田中 |
今回のプロジェクトが
あくまで「非営利」を追求したということを、 この真っ白いボールに込めた、というのが、
素晴しい着想だなと思ったんですが、
このボールについて、
語っていただけますか? |
(THE OTHER FINALより) |
マタイアス |
このボールっていうのは、 試合に込めた「純粋さ」の象徴なんです。
ふつうサッカーのスタジアムにあるような広告も、
ブータンでの試合では無くしたんです。
これは、広告に対しての批判ではなくて、
人々が分かちあえるような
「ゲームの美しさ」や
「サッカーの純粋さ」に、
より焦点をあてることの象徴なのです。
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<ワンポイント英語>
“This was not done
because we were against the advertising”
この発言には笑ってしまいました。
そりゃそうですよね、
ぼくたちわたしたちは、広告屋ですから。
ここで、今まで黙っていた小泉さんから質問が。 |
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小泉 |
この白いボールが、
映画の中で、
いろんな所に投げ込まれていくシーンが、
すごく印象に残ってるんですけど、
投げ込む行為っていうのは、
なにか意図が込められているんですか? |
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マタイアス |
それは、ブータンとモントセラトを
「つなげる」方法だったんです。 私たちは、ボールを
「赤い糸」(“Red thread”)に見立てたんです。 |
マタイアス |
物語を通して、この白いボールがブータンに現れ、
モントセラトにも現れ、
そして、ついにボールが、試合の日、
太陽が昇ったフィールドのセンターラインに置かれ、
二つの国が「つながった」わけです。 |
田中 |
サッカーファンってわりと、
ローカルに固執するというか、
愛国主義に走る傾向ってあるじゃないですか。
それに対して違うメッセージを
送りたかったっていうこともあるんですか? |
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マタイアス |
はい、そうなんです。 この映画のメインメッセージは、
「競争」するよりも「情をともにする」ほうが、
面白いんじゃないか、ということです。
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<ワンポイント英語>
“Compassion is more interesting than
competition.”
ここは、“com” で韻をふんでます。
“Compassion”を辞書そのまんまで訳すと、
「同情」ということになるんですが、
日本語で「同情」というと、
「立場が良い人がそうでない人を哀れむ」という風な
意味がついてまわりますよね。
そこで、「情をともにする」としました。 |
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マタイアス |
サッカーでは、
あまりに「競争」に走りすぎていて、
お金にまみれすぎている。
また、今、世界中の人々が
不信感を抱きがちてあったり、
互いに信頼できなかったりとか、
ネガティブな気持ちにおおわれているので、 この映画をとおして、
少しはいい気持ちになって、
ちょっとだけでも
ポジティブな気持ちになってほしいっていう
メッセージも込めました。 |
(THE OTHER FINALより) |
田中 |
それは、普段されてる仕事が、
コミュニケーションの創造であって、
そのコミュニケーションの大切さとか、
人と人がつながることに対して、
非常に興味を持ってらっしゃるからですか? |
マタイアス |
私たちは、コミュニケーションに対して
とても情熱を持っているし、
人々に何かを考えはじめる刺激を
与えることへの情熱を持っているんです。
また、 境界を超えていきたいんです。
異なる文化や異なる主義主張に対して、
映画、インターネット、本などを通じて、
ひとつのアイデアで
ひとつの文脈をつくっていきたいんです。 |
田中 |
ふだんビジネスの場では、
マタイアスさんは
キャンペーン戦略のプランナーだと
いうことなんですが、
いつも境界を超えて
「人々をつなげていくこと」を
意識して仕事されているんですか? |
マタイアス |
自分の仕事は、
人々が商品や会社やアイデアについて、
考えることを助けることだと思ってます。
つまり、人々がものごとをどう見ているか、に
焦点をあてる仕事なのです。
ディーゼル・ジーンズの仕事であれば、
若い人たちのファッションに対する考え方を
助けるという風にしているんです。
最近の広告っていうのは、
世界を単純化し過ぎているように思う。
私たちが興味があるのは、
あえて一見むずかしい広告なんです。
人々が最初ちょっと触れただけでは、
「あ、これは何だ?」と思うような広告です。 |
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田中 |
それは、「単一性」よりも
「多様性」に興味があるからですね? |
マタイアス |
そう、それに「境界を超える」こと。 |
田中 |
とくに近ごろ、
グローバル・ブランディングのキャンペーンだと、
単純化したメッセージを送る傾向がありますよね。
それについてどう思います?
(「GAP」や「NIKE」のように、
世界中で同じ広告キャンペーンをする傾向について
聞いています) |
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マタイアス |
それは、広告としては、
とても論理的なつくり方ですよね。
たった20秒の間に、
広告はストーリーを
伝えなければならないわけですから、
ひとつのメッセージを送ろうということになる。 「単純化」は、理屈にはかなっているわけです。
特にグローバル・キャンペーンとなると、
より多くの人々に
理解してもらわなければならないので
伝達が難しくなります。
一方、私たちが求めている「多様性」は、
わたしたちのオフィスにあるんです。
35人いるスタッフは、
12の異る国々の人々で構成されているんです。
だから多種多様なものの見方というのがある。
わたしたちはそれを注意深く観察しているんです。
世界中の異なる文化を。 |
田中 |
多くの異る文化を持ちよって、
毎日ブレイン・ストーミングしてるんですね。 |
マタイアス |
そうです。
映画を一緒につくったロボットの人たちも
アムステルダムにやってきて、
アイデア出しのためのブレイン・ストーミングを
やっていました。 そのようなミーティングをすることによって、
今こうして話をするようなことも含めて、
自分たちは何者なのかということを、
たくさん学ぶことができるんです。
ミーティングがとても好きなんですよ。
モンセラトやブータンともミーティングをしました。
異なる文化から学ぶということは、
とても面白いことです。 |
田中 |
プレスリリースで
仏教徒だという話を知ったんですが、
「多様性」というものを重視される考え方って、
やっぱり仏教の影響なんですか? |
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マタイアス |
仏教の哲学は、
私たちのやっているような仕事には、
非常に刺激的だと思います。
なぜなら、
「競争」するよりも「情をともにする」ほうが
面白いんじゃないかとか、
お互いに疑いあうよりも信頼しあうほうがいいとか、
背を向けるのではなく向かい合うことを
仏教は教えているからです。
仏教からは多くを学ぶことができますが、
他の宗教も同じです。
キリスト教もそうですし。
時々自分がもともと何教だったのか、
忘れてしまうなんてこともあります。
こういう考えは、
このプロジェクトにも影響を及ぼしていると思います。
ブータンとモンセラトとのミーティングでも、 「情をともにする」
思いやりの精神が見られました。
ブータン人の仏教に根差した精神では、
ゲームに勝つというのは困ったことなんです。
ブータンは4対0で圧勝したものだから(笑)。
仏教の教えでは、
ゲストはゲストとして迎えなきゃいけないから、
「1点でも入れさせろ」って、
ブータンの大臣たちがとても心配したんです。
それで、映画の最後で、
「敗者もヒーローとして祝われること」を
描いたんです。 |