田中 |
ボイス・パフォーマンスの時って、
マイクとかPAとかっていうのは、
どうなってるんですか? |
巻上 |
マイクは使いますよ。
使わないときもあるけど。
マイクでしか出せない声ってのもあるんです。
マイクの表現って、すごい重要なんですよ。 |
田中 |
あ、マイクの使い方ってことですか? |
巻上 |
みんなが知ってる
ほとんどの歌っていうのは、
マイクの歌なんですよ。
だから、みんなの耳もマイクに慣れてるんです。 |
田中 |
あ、マイクを通した声に慣れてるということですね。 |
巻上 |
現代のポピュラー・ソング、ロックの歌とかは、
全てマイクのパフォーマンスですよ。
だから、そういう歌い方が確立してるわけ。
マイクの無い歌い方を挙げるのではあれば、
オペラなどが、それにあたるわけです。 |
田中 |
はいはいはい。 |
巻上 |
どんだけマイク無しで響かせてやるか(笑)。
オーケストラに負けないように歌うか、とかさ。
オペラのための劇場っていうのもあって、
声を出すと、ちゃんと後ろに助けてくれる壁がある。
でも、通常僕らがやるとこっていうのは、
たいていの場合は、
そういう壁が無かったり、
音が響かないような空間が多いですよね。
その場合は、マイクの助けが必要なんです。
アルタイとかモンゴルとかトゥバの人たちの
日本でのコンサートのアンケート読むとね、
必ず、「生の声が聴きたかった」って人が多いんです。
どうやら、みなさんは
普段は生で草原で歌ってると思ってるしいんですよ。 |
田中 |
あ、イメージとしては、
そのほうが浮かびやすいですものね。 |
巻上 |
考えてみればね、
この人たちプロだって思えば、
母国でもいっぱい人がいて、
いろんな人の前でやってるってわかると思うんだけど、
すごい想像力が貧困で(笑)。
むしろ、幻想的に思い込んでてね。
「草原で歌ってる人がやって来たよ」とか
思ってるんですよ。
それはまあ、ある種、日本人の郷愁ですし
商売的にはいいんだろうけど。
実際は違いますよね(笑)。
ほんとにプロフェッショナルなんだから
大勢の人の前でやってるわけで、
そういう所では
もちろんマイクもスピーカーもありますよね。
共産主義ですからね、いっぱいありますよ(笑)。
むしろマイクもスピーカーも好きなくらいですよ。 |
田中 |
大衆を扇動するようなものは好きそうですよね。 |
巻上 |
音はデカいやつが好きだしね。 |
田中 |
でも、イメージとしてね、
やっぱり草原で歌ってた人がポッと来た、
みたいなのを求めるんでしょうね(笑)。 |
巻上 |
そういう人がやるとね、
プレゼンテーションとして難しいですね。
確かにそういう人もいますよ。
でもワン・ステージ通して
プレゼンテーションが上手くいくかっていうと、
そうはいかない。
上手く紹介のしかたを、
今度こっちが考えなければ、難しいですね。 |
田中 |
向こうでスターでもあり、
ちゃんとマイクを使い、
キチッとした音響のところで、
多くの人を相手にしている人だから、
日本に来ても
うまくプレゼンテーションができるということですよね。 |
巻上 |
そう、ちゃんとできるんですよ。
そういう人しか、日本にも来れないですよね。 |
今泉 |
いま普通の生活をしてる人も、
マイクを使って歌ったり話したりする機会って、
多いですよね。
カラオケ行ったら、
すごい狭いところでも必ずマイクを使うし、
例えば、会議とかでも、プレゼンテーションの場って、
ある程度の広さになったら、
マイクを付けてやりますよね。
マイクの前で話すことって、
わりと当たり前になってると思うんですけど。
でも、そのマイクにどういう声をのせるかって、
たぶん誰も考えてないような気がするんですね。
だから、マイクはマイクで、
いつも使えて当たり前だけども、
マイクの手前の声っていうのが、
たぶん違うんじゃないかと。
響かせるような声を、
マイクにちゃんと響くようにのせてるから、
説得力のある音が出るんじゃないか
という気がするんですよね。 |
巻上 |
自分でうまく聴き取れればね、
マイクの音を聴きながら、
自分の声を変えられるんですよ。
だいたい僕らはそうするんですけれど、
ロックの場合、不幸なことにね、
エンジニアがいるんですよ。
このエンジニアの中でも、
耳がおかしいんじゃないのかな、っていう人が、
ま、約半数、いますね。
もちろん優秀な人もいるんだけど。
半数ぐらいのエンジニアは、
耳が遠いです。 |
田中 |
それは、毒されてるということなんですか? |
巻上 |
いや、もう、おかしくなっちゃったんでしょう。 |
田中 |
あ、ヘッドフォンで聴きすぎて。 |
巻上 |
うん、ヘッドフォンとかデカい音を聴きすぎて。
コンサート行くと、
たいていの普通の人はね、
音がデカ過ぎるって感じると思う。 |
田中 |
たしかに思いますね、ええ。 |
巻上 |
それを楽しむ音楽ならいいんだけど、
そうじゃなくて、
わりと普通のポップスとか、
フォークなんかでも、音がデカいんですよ。
これはね、明らかにエンジニアが悪いわけ。
歌ってるステージの人も
音が大きいってことに
気がつかないんです。 |
田中 |
あ、そうかそうか。
自分の歌ってる音を拾うわけじゃないですもんね。 |
巻上 |
うん、モニターの音と、
客席に出てる音が違うんです。
会場が大きくなり過ぎると
自分の声だけで、
マイクを上手くコントロールできないんですよ。
だから、信頼できるエンジニアとやればいいけど、
でも、まあ無理ですね。
そのあたりは、パフォーマーとして
ちょっとジレンマがあるんですよ。
そういう意味では
生でやりたい、っていうのは確かにある(笑)。
届く範囲でね。 |
田中 |
それは間違いのない表現の仕方になりますよね。
自分で品質のコントロールができるわけですものね。
どうしても大きな会場になると、
その品質保証の部分を、
人にゆだねちゃうことになるわけですね。 |
巻上 |
だから、まあ100人ぐらいで
響きのいいホールでやれば、生音でできるかな。
ボロットでも大丈夫だと思う。 |
田中 |
とくに、さっき出していただいたような声とかだと、
わりと響きやすいですよね。 |
巻上 |
そうですね。
ただ録音はしにくいですよ、この音は。
再生して聴くと、「なんか違う」と思う。
自分の出してるのと違うと思うんです。 |
田中 |
え?
なぜ録音しにくいんですかね? |
巻上 |
ぜんぶ拾えないからだと思うね。 |
田中 |
はぁー。
田口ランディさんも先日言われてたのは、
ボロットさんのCD聴くと、
ぜんぶ聴けないからつまんなくて寝ちゃうと。
でも、生で聴いたときは
ほんとビックリしたと言われてたんです。
その、原音と、原音を再生したもので言うと、
ボロットさんのような歌は、
やっぱりギャップが出やすいジャンルなんですかね(笑)。 |
巻上 |
実際違うんですよ。
ほんとの音ってうまく録れないんです。 |
田中 |
ぜいたくな音ですね。
また、デジタル化されて、
ますますそうなってるってこともあるんですか? |
巻上 |
あるでしょうね。
だんだん音は良くなってるんだけどね。
アナログで録音技術が
かなりのレベルまでいったけど、
また最初に戻っちゃったんです、
デジタルになったお蔭で。 |
田中 |
あ、それまでの録音技術のノウハウが
リセットされたわけですね、 |
巻上 |
うん、そこでまた、すごい低いレベルになって。
今また良くしようって、だんだんなってますけど。
CDは音悪いですよ。 |
田中 |
あ、CDは音が悪い? |
巻上 |
CDはね、便利だけど、音が悪い。 |
田中 |
え?
それ、CDってメディア自体が、
音が悪いメディアなんですか。 |
巻上 |
うん、悪い。
だから、いい音が好きな人は、
レコードが好きなんですよ。 |
田中 |
はぁー。 |
巻上 |
深い音がするからね。
で、また、今度コンピューターの時代になって、
MP3とかで、
さらに悪くなったのをみんな聴いてるわけ。 |
田中 |
そのメディアに合った歌の作り方とか、
アレンジとかっていうことに、
なっていくんですよね。 |
巻上 |
だから、2つあるでしょうね。
まあ、ひとつは、
MP3とかMDでもいいし、
ちょっとした音があればいいっていう方向。
このインタビューでも
テープ起こしをする時のために
言葉がわかるくらいの録音レベルでいいじゃないですか。
そういう時にむしろ余計に他の音が入ってると、
聴き取りにくいですよね。
その一方で、
もうとても録音できないような、
深い世界の音があるっていう、
ひとつの世界をもっと充実させていく方向と。
ただ便利さを追求してね、
もうメロディー・ラインだけあればいいとか、
そういう方向はそれで進んでいくんだろうな。 |
田中 |
だから、今で言うと、
最終的に着メロになったらどうなんだろう、
っていうところまで考えて、
歌が作られている時代ですよね(笑)。 |
巻上 |
今、着歌ですよね(笑)。 |
田中 |
着歌でホーメイとかあったらおかしいでしょうね(笑)。 |
巻上 |
うん、出そうかなと思ってるんだけど。 |
田中 |
(笑)不気味がられますね。 |
巻上 |
出そうかな?
ボイス・パフォーマンスとか、
いいかも知れないよね。
こんな感じで。(と、歌う)
っていうのがあったら(笑)。
けっこういけんじゃないのかな。
ダウンロード数が1位とかね(笑)。
(ここでの会話を聞くことができます
ここをクリック!) |