零士さんとの対談の一気読み。


第1夜 「顔じゃないよ、嗅覚だよ」

糸井 えー、お待たせしました。
あのー、なぜホストの零士さんと「もて道」について
対談をやろうと思ったたか、簡単に説明しときます。
繁華街歩いてると、若い男の子が
いっぱい歩いてるのを見るじゃないですか。
あれが結局なんのために歩いてるんだろうと思ったら、
要するに、ナンパですよね。
零士 もちろんそーですよね。
だいたいふたりで組んで。
糸井 そうそうそう、とくに渋谷とか新宿とか。
あれ見てると、モテることを商売としてやっている
ホストとか、タレントとかと、
街歩いてる男の子ってのは、
あまり区別がないと思うんですよ。
どんどん同じになってくる。
零士 逆にそいつらのほうがイケちゃってる場合もあるし。
あれ〜スカウトかなぁ? なんて見てると、
ただ普通に意味もなく歩いてて、
で、女の子がきたら声かけて、っていうね。
糸井 そうそう。
で、逆に言うとタレントさんは、
街歩いてる男の子たちをマネしてというか、
取り入れてる部分がありますよね。
零士 ええ、そーですね。
糸井 で、ホストさんという商売も、
俺たちが昔知ってた……、
さっき冗談で言ってたんだけど、
ラメ入りのガウン着て(笑)、
という姿とはちがって、変化してきてると思うんです。
零士 本当は今日僕は“それ”で登場しようとしたんですよ。
やっぱ白のガウンにね、片手にワイングラス。
糸井 犬飼ってたりして。
零士 ペルシャ猫ですね。
糸井 ああ(笑)。
そういうイメージでホストという職業を
見てた部分があるんだけど、
たぶんそうじゃなくなってるんだろうなぁと。
で、僕がインターネットで新聞出す前に
「どんな企画をやろうか……」って
ずーっと考えていたときに、
「男はみんなホストになりたいんだ」という、
暴言をまず吐いて、ウチの若い子を修業に出そうと
思ってたんですよ。
零士 (笑)。
糸井 で、コネクションさがして、
たとえばテレビ局でディレクターやってるけど、
一時期ホストやってた人とか、
けっこういるんらしいんですよ、あちこちに。
零士 いや、けっこういるんですよ。
あと“自称”ね。
“自称”もいるんですよ。
スナックでバイトしてた人がね、
「いや、俺実はホストでさぁ、店の名前は言えないけど」
とかって言っちゃってるやつ。
糸井 で、驚くのは、
「ホストやってました」というのが、
男が見栄をはれるネタになってるわけですよ。
昔だったら考えられないですよね。
零士 今、そういう意味ではイメージ変わりましたね。
糸井 それから、柴門ふみさんの漫画の「あすなろ白書」で、
すごくいい男が、そっちの商売に入って、
という設定もあったよね。
零士 ええ、ありましたよね。
糸井 ああいうふに見てると、
結局は、ホストっていう名前が抵抗感があるだけで、
モテちゃうことを職業にするという商売に
若い男って、なりたいんじゃないか、と……。
零士 元ホストっていうことが、
ちゃんとした形容詞になってますよね。
糸井 ですよねー。
元ホストって言ったほうが、
ひとつニュアンスが出るじゃないですか。
と考えると、「男はみんなホストになりたいんだ!」
というのが間違いじゃないんだと。学生を含めて。
零士 ただ、僕がいつも思ってるのは、
ホストって……僕はべつに
ホストにコンプレックスはもってないですけどね、ただ
「ホスト、イコール、ずるい、きたない、こわい、
 あやしい、だまされそう……」
そういうイメージあるじゃないですか。
でも、ホストやってる本人、やろうと志してる人は、
スチュワーデスの男版みたいな感じでね、
パイロットみたいに、女性を操縦してやろうという、
そういうイメージがあるんですよね。
それが一般的には
今まで約30年くらいの歴史の中で……。
糸井 ホストの歴史って30年くらいなんですか?
零士 やっぱ30年か40年くらいじゃないですかね。
糸井 いちばん古くからやってる
ホストさんというのは今何歳くらい……?
零士 いや、まだ現役がいますよ。
当時からの現役の方ですよね。
20歳からやってて、今55歳とか。
糸井 いるんだ!
零士 いるんですよ。
で、そういう人は必ず黒いんですよ、日焼けして。
糸井 ゴルファーみたいな感じ?
零士 ええ、そういう感じですね。
オールバックで、服に多少ラメ入ってて、
で、鎖のアクセサリーびっちりして、太いのを。
カフスのとこもとがっちゃって、襟も大きくて、
みたいな、そういう人が現役でいるんですよ。
で、かっこいいんですよ。
やっぱ、かっこいいんですよ。
糸井 様式美だよね、一種の。
零士 ええ、そうですね、はい。
糸井 で、最初の企画を「ほぼ日」で実現させたかったから、
その後も、いくつか心当たりをあたったんですよ。
ホームページ見ると、ホストのページって
けっこうあるんですよね。
で、お店に取材を交渉するやり方もあるけど、
僕らはコネクションがあるわけじゃないから、
ひとりでやってる人のページとか見て、
その人を取材しようと思ったの。
そしたら、よく聞いたらウソだ、って言うんですよ。
つまり、自分はホストをやってなくて、
スナックで働いてただけなんだけど、
「ホストだ」って言ったほうがお客さんが来るから。
「実は僕は作家になりたいんです」とか言うわけ。
がっかりしちゃってさぁ。
零士 そういう人は多いと思いますよ。
さっき僕が言ったように
“なんちゃってホスト”が多いんですよ。
糸井 “陸サーファー”みたいなもんだ?
零士 そうですよ。
糸井 へぇ〜〜〜〜。
零士 実際のサーファーはかっこよくなかったりしても、
陸サーファーはかっこいいやつばっかりで、
「あ、サーファーってかっこいいんだ」と
世の中の人が思い込んでるのと同じで、
よく訊かれるのは、
「ホストは顔ですか?」っていうから、
いや、「顔じゃないよ、嗅覚だよ」、と。
糸井 嗅覚!! さっそく出ましたねぇー。
太字でテロップ出したいくらいですね。
「顔じゃない、嗅覚だ!」って(笑)。



第2夜 「いや、オレは愛してるんだ、あの女を」

糸井 あの……零士さんがホストを始めた頃というのは、
まだオールバックの世界だったんですか?
零士 だったですね。
糸井 その頃は、自分としては異色だったんですか?
零士 僕が、ですか?
糸井 うん。
零士 僕がホストを始めたのは、ちょうど、
少年隊の東山くんが出てきたくらいのときです。
僕が入ったときは、くっきり二重の、
濃ゆ〜い顔の、羽賀ケンジばりの、
ああいった感じの顔がホストとしては
「ああー、いい男だ!」っていう感じでした。
世間一般でもそう思われていたけど、
その頃、「しょうゆ顔だ」なんていうような、
そういう言葉が出てきた時期がありましたよね。
そのくらいの時代ですから、
僕らみたいな顔がグーッと出てきたんですよ。
糸井 あ、顔の流行があるんですか?
零士 あるんですよ。
糸井 それはホスト業界だけじゃなくて市民レベルでも、
「この顔は今はもうアウトオブファッションだ」とか、
そーいうことになってるんですか?
零士 なってますねー。
ただ、どの時代の顔も、当時いいとされたものは、
当時の映像を見れば「かっこいいな!」って思いますね。
だから、その時代、その時代のよさを追求してるだけで、
あのときは、そういう顔が……。
「ちょっとあっさり系だね」って言われるのは、
その前の時代はほめ言葉じゃなかったのに、
「あっさり系」がほめ言葉になっちゃった時代ですよ。
今(2000年)から13年、14年前ですね。
そっから僕が出てきたんですよ、グーッと。
糸井 じゃあ、零士さんは当時、しょうゆ顔として
デビューしたんですか?
零士 そうですね。そんな感じです。
で、妙にやたら腰が低いとかね(笑)。
糸井 (笑)腰が低い!
それまでは、ホストは腰が高かったんですか?
零士 えーっとですね……、出会って次の日には
“おまえ”と呼んでる、みたいな、女性に対して。
糸井 永チャン(矢沢)系ですか?
そうではないの?
零士 そーじゃないんですよねぇ。
糸井 もっと演歌系?
零士 はい、演歌っぽいんですよ。
ブルースっぽいんですよ(笑)。
糸井 ブルージーな(笑)。
あ、そう!
やっぱ、照明は暗いの?
零士 照明は暗くって、ランプにぽーっと灯がついてて、
で、トイレ行くと妙に明るい蛍光灯がついてて、
で、その……張り紙があるんですよ。
「お客様とは、出会ってからすぐに
 おまえと呼べる仲になれ!」とか(笑)。
「怖ぇ〜」と思いながら……。
そーゆーことが従業員用のトイレに貼ってあるんです。
糸井 「出会ってすぐにおまえと呼べる仲になれ!」(笑)。
零士 「……社長より」(笑)。
それを店のホスト100人が読んでるわけですから。
100人いますからね、当時僕がいた店は。
糸井 自分はそのとき、
「やっていけないかもしれない」とか思わなかった?
零士 いや、「なに言ってんだろ?」と。
糸井 「ちがうよ!」と。
零士 ちがうと思いましたね。
糸井 でも、お客さんもホストから
「おまえ」と呼ばれたくて来てた時代なんですか?
零士 来てた時代なんです。
だから、僕なんかは、
「ものたりない」って言われましたよ、当時は。
「さっぱりしすぎだ」って。
糸井 じゃ、「おまえ」と呼ぶことの
裏目を行ったわけですよね?
零士 僕は、裏目に行きましたね。
意識的にそっちに行きましたね。
で、店にいい先輩、かっこいい先輩がいるわけですよ。
今回も読者からいろんな質問受けてますけど、
僕も同じような疑問があって……、
田舎ではそこそこ自信もあったわけですけどね。
糸井 田舎でモテてたの? すでに。
零士 僕ねぇ……あのこれ、誰でもあると思うんですけど、
好きな女の子っていじめちゃうじゃないですか。
たぶん僕はサディストだと思うんですけどね、
いじめがひどくて……その子のこと好きすぎて。
その子がイスに座るときに
画鋲ピュッって置いちゃったり……。
糸井 それ、愛じゃないねぇ、ぜんぜん(笑)。
零士 そうなんですよ(笑)。
それを愛だと自分で勘違いしてたんですよ。
「オレは愛してるんだ〜!」って(笑)。
で、向こうのお母さんも
めちゃくちゃ怒ってるわけですよ、
「なにアンタんちの息子は!」って怒鳴りこんできて。
でも、
「いや、オレは愛してるんだ、あの女を」
なーんて思いながら……小学生のときですね(笑)。
そんな感じだったんですよ。
あとは、やっぱりこう、すごい仲間意識が強くて。
友達と、向こう2人で、こっち2人で……えっと?
糸井 ダブルデート?
零士 そう、ダブルデートで、
友達がフラれちゃったりするんですよ。
すると、俺も一緒になって、
「俺もやめるよ……」って言ってる自分を
かっこいいと思ってたんですよ。
「俺ってかっこいいなー!」って。
連れを裏切れないなぁー、っていう。
そういう仲間意識はすっごい強かったですよ。
糸井 じゃ、その当時はモテてる実感はなかったんですか?
零士 ……あんまりなかったですね。
糸井 実際モテてたんでしょ?
零士 高校生になってからですね。
僕のときはちょうど“ヤンキー”の時代ですからね。
ヤンキーなんてのが流行ってて。
で、その、金八先生なんかで、
学校のガラス割ってどうのこうのと、
そういう時代ですから(笑)。



第3夜 友だちめちゃくちゃ多かったですよ



零士 ヤンキーとか、金八先生のころが高校時代で、
で、高校生になったときに、
僕、昼がお弁当だったんですよ。
糸井 いいなぁー、「零士と弁当」(笑)。
零士 学校に弁当持っていってて(笑)。
でも弁当って、2時間目くらいに食べちゃうんですよ、
もう腹へってへって。
その当時から規則正しい生活は
してないですから、基本的には。
で、なんか机の上に
弁当が1個ずつのって来るんですよ。
最初わかんなくて、なんだろ? と思って、
「ま、いいや、食っちまえ」なんて。
で、野球部の連中なんかは、
もうめちゃめちゃ腹へってるわけですよ。
糸井 零士さん、野球部だったんですか?
零士 いえ、僕はちがうんですけど、
野球部のやつらが腹へらしてるわけですよ。
野球部の連中は朝から練習してますから。
で、「この弁当、今日はいらねぇ」とかって
連中にあげると、「いただきます!」って食べちゃう。
で、パッって見ると、向こうで、女が、
こっちをチラチラ見てるんですよ。
糸井 机に弁当置いた子だ。

零士 それが何人もいるんですよ。5人も、6人も……。
「これはいったいなんなんだ?」って友達に訊いたら、
「いや、なんかおまえのファンが、
 弁当、毎日作ってるらしいよ」って。
で、ちゃんとそういう女の子の間で協定があって、
今日はだれだれの弁当を食べた、っていうのを
競ってるらしいんですよ。
「だから、おまえ好きな弁当食べていいらしいよ」って
友達が教えてくたんですよ。
僕はぜんぶの弁当の中身を見て、
それで「これ!」って選ぶ。
糸井 しーんじられない……(笑)。
零士 で、自分がおいしいと思って食べる弁当は、
だいたいどの子が作ったのか決まってるんですよ。
糸井 弁当のうまさと、
弁当をもってきた女の子への
“好きさ”は比例しないの?
零士 反比例してましたね。<
糸井 反比例!(笑)。
弁当のうまい子はあんまり好きじゃない。
零士 いーや、もーのすごい、イケてないんですよ。
そんなもんですよ。
当時「ひょうきん族」に出てた
片岡鶴太郎さんに似てる女の子でね、
今でも覚えてますよ。
糸井 片岡鶴子……。
零士 その鶴子さんの弁当がめちゃくちゃうまいんですよ。
糸井 弱ったねぇ……。
零士 弱ってたんですよぉ。
で、そのとなりに、すっごくきれいな子が
いっつも一緒にいるんですよ。
僕らのマドンナ的な女の子です。
僕はその女の子に声をかけて……フラれました(笑)。
糸井 はぁー。
零士 で、その子もやっぱり「友達にわるいから」って。
糸井 じゃあ思うようにはならないんだ?
それだけモテても……弁当がくるだけなんだ?
零士 弁当がくるだけで、いつも鶴子さんと一緒にいる友達、
マドンナ的な子を僕はいいなぁ〜と思ってて、
交際申し込んで断られましたね。
「友達はうらぎれないから」って。
糸井 高校生だった頃、弁当がきちゃう原因って、
今から思えば、なんだったの?
高校生でそんなやつはあんまりいないでしょー?
零士 ……当時ですよね。
今、分析するとですねぇ……たぶん……、
“いい意味で調子よかった”んでしょうね。
糸井 調子よかった?
零士 ええ。
友達をつくるのがうまかったんでしょうね。
ガガガガーっとこう派閥をつくってくというか。
糸井 男の友達も多くて?
零士 みんな男ですよ。
友だちめちゃくちゃ多かったですよ、僕は。
糸井 番長とかじゃないの?
零士 なんか、そういうのに首つっこんでいくほうですね。
友達が騒いでると、時代劇の岡っ引きみたいにね、
「おーっ、どうした、どうした、どうしたぁ〜!」
みたいなね(笑)。
糸井 お調子者だねぇ(笑)。
零士 もう必ず首つっこんじゃうんだよね。
小さなことを、大きくしちゃったりして(笑)。
で、自分でおさめたりして(笑)。
ボヤに自分で油そそいじゃって、
「たいへんだ、たいへんだぁ〜!」つって、
こんどは水バーッってかけて火を消して、
「どーだぁ!」ってタイプですね(笑)。
糸井 事件をつくっていくタイプ(笑)。
で、その事件のなかで印象にのこるのは自分だったと?
零士 「いやぁ〜、見事な火消しだったらしいよ、あの人は」
って、伝説になってるんですよね。
糸井 はぁ〜。
それ、場所はどこなんですか?
零士 静岡なんですよ。
糸井 気候の温暖な。
零士 そうなんですよー、静岡ですよー。
で、みんなぼーっとしてるんですよー。
で、いい人ばっかりなんですよね。
そこに、そういうことばっかり考えてるやつが
いたんですよね。
あと、男である以上、女にモテたいと思うのは
あたりまえですからね。
じゃなかったら異常ですよね。
糸井 それ、言い切るのがやっぱ重要ですよね。
零士 だって、ぜったい、モテるって必要ですよ。
モテたいと思うから、いろんなこと、面白いこと、
くだらないこと、考えるわけですよやっぱり。



第4夜 このままだとアキラのようになる

糸井 高校の頃にはもう戦略を練ってたんですか?
零士 練ってましたね。中学から練ってましたね。
糸井 中学から(笑)。
戦略ノートとかあったりした?
零士 いや、ノートはないんですけど、
「なんか、こういう時って、女って、
 こういうこと考えてんだろうな」とか、
「あの子意識して歩いてんだろうな、後ろ歩いてる俺が
 ずーっとなんかおしりのへん見てんのをぜったい
 意識してんだろうな」とか(笑)。
で、連れに実験させるんですよ。
「俺が合図したらその子の前から歩いてこい」って。
どういう顔して歩いてるか前から見てくれ、と。
目に出るじゃないですか。
そういうこと考えてたんですよ、いつも。
糸井 ガキのくせに!(笑)。
零士 で、そういうことを友達に教えてたんですよ、延々と。
駄菓子屋でおでん食いながら。
糸井 はぁ〜、へんな高校生だねぇ。
零士 へんな高校生だったんですよ。
糸井 ほかにはしてなかったの?
ナンパ系以外は?
零士 で、実際……ナンパは……。
糸井 ナンパではないんだ?
零士 僕ナンパはあんまりしなかったんですよ。
糸井 声かけたりするんじゃなくて、
ワナはって待ってると?
零士 待ってます。
糸井 今と同じじゃない。
零士 あ、同じですね。
だから、自分のことをよくわかってなければ、
きっと無駄なんだなと思うんですよ。
小さな街ですけど、駅の前にね、みんなこうやって
うんこ座りして、タバコふかして、っていうことは
無駄だと思ってました。時間の無駄。
糸井 はぁ……。
零士 だったら、夕方、女子高生が帰る時間だけ、
お約束のようにあらわれて、あとは
とっとと帰ったほうがいいじゃない、と。
そういうことを考えてました。
糸井 じゃあもう高校時代には、
「将来モテ職業に入るかなぁ」って気は
あったんですか?
何になりたかったんですか、当時は?
零士 僕はね……水商売に早くから入っちゃったんですよ。
糸井 何歳くらいで?
零士 えー、17。
17歳でもう入っちゃいました。静岡で。
友達のお母さんが経営してる居酒屋が、
パブを始めるって話だったんですよ。
で、そこの息子が……、
これがなかなかいい男なんですよ、
……あの、何人かで、男の子だけでやろうよ、と。
もともとそのお母さんが具合悪くて倒れちゃって、
じゃあ居酒屋を改装してお店新しくするからって話で。
ま、ちっちゃい店ですよ。
そこに仲のいい友達5人くらい集まって、
やってたんですよ。
糸井 17歳くらいのやつが(笑)。
零士 ええ、17、18くらいのやつらがやってたんですよ。
そしたら、今まで居酒屋だったその店が……、
田舎って土曜日も仕事なんですよ、
ヤマハの工場とかにみんな勤めてて、
白いミラかなんかに乗って職場に通ってて、
で、ピンクのハートを吸盤でフロントガラスに
貼ってるような女の子たちが、
もう、ものすっごい来たんですよ。
街中のお姉ちゃんが、そのちっちゃな店に来た。
糸井 それは、17、18歳くらいの男の子を求めて?
会いたいんだ?
零士 なんかその……会いたくて来るんですよ。
糸井 なーにそれ!(笑)。
零士 なんかねぇ、たぶん、チャンネルとか、周波数とか
相手に合わせるのがうまかったんでしょうね。
で、女の子からしたら、
会話してても周波数合わせてくれる人が
職場とかにはいないんじゃないですか。
で、ある女の子ひとりが、
「あの店行くと、よくしてくれるよ、おもしろいよ」って。
糸井 「よくしてくれるよ、おもしろいよ」
ってまた字幕、ちょっとほしいですね。
零士 で、なんにもよくなんかしてないんですけどね。
当時はね、焼酎ですね。
黒に黄色のトライアングルが流行ってて、
“25”かなんかビンに書いてあるやつですね。
それにレモンサワー入れて、
チューハイってやつですね、
あれがすごく流行ってましたね。
で、ちょっと僕らがやさしく、
「酔ってない?」とか、「大丈夫?」とか、
そんなこと声かけるだけでいいんですよ。
「あー! 今日もかわいいねぇー、あいかわらずー」
なんて。
そんなこと言うだけで、お姉ちゃん、
よろこんじゃうんですよ。
糸井 そういう話聞くとさ、はじめから才能があったとしか
思えないじゃないですか。
コツもなにも。
零士 だから……いつも考えてたんでしょうね、
女のことばっかり。いっつも。
「こういうこと言ったらどう思うのかな?」とか、
「どういう反応示すのかな?」とか、
「俺がしゃべってるの横で見といて」とか
友達にたのむんですよ。
糸井 チェックするんだ?
零士 友達にチェックさせるんですよ。
糸井 じゃ、今そういうかっこう(姿勢)してるじゃない、
そういうしぐさも、身に付いたチェックポイントの
ひとつなのかなぁ?

零士 たぶん、こう標的をねらいさだめてるんでしょうね。
自然に。
「いくぞぉー!」って(笑)。
糸井 そうなんだろうねぇ(笑)。
零士 で、僕あんまり目線はずさないじゃないですか。
糸井 ああ、そういやそうだ。
零士 で、コトバ切るときだけ、スッとはずして。
糸井 (笑)そんなの、研究してたの?
零士 してたんですよぉ!
だから、いつも鏡見ながら「あのさぁ」とか、
「俺さぁ」とかって、必ずやってたんですよ。
糸井 野球の選手が部屋に帰って、素振りするみたいだねぇ。
零士 それと同じですよ。
長嶋さんみたいに、
「バットの振りでわかるんだ」みたいな、
「俺にしかわからない感覚があるんだ」と思ってたんです。
糸井 17歳で(笑)。
零士 ただ、認められるには、これじゃいけない、と。
ちょっと言い方わるいですけど、
簡単、とか、ちょろいな、って思ってて、
このままだと“井の中の蛙”になるな……と。
そういう危険性が大だと思って。
糸井 あー、そこに満足してられないわけだ。
ミラに乗ってくる女の子には。
零士 ええ。
それで、東京の専門学校に行った友達が、
お盆休みで夏に帰ってくるわけですよ。静岡に。
そうすると例の駄菓子屋に集まるんですよ。
「すぎのや」って言うんですけど。
で、ガキの頃から集まる場所で、
おでんとかき氷を食いながら、
「東京はこうでな、ああでな」って話きくと、
「本当かそれ!?」
「すごいんだよ、オマエのやってることが
 カネになるところがあるんだよ」って。
いや、俺はカネはどーでもいいけど、
そこを制覇したい、って。
糸井 つまり、
「オマエ今のまんまでも、
 やってることがぜんぶカネになるぞ」と?
零士 そうです。
で、そいつが……、
幼稚園から一緒の友達なんですけど、
「オマエはこのままだと、アキラのようになる」
って言うんですよ。



第5夜 俺ら、ちがう意味で浮いてるよ……

零士 当時、アキラって映画があって。
「このままだとオマエ、アキラになっちゃう」
って友だちが言うんですよ。
糸井 大友克洋の「アキラ」?
ボッカーンってやつだ?
零士 そうです、そうです。
「オマエ田舎で浮きすぎてるから、
 このままだと、どんどんどんどん膨らんで、
 最後は爆発してなくなっちゃうよ。
 それを受け止められるのは都会しかないよ」って。
“都会”ですからね……トカイ(笑)。
糸井 いや、わかる。
クリスタルキングの「大都会」って歌あったでしょ。
あの大都会って、福岡のことだっていうからね。
あの歌は福岡を歌ってるんだって。
零士 そーなんですか?(笑)。
糸井 それに近いですよね。
零士 だから、これはもう都会に出るしかない、と。
糸井 都会はその大爆発を受け止めるだけのものがあると?
零士 僕はそう聞いたんですよ。
で、「俺、大丈夫か?」って。
そしたら、
「オマエ、ぜんぜん、そのまんまでイケる」って。
糸井 じゃ、自分はまだ自信がなかったんだ?
零士 ぜんぜんないですよ。
だって、知らないですよ、
都会に行ったことないですから(笑)。
だから、都会行くにはバイクで……こう、族車で、
“えびぞり三段シート”なんてなってるやつで、
“煙突マフラー”で、
「これで都会、アルタ前行っちゃっていいのかなー?」
なんて思いながら(笑)。
糸井 族車で(笑)。
零士 連れに「ちょっと東京行こうよ!」って言っても、
「いや、ちょっと、たまご積んでるトラックしかない」
とかね(笑)。
たまご屋なんですよ、そいつ。
家が養鶏場で。
糸井 おお(笑)。
零士 たまご積んでて、それをみっともないと思うより、
「そうか、たまご割れたらマズいなぁ……」って、
発想が(笑)。
糸井 いいなぁー(笑)。
零士 「たまご割れたらマズいなぁ……そーか、
 それじゃー、単車で行くかぁ!」
「いや、でもちょっと今、
 煙突マフラーが調子わるいから……」って。
それ、アルタ前で折れちゃったら、もうねぇ(笑)。
糸井 そんなもんつけるから調子わるくなるんだって(笑)。
零士 「そーか、それ外しとけよ!」なんて。
そんなようなときですから。
糸井 で、それ(その単車)で東京出たわけ?
零士 いや、それで、友達が、
「オマエそれじゃあ、沼津あたりで警察に捕まる」
って言うんですよ。
「捕まって、東京行けなくなるから」
「わかった……じゃあ電車で行こう……」
で、電車で行ったんですよ(笑)。
糸井 よかったねぇ、思い直して(笑)。
零士 それも鈍行かなんかで何時間もかけて行って。
カネもったいないから。
そしたら、いきなり、その……
今で言ったら「PIAA SPORTS」みたいな、
あんなような上下で東京に行っちゃって、
渋谷行ってもう、一発で気づいたんですよ。
「俺ら、ちがう意味で浮いてるよ……」って。
糸井 ああ……。
零士 「これはマズい!」って。
糸井 夏休みの青山とかさぁ、
いっぱいそういうのいるじゃん?
裸にスーツみたいなやつが(笑)。
零士 いっぱいいるんですよ!
糸井 あれじゃあ、本人もちょっと気づいてるんだ?
零士 あれで初めて気づくんですよ。
「……やばい」って。
最初はかっこいいと思うんですよ。
「だれもいねぇよ、こんなかっこしてるやつ」って。
糸井 だいたい二人組でしょ?
零士 俺も二人組で行ったんですよ。
糸井 やっぱり(笑)。
零士 で、そいつはちょっと当時のチェッカーズの
フミヤっぽかったんですよ。
「なんかオマエこれ軟派に見られるぞ、
 こんなかっこしてて。
 俺を見てみろ、バリっときめてんだから!」って、
とんがったクツはいちゃって、
底に鉄かなんか打っちゃってて、
カツカツ音させて火花飛ばしてて(笑)。
あったでしょ? そういう時代?
糸井 そういうやつが青山通りの歩道のないところを
よく渡ってるんだよ(笑)。
「俺にまかせろ!」みたいに。
零士 ひかれそうになっちゃったりして(笑)。
しかも迷ったタヌキが街に出てきちゃった感じで。



第6夜 バカだったなぁ、でも純粋だったなぁ



糸井 はじめて東京に来たとき、
リーゼントですか?
零士 リーゼントですね。
“クリームソーダ”ってクシ
ふところに入れて(笑)。
あったでしょ?
糸井 “ピンクドラゴン”とか。
零士 あー、ありましたねぇ!
そういう時代ですよ。
糸井 じゃあ、そこでは、静岡で通用してたものが、
「通用しないな……」って一回カベにぶち当たるの?
零士 あー、当たりましたね。
素直に認めましたね。
「あーダメだ!」って。
「俺はかんちがいしてたな」って。
ただ、それが財産だ、という感じで、
べつに恥ずかしくない。
俺は気づいたんだから、これはこれでいいんだ
、と。
だって、服ないですから、買うカネもないですから。
で、金縁でうすーい茶色のサングラスかけて、
割と顔が小さめなのに、サングラスは妙にでかいんですよ。
糸井 カマキリみたいに。
零士 そうです、カマキリみたいで。
当時、僕、体重55キロしかなかったですから、
今65キロくらいありますけど、
当時はひょろひょろで。
糸井 あの……“武器”っていうとさ、
高校生が普通に考えることだと、
バンドやるか、スポーツやるか、
どっちかじゃないですか。
まあ勉強できるってのは、あんまりモテないよね。
で、零士さん、今の3つ、どれも関係ないじゃない。
そこが不思議だよねー。
零士 ぜんぜん関係なかったですね。
だから、いいと思ったら、
なんでも食いつくんでしょうね。
糸井 例の“ガブガブ”ですか?
零士 ガブガブですねぇ。
だから、今思うと、あの時は、ちょっとこう、
顔が赤くまではならないけど、
バカだったなぁ……でも純粋だったなぁ。
本人は大まじめですから。
自信満々で東京に行って……。
今でも覚えてるのは、
渋谷のスクランブル交差点ありますよね、
あそこで、水色の上下のすっごい服着てたんですよ。
まるで、チケット売ってる……何でしたっけ?
「買うよー、あまってない?」って言う人。
糸井 ダフ屋?
零士 そーそー、ダフ屋みたいな、かっこうしてたんですよ。
それも上下、水色の服ですよ!
白のとんがったクツに。
今思えば、あれでイケてると思ってたのが、
渋谷のスクランブル交差点を歩いてて、
周りをバーッと見渡した瞬間ですよ、
「ちがう……俺はちがう……やっちまった……」。
横にいた友達を見て、
こいつはイケてるんだ、と。
糸井 フミヤ系だ。
零士 静岡に帰って、そのままそいつに
「どこで服かった?」って聞いて、
そのまんまその服屋行って、
自分なりにいろいろ訊くんですよ、
「実は、恥をかいた……、
 東京に行くのにナウいかっこうはどれだ?」って。
で、その店のお兄さんから教えてもらって、
シングルの三つボタンの茶系のジャケットに、パンツに、
スニーカーと革靴のまざった感じのクツをはいて、
かわいいっぽく、ブローチかなんかつけちゃったりして、
「ノータイで行ったほうがいいよ」なんて言われて。
で、初めてディスコに行ったんですよ。
まずは浜松で。
そして初めて、「俺は標準にもどったんだな」と思った。
で、決めたんですよ、東京行こうって。
「もう大丈夫だ!」。
糸井 早いね。
零士 早かったです。
それでサーッと行ったんですよ。
糸井 東京にアテがあったんですか?
何をやるかという。
零士 その友達が教えてくれたんですよ。
やっぱホストのメッカは新宿で、
いちばんでかい店は「愛」だと。
糸井 モテるやつが、その才能をそのまま商売にするなら、
新宿に行って……。
零士 ええ。
で、いちばんでかい店に入ったほうがいいと。
糸井 え、じゃすぐ店に入っちゃったわけ!?
零士 すぐ面接行ったんですよ。
糸井 ほかの商売なんにもしないで、
いきなり「愛」なの?
零士 そうですよ。
ただ、まあ、親父がレストランとか喫茶店やってたんで、
もともと料理好きだったんですよ。
だから外食産業やろうと思ってたんで、
自分でなんか料理したりするのは得意でしたよ。
実際やってましたから。
糸井 それは手伝ってるって感じで?
零士 親父の店だけど、
自分で一生懸命やってましたね。
糸井 それはでも、就職したわけじゃないですよね?
零士 就職してましたよ。
自分ちの店からちゃんと給料もらって、
やってました。
糸井 じゃ、「愛」に入ったのは何歳くらいですか?
零士 19歳ですね。
糸井 つまり、17歳の高校生で、
机に弁当がじゃんじゃん積み重なってるところから、
約2年で、イメージチェンジして……「愛」。
零士 「愛」です。


第7夜 わざとすべって転んで大ひんしゅくですよ

糸井 19歳で「愛」に入ることに決めて、
さて……面接です。
零士 面接行きました。
そしたら、こう、僕ら男ですからね、
もう聞いてたんですよ、「甘くない!」って。
よく、女の人と、どうこうして、
次の日にはベンツで出勤して……とか、
そういうイメージで語られるけれども、
まさかそんなに甘くないだろうなってのは、
もうわかってましたよ。友達から聞いてて。
今でもそういうことを夢見て、
ウチの店に面接来る人もいますけど、
当時、僕は現実をよく知ってましたね。
「実際はそんなに甘くはない」と。
「ぜったいそうじゃない」と。
糸井 そんな甘いはずはないんだ……。
零士 100人近くいますから、お店に。
で、もう流れ作業的なんですよ、面接が。
「はいはい、あーそうですか、はいはい、
 じゃあ明日から1週間、電話番ね」って。
で、友達とふたりで店に入ったんですよ。
糸井 簡単に入れてくれたんだ?
零士 入れてくれるんですよ、簡単に。
まあ、そこそこでしたから、二人とも。
で、入って、電話番してるんですけど、
そのときって、よーく見えるんですよね。
糸井 電話番してるときに?
零士 電話番やってて、
電話を受けることによって見えるんです。
たとえば、零士にかかってきた電話なら、
周りの先輩に訊かなきゃならない、
「零士さんって誰ですか?」って。
で、お客さんの前まで行って、
「失礼します。零士さん3番にお電話入ってます!」
って取り次ぐと、
「あ、この人が零士さんなんだな」って
まず覚えるわけですよ。
糸井 電話番をしてる裏方仕事が、すごく得なんだ?
零士 やっぱ一応、そういう下積みをさせながら、
名前を覚えさせるんですよ。先輩たちの。
糸井 よくできてますねぇ、システムが。
零士 できてるんですよ。
そこで覚えのわるいやつもいれば、
覚えのいいやつもいるし。
そういう下積みしてる間に……、
100人いれば、やっぱり派閥があるんですよ。
球団みたいな感じで。
糸井 100人もいりゃあねぇ。
零士 で、僕の派閥のお客さんには、
僕の派閥しかつかないんです。
当然、巨人のような派閥もあれば、
千葉ロッテみたいな派閥もあるし、
いろいろあるんです。
で、僕はたまたま巨人の派閥に
「おい、俺の派閥に入れ」って言われて。
派閥に入ったらもう、
店の仕事しなくていいんです、あんまり。
派閥の仕事をすればいいんです。
自分の派閥の先輩のクツを磨くとか。
糸井 組ができてるわけですね?
零士 組があるんです。
つまり、色分けされてるんですね。
で、やっぱりキャラクター似るんですよね。
自分が入った派閥の先輩を目指しますから。
糸井 あー、習っていくわけだ、だんだん。
その頃は、17歳のときに
教室の机に弁当が積まれていた頃のような自信は、
なくなってるんですか?
零士 僕はね、なかったですね。
自信がないっていうより、
覚えることがいっぱいあるんで、
覚えてからたぶんこの人たちと戦うんだろうな、と。
糸井 まだ試すことはできないわけだ?
零士 できないです。
わからないですから。
あのー、当時ね……
「人って3人集まれば、人間関係ができる」
っていつも僕は思ってたんです。
で、こいつらのトップにのし上がるには、
人をうまく区分けするというか、
こいつはこういうヤツだ、
あいつはこういいヤツだ、
こいつはツッパってるけど実際は弱いだろうなぁ、とか、
そういうことを、考えよう、と。
ずーっと、先輩のいいところを
マネして……その人が言ったギャグも、
面白いギャグだったらパクっちゃうんですよ。
で、別な先輩のいいところもパクっちゃう。
で、また別な先輩のいいところもパクっちゃう。
そしたら、俺はこの3人には絶対負けない。
3人にない最強のホストになるから。
糸井 まるで野球選手の話聞いてるみたいだね!
だって、そうじゃないですか、野球選手だって。
結局のところ、いいところをパクって、
自分が他の選手を抜いていくわけですよね。
零士 要するに4番に座るわけですよね。
糸井 そうだよねぇ。
零士 だから、その時に思ったのは、
この人たちの欠点、長所をきっちり見分けて、
長所だけをパクる
んです。
糸井 やっぱりいろんな長所を
兼ね備えてる人っていないんですか?
零士 いなかったですねー。
で、僕はナンバー1の人のグループ
(派閥)に拾ってもらったんですね。
で、その派閥も30人いましたから、
店で最大派閥なんですよ。
で、その派閥は売れっ子のホストさんばっかりなんですよ。
で、そういうなかで、
僕がアイスペールを替えたりするんですよ。
アイスペールをわざと3つくらい抱えて、
やたらバンバン動いて。
そうすると目立つじゃないですか。
糸井 働き者っぽいよね。
零士 で、わざと、床が水で濡れてるっぽいところに
走っていって、ダンスフロアで、
床が大理石ですから、すべるんですよ。
わざとすべって転んで、もう大ひんしゅくですよ。
そうやって目立とうとするんですよ。
糸井 …………それは、研究してたんだねぇ。
零士 いっつもそうなんですよ、考えてんですよ。
僕がよく自分の下のやつに言うのは、
「自分を含めて、引いた画で見なさいよ。
 引いた画をイメージしなさい」
と。
僕はそういうふうに自分で思ってたから。
糸井 客観的に自分を背中から見られるようにするんだ。
零士 そうなんです。画的に。
つまり、自分は何をやってるんだ? と。
自分を後ろから見る着眼点を探すってことですね。


第8夜 友達裏切るのだけはやっちゃいけない

糸井 うーん……こうして聞いてると、
ここまでの話って、僕が30歳くらいのときに、
矢沢永吉の取材をしたときと共通点があるねぇ。
自分の視線ってのは
ぜったい自分の目からくるんだけど、
もう1つ俯瞰で見てる視線があるんですよね。
永ちゃんの話でも、似たようなところがあるんですよ。
地元の広島ではツッパってて、
俺はがんばるからな、と言って夜汽車で東京来た。
なんで夜汽車なのか? っていうと、
夜汽車のほうがネタになる、と。
「家出といったら夜汽車だろ」って思うんですよ。
ほかの理由ってないんですよ。
で、東京に着く前に横浜でおりた。
駅のベンチにいた。
これも、そのほうがさまになるから。
で、自分の目だけで自分を見てたら、
そんなふうにはならないですよ。
「自分がどう動いてるのかな?」っていうのを
もうひとりの自分が見てるんだろうね。
零士 そうなんですよね。
なんか並行してもう一発ついてきてるんですよ、必ず。
糸井 それはもう高校の頃、
17歳の弁当時代からあったんですか?
零士 ありましたねぇ。
中学の頃からありました。
A君はかっこよくてモテてるし、
スポーツ万能で、頭もいいし……、
でも、きっとアイツ(A君)は仲間を裏切って
村八分にされるだろうな、と。

で、俺はぜったいそうはならない。
いくら好きなお姉ちゃんができても
友達裏切っちゃいけない。
その気持ちがすっごい強かったですよ。
それやったらぜったい淋しくなっちゃう。
ま、今ほど明確には画にしてなかったですけど、
心に感じてたんですよね。
友達裏切るのだけはやっちゃいけない、それはダメだと。

実際、僕がそういうふうに思ってた人で、
いまだにつきあいのないヤツもいっぱいいます。
田舎に帰って、みんなでワーッと集まって、
「Aのヤツどうしたの?」って訊くと、
「いやさ、Bが婚約してた相手と別れたの
 知ってんだろ?」
「ああ、知ってる知ってる」
「なーんかAのヤツがつきあってたんだよ」
って、やっぱ昔と同じことやるわけですよ!
糸井 そういう人は零士さんから見ると、
自分を見る目がないってことですよね。
俯瞰から自分を見る目がないという。
零士 そりゃそうですね。
「やっぱりそういうヤツだな、Aはよぉ」って。
「昔から……そういえば中1のときそういうこと
 あったじゃんよぉ」って言うと、
「あった、あった、そんなことあったわ」と。
糸井 じゃ、話をまたもどして、
「愛」に入って、100人のなかで
アイスペール3つかかえて走って、
わざと転んで水こぼして、目立って……。
零士 そうすると、お客さんに必ず聞かれるんですよ。
先輩のところについて、水割り作って、
……まあ緊張してますよねぇ。
そうすると向こう(女性)から話してくるわけですよ。
「そういえばアンタさぁ、アイスペールひっくり返して
 先輩に怒られたでしょう?」って。
「そうなんですよぉ、やっちゃったんですよぉ、
 もう忙しくてぇ」なんて。
で、その時もそうやって話題ふってもらったら、
またわざとやるわけですよ。
アイスペールかかえる。
そうするとスーツが汚れるんですよね。
僕のスーツが汚れてるからって、
そのお客さんが、ほれてる先輩に言うわけですよ。
「ちょっと、零ちゃんにスーツ買ってあげていいかなぁ?」
「おお、いいよいいよ、零士、買ってもらえよ!」なんて。
「すいません、ごっちになります!」
そういう気持ちなんですよ。
糸井 まだ二十歳まえだよね?
なーんでわかってんだろうね?
零士 そういうことが見えてくると、たとえば、
そのお姉さんは、ほれてる先輩に、実際に
いいように操縦されちゃってんだろうなぁ、
って思いながら、
先輩がよろこぶいいヘルプができるんですよ。
「ちょっとさ、アタシさぁ、零ちゃんだから言うけど、
 今ちがう店の○○さんのとこ通ってるのよぉ」
「ああ、そうなんですかぁ……。
 僕はぜったい余計なこと言いませんけど、
 ただ、そうするいじょう、きっと先輩もね、
 そういうこと聞いたら傷つきますから、
 そこはうまくやってくださいよ。
 俺ぜったい言わないですから」って言って、先輩に
「先輩、こうらしいですよ……。ただ俺が言ったって
 ぜったい言わないでくださいよ」。
で、そういうふうに、うまくうまく。
糸井 昔やってたのと同じだよね。
話大きくして大騒ぎ(笑)。
零士 そうなんですよ。で、
「俺が逐一いろいろ聞きますから。
 ただ俺が言ったってバラしちゃうと
 こうなっちゃうし、本人もいろいろ立場があるから
 それは俺にまかせてください」
って先輩に言っておくんです。
それで一生懸命やるんですよ。
「どうですか、行ってんですか? また」
「最近行ってないの……」
「でしょー。やっぱ先輩を応援してやってくださいよ。
 最近ちょっと……こう(斜めに)なってんですよ」
なーんて言いながら、俺がまた先輩に、
「先輩、こうなってるって
 言っておきましたから、わざと。
 結果がよければそれでいいじゃないですか」って。
糸井 そういうのって、嫌われるのと、ギリギリですよね?
下手したら
「オマエががたがた動いたから、
 話がややこしくなったんじゃないか!」
って言われる可能性あるじゃないですか?
零士 大丈夫なんです。
やっていることは、先輩に対しては、
「結果をいい方にもっていきましょう!」と、
お姉さんに対しては、
「お願いしますよ。
 ちょっとなんか寂しい顔してましたよ」と、
そう言ってるだけなんですよ。
で、いくら裏でいい努力をしていても、
表に出さなきゃ意味がないんで、先輩に言うんです。
「僕、こう言っておきましたから、
 いらんこと言わないでください」と。
糸井 明け透けにしちゃうんですね、
自分がやってることを。
零士 ええ。
明確にしたいからですね、きっちり。
で、僕はこのお姉さんから、
「零ちゃん、あたし一生懸命あなたのために
 がんばってあげるから」って言われても
僕はぜったいにそれを受けなかった。
「いやです」と。
糸井 守るべき筋みたいなポイントが、
いくつかあるんだ?
零士 ありますねぇ。
ちゃんとしたエリアを分けようと線を引いたら、
そこにはぜったい入らないです、僕は。
糸井 猿山みたいな構造になってるよね(笑)。
零士 そうなんですよ。
頭のなかがそうなってるんですよ。
自分の山を築くという。
糸井 そうだよねぇ。
ボス猿が絶対なんだけど、
自分も時々デモンストレーションをして、
強さを見せていくと。
で、最初は下っ端で、だんだん人気が出てきた、
という感じですよねぇ。
零士 で、そっからがまた勝負ですよ。
こんどはちがう派閥のボスと
戦わなきゃいけないんです。


第9夜 モテるやつは、タフでマメ

零士 ちがう派閥のボスと戦うってことで言うと、
「なんであの人にあのお客さんが行くのかな?」とかね、
不思議に思ったら、じーっと見て研究するんですよ。
「きっとあのホストは寝てないんだな。
 寝ずに24時間起きて、ちょこちょこいろんな人と
 お茶したりして、つないでんだろうなぁ……」と。
それで思ったんですよ。
やっぱりモテるやつは、タフでマメ。
糸井 はい、字幕(笑)。
「タフでマメ!」
零士 これに尽きる!
皆さん、うなずいてますけど……(笑)。
糸井 タフでマメ……。
たしかに、モテる以外のことでも同じですよね。
零士 ええ。
でね、タフでマメってことで言うと、
僕や糸井さんて、話しだしたら長いんですよ、きっと。
気合い入っちゃったら、わかるまで畳みかけるわけですよ。
でもね……僕は糸井さんがすごいのわかりますけど、
なんでその人の言うことがすごくなっちゃうかと言ったら、
僕が思うには、その長い話が、相手の苦にならないだけの
内容をつめた会話ができるからなんですよ。
僕らもそうなんですよ。
女を口説くときに、話を手短にパッパッパッとして、
共鳴させるなんてのはぜったい無理なんですよ。

ぜったい無理!
糸井 はぁー!
それ、大事ですねぇ!
手短に共鳴させるのは無理。
零士 ネタをばらすようですけど、
それはぜったい無理なんですよ。
今回も、ほぼ日の読者さんから
いろいろ質問していただいて……、
えー、ありがとうございます。
で、ぜんぶ読ませてもらいましたけど、
基本的には、こっちの思ってることとか、
研究してリサーチしてたことを
相手に出すも出さないもいいんですけど、
相手を納得させるには、
ぜったい時間はかかるんですよ。
トークの時間は必要なんですよ。
時間があればあるほどいいんですよ。
ただそれが、話を聞いてて苦になるヤツもいる。
苦にさせない、時間を感じさせないトークが
できるヤツが、やっぱりうまいんですよ。
糸井 今の話だと、やっぱり武器はトークでしたねぇ。
トークなんですか?
零士 トークです。
僕が思うに。
糸井 たとえば、ヤクルトの川崎みたいなホストがいても
トークがイケれば、イケる?
零士 (笑)イケますね、はい。
糸井 ことばですよね、要するに。
それは、相づちを含めてのトークですよね?
零士 僕のは表現だと思ってます。
それを客観的に見てる人が、僕のマネをして、
身振り手振りでこんなことやっても、
そんなことはどーでもいいんです。
対ここ(目の前の相手)ですから。
自分の仕草にしても、こうするよりは、
「そうだろ!」って、こうしたほうがいいとか、
いつも考えてますよ。
糸井 それが身に付くようになってくるんだ?
零士 なってきます。
糸井 板につかない人が手をやたら動かすと、
すっごいうるさいじゃないですか。
零士 下手したら、うざいですよね。
糸井 あれはやっぱり練習してないってことなんですかね?
零士 大事なのは、こう……
伝えたい!ってことです。
糸井 おおー、伝えたい!
字幕入るねぇ(笑)。
伝える前には、思ってないとダメですよね?
零士 いつも考えてなきゃダメですね。
だから、「よく寝てますよ」っていう人に、
「何人にもモテろ」っていうのは、ムリですよ。
糸井 結局しわよせは睡眠時間なんだ!?
零士 たとえば女の子に、
「今から寝るから、じゃーね、おやすみ、チュ!」
なんて電話したりして、ピッて電話切って、
普通の人はそれで寝ますよね?
……たとえば、僕は5人分、
5回電話かけるわけですから、
寝る時間が減るんですよ、普通の人よりは(笑)。
で、みんなと同じ時間にパッと起きるんですから。
だーから、「タフでマメじゃなきゃダメだ」と。
もう、これ基本なんですよ。
糸井 ほほー(笑)。
零士 トークも、ネタがつきるわけですよ。
だったら雑学の帝王になれ、ということですよね。
自分が困らないようにするために、
チャンネルの数を増やすんですよね。
糸井 雑学は……短い話がいいんですか?
雑学をあんまり追求していって、
「鎌倉時代はねぇ……」
なんて言うと、まずいでしょ?
ほどがあるよね?
零士 まずいです、それは(笑)。
自分が何気なく
「あ、それね! 知ってる知ってる」って言って、
相手にたっぷりしゃべらせて、
「あ、そーなんだぁ」
と相手を立ててあげる方法もあります。
別な方法としては、
「あ、それ、知ってるよ。好きなのよぉ」
って言って、相手には、
「またそんなこと言って、調子いいんだからぁ」
って思わせながら、そのうんちくをパーッとしゃべると、
「あ、ホントに知ってるんだ、この人……」と。
相手の気持ちって必ず目にあらわれるし、
慣れてない人でもなんとなく目でわかりますよ。
自分で「イケる」ってのは、わかると思うし。
糸井 雑学を付け焼き刃みたいに、
受験勉強みたいにいっぺんに覚えようとしても
ダメですよねぇ。
零士 だから、いつもいつも、いろんなことを
見てたほうがいいですよね。
僕の部下も今30人くらいいますけど、
「そんなことしなくても僕は大丈夫ですよ」って
言う人もいるんですよ。
「だけど、できないより、できたほうがいいよ。
 基本はそれだよ。どこまで自分で追求するかだよ」と。
僕はそう考えますね。



第10夜 “モテる”にテーマしぼりますか?




零士 読者からたくさんもらった質問のなかに、
58歳の人とか、62歳の男の人がいましたよねぇ。
この人たちって、すっごい純粋じゃないですか、
思ってることが。
糸井 そうですよねぇ。
俺もそう思ったよぉ。
零士 びっくりしたでしょ?
僕はもうこれ、びっくりしたんですよー。
糸井 思ってることをストレートに書いてくれるってのは、
やっぱりすごいですよねぇ。
「ほぼ日」も信用されてるんだろうけど、
思ってることを出してくれるだけでねぇ……。
うれしいですよね。
零士 そうなんです。
僕にも気持ちが伝わるわけなんですよ。
「この人、マジで質問書いてきてんな」と。
できれば、そういう人たちに
今回の話をわかってもらえれば……。
糸井 その人たちも「タフでマメ」って
メモ書いたかもしれないよね(笑)。
零士 はい、書いてほしいですねぇ、これは。
明日の朝から急に身体鍛えちゃったりしてね(笑)。
「丈夫になって長生きしなきゃダメなんだよ」って。
「健康第一だ!」なんて、ハチマキしちゃったりしてね。
朝、起きてきた娘にバカにされちゃったりしてねぇ。
糸井 「やだお父さん、なんなの、それ?」
なんて言われて(笑)。
零士 「え、牛乳だ!」なんて、
昨日までお茶だった人が「健康第一!」なんて、
ウーッ! って牛乳イッキ飲みして(笑)。
糸井 これからは「タフでマメだ!」(笑)。
いや〜、それでさ、
みんながモテるってことを語ってるときに、
「僕はいらないや」という人もいますよねぇ?
「べつにモテなくたっていいや」って人もいるけど、
男の人は総じて素直に
「モテてみたい」って言い方をしますよね。
零士 ええ。
じゃ“モテる”にテーマしぼりますか?
糸井 しぼりましょう。
モテ道入門ですからねぇ。
まず、『タフでマメ』というキーワードは出てると。
零士 具体的にはですね……、モテるってことには
「モテる」「モテている」「モテたい」
いろいろあると僕は思うんです。
「モテる」というのは、結果論で、
「モテている」というのは形容詞で、
「モテたい」というのは、その人の欲望、願望ですね。
で、「モテている」というのは、たとえば
お金を使ってるからモテているとか、
お金をもっているからモテているとか、
かっこいいからモテているとか、
じゃあ、そうじゃなくなったら……モテなくなるわけです。
糸井 そのとおりです。
零士 「モテる」っつーのは、ずっとモテるんです、結果なんで。
僕はそう考えてるんです。
糸井 はー、一時的なものじゃなくて?
零士 一時的にってのは「モテている」ですから。
糸井 あるいは、「モテたことがあった」とか。
零士 過去形ですね、これはもう。
糸井 若いとき友達とよくしゃべったんだけど、
「みんな人生に一度は華の時期があって、
 それが小学校で来ちゃったヤツは後が悲惨だ」とかね。
零士 そういう話、ありますよね(笑)。
糸井 だいたい普通の人は、一生をつうじて、
「あの頃はモテてたっけなぁ……」で終わりますよね。
それがずっとつながっている人が、
世の中にはいるわけですよね?
零士 だから、そういう人たちは、
いっつも女のこと考えてるんですよ
糸井 考えてるんだ? やっぱり。
零士 考えてるんですよ、ぜったい。
考えてなきゃ、そりゃ無理ですよ。
糸井 字幕入るねぇ(笑)。
零士 “考えてなきゃ無理”
糸井 つまり、俺はぜんぜん考えてないのに、
向こうから女の子がわんさかやってくる、
なんてことは、ない?
零士 たとえば、バス釣りのルアーでも、
子どもの頃釣りしてて、あるときいったん熱が冷めて、
また釣りにカムバックして、釣り道具屋行くと、
もうわかんないルアーだらけでしょ?
自分が昔持ってて、すっげー大事にしてて
「こーれはぜったい釣れるんだ!」というルアーも
なんか今じゃ釣れない気になってくるんですよ。
不安になってくるんですよ。
糸井 はいはい。
零士 そうするともう、自分の熱はトーンダウンして、
その時点で半分になっちゃうんですよね。
“継続は力なり”っていいますけど。
糸井 (笑)おお“継続は力なり”
零士 ちょっと古風ですけど(笑)。
女にモテるというのも、そーなんですよ。
モテてなくても、モテたいと思ってて、
いつもいつもずーっと
お姉ちゃんの尻を年中追っかけてると、
一応は、その時代の流れには入ってるわけですよ、
気持ちだけも。
結果は別として。
糸井 参加することに意義があるんだ?
零士 そうなんですよ! 意義があるんですよ!
糸井 場からおりてるくせに、モテたいってのは、
ずうずうしいんだ?
零士 それは無理ですね!
糸井 そーだよねー。
零士 それは俺、無理だと思うんですよ。
たとえば、俺は60センチのバスを釣りたいんだ、と。
そりゃ釣りたいと思うのは勝手ですよ。
でも、釣るには、やっぱ上手くならないと。
上手い人が釣るんですよ。
「なんでアイツは釣れるんだろう???」
それはそいつなりに、いっつも考えてるんですよ。
夢のなかでも。
糸井 考え方は釣りに似てるね。すっごく。
でも、実際に釣りするとモテなくなるんですよ(笑)。
零士 それは、そっち(釣り)に行っちゃうからですよ(笑)。
ホントに釣りにハマっちゃうとねぇ……。
糸井 つまり、魚に向けて力をそそいじゃう(笑)。
零士 釣りにハマっちゃうと、
魚が恋しくなっちゃうんですよ。
もう、魚のことばっかり考えちゃって。
夢のなかでも、釣りに行く前の晩から、
「こーのルアーに60センチのバスが
 “ガブッ”といくのか〜!」とかねぇ(笑)。
糸井 そーだよねー、俺、自分のことはっきりわかるもん。
釣りを始めてからさ、
モテるパワーぜんぜんなくなってるもん(笑)。


第11夜 それを見てる女って必ずいるんですよ

零士 バス釣りで言えば、
「このルアーさえ使えば、釣れる!」っていう
自分の伝家の宝刀みたいなルアーって
あるじゃないですか。
でも、それって意外と使わないで、
ずーっと置いといたりしますよね。
それと同じで、本当にこの言葉とか、
伝家の宝刀みたいな言葉って、
好きな女にできたら言ってやろうと思ってても、
言えないことってあるじゃないですか?

糸井 「思ってても」って……、
普通そんなセリフ考えてないよ(笑)。

零士 あっ、そうすか?(笑)
俺、しょっちゅう考えてるんですよ。
こう言おうかなー、とか。

糸井 もうすでにちがうよねぇ(笑)。

零士 だからそれはもう、
僕はずーっと参加したいと思ってるからです。

糸井 つまり、会社員が見積書かなんか作りながらでも、
女の子のことを考えてなかったら
セリフ云々はできないんですよね?

零士 できないです。
たとえば、会社のなかにマドンナが
いるとするじゃないですか、
仮にだれかとつき合ってる人でもいいですよ。
ふとひと息つくときに、
「は〜、この人はちがう所で俺と知りあって
 こう声かけたら、うまくいってるかな……」とか、
そんなくっだらないことですよ、考えるのは。

糸井 妄想するんだ?

零士 妄想してるんですよ。
で、銀座とかで、すっごいお金使って女の子にモテてる人、
つまり“今モテている”という人も、
そんなことばっかり考えてるんですよ、きっと。

糸井 でも、お金使うこととはちがいますよね、
モテるってのは?

零士 だから、参加しちゃってるんですよ
お金は参加するための切符なんですよ。

糸井 お金が切符なんだ。
値段の高ーいオペラみたいなもんだ。

零士 そうなんですよ。
行ったことない人にはチンプンカンプンなんですよ、
「なーにがおもしろいんだろ?」って。

糸井 あれもあれで、モテをねらってるんですよね?

零士 銀座にいる女性をテーマにした
自分のなかの自己満足みたいな、
そういうことの連続でしょうね。
いろーんな分野があるわけですから、世の中に。

糸井 今の話聞いてるとさ、
「参加する」ってことで言うと
“誰でも同じようにできる”みたいに聞こえるけどさぁ、
実は“素質”ってあるでしょ?

零士 “素質”は正直ありますよね、多少は。

糸井 ありますよね。
あと、「タフでマメ」や、字幕にしたほかの言葉を、
零士さんが言ったとおりに、
全部ちゃんと実行すればいいとしても、
「それは、なんかちがう……」って
考える人もいますよね?
なにが人を分けるんですかねぇ?

零士 まず、自分のオリジナルな形をわかってない人、
自分の土台がわかってない人だと、
そこにいくらいいものを乗っけていっても、
最後は崩れちゃうんですよね。

糸井 つまり、己を知ることですね。
たとえば、こーんなデカい頭の人がいたとしますよね、
そしたらまず「俺は頭がデカいんだ!」と思って……。

零士 まず思って、
「俺は顔デカいんだから、シャープで、
 わりとこうピシッとした服は似合わないから、
 自分に合う洋服を“死ぬほど調べる”」とか。
不安材料をつぶしていく、ってことですよね。
まず己を知って。

糸井 自分の弱点も知り、美点も知ったうえで、
不安な部分をなにかで解消させていくわけだ?
服なら服で、趣味なら趣味で。
で、いいところをのばしていくわけですね?

零士 ええ。
で、そういうことをしていると、
それを見てる女って必ずいるんですよ

糸井 そこが、またぁ(笑)。
“それを見てる女が必ずいる”。

零士 要するに、出会いがあるわけですよ。
それなりに出会いがあるわけですよ、必ず。
なのに、自分がイヤだと思ってる所とか、
自分はイケてない、なんかイマイチだなと思う所には、
いくら人が「行け!」と言っても行かないですよね。
「出会いがあるから行ってみなよ」と言っても、
行ったら空気が「ちがうな」と思うから行かない。
そういう人は敏感ですから。
そういう人ってのは、今までモテなかった人、
モテ方を知らなかった人。

糸井 (笑)モテ方を知らなかった人

零士 そういう人は、「あ、僕やっぱりいいや」って
スッと家に帰っちゃうんですよね、きっと。

糸井 ああー、なるほどー。
「傷つくのがこわくて恋ができない」って、
若い子の間ではいっぱいあるじゃないですか。
あれもやっぱり「参加してもダメかも……」って思うと
おりちゃうわけだ。

零士 おりちゃう。参加しない。

糸井 今の若い子たちは、傷つくことをこわがりますよねー?

零士 こわがりますよー。
だから、もうひとつ違った自分を作ったりするでしょ。
僕らなんかから見ると、
「なんかそれってオマエ、いいわけだろ?」って。
それとか、
「本当はビビってるくせに、もうひとつの自分を立てて、
 それで押してるんだよな」ってのは見えるんですよ。
「大丈夫かなぁ……」なんて本当は思っていながら、
「カンケーねぇよ!」なんて言っちゃって。

糸井 うんうん。
それはもうビジネスでも同じですよね?

零士 同じです。
で、ビジネスの形としてそれをやるのは
いいと思いますよ。
それはビジネスの“技”ですからね。
本当は自分はこうなのに、
ちがう自分をもうひとつ作っておいて、
街のなかでタッグ組んで、
たとえば渋谷をぐるぐる歩いてるってのは、
あれはあれで参加してるんですよ、アイツらは。
家で寝てたってしょうがない。
とりあえず渋谷に行って、参加してるんですよ。

糸井 なるほど、それはまだ見込みがあるわけだ?

零士 すごくいいことだと思いますよ。

糸井 モテ道からすると、いいことだよね。
だって、釣りに行っちゃってたら、もう、ねぇ(笑)。
魚しかいないよねぇ。

零士 ええ。
ただ、釣りってのは、またちょっと特殊ですからね。
あれだけ人をハメちゃうってのは、
魚に魅力があるわけですよ!
でも、釣り場でだれかと知りあうかもしれない(笑)。

糸井 ないけどねー(笑)。

零士 ただ、なんかちょっと、こうルアー買いにきてる
お姉ちゃんのとなりにわざと行って……。

糸井 あ! 店もフィールドですよね。

零士 そりゃそーですよ!
俺はそー考えるんですよ。
どこでどう会うかわからないじゃないですか。
会うべき人と会うかもしれないし。



第12夜 男と女は結局は、第三者は関係ない

零士 たとえ場所がどこであっても、
会うべき人と会うかもしれないんですよ。
で、たとえば釣り具屋で、
会うべき人とばったり会ったとすると、
その人がルアーをとろうとして、
こう手をかけたところを
「あ、すいません……」って
ちょうど手がこう重なったりして。
「あ、このルアー買うんですか?
 僕もこのルアーにはねぇ、思いでがあるんですよー」
なんて。

糸井 そう話しかけるんだ?

零士 普通の状況よりは話しかけられますよね、
その女性が釣りが好きだったら。
まあ、釣り具屋はたとえ話なんですけど、
そういうふうに、あらゆる状況を想像してて、
本当にそうなっちゃうことがいっぱいありますから。
俺はそう思ってるんです。

糸井 こう、ルアーに手を伸ばしてるのを見てから、
“あとだし”になってもいいわけだ。

零士 もーちろん、いいんですよ。
ピタッと合わなくてもいいんですよ。

糸井 いまいち自信がないと、ピタッと合わなかったら
ダメな気がしますよね。

零士 ええ。
「あ、いらんことやっちゃった」って思うんですよね。
でも、いらんことじゃないですよ。
それをやったことは、いいことですよ。
客観的に見た場合に、
「アイツは何をわけわかんないこと言ってんだ」と、
思われても、そこにいた当の本人と、
言われた相手はマジになっちゃうんですよ。

糸井 外側は関係ないんだ?

零士 関係ないんですよ! これだけは。
読者のみなさんからの質問も、ぜんぶそうでしたよ。
質問を読んでいて言えることは、
“第三者は関係ない”ってことなんです。
質問のなかに第三者は登場人物として出てこないんですよ。
私は、僕は、俺は、って質問に書いてあるんですよ。
人がどうでこうで、これは私の友だちの話なんですけど、
とか、そういうことは、まずないんですよ。
第三者は関係ない、
その人自身から見た“見方”があって、
それに対して、零士さんはどう思いますか?
という質問が非常に多いんです。
あと、年齢によってちがいますね、やっぱり。

糸井 若い人からの質問のほうが、
悲しみがこもってましたよね。

零士 そうですね、こもってます。
で、40代の女性とかだと、
私はちょっと目を細めながら物事を見られますよ
っていうのを前提にして、質問書いてますよ。
20代だと……24、25の適齢期を越えて、今26、27で、
なんとなく30歳がくるのがこわい、びびってんな、
というようなコメントの人もいます。

糸井 質問を読んでいると、
ホストという人に対する、こわい、ずるい、きたない、
というイメージからくる怖れを、
「実はそうじゃないんだ!」って
零士さんにパーンと言ってほしいみたいな気分が
全体的に感じられたんですよ。

零士 ええ、僕も読んでてそれは感じましたね。

糸井 こわくも、ずるくも、きたなくもないよ、っていうのを
本人の口から言っちゃったら、根拠なくっても、
「やっぱりそうでしょ!」ってなるような気がしますね。

零士 僕らは自分のなかにモラルがあるんですよ。
基本的には、男と女は結局は、第三者は関係ない、と。
ただし、「男としてこれは普通じゃないな」って
自分が思うことに手を出すと火傷するんですよ。
ホストでも。

糸井 それ、たとえば、どういうことですか?

零士 男女の間のことで、
なにかその状況を女の人が何も言わずに
のんでいるような状態でつきあってても、
普通に考えて、
「きっとこれは本当の愛じゃないな」とかね、
「本当は俺は好きじゃないのかな……」と思う場合は、
自分のことがわかんなくなっちゃうんですよ、結局。
自分のなかでちゃんとモラルがあるんですよ。

糸井 つまり、商売であり、職業ではあるんだけど、
その職業をささえる動機があるわけだ?

零士 あるんです、ちゃんと。

糸井 それは、どういうふうに説明するんですか?

零士 ホストはですねぇ、自分を支えてくれる女性に対して、
要するに夢を売るわけですよ

夢を売って、その女性の
明日の張りになればいいわけですよ。
で、客観的に自分を見たら、なんかすごく
自分が悪いような感覚になる時ってあるんですよ。
「なんか俺って、お金使わせちゃって悪いのかなぁ」とか。
でも実際は、その女性が、
「今日はこうでね、ああでね」って
電話をしてくることが、結局本人がよければ、
俺たちは一生懸命よくしてあげよう
って思うんですよ。

糸井 宗教のお布施みたいなもんですね?

零士 そうなんですよ。
入り込めない部分があるんですよ。
相手側の女性に。

糸井 坊さんとか、看護婦さんとか、
そういう職業に近いですよね。

零士 近い部分あるんですよ。
それを、ずるいとか、きたないとか、こわいとか……。
でも今はね、だいぶなくなりましたよ、そういうイメージ。

糸井 マイナスのイメージがなくなってきたのは、
会計制度のせいもあるんじゃないですか?
むやみにお金を絞りとられるんじゃないかという
漠然とした恐怖があった時代があったけれとも、
実はビジネスのシステムとして、
ここまでしか掛からないというのが見えてきた
というのがあるんじゃないですかね?

零士 もちろんそれもありますね。
広くマスメディアを使って、
お茶の間にも広く伝わるようになりましたからね。
僕なんかがバラエティ番組に出演して、
「そんなことないんだよ」って。

糸井 化け物じゃないんだよ、ってことはわかるよね。

零士 それは伝わると思うんですよ。
僕が出演した番組を観てくれて、
「あ、この人、これ、天然で言ってるな」とかね、
「天然で今照れてたね」とか、
「マジで顔ひきつってた」とかね。

糸井 裸になっちゃったほうが、
ビジネスはやりやすくなってるっていうことですか?

零士 そういうことです。
糸井 え、そんなにいるの?

零士 すごい集団ですよ。
バブルの頃の倍に近いですよ。

糸井 1人当たりのお客さんが使う単価が
安くなったってことはあるんですか?

零士 あります。

糸井 それは企業努力があったんですか?

零士 ……女性が、しっかりしてきたというか、
女性が強くなってきたんですね。



第13夜 こんど僕がごちそうしたいんです

零士 僕らのマイナスイメージがなくなってきて、
だから、歌舞伎町は今、
バブルの絶頂期の頃に比べて、
店の件数増えてるんですよ。
歌舞伎町のなかに5000人いるんですよ。
糸井 え、そんなにたくさん?
零士 すーごい集団ですよ。
バブルの頃の倍に近いですよ。
糸井 1人当たりのお客さんが使う単価が
安くなったってことはあるんですか?
零士 あります。
糸井 それは企業努力だったんですか?
零士 ……女性がしっかりしてきたというか、
女性が強くなってきたんですね。
男が進化する度合いを、
100メートル10秒で走るとしたら、
今女性は100メートルを5秒のスピードで、
ガンガン追いついてきて、
男が抜かれそうなんですよね。
糸井 は〜。
零士 鼻の下がのびないってことですよ。
女性はもともと鼻の下がのびないんですよ。
糸井 そうなんですか?
零士 男のほうがのびやすいですよね、デローンと。
糸井 女性たちは、ぜんぜん鼻の下のびてないんですか?
零士 さっき「夢を売るのが商売」と言いましたけど、
女性は鼻の下のばしたとしても、
一瞬でも針の先かなんかでちょっと突いたら、
シュッと戻っちゃいますね。
男は多少針でチクチク刺したって、
ナイフでブスブス刺したって、
鼻の下がのびっぱなしの人がいますから(笑)。
糸井 にやけちゃったまま
暮らしてるってことになりますよね(笑)。
零士 ええ。
でも男はそれでいいんですよ。
角がとれて。
「なんかこの人、恋してるんだなぁ」、
「恋も仕事の張りになればいいんじゃないの」っていう。
「それは男の甲斐性じゃないの」っていうことで
済まされる部分ってありますよね。
それは、今までの歴史をみてもそうですけど、
うまくバランスがとれてますよね。
女性は鼻の下がのびにくい、男はのびやすい。
だから、僕ら銀座のホステスに比べたら、
需要はやっぱ少ないですから。
それをバブルの頃の倍近くの人数に
増やしたことがすごいって
ほめてもらえることが時々ありますね。
糸井 すごいですよ、そりゃ。
零士 テレビのゴールデンに
ホストがガンガン出るようになったのは、
僕が深夜番組からスタートして、
「ガブガブ」とかっていうトークで
トキオと一緒に番組やったりしたからで、
それはそれで、ひとつの貢献はしたなぁ、
と思ってますけど。
糸井 そういえば、僕がホストのことを
もっと知りたいと思ったのは、
たしかトキオの番組だったかな……。
あれに出てたのが零士さんだったんですか?
零士 俺がやってたんですよ〜。
トキオがモテない男の人を連れてきて。
糸井 で、モテない男の人にベルサーチの服着せて、
ホストが指令だして。
「客の回転がわるくなるから、早く切れ!」とか。
零士 あれ、俺なんです。
糸井 あれ見て感動したんですよ。
零士 俺がロケバスから指令出すんですよ。
「回転率が命だから!」なんて。
糸井 あのときにすごく関心したことがあって、
お客さんと仲良くなるときに、
どんな食べ物が好きか聞いて、
「こんど僕がごちそうしたいんです」

って言ったんですよ。
零士 最初に模範を見せたんですよね、僕が。
糸井 あれはショックだったねぇ……。
「そう言ったときに電話番号がわかるんだよ」って。

零士 そうなんですよ。
だから、ああいうことも、いっつも考えてるんですよ。
たとえば、
糸井さんから、うまい飯屋に招待してもらって、
この部屋が、そのうまい飯屋だとすると、
「糸井さん、このクッション、なにげに女の子喜ぶよね?」
「この椅子って女にウケがいいですよね?」って、
そういう話をしたときに、
「あ、そうだ!」って気づくんですよ。
俺ら今までぜんぜん気にしないで座ってたけど、
そういうことも頭の中にメモっとくんです。
後日フッとこの店に来たときに、
「どう? この椅子」
「かわいいー」
「でしょ?」
そっから始まるんですよね。
そのときにはその店が、うまい店になっちゃうんですよ。
「ちょっとね、椅子のオシャレな店があるんですよ」って。
そんなこともネタになっちゃうんですよ。
糸井 は〜。
零士 「え、なに? 椅子?」
「そうなんだよ、椅子がなんかねぇ……」って。
糸井 意表つくよねぇ。
零士 そうなんですよ。
「椅子? ホント?」
「ね、行きたいでしょ?」
「いきたーい!」
「ちょっと電話番号教えてよ、電話しなきゃならないから。
 ごちそうするから。味もそこそこいいから」
これ、“そこそこ”ってものミソなんですよ。
“絶対うまい”とかって言わないんです

「味もそこそこイケちゃうのよ、これが」って。
糸井 好みがあるしねぇ。
零士 そういう、押して引いてという……。
“椅子”で押して“そこそこ”で引く。
糸井 たえず考えてるんですねぇ……。
零士 考えてるんですよ、やっぱり。
だから僕は
「タフでマメな雑学の帝王やるとモテますよ」って
言うんですね。
糸井 それはもう雑学っていうよりは……なんだろ?
零士 雑学と言ったら大ざっぱな表現ですけど、
本当は専門学ですよ。
糸井 そうですよねぇ……。



第14夜 まず自分をわかっちゃおうよ



糸井 零士さんが言う雑学というのは、
つまり、人間学ですよね。
人ってどういう時に、どういう感じ方をするか。
で、それはおそらく自分の感じ方について
さんざん研究しているというのが前提ですよね?
零士 そうです。
自分の見方ですよね。
あくまで自己中心的ですね。
糸井 自分というしっかりした定点がないと、
その目って身に付かないですよね。
零士 だから、まず己を知ってくださいと、
僕は言うんですね。
糸井 おお!
零士 ちょっとまとまりましたか?
糸井 己を知ってください(笑)。
そうですね。
零士 僕は悪く言ってるんじゃないですよ。
よく「己を知れ、オマエ!」なんて言われると、
言われた人はシュンとなっちゃいますよね。
俺はそういう意味で言ってるんじゃないんです。
「人にはいろいろあるから、まず自分をわかっちゃおうよ」
「自分をわかっちゃって、ちょっと骨ぬいちゃおうよ」と。
糸井 自分を知る、ということで昔から興味があるのは、
自分がいつもとちがう意外なこと考えてるなって
自分で気づくときってあるじゃないですか?
あれに興味があるんですよね。
たとえば、
机の上で企画していても、
頭の中だけで考えてるから、
自分が考えていることに固定されてるんです。
ところが、事件なり事故にあったときに、
「俺ってこういう時にはこう考えるんだな」って
初めて気づくことがあるわけですよ。
零士 そういう時って、
いつもとちがう考え方ができたりしますよね。
いつもの自分の考え方のパターンをどかして、
ちがう発想をしたりするのもいいですよね。
僕もそういうことをやりますよ。
「俺のパターンだとこうだけど、
 誰々さんだったらどうするんだろうな?」
とか。
きっと、ここは流しちゃうだろうな……、
じゃ俺も流そう、とか。
糸井 それは実験の数を多くすることで磨いていくわけだ?
コンピュータのプログラムの進化みたいですね。
プログラムはマシンの性能がよくなって、
テストできる回数が多くなったことが
進化させてるわけですよ。
零士 プログラマの人が寝ないで、
コンビニのおにぎり食いながら……。
でも、コンビニがどんどんできて、
簡単におにぎりが買えるようになったから
プログラムが進化したかもしれないし。
糸井 あ、そういう言い方、あるよね。
零士 昔は、家に帰らなきゃ飯食えないわけですよ。
夜中に出前なんかとれないですよ。
でも今は、コンビニで飯買ってこようって、
飯が食えちゃうから、ずーっと機械にかじりついて
プログラムのエラー探すのが
できちゃうんでしょうね。
……と、俺は思うんですよ。
糸井 そうですよね。
零士 おおもとはきっとそういうことかなと。
供給する前に需要を考えると。
糸井 それがコンピュータ業界の
進歩をうながしたと思うと、おもしろいよねぇ。
生活の全体を見て、考えていくという感じですねー。
零士 それは必要ですよね。
糸井 たとえば、女の人でも、性格があったり、
生活があったり、あるいは過去があったり、
いろいろな要素がありますよね。
零士 あ、その、“過去”といったらね、
男である以上、女の人の過去を聞いたりするのって……、
あの……やたら聞いちゃう人いるでしょう。
女性の過去って、たとえ正面に見えていても、
あえて視界のスミに置いておくような
見方がちょうどいいんですよ
糸井 え? それ、むずかしいな。
聞いてないような、聞いてるような、ってことですか?
零士 女性の過去を気にしないでばく進するんだ、
そういう姿に、女性って共鳴するというか……

女性なりの、女性だからこその信頼があるんですよね。
それは暗黙の了解だよ、と。
過去は暗黙知だよ、と。
糸井 暗黙知なんていう言葉も流行語ですよね、今。
零士 そうかもしれませんね。
過去は自然と淘汰されることなんだよ、とかね。
恐竜が絶滅していって、
あれは自然の流れの中で絶滅していって、
最後に猿が残って、
そして今、僕らがいるんだよっていう、
そういう、とんちんかんな表現も必要なんです
糸井 急に話をぶっとばすんだ(笑)。
零士 ぶっとばすんですよ!
で、また、さっきの話にもどるんですよ。
女性の過去の話を聞くにもね……って。
ちがう場所からパンチを一発入れてるんですよ、必ず
糸井 そうか!
とんでもない所から出すパンチを
どうよけるかで、その人の運動神経がわかる、とか。
零士 ええ。
左からのパンチには、フットワークがいいけど、
右からのパンチには、ガード甘くて当ってるとか。
けっこう見えてくるんですよ。
糸井 人それぞれですね。
で、人間って人のことを知りたいから、
それぞれの人を、十二支にしてみたり、
誕生日で占ってみたり、血液型だとか、
いろいろジャンル分けがありますよね。
零士さんは、そういうジャンル分けの
おおまかなものをもってるんですか?



第15夜 このタイプだけはヤバイですよ



糸井 人間って人のことを知りたいから、
それぞれの人を、十二支にしてみたり、
誕生日で占ってみたり、血液型だとか、
いろいろジャンル分けがありますよね。
零士さんは、そういうジャンル分けの
おおまかなものをもってるんですか?
零士 僕はねぇ……今の質問は、女性に関してですか?
人間に関してですか?
糸井 女性と人間で、答えがちがうんだ?
零士 僕はいちおう分けてるんです。
糸井 女性にしましょう。
零士 わかりました。
女性の場合は、
非常に攻撃的なタイプと、
普通のタイプと、
そうじゃない、どちらでもないタイプとあって、
攻撃的なタイプに関しては、
ひとつの事を適当に流さないで、
ひとつの事をつかまえたら、
畳みかけるように戦うしかないんですよ。
「そーじゃない! それはおかしい!」と。
そうすると、フッと息をつくときがあるんですよ、
そういう女性って。
僕はデータ主義なんですよ。
糸井 ID野球なんだ?
零士 その女性が人に対して
どーいうふうに自分を出しているかを見ます。
自分ってぜったい出すんですから。
糸井 攻撃的なタイプの女性が使う言葉だとか、
服だとか、そういうものってあるんですか?
零士 言葉は……「私はね」です(笑)。
あと、なんでそこまで自信満々に言うのかな、みたいな。
「私はね、あんたとはちがう、誰々とはちがう」
「私は私だから……」
で、「あんなヤツなんか何よ!」とかね。
糸井 基本的に攻撃的なタイプの女性は、
ホスト業界全体に対して、
上下関係みたいなことを考えてるんですか?
「あんたたちより私のほうが上だ」みたいな。
……とは限らない?
零士 「なによ、失礼な!」みたいなね。
ちょっと“お蝶夫人”っぽく。
糸井 “お蝶夫人”(笑)。
零士 強気に気取った感じで「フッ」なんて……、
そーいうヤツに限って
本当は「フッ」じゃないんですよ!
糸井 「フッ」じゃない(笑)。
零士 「フッ」じゃないんですよ!
糸井 なんなんですか?
零士 本当は、自分はそうじゃないと思ってるから、
そういう行動をとるんです。
僕は完全に、そう決めてかかってます。
じゃないと、その人の攻撃的な部分に惑わされちゃって、
その人の本音をつかみきれないんですよ。
本音を言わせるようにするのが僕らの習性なんですよ
糸井 まず自分で、必ず成せば成ると思ってるわけだ?
零士 思ってるんです。
で、たまに読みがちがっても
成っちゃうときもありますよね。
あと、普通のタイプは
それはそれで、わりと特徴が出てきますから……。
いちばんヤバイのが、
攻撃的でもなく、普通でもなく、
「この子はいい子だろうなぁ……」っていう女性。
このタイプだけはヤバイですよ
糸井 え、どういうこと、それは?
「いい子だろうなぁ」って。
零士 あの……保守的なタイプ。
意外と頑固なんですよ。
だから、その人の価値観をわかったうえで、
その人のちょっとした心の針を揺らすというか……。
そんなようなことを、早い段階に言わないと
糸井 え? な、な、なに?
今のはむずかしそうだなぁ。
零士 たぶん、「ホストへの質問をください」というのに、
まじめに答えてくれる人もそうなんですけど、
基本的に保守的なんですよ、自分の考えに対して。
糸井 それは慎重ということと近いんですか?
零士 本物で、なおかつ自分が本当に理解しないことに関しては、
ぜったいに受け入れないんですよ。
そういう人って人前ではすごく
「あー、そうなんですか、いいですねぇ」って感じで、
なんでも受け入れてるように見えるんですけど……。
糸井 実は頑固なんだ(笑)。
零士 頑固なんですよ。
そういう人いっぱいいますよ、
僕に質問してくれた人のなかに。
糸井 だって、俺がそうだもん。
零士 そうでしょ?
「あ、いいですねー」なんて言ってても、
あ、これはぜったいちがうな、とかね。
糸井 別に俺はいらないや、とか平気で思ってますよ。
零士 そうでしょ?
そういう人には、早い段階で……、
たとえば、そういう糸井さんを俺が口説く場合には、
とにかく時間かけちゃダメなんですよ
インスピレーションなんですよ、本当にもう。
糸井 おお(笑)!
時間かけちゃダメ。
零士 本当に、時間かけちゃダメなんですよ。
でも男ってのは、
「この人は時間かければ、きっと俺のこと
 わかってくれるな」
とかって、思っちゃうわけですよ。
でも、本当は違うんですよ。
早い段階で、ドンピシャで、
インスピレーションがお互いに閃くようなことを……、
“心の針をゆらすようなこと”を
いかに早い段階で言えるかどうかなんですよね

その女性といい関係になるには。
糸井 うわー、それ、いちばん難しそうですね。
さっき話が出た、“攻撃的なタイプの女性”より
難しいですね。
零士 難しいでしょ?
攻撃的なタイプの女性のほうが簡単なんですよ。
……隠しているものが見えるから
糸井 あ……そうか!
攻撃的なタイプの女性が
ある部分で突っ張ってたら、
その内側に弱点があるんだなって
わかりやすいわけだ〜。
その逆で、柳に風で、
逆らわず、おだやかにあしらうという
一見けっこういい人というのは、
何を守って、何が弱点なのかわからないのか……。
だから、インパクトのある表現で
早い段階でつかまえる、と。
零士 そうです。
糸井 零士さんがお店の新入りのときに、
アイスペールかかえて、わざと滑って転んで目立った、
みたいなことですよね?
零士 そうなんです。
そういうのを、何気に見てるんですよ。
でも、それを見せないんですよ、保守的な人ってのは。



第16夜 こう言ったらうまくいった、という言葉は?

糸井 いちばん難しいタイプ、
いい人系の女性を口説くときに、
“お笑い”ってのは使えるんですか?
ほぐすというか……。
零士 いい人系というのは、今言った、
保守的で、ある程度人あたりがよくて、
でも実際は頑固だ、という人ですね?
糸井 そこでの、いちばんインパクトのある表現とか、
より接近するための手法ってのは、
感動ですか? 笑いですか? 涙ですか?
零士 あの……そういう女性をですね、
自分がこう……あれするには……。
そういう女性って、こっちのことをよく見てないようで
実際は、よーく見てるんですよ。
見てないようで、見てる。
だから僕はガキの頃に、
「俺がこういう行動したら、あの女の子は
 どういう顔をしてるか、向こう側から見ててくれ」と
友だちに頼んだんですよ。
つまり、そういうことなんですよ。
難しいんですよ、基本的には。
真正面から行ったら、本音を見せてくれないんですよ。
糸井 は〜〜〜。
零士 そういう意味の事を、
僕はさっきしゃべってたと思うんです。
ガキの頃の話では、ただ漠然と、
「僕が後ろから、その女の子のことを見てたら、
 その女の子はどういうことを思ってるか、考える」
と言ったんですけど、つまり、そこまでして
考えなきゃならない相手なんですよね。
こっち側が考えさせられるほどの相手なんですよ。
非常に難しい相手なんですよ。
糸井 それこそ、商売でモテ道を追求してる人としては、
落としたくてしょうがない、という部分は……?
零士 あるでしょうね。ありますね。
でも、保守的ですから、
なーかなか心の針がゆれないんですよ。
糸井 いわば、その女性の人生観を変えさせるような
ところってあるわけでしょ?
零士 (小声で)あるんですよ……。
だからもう、ある意味、宗教的な部分というか、
なにかがないと……。
糸井 カリスマ性だ!
零士 カリスマ性です。
そういう意味でのカリスマという言葉は
いい言葉だと僕は思うんですよ。
本当のカリスマで、
その人の心のなかに入っていって、
実際にその女性のことを
きちんと理解してるわけですよ、こっちは。
会ったしょっぱなに、ポッとつかむ。
会った日のうちにもう「はい、わかってますよ」と。
糸井 それは、主にやっぱり言葉ですか?
零士 言葉でしょうね。
あと……洞察力。
糸井 洞察力(笑)。
零士 「俺は洞察力がないんですよ」って人は、
「じゃあ毎日見てろ、考えろ」
と。
糸井 人のバッティングをよく見てろ、みたいなもんだね。
ビデオに録って自分のフォームを研究するとか。
零士 ぜったい大事なことですよ。
糸井 「早い段階で心の針をゆらさなきゃいけない」というのは、
よくわからないけど、わかる気がするねぇ。
零士 そうでしょ!
時間かかっちゃダメなんですよ!
時間かけちゃうと、
なにかあと一歩入り込めないんですよ。
糸井 つまり、兄弟の関係になったら
意味がないってことですよね。
姉妹とかね。
零士 そうなんです。
で、向こうはそうさせようとするんですよ。
向こうがですよ。
こっちはそういう気はなくても。
糸井 しますよね。
で、若い男がよく失敗するのは、
女の子の仲間になっちゃって、
女同士のつきあいになっちゃう、というケースですね。
それはモテてるを越えて、
「男としては、なんでもないヤツ」に
なってるケースってありますよねぇ。
零士 あー、はいはい。
いい人で終わる、というね。
糸井 あれは、時間かけちゃったという……。
零士 時間かけちゃったというのと、
やっぱり、その、
どうも歌はうまいんだけど、リズム感がない。
糸井 (笑)。
零士 タイミングがわるい、
間のとりかたがわるいんですよ。
でも、タイミングとか、間も、
いっつも考えてやってれば見えてきますよ。
できないってのは、
どっかやっぱりズルしてるというか
怠けてるんですよね。
糸井 怠けてる?
零士 怠け者……それはいけませんよ〜。
せっかくの才能を無駄にしちゃいますよ。
糸井 は〜〜〜。
あの、たとえばの話で、
今はもう使わないセリフで、
こう言ったらうまくいった、という言葉はありますか?
零士 もう使わないセリフで……?
糸井 昔こういうふうに言ったら、
保守的な女の子の心の針がゆれて、
一気にグラッときたという、そういう言葉です。
あ! 零士さん、まだ現役で使ってそうだなぁ(笑)。
そういう言葉ってありますか?



第17夜 三手先を読め、三手先にもっていけ

糸井 昔こういうふうに言ったら、
保守的な女の子の心の針がゆれて、
一気にグラッときたという、そういう言葉……。
あ! 零士さん、まだ現役で使ってそうだなぁ(笑)。
そういう言葉ってありますか?
零士 (小声で)僕はですねぇ、あの……、
なんとなく言った言葉でいうと……。
クサイ言葉だから普段は言わないセリフですよね?
あの……意外に効果があるのは、
なんか、一緒にいて食事してても、
何もしゃべらない時間ってありますよね。
そういうとき……自分は本当に
しゃべりたくないだけなんですけど(笑)。
糸井 うん(笑)。
零士 で、逆にそのことを、そのまま言っちゃうんですよ。
「何もしゃべらないでいられるって、
 それって、そのままだから……」って。
糸井 (拍手)これ、字幕!(笑)
零士 (笑)でも本当のことですよね。
糸井 つまり事実をふたりで確認するわけだ?
零士 確認するんです、常に。
で、それを外部から「おまえ、それちがうだろ!」
って言うヤツがいくらいても、
もうシャットアウトしちゃうんですよ。
防音装置はっちゃうんですよ。
そういう、なにげに言っちゃったことで、
ものすごく相手の心に響いちゃうことがあるんですよ。
糸井 は〜〜〜。
零士 「去年の何月に、あなたこういうこと言ったでしょ?」
「え? どこで? あー、はいはい」
「本当に素朴だなぁ。
 ああ、こういう人なんだなって思ったの」って言ってる。
でも、それ、ウソじゃないんですよ。
「いや、あの時はさ、俺疲れてたんだよね。
 本当に疲れてて、なにもしゃべりたくなかったんだよね」
「いや、それ、伝わってきた……」って。
もちろん僕がご馳走に招待したわけですよ。
ちゃんとした店で、
おいしいとかなんとか言う前に、
「なんかこうやって、しゃべらないでいられるのもさ、
 それ、俺のままなんだよね……」って。
なにもしゃべってないんですよ。
糸井 (拍手)カメラマン笑っております。
ニッコニコしております(笑)。
は〜〜〜。
零士 「スーツ? これはただの鎧だ」とかね。
それは文字どおり、こんなスーツはただの鎧なんだよ、
っていう意味を、含めてるかもしれないし。
別な意味かもしれないし。
「目の前の料理なんか、どーでもいいんだ。
 この空間が、俺にとっては、
 すごく素に戻れるっていうか……違和感ないね」って。
それがどういう意味なのか、
そこまでは言ってないですから。
糸井 (笑)言ってないのねぇ、
相手の解釈で決まるのねぇ。
零士 でも、ウソじゃないですから。
本当に疲れててしゃべりたくないんですから。
糸井 あのさ……こんなに言っちゃっていいの?
零士 あ、いいですよ。
糸井 あ、そう……。
零士 ええ。
最近それに加えてるのは。
こう……無心っていうか。
糸井 無心(笑)。
零士 「無心になれるってのは、いいよなぁ」って。
糸井 俺、今気づいたんだけど、
それって、倦怠期の夫婦を演じてるんですよね?
先の先のことですよね?
零士 だから、僕らはよく
「三手先を読め、三手先にもっていけ」と言って、
間の1つ、2つをとばしちゃってるんですよ。
とばして三手先に行ってるんですよ。
糸井 そうだよね。
零士 だから、難しい相手のときに、会って早い段階で
「もう君のこと、わかってますよ」っていう流れに
もっていくってのは、そういうことですよ。
糸井 たーめになるなぁ〜。
零士 でも、あれですよ、
今回、これだけ対談の時間をとってもらったから、
みなさんに伝えられるんですよ。
これ、10分や20分の話じゃ伝わらないことなんですよ。
難しすぎて。
糸井 みんなさ、テレビとかだと時間短いから、
キャッチーなひと言が欲しいじゃないですか。
でもそれって、言ったらおしまいで……。
零士 ビールの泡をシャンパンの泡に変える言葉みたいに、
短くてパーンという言葉を
メディアは求めてますよね。
糸井 それはもうダメなんですよね。
零士 本当はダメなんですよ。
で、僕はテレビに出たりすると、
あえてみなさんにわかりやすいように……、
つまり、ホストに対するモヤモヤしたイメージを
吹っ飛ばしたいがために、
ちょっとコミカルで、
ちょっと古風なことを短時間の枠でやるしかないんです。
テレビとかは、時間の尺が決まってますから。
短めに。
糸井 テンションの高い露出ですよね。
で、零士さんの話からいろいろ拾えるんだけど、
テレビのことを「古風なこと」って、
一発で言えちゃうのも、センスだよね。
テレビは古風ですよね。
零士 古風ですよー。
古風なことをやるしかないんですよ。
それも、決まった尺度の短い時間で
パーンと行くしかないんです。
糸井 それ、テレビ局の人は案外気づいてないと思う。
テレビを“今”だと思ってるよ。
零士 いや、あれはちがいますよね。
“今”じゃないですよ。
糸井 古風ですよね。
零士 古風です。
“今”ってのは、今話してることですよ。
これは現実に進んでることですから。
いつも“今”なんですよ。



第18夜 見たら、フッと目線外すんですよ

糸井 零士さんと話をしていて、
どこか近いものがあるような気がしますね。
つまり、人と人っていうのは、
理解するのが本当に難しいんだ、と。
最終的には、人が人を理解することは
ありえないかもしれないくらい難しい
、と。
で、「その実感を前提にしてコミュニケーションしたい」
というのが僕の考え方なんですよ。
だから「みんながわかってくれますよね」ということを
前提にしてコミュニケーションした場合って、
よく例えるんだけど、
「大学祭の焼きそばみたいなもんだ」って言うんですよ。
つまり友だちが出店の前を通りかかったときに
「おう、焼きそば屋やってるから、来いよ」って言ったら
「これ、まずいなぁ」って言っても食べてくれますよ。
でも、本当は人間と人間て、知らない人同士だから、
まずかったら来ないんですよね。

零士 そうなんですよ。

糸井 で、そのことを知ったうえで、友だちに対して、
「本当にうまい焼きそば作ったから食っていけよ」って
自信たっぷりに黙っているというのが、
コミュニケーションの最高のありかただと思うんですよ。
だから、それは昔から伝統的にあるんだけど、
寒い日に外に出たときに、
田舎でじいさんとばあさんがすれ違って、
「寒いですねぇ」って言うじゃないですか。
ぜったい寒いに決まってる日に、
「寒いですねぇ」って言ったら、
相手も「私もそう思う」「本当に寒いですね」って言う
じゃないですか。

零士 ええ。

糸井 すれ違って、ひと言話しかけるだけで、
さっき零士さんが話してくれた
「こうして黙ってるって状態もね……」っていうのと
同じ効果があるんですよね。

零士 ええ。
田舎の道端で、そういうふうに
言葉を交わした人たちはきっと、
カギも閉めないで家を出てきて、
じいさんの家のヤカンはどこにあるかを
知ってるような感覚まで、
一気に持っていっちゃってるわけですよ、スパーンと。
実際はじいさんの家に行ったこともないのに。
なんとなくそのくらいまでよく知ってる、
田舎町で、のどかで……、
そんな部分に持っていってるわけですよ。

糸井 それはさ、今の話聞いてて思ったんだけど、
女もその手は使ってるね。

零士 いや、女はもともと使ってるんですよ。

糸井 あ、そうか!

零士 女性は鼻の下が伸びないから、
正確にその手を使ってるんですよ。
たとえば、読者からいただいた質問メールのなかに
「私は今まで想った意中の人をだいたい落としてきました。
 で、その3人くらいのうちのひとりが今の旦那です」
というメールがあったんですよ。
で、この人の方法として、
「私はね、会社の食堂で意中の男の人を
 ずーっと見てるんです。けっこう効果あるんですよね」
って書いてあります。
そういう使い方をしてるんですよ。
でもね、これは……、
質問のメールをくれた人、ごめんなさいね。
これは、あくまでも、素人さんの究極なんです。

糸井 おーっとっとと(笑)。

零士 これね、プロの女になってくると、
相手がこっちを見るまではずーっと見てるんですよ。
で、見たら、フッと目線外すんですよ。
外しのサブリミナル効果なんですよ。目線の。

糸井 “外す”っていうのは、
どういう意味があるんですか?

零士 要するに目線をフッと外すわけですけど、
このメールをくれた女性は、
「ずーっと見てた」って書いてるんですよね。
「けっこう我慢してジーッと見てる、
 これってけっこう効果あるんですよ」って書いてある。
それは効果、ありすぎちゃうんです!
濃すぎちゃうんです!

糸井 濃すぎる(笑)。

零士 プロは……、
プロとしてパツンパツン行ってる女は、
男が目線感じて、あれっ? って思って、
なんか女の方をフッと見たら、
もう目線外されてて、なんか見てなかったような
気がしちゃうっていうか……、
そういうふうに持っていくんです。
だから、さっき言ったように、
三手先までもっていっちゃうんですよ、その方法で。

糸井 …………(笑)。

零士 ずーっと相手の男を見てるっていう方法だと、
1が始まって、2が来てるんですよ。
そうじゃなくて、ずーっと見ててフッと外すと、
いきなりボーンと飛んでっちゃうんですよ。
目線外された男っていうのは、
「あれ? なんかこっち見てたかなぁ……?」って
いきなり3が始まっちゃうんですよ。

そこまで計算できる女がいるんですよ。

糸井 はぁ〜〜〜。
ただ、それを理解できる女の人ってのが
少なくなってるんじゃないですかね? もしかしたら。

零士 いや、今の話は、
女が男に使う場合です。
女は使ってるんですよ、昔からずっと。

糸井 なるほど。
つまり、男ってのは鼻の下伸びやすいから、
女からの目線も感じるし、外されたことも気づくから
その方法が成り立つわけですね。
男は気づくんですよ。
だけど、今流行りの
アメリカの青春ドラマみたいなタイプの男女だと、
けっこう難しいテクを使ったところで、
相手がそれに気づいてない、ってこと、ないですかね?
とくに、男が女にその方法を使う場合は。

零士 あ、男が女に使う場合ね。
これはきっとねぇ……。

糸井 どんどん鈍くなってますよね。
ファーストフード化してますよね。

零士 そうそう、もーのすごい鈍いですよ。
めーちゃくちゃ鈍いです。
だから、前に話したように、
男と女では進化の度合い、スピードがちがうんで、
女性の進化のなかで生まれてきた女性のテクニックと、
男性の進化のスピードで認められてきた技とは、
やっぱり異ってるんですよね。
これは一緒じゃないですよ。

糸井 だって、たぶんね……
いろんな質問のメールを読んだんだけど、
本当にいちばん困ってるのは若い男の子だと思うんですよ



第19夜 本当はどうしたいんだってことですよ

糸井 本当にいちばん困ってるのは若い男の子だと思うんですよ
アッシーだ、メッシーだという時代があって、
あの頃から“口説く側は不利なんだ”ってことを
身にしみて知らされてるわけですよね、若い男は。
「好きになってフラれたらどうしよう」という以前に、
「好きになる側って必ず自分だ」って思ってますよね。
あそこで勇気がどんどんなくなっていって、
結局のところ「女なんてどーでもいいや」って……。
零士 そうそう。
とか、「別にいいんだよ、あんな女は……」なんて。
いや、よかぁないって!
俺にしてみたら、そりゃ、よかないよ! と。
自分がきっちりねらいを定めた以上、
たとえば、マグロ釣りに行ってカツオ釣れたんじゃ、
そりゃ、よくないんですよ。
「いや〜、カツオは旬だからねぇ」って……。
糸井 後から言い直すしかないよねぇ(笑)。
零士 「カツオは旬だからねぇ」って言っても、
でも、おまえ、マグロ釣りに行ってんだろ? って(笑)。
カツオ釣れちゃっても、意味ないわけですよ。
それを、ちゃんと自分のなかで……要するに
「己を知ってくれ」ってことなんですよ。
本当はどうしたいんだってことですよ。
別に第三者は関係ないですよ、
今しゃべってる僕だって客観的に言ってるだけですからね。
いわば、第三者なんですよ。
でも、自分のなかで、マグロとカツオを
ちゃんとわけてほしいっていうか……若い人は特にね。
それでね、いろんな質問メールを送ってくれた中に、
40代、50代の男の人がいるんですけど、
この人たちは、実は意外とよくわかってますよ。
本当はわかってるんですよ。
たぶん俺が思うに、
「本当はわかってるけど、わからないふりをして、
 ここんとこ零士に訊いてみよう、ホストに訊いてみよう」
という部分ってあるんですよ。
糸井 おもしろがってるよね。
零士 ええ。
よくわかってますよ、本当は。
この対談で僕の本音を聞いて、
「やっぱりそうだったか!」と思って、
また明日、元気に会社行ったり、
息子さんと接したりしたいんでしょうね、きっと。
そうだと思うんですよ。
糸井 一方で、若い子は……。
零士 若い子は、本当にわかってないですよ、これ。
本当にビクビクしてますよ。
糸井 自信がものすごくないですよね。
零士 ないですねー。
糸井 自信って……、
僕は格闘技の選手と親しいんだけど、ある選手が
「ほとんどの苦しい練習は、自信をつけるためだけだ」
って言うんですよ。
「この練習をやってるから俺は大丈夫だ、って
 自信をつけるためだけに、
 苦しい練習をぜんぶ我慢できる」って言うんですよ。
で、力が拮抗してる相手と試合で戦う場合は、
自信が相手より上回ってないと、動きが遅れるんですって。
だから、
「好きな女の子にフラれるんじゃないか……」
「俺はダメなんじゃないか……」と思いながら、
女の子を好きになっちゃった男って、
絶対的に自信がないですよね。
零士 ないです。
糸井 それは、どーしたらいいんですかね?
零士 俺、その考え、すごくね、
わかりやすいっていうか、よくわかるんですよ。
その……、
自分の不安材料を消すことによって強くなるというのは、
本人の操縦性はなくなるんですよね、きっと。
自分自身を操縦するっていうか、
コントロールする部分で、機能的には低くなりますよね。
糸井 ああ……なるほど。
零士 俺なんかは逆に、弱い部分は弱い部分で、
もうあんまり手をつけないで、
いい部分だけで勝負していって、
ガンガンガンガン行って、
それで相手をぶっ倒しちゃうという。
俺はそういう方法をすすめます。
糸井 たとえば、左フックが得意で、ガードが苦手だったら、
相手に打たせておいて、左フックを一発だけ
入れさせていただくと?
零士 ええ。
ガッツンと入れていく、と。
もし、不安材料を消すことによって
自信をつけたとしても……でも、そいつが本当に
怖がってるヤツってのは、きっと、
今言ったパターンのヤツなんですよ。
左フック一発ねらいで、ガーンガン来るヤツってのは、
やっぱ怖いですよ。
糸井 はぁ〜〜、じゃ今の男の子たちがまちがってるのは、
箇条書きのチェックリストを作りすぎてる部分ですか?
零士 作りすぎてるんですよ。
むしろ逆をやらなきゃ。
だから、どれも同じに見えちゃうんですよ。
サイボーグみたいに。
糸井 そうそう……。
零士 だからなんか「あれ? なに君だっけ?」って
マジでわからなくなっちゃうんですね、こっちも。
糸井 たとえば、どこで食事するといいだとか、
どういうクルマが好きだとかっていうのを
いわばマーケティングしてるわけですよね。
「これだけ準備が万全だから、俺はモテるはずだ」って
「せーの!」で口説きに行っても、
そんなものは、ほかの男もやってるから、
ひとつ抜けられないんだ?
零士 たいしたことないんです。
ひとつ抜けてないんです。
ボクサーで世界チャンピオンになった人で、
よく会う人と話をしていて、
「零士、おまえ……チャンピオンってさ、
 負けるときって、どういう時か、知ってる?」
って聞くから、
「いや〜、やっぱそれって、あれでしょ、
 ちょっと力が衰えたときとか、
 練習しなかった時でしょ?」って言ったら、
「逆だ!」って言うんですよ。
糸井 練習しすぎた時!
零士 練習しすぎた時なんですよ。
チャンピオンであるはずの自分が
手負いの狼になっちゃってる時なんですよ。
現実は、ぜんぜん手負いの狼じゃないんですよ、
チャンピオン、キングなんですから、
だれよりもぜったい強いんですよ。
ランク的には、自分より上がいないんですから。
でも、結局、下から上がってくる、
本当の手負いの狼みたいなヤツが
食いついてくるのが怖くて、
練習をしすぎてオーバーワークでダメになる、
って言うんですよ。
糸井 辰吉選手もオーバーワークだったらしいよね。
零士 そうなんですか。
ま、僕は彼に会ったことないですけど。
で、そのチャンピオンだった人が
「優秀なトレーナーってのは、
 選手をいかにリラックスさせて、
 いかに練習させないか、ってのができる人だ」

って言ってましたね。
糸井 字幕出るねぇ〜、バリバリに(笑)。
零士 出てますねぇ、今日は。
で、俺が、
「あ、そうなんですかぁ……、
 だいたいみなさん、そうなんですか?」って訊いたら、
「ほとんどそうだ!
 よほどのアホじゃないかぎりな」って。
 


第20夜 もう得意のアレで行くしかないですよね



糸井 たとえばさ、だれか女の子を好きになった
A君というモテない男の子がいると。
で、A君の友だちはぜったいにさ、
「オマエ、それじゃダメだよ」って言って、
「クツを替えろ」だの、「髪形を変えろ」だの、
いろいろうるさいことを言いますよね。

零士 そうそう、それなんですよ。
それがダメなんですよ。

糸井 あれで、A君が潰れるわけだ。
オーバーワークしちゃうんだ。

零士 潰れるんですよ。
ただ、そりゃあチャンピオンを目指すというか、
女にモテたいと思う以上は、多少はね……、
わざとクツや髪を汚くしとくヤツはいないですから(笑)。

糸井 臭い靴下とかね。

零士 消臭スプレーじゃなくて、
わざと悪臭スプレー吹くヤツはいないんですよ。
「こーれ、いい臭い出るんだよ、臭ぇんだコレ」
なんてね(笑)。

糸井 「俺だけの臭いだ」なんて(笑)。

零士 そーんなヤツはいないんですよ(笑)。
だから、そこらへんを、あんまり考えすぎても……。

糸井 そうだよねぇ。
まあ、清潔感だけは必要だね。

零士 それはぜったい必要ですよ。
飯だって、多少は洗ったとわかる皿に乗ってないと。
皿に口紅かなんかついてたら、そりゃイヤでしょ。
うまいのはわかってても、ちがう部分で
引いちゃうってのはあるじゃないですか。

糸井 じゃあ、ベースに必要なのは、
昔から古典的に言われているように
清潔感だけは、まず維持すると。
それから、相手がどういう女の子かということと、
自分がどういう男かということを、知る。

零士 相手と自分をよーく知らなきゃいけないです。
いくら素晴らしいナビゲーションシステムを用意しても、
衛星との距離がきちっとしてないと、
海の上走っちゃうことになりますからね(笑)。
ちょっと昔のカーナビとか。
「なーんで俺、海の上にいるんだよ、おい」なんて(笑)。
「なんで太平洋の上走ってんだよぉ〜」って。

糸井 じゃ、さて、
もう一歩、むずかしくします。
相手のことをA君が考えて、
そのリサーチでは、
「自分は相手に好かれない」という立場になっちゃったと。
どう考えても、相手の女の子が今までつきあってた男は、
みんな自分とはちがう、と。

零士 たとえば、自分よりすごい上のヤツだと。

糸井 そうそう。たとえばね。
そういうケースなんかは、キツいですよね、また。

零士 それを打破するってことですか?
それこそ、もう得意のアレで行くしかないですよね。

糸井 左フック!

零士 左フックですよ!

糸井 幻の右とか(笑)。
……それこそ(笑)。

零士 もう、死角から後頭部直撃みたいなパンチで。
ボカーンと!
ただ、それは、マグレじゃないんですよ。
自分でちゃんとそれをねらってるわけですから。

糸井 俺、こないだね、詩集を出したんですよ。
そのなかに、なんとなく自分で
気持ちが乗って書いた詩があって、
「豚の丸焼き背中にかついで」っていう詩なんです。

零士 (笑)。

糸井 女の子の家に、野を越え山を越えて、
ブタの丸焼きを担いで、
食べてほしくてやって来て、
で、女の子がいなかったんで、帰ります、
っていう詩なんですよ。
これね、なーんで書いたんだかわからないんだけど、
ちょっとカッコいいんですよ。俺にとって。

零士 いや、わかります。
左フックですよね。
だから、今糸井さんが言ってるのは、きっと、
さっきのボクサーの話で言っても、
「完璧にするということは、逆にそれは、
 完璧にした時点で、本当の手負いの狼に対して、
 自分が手負いの狼になっちゃうんですよ」って
ことなんです。

糸井 ああ……。

零士 恐怖心を振り払いながら、
あえて自ら得意技1本で挑んでくるヤツに対して、
本来なら勝てるにもかかわらず、
半端に完璧にしようとして
形をこじんまりまとめすぎちゃって、
それで、やっつけられちゃうんですよ。きっと。

糸井 つまんないルールの試合に消耗してる、と?

零士 そうなんです。
そこにハマっていくんでしょうね。
で、相手のパンチが当っちゃうところに、
自分からわざわざ回り込んじゃうんでしょうね、きっと。
それで、ドカーンとパンチ食って
やられちゃうんですよ。
俺、そうとしか考えられないですよ。

糸井 でも、ほとんどの今の若い男の子って、そうでしょ?
で、だんだんと試合さえしなくなりますよね。
まだ今日は練習が足りてないから、
試合はまだやらないんだ、とか。

零士 練習だけして、チャンピオンベルト巻いて
家に帰っちゃうんですよね。
しかも、自分で勝手につくったチャンピオンベルト。
非公認の(笑)。
「そんなチャンピオンベルトはないだろ?」みたいな。
自分だけのベルトして帰っちゃうんですよ(笑)。
試合しないで。

糸井 そーだよねぇ。

零士 俺、そう思いますよ。
だから今言った、その……
本当の手負いの狼的な部分が
なくなっちゃってるんですよね。
もっとあっていいと思うんですよ、俺は。



第21夜 相手の女性に自慢させるんです

糸井 本当の手負いの狼的な部分ってことで、
たとえば零士さんだって、
10代の頃とんちんかんな格好して、
東京に出てきて浮きに浮きまくってた話を
平気でできてるじゃないですか。

零士 ええ。

糸井 それ、若い子、できないですよね。

零士 たぶん、できないでしょうね。
当時の僕は大まじめで行ってたんですから、東京に。
でも、浮いてることに自分で気づいて、直して……。
でも、その経験はエピソードとして
自分に誇りをもっていて、
「だから今があるんだ」っていうね。
だから、さっきちょっと出た話で、
“難しい相手”に遭遇しても、
その時こそ自分の得意技で行くしかないですよね。
あえて、まとめる必要ないですよね。

糸井 でもさ、自分の得意技がなんなのか
自分が知ることって、
本当はなかなかできないですよね。
むずかしいんじゃないかなぁ。

零士 だからいつも
「自分はなーにを考えてるんだろう?」
「自分はどれだけ異性のことを考えてるんだろう?」
とか、考えるんですよね。
「考えちゃいけない」って決まりないですから。
「私いっつも、男のことばっかり考えてるのよね」とか、
「俺っていっつも女のことばっかり考えてるんだよ」と。
それって悪いと言えることじゃないですよね。
はっきり言って、
「ああ、すごくいいんじゃない!」って、思う。

糸井 実際に、若いときなんて、
そればっかり考えてますよね。
俺、そうだったもん。

零士 そればっかでいいんですよ。
変にまとめなくていいんですよ。
で、若いうちからうまくまとめようとしたヤツは、
だいたい、そうですね……25歳で、
もう昔話始めちゃうんですよね。

糸井 はぁ〜〜〜。

零士 「俺が若いときはさぁ……」って、
オマエまだ若いだろ!って(笑)。
「昔は渋谷センター街でブイブイ言わせちゃって、
 まあ、当時はねぇ……」って、
オマエ、それ最近だろ!
「当時、俺の名は通ってたよ」なんてね(笑)。

糸井 そういう子、店の面接に来ますか?

零士 来るんですよ。

糸井 そういうとき、零士さん、なんて言うの?

零士 いや、もう、だいたいそういう人は……、
夢を語ってて目が爛々としてるんだったら
いいんですけど、
もうだいたい死んだ目しちゃってるんですよ。

糸井 はぁ〜〜、終わってるんだ?

零士 たとえば、僕が昔話をしても、たぶん、
目が爛々としてると思うんですよ。
「昔やったことは今の自分のルーツで、
 これからもっと行くんですよ!」
という感じが相手に伝わると思うんですよ。
でも、そうじゃない昔話をするヤツには、
「だからなに?」ってなっちゃうんですよ。
女性はもっとすごいです。
「俺って昔さぁ、ああで、こうで……」なんて
自分だけ楽しくて、自分だけウケてるような
そんな話を男が女にしても、
女は「だからなに?」で終わりっていうね。
その時点で、まあ10歩のうち、6歩、7歩は
引いちゃいますよ。

糸井 そういえば、しないほうがいい自慢話をして
失敗するヤツっていっぱいいるよね。

零士 いっぱいいるんですよ。

糸井 自慢話ってのも、ひとつキーですよね。

零士 俺がよく使うのは、さっきの話題で言うと、
自分より上に見える男とつきあってきた女に対しては、
「俺は、こんななんだけど」ってことを
まず最初に明確に示すことですね。
「わぁ素敵……」って思うんですよ、人間として。
「俺はこんななんだけど、こういうことが好きだよ、
 こういうことができるよ」って言う。
それって誇りですからね。
自慢も、誇りのある自慢もあるんですよ。
なんか立証できないような、ただのへんな自慢話とは、
ぜんぜんちがいますからね。

糸井 ああ、「カネ持ってるぞ!」とか、
「クルマいいの乗ってるぞ!」とか……。

零士 そういう話にしても、
「僕はこのクルマが好きだから……、
 このクルマ高いかもしれないけど、そうじゃないんだ。
 僕が乗ってるこのクルマには、こういう歴史とか、
 思い出があって、それで大事にしてるんだよ。
 あなたにとって、そういう物ってない?」って訊く。
相手の女性は、話し始めますよね。
だから、自分だけ自慢するんじゃなくて、
相手の女性に自慢させるんです

糸井 はぁ〜〜。
相手に自慢させる面積を残しておくんだ?

零士 そうなんです。
だから、自慢話をするには、自分に誇りがあって、
相手にも誇らせなきゃいけないんです

誇りがあるはずなんです。
それを自分だけが言うと、
「そんなもんアタシはないわよ!」とかね、
「自分の自慢話ばっかりして!」ってなるでしょ。
なると思うんですよ。おそらく。
だったら、女に言わせないとダメですよ、自慢話を。
たとえば、僕ら若い世代にとっても、
なんか、そういう物ってあるでしょ。
たとえば、フェラーリに乗ってたとしても、
「みんなフェラーリ、フェラーリって言うけれども、
 実は僕はこのシフトレバーが好きなんだ、これが。
 このアルミのシフトレバーが好きなんだよ」と。

糸井 俺は焼き肉ではレバーが好きだ!

零士 ……(笑)。
「でも、クルマなんかまあいいじゃん、なんちゃってー」
なんて自分からアホなこと言って。
で、自分の核の部分を明確に示しておきながら、
相手の誇りとか、自慢話をしゃべらせるのもいいし。
やっちゃいけないことって、ないと思うんですよ、俺。
でも、それなりにちゃんと裏付けがないと、やっぱり。

糸井 けっこうまともな話ですねぇ。

零士 まともなんですよ。
いい加減に考えてるんだったら、
最初からいい加減にしてたほうがいいですよ。
中途半端はよくないですよ。
マニュアルどおりは、いい加減ですよ。
自分で考えてないですから




第22夜 言葉なしで仕草でできちゃうヤツ

糸井 そういえば、一時期さぁ、
ホットドッグプレスとかでさ、
「どうやって女の子とつきあうか」とかさ、
マニュアルがありましたよねぇ。
零士 でも、最近なくなったでしょ?
糸井 あれ読んでたら、男の子はどんどん辛くなりますよね。
零士 だって、たいていは、ほとんど
「こんな事だれでも知ってるよ〜」
って内容ですよね。
糸井 あれは、要するに雑誌つくってる
編集者が考えてることだからね。
零士 そうですよ。
だいたいプロがそんなマニュアルなんて
しゃべってないですから

で、ああいう記事を書いた人は、
その時点ですでに二番せんじ、もしくは三番ですよね。
で、それを読んだ男の子は四番、五番なんですよね。
そんなのだらけなんで、失敗したときのショックが
余計に大きいんですよ。
ぜったい失敗しますよ。
100パーセントですよ。
糸井 零士さんから見て「こいつはイケるな」という
男の子を見つけるときって、何が基準なんですか?
零士 僕が「こーいつはモテるだろうな」って思う人ですよね?
ま、僕とちがうタイプで、よく見るというか、
なるほど、こういうパターンもあるんだな、と思うのは、
“わりとソフトなんだけど、
 相手をこう……言葉だけでない雰囲気で、
 うなづかせるヤツ”。
糸井 そんなヤツがいるんだ?
零士 やっぱ、いるんですよねぇ。
糸井 トーク、なし?
零士 トーク、あんまりなくて……、
あのね、僕にはちょっとできないことなんですけどね、
そういう人って……相手とパッと合うんですよ。
で、さっき僕は、1の段階から一気に
3にもっていっちゃうと言いましたけど、
それを言葉じゃなく、
態度でできちゃうヤツがいるんですよ。
僕は言葉で持っていくって言いましたよね。
「こういう、何もしゃべらないでいるのも、
 これって、俺なんだよ……」というのも、
やっぱり言葉で言ってますよね。
糸井 口に出して言ってるね。
零士 それを言わないで、
3にもっていちゃうヤツがいるんですよ。
世の中には。
糸井 いるんだ……。
零士 いるんですよ。
なんかその、セリフがなくて、
「…………」ってだけで、
「あ、かっこいいなぁ〜」って思うヤツ。
言葉じゃなくて、仕草でできちゃうヤツがいるんです。
糸井 それができる裏付けは、やっぱり自信なんですかね?
零士 勘違いですね
糸井 はぁ〜〜〜。
なるほど……。
零士 ぜったい勘違いなんですよ。
だけど、本人そのまま、それを思い込んでるんですよ。
糸井 勘違いって、やっぱ魅力ですよね?
零士 魅力でしょう?
糸井 あの、トシちゃんのいい時って、
ものすごくよかったですよね。
あの……田原俊彦さん。
零士 ええ、大勘違い。
素敵ですよ!
俺ら「素敵だなー」と思ってました。
糸井 今の郷ひろみさんもそうですよね。
零士 ええ、大勘違いですよ。
糸井 イケますよねぇー。
零士 ええ、ぜーんぜんオッケーですよ!
糸井 なんか「君もお祭りに参加しないかい?」
みたいな感じしますよね。
零士 ええ。
一緒になって勘違いしないと
いけないような気がしちゃいますね。
糸井 トーク派としては、天敵ですね?
零士 (小声で)天敵なんですよ〜。
糸井 商売敵ですよね(笑)。
零士 こうね、……パシッとキメて、
「ゴー!」とかってシャウトされるとさ、
「なーんだよ、それ?」って思いつつも、
「ウン、カッコいい!」って頷いちゃうんですよ(笑)。
糸井 あと、スポーツ選手。
野球選手がバーン!とホームラン飛ばしたりとか、
サッカーで活躍したとかって男も天敵ですよね。
それ、やられたら、かなわないもんね。
零士 天敵ですよぉ。
言葉いらないですからねぇ。
それ、できないんですよ。
だから、それにちょっと似せるには、
単純なことですけど、
「普段いい加減なんだけど、やる時はやるよ」と。
それをちゃんとメリハリをつけて
ジッと相手に見せる、というのも、ひとつの手です。
効果として似てるというか。
だから、言葉だけではちょっと伝えられない部分の、
暗黙知的なものを、ちゃんと見せるには、
なにか言葉ではないものを学ぶんですね。
僕はいつもそう思ってるんです。
「あ、これって言葉じゃないんだなぁ」って人は
いるんですよ。
そういう人をよーく見るんですね。
糸井 やっぱ、学ぶんだ?
零士 俺、学びますね、その人がやったことを。
糸井 たとえば、今、誰でもが知ってるような人で、
零士さんから見て「かなわねぇなぁ」って人、だれですか?



第23夜 木村くんのマネをしちゃダメだね?

糸井 たとえば、今、誰でもが知ってるような人で、
零士さんから見て「かなわねぇなぁ」って人、だれですか?
零士 福山雅治さんでしたっけ?
あの人が、なにげに「ああ……」みたいな感じの
雰囲気で言ったようなことを
俺、できないんですよ(笑)。
俺は、もう「オオー! ウワーッ!」ってやりますから。
あの人は、「ああ、まあな……」って感じで、
スッとこう……雰囲気があって、
で、ボローンなんてギター弾いちゃいそうな、
ああいうのには、かーなわないですよね。
あんな人がホストになったらねぇ。
糸井 なるほど……、及川光博さんはどうですか?
ミッチー。
あの人は表現してますよね。
方向はちがいますけど。
零士 あー、はいはい。
うーん……あれくらいのことは、
僕たちホストも、もう、できちゃうわけですよ。
今、ミスターレディとか、
ホモセクシャル的なものとか、
ちょっと女性的なものって、
ひとつのジャンルになってるじゃないですか。
で、そういうジャンルがすこし開放されて、
今は別に、それが、とんがった、突起したものには、
見えなくなっちゃってますから、
安心が入っちゃって、トーンダウンしてるんですよね。
あんまりメディアに注目されないじゃないですか、今。
糸井 あ! そういうので思い出すとさ、
山崎まさよし、どうですか?
零士 いいんですよ。
糸井 あれ、かなわないですよねぇ。
あれ、すごいですよねぇ。
零士 かなわないですよ〜。
糸井 男の俺から見てても、
テレビで山崎まさよしの声が聞こえると、
パッと画面見るもん。
零士 ついパッと見ますよね。
糸井 見る。
零士 あの人が、カレーかシチューのCMで
ギターぼろ〜んってやってると、
「なんか今日カレー食いたいなぁ」って
思っちゃうんですよね。
ぜんぜん関係ないのに(笑)。
糸井 ねぇー。
なんにもフリもつけてないのに。
零士 ちょっとそのままの格好で
家から来たんじゃないか、っていう感じで。
糸井 でも、いずれは、
あのジャンルのホストが生まれてきますよね?
零士 生まれてくると思うんですよ。
福山雅治系とか。
ただし、今現在、ホストでどんなタイプがいいかと
僕が考えると……いちばんわかりやすいのは、
ジャニーズ系で、滝沢くんみたいな感じがウケますね。
ウケるというか、誰もが「いい!」と言うと思うんですよ。
ただ、強さを兼ね備えてるとなると……。
糸井 ナンバーワンになるか、ならないか、というと
ちがってくるんだ?
零士 ナンバーワンというか、
今夜から即戦力になるのは、
スマップでいえば……みなさんキャラがいいですけど、
やっぱり香取慎吾くんですよ。
糸井 ……それ、もうちょっと説明してもらえますか?
零士 だから、たとえば、
さっき話になったミッチー的な要素も
なんとなくあるし。
糸井 あるある。お祭り騒ぎできます。
零士 あと、多少甘えて母性本能くすぐる部分もありますし、
「もう〜、この子ったら!」って感じで
ちょっとおイタもしちゃったりできちゃうし、
それでいて、わりとキレるところはキレるって感じで、
プツンですよ、
「じょーだんじゃねぇーよ!」って
男としてケツまくれるっていう部分もあるし。
さらに、自分が我慢しなきゃいけない、
先輩を立てなきゃいけないっていうこともできるし。
で、トータル的に“苦の部分”を表に出さないでしょ
糸井 はぁ〜〜、確かにそうだ!
零士 そうなんですよ。
ほかの4人も、それは素晴らしいですけど、
即戦力のホストってことでのイメージで言うと、
たとえばですけど、中居さんにしたら、
「なーんか時々ちょっと
 ピリピリしてんじゃないかな」とかね。
糸井 神経質そうに見えたらダメなんですね?
零士 ええ。
あと、草剪さんは、イメージ的に
なんとなくほのぼのしすぎてるから
ホストだと、いい人で終わっちゃうのかな、とか、
吾郎さんにしてみたら、
ちょっとすいません、あくまでイメージなんですが
なんかマニアックな部分があるのかな……とか、
木村さんだと、なんか、ちょっと
理屈っぽいかもしれないな……とかね。
糸井 あー、すごいよーく見てますねぇ……。
零士 で、それはそれでいいんですけど、
ジャンルがせまくなっちゃうんですよ。一瞬。
まちがっちゃいないんですけど、
なんとなくピントがボケるんですよ。相手の女性はですよ。
「そこ、ストレートに言っちゃったほうが
 いいんじゃないの」ってとこを、ひねりますからね。
糸井 あれ、オトナの感覚ですよね。
零士 だから、オトナの感覚をつまみに、
景色のいいオープンカフェで、
バーボンかなんか飲みながら……、
っていうんだったらいいんですけど、
それは本人だけの価値観ですからね。
糸井 競争がないときには、
すごく役に立つけどねぇ……。
零士 競争してる場合はもう、
そんなことしてちゃ、
第4コーナーに馬いないですよ(笑)。
糸井 そんな、ゆっくりしてる場合じゃない(笑)。
零士 パドックでパカパカ回ってる場合じゃないですよ(笑)。
もう第4コーナーなんですよ!
糸井 なるほどね(笑)。
はぁ〜〜、そんなことしてたら
時間かかるよねぇ、たしかに。
零士 それでいきなり焦っちゃって、
まあ、飛び抜けたルックスがある人ならいいですけど、
そうじゃない人間は、いきなり第4コーナーで
ガーッ!っていったら、もう骨折で
そのままもう安楽死ですよ。
糸井 だったら街のお兄ちゃんたちは、
木村くんのマネをしちゃダメだね?
零士 ぜったいダメですよ、それは!



第24夜 天然ですばらしいですね

糸井 街のお兄ちゃんたちは、
木村くんのマネをしちゃダメだね?
零士 ぜったいダメですよ、それは!
糸井 やるんだったら、
香取くんのマネをするんだね。
零士 彼ぐらいパワフルで、
「この人、寝なくても平気だろうな」みたいな。
丈夫そうだし、食い物に好き嫌いないだろうな、
飯もいっぱい食うだろうな、とかね。
たまに気取った店に飯食いに行っても、
ピリッとしてカッコいいだろうし……。
なんか、奥の深さを感じるというか、
それでいて、入っていきやすそうな感じで。
たとえば、海でも
「深いだろうなぁ……」と思った海って、
こわいですよね。
糸井 うんうん。
零士 だけど、すっげー深いんだろうけど、
ぜんぜん怖さを感じなくて
ドボンを飛び込める海もあると思うんですよ、きっと。
あれ、色によると思うんですよ。水の質とか
糸井 すごいこと言うねぇ……。
零士 また言っちゃいましたねぇ、これ、
おいしいことを(笑)。
糸井 もーーー、うまい!
零士 ホチキスでとめたいですね、ここはピシっと!
俺、そんな感じだと思うんですよ、彼は。
糸井 それは、イメージですよねぇ?
零士 イメージです。
で、僕は本当に彼のことが……変な意味じゃないですよ、
彼が好きだから、考えるわけですよ、こう見てて。
糸井 香取くんのことまで考えてるの?
零士 考えてるんですよ、いつも。
「この子は何考えて、これやってるんだろうな?」とかね。
糸井 香取くんって鶴瓶さんとさ、
扱いにくいゲストばっかり呼ぶ番組に出てるじゃない。
あれなんか、香取くんしかできないよね。
零士 できないですね。
だから彼なんですよ!
……もちろん、この対談のテーマ、
「モテ道」に関しては、
営利の感覚ではしゃべってないですけど、
実際に我々はこれがビジネスですから、
当然、おカネにかかってきますからね。
そういう部分も考えて、彼がいいですね。
ひじょうにいいです。
ビジネス側として見た場合は、
彼がイチ押しですね。
糸井 はぁ〜〜。
零士 ほかに見当たらないです。
芸能界の方にこういう言い方は本当に申し訳ないですけど、
やっぱり商品って感じがしますから。
そういう観点で見ることになりますよね。
糸井 零士さんって、相撲部屋の親方ですからね。
零士 ええ。
どうしても商品という部分で、すばらしいとか、
どうだとかいう評価しかできないですけど、
香取さんに関しては天然ですばらしいですね



第25夜 それを零士さんに言わせるってすごいねぇ



糸井 女性で、「この人が落とせたらなぁ〜」っていう人、
いますか?
零士さんが得意なジャンル、苦手なジャンル
それぞれあるんでしょうけど、
「この女性を落とせたらすごいよ」っていう人、いますか?
零士 あの、僕が普通に見てですね?
糸井 ダイアナ妃とか、そういうこと言わないでね。
もういないし(笑)。
零士 ええ。
もっと身近というか、
可能性のありそうな人ですね。
そうですねぇ…………。
…………。
糸井 あ、初めて長く考えてるよ(笑)。
零士 あの……今、いちばん最近話題のところで言うと、
松嶋菜々子さんですね。
(註:この対談は3月に行なわれました)。
あの人って、あくまで僕が見た感じで言うと……。
実際には、みなさんどう思ってるかわからないですけど、
俺はたぶん当たってると思うんです、これは。
あの人は、けっこうね、むずかしいと思うんですよ。
意外と扱いづらい相手なんですよ。
さっき言った保守的な部分が強いというか。
ものすごく周囲に合わせてはいますよ、きっと。
だけど、実際中身は頑固なものがあって、
そうそうやたら公のところに出ていかないとかね、
おカネだけじゃ動かない、とか。
糸井 そうだとしたら、むずかしいよねぇ。
零士 そうです。
あの人、むずかしいと思うんですよ。
だから、あの人にちがった視点で
自分を見せることができた反町隆史さんは
ほかの部分は知りませんけど、
そういう部分に関しては、
すごいいいものがあると思うんですよ、僕は。
糸井 要するに、ひとりの青年として
零士 そうです。ひとりの青年として。
アプローチして、松嶋さんが受け入れるということは
彼は彼なりのイズムというか、
価値観があると思うんです。きっと。
それに共鳴させたというしか、
方法が分析できないんですよ。
糸井 すっごい細い道でたどりつくところなんだ?
零士 僕が思うに、そういうタイプなんですよ。
松嶋菜々子さんて。
糸井 はぁ〜〜。
じゃ、そういう話も、
芸能ニュース見ながら、考えたりしてるわけですか?
零士 考えてたわけですよ、先週。
「どうやって結びついたんだろ、これは」って。
糸井 反町くんで思い出したんだけど、
僕には何人か釣りの友だちがいますよね、
で、僕は反町くんと一緒に釣りしたことないんだけど、
釣りを教える人に、誰が上手かと訊いたら、
「反町くんは上手ですね」ってすぐに出たんですよ。
零士 僕も面識はないですけど、
たぶん、本当はけっこうコミカルで、
本当は……いや、わかんないですよ、
でも、俺みたいに、考えてるんだと思うんですよ。
じゃないと、そこにたどりつかないですもの。
だって、むずかしいですよ。
松嶋菜々子さんって、きっと。
糸井 はぁ〜〜、それを零士さんに言わせるってすごいねぇ。
零士 (笑)そりゃねぇ、むずかしいと思いますよ。
で、なっちゃえばむずかしくないですよ。
なるまでがむずかしいんですよ。
受け入れないと思うんですよ、そう簡単には。
だから、いろんなところを、
自分で自分を消毒液につけてみたりとか、
けっこう根気がいることだと思いますよ。
糸井 それ、じーっと考えてたんだ?
零士 たぶん最近ではいちばん報道されたと思うんですよ、
先週か、その前ですか?
だから、まあ、どうだろうなぁ?
って考えてて。
糸井 もう、研究材料に満ちてるんだろうね。
世の中は。
零士 いっぱいあるんですよ。
糸井 じゃ、また新しい質問なんですけど、
「おもしろいとモテる」と
男の子が思ってた時期があって、
笑いの方向にどんどん行きましたよね。
合コンだとか、飲み会なんかでも。
あの傾向って今もまだ続いてるんですか?



第26夜 色気ってなんなんでしょう?



糸井 また新しい質問なんですけど、
「おもしろいとモテる」と
男の子が思ってた時期があって、
笑いの方向にどんどん行きましたよね。
合コンだとか、飲み会なんかでも。
あの傾向って今もまだ続いてるんですか?
零士 あの……おもしろいというのも、
それだけを追求していっちゃうと
結局は万人受けするような
おもしろさになると思うんですよ。きっと。
それって、ある特定の人におもしろがられることを
貫いてるヤツのほうが、逆に、
おもしろいときがあるじゃないですか、お笑いって。
鼻の穴に豆入れて、ポンポン飛ばす人が、
そればっかりやってたら、なんかおもしろくなってきたり。
たとえば、春一番さんが、
アントニオ猪木のモノマネだけで通したり。
あの人が出てきたら「猪木だ!」と思いますよね。
いきなりコックの格好してきても、
きっと猪木のモノマネやるんだろうな、とかね。
で、その前に、いろんなキャラの濃い人が
いろんな芸をやっても、最後にあの人が出てきたら、
「1、2、3、ダーッ!」で結局、
「じゃ、よきところで」って解散になっちゃうんですよ。
糸井 左フック一発ですよね?
零士 一発ですよ。
オールマイティーじゃなくていいと思うんですよ。
糸井 あれが一発ってものか!
零士 で、まともな顔してやってるし、
出てくるときには、なんかオカシイというか、
……面白いんじゃなくて、なんかオカシイというのを
売り物にしてるんですよね。
でも、オカシイの裏側を見ると、
ちゃんとやってるってことですから、
ワンセットで見せてるんですよね。
糸井 は〜、環境ごと売ってるよね。あの人ね。
零士 そうなんですよ。
俺、実際見たんですよ。
あるクラブに行ったときに、
名だたる有名人がいたんですけど、
そこにひょっこり春さんがいたんですよ。
「おっ、春一番だ!」なんて、周りの人が言うんですよ。
そこで、もうウケてるんですよ。
糸井 「やって、やって」だよね。
零士 で、最後に出てきて、
「では、ワタクシ……みなさん、わかってますね
 ……いくぞーっ!」って(笑)。
「ダーッ!」ってやって、
「はい、解散」で終わりですよ。
糸井 最後にさらっちゃったんだ?
零士 さらっちゃったんですよ。
それと同じで、
万人に向けちゃうお笑いっていうのは、
結局は保守的なんですよね。
その時点で、もう負けてると思うんですよ。
糸井 モテ道ってやっぱ保守的じゃダメなんだね?
零士 ダメだと思いますよ、俺は。
ただ、ちゃんと線は引いてくれよ、と。
自分のことを、人を鏡にして映して知るのもよし、
上の備え付けたもうひとつの自分のカメラで
自分を見て、自分の位置を確認する、
そういうナビゲーションシステム的な
感覚だけはもってくれよ、と。
つまり、人のせいにするなよ、と。
人の話に乗ったり、ネタとして使っておきながら、
人のせいひするヤツっているじゃないですか。
俺、そういうのはずるいと思うんですよ。
たとえば、この対談を読んで、
僕にいろんな質問のメールをくれた人たちが、
「いや、零士が、ああ言ったから、こうしたんだ」と、
そういうふうなずるいヤツになってほしくないですね。
男も女も。
糸井 もうひとつなんですけど、
“女の色気”と、“男の色気”って言いますよね。
で、色気という言葉ってものすごくあいまいで、
みんな基準がちがいそうなんだけど、
色気ってなんなんでしょう?
零士 さっき話が出た、山崎まさよしさん、
色気、ありますよね。
でも、なにかわからないですよね。
「なにがいいんだろ?」と最初は思うわけですよ。
なんか……この人って、
歌書いて歌ってる人なんだよね……、
でもなんか、目に残るんですよね。
歌が死ぬほどうまいとか、なんとかっていうよりも、
なんかねぇ、しみこんでくるっていうか、
……あれは色気なんですよ。
100パーセント色気なんですけど、
なんでアレが出てくるのか……?
糸井 僕は、色気ってことについては、
前から知りたいなと思って考えてたんだけど、
ひとつ鍵があって、
それは“恥”じゃないかなと。
零士 いやいや、そうそう、だからそうなんですよ。
僕らは恥をかきたくないから、
色気をつぶすんですよ。
で、身振り手振りで派手にやるわけですよ、こうやって。
「わかるかオイ、わかるか? わかっただろ」って。
それで「カッコいい!」って言われたい。
「カッコいいなー、まとめていったよアイツ」って。
糸井 うんうん。
その恥とさ、もうひとつそれの裏に、
「もう恥ずかしくてしょうがない」
という恥がありますよね。
零士 だから、僕らはそれも打破したいから、
脚を使って機敏に動いて、寝ないで時間使って、
さっき言ったように、
相手の女性に時間を感じさせないというのも
結局は恥をさらしたくないからですね。
糸井 零士さんって、根っこは恥ずかしがり屋ですよね。
零士 だと思いますよ、根っこは恥ずかしがり屋ですよ。
顔も赤くなるし、
誰かとすごく目も合わせづらいという時もあるけど、
だからこそ、あえて色気をすっ飛ばしてでも、
動いて、時間使って……タフでマメというところに
行くんですよ。
糸井 それほど恥ずかしさが強いとも言えるんだ?



第27夜 ハレの色気っていうのはマネできる



糸井 それほど恥ずかしさが強いとも言えるんだ?
零士 で、睡眠削って動いて時間つかって、
そこまでやったら、恥もクソもないだろ、と。
そうなったときに、
「多少色気あるんじゃないのアイツも」と、
最近ちらっと聞きますけど……。
それまで自分のことで、
色気なんて言われてるのを聞いたことないですよ、俺。
“やり手”だとかね。
“そつがない”とか。
糸井 もっと猛獣扱いされてたわけだ?
零士 ええ。
で、自分はそれでいいと思ってました。
色気があるなんて言われるのは逆に、
ナメられてると思ってましたからね、僕はね。
そんなの俺はいいんだと。
だから、色気のある人ってうらやましかったですもの。
糸井 つまり、恋愛関係だとか、男女のことに
参加しているんだけれども、
実はそのことが恥ずかしい、みたいなあたりに……。
零士 恥ずかしさがあったり、すごく人目を気にしたり、
自分でもいろいろ気にしてるんです。
考えてるんです。
でも、さっき言った色気ってのは、
恥をかける、自分をさらせるっていう、
そのまんまで……ってことですよね。
糸井 山崎まさよしには、なれないよねぇ。
零士 なれないですよ。
寝巻きみたいな格好で、いきなりギター弾いて、
めちゃめちゃキザなことを歌いきっちゃって、
というのはできないですよ。僕らには。
糸井 むずかしいよねぇ。
にしきのあきらのようになら、できてもねぇ。
零士 ええ。
こうやって、わざと「ウワーッ」って騒いで、
「愛してる〜!」なんていうのは、できますよ。
たぶん、みんなできるんですよ。
ミカン箱ならべて、上に立って(笑)。
糸井 で、やろうと思えば、郷ひろみのラインも
ありえますよねぇ。
零士 できるんですよ。
郷ひろみさんも、ある程度は天然の部分はあるけれども、
恥ずかしいとか、シャイな部分もあると思うんですよ。
それを、成りきっちゃうことによって、
ガーッとやることによって、
あの方法がいちばんいいと考えたんでしょうね。
糸井 だから、ハレとケで言うと、
ハレの色気っていうのは、マネできると。
零士 できます。
糸井 表現だから。
ところが、ケの色気……、
ただ飯食ってるだけで色っぽいとか、
みそ汁すすってても色っぽいとか、
そういうの、あるよねぇ。
零士 にじみ出ちゃってる色気は、
あれはもうね、原発からもれた放射能みたいに、
出たらドワ〜っといつまでも漂っちゃうんですよね。
糸井 はぁ〜。
零士 あれはヤバイですよ。
そういうものなんでしょうね。
糸井 あれ、なくなることもあるんですかね?
ああいう色気って。
鮮度保証期間とか、賞味期限ってあるのかな?
零士 いや、忘れたころに
また効いてくるんですよ、あれは(笑)。
糸井 (笑)たちわるいねぇ。
零士 たちわるいんですよ。
糸井 みんな、さらわれちゃうよねぇ。
零士 だから、僕らは警戒するんですよ。
ふと、言葉じゃなく雰囲気で持っていっちゃう。
色気でモテるヤツってのは、それですよ。
糸井 でも、ああいう人は派閥はできないでしょ?
零士 できないですね。
単体ですね。
でも、色気にみんな冒されちゃってるから、
30対1でも、勝っちゃうんですよ。
勝っちゃうし、
なんで勝っちゃうかというと、
みんなが道を譲ってるわけですよ、それは。
できるヤツほど、譲るんですよ。
「はい、お手上げ」と。
そういう図式があると思いますよ、僕は。
糸井 この話は、続きをまた今度しゃべりたいね。
零士 しゃべりたいですね、コレ。
糸井 ここがいちばん面白いですね。
零士 ええ。
ずっとしゃべってきて、
もうそこに辿り着いたと思うんですよ。
モテるということで、
「どんな男には負けると思う?」
って糸井さんから振られたときに、
「いや、言葉じゃなくね、ちがうことで、
 持っていっちゃうヤツがいるんですよ」
っていうのは、そういうことなんですよ。
糸井 とってもビジネスにはしにくいタイプの……。
零士 いや、もちろんこれは
本人にも操作性はないですから。
糸井 あ! 操作性がない!
コントロール不可能。
零士 不可能!
糸井 あー、だから、よくね、あの……
どう言ったらいいんだろうなぁ。
モテようとしてなくても、
「それだけ力があったら、向こうから来るよ」
という言い方を若い子にすることがあるんですよ。
それのパターンですよね?
零士 そうです。
だから、僕なんかも、お笑いでもね、
まとめちゃったものって、保守的でつまんないよと。
逆にひとつの得意技をずっと通したほうがいいというのは、
この対談を読んでくれる人たちはみんな、
わかったと思うんですよ。
「今自分はすごく考えすぎちゃってるな」って時は、
自分を含めた、ちょっと引いた画面で見る、と。
サッカー中継で言ったら、
すごい球さばきとかに目がいきがちだけど、
それじゃ周りの状況がわからないので、
センターライン付近でやってることなのか、
ゴール前でやってることなのか、
アップの画面じゃよくわからないじゃないですか。
引いた画面……離れたところにいる
ゴールキーパーがどこに立っているかとか、
サポーターのいる観客席もぜーんぶ見えて、
自分のプレイも見える位置にカメラをもっていかないと、
たぶん、モテ道は追求できないです。
そこが第1歩ですよね。



第28夜 精神的な満足感を与えるほうが大切なんです



糸井 じゃ、最後に……。
今までだいたい質問にからんだことを
いっぱいしゃべったんですけど、
とくに答えてみたい質問とか、ありますか?
零士 ありましたねぇ僕には、ひじょうに。
糸井 それを、ぜひ。
性がらみのことは、
あんまりしゃべってなかったですね。
零士 セックスですか?
糸井 ええ。
そのあたり、けっこう質問があったんで。
あの、なかには、種馬のようにヤリまくってると
思ってる人もいますよね。
そのへんって、現実のホストはどんな感じなんですか?
零士 あの……セックスというのは、
基本的にはその、肉体的な満足感と、
精神的な満足感があると思うんですよね。
で、あの……セックスを売り物にするということは、
ひじょうに難しいと思うんですよね。
精神的な満足感を与えるには、
べつにセックスじゃなくても、
ほかのものでも、いっぱいあるわけですよ

肉体的な満足感を与えるよりも、
精神的な満足感を与えるほうが、
ホストとしては、大切なんです。
ずーっと対談してきたことは、
結局はそういうことなんですよ。
糸井 そうですよねぇ。
零士 たとえば今、
「あー、おもしろかった!」と言って、
この対談の後、スタッフのみなさんで
お茶を飲むなり、酒を飲むなりしてもらうためには、
精神的な満足感を感じてもらったほうが、
質が高いんですよね。
糸井 性をコントロールするってのは、
暴力なんかに近いんですかね?
零士 ええ、そうなんです。
だから、そっちのほうに走っていくと、
もう尺が決まっちゃうんですよね。尺度が。
幅が決まっちゃうんですよ。
で、夢を売っているホストが
幅が決まっちゃうようなことに走ったら、
夢じゃなくて現実になっちゃって、
もうみんな斜めに傾いちゃうんですよ。
糸井 走っちゃう人もいるでしょ、やっぱり。
零士 たまに、手段として、走る人はいますよね。
ま、正直言って、ぶっちゃけた言い方したら、
「お客さんと寝ちゃって、どうこうして、
 そういうふうにヤリまくってるホストが、
 ナンバーワンなんじゃないか?」という
イメージが先行してるんじゃないですか。
でも、それは幅が決まっちゃってますから。
糸井 つまり、精神的な満足への可能性の芽を
ぜんぶつぶしちゃって、
ある一直線の道だけを走ってるということになると?
零士 そうです。
かけ算じゃないんです。たし算ですよね、それは。
僕はたし算求めてこの世界に入ってないですから。
糸井 あと、研究のしようがないですよね、
その道ってね、根本的にはね。
零士 そうでしょ。
だから、上に行く人ってのは、
そのことじゃなくて、ちがう方法で行ってるわけですよ。
精神的な満足感を与えるには、
どうすりゃいいんだろう?って知恵をしぼるんです。
で、工夫するんです。
だから“研究”と書いて“どりょく”と読む、みたいな。
糸井 (笑)なんだよ〜それ?
研究と書いて、どりょくと読む。
零士 ええ。
血と汗と涙の結晶とか、
そういうことを言ってるうちは、まだまだです。
結局、肉体的に動かす、どうのこうのって、
イメージ自体がもうまちがってますよね。
血と汗と涙は、もう当たり前ですから。
そこから一歩上のことをやらないと
糸井 やっぱり性でどうのこうのというのは
暴力に近いですよね。
殴っていうことをきかせるってのと
パターンとしては同じですよね。
長続きもしないし。
零士 しないんです。
糸井 もっとすごいヤツも出てくるしね。
病気みたいにすごいヤツが出てきたらもうお終いですよね。
あと、なんだろ、性を考える時間は長くても
性そのものに関わってる時間は短いですよね。
100時間ないですもんね。
零士 そこなんですよ。
ちょっとしかないんですよ。
もっとぶっちゃけた話は、たとえば、
「5万円でセックスできます」と。
で、裸になって、じゃあ、っていたして、
5万円払うってなると、終わったあと、
「なんか高かったかな……」と思うんですよ。
糸井 はあ……。
零士 ところが、たとえば、2時間あったら、
1時間50分しゃべって、あとの10分で
チャチャっとしちゃって、
そうすると逆に、「また行きたい」と思うんですよ。
糸井 はぁ〜〜。
零士 だから、さっき、僕が最初に話したことで、
長い話を時間を感じさせないで、
しゃべることができたら、
それは、モテる秘けつですよと。
時間を感じさせない、というのは。
そこでも話がつながるんですよ、ぜんぶ。
糸井 読んでる人、飽きてないだろうね、まさか(笑)。
俺ら、すごーく、おもしろがってるけどね。
こういう話、読んでる人はどうでしょうね?
おもしろいのかなぁ?



第29夜 ホストという呼び方を変えたいんだって?



零士 長い時間しゃべってきましたけど、
これだけ十分に話す時間をもらえれば、
こっちの言ってることは読者に伝わると思います。
中途半端なヤツがでてくると、
「まーたなに言ってんの、この人!」と
思うかもしれませんが、
一応、僕が出てきた以上、
ここで話してることは本当のことですから。
でも、ひじょうに簡単で、当たり前のことを
しゃべってきたんですよ。
糸井 そうなんだよねー。
本当は簡単なことなんだろうけど、
人はついちがう方向に考えがちですよね。
零士 だからそっちに行くのを、うまくこう、
止めてあげたいという思いが強くて……。
だから今日こうして対談してるんですけど。
「そこから先に行っちゃわないで」と、
「メールで質問してくれたことの先に
 行かないで、もどってくれ」と。
 
糸井:
“研究と書いて、どりょく(努力)と読む”。
モテたいというテーマって、
研究できるから話が広がっていくんだもんなぁ。
零士 そうなんです。
若い人は特に、自分の位置を見ておかないと、
なにげにヒツジの群れと同じように動いてるんですよ。
それよりは、ヒツジの群れを仕切る、
牧羊犬になってほしいですね。
糸井 それは、零士さんは
自分でやってきたという自信があるんだよね。
零士 あの牧羊犬もきっと責任感もってやってるんですよ。
誇りをもって。
糸井 零士さん、なんか……、
ホストという呼び方を変えたいんだって?
零士 そーなんですよ。
なにか僕らの仕事を、ホストという言い方以外に……。
まあ「ホストクラブ」がありますよね、
これって水商売のなかでの
男の世界では最高の地位なんですよ。
いわば、パイロットで言ったら、
戦闘機のパイロットなんですよ
で、ホストクラブの別な言い方としては
「ボーイズバー」とか「ホストパブ」とか、
いろいろあるんですよね。
「ボーイズバー」はちょっと暗いとか、怪しいとか、
そういうイメージを感じるんですよ。
で、僕がたどりついたのは「ボーイズクラブ」。
……今のところ、これ以上の言葉がないんですよ。
募集したいんですよ、俺。
ホストに代わる言い方を。
糸井 でも、“ボーイズ”って言うと、
ちょっとゲイな感じがしますよね。
零士 それがあるんですよー。
だから、「ボーイズクラブ」、いいんですけど、
いまいちピントがきてないんですよ。
「ボーイズバー」って言うと、
「それ、ホスト予備軍だろ?」って感覚です。
「パブ」とか「サパー」ってのもあって、
サパ男(さぱお)って言い方の人もいますけど、
やっぱり、ホストはホストなんですよ。
糸井 呼び方については時間がかかるよねぇ。
零士 ええ。
ホストが増えていってる今、
先のことを考えると、名称を変えたいと思うんですよ。
で、僕らの世界で……、なぜ歌舞伎町で
今これだけホストが増え続けているかというと、
タテ社会だからなんですよ、基本的には。
体育会系なんですよ。
そうじゃないと、ご法度ごとが守れないんですよ。
糸井 零士さんの店のホームページで
男の人の写真紹介を見ると、
みんな坊主頭にしたら
甲子園球児の顔してますよね。
運動部の顔ですよね。
零士 わかりました? やっぱり?
タテ社会、体育会系じゃないと、
秩序が守れないんですよ。
女がからんじゃうと。
糸井 目先の欲望で動いちゃうんだ?
零士 ええ。
今、俺がこうやって2時間かけてしゃべってるのを
聞いてるときは、わかるんですよ。
でも、現場になったらやっぱり、走るんですよ。
糸井 そうだろうねぇ。
零士 で、秩序とモラルを守らせるためには、
体育会系で縛るしかないんですよ。
30人で派閥をつくらずに、30人で店を動かす場合はね。
それが50人になったら、割ったほうがいいんです
だから、そういう意味で、
我々はこれだけちゃんとやっているわけですよ。
まあ、もーのすごく厳しい世界ですよ。
で、みなさんが思ってるよりは、
めちゃくちゃ厳しい世界なのに、“ホスト”って言うと、
たとえば、昔、体育会系でがんばってきたお父さんが、
「なに? ホスト!?」ってマイナスイメージで言うのが
僕はすごく残念なんですよ。
そういうんじゃないんですって!
俺たち相撲部屋みたいな感じで
がんばってるんですよ。
もう、めちゃくちゃにしごかれるし、
時には本当にブッ飛ばされてますからね

仕事で酒飲んでも、ヘベレケになってても、
ミスはミスで怒られますから。
すごい厳しいですよ。



第30夜 「僕、ホストになる!」



零士 僕らの世界は、すごい厳しいんですよ。
だから俺、息子ができたら、店に入れたいですよね
手っ取り早いですから。
糸井 零士さん、結婚してないんだよね?
零士 してないです。
糸井 しないですか? この後も。
零士 子どもはほしいですね。
息子がほしいです。
で、ホストの世界に入れちゃいますよ、一回。
半年くらい。
糸井 「いいところだからさ!」と言って入れるの?
零士 いや。
「いろんなものが、よく見えるよ」と。
「人間関係がよーく見えるから」って。
「タテ社会が基本で、
 ピラミッドの形がよくわかるよ」って

どうやって上がっていけば、頂上に辿りつくかってことが、
よく見えるから、見てきな、って言いたいですね。
で、やっちゃいけないことは、こういうことだよ、って。
糸井 僕、ほかの業種に関してよく言ってるんだけど、
今まで立っていたピラミッドの三角形が、
今は倒れてきている時代だと思ってるんですよ。
零士 だから、僕らまっすぐに立ててるんですよ。あえて。
まず、そこをわかった上で、
タテ社会、ピラミッドを立ててるんです。

従来のホストのイメージってのは、
ぬぐい去れない部分で……、
あれは20世紀が生んだ産物というか、名称ですよね。
21世紀に向かって、こういう僕らのように
仕事を伸ばしていこうと思っている人間には、
ホストではない、ちがう言葉があれば……。
なんか……ものすごい訓練を受けて、
すごい最新の戦闘機を乗りこなすというか、
そういうイメージでやってるわけですよ
糸井 レンジャー部隊とか(笑)。
零士 でね、こないだ、うれしい話を聞いたのは、
田舎にいる知りあいのオジサンが同窓会に出たときに、
そこに子どもが来たんですって。中学生の。
でまあ、普通の会話の中で、
「おい、オマエ、大きくなったら何になるんだよ?」
って言ったら、
「僕、ホストになる!」
「は?」
「ホストになりたい」って。
「こないだテレビに出てた人がいて、
 僕、あの人のところに行く!」って
言ったっていうんですよ。
糸井 まるで、スポーツ選手みたいだね。
零士 3、4年前では、これ、考えられないことですよ。
若い男の子たちの、そういうせっかくの気持ちを
ホストという名称を出しただけで、
「あー? なに言ってんのアンタ!」みたいなね、
「バカなこと言ってんじゃないよ!」って
親に言われないような、なにかを
僕らは作ってあげたいです。
糸井 それは、あれですね、
いったんちがう業態に見える店があって、
そっちの方向に全体が向かっていったときに、
見えてくることですよね。
零士 ええ。
今すぐには無理ですね。難しすぎて。
ずーっと考えてるんですよ。
だけど、出ないです、答えが。
糸井 無理やり取ってつけても、結局ダメですからね。
零士 なにか大きなものを実質的に作り上げておいた上で、
実は、昔からホストというのは厳しい世界で、
決して悪くはないんだけど、
ホストという名称はそれはそれで、封印して、
新しい名称で……なんかこう……、
夜のパイロットみたいなイメージで。
糸井 夜にはちがいないもんね。
だったら、“ナイト”もいいよね。
“騎士”という意味の。
でも、それ呼び方かえてもちがうんだよな。
まず先に新しい箱があって……。
零士 昔からのイメージからきちゃってるから……。
糸井 ホストってもともといい意味の言葉だもの。
零士 呼び方だけかえても、川でいうと支流を作っただけ
みたいになっちゃうから。
糸井 やっぱり実体がかわらない限り
新しい名称はなかなか出てきませんよね。
零士 みなさん、いい呼び方があったら、
アドバイスよろしくお願いします(笑)。
糸井 えー、というわけで、
かなり長い時間、モテ道について話してきました。
どうもお疲れさまでした。
いや〜、おもしろかった〜。
ためになったなぁ〜。
やっぱ、大事なのは、言葉ですね。
俺らおしゃべりだね、
ってことは、俺なれるね。
50代のホスト(笑)。
零士 なれますね(笑)。
糸井 だけどさぁ、やっぱ参加してない感じあるわ。
俺、モテない光線出しまくってるもん(笑)。
零士 (笑)みなさん、ありがとうございました。
おやすみなさい!







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