第5回
演奏中はどんな時も
いっぱいいっぱいなんですよ |
沼澤 |
「何で俺はこれをいいと思っちゃうんだろう?」
っていう意味では
ぼくにとって大きな存在なのが
民生くんと大貫妙子さんなんです。 |
糸井 |
そうだね。(笑)
大貫妙子と奥田民生は近いものあるなぁー。
ホントに両雄だね。
両方に共通してるのは、
遠くが見えてるってことだと思うんですよ。 |
沼澤 |
そう!絶対に自分のやることを、
ものすごく愛してやってるって
いうことがわかるんですよ。
自分が関わることに関しては、
「頼まれたからやってんだよ」とか、
「今、これが流行ってるから」
っていうようなことを
あの2人には全然、感じないんですよね。 |
糸井 |
沼澤さんのドラムを初めて聴いたとき
「遠くが見えてるんだけど、
近くにしかいないよ」
って思ったんだけど
その話と今の話って同じことだね。
遠くまで見通せる場所にいるんだけど、
やってることは今しかない、っていう。 |
沼澤 |
うん、そういうライブな感じって
レコーディングして後から
聴きかえすわけにはいかないから。 |
糸井 |
だよなー。
ライブの最高の醍醐味ですよね。
大人っていうか、
社会人である自分がさ、
ライブではムズムズするわけじゃないですか。 |
沼澤 |
社会人(笑)。 |
糸井 |
椅子に座ってライブを見ている人は
社会人ですよ。
社会人でも思わず立って踊っちゃう子の
気持ちはわかるんですよ。
だけど、ほとんどの人たちは
そうじゃないわけで。
そこをひっくり返そうとする力が、
音楽から来るんだよ。
だから、ウソなんですよ、
どっちの世界も。
音楽を聴いてて、
「もう、どうにでもしてっ!」
っていうのもウソだし、
そうやって一生を送る人はいないんだから。 |
沼澤 |
うん、うん。
そこまでじゃないだろうってことですよね。 |
糸井 |
同時に、そこで、
「何にも感じないよ」ってフリをして、
「いいんじゃない?」って
訳知り顔で言ってるのも、
ウソなんですよ。 |
沼澤 |
それも、なんか、イヤですね。 |
糸井 |
どっちもウソなんだけど、
音楽聴くとブルブル震えさせられちゃうわけ。
だからよく、
年寄りのある一言で、若い人が、
「あれを言われたんで、
もうガックリきました。」
ということがあるじゃない。
ああいうのとおなじだよ。
要するに、普段の自分を揺さぶっちゃう。
そういう力があるんですよ。
|
沼澤 |
僕は職業柄、コンサートを
見に行ったときに、
やっぱりいろんなこと
気がついちゃうんですよ。 |
糸井 |
うん、うん。 |
沼澤 |
今ちょっと照明遅れなかった? とか。
ベース聞こえねえよとか。 |
糸井 |
音楽社会人(笑)。 |
沼澤 |
それを忘れさせてくれるコンサートに
行ったときに、いちばん大変なんですよね。
なんだかしんないけど、
もう、大騒ぎしてんですよ。
そういうことってたまにあるんですよね。
キース・リチャーズを観に行ったときも、
1曲目から立ってもう、大騒ぎしちゃって、
「うぅわぁぁーーー!」って叫んでいたり。
同業者がやってることで、
そんな気にさせられた時が
一番、「うわぁっ!」ってきますね。
僕はたまたま、ステージに
上がってる身ですけど、だからといって、
「プロとしては」ってちょっと
斜に構えるような態度は
絶対、つまんないじゃないですか。 |
糸井 |
沼澤さんって、ファンとしての発言が、
ものすごく多いですよね(笑)。 |
沼澤 |
そっちのほうが、楽しくないですか?
自分がやってることを、
「オレのドラムのここを聴いてくれよっ!」
っていう風に思ったこともなくて。 |
糸井 |
だけどさ、ドラムを叩いてて
送り手側だけがわかるグルーヴが
あったときに、お客さんがそれに、
ザーッと影響されてくのって、
手品師が手品を見せてるような
感覚があるじゃないですか。 |
沼澤 |
そうですね。
でも、演奏している時って
あんまり余裕がないんですよ(笑)。 |
糸井 |
ドラマーって演奏中、
忙しい職業だもんね。 |
沼澤 |
忙しいですね、
「これ、うけるかな?」とかっていうのは、
あったりしますけど、
やってる瞬間っていうのは、
客観的に自分たちのやってることを
見れたらいいな、
って思っているんです。
でも、演奏中はやっぱりどんな時でも
精一杯やってるんですよ。 |
糸井 |
それね、あらゆるプロの人と喋ると、
必ずそこにいくんですよ。
「いっぱいいっぱいなんですよ」
って(笑)。 |
沼澤 |
演奏中も客席とか見てて
余裕があるような風情を
醸し出してるじゃないですか。
あれね、実はものすごい大変で。 |
糸井 |
ハッハッハッハ、笑うなー。 |
沼澤 |
一生懸命やってんですよね、やっぱり。
とにかくあんまり余裕がない、
っていうかぜんぜん余裕がなくて。 |
糸井 |
全部出してる。 |
沼澤 |
やるようにしてますね。
でも、
「あそこでこういうこと考えちゃったな」
とかっていうのは、毎日あるわけですよ。
今日レコーディングしててもあったし。
何事もなく過ぎていくレコーディングも
ライブも絶対なくて。
必ず、今までになかったことが、
絶対いくつかあって、
毎日過ぎていくんです。
それは例え、新人のレコーディングだろうが
大物のレコーディングでも同じ。
客が2人であろうが、
東京ドームで演奏しようが
それは、何の変わりもなくて。
いつでも同じなんですよね。
「もっ、もっ、精一杯ですっ!」
っていう(笑)。 |
糸井 |
刻んでるリズムが
むちゃくちゃになって
いいはずがないし(笑)
やること多いですよね。
それは、ホントに
いっぱいいっぱいですよね。 |
沼澤 |
僕も大好きなドラマーの一人に、
一定のテンポをキープしてながらも
波もなく快感を与えるっていうことを
ものすごく上手にできる人がいるんです。
つまり、高い技術があったうえで
機械的じゃなく気持ち良くできるっていう、
ものすごい才能を持った
黒人のドラマーなんですけど。
その人に、
「なんでそんなに簡単に、
気持ちいいタイムキープが出来るの?」
って聞いてみたら、
「そういうふうに見えるだろ?
あれを俺も楽勝でできるようになりたい、
そう見えるようにするために、
俺がどんだけ努力してるか
わかんないよ。」
って言われちゃって。 |
糸井 |
職業違うけど、わかるよね。 |
沼澤 |
そう言われて、
「あ、すごい大変なんだな。」と。
ふと、自分のこと思ったら、
そういえば、ぼくも大変だってことに
気づいたんです。
(つづきます!) |