第4回
ロシアマフィアのパーティから
チャカ・カーンのバックへ |
糸井 |
ロシアマフィアのパーティって
どんな感じなの? |
沼澤 |
ドキドキしたけど面白かったですよ。
ロシアマフィアのパーティで踊ってる女の人が、
僕はすごいきれいだと思って、
演奏が終わった後、
そこにいた女の人に
話しかけたりなんかしたんです。
「あの、ちょっと話してもいいですか?」って。
そうすると向こうも
「いいわよ」って言ってくれたんですけど
でも、やっぱり周りにはその筋の方が
いっぱいいらっしゃるわけですし、
「怖っ!」とか思って
それ以上の事は何も無かったんですけど、
当時、こっちはタキシードを着て
チョロチョロ演奏している身分ですし、
「この曲をやれよ!」
っていわれた曲を演奏して、
50ドル札もらって、「やった!」
とかっていってるときですから
今、思うと、すごい勇気あるなぁって思いますね。 |
糸井 |
何年ぐらい、そういう生活してたんですか? |
沼澤 |
1983年に、大学出てアメリカに行って。
学校には1年間行って。
学校卒業したら、
そのまんま、そこで先生になんないか、
って言われてから、
半分生徒、半分先生みたいなことやってるうちに
ちょっとずつ演奏し始めるようになって。
それから友だちと一緒に
ロシアレストランに頼まれて
やることになったんです。
26歳のころですね。 |
糸井 |
なんで? ロシアレストランで目つけられたの? |
沼澤 |
僕の知りあいに頼まれたんですよ。
ロシアレストランに行き着くまでに、
気合い一発でいろんなライブに
出演しまくっているんですよ。
今日はゴスペルの人、そして次の日は
リッキー・ジョーンズの
まがいものみたいな人の
バックを地方でやって、みたいな。
そういうのの連続ですね。 |
糸井 |
ふーん。 |
沼澤 |
そうやっていろんな所に出入りしていると
コンサートやCDショップで
よく出会っていた人が
チャカ・カーンのバンドマスターに
なったんですよ。
それで僕も、「オーディションに来ないか?」
って言われて。 |
糸井 |
つまり「オーディションに来ないか?」
って言うだけの力は、もう、ついてたんだね。 |
沼澤 |
そのへんはわからないけど。
友だちの集まるパーティで
ちょろっと演奏してるときに、
「君なにしてるの?」
ってその人に話しかけられて。
「俺学校行って、ドラム習ってんだ」
って言ってて
その時点ではそこで終わった話なんです。
そのすぐ後に、中古レコード屋さんで
ボビー・コールドウェルのセカンドアルバムを
買ってたら
「それ、俺の好きなアルバムなんだけど」
って急に外人に声かけられたと思ったら
また、その彼だったんです。 |
糸井 |
ボビー・コールドウェル(笑)。
いちいちなつかしい名前だなぁ! |
沼澤 |
「そういうの好きなの?」
「好きだよ、じゃぁ」
って別れたんですけど、
その次の週に
ひとりでコンサートを見に行ってたら、
その人がまた、いたんですよ。
だから、今度はこっちから
「なにしてんの?俺の好きなコンサートで」
って声をかけて。
向こうも
「うおっ、また会った」となって。
そういった偶然の出会いが重なって
チャカ・カーンのバックを
やることになったんです。
そのころのぼくはオーディションを
受けまくってた時期でした。
デイヴ・リー・ロスのオーディションとか。 |
糸井 |
チャンスはいっぱいあるんですか? |
沼澤 |
ありましたね。
もう、LA中のドラマーが集まってくるみたいな。
チャカ・カーンのバックをやることになったのも
26歳のときです。
だから、アメリカに来て3年たった頃ですね。 |
糸井 |
それ、思えば短いね。 |
沼澤 |
短いですね。人に会うという部分では
めちゃくちゃラッキーでしたね。 |
糸井 |
ラッキーあるよねー。 |
沼澤 |
いや、すごかった。でも、ラッキーな分、
そこで、うまくいかないと、
2度と声かかんないですよ。 |
糸井 |
あ、そっか‥‥。 |
沼澤 |
「あいつは良かったね」
って言ってる暇がないんですよ。
アメリカにいると。 |
糸井 |
いいね、か、ダメ。 |
沼澤 |
こういう場合、
「いいと思ったらダメじゃない」
っていうのがいちばんダメなんですよ。
「あいつ、クビになったんだよね」
ってなった瞬間に、
そっちのイメージのほうが、
断然強くなるんですよ。
やっぱ悪いことの方が、
ぜったい人って憶えてるから。
「いい」っていうよりも、「ダメだ」っていうほうが。
だから、僕も逆の時があったんですよ。 |
糸井 |
ドラマーの人が潰れちゃうってこと、
結構、多いですよね。 |
沼澤 |
すっごい多いですよ。 |
糸井 |
他の楽器よりも多いですよね。
「昔は凄かったけど、
今は飲んだくれて、もういない」とかね。
有名な人でもいなくなったりしてますよね。
それだけドラムって、肉体に近いんだろうね。
若さと美貌で売ってた人の宿命とかに近いかも。 |
沼澤 |
僕なんか、日本人だっていうのが、
すごいラッキーで。 |
糸井 |
憶えられやすい。 |
沼澤 |
ルックスがやっぱり、
黒人でも白人でも無いし。 |
糸井 |
はぁー。 |
沼澤 |
例えば、オーディションでも
同じ力量の黒人と白人と日本人がいたら、
日本人の方が面白いと思われるんですね。 |
糸井 |
はぁー、景色が違うんだろうね。 |
沼澤 |
そうなってくると
いかに憶えてもらうか、みたいなのがあって。
当時は「東洋人の髪の毛が立った、赤いメガネ」
みたいなルックスでオーディションに
行ってましたよ。 |
糸井 |
うんうん。
それは、自分でやりたいっていうよりは、
就職先を探す仕事になるわけですよね。
ステージ上に出かけていくときと、
普段って同じ服装なんですか? |
沼澤 |
違いますね、やっぱり。 |
糸井 |
変えるんだ。 |
沼澤 |
変える。このオーディションのときは
こういう感じで、とか。 |
糸井 |
はっはー、なるほどね。
戦闘服ですね、ようするに。 |
沼澤 |
それは、みんながそうしてたんで、
してるっていう感じでしたね。 |
糸井 |
日本に戻ったら、全くしなくなった。 |
沼澤 |
ない、ですね。今じゃ、
このまんまステージ上がるわけですよ。 |
糸井 |
逆に、なんっにもしなくなったに近いね(笑)。
|
|
動物と動物として会ったときに、
わかる大きさがある。 |
|
沼澤 |
しないほうが、カッコイイ時代に
なっちゃったんで。
民生君のセンスというか、
他のバンドと違って
いかに普段服で目立つかっていう。 |
糸井 |
奥田君のそこらあたりのセンスは
表現として計算し尽くされてるとも言えそうで。
ただのワイルドじゃない、丁寧な人ですよね。 |
沼澤 |
それを、いかに、ゆるくやってるのか、
っていうことを。
でも、本人はものすごい、
気合い入ってるんですよ。 |
糸井 |
あぁー。 |
沼澤 |
っていうふうに、見える器のデカさが、
もう、あるんですよね。
僕はあの人に対しては
ドラマーとしての憧れとか
ミュージシャンとしての憧れとかではなくて
人として憧れるな、っていうのは、
唯一、彼なんですよ。 |
糸井 |
もしかしたら、関係なさそうだけど、
ミック・ジャガーに
すっごい近いんじゃないかなって
気がするんですよね。 |
沼澤 |
うん。 |
糸井 |
冷静さとワイルドっていうのが、
人間たぶん両方あるでしょ。
そうとう冷静じゃないと、
奥田民生ってやってられないと思うんですよね。 |
沼澤 |
あと、僕がそばで見ていいと思うのは、
「どう考えてもこの人は、
努力してないはずがない」
っていうことを、やってのけるんです。
例えば、いろんなイベントにちょろっと出ては、
今日初めて歌う曲を、
今まで歌ってきた曲のように歌っちゃうとか。 |
糸井 |
技術なんですよねー。 |
沼澤 |
すっごい努力してるんだけど、
そんなふうに、まるで見えないんですよ。
一緒にいるときに、
いろいろわかることあるじゃないですか。
本人には言わないですけど、
あの人には憧れますね、
自分より年下なんだけど。 |
糸井 |
奥田民生はそう見せてないけど、
大物なんですよ。
動物と動物として会ったときに、
わかる大きさがある。
奥田民生は存在としてデカいんですよ。 |
沼澤 |
そうでしょうね。
純粋なところっていうのを、
ずっと見せてるとは思わないんだけど、
見えるんですよね。
たとえばギター、今日もレコーディングしてて、
自分のギターを録音することになると。
ギター少年というか、
自分がそんなに上手じゃないっていうことを
思いながらも、自分のやるところは見せる。
なんていうのかな、
奥田民生っていうレーベルをしょっていながら、
ぜんぜんそういうことを
気にしていないような人に……。 |
糸井 |
だから、まわりの人も、
あの気持ちを
わかってあげないスタッフだと無理だし。 |
沼澤 |
だから、いいスタッフが集まるんですよね。 |
糸井 |
ずーっとそれをキープしてますよね。
あれは劇団なんですよね、一種のね。
奥田民生劇団なんですよね。 |
沼澤 |
あの人のそばにいたいと思ってる人が、
たくさんいるんですよ。
それは、あそこのスタッフを見てて、
すっごくよくわかる。
日本でほんとに特別ですよ。 |
糸井 |
特別ですよね。 |
沼澤 |
あのセクションにはものすごい社風っていうか、
カラーがあるんですよ。
そこに、新しくマネージャーになりましたとか、
ローディーになりましたとかっていう人が
みんな面白いんですよ。
しかも絶対忘れない。
次に会った時でも「あいつ誰だっけ?」
っていう人は、いないんですよ、なんか。 |
糸井 |
前にさ、奥田君が古いブルーバードをさ、
黄土色に塗って乗ってたときがあってさ。
ありゃぁ、まいったな。
何も考えてないような気もするけど、
ダサさとカッコ良さの境目あたりのところを、
あえて突っ込んでいくじゃないですか。
頭にタオル巻いて釣りしてたのも、そうですよね。
まずは、かっこよくないんです。
それが、じわじわとかっこよくなっていくわけだから。 |
沼澤 |
本人がカッコいい思っていることを
やってるだけなんですけどね。
でも、こっちにそういうふうに
見えちゃうんですよね。
だから彼の音楽がそうじゃないですか。 |
糸井 |
そうですねー。 |
沼澤 |
パフィーに書いてる曲とかも
「ビートルズをここまでやっていいの?」
みたいな。
民生君自身のアルバムでも
「お前、なーんでこんなことできんの?」
っていうふうに……。 |
糸井 |
1回食べてゲロにしてますよね、ちゃんとね。 |
沼澤 |
「サーキットの娘」とかも、ええっ!?って。 |
糸井 |
ひどいよね。考えてみりゃね。 |
沼澤 |
「何で俺はこれをいいと思っちゃうんだろう?」
っていう。 |
糸井 |
「何でこれをいいと思っちゃうんだろう?」が、
あの人のすごさですよ。
根っこにある、あの人の善良さが
それを支えてるんだと思うんです。
(つづきます!) |