田中 |
東京キッドブラザースで歌いはじめられてから、
どうやってうまくなっていかれたんですか? |
巻上 |
上手くなってるかどうかわからないけど、
歌い方はそんなに変わらない。
まあ、ちょっとは上達しました。 |
田中 |
こちらに伺う前に、
『ヒカシュー・ツイン・ベスト』を聴いたんですが、
初期の頃から歌い方は、
ずっと一緒でいらっしゃるんですけども、
声の質が太くなってらっしゃるという気がしたんですが。 |
巻上 |
そうですね、ほんとはね今、すごくいいんですよ。
40代はいいと思うんですよ、すごく。 |
田中 |
40代は人間として声のいい時期だと。
それ、どういうことなんですか? |
巻上 |
やっぱり、呼吸にしても、
歌の情感にしても、意味にしてもね、
いろんなことがわかるようになってくるからね。
でも、今の日本の音楽産業の場合、
歌手の中心は10代、20代でしょ。
だから今のシステムは、
いまひとつ良くないんじゃないかな。
まあ、これから高齢化社会でしょ?(笑)
その中で、
新しい歌っていうのは生まれてくるんじゃないのかな。 |
田中 |
例えば、そのアルタイであるとかトゥバであれば、
ピークを迎えた歌手というか、
売れている歌手の人っていうのは、
やっぱり30代、40代の歳の方が多いんですか? |
巻上 |
そうですね。
ま、人口が少ないというのもあるけどね(笑)。 |
田中 |
(笑)そもそも、人がいないという。 |
巻上 |
20万人ぐらいしかいないからね。
やっぱり日本は多すぎるよね、やりたい人が。 |
田中 |
(笑)あ、歌で食っていきたいっていう人が。 |
巻上 |
うん、そう。それで、下手なのに出すでしょ。
まあ、あれもしょうがないっちゃしょうがない。
それもね、限度がありますよね。 |
田中 |
巻上さんから見て、
「これは上手い」という歌手はいますか? |
巻上 |
あんまり聴いてないんですよね(笑)。
もはや、あんまり人のこと興味ない。 |
田中 |
昔は憧れてらっしゃる歌手とか、
いらっしゃらなかったですか? |
巻上 |
いないです。
音楽とかね、やりたくなかった。 |
田中 |
え?
全く?!
嫌だったんですか、音楽は? |
巻上 |
芝居が好きで、やったんですよ。 |
田中 |
芝居ベースで、たまたま歌に? |
巻上 |
そうそう。
目指す人なんか、いないですよ。
演劇のときも、「こんな役者になりたい」とか、
なかったですよ。
もう、自分のオリジナル!
自分しかできないのを探す。
だから、歌もそういうふうにしてる。
たいてい、どんな歌でも、
だいたい歌えるんですよ。 |
田中 |
先日カラオケで
「帰ってこいよ」を歌ってらっしゃるのを聴いてですね。
“凄い、この独特な「帰ってこいよ」は!”って、
驚いたんですけども。
ということは、あまり他の人の歌を聴くと、
自己流が濁るみたいなところがあるんですか? |
巻上 |
まあ、そうですね。
自分の好きに歌うのが、いちばんいいんじゃないかな。 |
田中 |
好きに歌うっていうのは、
自分が歌ってて気持ちいい状態なんですかね? |
巻上 |
うん、で、その歌をちゃんと自分で解釈できること。 |
田中 |
はぁー、でたらめではないと。 |
巻上 |
そう、感情が一方向じゃダメで、
やっぱりいい歌手っていうのは、
自分を見つめる力を持ってる。
そういう2つのまなざしを持てないとね。 |
田中 |
自分を客観視してる、
もうひとりが必要なんですね。
歌い手と聴衆を、
2役やってるみたいな感じなわけですね。 |
巻上 |
僕自身の特徴だと思いますけど。
僕は熱い面と、すごい冷めた面っていうのが、
常にある人物なんです。
だから、歌にもそういう感じが表れてる。 |
田中 |
いつも、レコーディングやライブで
ひとりで反省会をされるわけですか? |
巻上 |
反省というのは、
それほどしないんだけどさ(笑)。
ただ、その瞬間に起っていることを
判断できるわけですよ。
後で判断しても意味ない。
いま起きてることをどうするかっていう客観性が重要。 |
田中 |
ちょっと声がノッてないな、とか、
ちょっと聴衆は飽きてるな、とか。 |
巻上 |
そう、声が出にくかったら、
少し体を右に動かしてみるとか。
そういうことがわかればいいわけ。 |
田中 |
はぁー。
え?
右に動かすと、なんか、っていうのは、
どういうことなんですか? |
巻上 |
ちょっと声が出にくかったら、
すこーし体をねじってみたり、
元に戻してみたり、
力をフッと抜いてみたりしたら、
出やすくなったりするね。
膝の裏に力が入ってると、声が出なくなるんで、
膝の力をフッと抜くとかね。 |
田中 |
あ、楽器としての体の調整をされるわけですね。 |
|
巻上 |
うん、やりながらね、
上手くいかないなって時、もちろんありますから。
それとあと、歌自体の流れや詩が持ってる意味を
どう伝えるか。
「あ、伝わってないな」とか、いろいろ考えてる。 |
田中 |
詩を伝えるってときに、
技術的なことってあるんですか?
気持ちを込めて、
とりあえず声を出すってことなんですか? |
巻上 |
いや、気持ちだけじゃダメですよね。
やっぱり、どう伝わるかのほうが大事ですよね。
あんまり美学的に完結しないほうがいい、
っていうのが
僕の考えです。
だから、美しすぎる歌はダメです。 |
田中 |
はぁー!
結果伝わる、受け手がどう捉えるか、みたいなところが、
ゴールだとしますよね。
でも、そこに行くまでのプロセスというか、
どうやって声を出すかっていうところで、
その試行錯誤というのは、
ライブの場合だったら、常にされてるわけですか? |
巻上 |
そうですね。常に考えてる。
どうしたらいいか。どれが最善の方法か。 |
田中 |
それはやっぱり、観客の人の反応とか、表情とか、
そういうのを見つつ‥‥。 |
巻上 |
そうですね、感じ合いながらやってるからね。 |
田中 |
はぁー。
去年出された『方向はあっち』という
CDがありますよね。
それを聴いて、ビックリしましてね。
人間は声を使ってここまでできるのか、
と思ったんですが。
たぶんそういうボイス・パフォーマンスを
されるときは、
観客の中にも初めて来たな、
っていう人もいるわけですよね、
|
巻上 |
うん、ほとんど初めてじゃないかな、
あれはモスクワだったから。 |
田中 |
モスクワで公演されて、
観客は、まあ、いきなりビックリしてるわけですよね。 |
巻上 |
うん。 |
田中 |
そういうのをご覧になるのは、
やっぱり楽しいんですか?(笑) |
巻上 |
いやぁ(笑)、いや、心配ですよ。
やっぱり、ロシアみたいなとこでやるのは。 |
田中 |
伝わるかどうか、っていうところでね。 |
巻上 |
そうそう。
受け入れられないかも知れないと思うから。
日本でだって、帰っちゃう人いるからね。
前に、クリスマスでやってたら‥‥。 |
田中 |
クリスマスですか!(笑) |
巻上 |
勘違いしたカップルとか、
けっこう帰りましたよ。 |
田中 |
あははははははは! |
巻上 |
なんかさ、ライブ・ハウスで、
タイトルにさ、
クリスマス・スペシャルとか書いてあったの。
あれ、良くないよね。
ちょっと、それ、ちゃんと書いてくれないとさ。
良くない!
カップルがさ、5組か6組来ちゃったの。
多すぎるよね、それ。
それで、ワン・セット終わったら、ほとんど帰った。
ははははは。
「帰るだろーなー」って思ったもん。
「ワ゛ーッ!ヴェーッ!」とかって、
やってんだもん(笑)。
サービスしないですよ、僕はそんなにね。
今日はそれ、やろうと思ってるのに。
(対談のこの部分を音声で聞くことができます。
こちらをクリック!) |
田中 |
じゃ、「サンタの歌でも歌うか」ってね(笑)。
それはできないですよね。 |
巻上 |
看板見たらさ、書き方が悪いじゃない?
クリスマス・スペシャルだよー、とか思って。
確かにクリスマスだったんけどさ(笑)。 |