DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

Q、いま、「ほぼ日」では、
「寝グルメ」の追求をやっています。
睡眠について、医学の世界では、
どんな研究が行われているのでしょうか?
また、これは「知っておくべきでしょう」とか、
「みんな、まちがっているんだよねぇ」というような、
眠りの知恵・知識・教養などについて、
伝えるべきことがあるなら、出し惜しみせずに
ぜひぜひ教えてくださいませ。
なんか、ありそうなんだよねー。
(darling)

えーっと.....
そもそも、医学という学問は「病気という状態」が
どういう仕組みで、どういう筋立てで起こるのか
(これを「病態生理」と言います)ということを
明らかにした上で、
それをどのように治すかということを考える、
というのが一つの大きな枠組みになっていますので、
「普通に眠れる人がよりよく眠るためにはどうするか」
というのはなかなか考えにくいテーマであるんですよね。
ま、結論としてはありきたりの、
「部屋をなるべく暗くして、静かで快適な温度の中で、
楽な姿勢で眠りましょう」
なんてところに落ち着いてしまうかもしれません。
(単なる僕の知識不足かもしれませんが)

で、「寝グルメ」の趣旨からは外れるかもしれませんが、
ここでは「睡眠障害の分類」について書くということで
お茶を濁させて下さいな。

まず、いわゆる鬱病、それと躁鬱病では
睡眠障害がつきものであることは
一般の方にもよく知られているでしょう。

例えば、まず鬱病だと「寝付きが悪い」
「眠りが途中でとぎれる」「朝早く目が覚めてしまう」
のすべてが起こりうるのですが、
一般に鬱病によく起こると言われているのは
「朝早く目が覚めてしまう」です。
早朝に目覚めると、僕の場合は気分よく牛乳屋さんに
挨拶なんかしてしまうものですが(?)、
鬱病の患者さんの場合、気分がすぐれず、
目は覚めても起きあがることもできないまま
悶々と過ごすなんてことがあるということです。
で、そのまま夕方まで過ごして、
「あ、今日は何も食ってないけど、ま、いいか、
腹も減ってないし」
なんていう食欲減退も伴うことが多くあるようです。
かくいう僕もこういう状態になったことがありまして、
とてもよく実感できるのです。

また、躁状態の患者さんの場合、気分は高揚したまま、
愉快で陽気で、いつまでたっても疲れを感じなくなり、
「眠りたい」という気持ちが少なくなることが
よくあるようです。
(眠らなくても良いなんて、これだけ聞くと
ちょっと羨ましかったりもするのですがね)

で、これ以外にも睡眠障害を伴う精神疾患は
色々とあるのですが、そういう疾患によるものではなく、
「ただ単に眠れない」という状態を
「原発性不眠症」と言うそうです。
(この場合の「原発」は
「原子力発電所」の意味じゃありませんよ(笑)。
不眠症の原因が他の精神疾患によるものではなく、
それ自身オリジナルに起こっているという意味です)

DSM−(「)という米国精神医学界の
診断マニュアルがあるのですが、これによると
「原発性不眠症」は「睡眠の開始または維持の困難、
または、非回復性の睡眠が1ヶ月以上続き、
この睡眠障害またはそれに伴う昼間の疲労感の結果、
臨床的に著しい苦痛を経験し、社会的・職業的
その他の領域でその生活機能に障害を引き起こす」
という定義になります。

ただし、前述したように、
他の精神疾患に分類できる場合とか、薬物や
アルコールなどの服用が原因になっているものは除きます。
ただ、症状自体がこれに当てはまる人は多いかもしれませんが、
この診断をするためには他の精神疾患・睡眠障害や、
体の器質的な疾患などがあることを
きちんと否定する必要があるため、
安易に診断できる疾患ではないようです。

これとは別に、
「概日リズム睡眠障害」というのもありまして、
こちらの方はみなさんにお馴染みかもしれません。
平たくいえば、自分が「起きたい・寝たい時間帯」と
「起きなければならない・寝なければならない時間帯」が
ずれを起こしてしまっている状態です。
生活リズムが合わなくなってしまった状態ですね。

この状態が良く起こりがちなのは、
実はお医者さん・看護婦さんだったり
するかもしれません(笑)。
とくに夜勤が多い病院にお勤めの方は
なかなか大変かもしれません。
ただ、面白いことに、
看護婦さんからこんな話を聞いたことがあります。

「この間までここの病院で夜勤バリバリで
働いていた友達がいたのよ。その子がさぁ、
最近、老人介護施設に移ったんだってさ。
でさあ、そこって救急の患者さんが入ってくることなんて
全然ないものだから、夜勤もなくなっちゃったんだってさ。
で、『羨ましいわぁ』なんてアタシが言ったんだけど、
その子がさぁ、
『違うのよ、夜勤がないと生活リズムが崩れて(?)
眠くて仕方ないのぉ!』って言うのよぉ(笑)」

生活リズムが不規則だった人が
突然規則正しい生活に戻すのも
なかなか大変らしいという一例ですね。

ま、こういう例外は置いておくとしても、
「概日リズム睡眠障害」が起こりやすいのは
登校拒否をしている子どもとか、
スチューデントアパシーと呼ばれる、無気力で
大学にも行かなくなってしまった学生などのようです。
深夜になるとビデオを観てみたり、
プレステでゲームしてみたり、
コンビニに当てもなく行ってみたり、
パソコンでだらだらとチャットをしてみたりする
なんてのが習慣になってしまって、
それとの相乗効果でさらに無気力が進んでいく
なんてこともよくあるようです。
僕の知り合いの方にも、
精神科で「メール依存症」だと言われた人もいましたしね。
皆様もパソコンの使いすぎにはご注意下さい。

とりあえず今回はまだ長くなりそうな感じがするので、
次回に持ち越すことにします。
(つづく)                        

1998-12-23-WED


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