第9回
ドラムって伝統芸能なんですよ |
沼澤 |
実をいうと自分が雰囲気で叩いているものが、
一つも無いんです。
「この、今の一瞬のこれは、
誰の何のどこの何とか」
全部、説明ができる。
それを自分の感覚でやるもんだから、
たまたまオリジナルに聞える場合があるんです。
要するにドラムセットっていう楽器が、
まだ80年もたってないですから。
太鼓っていうものはもっと前からありますけど、
今のドラムセットみたいなスタイルに
なってきたのは1920年代から30年代なんで。 |
糸井 |
はーっ。 |
沼澤 |
ドラムセットができてから
まだ、100年も経ってないんですよ。
その過程で行われてきたことっていうのは、
全部、残されているんです。 |
糸井 |
必ず誰かが説明してるんですよね。
そこが面白いんですよね。 |
沼澤 |
でも、こんなに楽器も変化してる、
人も変わって生活も変わっているのに
ほとんどの事が既に
やり尽くされているんですよ。
でも、根本がぜんぜん変わってないんです。
その根本を受け継いでいっているんです。 |
糸井 |
ドラムって伝統芸能なんだ(笑)。 |
沼澤 |
めちゃめちゃ伝統芸能ですね。
その根本にあたるものは
日本で発生したものじゃないから
僕はアメリカ行ったわけなんです。 |
糸井 |
書道なんかに近いですね。
明朝体があって隷書体があって、みたいな。 |
沼澤 |
すごい近いですよ。だから楽器も、
「一番最初に作られたものはこんな感じで、
それがこう進化していった」
っていうような過程が
確実にあって、そういうことを
僕らは自分たちでも検証してるし、
そんなの資料でもあるし。
調べるのは当たり前の事なんですよ。 |
糸井 |
はーっ、楽しそうだなぁ……。 |
沼澤 |
それが楽しくて。
だから自分が使ってるドラムセットも、
1930年代のものを買ったりするんです。
その、持ってること自体が好きなんで。 |
糸井 |
はぁー。 |
沼澤 |
その古いドラムセットをレコーディングでも
使ってみたりするんです。
そういうのを使ってやっていくんですよ。
やっぱりこういう事って
受け継いでいってるんです。
自分が興味ある人のとこに
習いに行ったりもしますよ。
それはもう自分で見て、何をやってるか、
目の前で見る以外にないからなんですけど、
そうじゃないと説明ってできないんですよ。 |
糸井 |
落語を口移しで習うようなもんだね。
ちょっとずつ師匠が話して、
それを真似て憶えるんですよね。 |
沼澤 |
もう、そういう感じですよ。それの連続で。
ぼくがやったフレーズを、
「お前、それ今どうやった?」
って聞かれたこともあったし、
ぼくは説明できちゃったりするんです。
次の日にぼくが行ったりしたら、
教えてもらおうとしてた人が
ぼくのフレーズを
めちゃめちゃ練習してたりするんですよ。
「お前、こうやってやってんのか?」
みたいに。 |
糸井 |
面白そうだねー(笑)。
|
沼澤 |
いまでも、やっぱりそうなんですよ。
僕らの解釈で、とこっとん真似して継承して
こんな感じになりましたって感じ。 |
糸井 |
そこに自分の個性が
自然にはいっちゃうんでしょ。 |
沼澤 |
それ以外に、ないですね。 |
糸井 |
真似したつもり。 |
沼澤 |
もう、思いっきりやって。
今回のアルバムも、全部そうですね。
自分の中では、説明ができちゃう。 |
糸井 |
そういうことをやってるのが、
他のバンドの連中に、
また違う影響を与えるじゃないですか。
つまり、
「その叩き方だと、俺、困るんだよ」
ってことも、ありますよね。
そのときには、それに合わせたギターになるし、
相互作用がありますよね。 |
沼澤 |
糸井さんそのあたり
聞き分けてられてますね?
ちょっとびっくりしてるんですけど。 |
糸井 |
僕はただ、耳でちゃんとわかる範囲っていうのは、
正直に言いますけど、ベンチャーズまでなんです。
つまり、「この本はぜんぶ読んだ」
っていうような気になれるのは、
ベンチャーズだけなんです。 |
沼澤 |
はぁ、ベンチャーズか。
あれこそ、伝統芸能ですよね。 |
糸井 |
あれは楷書で書いてあるから、読めるんです。
「はい、そこで、何とかが来ます、
こういう物語です、
皆さま、いかがでございましたでしょうか?
音楽は、楽しゅうございますね、
それではみなさん、さよならー!」
っていって帰るんですよ。
それは、端から端まで
小説としては読めるんですよね。
他はそんな簡単なものじゃないんで。
やっぱり読めないんですよ。 |
沼澤 |
でも、あの人たちがいなかったら……。 |
糸井 |
ないよね。
楷書がなかったら、他はないですよね。
あれで、普通にやるってこういうことだよ、
っていうのを、ちゃんと教わった気がするし。
最近だとさ、キャロル時代の永ちゃんって
あの時代、実はけっこう
挑戦的だったってことがわかる。 |
沼澤 |
すごいですよ。めちゃカッコイイですからね。 |
糸井 |
(笑)若いヤツが今ごろになって
びっくりしてるけど、あのマジックって
当時は誰も聴いてくれなかったんですよね。
「キャー」っていってただけで。 |
沼澤 |
うん、イメージだったから。 |
糸井 |
でも、今、聞くと、「ちゃんと文体があるよ」
っていうことがわかりますよね。 |
沼澤 |
音楽的な質の高さが……。 |
糸井 |
あるんですよね。要するに
後は、練習の量だけだっていうね。 |
沼澤 |
いやだって、矢沢さんのベースって
すごいですもん。 |
糸井 |
しかも、弾きながら
走り回ってますからね。 |
沼澤 |
今でも「ベース弾いて欲しいなぁ」って
思っちゃったりしますよね。 |
糸井 |
キャロルは、今のちゃんと再生する装置で
聴いたら、
「これだから人気あったんだーっ」
ってことがよくわかる。
多分、あれは永ちゃんが、
ポール・マッカートニーを斜め読みしたから
ああいう個性が出ちゃったんだと思うんですよ。 |
沼澤 |
もう、それって全世界に
共通してるじゃないですか。
だって、ウィリー・ディクソンをやろうと思った
レッド・ツェッペリンが、
ああなっちゃったんですからね。
エリック・クラプトンだって、
アルバート・キングやるつもりだったのが
ああなっちゃたわけだし。 |
糸井 |
(笑)読み方浅いうちに
練習始めちゃったみたいな。 |
沼澤 |
だって、ポール・マッカートニーも
そもそもはリトル・リチャードを
やりたかったわけだし。
もうあれは完璧にあの人たちが
育った土地っていうか
土壌が、ああいう解釈を
させたってことですよね。 |
糸井 |
それはね。要するに、
ピジョン・イングリッシュの連続ですよね。
ハワイの人の英語って、
独自の英語を作っちゃったり
日本なまりが多かったりするじゃないですか。
ああいうことが、
ずーっと音楽でも連続して起ってるんですよね。 |
沼澤 |
まさに。プリンスがそうですから。 |
糸井 |
あ、そう。 |
沼澤 |
もう、まんまやってたりするのに、
「なんでプリンスに聞えるの?」っていう。 |
糸井 |
だから、上手になっちゃった
オアシスみたいなバンドって、
すっごくチャーミングなんだけど、
消えると思うんですよ。 |
沼澤 |
オアシス、僕はぜんぜんダメなんですよ。
ずーっと。 |
糸井 |
でしょ?
ぼくはオアシスに関しては
一気に何枚も買っちゃったんですよ。
それで、一気に聞いてみたわけですけど
総合力としてはすごいですよ。
だけど、魅力っていうか
彼らのなまりがないんですよ。
つまり、斜め読みじゃなくて、
ちゃんと読んだ人たちの演奏だから、
ぼくはつまんなく感じてるのかな?
って思ったんですよ。 |
沼澤 |
なまり、ない!
ぼくも二度と聴かないんですよ。
でも、ツェッペリンは今も聴いたりして、
「ウォーッ! やっぱりすごい!」
って思うし。 |
糸井 |
あと、ジミー・ヘンドリクスとかさ、
修練は積んでる、
でたらめなヤツらのって演奏って! |
沼澤 |
そうですね。チューニング、
関係無いですからね!
(つづきますよっ!) |