食って やられちゃうんですよ。 俺、そうとしか考えられないですよ。 |
糸井 | でも、ほとんどの今の若い男の子って、そうでしょ? で、だんだんと試合さえしなくなりますよね。 まだ今日は練習が足りてないから、 試合はまだやらないんだ、とか。 |
零士 | 練習だけして、チャンピオンベルト巻いて 家に帰っちゃうんですよね。 しかも、自分で勝手につくったチャンピオンベルト。 非公認の(笑)。 「そんなチャンピオンベルトはないだろ?」みたいな。 自分だけのベルトして帰っちゃうんですよ(笑)。 試合しないで。 |
糸井 | そーだよねぇ。 |
零士 | 俺、そう思いますよ。 だから今言った、その…… 本当の手負いの狼的な部分が なくなっちゃってるんですよね。 もっとあっていいと思うんですよ、俺は。 |
糸井 | 本当の手負いの狼的な部分ってことで、 たとえば零士さんだって、 10代の頃とんちんかんな格好して、 東京に出てきて浮きに浮きまくってた話を 平気でできてるじゃないですか。 |
零士 | ええ。 |
糸井 | それ、若い子、できないですよね。 |
零士 | たぶん、できないでしょうね。 当時の僕は大まじめで行ってたんですから、東京に。 でも、浮いてることに自分で気づいて、直して……。 でも、その経験はエピソードとして 自分に誇りをもっていて、 「だから今があるんだ」っていうね。 だから、さっきちょっと出た話で、 “難しい相手”に遭遇しても、 その時こそ自分の得意技で行くしかないですよね。 あえて、まとめる必要ないですよね。 |
糸井 | でもさ、自分の得意技がなんなのか 自分が知ることって、 本当はなかなかできないですよね。 むずかしいんじゃないかなぁ。 |
零士 | だからいつも 「自分はなーにを考えてるんだろう?」 「自分はどれだけ異性のことを考えてるんだろう?」 とか、考えるんですよね。 「考えちゃいけない」って決まりないですから。 「私いっつも、男のことばっかり考えてるのよね」とか、 「俺っていっつも女のことばっかり考えてるんだよ」と。 それって悪いと言えることじゃないですよね。 はっきり言って、 「ああ、すごくいいんじゃない!」って、思う。 |
糸井 | 実際に、若いときなんて、 そればっかり考えてますよね。 俺、そうだったもん。 |
零士 | そればっかでいいんですよ。 変にまとめなくていいんですよ。 で、若いうちからうまくまとめようとしたヤツは、 だいたい、そうですね……25歳で、 もう昔話始めちゃうんですよね。 |
糸井 | はぁ〜〜〜。 |
零士 | 「俺が若いときはさぁ……」って、 オマエまだ若いだろ!って(笑)。 「昔は渋谷センター街でブイブイ言わせちゃって、 まあ、当時はねぇ……」って、 オマエ、それ最近だろ! 「当時、俺の名は通ってたよ」なんてね(笑)。 |
糸井 | そういう子、店の面接に来ますか? |
零士 | 来るんですよ。 |
糸井 | そういうとき、零士さん、なんて言うの? |
零士 | いや、もう、だいたいそういう人は……、 夢を語ってて目が爛々としてるんだったら いいんですけど、 もうだいたい死んだ目しちゃってるんですよ。 |
糸井 | はぁ〜〜、終わってるんだ? |
零士 | たとえば、僕が昔話をしても、たぶん、 目が爛々としてると思うんですよ。 「昔やったことは今の自分のルーツで、 これからもっと行くんですよ!」 という感じが相手に伝わると思うんですよ。 でも、そうじゃない昔話をするヤツには、 「だからなに?」ってなっちゃうんですよ。 女性はもっとすごいです。 「俺って昔さぁ、ああで、こうで……」なんて 自分だけ楽しくて、自分だけウケてるような そんな話を男が女にしても、 女は「だからなに?」で終わりっていうね。 その時点で、まあ10歩のうち、6歩、7歩は 引いちゃいますよ。 |
糸井 | そういえば、しないほうがいい自慢話をして 失敗するヤツっていっぱいいるよね。 |
零士 | いっぱいいるんですよ。 |
糸井 | 自慢話ってのも、ひとつキーですよね。 |
零士 | 俺がよく使うのは、さっきの話題で言うと、 自分より上に見える男とつきあってきた女に対しては、 「俺は、こんななんだけど」ってことを まず最初に明確に示すことですね。 「わぁ素敵……」って思うんですよ、人間として。 「俺はこんななんだけど、こういうことが好きだよ、 こういうことができるよ」って言う。 それって誇りですからね。 自慢も、誇りのある自慢もあるんですよ。 なんか立証できないような、ただのへんな自慢話とは、 ぜんぜんちがいますからね。 |
糸井 | ああ、「カネ持ってるぞ!」とか、 「クルマいいの乗ってるぞ!」とか……。 |
零士 | そういう話にしても、 「僕はこのクルマが好きだから……、 このクルマ高いかもしれないけど、そうじゃないんだ。 僕が乗ってるこのクルマには、こういう歴史とか、 思い出があって、それで大事にしてるんだよ。 あなたにとって、そういう物ってない?」って訊く。 相手の女性は、話し始めますよね。 だから、自分だけ自慢するんじゃなくて、 相手の女性に自慢させるんです。 |
糸井 | はぁ〜〜。 相手に自慢させる面積を残しておくんだ? |
零士 | そうなんです。 だから、自慢話をするには、自分に誇りがあって、 相手にも誇らせなきゃいけないんです。 誇りがあるはずなんです。 それを自分だけが言うと、 「そんなもんアタシはないわよ!」とかね、 「自分の自慢話ばっかりして!」ってなるでしょ。 なると思うんですよ。おそらく。 だったら、女に言わせないとダメですよ、自慢話を。 たとえば、僕ら若い世代にとっても、 なんか、そういう物ってあるでしょ。 たとえば、フェラーリに乗ってたとしても、 「みんなフェラーリ、フェラーリって言うけれども、 実は僕はこのシフトレバーが好きなんだ、これが。 このアルミのシフトレバーが好きなんだよ」と。 |
糸井 | 俺は焼き肉ではレバーが好きだ! |
零士 | ……(笑)。 「でも、クルマなんかまあいいじゃん、なんちゃってー」 なんて自分からアホなこと言って。 で、自分の核の部分を明確に示しておきながら、 相手の誇りとか、自慢話をしゃべらせるのもいいし。 やっちゃいけないことって、ないと思うんですよ、俺。 でも、それなりにちゃんと裏付けがないと、やっぱり。 |
糸井 | けっこうまともな話ですねぇ。 |
零士 | まともなんですよ。 いい加減に考えてるんだったら、 最初からいい加減にしてたほうがいいですよ。 中途半端はよくないですよ。 マニュアルどおりは、いい加減ですよ。 自分で考えてないですから。 |
糸井 |
そういえば、一時期さぁ、 ホットドッグプレスとかでさ、 「どうやって女の子とつきあうか」とかさ、 マニュアルがありましたよねぇ。 |
零士 | でも、最近なくなったでしょ? |
糸井 | あれ読んでたら、男の子はどんどん辛くなりますよね。 |
零士 |
だって、たいていは、ほとんど 「こんな事だれでも知ってるよ〜」 って内容ですよね。 |
糸井 |
あれは、要するに雑誌つくってる 編集者が考えてることだからね。 |
零士 |
そうですよ。 だいたいプロがそんなマニュアルなんて しゃべってないですから。 で、ああいう記事を書いた人は、 その時点ですでに二番せんじ、もしくは三番ですよね。 で、それを読んだ男の子は四番、五番なんですよね。 そんなのだらけなんで、失敗したときのショックが 余計に大きいんですよ。 ぜったい失敗しますよ。 100パーセントですよ。 |
糸井 |
零士さんから見て「こいつはイケるな」という 男の子を見つけるときって、何が基準なんですか? |
零士 |
僕が「こーいつはモテるだろうな」って思う人ですよね? ま、僕とちがうタイプで、よく見るというか、 なるほど、こういうパターンもあるんだな、と思うのは、 “わりとソフトなんだけど、 相手をこう……言葉だけでない雰囲気で、 うなづかせるヤツ”。 |
糸井 | そんなヤツがいるんだ? |
零士 | やっぱ、いるんですよねぇ。 |
糸井 | トーク、なし? |
零士 |
トーク、あんまりなくて……、 あのね、僕にはちょっとできないことなんですけどね、 そういう人って……相手とパッと合うんですよ。 で、さっき僕は、1の段階から一気に 3にもっていっちゃうと言いましたけど、 それを言葉じゃなく、 態度でできちゃうヤツがいるんですよ。 僕は言葉で持っていくって言いましたよね。 「こういう、何もしゃべらないでいるのも、 これって、俺なんだよ……」というのも、 やっぱり言葉で言ってますよね。 |
糸井 | 口に出して言ってるね。 |
零士 |
それを言わないで、 3にもっていちゃうヤツがいるんですよ。 世の中には。 |
糸井 | いるんだ……。 |
零士 |
いるんですよ。 なんかその、セリフがなくて、 「…………」ってだけで、 「あ、かっこいいなぁ〜」って思うヤツ。 言葉じゃなくて、仕草でできちゃうヤツがいるんです。 |
糸井 | それができる裏付けは、やっぱり自信なんですかね? |
零士 | 勘違いですね。 |
糸井 |
はぁ〜〜〜。 なるほど……。 |
零士 |
ぜったい勘違いなんですよ。 だけど、本人そのまま、それを思い込んでるんですよ。 |
糸井 | 勘違いって、やっぱ魅力ですよね? |
零士 | 魅力でしょう? |
糸井 |
あの、トシちゃんのいい時って、 ものすごくよかったですよね。 あの……田原俊彦さん。 |
零士 |
ええ、大勘違い。 素敵ですよ! 俺ら「素敵だなー」と思ってました。 |
糸井 | 今の郷ひろみさんもそうですよね。 |
零士 | ええ、大勘違いですよ。 |
糸井 | イケますよねぇー。 |
零士 | ええ、ぜーんぜんオッケーですよ! |
糸井 |
なんか「君もお祭りに参加しないかい?」 みたいな感じしますよね。 |
零士 |
ええ。 一緒になって勘違いしないと いけないような気がしちゃいますね。 |
糸井 | トーク派としては、天敵ですね? |
零士 | (小声で)天敵なんですよ〜。 |
糸井 | 商売敵ですよね(笑)。 |
零士 |
こうね、……パシッとキメて、 「ゴー!」とかってシャウトされるとさ、 「なーんだよ、それ?」って思いつつも、 「ウン、カッコいい!」って頷いちゃうんですよ(笑)。 |
糸井 |
あと、スポーツ選手。 野球選手がバーン!とホームラン飛ばしたりとか、 サッカーで活躍したとかって男も天敵ですよね。 それ、やられたら、かなわないもんね。 |
零士 |
天敵ですよぉ。 言葉いらないですからねぇ。 それ、できないんですよ。 だから、それにちょっと似せるには、 単純なことですけど、 「普段いい加減なんだけど、やる時はやるよ」と。 それをちゃんとメリハリをつけて ジッと相手に見せる、というのも、ひとつの手です。 効果として似てるというか。 だから、言葉だけではちょっと伝えられない部分の、 暗黙知的なものを、ちゃんと見せるには、 なにか言葉ではないものを学ぶんですね。 僕はいつもそう思ってるんです。 「あ、これって言葉じゃないんだなぁ」って人は いるんですよ。 そういう人をよーく見るんですね。 |
糸井 | やっぱ、学ぶんだ? |
零士 | 俺、学びますね、その人がやったことを。 |
糸井 |
たとえば、今、誰でもが知ってるような人で、 零士さんから見て「かなわねぇなぁ」って人、だれですか? |
糸井 | たとえば、今、誰でもが知ってるような人で、 零士さんから見て「かなわねぇなぁ」って人、だれですか? |
零士 | 福山雅治さんでしたっけ? あの人が、なにげに「ああ……」みたいな感じの 雰囲気で言ったようなことを 俺、できないんですよ(笑)。 俺は、もう「オオー! ウワーッ!」ってやりますから。 あの人は、「ああ、まあな……」って感じで、 スッとこう……雰囲気があって、 で、ボローンなんてギター弾いちゃいそうな、 ああいうのには、かーなわないですよね。 あんな人がホストになったらねぇ。 |
糸井 | なるほど……、及川光博さんはどうですか? ミッチー。 あの人は表現してますよね。 方向はちがいますけど。 |
零士 | あー、はいはい。 うーん……あれくらいのことは、 僕たちホストも、もう、できちゃうわけですよ。 今、ミスターレディとか、 ホモセクシャル的なものとか、 ちょっと女性的なものって、 ひとつのジャンルになってるじゃないですか。 で、そういうジャンルがすこし開放されて、 今は別に、それが、とんがった、突起したものには、 見えなくなっちゃってますから、 安心が入っちゃって、トーンダウンしてるんですよね。 あんまりメディアに注目されないじゃないですか、今。 |
糸井 | あ! そういうので思い出すとさ、 山崎まさよし、どうですか? |
零士 | いいんですよ。 |
糸井 | あれ、かなわないですよねぇ。 あれ、すごいですよねぇ。 |
零士 | かなわないですよ〜。 |
糸井 | 男の俺から見てても、 テレビで山崎まさよしの声が聞こえると、 パッと画面見るもん。 |
零士 | ついパッと見ますよね。 |
糸井 | 見る。 |
零士 | あの人が、カレーかシチューのCMで ギターぼろ〜んってやってると、 「なんか今日カレー食いたいなぁ」って 思っちゃうんですよね。 ぜんぜん関係ないのに(笑)。 |
糸井 | ねぇー。 なんにもフリもつけてないのに。 |
零士 | ちょっとそのままの格好で 家から来たんじゃないか、っていう感じで。 |
糸井 | でも、いずれは、 あのジャンルのホストが生まれてきますよね? |
零士 | 生まれてくると思うんですよ。 福山雅治系とか。 ただし、今現在、ホストでどんなタイプがいいかと 僕が考えると……いちばんわかりやすいのは、 ジャニーズ系で、滝沢くんみたいな感じがウケますね。 ウケるというか、誰もが「いい!」と言うと思うんですよ。 ただ、強さを兼ね備えてるとなると……。 |
糸井 | ナンバーワンになるか、ならないか、というと ちがってくるんだ? |
零士 | ナンバーワンというか、 今夜から即戦力になるのは、 スマップでいえば……みなさんキャラがいいですけど、 やっぱり香取慎吾くんですよ。 |
糸井 | ……それ、もうちょっと説明してもらえますか? |
零士 | だから、たとえば、 さっき話になったミッチー的な要素も なんとなくあるし。 |
糸井 | あるある。お祭り騒ぎできます。 |
零士 | あと、多少甘えて母性本能くすぐる部分もありますし、 「もう〜、この子ったら!」って感じで ちょっとおイタもしちゃったりできちゃうし、 それでいて、わりとキレるところはキレるって感じで、 プツンですよ、 「じょーだんじゃねぇーよ!」って 男としてケツまくれるっていう部分もあるし。 さらに、自分が我慢しなきゃいけない、 先輩を立てなきゃいけないっていうこともできるし。 で、トータル的に“苦の部分”を表に出さないでしょ。 |
糸井 | はぁ〜〜、確かにそうだ! |
零士 | そうなんですよ。 ほかの4人も、それは素晴らしいですけど、 即戦力のホストってことでのイメージで言うと、 たとえばですけど、中居さんにしたら、 「なーんか時々ちょっと ピリピリしてんじゃないかな」とかね。 |
糸井 | 神経質そうに見えたらダメなんですね? |
零士 | ええ。 あと、草剪さんは、イメージ的に なんとなくほのぼのしすぎてるから ホストだと、いい人で終わっちゃうのかな、とか、 吾郎さんにしてみたら、 ちょっとすいません、あくまでイメージなんですが なんかマニアックな部分があるのかな……とか、 木村さんだと、なんか、ちょっと 理屈っぽいかもしれないな……とかね。 |
糸井 | あー、すごいよーく見てますねぇ……。 |
零士 | で、それはそれでいいんですけど、 ジャンルがせまくなっちゃうんですよ。一瞬。 まちがっちゃいないんですけど、 なんとなくピントがボケるんですよ。相手の女性はですよ。 「そこ、ストレートに言っちゃったほうが いいんじゃないの」ってとこを、ひねりますからね。 |
糸井 | あれ、オトナの感覚ですよね。 |
零士 | だから、オトナの感覚をつまみに、 景色のいいオープンカフェで、 バーボンかなんか飲みながら……、 っていうんだったらいいんですけど、 それは本人だけの価値観ですからね。 |
糸井 | 競争がないときには、 すごく役に立つけどねぇ……。 |
零士 | 競争してる場合はもう、 そんなことしてちゃ、 第4コーナーに馬いないですよ(笑)。 |
糸井 | そんな、ゆっくりしてる場合じゃない(笑)。 |
零士 | パドックでパカパカ回ってる場合じゃないですよ(笑)。 もう第4コーナーなんですよ! |
糸井 | なるほどね(笑)。 はぁ〜〜、そんなことしてたら 時間かかるよねぇ、たしかに。 |
零士 | それでいきなり焦っちゃって、 まあ、飛び抜けたルックスがある人ならいいですけど、 そうじゃない人間は、いきなり第4コーナーで ガーッ!っていったら、もう骨折で そのままもう安楽死ですよ。 |
糸井 | だったら街のお兄ちゃんたちは、 木村くんのマネをしちゃダメだね? |
零士 | ぜったいダメですよ、それは! |
糸井 | 街のお兄ちゃんたちは、 木村くんのマネをしちゃダメだね? |
零士 | ぜったいダメですよ、それは! |
糸井 | やるんだったら、 香取くんのマネをするんだね。 |
零士 | 彼ぐらいパワフルで、 「この人、寝なくても平気だろうな」みたいな。 丈夫そうだし、食い物に好き嫌いないだろうな、 飯もいっぱい食うだろうな、とかね。 たまに気取った店に飯食いに行っても、 ピリッとしてカッコいいだろうし……。 なんか、奥の深さを感じるというか、 それでいて、入っていきやすそうな感じで。 たとえば、海でも 「深いだろうなぁ……」と思った海って、 こわいですよね。 |
糸井 | うんうん。 |
零士 | だけど、すっげー深いんだろうけど、 ぜんぜん怖さを感じなくて ドボンを飛び込める海もあると思うんですよ、きっと。 あれ、色によると思うんですよ。水の質とか。 |
糸井 | すごいこと言うねぇ……。 |
零士 | また言っちゃいましたねぇ、これ、 おいしいことを(笑)。 |
糸井 | もーーー、うまい! |
零士 | ホチキスでとめたいですね、ここはピシっと! 俺、そんな感じだと思うんですよ、彼は。 |
糸井 | それは、イメージですよねぇ? |
零士 | イメージです。 で、僕は本当に彼のことが……変な意味じゃないですよ、 彼が好きだから、考えるわけですよ、こう見てて。 |
糸井 | 香取くんのことまで考えてるの? |
零士 | 考えてるんですよ、いつも。 「この子は何考えて、これやってるんだろうな?」とかね。 |
糸井 | 香取くんって鶴瓶さんとさ、 扱いにくいゲストばっかり呼ぶ番組に出てるじゃない。 あれなんか、香取くんしかできないよね。 |
零士 | できないですね。 だから彼なんですよ! ……もちろん、この対談のテーマ、 「モテ道」に関しては、 営利の感覚ではしゃべってないですけど、 実際に我々はこれがビジネスですから、 当然、おカネにかかってきますからね。 そういう部分も考えて、彼がいいですね。 ひじょうにいいです。 ビジネス側として見た場合は、 彼がイチ押しですね。 |
糸井 | はぁ〜〜。 |
零士 | ほかに見当たらないです。 芸能界の方にこういう言い方は本当に申し訳ないですけど、 やっぱり商品って感じがしますから。 そういう観点で見ることになりますよね。 |
糸井 | 零士さんって、相撲部屋の親方ですからね。 |
零士 | ええ。 どうしても商品という部分で、すばらしいとか、 どうだとかいう評価しかできないですけど、 香取さんに関しては天然ですばらしいですね。 |
糸井 | 女性で、「この人が落とせたらなぁ〜」っていう人、 いますか? 零士さんが得意なジャンル、苦手なジャンル それぞれあるんでしょうけど、 「この女性を落とせたらすごいよ」っていう人、いますか? |
零士 | あの、僕が普通に見てですね? |
糸井 | ダイアナ妃とか、そういうこと言わないでね。 もういないし(笑)。 |
零士 | ええ。 もっと身近というか、 可能性のありそうな人ですね。 そうですねぇ…………。 …………。 |
糸井 | あ、初めて長く考えてるよ(笑)。 |
零士 | あの……今、いちばん最近話題のところで言うと、 松嶋菜々子さんですね。 (註:この対談は3月に行なわれました)。 あの人って、あくまで僕が見た感じで言うと……。 実際には、みなさんどう思ってるかわからないですけど、 俺はたぶん当たってると思うんです、これは。 あの人は、けっこうね、むずかしいと思うんですよ。 意外と扱いづらい相手なんですよ。 さっき言った保守的な部分が強いというか。 ものすごく周囲に合わせてはいますよ、きっと。 だけど、実際中身は頑固なものがあって、 そうそうやたら公のところに出ていかないとかね、 おカネだけじゃ動かない、とか。 |
糸井 | そうだとしたら、むずかしいよねぇ。 |
零士 | そうです。 あの人、むずかしいと思うんですよ。 だから、あの人にちがった視点で 自分を見せることができた反町隆史さんは ほかの部分は知りませんけど、 そういう部分に関しては、 すごいいいものがあると思うんですよ、僕は。 |
糸井 | 要するに、ひとりの青年として。 |
零士 | そうです。ひとりの青年として。 アプローチして、松嶋さんが受け入れるということは 彼は彼なりのイズムというか、 価値観があると思うんです。きっと。 それに共鳴させたというしか、 方法が分析できないんですよ。 |
糸井 | すっごい細い道でたどりつくところなんだ? |
零士 | 僕が思うに、そういうタイプなんですよ。 松嶋菜々子さんて。 |
糸井 | はぁ〜〜。 じゃ、そういう話も、 芸能ニュース見ながら、考えたりしてるわけですか? |
零士 | 考えてたわけですよ、先週。 「どうやって結びついたんだろ、これは」って。 |
糸井 | 反町くんで思い出したんだけど、 僕には何人か釣りの友だちがいますよね、 で、僕は反町くんと一緒に釣りしたことないんだけど、 釣りを教える人に、誰が上手かと訊いたら、 「反町くんは上手ですね」ってすぐに出たんですよ。 |
零士 | 僕も面識はないですけど、 たぶん、本当はけっこうコミカルで、 本当は……いや、わかんないですよ、 でも、俺みたいに、考えてるんだと思うんですよ。 じゃないと、そこにたどりつかないですもの。 だって、むずかしいですよ。 松嶋菜々子さんって、きっと。 |
糸井 | はぁ〜〜、それを零士さんに言わせるってすごいねぇ。 |
零士 | (笑)そりゃねぇ、むずかしいと思いますよ。 で、なっちゃえばむずかしくないですよ。 なるまでがむずかしいんですよ。 受け入れないと思うんですよ、そう簡単には。 だから、いろんなところを、 自分で自分を消毒液につけてみたりとか、 けっこう根気がいることだと思いますよ。 |
糸井 | それ、じーっと考えてたんだ? |
零士 | たぶん最近ではいちばん報道されたと思うんですよ、 先週か、その前ですか? だから、まあ、どうだろうなぁ? って考えてて。 |
糸井 | もう、研究材料に満ちてるんだろうね。 世の中は。 |
零士 | いっぱいあるんですよ。 |
糸井 | じゃ、また新しい質問なんですけど、 「おもしろいとモテる」と 男の子が思ってた時期があって、 笑いの方向にどんどん行きましたよね。 合コンだとか、飲み会なんかでも。 あの傾向って今もまだ続いてるんですか? |
糸井 |
また新しい質問なんですけど、 「おもしろいとモテる」と 男の子が思ってた時期があって、 笑いの方向にどんどん行きましたよね。 合コンだとか、飲み会なんかでも。 あの傾向って今もまだ続いてるんですか? |
零士 |
あの……おもしろいというのも、 それだけを追求していっちゃうと 結局は万人受けするような おもしろさになると思うんですよ。きっと。 それって、ある特定の人におもしろがられることを 貫いてるヤツのほうが、逆に、 おもしろいときがあるじゃないですか、お笑いって。 鼻の穴に豆入れて、ポンポン飛ばす人が、 そればっかりやってたら、なんかおもしろくなってきたり。 たとえば、春一番さんが、 アントニオ猪木のモノマネだけで通したり。 あの人が出てきたら「猪木だ!」と思いますよね。 いきなりコックの格好してきても、 きっと猪木のモノマネやるんだろうな、とかね。 で、その前に、いろんなキャラの濃い人が いろんな芸をやっても、最後にあの人が出てきたら、 「1、2、3、ダーッ!」で結局、 「じゃ、よきところで」って解散になっちゃうんですよ。 |
糸井 | 左フック一発ですよね? |
零士 |
一発ですよ。 オールマイティーじゃなくていいと思うんですよ。 |
糸井 | あれが一発ってものか! |
零士 |
で、まともな顔してやってるし、 出てくるときには、なんかオカシイというか、 ……面白いんじゃなくて、なんかオカシイというのを 売り物にしてるんですよね。 でも、オカシイの裏側を見ると、 ちゃんとやってるってことですから、 ワンセットで見せてるんですよね。 |
糸井 | は〜、環境ごと売ってるよね。あの人ね。 |
零士 |
そうなんですよ。 俺、実際見たんですよ。 あるクラブに行ったときに、 名だたる有名人がいたんですけど、 そこにひょっこり春さんがいたんですよ。 「おっ、春一番だ!」なんて、周りの人が言うんですよ。 そこで、もうウケてるんですよ。 |
糸井 | 「やって、やって」だよね。 |
零士 |
で、最後に出てきて、 「では、ワタクシ……みなさん、わかってますね ……いくぞーっ!」って(笑)。 「ダーッ!」ってやって、 「はい、解散」で終わりですよ。 |
糸井 | 最後にさらっちゃったんだ? |
零士 |
さらっちゃったんですよ。 それと同じで、 万人に向けちゃうお笑いっていうのは、 結局は保守的なんですよね。 その時点で、もう負けてると思うんですよ。 |
糸井 | モテ道ってやっぱ保守的じゃダメなんだね? |
零士 |
ダメだと思いますよ、俺は。 ただ、ちゃんと線は引いてくれよ、と。 自分のことを、人を鏡にして映して知るのもよし、 上の備え付けたもうひとつの自分のカメラで 自分を見て、自分の位置を確認する、 そういうナビゲーションシステム的な 感覚だけはもってくれよ、と。 つまり、人のせいにするなよ、と。 人の話に乗ったり、ネタとして使っておきながら、 人のせいひするヤツっているじゃないですか。 俺、そういうのはずるいと思うんですよ。 たとえば、この対談を読んで、 僕にいろんな質問のメールをくれた人たちが、 「いや、零士が、ああ言ったから、こうしたんだ」と、 そういうふうなずるいヤツになってほしくないですね。 男も女も。 |
糸井 |
もうひとつなんですけど、 “女の色気”と、“男の色気”って言いますよね。 で、色気という言葉ってものすごくあいまいで、 みんな基準がちがいそうなんだけど、 色気ってなんなんでしょう? |
零士 |
さっき話が出た、山崎まさよしさん、 色気、ありますよね。 でも、なにかわからないですよね。 「なにがいいんだろ?」と最初は思うわけですよ。 なんか……この人って、 歌書いて歌ってる人なんだよね……、 でもなんか、目に残るんですよね。 歌が死ぬほどうまいとか、なんとかっていうよりも、 なんかねぇ、しみこんでくるっていうか、 ……あれは色気なんですよ。 100パーセント色気なんですけど、 なんでアレが出てくるのか……? |
糸井 |
僕は、色気ってことについては、 前から知りたいなと思って考えてたんだけど、 ひとつ鍵があって、 それは“恥”じゃないかなと。 |
零士 |
いやいや、そうそう、だからそうなんですよ。 僕らは恥をかきたくないから、 色気をつぶすんですよ。 で、身振り手振りで派手にやるわけですよ、こうやって。 「わかるかオイ、わかるか? わかっただろ」って。 それで「カッコいい!」って言われたい。 「カッコいいなー、まとめていったよアイツ」って。 |
糸井 |
うんうん。 その恥とさ、もうひとつそれの裏に、 「もう恥ずかしくてしょうがない」 という恥がありますよね。 |
零士 |
だから、僕らはそれも打破したいから、 脚を使って機敏に動いて、寝ないで時間使って、 さっき言ったように、 相手の女性に時間を感じさせないというのも 結局は恥をさらしたくないからですね。 |
糸井 | 零士さんって、根っこは恥ずかしがり屋ですよね。 |
零士 |
だと思いますよ、根っこは恥ずかしがり屋ですよ。 顔も赤くなるし、 誰かとすごく目も合わせづらいという時もあるけど、 だからこそ、あえて色気をすっ飛ばしてでも、 動いて、時間使って……タフでマメというところに 行くんですよ。 |
糸井 |
それほど恥ずかしさが強いとも言えるんだ? |
糸井 | それほど恥ずかしさが強いとも言えるんだ? |
零士 |
で、睡眠削って動いて時間つかって、 そこまでやったら、恥もクソもないだろ、と。 そうなったときに、 「多少色気あるんじゃないのアイツも」と、 最近ちらっと聞きますけど……。 それまで自分のことで、 色気なんて言われてるのを聞いたことないですよ、俺。 “やり手”だとかね。 “そつがない”とか。 |
糸井 | もっと猛獣扱いされてたわけだ? |
零士 |
ええ。 で、自分はそれでいいと思ってました。 色気があるなんて言われるのは逆に、 ナメられてると思ってましたからね、僕はね。 そんなの俺はいいんだと。 だから、色気のある人ってうらやましかったですもの。 |
糸井 |
つまり、恋愛関係だとか、男女のことに 参加しているんだけれども、 実はそのことが恥ずかしい、みたいなあたりに……。 |
零士 |
恥ずかしさがあったり、すごく人目を気にしたり、 自分でもいろいろ気にしてるんです。 考えてるんです。 でも、さっき言った色気ってのは、 恥をかける、自分をさらせるっていう、 そのまんまで……ってことですよね。 |
糸井 | 山崎まさよしには、なれないよねぇ。 |
零士 |
なれないですよ。 寝巻きみたいな格好で、いきなりギター弾いて、 めちゃめちゃキザなことを歌いきっちゃって、 というのはできないですよ。僕らには。 |
糸井 |
むずかしいよねぇ。 にしきのあきらのようになら、できてもねぇ。 |
零士 |
ええ。 こうやって、わざと「ウワーッ」って騒いで、 「愛してる〜!」なんていうのは、できますよ。 たぶん、みんなできるんですよ。 ミカン箱ならべて、上に立って(笑)。 |
糸井 |
で、やろうと思えば、郷ひろみのラインも ありえますよねぇ。 |
零士 |
できるんですよ。 郷ひろみさんも、ある程度は天然の部分はあるけれども、 恥ずかしいとか、シャイな部分もあると思うんですよ。 それを、成りきっちゃうことによって、 ガーッとやることによって、 あの方法がいちばんいいと考えたんでしょうね。 |
糸井 |
だから、ハレとケで言うと、 ハレの色気っていうのは、マネできると。 |
零士 | できます。 |
糸井 |
表現だから。 ところが、ケの色気……、 ただ飯食ってるだけで色っぽいとか、 みそ汁すすってても色っぽいとか、 そういうの、あるよねぇ。 |
零士 |
にじみ出ちゃってる色気は、 あれはもうね、原発からもれた放射能みたいに、 出たらドワ〜っといつまでも漂っちゃうんですよね。 |
糸井 | はぁ〜。 |
零士 |
あれはヤバイですよ。 そういうものなんでしょうね。 |
糸井 |
あれ、なくなることもあるんですかね? ああいう色気って。 鮮度保証期間とか、賞味期限ってあるのかな? |
零士 |
いや、忘れたころに また効いてくるんですよ、あれは(笑)。 |
糸井 | (笑)たちわるいねぇ。 |
零士 | たちわるいんですよ。 |
糸井 | みんな、さらわれちゃうよねぇ。 |
零士 |
だから、僕らは警戒するんですよ。 ふと、言葉じゃなく雰囲気で持っていっちゃう。 色気でモテるヤツってのは、それですよ。 |
糸井 | でも、ああいう人は派閥はできないでしょ? |
零士 |
できないですね。 単体ですね。 でも、色気にみんな冒されちゃってるから、 30対1でも、勝っちゃうんですよ。 勝っちゃうし、 なんで勝っちゃうかというと、 みんなが道を譲ってるわけですよ、それは。 できるヤツほど、譲るんですよ。 「はい、お手上げ」と。 そういう図式があると思いますよ、僕は。 |
糸井 | この話は、続きをまた今度しゃべりたいね。 |
零士 | しゃべりたいですね、コレ。 |
糸井 | ここがいちばん面白いですね。 |
零士 |
ええ。 ずっとしゃべってきて、 もうそこに辿り着いたと思うんですよ。 モテるということで、 「どんな男には負けると思う?」 って糸井さんから振られたときに、 「いや、言葉じゃなくね、ちがうことで、 持っていっちゃうヤツがいるんですよ」 っていうのは、そういうことなんですよ。 |
糸井 | とってもビジネスにはしにくいタイプの……。 |
零士 |
いや、もちろんこれは 本人にも操作性はないですから。 |
糸井 |
あ! 操作性がない! コントロール不可能。 |
零士 | 不可能! |
糸井 |
あー、だから、よくね、あの…… どう言ったらいいんだろうなぁ。 モテようとしてなくても、 「それだけ力があったら、向こうから来るよ」 という言い方を若い子にすることがあるんですよ。 それのパターンですよね? |
零士 |
そうです。 だから、僕なんかも、お笑いでもね、 まとめちゃったものって、保守的でつまんないよと。 逆にひとつの得意技をずっと通したほうがいいというのは、 この対談を読んでくれる人たちはみんな、 わかったと思うんですよ。 「今自分はすごく考えすぎちゃってるな」って時は、 自分を含めた、ちょっと引いた画面で見る、と。 サッカー中継で言ったら、 すごい球さばきとかに目がいきがちだけど、 それじゃ周りの状況がわからないので、 センターライン付近でやってることなのか、 ゴール前でやってることなのか、 アップの画面じゃよくわからないじゃないですか。 引いた画面……離れたところにいる ゴールキーパーがどこに立っているかとか、 サポーターのいる観客席もぜーんぶ見えて、 自分のプレイも見える位置にカメラをもっていかないと、 たぶん、モテ道は追求できないです。 そこが第1歩ですよね。 |
糸井 |
じゃ、最後に……。 今までだいたい質問にからんだことを いっぱいしゃべったんですけど、 とくに答えてみたい質問とか、ありますか? |
零士 | ありましたねぇ僕には、ひじょうに。 |
糸井 |
それを、ぜひ。 性がらみのことは、 あんまりしゃべってなかったですね。 |
零士 | セックスですか? |
糸井 |
ええ。 そのあたり、けっこう質問があったんで。 あの、なかには、種馬のようにヤリまくってると 思ってる人もいますよね。 そのへんって、現実のホストはどんな感じなんですか? |
零士 |
あの……セックスというのは、 基本的にはその、肉体的な満足感と、 精神的な満足感があると思うんですよね。 で、あの……セックスを売り物にするということは、 ひじょうに難しいと思うんですよね。 精神的な満足感を与えるには、 べつにセックスじゃなくても、 ほかのものでも、いっぱいあるわけですよ。 肉体的な満足感を与えるよりも、 精神的な満足感を与えるほうが、 ホストとしては、大切なんです。 ずーっと対談してきたことは、 結局はそういうことなんですよ。 |
糸井 | そうですよねぇ。 |
零士 |
たとえば今、 「あー、おもしろかった!」と言って、 この対談の後、スタッフのみなさんで お茶を飲むなり、酒を飲むなりしてもらうためには、 精神的な満足感を感じてもらったほうが、 質が高いんですよね。 |
糸井 |
性をコントロールするってのは、 暴力なんかに近いんですかね? |
零士 |
ええ、そうなんです。 だから、そっちのほうに走っていくと、 もう尺が決まっちゃうんですよね。尺度が。 幅が決まっちゃうんですよ。 で、夢を売っているホストが 幅が決まっちゃうようなことに走ったら、 夢じゃなくて現実になっちゃって、 もうみんな斜めに傾いちゃうんですよ。 |
糸井 | 走っちゃう人もいるでしょ、やっぱり。 |
零士 |
たまに、手段として、走る人はいますよね。 ま、正直言って、ぶっちゃけた言い方したら、 「お客さんと寝ちゃって、どうこうして、 そういうふうにヤリまくってるホストが、 ナンバーワンなんじゃないか?」という イメージが先行してるんじゃないですか。 でも、それは幅が決まっちゃってますから。 |
糸井 |
つまり、精神的な満足への可能性の芽を ぜんぶつぶしちゃって、 ある一直線の道だけを走ってるということになると? |
零士 |
そうです。 かけ算じゃないんです。たし算ですよね、それは。 僕はたし算求めてこの世界に入ってないですから。 |
糸井 |
あと、研究のしようがないですよね、 その道ってね、根本的にはね。 |
零士 |
そうでしょ。 だから、上に行く人ってのは、 そのことじゃなくて、ちがう方法で行ってるわけですよ。 精神的な満足感を与えるには、 どうすりゃいいんだろう?って知恵をしぼるんです。 で、工夫するんです。 だから“研究”と書いて“どりょく”と読む、みたいな。 |
糸井 |
(笑)なんだよ〜それ? 研究と書いて、どりょくと読む。 |
零士 |
ええ。 血と汗と涙の結晶とか、 そういうことを言ってるうちは、まだまだです。 結局、肉体的に動かす、どうのこうのって、 イメージ自体がもうまちがってますよね。 血と汗と涙は、もう当たり前ですから。 そこから一歩上のことをやらないと。 |
糸井 |
やっぱり性でどうのこうのというのは 暴力に近いですよね。 殴っていうことをきかせるってのと パターンとしては同じですよね。 長続きもしないし。 |
零士 | しないんです。 |
糸井 |
もっとすごいヤツも出てくるしね。 病気みたいにすごいヤツが出てきたらもうお終いですよね。 あと、なんだろ、性を考える時間は長くても 性そのものに関わってる時間は短いですよね。 100時間ないですもんね。 |
零士 |
そこなんですよ。 ちょっとしかないんですよ。 もっとぶっちゃけた話は、たとえば、 「5万円でセックスできます」と。 で、裸になって、じゃあ、っていたして、 5万円払うってなると、終わったあと、 「なんか高かったかな……」と思うんですよ。 |
糸井 | はあ……。 |
零士 |
ところが、たとえば、2時間あったら、 1時間50分しゃべって、あとの10分で チャチャっとしちゃって、 そうすると逆に、「また行きたい」と思うんですよ。 |
糸井 | はぁ〜〜。 |
零士 |
だから、さっき、僕が最初に話したことで、 長い話を時間を感じさせないで、 しゃべることができたら、 それは、モテる秘けつですよと。 時間を感じさせない、というのは。 そこでも話がつながるんですよ、ぜんぶ。 |
糸井 |
読んでる人、飽きてないだろうね、まさか(笑)。 俺ら、すごーく、おもしろがってるけどね。 こういう話、読んでる人はどうでしょうね? おもしろいのかなぁ? |
零士 |
長い時間しゃべってきましたけど、 これだけ十分に話す時間をもらえれば、 こっちの言ってることは読者に伝わると思います。 中途半端なヤツがでてくると、 「まーたなに言ってんの、この人!」と 思うかもしれませんが、 一応、僕が出てきた以上、 ここで話してることは本当のことですから。 でも、ひじょうに簡単で、当たり前のことを しゃべってきたんですよ。 |
糸井 |
そうなんだよねー。 本当は簡単なことなんだろうけど、 人はついちがう方向に考えがちですよね。 |
零士 |
だからそっちに行くのを、うまくこう、 止めてあげたいという思いが強くて……。 だから今日こうして対談してるんですけど。 「そこから先に行っちゃわないで」と、 「メールで質問してくれたことの先に 行かないで、もどってくれ」と。 糸井: “研究と書いて、どりょく(努力)と読む”。 モテたいというテーマって、 研究できるから話が広がっていくんだもんなぁ。 |
零士 |
そうなんです。 若い人は特に、自分の位置を見ておかないと、 なにげにヒツジの群れと同じように動いてるんですよ。 それよりは、ヒツジの群れを仕切る、 牧羊犬になってほしいですね。 |
糸井 |
それは、零士さんは 自分でやってきたという自信があるんだよね。 |
零士 |
あの牧羊犬もきっと責任感もってやってるんですよ。 誇りをもって。 |
糸井 |
零士さん、なんか……、 ホストという呼び方を変えたいんだって? |
零士 |
そーなんですよ。 なにか僕らの仕事を、ホストという言い方以外に……。 まあ「ホストクラブ」がありますよね、 これって水商売のなかでの 男の世界では最高の地位なんですよ。 いわば、パイロットで言ったら、 戦闘機のパイロットなんですよ。 で、ホストクラブの別な言い方としては 「ボーイズバー」とか「ホストパブ」とか、 いろいろあるんですよね。 「ボーイズバー」はちょっと暗いとか、怪しいとか、 そういうイメージを感じるんですよ。 で、僕がたどりついたのは「ボーイズクラブ」。 ……今のところ、これ以上の言葉がないんですよ。 募集したいんですよ、俺。 ホストに代わる言い方を。 |
糸井 |
でも、“ボーイズ”って言うと、 ちょっとゲイな感じがしますよね。 |
零士 |
それがあるんですよー。 だから、「ボーイズクラブ」、いいんですけど、 いまいちピントがきてないんですよ。 「ボーイズバー」って言うと、 「それ、ホスト予備軍だろ?」って感覚です。 「パブ」とか「サパー」ってのもあって、 サパ男(さぱお)って言い方の人もいますけど、 やっぱり、ホストはホストなんですよ。 |
糸井 | 呼び方については時間がかかるよねぇ。 |
零士 |
ええ。 ホストが増えていってる今、 先のことを考えると、名称を変えたいと思うんですよ。 で、僕らの世界で……、なぜ歌舞伎町で 今これだけホストが増え続けているかというと、 タテ社会だからなんですよ、基本的には。 体育会系なんですよ。 そうじゃないと、ご法度ごとが守れないんですよ。 |
糸井 |
零士さんの店のホームページで 男の人の写真紹介を見ると、 みんな坊主頭にしたら 甲子園球児の顔してますよね。 運動部の顔ですよね。 |
零士 |
わかりました? やっぱり? タテ社会、体育会系じゃないと、 秩序が守れないんですよ。 女がからんじゃうと。 |
糸井 | 目先の欲望で動いちゃうんだ? |
零士 |
ええ。 今、俺がこうやって2時間かけてしゃべってるのを 聞いてるときは、わかるんですよ。 でも、現場になったらやっぱり、走るんですよ。 |
糸井 | そうだろうねぇ。 |
零士 |
で、秩序とモラルを守らせるためには、 体育会系で縛るしかないんですよ。 30人で派閥をつくらずに、30人で店を動かす場合はね。 それが50人になったら、割ったほうがいいんです。 だから、そういう意味で、 我々はこれだけちゃんとやっているわけですよ。 まあ、もーのすごく厳しい世界ですよ。 で、みなさんが思ってるよりは、 めちゃくちゃ厳しい世界なのに、“ホスト”って言うと、 たとえば、昔、体育会系でがんばってきたお父さんが、 「なに? ホスト!?」ってマイナスイメージで言うのが 僕はすごく残念なんですよ。 そういうんじゃないんですって! 俺たち相撲部屋みたいな感じで がんばってるんですよ。 もう、めちゃくちゃにしごかれるし、 時には本当にブッ飛ばされてますからね。 仕事で酒飲んでも、ヘベレケになってても、 ミスはミスで怒られますから。 すごい厳しいですよ。 |
零士 |
僕らの世界は、すごい厳しいんですよ。 だから俺、息子ができたら、店に入れたいですよね。 手っ取り早いですから。 |
糸井 | 零士さん、結婚してないんだよね? |
零士 | してないです。 |
糸井 | しないですか? この後も。 |
零士 |
子どもはほしいですね。 息子がほしいです。 で、ホストの世界に入れちゃいますよ、一回。 半年くらい。 |
糸井 | 「いいところだからさ!」と言って入れるの? |
零士 |
いや。 「いろんなものが、よく見えるよ」と。 「人間関係がよーく見えるから」って。 「タテ社会が基本で、 ピラミッドの形がよくわかるよ」って。 どうやって上がっていけば、頂上に辿りつくかってことが、 よく見えるから、見てきな、って言いたいですね。 で、やっちゃいけないことは、こういうことだよ、って。 |
糸井 |
僕、ほかの業種に関してよく言ってるんだけど、 今まで立っていたピラミッドの三角形が、 今は倒れてきている時代だと思ってるんですよ。 |
零士 |
だから、僕らまっすぐに立ててるんですよ。あえて。 まず、そこをわかった上で、 タテ社会、ピラミッドを立ててるんです。 従来のホストのイメージってのは、 ぬぐい去れない部分で……、 あれは20世紀が生んだ産物というか、名称ですよね。 21世紀に向かって、こういう僕らのように 仕事を伸ばしていこうと思っている人間には、 ホストではない、ちがう言葉があれば……。 なんか……ものすごい訓練を受けて、 すごい最新の戦闘機を乗りこなすというか、 そういうイメージでやってるわけですよ。 |
糸井 | レンジャー部隊とか(笑)。 |
零士 |
でね、こないだ、うれしい話を聞いたのは、 田舎にいる知りあいのオジサンが同窓会に出たときに、 そこに子どもが来たんですって。中学生の。 でまあ、普通の会話の中で、 「おい、オマエ、大きくなったら何になるんだよ?」 って言ったら、 「僕、ホストになる!」 「は?」 「ホストになりたい」って。 「こないだテレビに出てた人がいて、 僕、あの人のところに行く!」って 言ったっていうんですよ。 |
糸井 | まるで、スポーツ選手みたいだね。 |
零士 |
3、4年前では、これ、考えられないことですよ。 若い男の子たちの、そういうせっかくの気持ちを ホストという名称を出しただけで、 「あー? なに言ってんのアンタ!」みたいなね、 「バカなこと言ってんじゃないよ!」って 親に言われないような、なにかを 僕らは作ってあげたいです。 |
糸井 |
それは、あれですね、 いったんちがう業態に見える店があって、 そっちの方向に全体が向かっていったときに、 見えてくることですよね。 |
零士 |
ええ。 今すぐには無理ですね。難しすぎて。 ずーっと考えてるんですよ。 だけど、出ないです、答えが。 |
糸井 | 無理やり取ってつけても、結局ダメですからね。 |
零士 |
なにか大きなものを実質的に作り上げておいた上で、 実は、昔からホストというのは厳しい世界で、 決して悪くはないんだけど、 ホストという名称はそれはそれで、封印して、 新しい名称で……なんかこう……、 夜のパイロットみたいなイメージで。 |
糸井 |
夜にはちがいないもんね。 だったら、“ナイト”もいいよね。 “騎士”という意味の。 でも、それ呼び方かえてもちがうんだよな。 まず先に新しい箱があって……。 |
零士 | 昔からのイメージからきちゃってるから……。 |
糸井 | ホストってもともといい意味の言葉だもの。 |
零士 |
呼び方だけかえても、川でいうと支流を作っただけ みたいになっちゃうから。 |
糸井 |
やっぱり実体がかわらない限り 新しい名称はなかなか出てきませんよね。 |
零士 |
みなさん、いい呼び方があったら、 アドバイスよろしくお願いします(笑)。 |
糸井 |
えー、というわけで、 かなり長い時間、モテ道について話してきました。 どうもお疲れさまでした。 いや〜、おもしろかった〜。 ためになったなぁ〜。 やっぱ、大事なのは、言葉ですね。 俺らおしゃべりだね、 ってことは、俺なれるね。 50代のホスト(笑)。 |
零士 | なれますね(笑)。 |
糸井 |
だけどさぁ、やっぱ参加してない感じあるわ。 俺、モテない光線出しまくってるもん(笑)。 |
零士 |
(笑)みなさん、ありがとうございました。 おやすみなさい! |