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が、
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第3回 ワークショップスタイルという働き方。


田中 クリエイティブセンターの
立地条件ってあるんですか?
スティーヴ ある場所を再活性化させるっていう
モチベーションはあるのですが、
どこか特定の場所にこだわってはいません。
ただ、インターナショナルなリンクが持てる、
貼れるってことは必要ですけれどもね。
もう一つ重要なのが
クリティカルマスということで、
クリエイティブのエネルギーっていうのは
近くの範囲内で
いろんなことが起こっているっていうことが重要で、
それがお互いにフィードしあって、
そのエネルギーが増していくってことがあるので、
都市と呼べるところじゃないと
ちょっと難しいかなと思っています。
理想的には
東京でできれば申し分ないんですけれども、
土地の値段が非常に高いですから、
起業した小さな会社が事務所を構えるとか
そういうことが難しいので、
東京ではちょっと無理かなと思っています。
札幌は人口280万人くらいとされてますから、
まあそこそこそれくらいいれば大丈夫かなと。
田中 ゆくゆくのクリエイティブセンターに向けて、
ワークショップの他になされている活動は
ありますか?
スティーヴ 今しなくてはいけないことっていうのは、
トマトっていうのは
この今月札幌で行うワークショップでも、
トマトのブランドというのを
利用してるわけなんですよね。
トマトの名前があるから
世界中から生徒が集まって来るわけなんです。
このワークショップは
クリエイティブセンターに向かっての
非常に重要なワンステップなので、
機材を提供しますよとか
そういうレベルでのスポンサーシップよりも、
そこから一歩進んで
このプロジェクトが
おもしろくて意義のあることであると思うから、
自分達のブランドと
このクリエイティブ・プロジェクトを
結びつけたいと思う人や企業を見つけたいと。
田中 このプロジェクト自体発展させるために
3つくらいポイントがあるかなあと
今、お話を聞いていて思っています。
その1つが、
最初に参加者にクリテイティブな刺激を与えるって
おっしゃってましたけど、
どうやってクリエイターを
刺激して行くのかっていう
刺激の仕方が、
このプロジェクトのエネルギーを決める核ですよね。
そのために人が集まって来る。
そこにスティーヴさん独特の考え方とか、
クリエイティブを刺激するための
哲学とかはあるのですか?
スティーヴ

クリエイティブ・ワークショップでの
方法論というのは、
要するに課題を与えて作品を作らせるんですよ。
それもすごく頭を使わせるというか、
いっぱい宿題をあたえて、
ものを創らせて、
それをみんなで見せあって、
それに対して講評をし、
対話をしながら
また次の課題をそれによって設定する、と。
例えば、まず7つ言葉を持ってこい、と。
その1つ1つの言葉について
写真を1枚撮ってこい、と。
それから今度はその写真について、
それぞれの写真について1センテンスを書け、と。
それを今度映画にしろ、と。
そういうふうに巻き込んでいったり、
床に座って絵を描いたりとか、
粘土をいじったりとかいろんなことをします。
ワークショップの10日間ならば、
その10日間中、参加者は、
ものすごくいっぱい
いろんなことをさせられますね。

田中 プロジェクト成功のための
2つめのポイントとして思ったのは、
クリエイターがいて、企業がいて、行政がいて、って、
3つの関係者がいるわけですよねえ。
それぞれみなさんの動機が違ったり、
利害関係みたいなのがあって、
その関係をうまくマネジメントするっていうのは、
大変だろうなと思うんですよね。
その辺のクリエイティブの
マネジメントのポイントというか、
スティーヴさんのコツみたいなものがあれば、
それをお聞きしたいなと思います。
スティーヴ 何がなされなくてはいけないか、っていうことの
理解を全員が持つ、
そのためのコミニュケーションを持つ、っていう、
そのことがやっぱりキーだと思います。
企業は、クリエイティブが物を作っている現場に
首を突っ込んではいけないし、
それはなぜ首を突っ込んでは
いけないかっていうことを
ちゃんと理解できてれば
そこに問題は起きないはずだし。
それは、だから、
何のために何がされなくてはいけなくて、
そのためにそれぞれが
何をしなくちゃいけないかっていう、
その辺のコミュニケーションを
きちんととるっていうことだと思います。
それは、
もちろん企業が理解しなくちゃいけない
だけではなくて、クリエイティブも
クリエイティブだから何をしてもいい、
クリエイティブなら何でもいいっていうわけでは、
決してなくて、
何が求められているのか、
企業はなぜあるものを求めているのか。
それを理解したうえで、
商業的なリアリティとなりますよね。
それを理解したうえで、
クリエイティブは作業しなきゃいけない。
ですから、
コミュニケーションとか理解っていうのは、
全員に当てはまる。
企業にとっても、クリエイティブにとっても、
必要であるっていうことです。
あとはクリエイティブと言われる人々を
マネジメントするっていうのは、
それ自体が立派な一つのスキルだと
思っているんです。
わたしのバックグラウンドは、
ミュージシャンのマネージャーで、
音楽業界ではクリエイティブであるアーチストを
マネージする人たちっていうのは、
非常に確立された職業としてあるじゃないですか。
田中 はい。
一方、アートの世界では、
そういうのあんまりないですよね、まだ。
スティーヴ ですから、
このクリエイティブ・センターの
プロジェクトにおいては、
そういうスキルも勉強することもできるようにして、
アートをマネジメントする人たちを
育てるっていうこともしたいと思っています。
田中 ああ、非常におもしろいですねえ。
プロジェクトが発展する3番目のポイントとして、
活動を広めていく広報と
おっしゃってましたよね。
どれだけこの成果が
パブリシティに乗って評判が高まるかって、
プロジェクトを大きくしていく上で、
すごく大事なポイントだと思うんですけど、
このワークショップ自体の評判を上げていく、
つまりトマトのブランド力を
あげていくっていうことで
何か考えてらっしゃることってあるんですか?
スティーヴ 今の時点では、
今年のクリエイティブ・ワークショップは、
構想している長期的なプロジェクトの考え方が
通用するものであるかどうかの
試金石だと思っているんですね。
ですからこのクリエイティブ・ワークショップで
生まれてきた作品をできるだけ世に出す。
どれだけいろんな形で世に出せるか、
っていうことが重要だと思うし、
もう一つは長期的なビジョンについて、
できるだけ多くの人に話をして、
その中で、どういう人から賛同を得られるか、
ってところがキーだと思っています。
田中 今トマト自体の活動は
どういうことをされてるんですか?
スティーヴ 2004年に行われる
バルセロナでの
「バルセロナフォーラム2004」っていう
一種の万博みたいな大きな催しがあって、
それの26面用のフィルムっていうのを
トマトが作っていたり、
それからフレッシュキルってご存じですか?
田中 いや、知りません。
スティーヴ グランドゼロの瓦礫を運んだ場所なんですよ、
ニューヨークの。
そこがフレッシュキルと呼ばれているところで、
そこの再開発というか、
再利用計画の中の公共の施設になるので、
そこのブランドアイデンティティーとか
インタラクティブのインスタレーションとか、
コミュニケーション戦略立案をやっています。
それからロンドンの広告代理店の
クリエイティブ局のアドバイザーとして、
今契約で仕事をしています。
本の出版の準備が3冊ほど進んでいます。
あとアメリカでコマーシャルを2本撮りました。
そして、エレクトラグライドっていう
いわゆるレイヴイベントですね。
毎年やってるんですけど、
幕張メッセで17000人とか2万人とか、
それくらいの人数が入るんですけれども、
今年の主役がアンダーワールドで、
トマトがビジュアルをやります。
あと、ドイツのベントレーの
ショールーム用のデザイン。
それからファブリカとコラボレーションで
ベネトンのショップ内の
インタラクティブな
インスタレーションの開発もしてます。
田中 本当にいっぱい仕事されてますねえ(笑)。
今お話いただいたようなプロジェクトは、
それぞれのクリエイターの人たちとは
契約の形で、そのつど契約されてるんですか?
スティーヴ トマトのクリエイティブの
メンバーっていうのは、
全員株主なんですよね。
田中 ふーん。
スティーヴ クリエイティブはフリーランスで、
トマトはエージェントであり、
プロジェクトの進行の管理もしますので、
トマトの社員っていう
制作進行管理をする人たちっていうのも
いるんですね。
人数は少ないですけど。
ただクリエイティブは同時に株主、
つまり会社の持ち主なので、
自分たちのすることが、
つまり会社の利益になるように動く。
ただ、トマトっていう名前で
仕事を受けたとしても、
お前やれっていうふうな指図は
決してしないんですよね。
だから自分がやりたい仕事しかしない。
仕事が来ても、
クリエイティブがやりたいって、
手を挙げなければ仕事は受けないんですよね。
田中 最初にスティーヴさんに
仕事の引き合いが来て、
「こういうプロジェクトがあるけど
誰かやる人いる?」って、
多分社員であり、
株主でもあるクリエイティブディレクターに
声をかけるわけですね。
スティーヴ ディレクターっていうより、
クリエイティブ全員ですね。
田中 で、それぞれ社員であり、
クリエイターであり、
株主でありっていう人は、
それぞれのプロジェクトで
他のアーチストまで呼んで来たりっていうことは、
ここは自由にやってるわけですね、きっと。
スティーヴ そうですね。
田中 非常におもしろい会社の形態ですよね。
スティーヴ ですから新規取り引きで口座を開いてもらうときに、
困るんです。
会社としては赤字なんですよ。
会社として利益のでない形態なんですよね。
こんな赤字の会社と仕事していいものかって、
取り引き先で問題になるらしいですよ(笑)。
田中 あはは。
会社としては、
いわゆる固定費みたいなところが
出て行くだけの会社なわけじゃないですか。
スティーヴ それをカバーするだけの
コミッションはとるんですけどね。
田中 それは最初におっしゃってた
コミッションの話ですよね。
フィーで、あとはみなさんに分けるんですよね。
スティーヴ そうです。
だからクリエイティブの懐に全部入っちゃうんで、
会社としては全然儲からないですよ。

<ワンポイント考察>
あらかじめ答えの無い問題を解き続けるという、
クリエイティブの精神が、
トマトの経営から作品から、仕事っぷりまで、
すべてに行き渡っているのが、
面白いですよねえ。
今回は、トマト主催のワークショップについて、
話を聞くというのが目的だったのですが、
つまるところ、
トマトというクリエイティブのブランド自体が、
なにかとワークショップスタイルと言えそうです。

仕事場がワークショップだと考えることで、
毎日の仕事の見え方が変りそうでもあります。
そもそもワークショップって、
「作業場、工場」という意味ですが、
英語を分解して解釈すると、
「仕事を売っている場」とも考えられますよね。
会社というエージェントを通じ、
ひとつひとつ仕事を買うことが、働くことになる。
そんな会社と働き手の関係や個人の働き方が、
次の主流になるかもしれませんねえ。

ちょうどこの原稿を
まとめている際に読んだ新刊が、
こういったテーマと響きあう面白い本でしたので、
推薦しておきますね。
西村佳哲『自分の仕事をつくる』(晶文社)



働く「ほぼ日」のみなさんは、
いい仕事を買ってますか?、ってことで、
トマトの回はおしまいです。
なんだか、次回はほうれん草ですとか
書きたくなりますが、
では、また!
 


おわり。

田中宏和さんへの激励や感想などは、
メールの題名に「田中宏和さんへ」と入れて、
postman@1101.comに送ってください。

2003-10-29-WED

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