第一回 日曜日の解放区「虫博士たち。」

みなさま、ほぼにちわ!
日曜日の解放区「虫博士たち。」へ
ようこそ!
今回が第1回目となるこのコンテンツ、
これからたくさんの虫好きのみなさまからの
投稿を掲載していくことになるのですが、
第1回目は! ‥‥投稿がありません。
それもそのはず、ぜんぜん告知してないですもんね。
つまんないこと言ってすみません。
そこで、今回はみなさまへの熱い投稿を呼びかけるとともに
「ほぼ日」まわりのふたりの虫好きの中年男性に
登場していただくことにしました。



まずひとりめは、出版社につとめる「柳瀬博一さん」です。
柳瀬さんの虫好きは「ほぼ日」ではけっこう有名なので、
ちょっと書いてくれませんかとお願いしましたら
ちょっとどころか、なにやらとってもディープな話題を
提供してくださいました。
そして、ふたりめは、
グラフィック・クリエイターの「森川幸人さん」。
近著である絵本『ヌカカの結婚』は
虫たちのとんでもない性の話をモチーフにしたもので、
虫についてはどうやら一家言ある、ということで、
そのあたりを、書いていただきました。
そういえばふたりとも独身ですけど、
虫ずきと未婚のあいだにはなんら関係はありません。
ないと思います。
というわけで、どうぞ!!!





ヒゲボソゾウムシのペニスを見る。
柳瀬博一 編集者 41歳 

わたくし、最近、頻繁にムシ採りに行っています。
趣味? いえいえ「立派な仕事」です。
というのも、担当著者の養老孟司さんと
「ムシの本」をつくっているからです。
『バカの壁』で有名な養老先生は大のムシ好きで、
最近ついに建築家・藤森照信さん設計の
私設昆虫館をつくってしまったくらいです。
わたくしも子供のころからムシをとったり
飼ったり眺めたりするのは、
わりかし好きなほうでしたから、
仕事にかこつけて毎週末のように
養老先生と山に出かけては、
捕虫網を振り回したり、木をたたいて
ムシを落としたりしているわけです。

その養老先生がずーっとはまっているムシがおりまして、
名前をヒゲボソゾウムシ、といいます。
ゾウムシというのは甲虫の仲間で
鼻がゾウのように伸びているので
そんな名前がついているのですが、
このヒゲボソゾウムシは別に鼻が長いわけではない。
7ミリくらいのちっちゃい青い色のムシです。
このちっちゃなムシがしかし実におもしろい。
ということを養老先生の後ろにくっついて
あちこちムシ採りに行っているうちにわかりました。

ヒゲボソゾウムシが見たい人は虫メガネをクリック!

養老先生によると、ヒゲボソゾウムシの仲間は、
「羽根はあるけれどもあまり移動しないムシ」で、
地域ごとでかなり独自に進化した結果
こまかく種類が分かれているらしい。
ところが、どれが違う種類なのか、
外見だけを見ただけではさっぱりわからないそうです。
なにせ小さいムシですし。
また、地味なムシなので研究が遅れていたというのもある。

で、養老先生は考えた。
ぼくがこのヒゲボソゾウムシの
種分化の実態をつきとめてやろう、と。
とはいっても外見だけ見ただけでは、
種類の判断はつかない。
しかし、実は決定的な判別法がある。
それはなんと、ゾウムシのペニスのかたち!
というのも、甲虫のペニスは堅い殻でできている。
よって、ちょっとでもかたちが違うと
もう交尾がうまくできない……らしいんですね。
カギとカギ穴の関係といっしょです。
ただし、問題はこのムシが7ミリしかないこと。
体内に入ったペニスは1ミリ以下! 
どうやっていったいこんなものを取り出して比較するのか?

そう思っていたら、養老先生、
さすがもともと解剖学者です。
顕微鏡を見ながら、全国各地で採集してきた
ヒゲボソゾウムシの標本を解剖し、
みごとペニスを取り出した。
で、今度はもともと半導体の検査に使う特殊な撮影装置で、
ずらり並んだゾウムシのペニスを拡大撮影して、
比較するわけです。

「ほら、柳瀬君、こうやって拡大すると、
 かたちがぜんぜん違うだろ。ねじれてたり、
 頭が大きかったり」

ヒゲボソゾウムシのペニスが見たい人は
虫メガネをクリック。
拡大したペニスがずらっと並んでおります



たしかに違います。
外見はまったく区別がつかないほど
似ていた各地のヒゲボソゾウムシのペニスは、
並べてみるとそれぞれかたちが違う。
とはいうものの、これで種類が判明したかというと
そんなに簡単な話じゃないらしい。
まだまだ調べることはたくさんあるそうです。

とまあ、ムシキングに出てくる
立派なカブトムシやクワガタムシじゃなくても、
ムシは観察してみると、
なかなかに奥が深く、おもしろい。
この夏も、何回か、養老先生のお供をして、
ムシ採りにはげもうかな、と思っておりますです。


養老孟司さんのさらなる虫ばなしを知りたいかたは
『私の脳はなぜ虫が好きか?』(日経BP)をお読みくださいませ。






「ムシ 分かり合えない友」
森川幸人さん グラフィック・クリエイター

正直言って、
自分はムシが好きなのか、怖いのか、よくわからないです。
不気味だとおもったり、カッコイイと思ったり、
さっぱりわからんと思ったり、身につまされたり、
尊敬してたり、軽蔑してたり、
飼いたいと思ったり、避けたいと思ったり
思いが複雑です。
これがたとえばほ乳類だったら、ほとんど、
好き!飼いたい!かわいい!
と即答できるので、
やっぱりムシは自分にとっては
複雑な相手なんだと思います。

それはそうと、
ぼくは以前からムシ宇宙飛来説をとっています。
つまり、彼らは宇宙からやってきたエイリアンだと。
もちろん9割方は冗談ですが、
全生物種より種類が多い、
ほとんどの生物種が海中に存在するのに、
(現在では)ムシは母なる海中にいないって。
脊椎動物があんなに苦労して陸上にあがろうとして頃、
すでにゆうゆう陸を飛び跳ね、空を飛んでいた。
不思議というか怪しいです。


以前、『ヌカカの結婚』という本で、
ムシの性行動をとりあげたんですけど、
そんときは、
愛やロマンや打算に左右されない、
純粋というか合理的というか、
身も蓋もない性の仕組みや行動には、
すっかり感心し畏敬の念まで抱いたくらいでした。
 



ぼく、だんごむし

このコンテンツで素敵なイラストを
描いてくださっているはらだゆきこさんも
実は虫好きということで、
さっそくはらださん私物の虫の絵本をお借りしました。
だんごむしって「むし」がつくのに
実は虫じゃないらしく‥‥。
コンクリートや石を食べないと体が育たないらしいことなど、
小さくてかわいい虫知識がつまってます。

イラストレーション:はらだゆきこ

2005-08-07-SUN



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