感心力がビジネスを変える!
が、
感心して探求する感心なページ。

第4回 「いいアイデア」と「いい実施」で、
     ボールは転がる。


田中 マタイアスさんの哲学が、
今回のプロジェクトの成功に
役立ったと思うんです。
一方で、商業的な広告にあふれた
スポーツ・マーケティングとの
アプローチの違いを
あらためて聞きたいんですが。
マタイアス たくさんのブランドが
スポンサーにつくことについて、
否定的ではありません。
スポーツがそうであるように、
スポーツ・マーケティングにも「競争」があります。
田中 それは排他的なものになりがちですよね。
マタイアス そうです。
サッカーのワールドカップはまさに広告戦争でした。
スポンサーとなるスポーツブランドは、
観客に向けて「単純化」を促すんです。

スポーツにいい刺激を与えることは、
お互いにとてもいいことだと思うんですが、
ベストの試合やチームにばかり目を向けて、
そのスポンサーとなることで
「自分たちのブランドはベストだ」という
人々の連想をつくりたがる。
そういったスポンサーとなるブランドが、
今は能力や設備も整っていない
国々や人々に対しても目を向けて、
世界のステージを用意することは、
いいチャレンジになるだろうと思っているんです。
スポンサーとなるブランドを刺激したいんですよ。
ベストな選手にお金を注ぎ込みすぎるのでは、
ちょっと視野が狭くなっているから、
もっと視野を広げたほうが
いいんじゃないかと思っています。
田中 あぁ、それはとても賛成できます(笑)。
田中 小泉さん、
サッカー関連で何か質問はないですか?


(THE OTHER FINALより)
小泉 今回の企画で、
いまスポーツ・マーケティングの世界で、
勝者が名声もお金も注目も、
ぜんぶ独占していくような構造があって、
最下位の人たちも、
FIFAから分配金が出てると思うんですが、
そういうお金の循環だけでなく、
交流が生まれ、
トップだけじゃなくて最下位にも循環する流れが、
このプロジェクトで出来てきたと思うんですよね。
それで、次にどんなことを考えているのか、
このいい循環を回していくために、
どんなことをしていくのか、
聞きたいです。
マタイアス 私たちは、いつも新しいアイデアを求めています。
「多様性」を求めて。

この企画に似たような別のアイデアを考えていますし、
その精神は同じです。
でも、私たちは、
ワールドカップをまったく否定しているわけではなく、
やはりワールドカップを見たいですし(笑)、
ベストな試合を見たいですし、
でも同じように、
スポーツを通じて人がじぶん自身の力で
強くなっていく「美しさ」も見たいですし、
その「美しさ」がどちらかに偏るとすると、
それに別の選択肢(オルタナティブ)を
与えたいんです。
田中 次のプロジェクト、
何か進んでるんですか?
映画づくりとか?
マタイアス 私たちは、
みんなを驚かせるのが好きですよ。

今は、相撲に興味を持っています。
それ以上のことは、今は言えませんが(笑)。
小泉 ホーム・アンド・アウェイでということで
リターンマッチはやる予定は無いんでしょうか?
マタイアス このプロジェクトで良かったのは、
モンテセラトとブータンの両国に
友情が芽生えて、
首相同士は、またやりたいという気持ちは
あるみたいなんですけども、
私はできる限りの助けはしようとは思うんだけど、
それは自分の次のプロジェクトではないです。
ただとても興奮しているのが、
FIFAが
アザーファイナルをずっと続けようと、
非公式に話しているんです。

2006年の決勝戦の時にもう一度やろう、
これからも続けよう、と言っているんです。
それは、とても素晴らしいと思いますし、
またブータンとモントセラトが
もう一度試合をするのも素晴らしいと思います。
とてもシンプルなアイデアが、
これだけの影響を与えられたのがうれしいです。
田中 すごいですね。
もうひとつのワールドカップの開拓者ですね。
創設者ですよ(笑)。
マタイアス サッカーは出会いであり、
純粋な楽しみなんだということが、
正式に認められたのがうれしいです。
小泉 ぼくは横浜の決勝戦に行きました。
マタイアス そうですか!
小泉 ブータンでの試合の後に、
みんなでテレビで横浜の試合を
観ているシーンがあったんですけど、
あのときに、
どんな気持ちが沸き起こってきたかを聞いてみたい。
マタイアス もちろん興奮しましたよ。
私たちは、
意識的にアザー・ファイナルの試合を
することを選んだんだけども、
試合で戦ったあとに、
一緒にまたテレビの前で横浜の試合を観て、
特別にエキサイティングな、
とても楽しい時を一緒に過ごせました。
西本 2006年は、やっぱりオランダが、
ワールドカップにたぶん出るでしょうね。
マタイアス 去年の予選に負ける前だったら、
確実に「イエス」と言えたけど、
今はねぇ……。
一同


(THE OTHER FINALより)
マタイアス インターネットのウェブについて話をすると、
このプロジェクトもインターネットのおかげでできた。
FIFAのランキングも
インターネットで調べたわけだし、
インターネットが重要な役割を果たした。
で、実際、
今も「アザー・ファイナル」のウェブサイトも
出来ているんですが、
インターネットで得た情報が企画に役立ちました。

「アザー・ファイナル」のプロジェクトが、
いろんな取材記事になっていて、
その中にはインターネットのサイトのものも多いです。
「CNN」や「USA TODAY」や、
「ル・モンド」などの記事のおかげで、
世界中のいろんな人たちに、
このアイデアがわかってもらえました。
最初にこのアイデアを取り上げてくれたメディアは、
「クィンゼル」というブータンの新聞社です。
試合前に情報収集のためブータンへ行ったんですが、
「クィンゼル」で取材を受けた記事が
インターネットに流れて、
「BBC」がそれを読んで電話をかけてきました。
その取材がきっかけで、
「ボールが転がりはじめた」んです。
「ボールが転がりはじめたら、
 あとはうまく行く」というふうに
オランダでは言うんですが、
日本にもそういうことわざみたいなものは、
ありますか?

  
<ワンポイント英語>
“A ball starts rolling,
  you don’t have to do noting.”
こう言ってました。
田中 何だろうな……。
広告業界では、
「最初にアイデアありき」って言うかなあ。
マタイアス ただ、自分では、今回のアイデアは、
唯一の素晴しいアイデアだったとは思っていません。
決勝戦とは違う選択肢となる試合を実現するには、
もっと違ったアイデアもあっただろうと思います。
でも、「アイデアを実施する」ということは、
アイデアそのものと同じくらい大切なんです。
だから、
「とてもいいアイデア」と「とてもいい実施」が
重要なんですよ。
田中 そうそうそう。
だから、「アイデア」と「実施」という組み合わせが、
ほんとに素晴しくかみ合ったケースだろうと思って、
ぼくは感心したんです。
マタイアス うまくいった秘密は何かと言うと、
「アイデアを実施する力のある人」
「アイデアを持っている人」が、
ともに仕事したことなんですよ。
「アイデアを持っている人」が、
最後までそれを実施する責任を持って、
他の部門や組織に任せるのではなく、
「アイデアを実施する力のある人」と
一緒にグループになって取り組むほうが、
効果が大きいんですよ。


この後、マタイアスさんの会社、
ケッセルズクレマーの案内ビデオを見ました。
面白い会社でしたねぇ。
教会の中にオフィスがあり、
なぜか水泳の飛び込み台があったりするわけです。
で、入り口のドアはいつも開きっぱなしらしいです。
会社のホームページは、
アクセスするたびに違うページが立ち上がり、
25種類あるそうなんです。
「ケッセルズクレマー・ネイルパーラー」、
「ケッセルズクレマー・ガーデニング」、
「ケッセルズクレマー・ライブラリー」。
広告代理店なんですけどねえ。
愉快命の集団です。
http://www.kesselskramer.com/

そして、最後に質問しました。


(THE OTHER FINALより)
田中 最後に、大きな質問なんですけど、
マタイアスさんにとって、仕事とは何ですか?
マタイアス 質問は大きいですが、答えはとてもシンプルです。
“FUN”(=楽しむこと、喜び)。
“FUN”は、尊敬することも含んでいると、
思っています。
とくに、私たちがつくったものを見る人々に対する
尊敬です。
コミュニケートする相手の人に対する尊敬ですね。
ひとことで言うと“FUN”、
楽しむこと。
だけども、広告をつくる仕事をする人で、
コミュニケーションをする消費者に対して、
馬鹿にしたような態度を取ることが
ありがちなんですけども、
そうじゃなくて、相手に対して、
尊敬の気持ちを持ちながら、
仕事をするということが大切だと思っています。


<ワンポイント考察>

うーん、ためになる話でした。
世界各国共通のアドマン魂みたいなものが、
このオランダ人にはあふれていました。
それでいて、自認する愉快犯だけでなく、
「コミュニケーションする相手への尊敬」なんて
言っちゃうところが、えらい。
「アイデア」と「実施」の組み合わせを
強調するあたり、
感心しまくりでありました。
で、後から、
このケッセルズクレマーの仕事を調べてみたら、
どれも一流の仕事なんです。

最初のクライアントと言っていた
ハンス・ブリンカーホテルは、
アムステルダムにあるバックパッカー向けの
「安いだけホテル」で、
その短所を逆に正直に、
あえてチープなイラストと
逆説的なコピーで、
たくさんの広告をつくるという戦略なんです。
“NOW EVEN LESS SERVICE”
(今なら最小のサービスが受けられます!)
“NOW EVEN MORE NOISE”
(今なら騒音がもっとひどい!)
“NOW EVEN MORE DOGSHIT IN THE MAIN ENTRANCE”
(今なら玄関に犬のふん増量中!)
“EVEN LESS REASONS TO VISIT!”
(どんな理由でも訪れられます!)
などなど。
こんなこと言われると、
よけい行きたくなりますよね。

洗車バスを巡回させ、
街中のアウディを洗って、
メッセージカードを置いていく、という
キャンペーンもさえてます。

感心の果てはつきないですね。
世界はひろいです。

感心にぐったりしているところ、
西本69乗組員に言われました。
「他のメディアは必ず聞いたと思うんですが、
 小野伸二について聞かなかったですね」

すっかり忘れてました。

では、また。

2003-03-31-MON

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