糸井 あの‥‥先生にこんなことを言っていいのか。
上田 どうぞ。
糸井 ドラッカーが言ってることのなかに
時間管理についての話が、あるじゃないですか。
上田 ありますね。
糸井 あれ、ぼく‥‥あんまり興味ないんです。
上田 ああ、1日の時間を、何にどう使ったか、
リアルタイムに記録して、再検討しろってやつ。
糸井 はい。
上田 で、成果を生んでない、
時間の浪費にしかなっていない仕事を見つけて、
それを直ちに排除しなさいと。
糸井 ‥‥おかしいですよね。
上田 うん‥‥まぁ。
糸井 そんな時間を切り刻むように管理するって、
少なくとも、人体にとっては変でしょう?
上田 そうですねぇ。
糸井 だからぼくは、ドラッカーのなかでも
そのへんは見ないようにしてるんです(笑)。
上田 ドラッカー本人は、意外とモダンだからね。
糸井 あ、そうですか。
上田 実際は、めちゃくちゃ理屈っぽいんですよ。

とくに初期の2作、
『「経済人」の終わり』『産業人の未来』
そうとう「理屈」だよね。
糸井 ああー‥‥なるほど。
上田 で、ドラッカーは、そのへんを指摘されると
「若気のいたりで」みたいに言うんだな。
糸井 そうなんですか(笑)。
上田 だから、経営手法なんかでも、
「全体は部分の和ではない」とか言いながら、
要素に分解して組み立て直すような
モダンな方法論を、
ずいぶんやってるんですよ、ドラッカーは。
糸井 基礎の部分は、そうなってるんですね。
上田 そう、そうなの。
糸井 でも一方で、すごく印象に残ってるんですけど
『傍観者の時代』って
「おばあちゃんの話」から、始めてますよね。
上田 うん、ドラッカーの「まぬけなおばあちゃん」ね。
糸井 そう、まぬけでかわいいおばあちゃんなんだけど、
その行動が、
じつは20世紀の本質をつかんでいた、という。

ああいう始めかたって、
やっぱり「ドラッカー」だなぁ‥‥と思いました。
上田 そうですね。
糸井 ドラッカーの、モダンで語られる側面とはちがう、
「人」を描くことで、
時代の本質や意味を伝えてるというか‥‥。

すごく魅力的だなと思うんです、そういうところ。
上田 ドラッカー自身、あの本は好きみたいですね。

新装版の序文のところでも
「この本がいちばんおもしろいって言われるのが
 うれしい」って書いてますから。
糸井 だからこそ、
ドラッカーの「モダンな側面」だけを抽出した
ドラッカー原理主義みたいな会社では、
オレ、働けないだろうなぁ‥‥と言いますか。

仕事の効率は上がるかもしれないけど。
上田 うん、うん。
糸井 ウチの会社のことでいうと、
遅刻しても、べつに目くじら立てて怒らないし、
好きで残業してるやつのことを、
好きなんだなってことで、済ませちゃってる。

もちろん「法律に触れない範囲で」ですけど、
管理された時間刻みでやるより、
そのほうが、
おもしろい場所になりそうな気がするんです。
上田 それは、そうかもしれないね。
糸井 ドラッカーからは、たくさん学ばせてもらったけど、
そのあたりは「応用」と言いますか、
自分たちなりの「カスタムメイド」の部分ですよね。

ドラッカーや吉本さんの言ってることを
ベースにはしてるんだけど、
こんどはそこから
どう、サステイナブルな組織にしていくかは、
ぼくらの発明にしなきゃならない。
上田 うん、うん、うん‥‥なるほど。
結局「それぞれのドラッカー」の話になるんだな。
糸井 そうですね。
上田 ドラッカーと、その人の実体験が結びつくんだよね。

‥‥ぼくの知っているドラッカー好きの女性で、
本に線を引っ張りすぎて、
これ以上、線を引く場所がなくなっちゃったとかで、
『経営者の条件』
3冊も持ってるっていう人が、いるんですよ。
糸井 すごいですね(笑)。
上田 その人、大阪でOLをやってた人なんですけど、
女性が気軽に入れるメシ屋がない‥‥
つまり、その、なんだ、
しゃれたイタリア料理屋みたいなお店ばっかりで
サバの塩焼き定食だ、サンマ定食だって
そういう種類の店がないのはおかしいと言って、
玄米カフェってのを、始めたんです。
糸井 ほう、ほう。
上田 で、開業してから2〜3年の時点で、
いちおう、順調にはいってたらしいんですよ。

でもね、もうちょっと、うまくいかないかな、
従業員が一丸となって働けるような、
そういう店にできないかな‥‥と思ってるときに、
ドラッカーに出会ったんですって。

で、「自分たちの強みに気付け」って言葉に
感化されちゃったらしいのね。
糸井 ほほう。
上田 従業員の「強み」に注目するようになって
それによって人材の配置を考え、
成果をあげることにつなげていったんです。

従業員どうしも、お互いの強みを認め合って
それを活かすようにしていったら、
なんだ、その後の4年間で、
売上が10倍とかに、なったとかで‥‥ね。
糸井 はー‥‥。
上田 ま、それだけわかりやすい成功のケースも
珍しいのかもしれないけどね。
糸井 以前、ユニクロの柳井(正)さんに
「それ、どこで勉強したんですか」って聞いたら
「本です」っておっしゃってたんです。

いま思うと、そこにドラッカーがいたんですよね。
上田 はい、はい。
糸井 でも、それを読んだ若い時分には
よくわかってなかったって、言っていました。

でも、わかってないなりに、
たとえば「顧客の創造」って言葉を
ひとつ憶えるだけで、
地方都市で、
家業の洋服屋を継いだばかりの若い経営者は、
その言葉をたよりに、
しばらく、頑張れたんですよね。
上田 ああ‥‥なるほど。
糸井 ドラッカーって、そういうことかもしれない。
上田 うん?
糸井 つまり、すごく魅力的じゃないですか、言葉が。
学者として、他と比べて、圧倒的に。

小説を読むような感じに近い‥‥と言いますか。
上田 やっぱり「作家」なんだよなぁ。
糸井 ああ、なるほど。
上田 だから、人間観察もするどいわけ。
糸井 うん、うん、うん。
上田 希望は小説家になることだったんだからね。
実際、小説も書いてるし‥‥2作。
糸井 あ、そうなんですか。
上田 うん、ぼく、訳してないけど(笑)。
糸井 つまり、大きな意味での
「芸術家」だったのかもしれませんね。
上田 うん‥‥そうかもしれない。

親日家のドラッカーは、日本でもたびたび講演会を開いた。
テーブルにちょこんと座って話すのが、ドラッカー流。






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illustration : NJTP


2009-09-28-MON

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN