「肩こり」」
Q、すごい肩こりですが、
それは、病院の何科で診療してもらえるんですか?
そして、どんな治療法なのでしょうか?
鍼にでもいくのがいいのかなと思ったのですが、
怖いので、病院に行きたいのですが。どうでしょう?
(肩ズッシリ雄 38歳)
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お久しぶりです。
Medic須田です。
前回の回答を書いた後、
1カ月ほど間隔が空いてしまいましたが、その間、
合コンに狂っていたからではなくて(←前回参照)、
ただ単に実習が忙しかったせいです。
この期間、フィラデルフィアの本田先生と同じように、
意識をなくした患者さんの蘇生を
手伝ってみたこともありましたし、
鬼コーチのような教育担当の先生から出される山のような
課題(←これが全部英語の論文だったりするんだな)と
向き合いながら七転八倒してたんですよ。
どのくらい大変だったかという一番良い例を書きましょう。
ある週の週末にテストが予定されていました。
で、さすがにこれは日程的にキツそうだというわけで、
先生に懇願したわけです。
すだ:「センセ、今週末、テストがあるもんですから……
(課題をちょっと少なくしてもらえないかな、
と言いたい)」
先生:「おうおう、忘れとったで。お前ら、週末は
テスト“しか”予定がないんやろ?」
すだ:「へ? は、ハァ
(↑予想してなかった反応に虚をつかれる須田)」
先生:「心配せんでもエエで。ちゃんと週末用の課題
用意してるさかい、来週までにやってくるんやぞ」
とまあこんな具合(笑)。
さて、言い訳はこれくらいにして、
本題に移るとしましょう。
今回の問題は、日本人にとって
あまりにもありふれているのですが、
これほど根深い問題はないという永遠のテーマ
「肩こり」です。
特に、女性で肩こりに悩まされている方は
とても多いことでしょう。
これに明確な回答を与えられたら、
きっと全国から合コンの申し込みが殺到するかも
(「いい加減にしろ!」って? ごもっとも)
などと不埒なことを考えつつも、
今回もいろいろと考えてみたいと思います。
まず、何科で診療してもらうかということですが、
「肩こり」というと、
常識的には整形外科の領域になるはずです。
というのはですねぇ、
一般的にいわれる肩こりというのは、主に僧帽筋という
首・肩・背中にかけて広がっている筋肉が
緊張した状態と考えられていますから、
専門は整形外科ということになるんですね。
そんなわけで、手元にある整形外科学の教科書
『標準整形外科学』(医学書院)
という本をめくってみますと、
ないんですわ、「肩こり」という用語。
「肩こり」という症状をもう少し広い意味にとって
「首・肩の辺りの張り・痛み」ということで見てみますと、
いくつか鑑別すべき疾患が載っていました。
曰く、
「炎症性斜頚」「頸椎結核」「頸椎椎間板ヘルニア」
「胸郭出口症候群」「慢性関節リウマチ」
「頸部外傷、その後遺症」「頸部脊椎症」
「頸椎後縦靱帯骨化症」「頚肩腕症候群」
などなど……。
確かにこれらの疾患のうち最初の二つ以外のものは
けっこう見かけるんですよね、
整形外科で実習していると。
でもねぇ、いわゆる「肩こり」の人の中で、
このうちのどれか一つに罹っている人って
ごくわずかでしょうね。だって、女の人のうち、
数人に一人は確実に肩こりですもんね。
その頻度に比べたらここに書いた疾患は
あまりにも頻度が少ないでしょう。
(念のため触れておきますが、上で述べた疾患も
全く考えられないわけではありませんから、
「自分の肩こりは通常の肩こりとはちょっと違うかも」
と思われた方は、整形外科を受診して、
以上の疾患でないことを確認する価値はあると思います)
「教科書にも書かれていないんじゃあ、
どうしようもないか」とあきらめて、
肩こりと気長に付き合ってもらうというのも
一つの手なのですが、
ここで文明の利器を用いるとしましょう。
ちょうど僕の手元に
『今日の診療』(医学書院)というCD-ROMがあります。
このCD-ROMは、どこの病院にもおいてある
『今日の診断指針』『今日の治療指針』
『治療薬マニュアル』などのマニュアルを
CD-ROM一枚に収めたものです。
こいつを使って、「肩こり」を検索してみることにします。
すると、出てきた出てきた、なんと127件。
でも、実際にこの中でもっとも役に立つ
「肩凝りの治療」に関する情報は、東京医科大学の
整形外科の先生が書かれた以下の文章でした。
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「まず病態、診断についてよく説明をする。
原因治療が原則である。狭義の頚腕症候群では
overuse、過労を避け、作業姿勢や環境整備を
アドバイスする。筋力低下や異常姿勢は体操を励行させる。
1)理学療法、体操療法、ストレッチングなどの指導、
ホットパック、低周波、マッサージなどの
物理療法を行う。
2)頚部牽引療法
姿勢異常や頚椎疾患に伴う頚肩腕症候群には有効な
方法である。一般に上記の理学療法と併用される。
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と、これを読んだ肩こりに悩む人々からは
「ほぅほぅ。で、アタシの肩こりには
どれが一番効きそうなの?」
なんて声が聞こえてきそうですね。
確かにこの文章は無難な書き方ではあるのですが、
どれが効くのか一向に分かりませんねぇ。
とりあえず、整形外科で
「肩こりの治療」として行なわれているのは
これくらいだということは分かりますけどね。
さて、ここで息詰まっちゃぁ、
Medic須田の名がすたるというわけで、
日本のものだけでなく、
広く世界を見渡すといたしましょう。
ちょうど僕の手元に、「Best Evidence」という、
カッコイイCD-ROMがあります。
こいつは、世界中の研究のうちで、
実際に診断や治療に役立つ研究の成果を
「Evidence」(←証拠・根拠)として
CD-ROMにまとめたものです。
実は、ICUで7週間実習している間、
このCD-ROMや、インターネット上のMedlineという
医学検索システムを使って、
死ぬほど調べものをさせられたんですわ。
で、せっかく習ったものだから使ってみようというわけ。
「須田のあんちゃん、そういうのを世間じゃ
“バカのひとつ覚え”っつうんだぜ」
なんて声が聞こえてきそうですが、そんなこと言わないで
もう少し付き合ってみて下さいな。
で、このCD-ROMを使って検索してみると、
shoulder,neck を扱った文献がいくつか出てきました。
この中でいくつか役に立ちそうなものを
検討してみることにしましょう。
ただ、モノが英語の論文で、まとめるのが
けっこう疲れる作業なものですから、
今回はこの辺で許してもらって、
次回、今のところ世界で認められている
「Best Evidence」
(↑うーん、カッコイイなぁ、このフレーズ)の成果を
とくとご覧戴くとしましょう。
せっかくICUでの実習が終わって
英語の論文から解放されたのに、
また自分からドツボにはまっていく
Medic須田なのでありました(嗚呼!)。
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