Medic須田の 「できるかぎり答える医事相談室」 |
ひどい医者 その1 ◆ところで、ちょっと友人から質問がありまして。 ちょいと読んでみてください。 「ひどい風邪をひいたので会社の近所の クリニックに行ったんだ。 点滴打ってください、ってお願いして、 最後に精算したら、保険証があるのに、 8000円近く請求されちゃって。 『なんでこんなにするんですか?』と聞いたら、 『リンパ腺が腫れていたので検査しました。その代金と、 それから、保険が使えない薬を出しましたので、 その料金です』 って言われたんだよ。これっておかしくない? 『最初に、これだけかかりますが、いいですか、って 聞いて欲しかったです』 とは言ったんだけどね。もう払っちゃったあとだったから 今さら文句もなあ、ってとこなんだけど……。 その医者、会社の女の子が前に行って、 やっぱり8000円くらい、 保険があるのに、払ったんだって。 じゃあ、ぼる医者なんだろうって、あきらめたけど、 今後のために、こういうときってどうすればいいのか、 教えてほしいなあ」 ということなんです。 タクシーなら「タクシー近代化センター」に文句を言う、 とかあると思うんですが、こういうときって患者は どーするのがいいんでしょう? 教えていただけるとさいわいです (武井さん) こんにちは。Medic須田です。 僕はアルバイトで塾の講師をやっています。 この時期になると受験生の目の色が少しずつ変わってきて、 質問するときの熱の入り方も変わってきますし、 こちらの方も「応えてやらないと」と 気合いが入ってきます。 でもねぇ、僕が教育関係のアルバイトを初めてから 10年経つのですが、受験生の質は 大きく変わりましたねぇ。 一つは、全身に悲壮感を漂わせている受験生の比率が 圧倒的に少なくなったこと。 楽しいこと多いもんなぁ。 俺たちの頃は携帯もなかったし、 女子高生のスカートもあんなに短くなかったもん(笑)。 そしてもう一つは何よりも勉強しなくなった。 上位の子どもたちは相変わらず勉強してるんだけど (と言っても僕らの頃ほどじゃないな) 中どこから下の方の子どもたちは、 「え、お前、ホントに受験生?」 と呆気にとられてしまうような質問をしてくるように なりましたね。 英語なんか、僕が中学3年の時にやっていたような 教材でも、半分より下の大学受験生には 理解できないんじゃないかしら。 でも、逆にとらえてみると、 これはチャンスってことでもあるんですよね。 昔の受験生のようにわき目もふらず勉強すれば、 受験生全体のレベルは落ちているから、 けっこう良い大学に滑り込めるはず。 で、「大卒の就職が厳しい」って言っても、 僕の卒業した某大学の卒業生で 就職に苦労している奴なんか皆無に近いはずだもんな。 これからの日本は「シビアな学歴社会」になりますよ、 ホントに。 てなわけで、「ほぼ日」をご覧になっている 受験生の皆さんには、ぜひ受験勉強を頑張って欲しい、 と思う一塾講師の主張でした。 おっと、完全に話がずれておりますが、 ここからが本題。 今回の質問をしてくれた「武井さん」は、 ほぼ日の編集部の方です。 僕もいつもお世話になっているので、 感謝を込めて質問にお答えしましょう。 風邪の季節、多くの人が病院に行くことになります。 いきなり断言しちゃいますが、 その時にかかっちゃいけないのが 今回武井さんが質問してくれたようなお医者さんです。 じゃあ、一体、このお医者さんのどこが悪いのか 考えてみましょう。(ただし、質問で述べられた内容が お医者さんの診療内容を正確に反映しているという 仮定の下での回答であることをご了承下さい) まずは、このお医者さんは 「診療した結果、自分がどのように病状を考えているかを 患者に伝えていないらしい」 ということ。このことは、 「リンパ腺が腫れていたので検査しました」 という内容から推測できます。 「リンパ腺が腫れていたからどんな病気を疑うのか」 「その病気を調べるためになぜ検査が必要なのか」 それくらいは伝えないと、本来だったら必要ない (あるいは希望しない)検査まで されてしまうことになります。 そして、このお医者さんは 「治療の選択枝を全く患者に与えていない」 ということ。 このことは、お金を払ってから 「保険で使えない薬を出しました」と伝えたことで 推測できます。 日本の医療システムでは「国民皆保険」ということに なっていますから、多くの場合、 スタンダードな治療については保険の対象となるはずです。 もちろん、例外もあって、例えば胃潰瘍に対する ピロリ菌の除菌治療は未だに保険適用になっていません。 (米国ならこの治療は治療マニュアルに載っています) これには、製薬会社の利権が絡んでいるという噂も ありますが、まあ、今述べるべき内容ではないので 置いておくとしましょう。 さて、このような保険外の治療を仮に行うとすれば、 どのような注意が必要でしょう。 当たり前のことですが、患者が納得できるような 説明が必要なはずです。 「この症状には○○という治療と××という治療が 考えられます。○○の方は米国の治療マニュアルによれば 効果抜群の治療なんです。でも、日本では保険適用に なっていないもので××を使わざるを得ないんですが、 それでも○○を使われますか?」 最低でもこの程度の説明はしないと、 一般社会では非常識の誹りを受けかねません。 だって、そうでしょう。金払ってから 「あ、それは説明してなかったけど保険効かないんだ」 なんて言われたら、 「ふざけんじゃねえ! 何でちゃんと説明しないんだ!」 となるはずでしょう。 相手がお医者さん以外だったらの話ですがね。 もちろん、緊急の場合で、 患者側が納得できるような説明をすることが できないときもあります。 例えば、心筋梗塞で胸を押さえて 息も絶え絶えになって運ばれてきた人に 「えーっ、今から行う治療はですね、 1994年に『Lancet』という雑誌に発表された ○○という研究によると、心筋梗塞後の心不全の発症率を 3分の1に抑え、死亡率を50%低下させることが 知られています。で、他にも××という選択枝も ありますが、どないいたしましょう」 なんて言ってたら、こりゃもう論外ですね。 この場合は納得いくまで説明するよりも、 今必要な治療を優先すべきです。 しかし、今回の質問の内容からすると、 どう考えてもこんな緊急のケースではありません。 それなのに、ああ、それなのに、このお医者さんは 患者が納得いくような説明をしてから 治療を開始していない。 さらに質が悪いことに、 患者側が不満を述べても改める気配さえないようです。 一般社会でサービス業をしている人なら、 「申し訳ございません、こちらの方に 不手際がございました。終了しました検査に つきましては、今さら血液を戻すわけにも 参りませんので、ご容赦願うとして、 保険の対象となる治療をお望みでしたら、 先ほどお支払い下さいました料金をお返しの上 そちらの方に変更いたしますが、いかが致しましょう」 くらいのことは言うはずでしょう。 また、これはかなり大胆な推測で、 ちょっと気が引けるのですが、 「そもそもこのお医者さんがその保険外の診療をする 必要が果たしてあったのかどうか」 も疑問点として挙げられます。 「ひょっとしたら、必然性がないのを隠すために 説明を省いたんじゃなかろうか」 とさえ思わせるような気配を感じるのは 果たして僕だけでしょうか。 となると、「ぼる医者なんだろう」という、 武井さんのご友人の感想も 宜なるかな、ということになるでしょう。 さぁ、これ以上お医者さんの悪口を並べてしまうと、 来年就職した先で僕の身の置き場がなくなってしまう 可能性があるので(笑)、この辺で止めておきますが、 ともあれ、今回のキーワードである、 「患者にとって納得のいく説明をしてくれ」 というのは、近年、 “インフォームドコンセント(informed consent)” として話題になっていることに他なりません。 この言葉を覚えていただいた上で、次回は 「じゃあ、こんなお医者さんに出会ってしまったら どうするべきか」 を考えてみましょう。 今年もインフルエンザの季節が迫って参りました。 僕も今年は受験生なので、ワクチンをどこかで 注射してもらおうかと考えております。 皆様も(ワクチン接種も含めて)お体お気遣い下さいませ。 それでは、また。 |
1999-11-26-WED
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