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が、
感心して探求する感心なページ。

第5回 声を操る技術論。



田中 生のホーメイを聴いて思い出したんですけど
小さい頃、毎月1回、
お坊さんが檀家参りにうちに来てたんですよ。
そのお経を読む声っていうのが独特だったんです。
なんか似てるなぁー、と思いまして。
巻上 それは上手な人だったんだね。
今はお経、下手な人が多いですね。
すごい声が悪くてね、
ブッ飛ばしたくなるような坊主がいる(笑)。
田中 その方は、たぶん今、
80を越えてらっしゃると思いますけどね。
巻上 それは、有難い坊さんだよね。
田中 読経の仕方とかって、
喉歌や倍音唱法と近いものがあるんですか?。
巻上 うーん、どうかなぁ?
基本的に違うのはね、
音色は似てるかもしれないけど、
それをコントロールするっていうことですよね。
田中 コントロールする?
巻上 音程のコントロールするっていうのは、
お経にはあんまりないんですよ。
勝手にやってる(笑)。
田中 一本調子にやってるだけだと。
巻上 あと、曲があるのが声明でしょ?
声明の場合は、ただメロディーがあるだけだから。
下の音は同じところをいって、
上の倍音部分のところに
メロディーを入れるっていうのはないです。
聴き取れるかどうかわからないけど、
ホーメイではそういうふうにやってる。
田中 ベース音は一定で、
高音をコントロールするということですか?
巻上 そうです。
でも、最近、気づいているお坊さんがいてね。
田中 はははははは、気づいた人が。
巻上 海老原さんって人がいるんだけど、
その人たちの声明はコントロールしてる。
それにね、お経の場合は
ひとりでやるもんじゃないから。
みんなでやってると、
もうひとつのハーモニーっていうのが、
上から降りてくるんですよ。
田中 上から?
巻上 それはね、どんな音でもだいたい出るんです。
西洋のコーラスでも。
要するにホールが立派なホールだと反響して、
上の方でもうひとつ違うメロディーが鳴るの。
田中 あー、なるほど。
巻上 たぶん聴いたことがあるでしょう。
「どこでこんな笛みたいな音がしてるんだろう」
って。
あれがそうなんですよ。
コーラスが上手くいってると、すごく綺麗に鳴る。
田中 あ、コーラスが上手くいってると、
上から降ってくるような音が
聞えてくるということなんですね。
巻上 でね、声明の場合はね、洞穴唱法に近いんです。
空気を鼻に当てるんですよ。
田中 えっ、鼻に?
巻上 たぶん聴いたことあるよ。
やってみるとこんな感じなんだけど
それが、鼻に当てるから。
で、それがもしね、さっきの洞穴唱法みたいに、
口の前を動かすんです。
だからつまり、鼻に当てると、
そこに空気の層ができて、
その膨らみを利用してる。

(ここの部分を全て音声で聞くことができます。
 こちらをクリック!
田中 あ、鼻をわりと中心に響かせるということなんですね。
顔を楽器みたいに使うんですね(笑)。
巻上 その言い方で、みんながわかるかどうか、
ちょっと疑問なんだけど、
僕も最初にホーメイを
トゥバの人たちに教わったときに、
「まあともかく、最初は喉を開けて」
って言われたのね。
よく喉を締めてしまうから。
細い音になりがちだから、
喉を開けるレッスンをして。
じゃ、ふつうの歌と同じじゃないか、
と思ったんだけど。
「ア〜」とか言ってね。
それを、1、2時間やって、
「うん、じゃ、OK」と言われて、
最後に、
「じゃあ、後は喉の筋肉を
 下に下げるだけだから」って
言われたんだ(笑)。
田中 喉の筋肉を下に下げる?
巻上 「喉、筋肉を下げろ」って言われて、
「その筋肉はどこにあるんだ?」
と思ったよ(笑)。
田中 ふつう、喉の筋肉は意識しないですよね。
喉の筋トレみたいなのがあるんですか?
巻上 そう。
喉の筋肉を、「エ゛〜」ってやると、
出るっていうんだよ。
だんだんわかってきたけど、
なんか丹田の方にグッと押し下げると、
モンゴルとかトゥバの歌唱法になるんですよ。
田中 巻上さんの本を拝見すると、
声帯模写って形態模写に近いみたいですね。
顔とかかたちを真似ることで、
似た声が出てくるようになるのかな、
と思ったんですが。
巻上 顔は重要ですよね。
やっぱり口の中の形態とかによって、音が違うから。
顔を似させると、その空洞が似るっていう。
田中 トゥバの方から教わられたときに、
まず喉を開けろとか、筋肉下げろとか、の他に、
何かコツみたいなものはあったんですか?
巻上 聴いてるとね、発音なんですよ。
田中 発音?
巻上 発音が重要。
彼らが喋ってる言葉がね、まず独特ですよね。
そこから来てるんでしょうね。
日本語に無い発音なんですよ。
ドイツ語のウムラウトみたいな。
喉の奥の方で曖昧母音をやるようなね。
あるいは喉の奥の声門を、
カッ、カッ、カッて破裂させるようなね。
擦りあわせたりとか。
そういうふうに、
いろんなふうに喉のところを使うのね。
田中 あ、ふだん日本語喋ってるぶんには
使わない喉の筋肉を動かさなきゃいけない
ってことになるんですね。
巻上 ふだん使ってないですね、たぶん。
あと呼吸のレッスンにもなりますよね。
肺の奥の方から息が出てくるので、
息の使い方が上手くなるんですよ。
っていうのは、すごく細く出すのね。
田中 量をですか?
巻上 だから、すごく長くできるのよ。
(その長さ体験してみてください。
 ここをクリック!
田中 ‥‥凄いっすね(笑)。
今泉 (ここで今泉アナがたまらず質問を)
腹筋と横隔膜をそうとうに
コントロールしないと
今の細さと長さ出ないですよね。
巻上 今の長さで、
きちんと音が出るということなんだけど。
今泉 日本語と発声法も違うんでしょうね。
日本語ってわりと胸式呼吸で、
一方歌ってるときは、お腹からですよね。
巻上 うん。
ゆっくーり、ゆっくーり出してくんですけど。
田中 そのような声を出されるために、
巻上さんの本の中でも、
背筋が大事だとか、腹筋を鍛えるとか
紹介されてましたけども。
巻上 それはね、芝居やってるときに
教わったんですけどね(笑)。
なんかいろいろ発声練習とか、させられるんですよ。
田中 あ、もともと芝居をされてたときの下地があったから、
すんなりとホーメイにも入っていけたんですね。
巻上 そうですね。
発声はね、18ぐらいのときに
ニューヨークで習いましたよ。
田中 ニューヨークで習われたんですか!
それは、演劇の先生ですか?
巻上 演劇の発声の人についてね、厳しかった。
ほんとに身に付いたかどうか、よくわからないけど(笑)。
田中 長い期間、行かれたんですか?
巻上 東京キッドブラザースって
劇団で公演に行ってるときに、
4ヶ月ぐらいいたから、
その間にレッスンを時々やってましたよ。
田中 そのときは発声練習に走られたわけですか。
巻上 ほら、劇団員って、自由自在じゃないですか。
責任感ないから、なんにも。
ニューヨークとロンドンに行けるっていうんで、
オーディション受けて入ったっていう(笑)。
田中 海外行きたいから、みたいな不純な動機で(笑)。
巻上 もう「行けるよ、すごい!」とかって(笑)。
まだ1ドル360円で固定相場制の時代だからね。
田中 その頃から、歌は歌ってらしたんですか?
巻上 だってミュージカル劇団だもん(笑)。
でも、今キッドの時の歌とか聴くと、
やっぱり下手だったね。

<ワンポイント考察>
「発声練習」という四文字熟語とは
無縁の世界に生きてきたものですから、
「声を出す技術」なんて
今まで気にとめたことも無かったんです。
「喉の筋肉」って、
言われてみないと気づかないですよね。

今泉アナはさすがに声の職人ですね。
巻上さんの眼前のパフォーマンスを
プロ野球キャンプの敵地視察みたいに、
じっくり目をこらして見てました。

ちょうど巻上さん宅へ伺う新幹線で、
今泉アナが読んでいた本が、
米山文明『声の呼吸法』(平凡社)というもので、

それを奪って流し読みしたんですが、
これはいい本でしたね。
「第一章 生き物の呼吸と声の不思議」で、
出だしが「魚類から」ですよ。
もう噴きあがりからして違います。
むむむ、と思って、
参考文献と筆者の略歴を見たら、
やはり三木成夫の弟子筋にあたられる方だったですね。
上級者向けの本として推薦いたしますです。
 

2003-05-26-MON

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