DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

「摘出された臓器のゆくえは?」


Q、去年おなかが大きくなって、
「やせなきゃ」などと思っていたら、
実はそれが良性の腫瘍で、
摘出したら2.8kgもありました。
大きくてめずらしかったらしく
主治医は、それを写真にとって見せてくれましたが、
私は実物がどうなったか気になってたまりません。
Medic須田さん、患者から切り取った腫瘍とか内臓とかを
お医者さんは、どうやって始末するのでしょう?
教えてください。よろしくお願いします。
(磯子)

お久しぶりです。
須田です。

正月にイトイさんの事務所に遊びに行ったり、
実家に帰って暢気に箱根駅伝を見たりして
暮らしていたのですが、下宿に戻ってみてビックリ!
なんと、マザーボードがハードディスクを
認識していないじゃありませんか。

で、あれこれ自分で試した挙げ句、
手に負えなくなって、製造元に送ると、
「ハードディスクが壊れていますので交換しました」
とのこと。
先週、パソコンが戻ってきたのですが、当然の事ながら
昔のデータはまったく残っていませんでした。
我ながら周到にもバックアップを取ってあったために、
なんとかなったものの、復旧するまでに多大な手間と
労力を費やしてしまい、連載まで手が回りませんでした。

そんなわけで原稿が遅れましたこと、
読者の皆様にお詫び申し上げます。


さてさて、
取られた組織がどうなるかというご質問ですね。
基本的には次の3通りしかないでしょう。

1)保存する
2)捨てる
3)何か別のことに使う

まず、保存する場合ですが、
とてつもなく珍しいものを除いて
長年に渡って丸ごと保存するようなことは
ほとんどないと思います。
丸ごと残されるとしても、外科の症例検討会で、
「先日の手術でこういう組織を取りました。」
というときの説明用のためで、
遠からず2の方に回ることになるでしょう。

また、腫瘍などの場合、
組織を顕微鏡で見ることができるように、
標本を薄く小さく切ったスライスを
プレパラートの上に乗せて染色した後、
固定した上で保存するということもあります。
腫瘍が悪性か良性かを判断するために、
顕微鏡で組織を見ることはとても重要なことなので、
ほとんどの腫瘍の切片は標本になります。
ですから、磯子さんの腫瘍の一部分のスライスも
おそらく標本となっているのではないかと思います。

さて、磯子さんも見せてもらったようですが、
手術で切除した組織が写真に撮られることもあります。
これはカルテに貼り付けたり、
報告用にするためのものと考えられます。

病院が、カルテを一定期間
(5年かな? 10年だったかな?)
保存しておく義務が法律によって定められているため、
ここに磯子さんの腫瘍の写真も張り付けられて
いるのではないかと思われます。
例えば、後日何らかの理由で
カルテの開示を求められたときなどに
「私は確かにこの人からこういう臓器を取りました」
ということを示すためにも
写真を残しておく必要がありますからね。

先日、某大学病院で、患者を間違えて
手術してしまったなんて例がありましたが、
ああいう事件の時でもこういう記録が使われる
というわけでしょうね。

さて、「捨てる」ということについてですが、
この手の医療廃棄物は大きな病院の場合、
業者が一括して引き受けているのではないかと思います。
その辺にホイッと捨ててしまったら
気味が悪いこともありますが、
感染症を振りまく原因にもなりかねませんからね。
その後は、焼却されることになるのではないかと思います。
(↑あくまでも推測ですが)

また、3のように組織を利用することもあるようです。
例えば、最近、某医療器具メーカーのCMで、
臍帯血輸血(さいたいけつゆけつ)
のことを宣伝しているのですが、
これは出産の際に出てくる胎盤に含まれている
造血幹細胞(←若くてイキのいい血液細胞とでも
考えておいて下さい)を集めて、
白血病などの悪性血液疾患の患者さんに
輸血する治療のことです。
造血幹細胞を取るためによく行われている
骨髄移植に比べて、何よりも良いことは
ドナー(←臓器や血液を提供する側)に余分な手間が
かからないということで、おそらくこれから
臍帯血輸血は活発に行われていくものと考えられます。


最後に、磯子さんの腫瘍の行き先についてまとめると、

・顕微鏡で見るために、腫瘍の組織の一部をスライスして
 標本が作られている。
・とてつもなく珍しい腫瘍でない限り、
 長年丸ごと保存するということはちょっと考えにくい。
・撮られた写真はおそらくカルテに貼られている。
・腫瘍組織であることを考えると、
 何か別の目的に使用されている可能性はまずない。
・残りはおそらく医療廃棄物として処理されている。

といったところでしょうか。

それでは、また。          

1999-01-23-SAT


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