Drama
バンドマンという幸福な商売
沼澤尚さんと、とてもホンネな話。

Photo:Toshihiko Imai
(Rhythm&Drums magazine)

ほぼにちわ。
「バンドマンという幸福な商売。」にたくさんの
メールをありがとうございます!
紹介したいメールがたくさんあるのですが
このページでは掲載しきれないので
postman@1101.comから」で
紹介しています。
そちらもぜひ、読んでくださいね。

今日の対談は沼澤さんが
ミュージシャンという枠を越えた
大きな存在
とおっしゃってる
奥田民生さん大貫妙子さんのお話から
始まります。

大貫さんは、
このJ&B「The Time 4 Real」アルバムに
こんなコメントを寄せてくださっています。
ご紹介しますね。

後継者がいないと嘆くのは、
音楽家とて同じ時代の中で。
彼らのように、こんなに開かれた素晴らしい学校を、
LIVEという音楽家のあるべき姿そのままに、
見せてくれていることに、心から敬意を持ちます。
このCDをうんとうんと聴いて
LIVEで穴のあくほど
そのPLAYを体でイメージして下さい。
そしてそれを体感した人は、
音楽が人を感動させることが、
どれほど一筋縄ではいかないことなのかを、
知ることになるでしょう!
大貫妙子


それでは、本日も対談をお楽しみください!

第5回
演奏中はどんな時も
いっぱいいっぱいなんですよ
沼澤 「何で俺はこれをいいと思っちゃうんだろう?」
っていう意味では
ぼくにとって大きな存在なのが
民生くんと大貫妙子さんなんです。
糸井 そうだね。(笑)
大貫妙子と奥田民生は近いものあるなぁー。
ホントに両雄だね。
両方に共通してるのは、
遠くが見えてるってことだと思うんですよ。
沼澤 そう!絶対に自分のやることを、
ものすごく愛してやってるって
いうことがわかるんですよ。
自分が関わることに関しては、
「頼まれたからやってんだよ」とか、
「今、これが流行ってるから」
っていうようなことを
あの2人には全然、感じないんですよね。
糸井 沼澤さんのドラムを初めて聴いたとき
「遠くが見えてるんだけど、
 近くにしかいないよ」
って思ったんだけど
その話と今の話って同じことだね。
遠くまで見通せる場所にいるんだけど、
やってることは今しかない、っていう。
沼澤 うん、そういうライブな感じって
レコーディングして後から
聴きかえすわけにはいかないから。
糸井 だよなー。
ライブの最高の醍醐味ですよね。
大人っていうか、
社会人である自分がさ、
ライブではムズムズするわけじゃないですか。
沼澤 社会人(笑)。
糸井 椅子に座ってライブを見ている人は
社会人ですよ。
社会人でも思わず立って踊っちゃう子の
気持ちはわかるんですよ。
だけど、ほとんどの人たちは
そうじゃないわけで。
そこをひっくり返そうとする力が、
音楽から来るんだよ。
だから、ウソなんですよ、
どっちの世界も。
音楽を聴いてて、
「もう、どうにでもしてっ!」
っていうのもウソだし、
そうやって一生を送る人はいないんだから。
沼澤 うん、うん。
そこまでじゃないだろうってことですよね。
糸井 同時に、そこで、
「何にも感じないよ」ってフリをして、
「いいんじゃない?」って
訳知り顔で言ってるのも、
ウソなんですよ。
沼澤 それも、なんか、イヤですね。
糸井 どっちもウソなんだけど、
音楽聴くとブルブル震えさせられちゃうわけ。
だからよく、
年寄りのある一言で、若い人が、
「あれを言われたんで、
 もうガックリきました。」
ということがあるじゃない。
ああいうのとおなじだよ。
要するに、普段の自分を揺さぶっちゃう。
そういう力があるんですよ。

沼澤 僕は職業柄、コンサートを
見に行ったときに、
やっぱりいろんなこと
気がついちゃうんですよ。
糸井 うん、うん。
沼澤 今ちょっと照明遅れなかった? とか。
ベース聞こえねえよとか。
糸井 音楽社会人(笑)。
沼澤 それを忘れさせてくれるコンサートに
行ったときに、いちばん大変なんですよね。
なんだかしんないけど、
もう、大騒ぎしてんですよ。
そういうことってたまにあるんですよね。
キース・リチャーズを観に行ったときも、
1曲目から立ってもう、大騒ぎしちゃって、
「うぅわぁぁーーー!」って叫んでいたり。
同業者がやってることで、
そんな気にさせられた時が
一番、「うわぁっ!」ってきますね。
僕はたまたま、ステージに
上がってる身ですけど、だからといって、
「プロとしては」ってちょっと
斜に構えるような態度は
絶対、つまんないじゃないですか。
糸井 沼澤さんって、ファンとしての発言が、
ものすごく多いですよね(笑)。
沼澤 そっちのほうが、楽しくないですか?
自分がやってることを、
「オレのドラムのここを聴いてくれよっ!」
っていう風に思ったこともなくて。
糸井 だけどさ、ドラムを叩いてて
送り手側だけがわかるグルーヴが
あったときに、お客さんがそれに、
ザーッと影響されてくのって、
手品師が手品を見せてるような
感覚があるじゃないですか。
沼澤 そうですね。
でも、演奏している時って
あんまり余裕がないんですよ(笑)。
糸井 ドラマーって演奏中、
忙しい職業だもんね。
沼澤 忙しいですね、
「これ、うけるかな?」とかっていうのは、
あったりしますけど、
やってる瞬間っていうのは、
客観的に自分たちのやってることを
見れたらいいな、
って思っているんです。
でも、演奏中はやっぱりどんな時でも
精一杯やってるんですよ。
糸井 それね、あらゆるプロの人と喋ると、
必ずそこにいくんですよ。
「いっぱいいっぱいなんですよ」
って(笑)。
沼澤 演奏中も客席とか見てて
余裕があるような風情を
醸し出してるじゃないですか。
あれね、実はものすごい大変で。
糸井 ハッハッハッハ、笑うなー。
沼澤 一生懸命やってんですよね、やっぱり。
とにかくあんまり余裕がない、
っていうかぜんぜん余裕がなくて。
糸井 全部出してる。
沼澤 やるようにしてますね。
でも、
「あそこでこういうこと考えちゃったな」
とかっていうのは、毎日あるわけですよ。
今日レコーディングしててもあったし。
何事もなく過ぎていくレコーディングも
ライブも絶対なくて。
必ず、今までになかったことが、
絶対いくつかあって、
毎日過ぎていくんです。
それは例え、新人のレコーディングだろうが
大物のレコーディングでも同じ。
客が2人であろうが、
東京ドームで演奏しようが
それは、何の変わりもなくて。
いつでも同じなんですよね。
「もっ、もっ、精一杯ですっ!」
っていう(笑)。
糸井 刻んでるリズムが
むちゃくちゃになって
いいはずがないし(笑)
やること多いですよね。
それは、ホントに
いっぱいいっぱいですよね。
沼澤 僕も大好きなドラマーの一人に、
一定のテンポをキープしてながらも
波もなく快感を与えるっていうことを
ものすごく上手にできる人がいるんです。
つまり、高い技術があったうえで
機械的じゃなく気持ち良くできるっていう、
ものすごい才能を持った
黒人のドラマーなんですけど。
その人に、
「なんでそんなに簡単に、
 気持ちいいタイムキープが出来るの?」
って聞いてみたら、
「そういうふうに見えるだろ?
 あれを俺も楽勝でできるようになりたい、
 そう見えるようにするために、
 俺がどんだけ努力してるか
 わかんないよ。」
って言われちゃって。
糸井 職業違うけど、わかるよね。
沼澤 そう言われて、
「あ、すごい大変なんだな。」と。
ふと、自分のこと思ったら、
そういえば、ぼくも大変だってことに
気づいたんです。

(つづきます!)

2003-03-25-TUE

BACK
戻る