●虫にとっての時間。
|
海野 |
今から見て頂くのは、
僕が、子どもなんかによく見せる
ビデオのひとつです。
このビデオでは、
撮影時間を縮めたり、伸ばしたりして、
虫たちを撮ってみたんです。
「時間とは一体何だろう?」
と考えたときに、まあ、当たり前なんだけど、
虫とか植物にとっては、その時間の感覚は、
人間とは全然違うだろうと思うんです。
これは、ヤママユって言って
絹糸がとれるガなんですけれども、
15時間かかって繭を作るところを
30秒に縮めて撮影してあるんです。
(せわしなく動くヤママユの映像を見ています。)
|
糸井 |
犬みたい(笑)。
|
海野 |
昆虫って、幼虫からサナギになるときには、
すごく時間がかかるんです。
だからこのヤママユは時間を縮めた例ですね。
ところが、昆虫は大人になると、
すごく早く動きます。
目にも止まらぬスピードで飛んだりします。
だから、大人になった虫を撮るには、
今度は時間を伸ばしてやらなくちゃいけない。
時間を17倍に伸ばして撮ると、
こんなふうに見えます。
(飛ぶカブトムシの映像を見ています。)
|
ほぼ日 |
おお〜!
カブトムシがこっちに向かって飛んでくる!
|
糸井 |
吉田戦車に見せてやりたい!
|
ほぼ日 |
確かに、吉田戦車さんのマンガに出てくる、
カブトムシの斉藤さんみたいに見えてきますね。
*いろいろな虫の飛ぶ瞬間が、
こちらの動画でご覧いただけます。
とくに愛らしい、
「後肢(後ろ足)」に注目です。
(東京電力「海野和男先生の昆虫教室」
第8回「飛翔の秘密」より)
|
海野 |
次の虫は何をするかというと‥‥。
これは、足を上げるからわかりますよね?
|
糸井 |
おしっこだ! 犬みたいだ!
|
ほぼ日 |
糸井さん、さっきから
「犬」を例えに出してこられますね。
|
海野 |
これも17倍に伸ばしているとこう見えるんです。
これだと犬がおしっこするのと
同じに見えますよね?
普通だと、ピッと出ちゃうんで見えないんです。
|
●66倍のスローで虫の動きを見る。
|
海野 |
僕は、常に虫になりたいと思って
写真を撮っているんですが、
僕が虫になったとしますと、
僕のようにやせた小さな人間は、
大きな虫に蹴飛ばされるんだろうなあ、
なんて想像してしまいます。
今、見ていただいているのは、
カブトムシが木に樹液を吸いに行ったら、
別のカブトムシに、邪魔だよ!
ということで、蹴落とされるところですね。
|
糸井 |
あ、いともたやすく足蹴に!
ただ、邪魔なだけっていうのが、
ほんと分かりやすい(笑)。
|
海野 |
カブトムシは角があるでしょ?
角があるとけんかしたくなるんですよ。
だから必ずオスは出会うとけんかするんですね。
それで、投げ飛ばされて
落ちると痛いじゃないですか?
だからたいていの場合はですね、
投げ飛ばされると、落ちるときに
ショックをやわらげようと、
翅(はね)を開くんですね。
|
全員 |
あ、開いた、ほんとだ!
はぁぁ〜〜〜(感心)。
|
海野 |
次は、子どもの大好きな、
ヘラクレスオオカブトムシ。
やっぱり角があると、
戦いたくなるみたいです。
だから角みたいなものは、
あまり持たない方がいいですね。
人間も刀とか持つと、
すぐ振り回したくなりますから。
ナイフもカッコいいけど、
あんまり持たない方が
いいかもしれない(笑)。
|
ほぼ日 |
次のカブトムシは、
手が長いですね!!
|
海野 |
このカブトムシは、竹にいるカブトムシで、
ノコギリタテヅノカブトと言います。
手が長くて角が細いでしょ?
この細い角で投げると、
角がほんとに折れちゃうの。
それで、角を使わないで
手で投げ飛ばす。
|
一同 |
えっ、角はなんのために?
(ざわざわ)
|
糸井 |
飾り?
|
海野 |
飾りだね(あっさり)。
|
糸井 |
(次のクワガタ対カブトムシを見て)
いい艶してるね〜、へへへへへぇ(笑)
|
ほぼ日 |
本当に、磨いたみたいな艶ですね。
クワガタよりカブトムシの方が、
やっぱり強いですか?
|
海野 |
さあ、どうでしょう?
さあ、どうでしょう?
がんばってますね〜。
|
一同 |
あっ!
クワガタが負けた‥‥。
|
海野 |
カブトムシの角が入れば、
やっぱり問題なく勝ちますね。
勝つとですね、
体を震わせるんですよ。
さて、次のカブトムシは‥‥、
下から入れて投げ飛ばす!
‥う、おっと、きた。
|
糸井 |
相撲解説みたいですね(笑)
|
海野 |
そうですね(笑)
次のクワガタは、
いかにも、悪そうな、
オオヒラタクワガタ。
これに噛まれたら痛いですよ、すごく。
これは、最初に角を突き出して、
どのくらい相手が強いか、
相手の大きさを測っているんです。
|
糸井 |
ディバイダー(※)みたいなものですかね?
※製図・測図などに使用する、
二本の針状の脚をもつ分割器のこと。
|
海野 |
うん、そうですね。
|
糸井 |
なんか、プロレスって
こういうところから来た気がするねー。
|
海野 |
そうですね。
あと、クワガタって、
実は下も上も見えるんだよね。
目玉がね、両方についている感じです。
|
一同 |
へえええ〜〜〜〜!
※いろいろな種類の虫のプロレス、
こちらでご覧ください。
(東京電力「海野和男先生の昆虫教室」
第23回「昆虫チャンピオン」より)
|
海野 |
次はバッタなんですけれども。
このバッタは、あまりにも早いので、
時間を66倍に伸ばしています。
|
一同 |
うわぁ〜‥‥きれい〜〜〜‥‥。
(注:虫を見ています。)
|
海野 |
トノサマバッタが、
地面をけっ飛ばすところです。
|
糸井 |
マサイ族みたいだなー。
|
海野 |
草原に住むバッタですから、やっぱり。
草原に住むものは、人間も虫も、
跳躍力が強くなるんですね。
|
糸井 |
見通したいんですねぇ。
|
海野 |
次は、トンボが産卵をしているところです。
稲を苅ったあとに来る
アキアカネというトンボです。
このトンボは、
昔はあまりいなかったと思うんですが、
日本人が今みたいな、
冬に田んぼの水を取るような稲作を始めてから、
このトンボが増えましたね。
このトンボは、卵でずっと越冬ができて、
ほかのトンボは過ごせないもので、
それでこのトンボだけが増えたんです。
また、産卵期になると、
自分が生まれた田んぼの近くに戻ってきて
卵を産むんです。
|
糸井 |
ふ〜〜〜〜む。
|
海野 |
このトンボの映像も、
66倍に伸ばしているんで、
もうね‥‥なんかね、かったるいね。
|
ほぼ日 |
そ、そんなことないです、
だいじょうぶです(笑)。
ほら、来ますよ!
|
一同 |
うおおお!
すごい!
カエル!
くくくくくっ〜!
(驚きと気持ち悪さと面白さで、
もはや全員、表現力がなくなってきております)
|
糸井 |
今、カエル、隠れてたんだよ〜、くっくっ。
(この映像について補足しますと、
田んぼの泥の中に隠れていたカエルが、
交尾中のトンボをジャンプしてキャッチする、
66倍のスローな映像です。
ジャンプして体を伸ばしたカエルが、
さらに長い舌を伸ばし切って、
トンボをパクリとキャッチする様は、
とても人間の目だけでは
見ることのできない映像です。) |
ほぼ日 |
これは、狙ってとられたんですか!?
|
海野 |
もちろん、狙ってとってますよ。
|
ほぼ日 |
カエルがいることをわかって、
この瞬間を待っていらっしゃったんですか!?
|
海野 |
そうです。
カエルがトンボを捕るとこを撮りたくて、
狙って撮りました。
しかもこれは、写真じゃ撮れないんだよ。
何回か写真でもトライしたことがあるんだけど、
ぶれるんですよね。
しかも、どこにくるかわからない。
いろんな器械とか、
設置しておくわけにもいかないですしね。
|
●虫の見る世界、男女の見分け方。
|
海野 |
次は、菜の花を人間が見た目と、
虫が見た場合の見え方。
虫が見ると、花の真ん中が
色が変わって見えるんです。
つまり花は自分たちの受粉のために、
虫に、蜜のありかを教えないといけないんです。
そのために、虫の見える色をつけてるんですね。
ここに蜜があるよ、って。
|
糸井 |
つけてるのは誰がつけてるんですか?
花が?
|
海野 |
それは、花がつけてるんですね。
人間が見える花でも、パンジーみたいに、
花の中心が色濃くなってるのありますよね。
あれは全部、チョウやハチに、
蜜のありかを教えるためのものです。
|
ほぼ日 |
虫の目で見ると、
こんな強い色になっているんですか〜。
|
糸井 |
目印なんだ。
|
海野 |
紫外線だとこう見えますね。
花の中心部が、紫外線の吸収率が違うんです。
この色自体は、ほんとかどうかわかりませんよ。
|
ほぼ日 |
このくらいのコントラストで、
見えるということですね。
*虫を誘惑する花の色を、
虫の目でこちらからご覧ください。
(Windows、Macともに、Windows Media Playerで
お楽しみいただけます。)
|
海野 |
モンシロチョウを紫外線で見ると、
オスとメスが一目瞭然で違うんです。
赤紫と白というくらい、
メスオスで、はっきり色が違って見えます。
だから、オスのチョウが、
メスを見つけるときに、
性別を間違えないんですね。
|
糸井 |
間違えないんだ。
|
海野 |
僕らは、この頃はちょっと、
間違えたりすることもあるけどさ(笑)、
だいたい街歩いてて男か女かわかるでしょ?
そういうサインがちゃんと虫にもあるんです。
|
ほぼ日 |
確かに、子どもの時は、
性別を教えられなくても、
裸を見なくても、
男女の意識がありましたよね。
不思議ですね〜!
(対談は次週に続きます)
|