Drama
長谷部浩の
「劇場で死にたい」

高度3600mの都市(その3)

またしても高山病に怯える私たちです。

ラサ空港に、中国南西航空の飛行機がどしんと着きました。
機内でも、役者さんたちは、
劇団から配られた酸素ボンベを取り出して、
中国語の取扱説明書を解読しようと試みたり、
気の早い人はマスクを口にあてて、深呼吸。
「これって効いているの?」と回りに尋ねたり。
酸素って、匂いもしなければ、味もしないんですよね。
じぶんだってわからないのに、
聞かれたってわかるわけありませんよね。

普通に考えれば、身体能力にすぐれた役者さんたちです。
しかも、じぶんのからだの状態を意識化して
検証するのも仕事です。
それだけにナーバスになるのもわかります。

で、到着。
タラップから空港の建物には、歩いていくのですが、
だれもが深呼吸しながら、のろのろ、のろのろ。
チベット戯劇院の歓迎セレモニーも、気もそぞろで、
ひたすら、「だいじょうぶか、だいじょうぶだよね」と
じぶんのからだに問いかけていました。
確かに空気は薄い。
でも、塵が少ないせいか、山の向こうにある青空が、
抜けるように青い。気がせいせいするのです。
その青さにこころを奪われて、ぼーっとしていると、
貨物の受け取りのところで、だれかが、
こんな話を聞き込んできました。

「日本の若い女の子が、おじいさんと
 空港ロビーで待機してる。
 1週間前にきたのだけれど、1日目は快調、
 なんてことないと思ったら、
 3日過ぎたあたりから、
 急に激しい頭痛に見舞われて入院。
 今日、ようやく、成都に引き上げるところだ」

昨日服用した薬で、両手はしびれています。
(考えたら、これもよく平気で耐えたと思いますが)
でも、からだは大丈夫、頭も痛くないと
ほっと一安心していたけど、
そうか、3日目に発病することもあるのか。

そんなに重くもないボストンバックを持ち上げて、
3歩あるいたら、完全に息があがりました。
はあ、はあ、なんてもんじゃない。
ぜい、ぜい、ぜい、ぜい。
がたいの立派な阿部一徳さんも、
肩で息をしています。
こんなことでお芝居ができるんでしょうか。

1999-10-17-SUN

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