『藝を盗む』
糸井重里さま
メールでたびたびおさわがせしましたが、
オーダーメイドのジーンズが届きました。
昨日は、旅の疲れをとってもらうために、
お風呂に熱いお湯を張って、ゆっくりつかってもらったり。
垢もさぞついたろうと、
洗濯機のなかに入っていただいたり。
長谷部の家のものになるわけですから、
相性もあるので、とりあえず乾燥機にかかって、
身の丈をたしかめたりしてもらいました。
せっかくのオーダーなのですが、
素人なのでさっぱり流儀がわからず、
「イトイ・モデルで」
というおおざっぱな頼み方をしたのですが、
ふっと気がつきました。
こうして先輩たちのスタイルを盗んできたのだなあ、と。
40づらをさげて、いったい何をいっているんだと、
笑われそうですが、このごろになって、
「意外とわたしって素直なのかも」(笑)と思います。
一般的に言えば、我が強く、反抗的で、
あまのじゃくな性格ですが、
イトイさんや、中沢新一さんのスタイルには、
鵜の目鷹の目、「吸収したい」とどん欲だった気がします。
それこそ15年くらい前に、糸井さんがおっしゃったことを、
今でもかたくななくらいに覚えているのは
その証拠でしょう。
取材旅行に熱川に行って、
○当時のアシスタントの石井さんと、ふたりで
「ユンケル黄帝液」というネーミングが
いかに優秀かを解析していたら、糸井さんが、
ベンツとBMWのたとえ話をしてくださったこと。
○植物園のロープーウェイ下の売店で売っていた
おみやげものの「はんこ」について、
「重宝しますよ、一生物ですから」と
おばさんの名コピーに解説をしてくださったこと。
○朝食のとき、白いごはんにいきなり生卵をかけたら、
「それじゃあ、白いごはんと、卵かけごはんの
両方をたのしめないじゃない」
とさとされたこと。
今でも鮮明に思い出します。
ことばとの距離感の設定について、
じぶんとは、全くちがった回路が
世の中にはあるのだなあと、
教えてもらったと思っています。
新学期の季節になりました。
私も教師のはしくれになり、学生を迎えます。
知識ではなく、生きるヒントのようなものを、
ひとつかふたつでも伝えられたらいいなと、
このごろ考えたりします。
ジーンズ、大事に育てます。
それでは、また。
三月十七日
長谷部浩
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