DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

虫垂炎について

【質問】
今年2月、息子(現在、高校3年生)が
急性虫垂炎になりました。
その時の詳しい様子は省きますが、
けっこう我慢強い息子にしては珍しく、
相当の痛がりようでした。
その時は薬で散らし、一応おさまったのですが
また今月になってから「どうも痛いなあ」。
「え〜またあ?」と思いましたが、
診てもらったところ少し症状が出ているとの事で、
抗生物質を飲んでも薬ではこれ以上よくならないとのこと。

高校3年生でもあり、ひどくなってから切るよりは
(今のところは、薬を飲みながらですが
 普通に生活しています。学校も行っていますし)
計画的に入院して切ったらどうかと言われ
ゴールデンウイークに入院、手術の予定です。
私も同じような経緯で、中学生の時に
虫垂炎の手術をしましたし、
妹は小学生で虫垂炎どころか、腹膜炎にまでなってしまい
(小さい子は進みが早いらしい)
すごく大変だった思い出があるので、
息子の手術には納得しています。
さくらももこさんも、確か慢性虫垂炎だったですよね・・・。

ドクター(消化器外科専門です)の説明によると
「虫垂炎って原因ははっきりわからないんだよね」。
昔はよく「すいかの種を食べると盲腸になる」とか
言いましたよね〜。
インターネットで調べても、わりによくある病気みたいだし
まあ、即、命にかかわるような病気・・・ではない、
それなのに「なんでなるか」がわからないなんて
とっても不思議なんですが、いかがなものなんでしょうか?
もしよろしかったら、お話をお聞かせ下さい。

(ギョウ)



こんにちは
Medic須田です。

えー、実を言いますと、
まだ医師免許は取れておりません……

と言うと、ひょっとして

「えっ、試験に落ちちゃったの? 可哀想に。
 おねえさんが1年間養ってあげるから
 今日はアタシの胸で思いっきり泣きなさい」

などと先回りして心配してくれるこころ優しい女性も
いらしたかもしれませんが、
残念ながら(?)試験には合格しました。

それなのになんで免許が取れていないかと
申しますとですねぇ、医師免許を取るためには
「医籍に登録される」必要があるんです。
「医籍」って何かって言うと、
実は僕もよく知らないんですが(笑)、
字義通り意味を取って、きっと医者にとっての
戸籍みたいなもんだと解釈しています。

で、これに登録されるためには、
居住地の保健所にいろんな書類を
提出する必要があります。

その中には 

「成年被後見人・被補佐人として
 登記されていないことの証明書」
「麻薬、大麻若しくはあへんの中毒者に
 該当しないことの証明書」

などなど、わけの分からない書類とともに、
6万円の収入印紙を
貼り付けなければならない申請書があります。

というわけで、ただいまその書類を作成中のため、
医師免許は未だ入手できていないというわけなのです。


さてさて、今回は「急性虫垂炎」のお話です。
「虫垂炎」と聞くとピンとこない人でも
「モウチョウ」と聞くと
「ああ、あれね」とピンとくるかもしれません。
そうです。右の下腹部が痛くなって、救急車で運ばれて
手術をしなきゃならないこともある例のアレです。

よく聞く病名ですが、正確なことは
意外なほど知られていないようで
ギョウさんが疑問に思われたのも、もっともでございます。

最初は、「盲腸」と「虫垂」ってどこにあるのか、
ということからお答えいたしましょう。

腸を小腸と大腸に分けることができることはご存じですよね。
小腸はお腹の真ん中辺りをウネウネと走っておりまして、
それが終わると大腸に移ります。
大腸のスタートは右下腹部の辺りで、
ここから体の上の方に走りまして、
肝臓のところで体の左に方向転換し、
左の上腹部に当たったところで下に方向転換します。
で、最終的には直腸につながるというわけです。

ところで、、問題の「盲腸」や「虫垂」って、
腸のどこにあるのでしょう。

「決まってらい。右下だろ?
 オレ、盲腸の手術したから分かるぜ」

そうなんです。体験した人にはかないませんねぇ。
大腸のスタート地点の部分を「盲腸」と称します。
だから、盲腸は右下腹部にあるというわけです。
で、この盲腸の部分から、
チョロッとミミズみたいなのが
垂れ下がっておりまして、
これを「虫垂」というわけでございます。
大腸のスタート地点である「盲腸」から 
「“虫が垂れ下がっている”ので虫垂」
と覚えて下さると良いでしょうね。

最初に申しましたとおり、
一般には「モウチョウにかかった」って言いますと、
「虫垂炎」のことを指すのですが、
実際には「盲腸」というのは大腸の一部の
かなり広い領域(7センチ×7センチくらい)を
指す言葉なんですね。

で、この「盲腸」自体が炎症を起こすことっていうのは
あまりないんですよ、実際は。
例えば、虫垂が炎症を起こしたのがひどくなって
「盲腸」にまで広がる、とか、
腸結核やクローン病なんていう耳慣れない病気が原因で
この部分が炎症を起こすことはありますが、
「盲腸炎」だけが独立して起きるということは
まずありません。

さてさて、ここまで「盲腸」「虫垂」の言葉の意味を
学んだところで、ようやく本題の
「虫垂炎」のお話に参りましょう。
ここでも役に立つのは、僕の連載でたびたび顔を出す
『ハリソン内科学』というアメリカの教科書です。

アメリカ生まれの賢い賢いハリソン君に、
字幕付きでインタビューしてみましょう。
まずは虫垂炎の頻度について……。


「一生で言うと、よく起こるのは
 10代や20代で、男女差はないんだよね」

ほうほう。なるほどねぇ。
そういえば、質問をしてくれた「ギョウ」さん一族は、
みんな10代で虫垂炎にかかってるもんねぇ。
これは妥当な年齢ってわけなんだね。

で?

「時代的には、1940年代から1960年代にかけて
 すごく減ったんだけど、それ以降は変わってないみたい。
 ってことは、何か原因があったはずなんだけど、
 腸内細菌叢が変わったこととか、
 栄養状態が改善したこととか、
 ビタミンの摂取なんかが原因として考えられているね」

へーっ。

「でもねぇ、アフリカなんかの開発途上国では
 急性虫垂炎って少なかったりするんだよ」

何か変だなぁ。
栄養状態が良くなさそうなところの方が
少なかったりするのか。
さっきの話と矛盾するじゃないか。

「うーん。結局、何でその時代に減ることになったのか、
 正確な理由はよく分からないんだな」

そうかぁ...... 
あ、でも、そもそも急性虫垂炎ってやつが
何で起こるのか分かれば良いんじゃない?
そうすれば、質問をしてくれた「ギョウ」さんも
満足してくれるから一挙両得でしょう。

「そうだなぁ、とりあえずは虫垂の内腔が
 詰まっちゃって起こることは間違いないんだなぁ。
 原因が分かったケースでは、ほとんどの場合、
 粘膜に潰瘍を起こしているみたい」

そういう回りくどいことを訊いてるんじゃなくて、
ほら、“お前が犯人だぁっ!”みたいな悪者を
捜してるんだよな、僕は。

「いや、実はねぇ、潰瘍を起こす原因は
 正確には分かってないんだよ。
 一応、ウイルスが原因だっていう仮説はあるんだけどねぇ」

そうそう、そういうのが欲しかったのさ。
で、どんなウイルス?

「強いていえばエルシニアかなぁ。
 はっきりした証拠はまだないんだけど、
 状況証拠くらいならあるといえばあるかな」

そうかい、結局そこまでしか分かってないわけね…………。


という具合に、ハリソン君に尋ねてみても、
一番最初に悪さをする奴は、突き止められていないという
答えしか返ってこなかったんですが、
潰瘍化が起こった後に
「虫垂の中を詰まらせるものが何か」ということは
他の教科書にも書かれています。

一番よくあるのは「糞石(ふんせき)」によるものです。
「墓石」なら見たことはありますが、
「糞石」は僕も見たことがないので(笑)、
こいつがどんなものかは
想像するしかできませんが、食物繊維などを核にして
ウンコが固まって濃縮されたもののようです。

で、こいつが詰まりますと、
虫垂の中の圧力が高まりまして、
粘膜が血行障害を起こしてしまいます。
血行が悪くなると、
粘膜の組織が元気じゃなくなりますから、
細菌なんかも侵入しやすくなるわけですね。
これがひどくなると、しまいには
炎症を起こして膿が出来て
さらに細菌が侵入してくるという
悪循環が起きてしまいます。

とまあ、こういう具合でお腹が痛くなるというわけです。
(乳幼児や高齢者などの場合、
 痛みがハッキリしないこともあるようですが)


以上、虫垂炎のメカニズムについて
縷々述べて参りましたが、
「一番の悪玉」は分からないまでも、
「盲腸にぶら下がった短いしっぽ」である「虫垂」が
炎症を起こす大体の仕組みは
分かってもらえましたでしょうか。

皆さんに分かってもらえたことを祈りながら、
僕は明日の出勤に備えることにします。

次回は 「虫垂炎の治し方など」について述べましょう。

2000-05-14-SUN


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