田中 |
マタイアスさんの哲学が、
今回のプロジェクトの成功に
役立ったと思うんです。
一方で、商業的な広告にあふれた
スポーツ・マーケティングとの
アプローチの違いを
あらためて聞きたいんですが。 |
マタイアス |
たくさんのブランドが
スポンサーにつくことについて、
否定的ではありません。
スポーツがそうであるように、
スポーツ・マーケティングにも「競争」があります。 |
田中 |
それは排他的なものになりがちですよね。 |
マタイアス |
そうです。
サッカーのワールドカップはまさに広告戦争でした。
スポンサーとなるスポーツブランドは、
観客に向けて「単純化」を促すんです。
スポーツにいい刺激を与えることは、
お互いにとてもいいことだと思うんですが、
ベストの試合やチームにばかり目を向けて、
そのスポンサーとなることで
「自分たちのブランドはベストだ」という
人々の連想をつくりたがる。
そういったスポンサーとなるブランドが、
今は能力や設備も整っていない
国々や人々に対しても目を向けて、
世界のステージを用意することは、
いいチャレンジになるだろうと思っているんです。
スポンサーとなるブランドを刺激したいんですよ。
ベストな選手にお金を注ぎ込みすぎるのでは、
ちょっと視野が狭くなっているから、
もっと視野を広げたほうが
いいんじゃないかと思っています。 |
田中 |
あぁ、それはとても賛成できます(笑)。 |
田中 |
小泉さん、
サッカー関連で何か質問はないですか? |
(THE OTHER FINALより) |
小泉 |
今回の企画で、
いまスポーツ・マーケティングの世界で、
勝者が名声もお金も注目も、
ぜんぶ独占していくような構造があって、
最下位の人たちも、
FIFAから分配金が出てると思うんですが、
そういうお金の循環だけでなく、
交流が生まれ、
トップだけじゃなくて最下位にも循環する流れが、
このプロジェクトで出来てきたと思うんですよね。
それで、次にどんなことを考えているのか、
このいい循環を回していくために、
どんなことをしていくのか、
聞きたいです。 |
マタイアス |
私たちは、いつも新しいアイデアを求めています。
「多様性」を求めて。
この企画に似たような別のアイデアを考えていますし、
その精神は同じです。
でも、私たちは、
ワールドカップをまったく否定しているわけではなく、
やはりワールドカップを見たいですし(笑)、
ベストな試合を見たいですし、
でも同じように、
スポーツを通じて人がじぶん自身の力で
強くなっていく「美しさ」も見たいですし、
その「美しさ」がどちらかに偏るとすると、
それに別の選択肢(オルタナティブ)を
与えたいんです。 |
田中 |
次のプロジェクト、
何か進んでるんですか?
映画づくりとか? |
マタイアス |
私たちは、
みんなを驚かせるのが好きですよ。
今は、相撲に興味を持っています。
それ以上のことは、今は言えませんが(笑)。 |
小泉 |
ホーム・アンド・アウェイでということで
リターンマッチはやる予定は無いんでしょうか? |
マタイアス |
このプロジェクトで良かったのは、
モンテセラトとブータンの両国に
友情が芽生えて、
首相同士は、またやりたいという気持ちは
あるみたいなんですけども、
私はできる限りの助けはしようとは思うんだけど、
それは自分の次のプロジェクトではないです。
ただとても興奮しているのが、
FIFAが
アザーファイナルをずっと続けようと、
非公式に話しているんです。
2006年の決勝戦の時にもう一度やろう、
これからも続けよう、と言っているんです。
それは、とても素晴らしいと思いますし、
またブータンとモントセラトが
もう一度試合をするのも素晴らしいと思います。
とてもシンプルなアイデアが、
これだけの影響を与えられたのがうれしいです。 |
田中 |
すごいですね。
もうひとつのワールドカップの開拓者ですね。
創設者ですよ(笑)。 |
マタイアス |
サッカーは出会いであり、
純粋な楽しみなんだということが、
正式に認められたのがうれしいです。 |
小泉 |
ぼくは横浜の決勝戦に行きました。 |
マタイアス |
そうですか! |
小泉 |
ブータンでの試合の後に、
みんなでテレビで横浜の試合を
観ているシーンがあったんですけど、
あのときに、
どんな気持ちが沸き起こってきたかを聞いてみたい。 |
マタイアス |
もちろん興奮しましたよ。
私たちは、
意識的にアザー・ファイナルの試合を
することを選んだんだけども、
試合で戦ったあとに、
一緒にまたテレビの前で横浜の試合を観て、
特別にエキサイティングな、
とても楽しい時を一緒に過ごせました。 |
西本 |
2006年は、やっぱりオランダが、
ワールドカップにたぶん出るでしょうね。 |
マタイアス |
去年の予選に負ける前だったら、
確実に「イエス」と言えたけど、
今はねぇ……。 |
一同 |
笑 |
(THE OTHER FINALより) |
マタイアス |
インターネットのウェブについて話をすると、
このプロジェクトもインターネットのおかげでできた。
FIFAのランキングも
インターネットで調べたわけだし、
インターネットが重要な役割を果たした。
で、実際、
今も「アザー・ファイナル」のウェブサイトも
出来ているんですが、
インターネットで得た情報が企画に役立ちました。
「アザー・ファイナル」のプロジェクトが、
いろんな取材記事になっていて、
その中にはインターネットのサイトのものも多いです。
「CNN」や「USA TODAY」や、
「ル・モンド」などの記事のおかげで、
世界中のいろんな人たちに、
このアイデアがわかってもらえました。
最初にこのアイデアを取り上げてくれたメディアは、
「クィンゼル」というブータンの新聞社です。
試合前に情報収集のためブータンへ行ったんですが、
「クィンゼル」で取材を受けた記事が
インターネットに流れて、
「BBC」がそれを読んで電話をかけてきました。
その取材がきっかけで、
「ボールが転がりはじめた」んです。
「ボールが転がりはじめたら、
あとはうまく行く」というふうに
オランダでは言うんですが、
日本にもそういうことわざみたいなものは、
ありますか?
|
<ワンポイント英語>
“A ball starts rolling,
you don’t have to do noting.”
こう言ってました。 |
|
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田中 |
何だろうな……。
広告業界では、
「最初にアイデアありき」って言うかなあ。 |
マタイアス |
ただ、自分では、今回のアイデアは、
唯一の素晴しいアイデアだったとは思っていません。
決勝戦とは違う選択肢となる試合を実現するには、
もっと違ったアイデアもあっただろうと思います。
でも、「アイデアを実施する」ということは、
アイデアそのものと同じくらい大切なんです。
だから、
「とてもいいアイデア」と「とてもいい実施」が
重要なんですよ。 |
田中 |
そうそうそう。
だから、「アイデア」と「実施」という組み合わせが、
ほんとに素晴しくかみ合ったケースだろうと思って、
ぼくは感心したんです。 |
マタイアス |
うまくいった秘密は何かと言うと、
「アイデアを実施する力のある人」と
「アイデアを持っている人」が、
ともに仕事したことなんですよ。
「アイデアを持っている人」が、
最後までそれを実施する責任を持って、
他の部門や組織に任せるのではなく、
「アイデアを実施する力のある人」と
一緒にグループになって取り組むほうが、
効果が大きいんですよ。
この後、マタイアスさんの会社、
ケッセルズクレマーの案内ビデオを見ました。
面白い会社でしたねぇ。
教会の中にオフィスがあり、
なぜか水泳の飛び込み台があったりするわけです。
で、入り口のドアはいつも開きっぱなしらしいです。
会社のホームページは、
アクセスするたびに違うページが立ち上がり、
25種類あるそうなんです。
「ケッセルズクレマー・ネイルパーラー」、
「ケッセルズクレマー・ガーデニング」、
「ケッセルズクレマー・ライブラリー」。
広告代理店なんですけどねえ。
愉快命の集団です。 http://www.kesselskramer.com/
そして、最後に質問しました。 |
(THE OTHER FINALより) |
田中 |
最後に、大きな質問なんですけど、
マタイアスさんにとって、仕事とは何ですか? |
マタイアス |
質問は大きいですが、答えはとてもシンプルです。
“FUN”(=楽しむこと、喜び)。
“FUN”は、尊敬することも含んでいると、
思っています。
とくに、私たちがつくったものを見る人々に対する
尊敬です。
コミュニケートする相手の人に対する尊敬ですね。
ひとことで言うと“FUN”、
楽しむこと。
だけども、広告をつくる仕事をする人で、
コミュニケーションをする消費者に対して、
馬鹿にしたような態度を取ることが
ありがちなんですけども、
そうじゃなくて、相手に対して、
尊敬の気持ちを持ちながら、
仕事をするということが大切だと思っています。 |