DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える
医事相談室」

「生理痛 その2」

その1を読んでいない方は、まずはそちらからどうぞ。
質問もここに残しておきます。

Q、突然こんな質問。友達とマジトークになり、
みんな素人さんなので答えが出ず終い。
そこで、せんせいに正解を求めてみたりして。
テーマは生理です。ダイレクトですいません。
みんなね、生理痛がひどいんですよ。
腰痛とか腹痛とか。かく言う私も
毎月憂鬱な日々を送ってます。

質問1:腰痛とか腹痛(いわゆる生理痛?)は
    どうして起こるの?
    会社に行くのも辛い。
    思考能力が著しく低下するし。
質問2:生理で血の塊(レバーみたいの)
    でる人多いんですよ。でね、
    東洋医学では『おけつ』
    (おが難しいのよ、けつは血)?
    とかいって血の流れが固まって出てくるらしい
    友達は卵だといってました。これってなんですの?

くわー、ディープな質問しちまいました。
でも、答えは出ないし、でも
結構みんな抱えてる所だし。
おせーてください

(かなえ)


Q、僕の彼女は生理前になると、とても機嫌が悪くなります。
ちょっとしたことで突っかかってきたり、
いつもだったら気にもとめないようなことで
泣き出したりすることもあります。
体調が悪くなるというのはよく聞くことなのですが、
彼女の場合、それ以上に精神的に
不安定になりがちなのです。
何か良い対策はないものでしょうか。

(女体の神秘が僕を悩ませる24歳)


------------------------------------

お久しぶりです。
Medic須田です。

しばらく「ほぼ日」に姿を現さなかった間に
何をしてたかというと、
来年からの研修病院を決めるために、
いくつか病院を見学して回っておりました。
学生ということで、丁重に扱っていただき、
各病院の関係者の皆様方には感謝感謝でございます。

まぁ、来年からは当直その他で
こき使われることになるんでしょうが(笑)
そのときはお手柔らかによろしく。

あ、そういえば、病院で色んな人から言われましたよ
「須田君の大学では”あんなこと”はないよねぇ」
ってね。

やだなぁ、もう。
僕はちゃんと節度をわきまえたセクハラ
(なんじゃ、そりゃ?)を
してますから大丈夫、大丈夫...........

おっと、思わず物騒なことを書いてしまった(笑)


さて、前回に続いて、
今回も「月経困難症」などについてのお話です。
今回は特に治療法に絞ってお話しするといたしましょう。

まずは「生理痛」の治療法から。
痛みを感じる原因として、前回、
プロスタグランジンという物質が
関与しているということをお話ししましたね。
となると、当然これを抑える治療薬があれば
話が早いわけですが、
これがそこらの薬屋さんでも買えるものなのです。
実は、アスピリン(これを含むものとして代表的なのは
バファリン)を代表とする
非ステロイド系消炎鎮痛剤の薬理作用はまさに
「プロスタグランジンの生成を抑えること」
そのものなので、
生理痛の治療薬としては打って付けのものです。
病院では、ロキソニンだのボルタレンだの
ポンタールだのといった薬を処方することが
多いのですが、これについても
ほとんど効果は同じです。

また、服用上の注意点ですが、
この連載でたびたび引用させてもらっている
『今日の診療』を参照すると、
「早めの服用ほど疼痛に対する効果が高い」
とのことなので、予定月経の前の「そろそろ来そうだな」
というときに早めに服用すると良いのではないでしょうか。

ただし、妊娠の可能性があるときには、
念のために月経が開始してから服用するようにしましょう。
また、アスピリンアレルギーなどがある場合には
当然のことながらやめた方がよいでしょう。

その他に、排卵を抑制する経口避妊薬
(いわゆる「ピル」というやつ)
が用いられることもあるようです。
こちらについてはそこらの薬局で
ホイホイと買えるものではありませんから、
もし希望があるならば、婦人科にかかって
お医者さんの話を聞いた上で処方してもらいましょう。
子宮筋腫がある場合や、肝・腎・心などに疾患が
ある場合には服用によって悪化することがあるので、
念のため注意が必要です。
ただ、一般的には、副作用は悪心(←気持ち悪くなること)
や嘔吐などが時々見られる程度のようですが。

漢方薬も最近は処方されることがあるそうです。
具体的には、温経湯・温清飲・桂枝茯苓丸加よく
苡仁(←「よく」は草かんむりに意)通導散・
五積散・桃核承気湯・当帰建中湯などなど。
前回話題に出た「お血(←「お」はやまいだれに於)」に
対する処方が多いようです。

(お血についてメールを下さった方、
 ありがとうございました。
 この場を借りてお礼申し上げます)


あと、場合によっては外科的治療が
行われることもあるそうです。
具体的には、内視鏡(腹腔鏡)で、
お腹の中を覗きながら
電気で神経を焼くという方法などです。

次に、精神症状を含んだ一連の症状の治療について。

前回も書きましたが、こちらについては、
「原因ははっきり分からない」
ということなので、効果のほどは
どれほどかは分かりませんが、
精神安定剤などを処方することがあるようです。
また、痛みが和らげばいかほどか
精神的な症状も和らぐ可能性もあるので、
取りあえず痛みを緩和するための努力を
してから考えるというのも良いでしょう。

それでは、今回はこの辺で........。

Medic須田
(以下「す」)
「ああ、疲れた。
今日はこの辺で終わって寝るとしよう」
読者代表某女性
(以下「女」)
「え? これで終わっちゃうの?」
「いいじゃん、一応、
一通りのことは書いたんだしさ」
「でもさぁ、ここに書いてあることくらい、
生理痛で悩んでる女の子だったら、
ちょっと調べればだいたい分かることじゃない?
それに、もしここで終わっちゃったら、
今回の原稿、全然面白くないよ」
「(「面白くない」の一言にちょっと
ムッとしながら)
うるせぇなぁ、ここんところ、
病院見学があったりして
忙しかったんだから、いいだろ、
この辺で」
「えーっ、ウソだぁ。須田さんのHP見たら、
病院見学って、
けっこうのんきそうな感じだったよ。
あんなので忙しいはずないじゃん」
「えっ? えぇと.....それはその......」
「ま、とにかく古今東西の文献を調べてみなよ。
もし良い情報が見つかったら、
いまだに一通も来ていない
“愛人志願”のメールも来るかもしれないでしょ」
「うーん........(と頭を掻きむしりながら
パソコンに向かう)」


............................


とまあ、そんな具合で、読者を愛する心と
ふらちな欲望に突き動かされて(笑)、
論文をあさってみたところ、
面白い情報を一つ手にすることができました。

どんな薬局でも合法的に手に入るもので、
しかも安価な薬物。
これが月経前の身体・精神症状を和らげる効果が
ある可能性が高いらしいのです。

「勿体ぶらないで、早く教えてよぉ」

ハイハイ。
実は、その薬物は、「ビタミンB6」なのです。

「へ? チョコラBBなんかに入っているあのビタミンB6?」

そう、そのビタミンB6です。
根拠となる文献は、前回の肩こりの時も登場した
英国の医学雑誌『BMJ』です。

BMJ 1999;318:1375-1381 ( 22 May )
Efficacy of vitamin B-6 in the treatment
of premenstrual syndrome:
systematic
review  
(↑BMJのHP http://www.bmj.com で
論文の全文を見ることができますから、
英語が得意な方はどうぞ)

という論文で、数々の文献を調べた結果、
著者らが出した結論は

「結果として、1日100ミリグラムまでの
 ビタミンB6服用は、月経困難症の
 治療に効果があるようだ」

とのことです。
ただし、著者らは、謙虚にも

「ちゃんとした治療方針を確立するには、
 もっと質が高くてインパクトのある
 研究が必要なんだけどね」

と断っています。

何よりもこの治療法の魅力は副作用が
ほとんどないことです。
この研究によれば、対象となった940人のうち、
副作用が出たのはなんと、たった一人なのです
(症状は末梢神経障害)。

ですが、日本の教科書には、ビタミンB6について

「1日2000ミリグラム以上の連用で末梢神経障害
 (しびれ、感覚異常、筋力低下)が生じる可能性が
 報告されている」

との記載がありますし、英国では薬剤師による
ビタミンB6の販売も50ミリグラムまでに
制限されているくらいですから、大量の服用を
避けるべきなのは言うまでもありません。

ちなみに、僕の手元にあるビタミンB製剤を見てみると、
1日服用量はビタミンB6については24ミリグラムと
なっています。
このくらいの量であればおそらく問題はないでしょうし、
毎日服用しても副作用が出るのは
非常にまれではないかと思います。

もちろん、鎮痛剤のようにどのような機序で効くかが
はっきりと分かっているものではありませんし、
臨床研究で「効果がある」というのは
「症状が緩和した人の割合が偽薬を飲んだ人より多かった」
というだけで、あくまでも統計上の話ですから、
効く人もいれば効かない人もいるはずです。
(ただ、おまじないやお札よりは
 絶対効くはずですからご安心を)

その点をご了承の上、各人の責任で服用してみて下さい。

また、もしよろしければ、2、3ヶ月服用してみて、
効果がどのようなものだったかを報告していただけると
嬉しく思います。

それでは、今回はこの辺で。

1999-08-14-SAT


戻る