DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

「睡眠障害について」その2
前回からのつづきですが、
念のために質問文を添えておきます。

Q、いま、「ほぼ日」では、
「寝グルメ」の追求をやっています。
睡眠について、医学の世界では、
どんな研究が行われているのでしょうか?
また、これは「知っておくべきでしょう」とか、
「みんな、まちがっているんだよねぇ」というような、
眠りの知恵・知識・教養などについて、
伝えるべきことがあるなら、出し惜しみせずに
ぜひぜひ教えてくださいませ。
なんか、ありそうなんだよねー。
(darling)

睡眠障害と言うと、「眠りたいのに眠れない」
というのが多いのはもちろんですが、
その逆に眠りすぎてしまう場合もあり、
これを「原発性過眠症」と言います。

この場合、夜寝ているにもかかわらず、
ほとんど毎日、昼間でも眠気をもよおし、
仕事に支障を来したりすることがあります。
世間の目からするとグウタラに見えるのかもしれませんが、
(場合によってはそういう人もいる可能性はあるのですが)
状態によっては精神疾患の一種とも考えられる
ということなのです。
昔話の「三年寝太郎」さんは
この疾患にかかっていたのかもしれませんね。

これとよく似たようなもので、
ナルコレプシーという疾患があります。
こちらは突然筋緊張が消失して、眠りに入ってしまい、
情動(=笑ったり、怒ったり)ができなくなってしまう
状態です。この疾患の場合、眠る直前・起きた直後には
目は覚めているのに、体を動かそうとしても
動かせないという症状もあります。で、このときに、
妙に鮮明で恐怖感を伴う夢を見るというのも特徴です。
症状が初めて起こるのは、思春期であることが多い.....

あれ? この表現どこかで聞いたことありませんか?
そう、「金しばり」というやつです。
「目は覚めているのに体は動かない。
 変な映像が見えてすごく怖い。
 20歳までに体験しなければ、一生体験しない」
金しばりという現象に
霊が関与している(笑)のかどうかなんて、
そんなものが見えない僕にはまったく分かりませんが、
症状としてはナルコレプシーの一症状とも
とらえることができるわけです。
(注意して欲しいのは、「金しばり=ナルコレプシー」
だと考えないで欲しいということ。あくまでも
“ナルコレプシーの一症状”として
金しばりがあるということなのです)

さて、「恐怖感を伴う夢」ということが話にでましたが、
このような夢、特に生命や安全、
自尊心を脅かすような恐ろしい夢を
眠りから覚めても詳細に思い出してしまうとき、
「悪夢障害」(または夢不安障害)を疑います。
ただ、一度目覚めてしまうとイヤな夢を
はっきり思い出してしまうという点では大変なものの、
現実の世界とそれをごっちゃにすることはないようです。

似たような症状を示す疾患に
「夜驚症(やきょうしょう)」がありますが、
こちらは寝ているうちに突然、
恐怖から叫び声をあげて目覚めて、
心臓バクバク・息ハアハア・汗ダラダラで、目覚めて
周りの人が「落ち着け、大丈夫だ」と、
こちらの世界に引き戻そうとしても
なかなか反応してくれないこともあるようです。
その割には夢の詳しい内容はよく覚えていないところは
悪夢障害と区別できる点でしょう。
ドラマなんかで 怖い夢を見た後「キャーッ」と叫んで
目覚めるシーンがときどきありますが、
実際にああいう症状で悩んでいる方もいるんですね。

また、寝ているときに我知らずうろうろと歩き回る状態は
「夢遊病」という名前で通っていますが、
正式名は「睡眠時遊行症」と言います。
睡眠中に寝床から起きあがって歩き回ることが
反復する場合に診断が下されます。
通常は睡眠時間の最初の3分の1に多く起こり、
他の人が話しかけても目はうつろで、
視線は動かず、なかなか起きてくれない。
で、起きたときにも自分が睡眠中遊行していた記憶は
きれいさっぱり忘れている、というのが特徴です。
ただ、この疾患の場合、目が覚めてからの精神活動や
行動の障害はないため、どちらかというと
質の悪くない疾患といえるかもしれません。

最後に、一つだけ器質的な疾患が原因になっている
睡眠障害を挙げて終わりにしましょう。

「睡眠時無呼吸症」というもので、
肥満の人や、何らかの原因で喉頭(のどの声門の周辺)が
肥厚している人に起こりやすい疾患です。
この場合、眠りにつくと、気道が狭くなってしまうので
一時的に無酸素状態になり、せっかく深い睡眠に
入ろうとしても引き戻されてしまうのです。
正確な定義としては
「10秒間以上の呼吸停止が
 7時間の睡眠中30回以上認められ......」というもので、
こんなに多くの回数の無呼吸状態が起こるのでは、
なかなか安眠できないことが想像できるでしょう。
太り気味の方で、
夜中何度も息が詰まったようないびきを
睡眠中に何度も繰り返しており、
最近眠りが浅いせいか
昼間仕事をしていると疲れやすく眠くなる、
なんて場合にはこの疾患を疑ってもいいかもしれません。

以上、「睡眠障害」について色々と述べて参りましたが、
参考になりましたでしょうか。
年末年始、不規則な生活が続くことが多いと思いますが、
みなさまの安眠をお祈りして終わりにしたいと思います。

良いお年を。

1998-12-29-TUE


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