Drama
バンドマンという幸福な商売
沼澤尚さんと、とてもホンネな話。

沼澤さん、お久しぶりです!
まずは前口上から


Photo:Toshihiko Imai
(Rhythm&Drums magazine)

ちょっと長いですが前口上であります。
いきなり対談を読むのも
おすすめしないわけではないのですが
明日から3連休ですし、
じっくり読んでみませんか?

ほぼ日の「目次2」にある休火山
(いろんな事情でお休み中の連載ページ)という場所は
見たことがありますか?
ここに「沼澤さんとタカタカタカ。」という
2000年12月に掲載されたコンテンツがありました。
当時、『Beautiful Songs』でドラムを叩く
沼澤尚さんを観た、darlingが
『The Seventh Direction』という沼澤さんの本の
帯を書いたことがきっかけで生まれた
コンテンツでした。
その本にdarlingはこんな帯を書きました。

 手をつなぐだけで満足なの、というような恋は、
 手をつなぐだけなのに、手をつなぐだけなのに、
 宇宙の果てまでぶっ飛ばしてくれるような恋だ。
 あのドラミングというのは、そういう恋なのだろう。
 糸井重里


それから、沼澤さんと「ほぼ日」は
「電波少年的放送局の62時間」でゲストに
出ていただいたりと
いろいろとおつきあいがあったのですが
今年の2月11日にブルーノートで行われた
沼澤さんの参加するバンド
『Nothing But The Funk 』を観た直後の
darlingからほぼ日乗組員全員に宛てて、
異様に興奮したメールが届きました。

------------------------------------
Subject: 沼澤さんのライブ、ものすごかった!
Date: Tue, 11 Feb 2003 00:32:40

ほぼにちわ。イトイです。
9時30分から、11時30分まで。
どすーんと、びっちり。
もう、なんつーの、あきれた!
実力のあるバンドって、おもしろいように乗れるね。
ほんとにすごかったんです。
JAZZって(ファンクかな)、
こんなふうに進化していたんだと、
知らされました。
すばらしかった!!!!!
沼澤尚、おそるべし。
------------------------------------


翌日、別のライブに向かうdarlingに
「そんなにすごかったんですか?」聞いてみると
「すごいってもんじゃないんだよ。
 今までいろんなライブを観てきたりしたけど
 もしかするとベスト1に入っちゃうかもしれない。」
と、まで言わせるライブだったらしいのです。
今までdarlingが観てきたライブっていうのは
途方も無い数でありますから
その中でもかなりのインパクトがあったのでしょう。
これは「ほぼ日」としても
「沼澤さんとまた何かしたいっ」って思い始めた矢先、
数々のセッションをしているドラマーである沼澤さんが
参加しているバンドの中の一つである
「J&B」というバンドの新作
「THE TIME 4 REAL」というアルバムが出ることになり、
そのアルバムに対してdarlingが
コメントを書くことになりました。

そこにdarlingはこんなことを書いてます。

バンドマンは最高の商売。
「まず、おれたちが気持ちいい」が気持ちいい。

沼澤さんからサンプルをいただいて、聴きましたよ。
もう、うらやましいのなんのって。
ぼくは、人間にとって最高の商売はバンドマンだと、
かねがね思っていたのです。
とにもかくにも自分がたのしいことが、人をたのしくする。
しかも、それがメシの種になるなんて、ひどい。
虫がよすぎる。
ステージの上で、バンドマンどうしが顔を見合わせて、
うれしそうに何かたくらんでいるのを見ると、
「ああ、あの役を、俺はやってみたかったんだ」と、
いまでも思春期の男のコのような嫉妬心にかられるもの。
このアルバムには、バンドマンたちのバンドマンぶりが
山ほど詰まってるわけで。
憎らしいったらありゃしないのです。
選曲なんかも、楽屋でわいわいと決めた感じで、
ついつい聴いているぼくも、
このバンドの仲間になったような気になっちゃう。
こんなにうらやましいバンドマンたちの晩年に、
人並みの不幸がありますように。
このままじゃ、たのしそう過ぎるもん。
糸井重里



今回、「ほぼ日」では沼澤さん参加最新アルバムである
J&B「THE TIME 4 REAL」
「ほぼ日」だけのとびっきりな特典をつけて
限定1000枚で販売します。
手前味噌ですが、すごい特典もりもりだくさんで
用意したので、この機会にぜひ、お求めください。

それでは、収録時間がMD3本分になった
対談をお送りします。
まずは、「THE TIME 4 REAL」について
darlingがコメントの裏で思っていた
沼澤さんに対しての
ちょっと厳しい指摘から始まります。



第1回
この二人の関係だからここまで言えるんです。
「音楽は楽しいぜ!」って、
当たり前のこと言って売れるレコードですよ
糸井 今回のアルバム
J&B「THE TIME 4 REAL」って
沼澤さんの中でのいろんな活動の
ひとつだと思うんですけどぼくは、聞いてみて
友だちが集まったみたいな、
楽しさを感じてて、
ぼくがレコード屋の店長だったら、
POPカードに、
「音楽好きなら、買っていく。
 ミュージシャンが、買っていくアルバム。
 真剣に聴いても、バックで流しっぱなしに
 してもいいよ」
とか書いちゃって、
売りまくると思うんですよ。
その一方で感じたことがあって
まずはその部分について
話したいと思ってるんです。
頭の1曲を、オリジナルのボーカルで
スタートしてるでしょ。
沼澤 まず、これはすごい余興なんですよね。
糸井 ですよね。
沼澤 でもね、
「真剣に余興やんないとダメだよね」って
やってんです。
糸井 でも、それは……無理ですね。
それって、損してますね。
沼澤 なるほど。
糸井 余興があったら、本気だと思われないんですよ。
沼澤 でも、本気で余興やってんですけどね。
糸井 ダメです。余興は、商品にしちゃダメです。
沼澤 ライブだけにしとかなきゃってことですね。
……それはいいこと聞いたな。
糸井 これは沼澤さんにしか
言えないですけど
余興をやるつもりなら、
余興だけで集めないと本気さが
濁っちゃうと思うんです。
楽しすぎちゃってますね、本人たちが。
沼澤 いや、メンバーにも言います。言える。
糸井 そうですか。それさえなければ……。
沼澤 完璧だったの?
糸井 完璧っていうか、
すごく力のあるアルバムなのに、
楽しんでるっていうこともわかるし、
力がある人たちが集まって、
楽しくやってるっていうのは、
やっぱり、力があるんですよ。
で、ボーカルがあるがお陰で……。
沼澤 損してる、と。
それは、じゃあ、メンバーたちに言います。
っていうか、なるほど〜。
糸井 これ、ボーカリスト入れても
ダメだったと思うんです。
沼澤 ボーカリスト入れちゃったら……。
糸井 ダメですよね。
沼澤 「ボーカリスト入れるんだったら
 自分たちで歌おうぜ」になったんです。
糸井 あー、それはね、ボーカルをね、
やろうと思ったことがもう間違いです。
歌は別に、余興だけのために一個作る。
買う人が買えばいいってすればいいんだけど。
沼澤 歌うの好きだからやっちゃったんだろうなー。
なるほどね。
これが自分たちのだって言うんだったら、
それはライブだけでやっときゃいいんだって。
糸井 映画俳優が、レコード出しても売れないでしょ。
沼澤 あーん。
糸井 映画俳優としての力あっても。
レコードのセールスには
比例しないじゃないですか。
そういうふうに、聞えちゃう。
やっぱりボーカルを入れるときには、
必ず作詞も必要になるし、
曲もボーカル用の曲になるし
っていう緊張感が、やっぱりないですから。
そこは、大損こいたなって。
ボーカルなしでこのレコード聞いたら、
楽しいよー。
かけっぱなしでいいよ、車で。
沼澤 そっか、じゃ、そのMD作ります。
「いっぱいいっぱい」のすごさがある。
2曲目からで、十分モトが取れますよ。
糸井 頭からボーカルが入ってますよね、
あれで景色決まっちゃうんですよ。
沼澤 景色を決めるためにやったのが、
失敗だったんですね。
これも、真剣にやってるぜっていうので、
途中に入れたくなかったんですよ。
逆にね。なるほどね。
それは次のいい課題ですね。
糸井 ボーカルを入れてやるんだったらやるで、
ぜんぜん構わないですよ、
ライブでやるのもいいし、
そういうアルバムを作ることもありだと思うし。
沼澤 一曲目でバーンって行くはずだったのが、
損したって感じ?
糸井 それ以外の曲の中で、
楽しーでしょー!?っていうのが。
沼澤 演奏だけでね。
糸井 うん。
いい意味で、無思想なバンドじゃないですか。
「ノンポリだ」っていうか、
「俺たちはこう行くぜ」っていう。
「音楽が楽しー!」って感じ、
ものすごくしますよね。
沼澤 逆に
「音楽だけでそんだけのことが
 言えるんなら、それだけでやれよ」と。
なるほどねー。
糸井 和菓子屋で、
「アイスクリームおくれよ!」
みたいな。
沼澤 大爆笑してるんですよね、要は、
歌ってることで。
それを、みんなが楽しんじゃって、で……。
糸井 そんなもん、買わないっ!
沼澤 なるほどね。
売れると思ってないんだろうなー、
やっぱりなー。
糸井 集まること自体が楽しくてしょうがないって感じ。
で、選曲のときの会議がいちばん楽しそうな。
でも、これって
「音楽は楽しいぜ!」って、
もう、バカみたいに当たり前のこと言って
売れるレコードですよ。
沼澤 歌わなきゃね。
糸井 歌ってもね、大丈夫な人もいますけどね。
まあ、歌ったほうが、
ある意味ではモテるかもしんない。
ちょっと「三の線」が入ってるから。
沼澤 入ってますね、思いっきり。
出さなくっていいってことですね、
演奏だけで、それをやんなきゃ良かったのに。
……でも、わかるな、言ってること。
でも一生懸命やっちゃったんですよ。
糸井 一生懸命やってるんですよね。
でも、お客さんがいるときには、
それをやっちゃダメで、
終わってから第2部でやるんでしょうね。
もしくはこのアルバムを
お楽しみいただいた方々には
ボーナストラックにするとかね。
「ちょっと、聴くと、いいじゃん!」って。
沼澤 それを後に出せば良かったんですね。
糸井 うん。
沼澤 そうか。でも、出ちゃうし。(笑)
糸井 やっぱりね、今ね、なんていうんだろう?
ドラムを叩いている時って
沼澤さんは「いっぱいいっぱいですよ」
っておっしゃってるじゃないですか。
「いっぱいいっぱいのもの」って売れるんです。
ほんとにフルに
「いっぱいいっぱいのもの」っていうのは、
みんなに伝わるんです。
だけど、いっぱいいっぱいって言いきれない
何かが出ちゃうと、
「今、ぼくが買わなくても」
って言われちゃうんです。
沼澤 なるほどね。これだぞ!
っていうことじゃなくなっちゃう。
そっかー、なるほどね。それは気がつかないな。
糸井 だから、2曲目から聴くっていうことで、
この値段は、十分取れますよ、
って言ってもいいくらい。
沼澤 ってことで!
糸井 いいですよー、思ってもらえることって!
こういうことしたくて音楽やってんだよって、
わかるよね。
沼澤 すごい!でも、わかるな、言ってること。
でも、言われなきゃわかんない。
糸井 楽しすぎるんですよ、きっと、メンバーが(笑)。
沼澤 そこで言われないと、
でも音楽ビジネスなんだから、
と、いう感覚、やっぱ無い…。
糸井 いや、ビジネスの問題じゃないんですよ、
やっぱり。
沼澤 人に訴えるか訴えないかっていうこと……。
糸井 お客さんと自分との間に、
どのくらい太いパイプを通すかっていう
問題だから、そのパイプの中に
「もういっこ電線入れさせてね」
っていうと、その電線の分、
面積が少なくなるでしょ。
そこのところは
「あ、そんなことしてる場合じゃないよ」と。
ふざけるならふざけるで、
思いっきりやろうよっていって、
自分の力をいちばん出せるところで
出してますけど。
でも、ミュージシャンってみんな、
お客さんじゃない世界の
凄いバンドマン同士のコミュニケーションの
ところにいっちゃう、
日本人のアーティストでも
ニューヨークでレコーディングをすると、
うまい人同士で
「オヌシやるな」というとこで
作っちゃうわけですよね。
そういう時にお客さんってどうしたらいいのよ。
ミュージシャン同士で顔見つめあわせて
ニコニコしてたんじゃ困るんだよ、
みたいな気持ちなんです。
沼澤 それは、言われなかったら、
一生気がつかなかったな。
糸井 そうですか(笑)。
沼澤 いや、わかんないですよ、やっぱり。
そういう感覚で、やっぱり見るの、
難しいじゃないですか。
そういうことにすごい気をつけて、
やってきてるんだけど、
「やりたくないっていうこと」は
とにかくやってないんだけど‥‥。
糸井 例えば、テーマは
「音楽は楽しいよー」なんですよね。
ほんっとに楽しそうなんですよ。
でも、そのことをお客さんが、
「どこの何を聴いていいかわかんないなー」
なんていってる時には、
「これちょっと持ってきなよ」って
八百屋のおじさんがリンゴを渡すみたいな感じで
教えてあげると
「ああ、良かった」
っていう風になるんですよ。

(つづきます!)

2003-03-20-THU

BACK
戻る